なんだか200日ぐらい、同じ1日を繰り返していた気がするルン!
「ナユタちゃん、昼間はありがとう」
レスバル星から帰った日の夜、天文台の借部屋で就寝準備をしていた春日部ナユタのもとへと星奈ひかるが訪れて。
ナユタへと突然お礼を言いだした。
何かしたっけ、と一瞬だけ考えてしまったナユタであったが、カッパードとキュアスターの会話に口を挟んだ件だとすぐに気づいた。
立ち話もなんなので、ナユタは部屋へと星奈ひかるを招き入れてやった。
――この場合は戦争の泥沼化は考えなくてもいいと思うよー?
「あー、あれか。ひかるちゃんの成長が嬉しくてね、つい口出ししちゃったよ」
変わったよね、ひかるちゃん。
そう、ナユタは続けた。
ちょっと前までの星奈ひかるだったら、宇宙人同士が分かり合えるはずがないと言い切るカッパードに対して「分かり合えるよ!」と言い切って水掛け論を始めていただろう。
だが昼間のキュアスターからは、カッパードの気持ちを想像して、言葉のキャッチボールを成り立たせようとする気概が感じられた。
まだまだ経験が足りない部分が目立つけれども、そこは周囲の協力で補えば良い。
「私さ……。勢いだけとか考え無しって言われるの、自分で思ってたよりずっと気にしてたみたい」
そういえば、レスバル星での頭痛ダメージ判定の時に、ひかるはそれらの言葉で怯んでいたはずだ。
考え無しなんて言ってゴメンね……と、一応ナユタは謝ってみた。
私も性格悪いって言ってゴメン、なんて星奈ひかるからも謝罪が返ってきた。
「たぶん私、無意識にナユタちゃんと比べちゃってたんだと思う。ナユタちゃんには敵わないな、って心のどこかで思ってたんだ」
……ひかるの言葉は、ナユタにとっては寝耳に水だった。
むしろナユタの方が、ひかるには一目置いていたのだ。
ひかるは最終的にはプリキュアとして全宇宙を救ううえに、宇宙飛行士にまでなって、異星との友好を築くことになる歴史上の偉人だ。
プリキュアとしての活躍が一般に知られていなかったのにもかかわらず偉人扱いなのだから、恐ろしいものである。
まぁ地球がネビュラガスに覆われる悲劇の引き金となった人物でもあるわけだが……それを踏まえても、ナユタとしては尊敬できる人間だと思っているのだ。
――私は! ナユタちゃんみたいに頭が良い訳じゃないし、口も上手くないよ!
――そんなにナユタちゃんが良いなら、ナユタちゃんと二人でプリキュアやればいいじゃん!!
――ララちゃんなんて……大っ嫌い!!
だが思い返してみれば、気付ける手掛かりはあったのかもしれない。
なのに春日部ナユタは……どこか、未来の知識が足枷になって星奈ひかるへの理解が遅れていたのだ。
「ケンネル星のときも、ゼニー星のときも、ララが悩んでたときも、ナユタちゃんは私よりもずっと周りのことをよく理解してて。本当は私って想像力無いのかも、って思っちゃってた」
ひかるの告白を聞きつつ。
我ながら矛盾しているな、とナユタは自嘲が漏れた。
現在の星奈ひかるの成長を嬉しいと言っておきながら、未だにナユタは歴史知識を頼る思考が抜けていないのだ。
香久矢まどかを泣かせてしまった時と同じ失敗を、繰り返している。
一人の14歳の少女でしかない星奈ひかるから、春日部ナユタという人物がどのように見えるのか……という視点で、もう少し考えてみるべきだろうか。
「アタシだって、そんなに褒められた人間じゃないよ。同じ失敗を繰り返しちゃって自分が嫌になることだって、しょっちゅうだよ」
「……そう、なの?」
意外だ、という顔をされた。
ナユタ本人が思っていた以上に、ひかるからの人物評価が高いようだ。
さすがに一切の失敗をしない人間だとまでは思われていないだろうが。
「アタシの作ったもののせいで他人が傷ついたことだって、初めてじゃないんだ。だから……ネビュラペンを使ったひかるちゃんがロケットに担ぎ込まれてきたとき、一瞬だけ頭の中が真っ白になった。またやっちゃった、って思ったよ」
「その時は……私も、勝手に持ち出しちゃってゴメンなさい……」
しおしおになっている星奈ひかるは、心の底から反省しているらしい。
まぁ勝手に持ち出した方も悪い、とはナユタも思っているが。
それでも、作った側のナユタとしては気にしてしまうものなのである。
思い出したくもない苦い失敗が、頭の中に蘇ってしまうのだ。
「儀式のためにフワが犠牲になるって聞いた時も、やっぱり内心穏やかじゃなかったよ。でも、だからこそ、ひかるちゃんが仲間を犠牲にしないって言い切ってくれて、正直ウルっと来たんだよ?」
ナユタの内心を聞かされて、ひかるは照れ臭そうに笑った。
今までの経験が、星奈ひかるに決断させたのだろう。
そのせいで惑星レインボーの復興が遠のいたという事実もあるので、ひかるとしては手放しで喜ぶことは出来ないようだが。
それでも、ナユタからの賞賛は素直に嬉しいようだった。
「生きてりゃー、失敗を次に活かせる。死なない程度に吐いて飲酒の加減を覚えるのと一緒だよ」
「オヨオエッ」(オヨルン感)
「結構似てたなー。100点満点で90点は固いぞー?」
ひかるとナユタは、静かに笑いあった。
少しだけ、気分が上向いたように思えた。
だが、まだ星奈ひかるは、どこか元気が無さそうに見えた。
「それに、ひかるちゃんの根拠のない明るさに救われる奴だって居る。自分の星で劣等感まみれだったララなんて、良い例でしょーに」
「そう、なのかな」
こんなに自信が無さそうな星奈ひかるを見るのは、初めてだった。
いつだってマイペースで強引で暴走特急で、そんな星奈ひかるだからこそチームを引っ張って来られたのだ……と、ナユタは思っていた。
レスバル星での経験は、自分自身を見つめ直す切っ掛けとして十分以上に機能してしまっているようだった。
改めて星奈ひかるという人間を振り返ってみたときに、良くない部分ばかり見えてきてしまったのかもしれない。
「アタシだって、そうだよ。性格悪いっていうのを気にしてたのはさ……たぶん、ひかるちゃんと比べてのことだし。正直、ひかるちゃんの直向きさが羨ましいって思ったこともあるよ」
「え……? ナユタちゃんが、私に……??」
ひかるは、思ってもみなかったらしい。
しばしの間、ナユタが言った意味を噛み砕けずに居る様子だった。
沈黙が、流れた。
時折、秋の虫の音が遠くから聞こえてきた。
「ララがひかるちゃん達を置いて帰省しようとした時にさ、ララの説得に成功するなんてアタシは予想もしてなかったんだよ? ひかるちゃんが真っすぐに向き合って掴んだ、ひかるちゃんだけの勝利だよアレは」
「そう、かも……」
これは、ナユタの本音だった。
そもそも一度出発してしまったララのロケットを戻ってこさせたのは、恐るべきイマジネーションのなせる業だ。
そのうえでララを説得出来てしまったと聞いて、ナユタは度肝を抜かれたものだった。
「……考えてみたら。私、ナユタちゃんのこと全然知らないかも。去年知り合って、何となく仲良くなって、冗談で勉強教えてって言ったら本当に教えてもらっちゃったけど」
「えっ、アレ冗談だったの?」
少しばかり星奈ひかるを問い詰めてみると。
2018年度の3学期の中間テストで手を抜きすぎて成績が落ちていたのは本当のようだが、本気で困っているというほどでも無かったということらしい。
確かに、ナユタも教えている時に少しばかり妙だとは思ったのだ。
考え無しみたいな性格をしている割にひかるは要領が良いので、「果たして学業で躓くだろうか?」と疑問に思わなかったと言えばウソになる。
その時は、たまたま中学でハズレ教師に当たってしまったのかなと思っていたのだが……まさか、冗談で言っていたとは。
「まー、アタシのことはさ。笑顔が胡散臭くて、性格が悪い、年齢不詳の女科学者……って十分知ってるっしょ? 自分自身の掘り下げをするのに他者との比較が有効なのは否定しないけどね」
自分で胡散臭いと言ってしまった笑顔を張り付けつつ。
ふと、ナユタは思った。
ひかララの仲を裂く方針を捨てたなら、ナユタ自身が未来人であるという情報を公表してしまうのもアリではないか?
……少しだけ考えて、やっぱり無いなと結論付けた。
この時代の地球にはナユタの祖先となる人間は存在しているわけで、情報をバラしたことによってタイムパラドックスが拡大したら怖い。
今まではタイムパラドックスや歴史の修正力といった理不尽な力を感じたことは無いが、今後もその状態が続くとは限らないのだ。
それに。
――私達にとっては歴史じゃなくて、未来の話だよ!
ひかるは、ナユタの経歴など知らずに言い放った一言なのだろうが。
ナユタとしては、思うところがある台詞だった。
瞬間瞬間を必死に生きている星奈ひかるたちは、ナユタの知っている歴史から既に大きく外れた道を歩みだしているのかもしれない。
そんな星奈ひかる達に対してナユタの知っている歴史を教えて、果たしてどれだけの意味を持つのかという疑問もあった。
まぁ結論としては、やはり未来人であることは言わないのが吉だろう。
「トゥインクルイマジネーションのための掘り下げとしては、そうだなー。ひかるちゃん、UMAが好きだったよね」
「うん。お父さんに昔、たくさんUMAの話を聞いたんだ。その影響だと思う」
ひかるは、両親のことが大好きな様子だった。
父親のことを語るときも、なんだか嬉しそうに思われた。
世界中を旅してUMAの研究をしている星奈陽一は、良き父親だったのだろう。
ナユタとしては、ひかるの内面の掘り下げに協力するのが目的というよりも、ナユタの方に踏み込ませないために話題を選んだという面が強かったりするのだが、それはさておき。
「じゃーさ。そこらへんに居る生き物……猫や鳥と、UMAの違いって何だと思う?」
「ええっと……」
ひかるは、考え込んでしまった。
一応これは答えがある問いなので、要領が良いひかるなら考えれば分かるだろう。
案の定、はっと気づいた様子でひかるは声をあげた。
「人間が実物を発見しているかどうかだよね!」
「正解だよ、よく気付けたね。それなら、そのへんの動物にはときめかないけど、UMAは好きっていう星奈ひかるの嗜好は……どういうふうに分析できるかな?」
またもや、ひかるは考え込んだ。
むぅ、なんて唸りながら、頭を回転させている様子だ。
別に今すぐに答えを出さなくてもいいぞ、とナユタは一応補足してみたが、果たして?
自らの米神を両手でもんだり、腕を組んだりしてみていた星奈ひかるは……唐突に、顔をあげた。
ひかる自身の答えに確信を持っている顔だ、とナユタからは見えた。
「……そっか。未知だからだ。『知りたい』っていうのが、私の原点だったんだ」
その言葉へと、ナユタが返事をする前に。
星奈ひかるの身体から、眩い光が漏れ出した。
金色の光は次第に、ピンク色へと変化していった。
「これが、トゥインクルイマジネーションってやつなのかなー? おめでとう?」
たぶんそうだと思う、との返答がひかるから聞こえた。
12星座のプリンセスから分け与えられた想像力の名残なのだろうか。
ひかるは、この光がトゥインクルイマジネーションに由来するものだと理解できているらしかった。
「ありがとう。……やっぱり私、ナユタちゃんに助けてもらってばっかりだ」
「この期に及んでまだそういうコト言っちゃうー? まーでも、吹っ切れたみたいだね」
二人は、目と目で笑いあった。
ひかるの言葉からは、不思議と卑屈さは感じられなかった。
助けられている自分自身を肯定的に受け入れられるようになったのだろう、とナユタは感じた。
「でも。私だって、ナユタちゃんが困っている時には、本気で協力したいよ。だから……困っていることがあったら、教えてほしいんだ」
「んー? どうした急に? まー、あんまり期待せずに待っとくよ」
藪から棒に。
ひかるが、身体から迸っていた光を抑えつつ、頼もしい言葉を口にしていた。
迷いのない口ぶりだった。
ナユタとの間に友情を感じてくれている、ということだろう。
そんなひかるの気持ちを、ナユタは素直に嬉しく思ったのだった。
その後は……少しばかり夜道を歩きながら、二人で星空を眺めた。
10月の空は澄んでいて、星がよく見えた。
ナユタが生まれ育った時代では終ぞ見ることが出来なかった、幻想の煌めきが夜空へと散りばめられていた。
隣を歩く星奈ひかるは、きらきらした目をしながら天を仰いでいて。
こういうのをホンモノの輝きって言うんだろうな、なんて隣の横顔を見て思いながら。
ナユタは、ひかると一緒に静かな時間を過ごしたのだった……。
『あくいのオトモダチ』
第20話:みんなが見てきたララを信じてあげてほしいんだ
その日。
星奈ひかるは、何となく奇妙な雰囲気を2年3組の中に感じていた。
どことなく、クラスの皆から違和感を嗅ぎ取ったのだ。
なんというべきか、どこか余所余所しい。
放課後に、クラスの面々で掃除をしながら。
ララが一人でゴミ箱を抱えて教室を出て行ったタイミングで、ひかるはクラスメイトたちを問い質した。
一体何があったのか、ララが何かしたのか、と。
「私達の身の回りに異変が起きたのは、羽衣さんが転校してきてからですわ……」
すると、クラスの面々は渋々といった様子で話し始めた。
宇宙開発特別捜査局の人間が、2年3組の生徒たちへと聞き込みをして、羽衣ララに関する調査をしているそうだ。
巨大ノットリガーの目撃情報が隠蔽不可能なレベルにまで広まってしまっているのが最悪で、ララが破壊活動に関与しているとまで疑われているようだ。
しかも、ノットリガーの素体にされた人間が前後の記憶を失うという性質も相まって、ララが
「星奈さんも心当たりは無くて? あなたも……羽衣さんに操られているのでは?」
ララがそんなことするわけない、と口をついて感情的な言葉が出てきそうになった。
だが、ひかるは言葉を飲み込んだ。
きっと、その単純な否定は状況を好転させない、と思った。
黒服の大人たちに詰問されるというストレスに晒されたクラスメイト達の不安を払拭するには、どうしたら良い?
羽衣ララが危険な宇宙人ではないと信じさせるには、何が必要だ?
――あー、あれか。ひかるちゃんの成長が嬉しくてね、つい口出ししちゃったよ
春日部ナユタの胡散臭い笑顔が、頭の中に浮かんだ。
視点を変えれば世界が変わる、なんて飄々と言ってのける星奈ひかるの親友は。
相手の思考と返事を何手も先まで読んで、誰しもを幸せにする未来を手繰り寄せてきた。
ナユタのように理詰めで相手を説得することは難しいが、しかし。
私にだって出来ることはあるハズだ……そう、星奈ひかるは自分自身に言い聞かせた。
「誰にも操られていない人間なんて……いないよ。常識とか、校則とか、家族とか、先生とか。いつだって私たち、操られてばっかりだよ」
自分だけのイマジネーションだと思っていたものが、実は与えられた作り物だったこともある。
それでも。
スターパレスでショックを受けていた星奈ひかるたちをよそに、いつも通りの調子を装ってプリンセス達へと質問を重ねたナユタの姿が、頭の隅に浮かんだ。
あの精神的な強さの源は、いったい何なのだろう。
いつか問い詰めて知りたい、とひかるは思った。
「だからね……不自由なイマジネーションでも。私達は、自分の目で見たものを信じるしかないんだ」
ひかるは、なるべく落ち着いた口調を意識して言葉を続けた。
クラスメイトたちは、誰しもが黙って聞いてくれた。
星奈ひかるが言葉を尽くしての弁明を始めるとは思わなかった、という意外性も手伝ったのかもしれない。
「ララは、ちょっと不器用だけど、頑張ってクラスのみんなと同じことが出来るようになって、本当に嬉しそうだった」
クラスのみんなの記憶を思い起こさせるように、ひかるは思い出を語った。
転校してきたばかりの頃のララは、掃除用具の使い方も分からず、バケツをひっくり返してしまう程で。
計算能力も1桁同士の加減算が関の山で、小学生並だった。
でも、クラスメイトたちと同じように掃除ができるようになって。
今でも計算はまだまだ怪しいが、それでも2桁同士の計算はほぼ出来る。
日本語の読み書きだって安定して出来るようになってきたし、最近では一人で本を読んでいる姿も見られた。
「いつも一生懸命で、出来ることが増えたら本当に嬉しそうにしている、そんなララの姿を私達は見てきたはずだよ」
必死に頭を回して、ひかるは説得の言葉を捻りだした。
同時に、クラスメイトの一人一人の顔を見た。
気まずそうな顔をしている者がほとんどだった。
ララを疑ってしまったことに……罪悪感をもっているのだろうか。
「確かにララは宇宙人だけど、私達の友達だよ。だから、悪意でみんなを洗脳したり傷つけたりしないって、みんなが見てきたララを信じてあげてほしいんだ」
ひかるは、今一度クラスのみんなの顔を見回した。
クラスのみんなが、表情を驚愕に染めていた。
……あれ?
驚かせるようなこと、何か言ったっけ?
「星奈……? ララルンが宇宙人だって、さらっと今、認めなかったか……?」
「あ゛っ……!」
キラやば星人は、頭の中が真っ白になった!
やってしまった。
語りに気持ちが乗り過ぎて、言わなくても良いことまで言ってしまった。
ヤバい。
一度口から出てしまった言葉は、いまさら無かったことになど出来ない。
頭の天辺から爪先までダラダラと冷や汗をかきながら、ひかるは懸命にフォローを考えた。
「ひかる。……ありがとうルン」
がらっ、なんて教室の扉を開ける音とともに、緊張に揺れた声が届いた。
空っぽになったゴミ箱を片手に持ったララが、教室の入り口に立っていた。
ひかるの説得を、途中から外で聞いていたのだろう。
ララは……腹を括った顔をしていた。
「その続きは、私から説明するルン」
その晩。
プリキュアチームの一同は、ララのロケットへと集められた。
報告は、主にトゥインクルイマジネーションの発現に関して。
星奈ひかるは、未知への興味を自覚することで、トゥインクルイマジネーションの扉を開いた。
羽衣ララは、クラスのみんなに異星人である自分を受け入れてもらって、今の自分に自信を持つことで同じく覚醒を迎えた。
そもそもララの自信に関しては惑星サマーンで9割方達成できていたようなものなので、今回の一件は本当に最後の一押しだったのだろう。
なお、ララの正体に関する口止めは一応成功した……ということらしい。
他の面々の覚醒のためのヒントになるとは限らないが、情報は小まめに共有した方が良いという判断から、ひかる達は一同を集めたのだろう。
ひかるとララへと祝いの言葉を贈って。
同時に、それぞれが考えを巡らせていた。
自分自身のトゥインクルイマジネーションとはいったい何なのか。
もう少しロケットに残っていくと言い出した星奈ひかるを残して、地球人3人とレインボー星人のメンツで下山することとなったのであった。
なんとなく、ひかるとララの二人きりになりたそうな雰囲気を察したのである。
4人は、ゆっくりと山道を下った。
「……強いイマジネーションって、いったい何なんでしょうか」
ぽつり、と香久矢まどかが呟いた。
天宮えれなは、答えられなかった。
えれな自身も最近はよく自己分析を行っているつもりだったが、トゥインクルイマジネーションの発現には至っていないのだから。
ユニも、うつむき気味に言葉を詰まらせているようだった。
ナユタは……まどかの言葉の続きを、待っているのだろうか。
「もっと、こう……簡単に、科学の力で一気に解決とか出来ないニャン? イマジネーションの力を強化するアイテムとか……」
「それをやっちゃった結果が『灰色のキュアスター』だぞー?」
ナユタの返答を聞いて、ユニは苦い表情を見せた。
失言だったと理解したようだ。
さすがにあの暴走状態を再現する気は無いらしい。
「考えれば考えるほど……わたくしが今まで生きてきた中に、自分の意思がどれだけあったのか、不安になってくるんです」
えれなは、まどかの心中を汲み取った。
名門香久矢家の令嬢であるまどかは、習い事に忙殺されている印象が強い。
だが、まどかの数々の習い事は、まどか自身の意思で決定されていた訳ではないのだろう。
そんな香久矢まどかが、トゥインクルイマジネーションのために自身の人生を振り返ってみて……不安が湧いて出たということか。
フワを守りたいと思ってプリキュアになった件も、プリンセス達のイマジネーション操作の影響によるものだ、と言われてしまったわけで。
「あたしは、大好きな家族や友達と一緒に笑顔で暮らせれば、それで良いと思ってた。それだけじゃダメなのかな……」
それだけではダメなのか、と自分で言いながら、えれなは思った。
ダメだからトゥインクルイマジネーションに覚醒できていないのだ。
かといって、他に強いイマジネーションとして思い当たる節があるわけでもない。
「私も、正直に言ってよく分からないわ。宇宙全体が滅びるのはマズいとは思っているけれど……ね」
やはりユニは、覚醒へのモチベーションを維持できていないのだろう。
一応宇宙が滅びたら困るというのはユニも思ってくれているようだが、惑星レインボーの復興の目途が立っていないという事実が重いに違いない。
一度は餌を目の前にぶら下げられただけあって、それが叶わないと分かったときの落胆が心から消えないようだ。
「まぁ別に、焦ることはないと思うよー。時間的には余裕はある訳だし?」
「……そんな事まで分かるの?」
えれなは、ナユタの言い分へと弱気なツッコミを入れた。
ノットレイダー側の事情を推測するための判断材料があったとは、思えないのだ。
だが、見ている世界が違うのかと思ってしまうような洞察力を発揮する春日部ナユタならば?
敵側の事情を見透かしている可能性もゼロではないかも、とえれなは思ってしまっていた。
「そもそもさ。ノットレイダーがプリンセスの力とフワを強奪しようとしてたのって、何故だと思う?」
「蛇使い座のプリンセスから儀式の情報を聞き出したかも、って話だっけ……」
「儀式で得られるエネルギーを横取りするつもりニャン?」
「もしくは、単純に儀式の邪魔をしようとしている、という線も有り得ますね」
まどかとユニの推察を聞いて、えれなは妥当な線だと思った。
儀式を行えばダークネストを倒せるほどのエネルギーが生み出されるというからには、その力をダークネストが使いたいと思うのも分かる。
また、単純にダークネスト自身を守るために儀式の邪魔をしているという線も有り得る。
どちらも確証はないが、ありそうな話に思えた。
「アタシも最近まで、その二つは両方とも有り得ると思ってたけど。単純に邪魔をしたいなら、ガルオウガが最後の魚座のペンを持って地球に来たのは流石に不自然なんだよね」
「……そう言われると、その通りですね」
「確かに、そうニャン。儀式の邪魔が目的なら、12本目のペンをプリキュアに奪われるリスクは見過ごさないわね」
なるほど、とえれなは思った。
ノットレイダーが最後の1本である魚座のペンをアジトに保管して厳重に守れば、それだけで儀式の邪魔は出来てしまうのだ。
わざわざガルオウガが単騎で地球にペンを持ってくるよりも、その方が遥かに効率的で合理的だと思える。
12星座のペンがプリキュア側に揃っても問題ない、という認識がダークネスト側にはあるのだろう。
つまり、儀式の妨害はノットレイダーの目的ではない。
ならば、儀式の成果物を横取りするのがノットレイダーの目的だ。
「ということはさ。向こう側も、今はトゥインクルイマジネーションが発現されるのを待ってる状態のはずなんだよね」
だから急ぐことはないよ、とナユタは続けた。
気休めを兼ねて言ってくれているのだろうが、一応根拠が提示されているのが有難い。
えれなは、少しだけ心労が和らいだのを感じた。
「……申し上げにくいのですが、実は時間が無いのは、わたくしの方なんです」
「ありゃー?」
だが、まどかの切り返しは、誰しもが予想しなかったものだった。
何もかもを見通しているかのように不敵に笑っていることが多いナユタですら、予測できなかった様子だ。
「中学を卒業したら……わたくしはイギリスへ留学することになります。それが事実上のタイムリミットとなってしまいます」
「……そっか。こればっかりは、まどかちゃんの人生設計の方を優先した方が良いね」
ナユタは、いつもの胡散臭い笑顔をキープしながら言い放った。
まどかは真剣な表情を崩さないまま、それ以上の言葉を続けなかった。
もうすぐ12月なのだから、そんなに猶予はないと言いたくなる気持ちも分かる時期だ。
もしかして、まどかは引き止めて欲しかったのだろうか。
根拠もなく、そう天宮えれなは思った。
思ったが……口には、出さなかった。
まどか本人が口に出さなかった気持ちを、勝手に代弁するのは良くないと考えたからだ。
結局、その後は会話も続かず。
4人は、それぞれの帰路へと散り散りになったのだった……。
・今回のNG大賞
桜子「あなたも……羽衣さんに操られているのでは?」
カルノリ「そうだぞ、思い出せ星奈! お前は『今夜は焼肉っしょー!』が口癖で音楽家志望だっただろ!?」
ひかる(無言のスターパンチ)