あくいのオトモダチ   作:カードは慎重に選ぶ男

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第7話:大好きだったよ

「サザンクロスが見たい!」

 

そんな星奈ひかるのハイテンションに引きずられて。

スタプリチームは、ロケットを飛ばして宇宙までやってきたのであった。

 

だが、しかし。

 

 

「ううーん……? サザンクロス、どれ……?」

「宇宙は星が見えすぎるでプルンスからなぁ」

 

ロケットの窓から見ても、ひかるはサザンクロスを判別できなかった模様。

プルンスの言う通り、一度宇宙に出てしまえば、地球上からは見えなかった星も大量に見えるようになるのだ。

星が多すぎて、どこにサザンクロスがあるのか見当もつかない。

 

 

「まー、落ち着きなよー? まずは方角から考えてみよう」

「方角……なるほど。南の方向を探せば良いという訳ですね」

「宇宙って方位磁針は使えないよね……?」

「話に全くついていけないルン……」

 

頭脳担当のナユタとまどかが頷きあっているのを見て、えれなが常識的なツッコミを入れていたりして。

地球で一般に言われるところの「方角」というのは、あくまで地球の外周部での現在地と北極点(南極点)との関係を示すものだ。

なお厳密には、北極点として定義されている点と、地磁気から算出される磁北極は異なっていたりするのだが、それはさておき。

2桁の計算が怪しいレベルのオヨルン星人にとっては、地学の知識が前提の会話は大分ハードルが高いのかもしれない……。

 

 

「視点を変えれば世界が変わるよ。ひかるちゃん、いわゆる方角というヤツを宇宙空間で知るには、どうしたら良いかなー?」

「ええっと、うーん……そうだ! 地球を見れば良いんだね!」

「それは私もなんとなく分かる気がするルン。……気がするルン」

 

地球の様子を見て、南極がある方が南である。

すなわち、その延長線上にサザンクロスがあるはずだ。

ロケットの窓から地球の様子を見た星奈ひかるは、すぐさまロケットの向きを少し変えるように指示をだしていた。

好きなことになると、本当に頭の回転が速くなるギークである。

なお、オヨルンは頭を抱えている!

 

 

「っていうことは、あれがサザンクロス! キラやばーっ!!」

 

両手の親指と人差し指でカメラのシャッター窓を作るみたいな動きを見せながら。

星奈ひかるは、目を輝かせながら、しばらくサザンクロスを眺めていた。

トゥインクルブックを開き、ひかるは一心不乱に星座のスケッチを始めた!

 

 

 

「地球人おかしいルン……。AIに聞かずに全部自分で覚えてるルン……??」

 

一方、しおしおになっているオヨルン星人の姿が……。

サマーン星では分からないことはAIに聞くのが基本なので、あまり意識して記憶しようとは思わないらしい。

まぁ、文明が発達していくと、そうなるのは必然なのかもしれないが。

 

 

「ララ。あの3人が本気で理系トークを始めたら多分あたしも付いていけないだろうし、あんまり気にしない方が良いよ?」

 

天宮えれなは、そっとララの肩に手を置いて慰めてやっていた……。

えれなとて同年代の中学生たちと比べれば賢い部類に入るはずなのだが、ひかる達が比較対象として不適切なのである……。

 

完璧超人の通り名で呼ばれる香久矢まどか。

人生のほとんどを趣味に費やしてきた宇宙オタクの星奈ひかる。

一人の科学者としてサマーン星人以上の腕前でロケット修理ができる春日部ナユタ。

この3人が色々な意味でおかしいのだ。

 

 

そんな愉快なチームの面々を乗せて。

 

 

「フーっ、ワーっ!」

 

 

ロケットは、ワームホールへと突入した。

せっかくチームのメンバーが揃っているのだから、12星座のペンの探索に向かうのは必然なのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あくいのオトモダチ』

第7話:大好きだったよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星奈ひかる御一行が到着したのは……クマリン星という惑星であった。

地表のあらゆるところが透明感のある鉱石で覆われた、美しい星である。

そして、ロケットから出たひかる達を、2Gの洗礼が待ち構えていた。

地球の2倍の重力を前に、ひかる達は歩くのが精一杯の様子であった。

 

 

「これも、宇宙あるあるルン……!」

 

貧弱なサマーン星人のララは、露骨にキツそうである。

筋力高めの星奈ひかると天宮えれなは割と平気そうだ。

香久矢まどかは、ギリギリなんとかなっているといったところか、

 

 

「むむ……。これは、アタシは留守番かなー」

「堅実な判断ではありますけれど、本当に宜しいのですか?」

 

ナユタは、冷静に判断を下した。

この星の環境では、ナユタは外出するべきではない。

もちろん身体の負荷が2倍になるのも問題だが、それだけではないのだ。

 

 

「やっぱり、いざって時に逃げられないのはキツいよ。40キロの重りを付けてるのと一緒だからね。みんなは変身すれば良いけどさ」

 

 

参考までに……。

和式具足:20キロぐらい

西洋甲冑:40キロぐらい

シャンゼリオン:100キロぐらい

ゴジラ:150キロぐらい

 

この手の特殊装備は、訓練を積んだプロだから使いこなせるのである。

というかプロでも偶に事故を起こして大怪我を負うことがある。

人間は意外と脆いので、いのちは大切に。

 

 

「じゃあ、行ってくるね、ナユタちゃん! ……よっこいしょ!」

「いや、変身して行けば良いんじゃーない?」

 

至極まっとうなツッコミを受けて、4人はプリキュアへと変身して探索に出かけて行った。

重力2倍が判明した時点で変身しようよ。

汚部屋掃除のために変身した大先輩は色々な意味でレジェンド過ぎるが、変身してプリクラを撮りに行った先輩達とかも居るし、探索のための変身なら全然アリっしょ……。

ナユタは、額の汗をぬぐいつつ、1Gの快適なロケットの中へと戻った。

 

予期せず一人の時間が出来たことだし、ロケットの個室で秘密の研究の続きでもするか。

そう考えて、ナユタはロケットの個室へ籠った。

……籠ろうとした。

 

 

「うん? アレ? どこ行った……?」

 

なんと、とっておきの秘密兵器が見当たらないではありませんか!

収納棚に入れておいたはずの秘密兵器が、忽然と消えている!

 

 

――ナユタちゃん? 何作ってるの?

――ちょっと秘密兵器をねー。まだ試作段階なんだけどさー。

 

「あいつ……っ!」

 

ナユタが記憶をたどってみた限りだと、あの秘密兵器の存在を知っているのは星奈ひかるだけだ。

ヤベーイ!

 

ナユタは慌ててロケットの外に駆け出した。

だが、わずか2メートル進んで力尽きた。

2Gつらい。マジムリ。

変身して探索に挑んでいるであろうプリキュア達の背中は、既にどこにも見当たらなかった。

 

人体に有害な成分を、あの秘密兵器の素材に使用しているのだ。

使い方次第では身を亡ぼすこともあり得る。

ナユタは、ひーこら言いながらロケットへと戻った。

 

 

「AIちゃん! ララに通信を繋げて!」

『繋ぎます。……ララ様は現在、通信機をマナーモードにしていると思われます』

 

イラッ☆

とりあえず文面データで注意事項を送ったナユタさんであった。

例の秘密兵器の使用を極力控えるように、そして万が一に使用する場合でも制作者の意図した使い方以外はしないように。

あと、5分おきにララへの連絡をするようにAIへと頼んでおくのも忘れない。

 

嫌な予感しかしねぇ。

絶対に使うなって言った時に限ってトランザムしちゃうみたいな。

使うなよ、使うなよ、絶対に使うなよ!(ダチョウ感)

 

 

(……考えすぎか。弱気になってのかな、アタシ)

 

そんなに心配しなくても、ひかる達は宇宙を救うプリキュアなのだから、そう簡単に死んだりしないだろう。

地球人に入れ込み過ぎるな、なんてララに言ったくせに、ナユタ自身も大分ひかる達のことを好きになってしまっていたのかもしれない。

 

実はこのとき、ナユタにはもう一つ選択肢があった。

ロケットのAIに頼んで、ララのところまで飛んでもらうという最善手があったのである。

 

 

(あんまり気を張り過ぎても、もたないしなー。まだ12星座のペンも4本だし、そうそうプリキュア壊滅の危機なんて来ないっしょー)

 

ベタベタなフラグを内心で立てつつ。

ナユタは、談話室の長椅子で連絡の返信を待ちつつ、プルンスタードーナツ製造機を起動した。

プリキュア達が無事に帰ってきたときに、ねぎらいのドーナツを振舞ってやるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのころプリキュア達はといえば……?

 

 

「今日の私は一味違うぞッ! ダークネスト様に頂いた力を、とくと味わってもらうッ!」

 

こんな時に限って、ノットレイダーの団体さんに襲われていたりする。

8頭身の河童ことカッパードは、格好良い男の謎ポージングを交えつつ、長刀のような形状のビームサーベルを振るっていた。

際どい水着に天狗仮面着用の女幹部テンジョウは、ヤツデの葉のような形状の扇を振るって暴風を繰り出し、カッパードや戦闘員たちをサポートしていた。

どちらも普段以上のパワーを見せており、戦闘員たちも少なからず全体的にパワーアップしているようだった。

 

 

「カッパード、テンジョウ! カラーペン見つけたっつーの! ケヒヒっ!」

 

しかも、ノットレイダーの別動隊が12星座のプリンセスの力を先に確保してしまったようだ。

戦闘向きでは無さそうな一つ目の少女……アイワーンが、カッパードたちを陽動としてカラーペンを探していたらしい。

 

星奈ひかるもといキュアスターが見る限りで、状況はかなり悪い。

2倍の重力に最適化されたクマリン星は、その辺りの岩でもかなりの硬度を誇るはずなのに……カッパード達はそれを軽々と砕いているのだ。

 

 

「行きなさい、駒ちゃんたち!!」

「ノットレイッ!」「くぅっ……!」

「ノットレイッ!」「きゃあっ!?」

 

 

遠くで、ソレイユとセレーネが苦戦している声が聞こえてくる。

戦闘員の指揮に長けているテンジョウが、畳みかけるようにソレイユとセレーネを攻撃しているのだ。

このままでは、マズい。

 

 

「プリキュア・牡牛座・スターパンチっ!!」

 

スターは、牡牛座のペンで星を描いて身体に力を取り込み、カッパードへと殴り掛かった。

文字通り、渾身の一撃だった。

 

 

「甘いわッ!」

「そんなっ……!」

 

そんなスターの拳は、カッパードへと届くことは無かった。

振りかぶった左手を掴まれて、胴に反撃の回し蹴りを叩き込まれてしまった。

しかも、牡牛座のカラーペンまで奪われてしまっていて。

幸いにして変身解除にまでは至っていないが、それも時間の問題に思われた。

 

 

「プリキュア・獅子座・ミルキーショックっ!」

「効かんと言っているっ!」

 

ララが変身しているキュアミルキーが、獅子座のペンで出力を上乗せしながら電撃を繰り出していた。

だが……あろうことか、カッパードは電撃を正面から突破した。

基礎的な攻防力の差が、如実に表れてしまっていた。

 

 

「ふん! 脆弱なサマーン星人ごとき、宇宙の片隅で環境の厳しさに耐え続けた我々には敵わないのが道理というものっ!」

「ル、ルン……!」

 

ミルキーは身体中にビームサーベルの攻撃を受け、首を掴まれて持ち上げられてしまっていた。

脚をバタつかせて、必死にカッパードの握力から逃れようとしているミルキーの姿は……スターに『無駄な抵抗』という言葉を連想させた。

カッパードが、右手のビームサーベルを握りなおした。

 

 

――ちょっと秘密兵器をねー。まだ試作段階なんだけどさー。

 

キュアスターは、懐から灰色のカラーペンを取り出していた。

春日部ナユタが用意していた、秘密兵器だ。

天秤座のカラーペンを入手した後に、12星座のプリンセスの所に皆で一緒に行った際、ブランクペンを何本か貰って改造したらしい。

なんでも、ネビュラガスとかいう良く分からない成分をベースにしているのだとか。

 

 

――12星座のカラーペンみたいに、一時的なドーピングアイテムとして使うのを想定してるよ。

 

 

「さらばだ、キュアミルキーっ!」

「ララを、離してっ!!」

 

今にも最後の一撃を浴びせられようとしているキュアミルキーを目の当たりにして。

キュアスターは、灰色のペンで星を描いた。

灰色のエネルギーがキュアスターの身体へと注ぎ込まれた。

 

 

「プリキュア・ネビュラ・スターパンチっ!!」

「がはあっ!!?」

 

いつもは、黄色の奇麗な光を放っているはずのスターパンチが。

灰色にくすんだ光を纏って、いつもより強いはずのカッパードを弾き飛ばしていた。

カッパードは、水晶のように透き通った岩場へと背中から叩きつけられた。

 

 

「げほっ! げほっ……!」

「ミルキー、だいじょ……」

 

つい一瞬前まで首を掴まれていたミルキーが、激しく咳込んでいる。

解放されて気を抜いてしまったのか、ミルキーはただのサマーン星人のララへと姿を戻してしまっていた。

苦しそうなララに駆け寄ろうとしたキュアスターは、全身に走った悪寒に、身を震わせた。

 

背筋に氷水をぶっかけられたみたいに、背中を中心に寒気を感じた。

思わず自分の身体を抱きしめて、震えあがってしまった。

身体の芯から冷えるような、不気味な感覚だった。

ガチガチと奥歯が鳴る不快な音が、骨を伝わって耳へ届いた。

 

 

――まだ試作段階だし、どうしても使わなきゃいけない場合でも、1回の戦闘で1回までにしときなよ。少しでも異常を感じたら、すぐに使用をやめること!

 

ナユタから先日聞いた言葉が、脳裏に蘇った。

確かに、この力は危険だ。

一時的な出力は12星座のペン以上だが、連続で使えば身体に何かしらの異常が発生することは想像に難くなかった。

 

……それでも。

キュアスターの視界の端で、ソレイユとセレーネが戦闘員に囲まれて変身解除させられてしまっているのが見えた。

 

 

「もう……一発! ネビュラ・スターパンチっ!!」

「駒ちゃん達、そいつを止め……ぶへっ!!?」

 

今一度、灰色のカラーペンで星を描きながら。

大きく上昇した身体能力をフル活用して一直線に戦闘員を蹴散らしつつ、キュアスターは渾身の左パンチを幹部テンジョウへとお見舞いした。

テンジョウは、大きく放物線を描いて吹き飛ばされ、盛大に音をたてながら地面に叩きつけられた。

 

 

 

「ふーっ、ふーッ……!」

「スター、ありがとう……って、ひかる? 何だか、変だよ?」

「その発汗量は異常です! 顔色も酷いですよ! その灰色のペンのせいですね!?」

 

何とか天宮えれなと香久矢まどかを助け出したが。

スターは自分の不調を誤魔化すことが出来なかった。

酷く寒いし。

脚は震えているし。

視界は明滅しているし。

 

 

 

 

「二人とも何やってるんだっつーの! こうなったら、あたいの奥の手を使うっつーの!」

 

一方、ノットレイダー陣営では、単眼少女のアイワーンが他の幹部2名へと駆け寄っていた。

灰色のスターパンチを受けてしまったカッパードとテンジョウは……辛うじて戦闘続行が可能という程度に思われた。

二人の様子を確認したアイワーンは……真っ黒なインク瓶のような物に牡牛座のカラーペンをセットし、漆黒のペンを作り出した。

スターの右手にある灰色のペンと似たカラーリングの、ダークペンと呼ばれる状態だ。

今までのアイワーンならば、現住生物と漆黒のペンを素材にして、歪んだイマジネーションの暴走体を生みだすところなのだが……。

 

 

「ダークペン! イマジネーションを塗りつぶせっつーの!!」

 

なんと、アイワーンは自身を含む幹部3名を素体として巨大怪人ノットリガーを作成してみせた。

そこらの現住生物より遥かに強靭な力を持ったノットレイダー幹部3人を素体にしただけあって、10メートル近い巨体である。

しかも、ただ大きいだけではない。

 

 

『ケヒヒっ! あたいの計算通り、3人で操縦すれば意識を失わずにコントロールできるっつーの!』

『おお……美しくないが、流石は私を使ったノットリガーだ!』

『さっきのお返しと行くわよ、プリキュアのお嬢ちゃんっ!』

 

どうやら、3体合体ノットリガーは、普段の暴走体と違って完璧に操縦可能らしい。

滝のように汗を流しつつ、キュアスターは察していた。

先程まででも、ダークネストとやらの力で強化されたカッパード達は強かったが、今はもっと強いに決まっている。

スターに、選択肢はない。

 

震える右手で……みたび、スターは灰色のペンを握り込んだ。

 

 

「ノットリガアアアッ!!」

「ネビュラ・スターパンチぃっ!!」

 

瞬間。

周囲から音が消えた。

灰色の星型バリアを纏った拳と、巨大な拳が正面からぶつかった。

2倍の重力にもかかわらず、近くの鉱物が一斉に衝撃で弾き飛ばされた。

 

キュアスターとノットリガーは、お互いに吹き飛ばされて距離をあけた。

スターは、ついに変身が解けて、ただの地球人の星奈ひかるの姿へと戻ってしまっていた。

悪寒と発汗はさらに酷くなり、吐き気と眩暈までもが容赦なくひかるを苛んだ。

ノットリガーは……土埃に隠れて、姿を確認できない。

 

 

「お願い……。倒れて……っ!」

 

ひかるは、自分の周囲を見渡した。

幸か不幸か……プリキュアの仲間たちが、変身が解けた状態で近くに倒れ伏していた。

戦闘員から逃げ回っていたせいで疲れ切っているプルンスとフワも、余裕は無いと見て良い。

全員、既に戦えるコンディションでは無かった。

ララは気を失っており、えれなとまどかは辛うじて意識を保っているようだが2倍の重力のせいで離脱は困難だろう。

 

えれなとまどかが、信じられないものを見たと言わんばかりの顔をしたのが分かった。

ひかるは、吐き気を堪えながら、二人の視線が導く先を見た。

 

 

『今のは、少し危なかったっつーの……!』

『でも! 私達はまだ戦える!』

『チェックメイトだな、プリキュアよっ!』

 

流石にノーダメージというわけではなさそうだが、ダウンしていた巨大怪人のノットリガーが上半身を起こしていた。

ひかるは、嘔吐した。

ドーナツとコスモグミの色が見えた。

 

震える脚で立ち上がって、星奈ひかるは口元だけで笑った。

正真正銘、最後の強がりだった。

左手で、首から紐で提げているスターカラーペンダントを握りしめた。

 

 

 

――ねぇ、この灰色のペンってさ。本当は……ナユタちゃんが変身するための発明の、副産物だったりする?

――それは流石に驚いたなー。バッチリ正解だよ。まさかそこまでイマジネーションが働くとはね。

 

 

「えれなさん。私が落ち込んでいるときに、励ましてくれて、ありがとう。太陽みたいな笑顔、本当に素敵だったよ」

「ひかる? 何言って……? 何をする気なの……!?」

 

 

――あれ? 認めちゃうの? てっきり、はぐらかされるかと思ったのに。

――はぐらかしたら、ひかるちゃんは勝手に試しちゃうでしょーに。長い付き合いなんだから、それぐらい分かるよ。

 

 

「まどかさん。一緒に寄り道して、買い食いして……楽しかった。まどかさんが楽しんでくれて、嬉しかった」

「やめてください……! そんな言い方……わたくし達のことを、思い出のように言わないでください!」

 

 

――長い付き合いって……。私達って、知り合ってからまだ1年ぐらいでしょ?

――おっと、そうだっけ。言葉のアヤってやつだよ。それはともかく、ネビュラペンは危険だから変身は絶対に試しちゃダメだよ。使うにしても、あくまでドーピングアイテムとして1回だけだぞー?

 

 

「プルンス。ロケットで作ってくれたドーナツ、とっても美味しくて、キラやばーだったよ。ナユタちゃんには、ネビュラペンを勝手に持ち出してゴメンって伝えておいて」

「プルンスは、プルンスは……最後の晩餐にしてほしくて美味しいドーナツを目指した訳じゃないでプルンスっ!!」

 

 

――もしネビュラペンでの変身を試したら、どうなるの?

――多分、短時間の高出力モードは実現するけどさー。その後を想像してみなよ。冷たくなったひかるちゃんの隣で、ララが泣き続けている光景をさ。

 

 

「ララ……。初めての『親友』がララで、本当に良かった。大好きだったよ」

「……」

 

 

――ナユタちゃん、ズルいなぁ。そんなの想像しちゃったら、絶対に試せないじゃん。

――絶対に試させないために、こっちだって想像したくもないエグいこと言ってんだよー? そんぐらい分かれ! 頭キラやばガール!

 

 

「…………オヨ」

「もし無事に帰れたら、また一緒にドーナツ食べよう」

 

 

気絶していたララが、目を覚ましたようだった。

一言だけでも声が聞けて良かった、と星奈ひかるは本気で思った。

 

 

 

「スターカラーペンダント、カラーチャージ」

 

ひかるは、右手に最後の力で握った灰色のペンを、スターカラーペンダントへと差し込んだ。

ペンダントから、暗雲が噴き出した。

一瞬だけ、ピンクと黄色で彩られたキュアスターへと姿が変わったが……すぐさま、全身から色が抜け落ちていった。

濃淡こそあるものの、キュアスターの衣装は白と灰色にて染まってしまっていた。

 

 

寒気や吐き気は、不思議と収まっていた。

代わりに……凄まじい眠気が、スターを襲った。

全身火傷をした際に痛みを感じているうちは死なないが、痛みを感じなくなったら死を覚悟すべきだ、なんてどこかで聞いた話を最後に思い出しながら。

キュアスターの、星奈ひかるの意識は……暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ララが、失神状態から復帰して、すぐに目にしたのは……星奈ひかるの背中だった。

ひかるが、灰色のキュアスターへと変身を遂げたのだ。

すぐさま、ララはロケットのAIへと命令を送り、現地へ駆けつけるように仕向けた。

直感的に、ララは嫌な予感を嗅ぎ取っていた。

 

 

「ひか、る……?」

 

ララの声は、全くスターへ届かなかった。

巨大ノットリガーが、灰色のスターを叩き潰そうと拳を振り下ろした。

轟音が地面を揺らした。

 

 

「ひかるぅっ!!?」

 

叩き潰されたかに思われたキュアスターは、星型の灰色障壁で身を守っていた。

キュアスターは、手元にもう一つ星形の灰色障壁を発生させ……回転させた。

凶悪な回転音を伴って丸ノコと化した灰色障壁は、ブチブチという不快な音を立てながら、巨大ノットリガーの右腕を切断した。

 

その後は、一方的な展開が続いた。

巨大ノットリガーの攻撃を的確に防ぎつつ。

まるで流れ作業でもするかのように、淡々と、殺人マシンのように、灰色のキュアスターは丸ノコで敵を切り刻んでいった。

 

 

「アイワーン様。引き時を誤ってはいけませんよ?」

「分かってるっつーの!」

「駒ちゃんたちも撤収よ!」

「おのれプリキュア……! この借りは必ず返すッ!」

 

結局、アイワーンの配下の猫獣人が出張ってきて。

巨大ノットリガーから脱出した3幹部は、戦闘員たちとともにワームホールへと逃げ込んでしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

ザクリ、ザクリ、なんて。

物騒で不穏な音を奏でながら。

残った巨大ノットリガーの残骸を、灰色のキュアスターは切り刻み続けた。

 

 

「ひかる……? もう、敵は居ないルン。戦いは、終わったルン……!」

 

サザンクロスを初めて見て感動していた星奈ひかるの姿は、最早どこにも無かった。

目を輝かせながら、一心不乱に星座のスケッチをしていたはずの手は。

無感情に、敵を切り刻んでいた。

巨大ノットリガーが活動を完全に停止していることにも、気付いていないのかもしれない。

 

 

「スターの、ひかるの手は! もっと、キラキラしたものを描くための手ルン!」

 

ぐるん、と。

首を回した灰色のキュアスターが、ララの方を見た。

いつもならマゼンタの瞳に薄緑のハイライトが入っているはずの、スターの目は……何も映していなかった。

ただ淡々と機械的に目標物の『処理』を続ける、自動装置だった。

 

 

「こんなの……キュアスターじゃないルン! ひかるの『なりたい自分』は、こんな姿じゃなかったはずルン!!」

 

ゆっくりと、灰色のキュアスターがララの方へと歩いてきた。

その左手に、丸ノコを回転させながら。

このまま棒立ちで居たら、巨大ノットリガーと同じように『処理』される。

そう誰しもが理解できた。

 

 

 

――きらめく 星の力で

 

ララは、ゆっくりと歌い始めた。

体力的にも既に変身して戦う余裕など残っていなかったが、ほんの少しでもスターに気持ちが通じて欲しいと思った。

 

 

――あこがれの ワタシ描くよ

 

天宮えれなと香久矢まどかも、一緒に歌いだしていた。

二人だって、気力だけで立っているような状態だというのに。

 

 

――トゥインクル トゥインクルプリキュア

 

 

「みんなの声を、思いを、重ねるフワーっ!!」

「フ、フワ? どうしたでプルンス!?」

 

フワが、一瞬だけ身体から光を発したようだった。

ララ達3人の想いが、灰色のキュアスターへと通じたような気がした。

 

灰色のキュアスターの足が、止まった。

偶然か、はたまた必然か。

完全に沈黙したキュアスターは……変身が解けて、そのまま俯せに地面へと倒れ伏した。

 

目を見開いたまま意識を失っている星奈ひかるは。

頭髪の合間に見える地肌が、明らかに土気色だった。

 

 

 

「ひかる、しっかりするルン」

 

倒れ伏した星奈ひかるの傍らに、座り込んで。

ララは、ひかるを軽く揺さぶった。

 

 

「一緒に地球に帰って、ドーナツ食べるって言ったルン……!」

 

意図してか、意図せずか。

サマーン星人は、地球に『行って』ではなく『帰って』と口にしていた。

 

 

 

 

「ひかるうううううううっ!!」

 

 

 

ロケットが風を切る音が、ようやく現地へと聞こえた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・今回のNG大賞

ネビュラペン「今後暴走を克服して切り札になるんやろ? ハザードフォームやバーニングフォームみたいに!」
ナユタ「いやお前みたいな危険物は即廃棄だよ現実的に考えて」
ネビュラペン「ファッ!!?」
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