ケンネル星から地球への、帰路の途中で。
ロケットのトイレから出てきた春日部ナユタを、香久矢まどかは呼び止めていた。
「春日部さん……どこか、無理をしていませんでしたか?」
「いやー、実はトイレを我慢してたんだよね。……って、騙されてくれる顔じゃーないね、コレは」
降参降参、なんて両手を上げる素振りを見せながら。
ナユタは力無く笑っていた。
まどかの印象では、ロケットに戻ってくるまでの間、ナユタに不審な点はなかった。
たまたま、ロケット内のトイレの近くで不審な音を聞いて、出待ちしてしまったのだ。
「一つの星が、アタシのせいで滅んだらって想像しちゃってさ。……結構、クるものがあるね。おかげで、胃の中は空っぽだよ」
――ドギー君たちケンネル星人が、ノットレイダーに母星を滅ぼされることを承知のうえで『聖なる骨』を手放さないという凄絶な決断をするというのなら、それを尊重すべきだと思う。
相手に選ばせているようで、実質選択肢など無いようなものだったが。
それでも、ドギーたちがペンを渡さない選択をする可能性はゼロでは無かった。
ともすれば、ケンネル星人たちの間でも意見が割れて、血で血を洗う争いが勃発するなんて未来も有り得た。
まどかは、思った。
ケンネル星人たちに選ばせるような言い方をしたのは……ナユタ自身の、心を守るためだろう。
万が一の事態が起こってしまった時に、自身のせいで星が滅んだのだと思ってしまったら、きっとナユタの心が壊れてしまう。
ケンネル星人が選んだことにすれば、ナユタ自身のせいではない、という心の防壁を申し訳程度に構築出来るのだ。
そして同時に、疑問にも感じた。
一つの星が滅亡する未来を、明確な想像力を伴って観ることが出来る春日部ナユタは……いったい、今までの人生で何を見てきたのだろうか、と。
国や町や村といったコミュニティが滅ぼされる光景を、見たことがあるのかもしれない。
春日部ナユタという人間の歩んできた道を、香久矢まどかは推し量ることなど出来なかった。
「一人で背負わないでください……と言っても、春日部さんは聞かないのでしょうね」
「一人でって……。これでも、結構みんなには頼ってるよ? 何よりアタシは変身できないからね」
事前のプランだと、まどかが変身できることを驚いてもらうハズだったのだが。
そんな遊び心を通せる状況では無かった、と香久矢まどかは少しだけ反省していたりして。
「わたくしは……」
まどかは、守りたいと思った。
何でも見通しているかのように笑うくせに、案外不器用な女を。
最悪の未来まで見通してしまっているが故に、心を押しつぶされそうになっている、弱い友達を。
「わたくしは、春日部さんが仲間に誘ってくれて、嬉しく思いました。そんな貴女を、大切に思っています。だから……貴女の不安を、半分で良いのでわたくしにも背負わせてください」
「ははっ。そういうの、言う相手は選んだ方が良いよ。プロポーズかと思われるし。……アタシも、今のは正直嬉しかった。覚えとくよ」
きっと……春日部ナユタは無理をしてしまうだろう、と香久矢まどかは確信していた。
更に言うならば、おそらくプリキュアの変身者の条件にも関係する事柄だ。
まどかが変身できたのは……おそらく、イメージの明確性によるところが大きい。
地球を守らなければと力んでいた時には、守るべき存在のイメージが明確になっていなかったので、変身できなかった。
だが、フワたちと一日過ごして、この仲間たちが愛おしいと思うようになってから、守りたい対象のイメージが明確となって変身が出来るようになったのだ。
まどかの読みでは、おそらくナユタもプリキュアへの変身条件に薄々気付いている。
だからこそ、役割分担が必要だと春日部ナユタも考えているのだろう。
プリキュア達は近くの者たちを注視して『守りたい対象』のイメージを常に明確にしておく必要があり、大局を見通す役割はプリキュアでない者が演じるべきだ、と。
なお、当の春日部ナユタはプリキュア変身者の条件云々はそこまで分かっていなかったりする……。
自分のせいで星が滅びるかもしれない、というストレスを感じているのは本当だが……。
『あくいのオトモダチ』
第5話:あたしも、守りたいものが沢山あるんだ
ケンネル星に行った翌日。
ひかるは、どこか上の空で観星中の授業を聞き流してしまっていた。
気付けば、放課後だった。
商店街の大通りを、ひかるは一人で歩いた。
一人での登下校をするのは、いつも通りのハズなのに。
不思議と、周囲の喧噪が遠く感じた。
こういう時は、遼爺のところへ行くことが多いひかるだったが……今日は天文台へ行く気はしなかった。
天文台に住むナユタに会ってしまったら、何となく気まずいと思った。
商店街の広場に配置された噴水の縁に座って。
何をするでもなく……ひかるは、往来の人々を眺めていた。
「チャオ? 大丈夫? 何だか思い詰めてるみたいだけど……?」
「わわわっ!? 天宮先輩っ!?」
不意打ち気味に話しかけられて。
ひかるは、飛び上がって驚いた。
――誰か、笑顔が素敵な人は居ないかなー?
まさに先日ウワサの種になった当人が、目の前に居たのだ。
観星中学の3年生、天宮えれな先輩に突然話しかけられ、思わず立ち上がろうとしてしまった星奈ひかるは……額同士で、天宮先輩と衝突してしまった。
しかも、噴水の縁に座っていたのが災いして、事故の余波でひかるはそのまま噴水に頭から突っ込んでしまった。
水上に両脚だけを残して、まるでどこかの犬神家みたいな愉快なことになっている!!
「がぼがぼっ!!?」
「落ち着いて! その噴水意外と深いから、落ち着かないと本当に死ぬよ!?」
水を飲んでパニックに陥った星奈ひかるの両脚を掴み、天宮えれなは力尽くで噴水から引き上げた。
この時点で既に筋力がおかしい。
ずぶ濡れになったひかるを抱えて、えれなは生家であるソンリッサへ連れ込んだ。
どうやら、商店街の噴水の近くに、えれなの家があった模様。
家へと濡れ鼠を連行した天宮えれなは、手慣れた調子で星奈ひかるの身包みを剥ぎ取り、まとめて洗濯機へと放り込んだ。
観星中学の制服が家庭で洗濯できるタイプで本当に良かった……なんていうのは、ともかく。
ひかるは、ソンリッサの店名と大輪の花が描かれたTシャツを頭から被せられ、髪にドライヤーの温風を吹き込まれた。
裸にTシャツだけと書くと字面では危険な香りがするが、かなりの巨漢である店主カルロスが普段使いしているサイズを選んだため、その3XLサイズのTシャツを星奈ひかるの体格で羽織れば、実質太もも丈のワンピースぐらいの感覚である。
首の太さが全く違うため、ひかるの肩甲骨や背中が割と外気に晒されているが……まぁキュアスターになるときと似たような露出度なので、気にする程でも無いのかもしれない。
「何から何まで、本当にありがとうございます……」
「良いって。驚かせちゃったあたしも悪いし。こっちこそ、ゴメンね」
ひかるは、改めて目の前の人物のプロフィールを頭の中に思い起こしていた。
観星中のスクールカースト最上位に居る一人、天宮えれな先輩だ。
特定の運動部に籍を置いている訳では無いものの、その類稀なる身体能力を買われて助っ人の依頼が後を絶たない、そんな人気者である。
ギークな星奈ひかるとは、縁も所縁も無い殿上人だった。
もちろん、ひかるは当人と話をするのさえ初めてである。
済まなそうに笑う様も絵になる、まさに観星中の太陽と評されるに相応しい人物だ。
陽気なメキシコ人の父親に似たのかもしれない。
「さっきは、何か思い詰めてたよね。洗濯はもう少し時間がかかりそうだし……よかったら、話していかない?」
「それは……。自分でも、なんでモヤモヤしてるのか分からなくて、何が言いたいのか全然分からない話になっちゃうと思うんですけど……」
確かに、洗濯機は空気を読んで轟音を立てているし、世間話をするには誂え向きのタイミングである。
しかし、ひかるは尻込みしていた。
自分でも何故曇っているのか分からないうえに、初対面に近い超人気者の先輩に、要領を得ない話を延々としても良いのだろうか。
「悩み事って、そういうものじゃない? 問題点と解決方法が分かってたら悩まないだろうし、それが分からないから悩み事なんでしょ?」
「そうかも……?」
言われてみれば、その通りである。
人に話すことで、考えがまとまることだってあるのかもしれない。
ぽつり、ぽつり、と。
ひかるは、話を始めた。
最初は父親ゆずりの趣味で、星を見たり不思議な生物を探したりしているだけで楽しかったこと。
行きつけの天文台にいつの間にか住み着いていたナユタと、知り合ったこと。
宇宙人のララを発見して、友達になって、一緒にプリキュアを始めたこと。
ララと喧嘩した時は苦しくて悲して、でも仲直りした時には、やっぱり嬉しかったこと。
生徒会長の香久矢まどかにロケットの存在がバレて、でも味方になってくれたこと。
ケンネル星で、ララがナユタと手を繋いで信頼と安心の目を向けているのを見て、心がトゲトゲしたこと。
春日部ナユタと香久矢まどかが詐欺スレスレの話術で12星座のペンを入手したのを目の当たりにして、モヤモヤしたこと。
荒唐無稽と言われてもおかしくない一連の話を。
天宮えれなは、相槌を挟みつつ、最後まで聞いてくれた。
ようやく事情の説明を終えた二人の間に、しばしの沈黙が流れた。
洗濯機の音が、少しだけ大きく聞こえた。
一応、途中でトゥインクルブックの中に隠していた妖精フワを出現させたので、地球外生物が居るという証明にはなっただろうが。
バラバラの星をつないで星座を作るように、ひかるのモヤモヤの正体が判明するかと思いきや……?
「話してて、余計に分からなくなってきたかも……。悩みが一つの星座みたいに纏まるかと思ったのに、別にそんな事なかった……」
「別々の花を一つの花束みたいに考えるから、分からなくなるのかもね?」
頭を抱えてしまった星奈ひかるだったが。
天宮えれなの言葉を聞いて、思い当たる節があった。
一つの大きな星座としての見方とは別に、小さな複数の星座として数えられる星々に、ひかるは心当たりがあるのだ。
「それって……アルゴ座じゃなくて、竜骨座・帆座・艫座・羅針盤座の4つの星座として見れば良いってことですよね!」
「うん……うん? ごめん何言ってるか分かんない」
ひかるは、思考が一歩先へ進んだのを感じた。
困惑している天宮えれなをよそに。
悩み事の糸を、ひかるは少しずつ解きほぐしてみた。
――アレは、ノットレイダーという迷惑な連中を引き寄せる、厄ネタなんだ。
まどかとナユタの詐欺まがいの交渉で12星座のペンを入手したのは、ひかるは納得がいかない。
嘘は言っていなかったが、相手を騙しているとは思った。
ひかるとしては、倫理観のグレーゾーンに位置する行為だと感じた。
だが一応黒ではないともいえるので、今は様子を見た方が良いのかもしれない。
本当にナユタが道を踏み外したら、その時に引き留めれば良いし、そうならないと信じたいところだ。
――ナユタも、ひかるの次ぐらいに楽しそうルン。
だが、ララの方はどうだろうか。
ララの全幅の信頼がナユタへ向いていると、何故心が痛むのか。
二人が手を繋いでいる姿を見ていると、心がザワつくのは……どうして?
こちらの問題は、ひかるが頭を悩ませても、答えは出てこなかった。
「あたしは、何となくその気持ちは分かる気がする……かな」
天宮えれなは、今でこそ6人兄弟の長子だが。
5歳の頃に長男が生まれるまでは、一人っ子だったのだとか。
それまで自分一人に注がれてきた愛情が、別の誰かに注がれている。
その状況に……正直、当時のえれなは心穏やかでは居られなかったのだという。
「今なら、弟たちには手がかかるのも、パパやママがあたしを愛してくれてるのも分かってるけど。当時はそうじゃなかったよ、やっぱり」
「天宮先輩でも、そういう気持ちになることってあるんですね……」
ひかるは、えれなの湿っぽい顔が意外に思えた。
太陽のように素敵な笑顔だと評判で、いつも陽気に見える天宮えれなが、暗い感情を垣間見せている。
嫉妬心だったり、独占欲だったり、不安だったり。
そんな悪い意味で人間らしい感情を、目の前の天宮えれなは吐露しているのだ。
「幻滅した?」
「そ、そんなこと、全然! それより天宮先輩は、どうやってその時の暗い気持ちを克服したんですか?」
ひかるは、思った。
天宮えれなは、ただ単に底抜けに明るいだけの人物ではない。
人並みに落ち込んで、暗い気分にもなって、それでも笑える人間なのだ。
強がりと言ってしまえばそれまでだが……ひかるには、どこかその姿が眩しく思えた。
「それはね……あれ? うーん、何でだっけ……? ちょっと待って。…………ごめん。覚えてないや」
「ええええっ!? ここまで思わせぶりに話してきたのに!?」
ごめんごめん、なんて軽々しく笑う天宮えれなの姿に、ひかるも思わず釣られて笑顔が零れてしまっていて。
まぁ9年前の詳細な記憶なんて残ってないよね、なんて言い分にも納得してしまって。
まだ解決していない問題もあるのに、少しだけ心が軽くなったように思ってしまった。
「でもね。今のあたしは、パパもママも、弟たちのことも大好きだよ。それで十分だと思ってる。ひかるは、どう?」
「私の、気持ち……?」
ひかるは、改めて自分の気持ちを振り返ってみた。
ララのことが、好きだ。
ちょっと怒りっぽいけど、プルンスやフワを見捨てずに命を張って守っていたララを、ひかるは助けたいと思った。
香久矢まどかのことが、好きだ。
完璧超人な生徒会長かと思いきや、意外と融通がきいて、ロケットの外装を変える時だって一緒に可愛いデザインを考えてくれた。
春日部ナユタのことが、好きだ。
胡散臭い秘密主義者だけど、機械を弄るときにはキラキラしているし、星空を見上げる時に優しい目をしているから、悪い子ではない。
プルンスのことが、好きだ。
クラゲ型異星人のプルンスと、あまり絡みがあった訳では無いが、命をかけてフワを守ってきたプルンスは立派な人だ。
フワのことが、好きだ。
まだ知恵は発展途中で舌足らずだが、可愛らしいし、ひかる達にもよく懐いてくれる。
「そっか。私って……こんなに、みんなの事、大好きになってたんだ」
ひかるは、目の前が明るくなったような気がした。
嫉妬心も独占欲も消えたわけではないが、不安は無くなった。
ララたちの事が大好きだと再認識できただけでも、気持ちは上向いたように思えた。
それに。
……また一つ、大好きが増えた。
天宮えれなは、今日という日を忘れないだろう。
天宮家で経営している花屋の目と鼻の先にある噴水に、辛気臭い顔をしている女の子を見つけて。
事故気味に噴水に落ちてしまったその子を、介抱してやって。
ついでに悩みを聞き出してみたら、宇宙人や生徒会長と一緒に宇宙旅行をして宇宙の平和を守っているなんて言い始めたのだ。
お前は何を言っているんだ、という趣旨のツッコミが何度か喉まで上がってきていたが。
あまりに真面目な顔で話すものだから、えれなはすっかりツッコミを入れるタイミングを逃してしまっていた。
あとアルゴザって何?
「ありがとうございました! 私、ロケットの皆のことも宇宙も、ぜんぶ大好きだって分かりました!」
さっきまで曇っていたのが嘘のような、晴れやかな笑顔を見せられて。
えれなは、この子に声をかけて良かった、と思えていた。
釣られて、頬が緩んだ。
ここで終わればイイ話だった。
「天宮先輩も、一緒にロケットに来てください! みんなに、紹介したいんです! 私が今日大好きになった、キラやばーな天宮先輩のこと!」
「え? きらやば? 今から?」
星奈ひかるに両手を握られて、思わず天宮えれなは怯んだ。
こんなにグイグイくる奴だったとは思わなかった。
さっきまで、しおらしい印象があったのだが、パワフルな方が素顔なのだろう。
と思ったら、えれなは手を引かれて、天宮家の玄関まで連れていかれた。
そこから、ひかるは靴を履いて天宮家を飛び出してしまった。
幸か不幸か、噴水に突っ込んだ時に犬神家スタイルだったため、靴は濡れずに無事だったのだ。
「とおま! ちょっと外出してくるから、そのまま暫く店番お願い!」
「えー……仕方ないかぁ……」
ぶつくさ言っている弟に店番の継続を頼みつつ、えれな自身も靴をはいて家を飛び出して。
天宮えれなは……ここでようやく、気付いちゃいけない事案に気付いていた。
さっき出て行った星奈ひかるの格好に関して。
Q:星奈ひかるの現在の装備品は?
A:靴、3XLソンリッサTシャツ、トゥインクルブック(計3種)
キラやば(ガチ)。
一応大切な部分は隠れていると言えなくもないが、間違っても外を走り回る格好ではない。
3XLサイズのTシャツの長さ的に、ひかるの太腿ぐらいまで丈があるとは言っても。
風が吹いたり段差を登ったりしたら大変なものが見える危険がある。
人生終了の危機フワー!
というかソンリッサの店名入りTシャツのせいで天宮家もヤバい。
バレたら間違いなく、天宮家の前にブラックとホワイトで塗られた車が来るだろう。
キュアキュアな正義感に満ちた人達が乗っているに違いない。
とんだ暴走特急だ。
えれなは、背中を冷たい汗でびっしり濡らしつつ、ひかるの後を追った。
だが、どうやって止めたら良いのだろう。
ひかるの肩を掴めば、身体能力の差があるので、おそらく暴走特急を停止させることが可能だろう。
しかし、肩甲骨や背中が割と見えている3XLサイズのTシャツを着ている女子を、街中で肩を掴んで止めたらどうなるだろうか。
引き留めた拍子に、上半身の見えちゃいけない部分が衆目に晒される危険が、割とある!
叫んで制止を呼び掛けることも考えた天宮えれなだったが、全速でないとはいえ走っている最中では大声は出しにくい。
というか、あんまり大声を出して注目を集めたら、ひかるの恰好がバレて色々マズい。
下手に足を止めさせるよりも、このまま商店街を抜けて山林に入った方が安全かもしれない。
なんて現実逃避をしながら、二人は市街地を無事(?)通過し、山道を駆けあがり始めた。
……だがしかし!
ここでプリキュア主人公の運命力が炸裂する!!
「ノットレイッ!」
「ノットレイッ!」
「ノットレイッ!」
「ノットレイッ!」
ノットレイダー戦闘員の団体さんと遭遇した!!
いや、なんでだよ!
よりによって、今日……このタイミングで会わなくても良いじゃん!
「あら、ようやく見つけたわ! スタープリンセスの力、今日こそ頂くわよ!」
「テンジョウ……!」
テンジョウ、と星奈ひかるから呼ばれた人物が、戦闘員たちを統べる指揮官的なポジションなのだろう。
えれなは、その指揮官をよく観察してみた。
真っ赤な水着のような際どい衣装を着て、ニーハイブーツと手袋を装備した女性だった。
顔の上半分を天狗に似た仮面で隠しているようだが……どう考えても、もっと他に隠すべき所あるだろ!
「……って、プリキュアのお嬢ちゃん、なんて格好をしてるの!? 破廉恥よ!?」
「えっ……ああっ!? しまったぁっ!!?」
お前が言うな。
えれなは、一周まわって冷静になった頭で、ツッコミを飲み込んだ。
間違っても、際どい赤水着を着ているテンジョウが言い放つべき一言ではない。
戦闘員ことノットレイの皆さんも、気まずそうに顔をひかると別の方向に向けたりしていた。意外と紳士である。
まぁ、走って少し汗をかいたからね……。
えれなからは、ひかるの背中しか見えないが……前から見たらどうなるのか、怖くて確認する勇気は無かった。
「天宮先輩! フワをお願い!」
「アッハイ」
トゥインクルブックと呼ばれる手帳から、妖精フワが出現した。
展開についていけない天宮えれなは、思考停止でフワを受け取った。
「スターカラーペンダント! カラーチャージ!」
星奈ひかるは、キメ顔でカラーペンを取り出し、ペンダントへと差し込んだ。
ひかるは、キュアスターへと変身を始めた。
「きらめくー♪ ほしのちからでー♪ …………あれ?」
……かに思われたが。
実際には星奈ひかるの手は、何かを掴むような動作を演じながら空ぶった。
あるべき物があるべき場所に無かった、と言わんばかりの渾身のパントマイムだった。
挙動から察するに、おそらく拳より少し大きいサイズの丸い物体が、ひかるの首元にヒモでぶら下がっているハズだったのだろう。
「うそっ!? どこっ!? 私のスターカラーペンダントっ!!?」
えれなは、自宅に居たときの違和感の元をようやく理解した。
洗濯機が妙に大きなガコガコという音を立てていたのは……そのスターカラーペンダントというヤツを服と一緒に洗濯したからだ。
自宅の洗濯機が壊れていないか心配になった。
「あのー、テンジョウさん? 実は私、今はプリンセススターカラーペンを持ってないんだけど、また明日ってわけには……?」
「それなら、ダークネスト様が欲しがっている『器』をいただくわ!」
戦闘員たちの視線が、一斉に天宮えれなの方へと向いた!
というか、正確には天宮えれなが抱きしめている妖精フワへと視線が集まったのだ。
洗濯機の心配してる場合じゃねえ!!
「ノットレイっ!」
「ノットレイっ!」
「ノットレイっ!」
戦闘員たちの注意を向けられて、えれなは後退った。
いくら天宮えれなが常人離れした身体能力をもっているとはいえ、流石に宇宙を股にかける悪の組織と戦えるはずもない。
何とか、逃亡する隙を作らなくては……!
「フワたちに手を出さないでっ!」
ひかるが、両手を大の字に広げて、戦闘員たちの前に立ちふさがった。
戦闘員たちは、露骨に挙動不審になって星奈ひかるから顔を反らし始めた。
挙動不審の理由は、3XLのTシャツを背中側から見ている天宮えれなからは分からない。分からないって言ったら分からないんだよ。
「プリキュアのお嬢ちゃん……。いかがわしい店の名前が入った、その服を見れば分かるよ。食うに困っているんなら、『器』を渡して投降すれば、お腹一杯食べさせてあげるよ……?」
女幹部テンジョウが、ひかるの説得を始めた。
仮面の下に見える口元の動きだけで、ひかるを本気で不憫がっているのが読み取れた。
いやまぁ、ひかるの今の恰好を見たら、そう言いたくなる気持ちも分かるけどさぁ!
ソンリッサは、そういう店じゃないんだけど!
自分に注意が向いたら困るので、えれなは必死にツッコミを飲み込んだ。
「ソンリッサは、いかがわしい店なんかじゃないよ!」
そうだよ!
もっと言ってやって!
手に汗を握りつつ、天宮えれなは声に出さずに心の中だけで星奈ひかるを応援した。
「可愛いお花を売って、お客さんを笑顔にする素敵なお店だよ! この天宮先輩みたいに!」
「ノットレイ……っ!」
「ノットレイ……っ!」
「ノットレイ……っ!」
戦闘員たちが、マスクの下ですすり泣く音が聞こえた気がした。
星奈ひかるは、『花を売る』という言葉の隠語としての意味を知らずに言っていそうなのが、また性質が悪い。
おいやめろ!
文脈的にソンリッサが『そういう店』にしか聞こえなくなっただろ!!
×:天宮先輩みたいに可愛いお花
〇:天宮先輩みたいにお客さんを笑顔にする
「ねぇ、フワ。あたしも、守りたいものが沢山あるんだ」
こうなったら、イチかバチかである。
ひかるが戦う力を分けてもらったという妖精フワに、期待するしかない。
実際、今の天宮えれなには、守りたいと思うものがいくつもあった。
星奈ひかるは基本的には素直な良い子だし、好感度は高い。頭のネジの緩さはヘボット級かもしれないけど。
妖精フワは可愛らしいし、この子が悪の組織に連れ去られたらと思うと心が痛む。
そして何より、家族と店の名誉を守りたい。(超重要)
「だからさ……あたしにも、戦う力を分けてよ」
「フーっ、ワーっ!!」
えれなの迫真の想いが届いたのか。
妖精フワの身体から光が溢れ出し、天宮えれなの手元にペンダントとカラーペンが出現した。
「スターカラーペンダント! カラーチャージ!!」
先程ひかるがやって見せたパントマイムと同じ要領で、天宮えれなはカラーペンをペンダントへと差し込んだ。
――きらめく 星の力で
――あこがれの ワタシ描くよ
「宇宙を照らす灼熱のきらめき! キュアソレイユ!」
「おおおっ! キュアソレイユ、キラやばーっ☆!」
歌声とともに。
黄をメインカラーにした、新たなプリキュアが誕生した。
御約束の名乗りを終えたソレイユは、すぐさま自身の装備を確認した。
黄色とオレンジが斜めに混ざり合ったドレスは、膝のあたりまで伸びている。
目視で確認した訳では無いが、股下の感触としては多分スカートの中はレースで一杯だ。
首元がやや開放的であるものの、見た目的な意味での防御力は今の星奈ひかるやテンジョウに比べたら遥かに高い。
キュアソレイユは、安堵の息を深く吐いた。
露出系コスじゃなくて本当に良かった。
「ひかるは、このままロケットまで走って! 間違っても、その格好で町の方に戻っちゃダメだよ!」
「分かりました! 行くよ、フワ!」
「フーワー!」
とりあえず、家族と店の名誉を守ることには成功した訳だが。
果たして、身体的なスペックでは戦闘員の皆さんを相手に無双できるのだろうか。
「はぁっ!!」
戦闘員の群れへと踏み込んだキュアソレイユは、渾身の跳び蹴りで先頭の一人を弾き飛ばした。
その戦闘員の後ろに居た者も、ついでに巻き込まれてノビてしまっていた。
ピクピクと動いているので死んでいる訳では無いようだが、全力の攻撃がヒットすれば基本的に一撃KOと見てよさそうだ。
……なんだか、戦闘員たちの士気が全体的に低いような気がした。
さっきの、花が云々という話で、しんみりした雰囲気に浸ったからかもしれない。
ソンリッサに関する誤解を解いておきたい、とソレイユは思った。
だが、その誤解が解けた結果として、戦闘員たちの士気が戻ったらそれはそれで面倒だ……。
結局、ソレイユは誤解を解くタイミングを逃してしまって。
戦闘員たちが半分程度倒れたところでテンジョウが撤退の判断をしたため、キュアソレイユの初陣は勝利に終わったのであった。
「誤解、とけなかったなぁ。まぁ、次こそは……」
そう言いかけて、キュアソレイユは気付いた。
あの暴走特急や宇宙人たちに再び会うのを前提に、自分自身が考えているということに。
まだ星奈ひかるの仲間たちを紹介してもらった訳でもないのに、いつの間にかプリキュアを続けるのが確定しているみたいに考えてしまっている。
そんな自分自身の思考に気付いて……ソレイユは、思わず口元に笑みが零れた。
暴走特急の星奈ひかるは危なっかしかったが、一緒に居て楽しい子で。
宇宙人や生徒会長もそういった星奈ひかるの人柄に惹かれたのかなぁ、なんて思ったソレイユであった……。
・今回のNG大賞
ひかるの制服が、洗濯機の中でグルグル回って……。
ノーパン女子「あっ! ポケットの中にトゥインクルブック入れっぱなし! フワがああっ!!?」
洗濯機の主「フーワー……!」(憤怒)
※この後、洗濯機の中にフワープさせられてメチャクチャ回された。