あくいのオトモダチ   作:カードは慎重に選ぶ男

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第3話:何だか釈然としないルン……

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ゛、オ゛ヨ゛ォ……」

 

ロケットの中に爆発音が反響した。

ララがロケットの電気系統の修理に失敗した音だった。

 

とりあえず、ロケットの窓と扉を開けて黒煙を追い出しながら。

ロケットから足を踏み出しつつ、5月末の心地よい夜風へとララは身を晒したのだった。

 

 

「ララ、オッハロー? もう暗いのに、まだ頑張っているみたいだね?」

 

と、そこに狙いすましたようなタイミングで、山道を登ってくる人影があった。

軽々しく笑いながら手を振ってきたのは、地球人の春日部ナユタだ。

ララは頬に付いた煤を払いつつ、何となくナユタの訪問理由を察していた。

 

 

「……ひかる達に頼まれて、私を説得に来たルン?」

 

 

――二人とも、邪魔ルン! ロケットの修理は私の仕事ルン!!

 

昼間に、ララは星奈ひかると香久矢まどかを追い返してしまったのだ。

ロケットの修理が失敗続きでイライラしていたのが主な理由だが。

手伝いたいと言い出した星奈ひかるの言葉を突っぱねて、ララは一人で作業すると宣言してしまったのだった。

 

 

「それも半分正解、かな。正解者に御褒美があるよ。一服しようじゃーないか」

 

飄々とした笑顔を崩さずに、ナユタはララへとマグカップを手渡してくれた。

大きな金属製の水筒をリュックから取り出し、マグカップへとナユタが注いだ液体は……ホットミルクだった。

保温されたホットミルクは、まるで今の今まで加熱されていたかのように、ほかほかの熱気を放っていた。

 

 

「……ナユタも、私を子ども扱いするルン?」

「まーまー、みてなされよー」

 

思わずムッとしてしまったララをよそに。

ナユタは、リュックから1本のガラス瓶を取り出していた。

ガラス瓶の中に保存されていた黒い液体が、ララのマグカップの中のホットミルクへと少しだけ継ぎ足された。

 

 

「ほら、さっきまでホットミルクだったものが、大人の飲み物へ大変身だぞー!」

 

マグカップの中で湯気を立てている液体は、白と黒が混ざり合って灰色へと変わっていった。

正直に言って、あの泥水のような謎の黒液は、だいぶ飲むのに抵抗を感じる見た目だったが。

大人の飲み物、という言葉がララのプライドをくすぐった。

 

思い切って口に含んでみると、まず甘味を感じた。

それでいて、何だか苦い。

なのに、喧嘩しそうな二つの味をホットミルクが繋ぎとめて、不思議な調和を生み出していた。

なんだか、落ち着く味だった。

何となく、大人の飲み物と言いたくなる気持ちも分かるように思えた。

 

 

「……おいしいルン」

「口にあって良かったよ」

 

ナユタは、自分用にもう一つ大人の飲み物の準備をしながら。

二つの小さな掌でマグカップを持ちながら、少しずつ中身を啜っているようだった。

 

 

「ララの、現在の第一目標は何かな?」

「ロケットを修理することルン」

 

口の中で甘味と苦味を転がしながら。

ララは、身体の芯が温まってくるように思った。

 

 

「空が暗くなってもまだロケットの修理をしているララを見れば、一生懸命なのは分かるよ。本当によく頑張っているね」

「……ルン」

 

ナユタの落ち着いた口調のせいも、あるのかもしれない。

星奈ひかると一緒に居る時間は楽しいが、ララは冷静では居られなくなるところもあった。

その点、ナユタと話していると、心が躍るということは特に無いが……何だか安心する感じなのだ。

 

 

「ララも本当は分かっているはずだ。ロケットの修理を第一に考えるなら、ララに好意を持つ人たち全ての力を総動員するのが『正解』だってね」

「…………ルン」

 

やっぱり、ララを説得しに来たのか。

大人の飲み物の、苦味が増した気がした。

 

 

「もっとも、アタシはそんな『正解』や『正論』なんてクソくらえって思うけどねー」

「オヨ?」

 

巨大水筒とガラス瓶をまた開けて、ララのマグカップの中身を継ぎ足してくれながら。

春日部ナユタは、ララの予想していなかった方向へと会話の舵を切っていた。

思わず、ララは首を傾げた。

 

 

「ララにとって、譲れないことなんでしょ? ロケット修理の最短ルートを蹴ってでも、他ならぬララ自身が決めた道だ」

「私だって……分かっているルン。宇宙の存続かかかっているんだから、つまらない意地を張っている場合じゃないって」

 

頭の中の冷静な部分では、分かっていた。

ロケットの修理を真に優先するならば、ひかる達の手を借りるべきだ。

そして、差し伸べられた手を突っぱねて意地を張り続けているララは……どうしようもなく、幼い子供なのだ。

そう、ララは心の底では思い知っていた。

 

 

「宇宙のためだったら、自分の意地を捨てなきゃいけないか? 本当に? そりゃぁ、意地同士がどうしても相容れなかったら、戦ってどっちかを折るしかないけどさ……」

 

だから……一瞬、ララはナユタの言っていることが理解できなかった。

子ども染みた意地のために宇宙を危機に晒しても良いと言っているのだ、この滅茶苦茶な地球人は。

器が大きいのではなく、器に穴が開いているとしか思えない。

 

 

「意地張って何が悪いよー? こういうのは自分で限界だと感じるまではトコトンやってみた方が後腐れないっしょ」

 

意地を張らずに手伝ってもらえ、と諭されると思っていた。

それなのに。

ちっぽけなララの意地を、ナユタは肯定してくれた。

なんだか、大人の飲み物がさっきまでより少しだけ甘く感じた。

 

 

「ナユタって……思ってたより子どもっぽいルン」

 

不思議と。

子供という言葉に纏わりついていたネガティブなイメージが、少しだけ薄れたように思えた。

 

 

「子どもでも大人でも、自分に都合のいい方を名乗れば良いし、なんならダブスタで両方使ったって良いじゃんか。甘いのも苦いのも、アタシはどっちも好きだ」

 

マグカップの中身は黒でも白でもない、独特の色だ。

でも、それで良いのかもしれない。

ララは、心まで温まったように思えた。

 

 

「そっちの茂みに隠れてる二人も、分かったなー?」

「オヨ!?」

 

笑顔から少しばかり邪悪さを漏らしつつ、ナユタは暗がりに隠れていた星奈ひかると香久矢まどかを呼び出した。

ララを説得するように頼まれたというのは「半分正解」という話だったが。

実のところとして、ナユタはララを説得するつもりなど欠片もなかった。

ナユタの読みだとこのエピソードは、地球人達とララが共同でロケットを修理して、苦楽を共にすることで絆を深めるイベントだ。

だからこそ、ナユタは悪意で「徹底的に意地を張り通せ!」という方向にララを諭してやったのである。

 

 

「……ララ、ごめん。ララの気持ち、全然考えてあげられなくって」

 

気まずそうに頬をかきながら、ひかるが茂みから出てきた。

その背中を見守るように、香久矢まどかも月明かりのもとに姿を現した。

 

ひかるの姿を目にして、動揺に瞳を揺らしたララは……幾ばくも待たずに、目に一杯の涙をためた。

夜風を切って、星奈ひかるへと駆け寄ったララは、そのままひかるへと抱き着いた。

 

 

「え、ラ、ララ? なんか、いつもとノリ違わない? 顔赤いよ? ちょっと不思議な匂いしない??」

「ひかりゅぅっ! ごめんルン! 一人じゃ無理かもって思って、怖くて、不安で、八つ当たりして、ごめんルンーっ!」

 

いつもは、ひかるの方からグイグイいくのに。

ひかるの胸に顔をうずめて泣いているララの勢いに、今夜ばかりは星奈ひかるの方がたじろいでしまっていた。

 

 

「オヨーっ! オヨォー!」

「よしよし……」

 

泣きじゃくっているララの背中へ、ひかるが優しく手を添えてやっていて。

どうしてこうなった、なんて困惑している春日部ナユタをよそに、ひかララは二人だけの世界に入っていた……。

 

 

 

 

「御手本のような『押してダメなら引いてみろ』ですね。見惚れるような手際でしたよ」

「アタシだって、儘ならないことばっかりさー。煽てたって何も出ない……あ、ホットミルク飲む?」

 

営業スマイルをキープしつつ内心動揺しまくっているナユタの背後から、穏やかな声がかかった。

ひかると一緒に隠れてナユタの説法を聞いていた、香久矢まどかだ。

妙にまどかから好意的に見られている気がして、ナユタとしては少し不思議なところだが……それはともかく。

 

 

「春日部さん。その件に関しては、ちょっと御話が……」

「何かな? このナユタさんには、後ろ暗いことなどあまり無いぞー?」

 

さっきよりも冷たい声が耳に届いた。

観星中の月と名高い香久矢まどかは、冷ややかな微笑を携えていた。

その手には、先程までララが持っていたハズのマグカップが握られている!

 

 

「先程『大人の飲みもの』と呼ばれていた液体……アルコールの匂いがしますけれど?」

「ちょっと気分が良くなるミルクコーヒーさ。まどかちゃん的には、この搦め手はアウトだったかな?」

 

コーヒー系のリキュールとホットミルクを混ぜて作る、カクテルの一種である。

ミルクと甘味の印象が強いため、飲酒初心者でもガンガン飲めてしまうタイプのレディーキラーだ。

 

※相手を騙して飲酒させるのは、ハラスメントです。絶対にマネをしないでください。

 

 

「あまり感心はしませんけれども。ララさんは故郷では成人しているということなので、一応不問にしておきましょう」

 

サマーン星人の感覚でいうと、13歳のララは大人らしいので。

香久矢まどかも、一応目を瞑ってくれるようだ。

 

※日本に来た13歳の外国人に飲酒させるのもアウトです。絶対にマネをしないでください。

 

もっと御堅い御嬢様なのかと思われた香久矢まどかだが……案外、融通がきくところも持ち合わせているのかもしれない。

なおナユタの実年齢については特に突っ込まなかった。

どう見ても戸籍通りの年齢ではないが、戸籍上29歳ではあるので、誰も咎められる人間が居ないのである。

 

 

「ただ……量に関しては、一考の余地があると思いますよ?」

「ああ、うん……。それは、ちょっと反省してる……」

 

珍しく、ナユタは素直に反省した。

そんなナユタとまどかの見守る先には……。

 

 

「オヨオエッ……」

「ぎゃあああっ!!? 離して! 離してぇっ!!」

 

天にあまねくミルキーウェイを口から創造しているララの姿があった。

抱き着かれて逃げられない星奈ひかるの末路は、御察しである。

 

強く生きろ、ひかる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――みんなに、ロケットの修理を手伝って欲しいルン。

 

そんなこんなで。

みんなで流れ星を見ながら。

意地を張るのをやめたララが地球人たちに頼み事をしたため、翌土曜日にチームの面々はロケットに集ったのであった。

クラゲ型異星人のプルンスは食料生産系の機械工作に専念しているようなので、置いておくとして。

地球人とサマーン星人の計4名に対して、ロケットのAIが割り振った仕事内容は……。

 

 

『まどか様は、冷静沈着なリーダータイプです。修理計画をもとに作業を指示するリーダーとなってください』

「かしこまりました」

 

まぁ、これは正史通りである。

ここまでは問題ない。

 

 

『ひかる様は、身体能力の高いパワータイプですので、物を運んだりする力仕事の担当です』

「任せて!」

 

正史を知る者がいれば、この時点で嫌な予感を察していただろう。

本来の歴史なら、筋力オバケの天宮えれなが居るはずなのだが、今回集まったメンツの中だと星奈ひかるが最も運動神経に優れているのである。

まぁ、のちに逆立ちで走れるようになる星奈ひかるも、大概人間をやめているレベルの身体能力を持っているような気もするが。

 

 

『ナユタ様は、精密機器の扱いに優れるため、ロケット内部の配線及び機器の修理の担当です』

「おおっと、アタシが触っても良いの? ヤバい! テンション上がってきた! 世界が変わるぞコレは!」

「オヨっ!? それ私の仕事だと思ってたルン!?」

 

AIは、先日ナユタと二人きりで話す機会があったらしい。

そのため、ナユタが機械類に精通していることを察して、この配置にしたのだとか。

 

 

「それで、私は何をするルン……?」

「ララ様に最もふさわしい仕事は…………」

 

 

 

 

結果。

ララは雑巾やら箒やらでロケットの内外の掃除を担当することとなったのであった……。

ひかるから借りた割烹着と三角巾を装備した掃除婦サマーン星人の完成である。

不満そうな目をしながらも、ララはロケット周辺の掃除を始めた……。

 

 

「確かに、手伝って欲しいって私が言ったルン……。でも、何だか釈然としないルン……」

 

一番どうでもいい仕事を割り振られた気がする……。

AIの分析と仕事配置に異議を唱える気は無いが、何だか世の中の不条理を感じたララであった。

元々ララはスペースデブリの専門家なので、ある意味ゴミ関連のプロと言えなくもないのが、また何とも文句を言いづらい原因である。

後でまた大人の飲み物を作ってもらおうと、心に決めたのだった。

 

 

 

……一時間経過。

 

 

……二時間経過。

 

 

……三時間経過。

 

 

 

プリキュア3人娘は、流石に疲れてきたために休憩をとることとなった。

そんなにぶっ続けで働き続ければ、疲れて当然である。

そのはずなのだが……。

 

 

「うっひょー! なるほどなるほどっ! やっぱりサマーン星凄すぎっしょーっ! AIちゃん、もっともっと、しっぽりじっくり教えてよグヘヘーッ!!」

『申し訳ありません。私には、地球人のスベリ芸に対して適切な罵倒を返す機能は、備わっておりません』

 

「辛辣ゥーっ!」

 

アイツだけ、何であんなに元気なの?

ロケットの外で休憩している3人まで聞こえるような、ハイテンションな声だ。

内部から漏れ出している危険な声に、ララは頭が痛くなった。

 

呆れかえっているララは、まどかと目があった。

まどかは首を横に振って無言で答えを返した。

やっぱり地球人の中でもアイツだけおかしいようだ。

 

 

「ナユタちゃんは、前からそうだよ。機械が大好き過ぎて、気が付いたら徹夜してたなんてこともザラだって」

「春日部さん、普段は余裕綽々といった態度なのに……意外な顔ですね」

 

普段は、人を食ったような胡散臭い笑顔を振りまきつつ、話術で人を操ることに長けている様子なのに。

えらく落差の大きい二面性である。

趣味に没頭している時のナユタは……なんというか、どことなく星奈ひかるの同族を思わせる。

 

そう思って、ララが星奈ひかるの方へと目を向けると……ひかるは、切り株に座り込んで、手帳に何かを書きこんでいるようだった。

まどかとララが後ろから覗き込んでみると、ひかるが書いているものはロケットの外装デザイン案だった。

メインカラーをピンクにして、キラキラ星の意匠を取り入れた新デザインだ。

 

外装の大幅な改変を行うのならば、当然作業の総量だって増えるのは確定的と言える。

作業の総量が増えれば、完成が遅れるのは目に見えていた。

AIだって、きっと余計な作業を増やすことには賛成しないだろう。

それでも。

 

 

――ロケット修理の最短ルートを蹴ってでも、他ならぬララ自身が決めた道だ。意地張って何が悪いよー?

 

可愛くて、魅力的だと思った。

ひかるとまどかが目を輝かせながらデザインを練っているロケットに、ララも乗りたいと思ってしまった。

誰かが、見えない手でララの背中を押してくれた気がした。

 

 

「良いと思うルン! 私達のロケットを、みんなが楽しい所にしたいルン!」

「やったー! キラやばーっ☆」

「素敵です」

 

ありがとう、なんて心の中でララは呟いた。

一緒にロケットの外で働いて、休憩している二人にも。

そして……ララの小さな意地を肯定してくれた、ロケットの中で働き続けている暖かな人にも。

 

 

「ナユタにも、付けたい装飾が無いか聞いてくるルン!」

「待って待って待って! そんなことしたらロケットにドリルが付くから! ナユタちゃんだけは放っておこう!」

「春日部さんはロケットに乗っているだけで楽しそうなので、気にしなくて良いと思います」

 

「オヨ……」

 

時々ナユタの笑顔が邪悪に見えるせいで損をしているのではないか、なんて思ったララであった。

 

 

 

 

 

そんなこんなで。

ロケット修理の邪魔をしにきたノットレイダーを拳で迎撃して獅子座のカラーペンをゲットしたりしながら。

無事に、ロケットの修理は完了したのであった。

翌日の朝8時に集合する約束をしつつ、一同は解散することとなった。

明日から……ついに、宇宙を駆ける冒険が幕をあける!!

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ? 何か変な気がするんだけどなー? キュアソレイユって一体いつ加入すんの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・今回のNG大賞

ド変態「AIちゃん! アタシのものになってもらうのが無理なら、せめて子供(子機)だけでも作ってよー!」
オヨルン「なんだかダメな大人みたいな事言ってるルン……」
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