あの回のキュアピーチとほぼ同じ類の失言ルン
トゥインクルイマジネーションは揃ったものの、肝心のダークネストの所在が分からないという問題が残っていた。
ノットレイダーのアジトの場所はグーテン星の研究所で調べている真っ最中なのだ。
儀式の準備が整っていることは、ノットレイダー側でも把握できているだろうに、不気味なまでに音沙汰が無かった。
12月にさしかかり、ロケットに集った面々は……なんとなく、将来の話を始めていた。
ユニのトゥインクルイマジネーションの話題から、発展したのだ。
宇宙アイドル業を再開するかもしれないと言い出したユニの言葉を聞いて。
ひかるが、興味本位で話題を広げたのである。
天宮えれなは、父親の祖国であるメキシコへと留学する方針だそうだ。
将来は母親のような通訳の仕事に就くことを考えているとか。
逆にまどかは、父親の方針だったイギリス留学を断るつもりのようだ。
まだ確定ではないものの、自分の道は自分で決めると言い切っていた。
プルンスはスターパレスに戻るか、フワの護衛を続けるか、二択だという。
フワが地球に住み続けるならば、後者が現実になるだろう。
「ナユタちゃんは?」
「特に考えてないなー。今まで通り電機修理屋で食っていくのかも?」
そういえば。
地球がネビュラガスに覆われた星になる未来を回避することばかり、ナユタは考えてきた。
だから、ダークネスト戦役の終結は、特にナユタの行動の節目にはならない。
というか、2070年代に帰る方法が結局見つからなかったのだ。
一応アイワーンの石化技術を使えば50年程度のコールドスリープは出来そうではあるが。
別にナユタの帰りを待つ親族がいる訳でもないので、無理に帰る理由も無さそうだった。
「そういう、ひかるちゃんは?」
ナユタは、軽い調子で聞き返した。
意外とひかるの回答は読めないな、なんて思いながら。
正史だと宇宙飛行士になった星奈ひかるだが、14歳の現時点でそのプランがあるのかどうか……。
「私ね……宇宙を回って見てきた事を、本にしたいって思ってるんだ」
思ってたのと大分違う!
思わずツッコミそうになったナユタだったが、いつもの胡散臭い笑顔をなんとかキープした。
だが、同時に納得してもいた。
そもそも気軽にララと会えるという前提が成り立つならば、地球の技術レベルに合わせて宇宙飛行士を目指す理由なんて全く無いのだ。
地球産のロケットに乗るためには、心技体のあらゆる面で人類最高レベルのスペックを要求される。
その訓練のために費やす時間と労力は半端なものではないし、それでも涙を飲むことだってあり得るわけで。
聞こえが悪い言い方をすれば、そんな過酷な訓練を必要としても衛星軌道上まで行くのが精一杯なぐらいに、どうしようもなく地球の有人宇宙飛行技術は低レベルなのだ。
それに比べて、サマーン星の技術レベルならば、落ちこぼれのララでも一人で宇宙旅ができる。
ならば、わざわざ地球の科学文明のレベルに合わせて宇宙飛行士を目指すなど、効率が悪すぎるルンと言いたくもなる。
後世の人々の余計な手間を取り除いてやるのも、科学の使命の一つなのだ。
「カッパードの星のことを、気にしているルン?」
別のところから、ひかるへと指摘が入った。
カッパードの星といえば、宇宙の旅人たちに資源を分け与えているうちに、宇宙商人たちの食い物にされて滅びた星だ。
現地を直接見たわけではないが、カッパードの独白は星奈ひかるの心に重いものを残したのだろうか。
「それも、あるよ。同じ失敗を繰り返さないように、っていう教訓の話は入れたいな」
「それも……ということは、他にも考えがありそうですね?」
なんとなく。
ナユタは、ひかるが次に言い出す内容が予見できた。
おそらく、言及したまどかも想像できているのだろう。
「地球の人たちに、少しずつでも心の準備をしてほしいんだ。別の星の人達と一緒に生きる時代のために」
それが出来なかったからカッパードの星は滅んだのだという一面は、確かにある。
そして……ネビュラガスの悲劇とも、根は同じ問題である。
ナユタの時代の人たちも、異星人と交流する準備が足りていなかったのだ。
ナユタは、密かに嬉しく思った。
異星間交流における諸問題を知識として広める星奈ひかるの進路は、ネビュラガスの悲劇を回避する道へと続いているのだ。
もし春日部ナユタが志半ばで倒れたとしても、ひかるが居てくれれば……あるいは?
「良いねぇ! 本を出すなら、あたし翻訳しちゃうよ!」
天宮えれなへと嬉しそうな顔を返した星奈ひかるが……一瞬だけ、ナユタの方に視線をよこしたような気がした。
なんだろうか。
本を書くにあたって、何かしらの知恵を貸して欲しいのかもしれない。
そういうのは物書きをやっている星奈家の両親に相談した方が良い気もするが。
というか……えれなは、喜んでいる場合なのだろうか?
「異星人と一緒に生きる時代が来るなら、えれなちゃんは笑ってる場合じゃないだろー? 地球とサマーンが正式に外交を始めたら、高性能AIの技術が流入して、通訳の働き口は壊滅するよ?」
「え゛っ」
「オヨっ……」
その驚き顔から、そこまで考えてなかったんだろうなぁ、なんてナユタは確信した。
目を真ん丸にしている天宮えれなは、やはり機械類のことになると基本的に思考の外なのだ。
ララも、動揺を隠せない様子だった。
せっかく天宮えれなが進路として通訳の道を決めたのに、サマーンのせいで通訳が絶滅するとなれば、ララも気が気ではないのだろう。
というかナユタが令和の地球の科学技術を見た限りだと、サマーンからの技術流入が無くても、あと十数年で通訳の働き口は激減する気がした。
「AIは悪者フワー?」
「AIは悪くない」
「迷いなく即答しましたね、春日部さん……」
「あたし、どうしたら……?」
AIをブッ潰す活動をするフワなんて嫌だ……なんて戯言はともかく。
他の面々も考え込んでしまっていた。
えれなはロケットのAIと会話をして、AIの翻訳能力を試しているようだ。
プルンスも、実は星空連合で通訳の仕事をしていたことがあるなんて言い出して、えれなと共にAIと会話を試みていた。
まどかは顎に指をあてて、思索の中に答えを探しているようだった。
「これって、SFでたまに出てくる『AIに仕事が奪われる』っていう問題だよね……。このままナユタちゃんの解説を待つのは悔しいけど、うぎぎ……!」
「技術が広まる前に秘匿してしまえば……と思ったけれど、難しそうニャン。アイワーンが発明したダークペンを、いつの間にかナユタも作れるようになっていたのを見ると……ね」
ひかるは、頭を抱えて唸っている。
ユニは興味が無さそうな顔をして腕を組んでいるが、尻尾の先っぽの数センチが小刻みに動いている様子から、思考を巡らせているのが見て取れた。
そんな中、ドヤ顔のララの姿が!!
いかにも指名待ち状態な顔のララへと、ひかるが期待の眼差しを向けた。
他の面々も、割とララへ期待した。
AI技術の本場であるサマーン星で育ったララならば、AIによる失業問題に対する解答も知っているのでは?
「ほい! 羽衣ララ君の冴えた解答を聞かせてもらおうじゃーないですか!」
「簡単ルン! その時になったらAIに聞けば良いルン!」
私の星では、みんなそうするルン!
胸を張って、自信満々にララは……そう答えた。ドヤルン!
高性能AIが地球に導入されたら、という前提での話なので、あながち全くの間違いとも言いづらいが……。
えれなが、釈然としないと言わんばかりの顔をしながらナユタへと判定を求めてきた。
「それって、答えとしてアリなの……?」
「アタシの感覚では大いにアリだし、正解の一つだと言っていいと思ってるよ? ララが言うとアホっぽく聞こえるけど、新技術が導入された時にその恩恵を受ける側に自分が立つというのは、良い視点だと思う。ハナマル解答だよー」
うーん、などと不満そうな声を漏らしている天宮えれなの気持ちも分からないではないが。
これも視点が変われば世界が変わるってやつだよ、なんていつもの口癖をナユタは胡散臭い笑顔から零した。
新技術の恩恵を受けることに抵抗が無ければ、恩恵を受けた方が良い。
逆に、心理的抵抗があるならば無理に恩恵を受ける必要もないが……それによって発生するデメリットは覚悟してほしいところだ。
あと、さりげなくララに対して失礼な事を言った気もするが、当のララが気付いていないようなので問題はなさそうだった。そこは引っかからなくて良いところだ。
「さすがララ! すごいよ! キラやばーっ!」
「当然ルン! 私は頼れる大人ルン!」
「ひかるってさ……。ララにだけ評価甘くない……?」
「そうニャン! 私はあざとくないニャン!」
「根に持っているでプルンスなぁ……」
えれなの控えめなツッコミと、ユニの便乗抗議は……さらっと流された。
ララを抱き寄せて頭をわしわしと撫でまわしている星奈ひかるは、もう、こういう奴だから仕方ないのだ。
髪をぐちゃぐちゃにされているララも、口では静止を呼びかけるようなことを言っている割に口元が緩んでいるので、もう放っておけ。
ふとナユタは、沈黙を守っている香久矢まどかのことが気になった。
真剣に考え込んでいると思しき、まどかは……はっとした様子で、顔をあげた。
何か、まどかなりの解答が見つかったようだ。
「AIに税金をかけて富の偏りを
「それも一つの正解だと思うよー。正解者に拍手! ぱちぱちー! ……まどかちゃん、本当に中学生??」
長考の末に……香久矢まどかが、知恵を捻りに捻って解答を弾き出した。
年齢ネタに関してはガッツリ「お前が言うな」案件なのだが、他のメンツがそろって香久矢まどかの解答についていけていない状態なので、ツッコミ役がいなかった。
ただまぁ、香久矢まどかは官僚の家の子だったりするわけで。
ある意味、まどからしい解法だと言えるのかもしれない。
一応、他のメンツのために少しばかり補足を入れておいてやるべきか。
まどかとナユタは、目と目で頷きあった。
「良くも悪くも、新技術が導入されたら、得をする人と損をする人が必ず出るものです。
そのような富の偏りを、完璧にとは言いませんけれども多少調整するのが税金の役割です。
失業者が新しい職を探す期間のための給付金も、そこから捻出できるはずです」
「簡単に言っちゃうと、自動車に税金をかけるのと同じ感覚でAIにも税金をかけろってことだよー」
なお、サマーンで実際にAIに税金がかけられているかどうか、ロケットのパーソナルAIに聞いてみたところ……。
どうも、星の至るところにAIがあるのが前提になり過ぎていて、AI自体に税金をかける意味が無いそうだ。
一応、技術革新の過渡期においては、AIの製造や販売に税金がかけられていた時代もあったらしいが。
「ぬぐぐ……」
「オヨ……? ひかる、大丈夫ルン? 頭から煙が出そうな顔してるルン。コスモグミ食べるルン?」
「だって! 異星人と一緒に暮らす時代って私が言いだしたのに、このまま何も考え付かないのは……なんか悔しいじゃん!」
「そうやって、自分で悩んだり考えたりするのは、良い事だと思うよー?」
なんだか、ひかるの意地の火がついてしまったようだ。
まだまだ正解と呼べるものは沢山あるが、果たして星奈ひかるが思いつけるかどうか。
なんとなく。
ナユタは……ひかるならば、ララ達のように答えが出せるように思えた。
こういうのを、期待というのだろう。
ひかるは、必死に考えて知恵を振り絞っている様子だ。
「…………あれ? よく考えたら、おかしくない? 星空連合にはサマーンが入ってるのに、星空連合でプルンスが通訳として働く場があったの?」
……と、ここで星奈ひかるが不審な点に気づいた。
さきほど、プルンスは星空連合で通訳として働いていたことがあると言っていたが……。
星空連合にはサマーン星やグーテン星が所属しているのだから、技術的には機械に通訳を任せてしまうことは出来るはずなのだ。
その二つが矛盾していることに、星奈ひかるは思い至ったのである。
ひかるは、言葉を続けた。
「通訳の働き口は減るとは思うけど、たぶんAIがどんなに発達しても、人間の通訳が必要になる場面はゼロにはならないってことだよね?」
理由までは分かんないけど、なんて言いながらも。
星奈ひかるは、解答を導き出した。
ナユタは……口元に笑みが漏れてしまっていた。
ひかるが自分なりの解答を導き出せたことが、嬉しく思えたのだ。
「そういえば、さっき『AIは悪くない』って言っていたニャン。AIの製造元が責任をとれない場面だと、人間の通訳が必要になるってことかしら?」
「ひかるちゃんもユニちゃんも、正解だよ。よく気付けたね」
AIとて完璧になれないのは人間と一緒だ。
ならばAIも事故は起こすし、悪事を働くことだってある。
そうなれば製造元が責任をとるのが筋だが、たとえば星空連合の首脳会議みたいな場面だと、万が一の時の責任が重すぎて製造元が困るのだ。
サマーンの代表が出席する会議だと、サマーンに有利な嘘翻訳が展開される危険性だって、考慮しなければならない。
つまり、通訳は絶滅まではしないということである。
「それって……あたし、通訳になれるってこと?」
「うん! やったね、えれなさん!」
抱き合って喜んでいる暖色コンビへと、微笑ましいものを見る目を向けながら。
ふとナユタは、まどかが物言いたげにしていることに気付いた。
何かツッコミどころがあったのだろうか。
一応、今日3つ出た解決法にはそれぞれ欠点はあるのだが、それに気づいてしまったか?
「今回の議論……どこまで、春日部さんの掌の上だったんですか?」
「それを言っちゃったら無粋ってもんさー。あれは、ひかるちゃん達が勝ち取った未来だよ」
ナユタは、どこまでが想定内だったかを明言しなかった。
なんだか、それを言ってしまったら、ひかる達の屈託のない笑顔にケチがついてしまう気がしたからだ。
心から嬉しそうに笑っているロケットのみんなが幸せそうなら、今はそれでいい。
そう、ナユタは思った。
『あくいのオトモダチ』
第23話:みんなと一緒に未来を創っていきたい
ほんの少しの沈黙が流れ、話題が途切れたのを感じさせた。
(あれ? ララには将来のことを聞かないのー?)
ここでナユタは、突っ込むべきか否か、迷った。
ひかるは、意識的にララへと将来に関する話題を振ることを避けたのだろうか。
もしくは、話が脇道にそれたせいで言及を忘れているという線も有り得た。
できればナユタとしては、ララがどうするのか聞いておきたい。
ネビュラガスの悲劇が起こるかどうかは、ララの動向に左右される面が大きいからだ。
……あとで個人的に聞けば良いか?
この場で言及するという選択肢もあるが、どちらが良いだろう?
非常に悩ましいところだが……?
「ララの進路は、どうするのさー?」
「オヨ?」
軽い調子で。
ナユタは、ララへと問いかけた。
実は、この問答は2回目である。
以前にもナユタは、ララへと同じ趣旨の質問をしたことがあるのだ。
星奈ひかるの、息を飲む音が聞こえた気がしたが……ナユタは気づかないフリをした。
「中学校は、ひかると一緒に卒業したいルン。その後のことは、まだ決めていないルン」
「そっか。出来るだけ長く、一緒にいられたら嬉しいモンだね。ララが居なくなったら、寂しくなりそうだし」
「ずっと一緒フワー!」
ナユタの湿っぽい語り口に、フワも同調してくれた。
だが他の仲間たちは……なんだか、奇妙なものを見る目をナユタへと向けていた。
コレジャナイ感とでも言うべき、得体の知れない違和感を胸に抱いている顔だ。
「んー? 柄でもないこと言っちゃったかな?」
「なんかさ……あたしの勝手な印象かもしれないけど。ナユタって、そういう心の中のデリケートな部分をあんまり直接言わないイメージがあったから、ちょっと意外だった」
えれなのコメントに、まどかやひかるも同調している様子だった。
正直にいってナユタ自身でも、あんまり自分のキャラじゃないなー、なんて思っていた。
どちらかというと先程の「寂しくなる」という発言は、ひかるの反応を探る意図で口に出したのだ。
ひかるが便乗してララを口説きにかかるのを期待していたのだが……。
「そもそもナユタ自身が一番、フラっと居なくなりそうなキャラしてるニャン」
「ユニも似たようなものでプルンス……」
プルンスのツッコミを、ユニは涼しい顔で受け流した。
確かにユニは野良猫感あるよなぁ、なんて心の中でプルンスに同意しつつ。
ナユタは、他者からの評価を少しだけ意外に思っていたりして。
そんなに春日部ナユタは、地に足がついていない雰囲気があっただろうか?
その日の、夕方に。
12月の身を削るような風に晒されながら、ナユタ達はララのロケットを後にした。
いつもの山道を下っているのは、地球人4人のみである。
ユニも下山するかと思いきや、実は最近ロケットに住み始めたそうだ。
さすがのユニも冬の寒さは堪えたらしく、ララのロケットに個室を借りて丸くなっているのだとか。
野良猫から家猫へと華麗な転身を遂げたユニだが、よく考えたら宇宙快盗とかアイドルとかに転身しまくっているので、本当に今更だった。
「あのさ……さっきナユタちゃんが寂しいってハッキリ言ったのって、もしかして私のため?」
「アレは、アタシの正直な気持ちだよ。……まー、ひかるちゃんのためっていうのも、間違いじゃないけどさ」
少しばかり言い澱みながら、ひかるが訪ねてきた。
なんだか最近、ひかるの察しの良さに磨きがかかっているように思われた。
元々、妙な直感力を持った子ではあったのだが、それに加えて知恵を働かせることを覚え始めたようだ。
「寂しい時に寂しいって言えないと、痛みが分からない大人になっちゃうぞー?」
映画撮影の時は言えてたっしょ、なんて軽々しく口にして。
ナユタは、ひかるの反応を探った。
率直に言って、ひかるとララは既にラブラブなんだから、ひかるが口説き落とせばララはイチコロだろうに。
どうも、それを実行したくない理由が、星奈ひかるにはあるようだ。
「……本当の寂しさを隠してるのは、ナユタちゃんだって一緒じゃん」
どきり、と動揺させられた反撃だった。
いつもの胡散臭い笑顔こそ崩さなかったものの、内心ナユタは穏やかでは居られなかった。
星奈ひかるは……何を、どこまで察しているというのか?
「ナユタちゃんは、私を見る時に……私じゃない、別の誰かを重ねて見てる時があるよ」
――はぐらかしたら、ひかるちゃんは勝手に試しちゃうでしょーに。長い付き合いなんだから、それぐらい分かるよ。
――長い付き合いって……。私達って、知り合ってからまだ1年ぐらいでしょ?
……まさか、そこまで気付かれているとは思わなかった。
どうして、バレたのだろうか。
指摘の内容自体は、ナユタとしては大いに心当たりのある話ではあるが。
「……否定は、しないさ。確かにアタシは、死んだ祖母ちゃんの面影を、ひかるちゃんに重ねて見ちゃってるところはあるよ」
この話の時だけは、ナユタは作り笑いをやめた。
大好きだった祖母に関する事柄だけは、薄っぺらい嘘には出来なかった。
いつになくナユタが真面目な語り口で返したことに、ひかるは多少の気まずさを顔に出してしまっていた。
「……ごめん。私また考え無しに、無神経なこと聞いた……」
「いいよ。不愉快だったわけではないし」
「春日部さんのお祖母様は、どのような方だったんですか?」
差し支えなければ……なんて遠慮気味に、まどかが訪ねてきた。
故人の話は、どこに地雷があるか初見で察するのは難しい、という認識からだろう。
ナユタとしては、あまり言いふらす事でもないが、このロケットの仲間たちになら話しても良いと思っていた。
ただし、タイムトラベル関連の情報は制限するが。
「若い頃は、色々な所を旅して回ってたらしいよ。身長は180近くあって、最盛期はリンゴを握り潰せたとか」
「凄いね……。そんなの、あたしでも出来ないよ」
ナユタは、ざっくりと祖母の人物像を語った。
本当に心から笑う人で、人を惹きつける何かがある人間だった。
でも心のどこかに少しだけ影があって、たぶんその正体は寂しさなんだろうな、なんて幼き日のナユタは思っていた。
そこまで語り終えて、ナユタは話題を戻した。
「地球に来たばっかりの頃は、ララは戦役終結次第、サマーンに帰るって言ってたんだよ。だから、現時点でのララの気持ちを確認しておきたかったんだ」
――たぶん、サマーンに帰って、スペースデブリの調査任務に戻るルン……
当時と今で、ララは明らかに言っていることが変わっている。
地球に来た当初のララだったら、ひかると一緒に卒業したいなんて言わなかっただろう。
人間は、環境によって言動も考え方も変わる生き物なのである。
「もしララが当初の予定どおりに帰っちゃった場合を、想像してみなよ。修学旅行で沖縄に行った星奈ひかるは、深夜に宿を抜け出して、あの海岸でララの事を思い出しながら、一人で『星の歌』を歌うんだ」
ゆっくり、思い出を掘り起こすかのように。
ナユタは哀しい未来図を口にした。
聞かされた星奈ひかるは……目の中に、涙をいっぱいに溜めていた。
えれなやまどかも、少しだけ涙ぐんでいた。
ひかるなら実際にやりそうだ、と思ってしまったのだろう。
「そんなイヤな想像もあってさ。あの場はララにもキッチリ聞いた方が良いと思ったんだ」
ひかるちゃんが態とララの将来に触れなかったのは気付いてたけど、なんて真面目な声で言いながら。
ナユタは、3人の顔色をうかがった。
先ほどの哀しいイマジネーションが頭の中に残っているようで、それぞれが不安の色を隠し切れていなかった。
「……ララは、サマーンの人達に認められたくて、必死に生きてきたんだよ。それなのに、私のために地球に残って欲しいなんて、言えないよ……!」
ひかるが絞り出した言葉は、苦悩に溢れていた。
地球に残ってもらうということは、ララのサマーン星人としての未来を捨てさせるに等しい。
サマーンでのララの頑張りを知ってしまっている、今の星奈ひかるは……寂しいなんて言えないのだろう。
「うーん……。こればっかりは、ひかるちゃん自身が決めるしかないね。強制するものでもないし」
一応ララは中学卒業までは地球にいる方針だということなので、まだ時間的な猶予はある。
だがそれも、プリキュアたちがダークネストを止められたらの話だ。
ダークネストを倒せなければ、宇宙を救うための儀式によってフワが消滅し、地球とサマーンを行き来する手段もなくなる。
そうなったら……ララは星奈ひかると道を違えて、サマーンへと帰る未来を選ぶかもしれない。
「……春日部さん。わたくしも……春日部さんが居なくなったら、寂しいです」
「まどか……?」
「ううーん? そう言ってくれるのは嬉しいけど?」
どうした突然。
まどかの隣にいたえれなが、困惑の声を漏らしていた。
先ほどユニが、ナユタは突然いなくなりそうだ、なんて無根拠なことを言っていたせいか……?
ナユタとしては2070年代に帰る動機も手段もないので、突然消えるつもりなど毛頭無いのだが。
「心配しなくても、蒸発なんてしないよ。正直、みんなが創る未来を見てみたい、って思ってるしさ」
これは正真正銘、ナユタの本心だった。
他の星々のことを本にして大量に流通させるとなれば、ネビュラガスの危険性の話を上手く捻じ込みたいところだ。
ジャンルとしては伝記ではなくファンタジーと見做されるだろうが、実際に異星人と邂逅した時に、思い出す人が一握りでも居てくれれば御の字である。
例え人々が虚構の物語だと認識していたとしても、知っているのと全く知らないのでは反応も違ってくるはずだ……と思いたい。
「ナユタ……? やっぱり、自分で言ってて、気づいてないの……? フラっと居なくなりそうっていうの、そういうところだよ……?」
言い辛そうに。
歯切れの悪いツッコミを返してきたのは、天宮えれなだった。
ナユタは……素で、指摘の意味を理解しかねた。
何か、致命的な認識のズレがある気がした。
経験上、こういう時に下手に口を開くと、思わぬボロを出してしまうものだ。
春日部ナユタは、他の面々の言葉を待った。
「……ナユタちゃん。『みんなが創る未来』って、まるでそこにナユタちゃん自身が入ってないみたいな言い方だよ」
……ナユタは、一瞬だけ思考が止まった。
自分自身でも気付いていなかった、心の奥深くの部分に、急にスポットライトが当たってしまったように思った。
だいぶ、この時代に骨を埋める方向に傾いてきている春日部ナユタだが、やはりナユタ自身は別の時代の人間だという前提が抜けきっていない。
言われてみると、「みんなで」ならナユタ自身も入っていると言えなくもないが、「みんなが」だとナユタ自身を含めないニュアンスだ。
言葉の綾だよ、なんて陳腐な言い訳が喉まで出かかった。
しかし、ひかる達の緊張した表情を見れば、その場しのぎの軽口で切り抜けられるとは思えなかった。
きっと、ナユタは今までも自覚せずに、地に足がついていないと思わせる台詞を口にしてきてしまったのだろう。
「ごめんなさい。物事を俯瞰的に見ることが出来るのは、春日部さんの強みだと思っています。わたくしが勝手に不安に思ってしまっただけで、春日部さんは悪くないんです」
星奈ひかると天宮えれなの気まずそうな指摘を聞いて、香久矢まどかが慌ててフォローを入れてきた。
指摘した二人だって悪気があって言っている訳ではないだろうし、正直にいって指摘内容は図星だとナユタは思った。
きっと、ナユタの方針がブレ始めている時期だからこそ、まどか達も違和感を嗅ぎ取ったのだろう。
2070年代に帰るのを諦める方向へと傾きつつある春日部ナユタは、マクロな視点とミクロな視点の間で揺らいでいる状態なのだ。
「……そうだな。アタシも、ここらで腹を決めるか」
まどかが言っているような、物事を俯瞰的な視点で見ることを忘れるつもりは無いが。
それはそれとして、ナユタは心のどこかで拠り所にしていた一線を越えることを決めた。
本格的に、2070年代へと戻る選択肢を捨てることを、決意した。
「アタシも、みんなと一緒に未来を創っていきたい」
・今回のNG大賞
FUWA「えれなの頭にもAIを搭載すれば良いフワー!!」