【悲報】クラスごと異世界に拉致られた件について【マジやば】 作:火影みみみ
時系列的にはベヒモス君がやられる前後あたり
……本当は3000文字程度のはずがなんで10000文字も行ってるんですかねぇ
「ぐあああああああああ!?」
まるで昔の漫画のように吹き飛ぶクラスメイトの永山重吾。
少しの間宙へ浮いたかと思えば、そのままグシャリと嫌な音を立てて地面へ落下する。
「な、永山君ーーーーーー!?」
慌てて愛子先生が駆け寄って容態を診る。どうやら気絶しているだけのようで命は無事のようだった。
「全く、あまり手間をかけないでくれると嬉しいんだけど」
パンパンと手についた汚れを払う少女。
その背後には彼女に挑んで敗れていった少年たちの武器がまるで墓標のように突き刺さっている。
「どうして、どうしてここまでするんですか!? 荒屋敷さん!」
キッとこの惨状を生み出した下手人、荒屋敷武威に向けて叫ぶ。
「これは必要なことなのです、あちらとこちらの意見が平行線ならどこかで何かしらの結論をつけるしかありません、それが私VS攻略希望者全員の戦いという物騒な方法なのだとしても、それが一番手っ取り早く、かつ納得できる方法なのですから」
「そうじゃありません! ここまでボッコボコにする必要はないと言っているんです!!」
彼女がビシッと指をさす先には荒屋敷にボコボコにされて寝かされている教え子たちがいる。
稽古や練習程度でできる怪我なら見逃しても良かったが気絶する程の攻撃をすることは教師として流石に見過ごせなかった。
「ああそのことですか、道場の心得に《やる時には徹底的に》とあるのでそれを実践しているだけです、なあなあで終わって後でイチャモンをつけられても困りますので」
淡々と荒屋敷は言う。
正確には荒屋敷の姿をした式神が言う。
なぜこんなことになったのか、それは少し時間を遡り、今後のことを皆で会議していた時の出来事に端を発する。
「ですので! 迷宮に行きたくない方は無理に参加しなくていいんです! 先生が保証します!!」
小さな胸をどんと張り、生徒皆に言い放つ愛子先生。
ベヒモスの件以降心に傷を負った生徒が続出したため、迷宮にいかせたい王国や教会側に全力の説得でなんとか希望者のみ参加という言質をとることに成功したのだ。
そのことに迷宮のことが怖くなった生徒、戦い自体に恐怖を抱いた生徒は安堵の表情を浮かべた。
もう行かなくて良い、傷つかなくて良い、そう思っているのが表情から読み取れる。
「だからこれから迷宮を攻略したい人間はこちらのテーブルに来て欲しい、参加してくれたメンバーから作戦を立て直す」
メルド団長は隣のテーブルに移動してそう告げる。
攻略のメンバーが変わる以上、これまでの作戦を根本から作り直す必要がある。
どうあっても少人数になるしこれまでよりも慎重に、そして確実に迷宮を攻略できる編成が必要になる。
「まあ急に言われても決められないだろうから十分に話し合って決めて欲しい」
メルド団長がそう言うと、クラスは一層騒がしくなる。
誰が行くか行かないか、皆で真剣に話し始めていた。
《という状況なのですが、如何しましょう?》
それは荒屋敷武威の式神も例外ではなかった。
記憶と能力を五割ほど有してはいるが、物事の決定権はあくまでも荒屋敷本人にある、と彼女は考える。
だからまず彼女は術者と式神の間にある繋がりを通じて本人へと報告する。
《ん〜、まずは鈴ちゃんがどっちに行くか聞いてみて》
彼女は一度頷くと周りを見渡して目的の人物、谷口鈴を発見する。
ゆっくりと立ち上がり、彼女へと近づくと徐に話しかける。
「ねえ、鈴ちゃんはどうするんだい?」
「あ、ムイムイ! えーっとね、鈴はこのままカオリンやシズシズたちと一緒に攻略組に行こうと思ってるよ」
「ありがとう、参考になったよ」《だそうです》
《なるほどなるほど、ちょっと悩ましいけど、そういうことなら選択肢は一つだね》
数分後、皆が十分に話し合ったと判断したメルドは迷宮攻略の参加者を集うことにした。
皆が席についてガヤガヤと騒がしい中、最初に席を立ったのは天之河光輝だった。
それに続くように坂上龍太郎、白崎香織、八重樫雫、谷口鈴、中村恵理の勇者パーティーが、永山重吾を筆頭とした永山パーティーが、最後に殴られて以来覇気がなくどこか怯えることが増えた檜山のパーティーが続く。
「あれ?」
異変に気づいたのは、参加希望者が集まってすぐのことだった。
勇者パーティー、永山パーティー、檜山パーティーこの3グループが参加することは予想ができていたことだし、何もおかしくはない。
ただ、誰か一人足りないんじゃないか? と谷口は思った。そう例えばパーティーを組まずに一人で戦うような自由さと、ベヒモス相手に死闘を繰り広げる実力を持った最近少しおっかないクラスの人気者が。
「あれ? ムイムイどうしたの? 早く来ないと時間終わっちゃうよ?」
キョロキョロと探すと、彼女はまだ席に座ったままだった。
メルドさんの声が聞こえてなかったのかな、と思い彼女は早く来るように促すが、
「――ん? ああすまない、勘違いさせたようだが私は不参加組だ、攻略は君達でやってくれ」
そんな一言が彼女の口から発せられた。
クラスの全員のみならず、メルド団長や愛子先生にまで衝撃が走る。
皆、彼女なら迷わず攻略組に行くだろうと信じて疑わなかったからだ。
「お、おいちょっと待ってくれ! なんであんたが不参加なんだよ!? あんたがいれば迷宮攻略だって楽になるし、クラスの皆が危険な目に遭うことだって少なくなるはずだ!」
堪えきれなかったのか、クラスの誰かがそう問いかける。
確かにそうだろう。
勇者が傷一つつける事もできなかったベヒモスに唯一致命傷を与えることができた彼女こそ、クラスメイトの中で最強と言って良い存在だと皆が認知していたし、普段の彼女が優しい人物であることも皆が知っていたからだ。
「そうだね、それくらいは答えようか」
ワザとらしく咳を一つついてから彼女は話し始める。
「主な理由は一つ、愛子先生側の戦力に不安があるからさ、現在私たちは迷宮攻略をしてはいるが、それは何のためだい? そう、来るべき魔族との戦いのためだろう? なら危険は迷宮の中ではなく外にこそあると私は考える、ならば一人くらい戦える人間がこちらにつくべきだと思ったまでのことさ」
淡々と彼女は述べる。
確かに彼女の考えは理に適ったものだし納得できるものでもある。
しかし、勇者の中でも最高戦力と言える彼女が抜けるのは攻略組にとっては大きな痛手だ。
「そ、それなら先生には護衛がついてたろ? その人たちや不参加のみんなで先生を守れば良い!」
「ダメだね、もともとこの世界の人間ではダメって理由で呼ばれたのだから戦力的には信頼できない、それに言っては悪いがベヒモス以上の強敵と出会った時の対応が彼らにできるとは思えないからね」
そう斬って捨てる。
あくまでも淡々と、機械のように。
事実そうだろう。魔族との戦いはもはや人類滅亡の危機とまで言えるくらいに劣勢で、メルド団長でも魔族に敵うとは考えてなかった。
不参加組にしてもそうだ。ベヒモスですら敵わなかったのにそれ以上の強敵が来た場合どうなるかは、考えるまでもないだろう。
「だけどよ、それでもあんたを」
「ちょっと良いかな」
男子の言葉を遮り、天之河が前に立つ。
「荒屋敷さんの意見も確かに理解できる、だけどそれじゃあまりにもこの国の人たちにとって無責任じゃないか? 僕たちは勇者なんだ、一刻も早く強くなって魔族を倒さないといけないんだ、そんな我儘を言ってないで荒屋敷さんも迷宮に来た方がきっと強くなれるし、先生を守るのなら強くなった後の方が良いんじゃないか?」
「却下、それだと二、三ヶ月はかかるし、その間愛子先生が襲撃されないという保証がない」
光明が見えたかに思われたが、それも彼女には通用しない。
一同が膠着状態に陥ったところで、「仕方ないな」と荒屋敷はとある提案をした。
「ならば手っ取り早くこうしよう、君たち攻略組と私で戦って一勝でもすれば私は君たちについていく、人数は問わないし、こちらは素手だけどそちらは好きな武器を持ち込んでも良い、どうだい?」
その提案、というにはあまりにも物騒なそれにクラス中がどよめく。
あまりにも傲慢というか、無謀な提案に思えたからだ。
いくらベヒモス相手に戦えた彼女と言えど、攻略組全員を敵に回して勝てるようには思えなかった。
「荒屋敷さんは、それで良いのかい?」
「もちろん、なんなら魔法も使わないでおこうか?」
そう言って片手に球状の炎を発生させ、すぐに握り潰す。
彼女なりの魔法を使わないというアピールだろうか。
ただでさえ不利なのにさらに条件を厳しくする彼女、何を考えてるのか誰も……いや、一人を除いて理解できなかった。
(あいつがそう言うって事はそれだけの自信があるってこと、彼女の道場の心得をいくつか聞いたことがあるけど、どれも戦場で生き残るためのものだったし、実力差を見誤るような浮かれた人間じゃない、ならなぜ?)
そう、このクラスの中では彼女のことを一番理解している苦労人、八重樫雫である。
(待って確かあいつ、模擬戦で檜山を気絶させてたわよね? そこから大まかなクラスの戦力を見積もってこの提案をしたってこと? ……ないわね、檜山と光輝じゃ比較にならないし、そのことはあいつも承知のはず…… もしかして、本当に魔法なしの素手でも勝てるって確信してる?)
そして幾つかの思考の果て、ついに結論に辿り着く。
(確か赤羽流の流儀は戦場で敵の屍を積み上げること、その為には的確に致命傷を与えて且つ自身は生きて帰ることが絶対条件、だから武装は刀でも槍でも、果てはその辺に落ちてる石ころでも戦うような狂人だってお爺ちゃんは言ってたっけ、そして赤羽流を師範を納得させるほどに習得したって彼女は言ってた、それなら彼女にとって武器なんてあってもなくても変わらないってことじゃないの?)
よくよく思い返せば色々と不自然だった。
なぜ彼女は自分のように日本刀に近い武器を選ばずにその辺の兵士が持っているのと同じようなロングソードに近い武器を選んだのか。
その時はいつもの気まぐれかと思ってスルーしていたが、あれは本気でどの武器でも良かったからではないのか?
彼女にとっては素手も剣も同じで、彼女から見ればハンデにすらなってないのではないか?
魔法を封じたのもそうだ。
見る限り彼女のあの魔法は殺傷力が強い。それこそ火球などの下位魔法では無力だったベヒモスに大怪我を与えるほどなのだから。
その威力の魔法をくらえばどうなるか、おそらくタダでは済まないことが雫には想像できた。
ならば使わない方がマシだし、魔法を禁止するというハンデを追加したように見せてこっちがその提案に乗りやすいようにしたのではないか。
そう言った彼女の思考がありありと想像できた。
(光輝、これは一筋縄ではいかないわよ……)
彼女の視線の先には その提案を受け入れることにした天之河の姿があった。
ただし攻略組全員ではなく、できれば一対一、希望者があり荒屋敷がそれを受け入れた場合のみ一対多数という形式にするというルールも付け加える。
別になくても良いのに、と荒屋敷は不満を漏らすがそれでは卑怯だと天之河は言う。
確かに多人数で一人を叩くのは卑怯かもしれない。
だが、彼は一つ失念をしていた。
彼らは自身より強い魔物に対してなら相手が一体でも迷いなく多数で戦うと言うこと。
相手が人か魔物かの違いを除けば、そのことに何の違いもない。
この場合の最適解は、攻略組全員で荒屋敷に戦いを挑むことであり、その方がわずかに勝率はあったのは確かだ。
そして、彼らが選んだ結果が冒頭にあった惨状である。
まず近藤礼一が一番手だった。
開始時に槍術師である彼は全力の突きを放ち勝負を決めにかかるが、あっさりと紙一重で躱された上に顔面と腹部に拳を一発づつ、怯んでガラ空きになった脇腹に回し蹴りを喰らわせてそのまま気絶させられる結果となった。
一人では敵わないと悟った斎藤良樹と中野信治は二人で挑むも、両者ともに魔法職だったからか、彼らが放つ魔法を掻い潜ってやって来た彼女に対処できず、両者ともに顔面を掴まれてそのまま後頭部を激しく地面へと打ちつけられて気絶した。
次は永山重吾率いる永山パーティーだったが、実は彼らはあまり乗り気ではなかった。
正直なところ、個人の意思を自分たちの都合でどうこうするのはあまり好きではなかったが、天之河や檜山を抜いた小悪党組の説得によって渋々戦う羽目になったのだ。
パーティーで戦えば早く終わると思ったし、何より相手にできる限り傷を負わせずに勝てると思ったからだ。
だが、それは彼らの思い上がりだったことを実感することとなる。
まず最初に
彼らだって馬鹿じゃない、散々メルド団長にも言われていたし彼女を守るように陣形の後方に配置していた。
しかし、それを嘲笑うかのように荒屋敷は彼らの間を通り抜け、彼女の顎に軽く当てるように拳を横に振った。
ボクシングなどでよく見られる現象だが、顎への衝撃は脳震盪を起こしやすいことで知られていて、辻綾子に起こったのもそれである。
永山たちが振り返るとそこには平衡感覚を失って倒れそうになる彼女を優しく抱きとめ、そのままそっと寝かす荒屋敷の姿があった。
ここに来てようやく、彼女が自分たちの考えよりも遥かに上を行くことを理解する。
しかし、それには遅すぎた。
次に吉野真央、遠藤浩介、野村健太郎と順に打ち取られ、最後に永山が冒頭のように宙を舞うことになった。
(ついついここまでやってしまいましたが、主も同じ考えのようですし、稽古で怪我をしないと言うのも甘えですし問題ないですね)
と荒屋敷(式神)は考える。
実際にもっと優しく倒すことなど出来はしたが、あえて彼女はその方法を取らなかった。
ここまで来て優しさを見せるのも違うと思うし、何よりも反対意見が出ないように徹底的にやる必要があったからである。
……まあ、それでも男女で扱いの差が出てしまっているのは本体である荒屋敷の甘さなのだろうが。
「で次は誰だい? 坂上君かな?」
くるりと辺りを見渡す。
目的の人物を探し、見つけるとそう問いかける。
「いいや、俺はやめとく、次は光輝がやるってよ」
彼が親指で示す先には準備万端といった感じの天之河の姿があった。
「荒屋敷さん、君の暴走は僕が止める!」
はて、いつの間に暴走ということなったのだろうか? と式神と本人は頭を捻った。
まあ天之河がやや自分に都合の良い方向に解釈しがちであるという悪癖があるとは言え、傍から見れば暴走そのものではあるし、彼女自身よく暴走機関車のように突っ走る傾向があるのだが、残念なことに彼女たちにはその自覚はなかった。
「それじゃあ、これで最後にしよう」
今までずっと戦いの審判をしてくれていたメルド団長が二人の間に立つ。
「それでは両者準備はいいな……始め!!」
開始ともに荒屋敷は駆ける。
三メートル程度あった距離を一気に詰め、全力の拳を下から胴体へ叩き込もうとするが。
「くっ!」
彼はそれを聖剣の腹で防ぐ。
得意技である閃光の一撃を防がれたことに少しばかり驚いたが、それでも追撃はやめない。
顔面、腹部、足、股間、目、耳、手首を狙って攻撃するが、それも全てギリギリのところで防がれる。
「驚いた、君ここまで強くなかったよね」
「僕はただじっとしていたわけじゃない! また仲間を失わないためにもずっと訓練して来たんだ!」
そういう彼の言葉は嘘ではない。
もう二度と
対する今の彼女のステータスはこうである。
===============================
荒屋敷武威の式神 17歳 女 レベル:35
天職:スレッド管理人
筋力:312[本来625]
体力:312[本来625]
耐性:168[本来337]
敏捷:390[本来780]
魔力:910[本来1820]
魔耐:800[本来1600]
===============================
ステータスが半減しているのは彼女が式神だからである。
今の彼女は能力の半分、つまりはステータスの五割程度の力しか引き出すことができない状態にあるということになる。
敏捷では圧倒しているものの、筋力にそこまでの差はない。
また、仮にも勇者である天之河の技能のおかげか、荒屋敷の動きが常に先読みされて一撃入れることも難しい。
以上のことによりこれまでのクラスメイトよりも格段に倒すのが困難になっていると言えた。
それに追い討ちをかけるように、彼は最近使いこなせるようになったとある技を使用する。
「《限界突破》!!」
全てのステータスを一時的に三倍へと引き上げる技能、限界突破。
これにより今の彼のステータスは全てが900へ迫る値となった。
互角の状態から一転して圧倒的不利な状態へと陥る荒屋敷。
彼は勝ちを確信した。
自分と彼女にそれほどの差はない。限界突破でステータスの差を引き離し、一撃で決める。そうすれば彼女の暴走は止まるし、改心してみんなに謝罪して迷宮にも参加してくれる。そう思っていた。
「え?」
誰かの声が聞こえた。それが女だったか男だったのか、最初彼にはわからなかった。
気がつけば彼は地面へ倒れていて青い空を見上げていた。
遅れて腹部に強い痛みと頭上に聖剣が突き刺さる音が響く。
(やられた!? そんな馬鹿な!!)
そう声に出そうとするが、うまく動かない。
「ああ、無理に話さないほうがいいんじゃないかな、内臓と骨をちょっとばかし傷つけたから早く治さないと酷いことになるよ」
彼女は見下ろしながらそう告げる。
「ま、え、しょ……は、まだ」
何とか口を動かし、まだ自分は戦える、勝負はまだついてないと言おうとしたがそれを止めたのはメルド団長だった。
「やめておけ光輝、今のお前じゃあいつには勝てん、第一今もダメージと限界突破の反動でろくに動けないだろうが」
そう言って肩を貸して天之河を立ち上がらせる。
「くっ……」
悔しいが、その通りだと彼は感じた。
限界突破は強力な反面、使用後に強い負荷が襲いかかってくる。
ここぞという時に一度だけ発動可能な、まさに一発逆転を狙う技である。
「ああ後、君はもうちょっと考えて戦うべきだね、限界突破を使うにはタイミングが早すぎたし、何より
ドキリ、と心臓が一際高くなったのを感じた。
まるで心を読まれているようだった。
「最後、明らかに敵意がなくなったんだよね、勝ちを確信して気を抜いたでしょ? 確かに危なかったけどさ、敵に止めを刺すその瞬間が一番危険だってこと覚えておいた方が良いよ」
いつもの彼女とは違う女性らしい口調とは裏腹に、言葉の一つ一つが重い。
まるで人の形をした別のモノと話しているような錯覚すら感じる。
その笑顔が、その言葉が、その気配が、その全てが天之河の心を削り取る。
「じゃあ、私は流石に疲れたし一休みしてくるから、メルド団長と香織ちゃん、あとはよろしくね」
そう言って、彼女は軽い足取りで去っていく、疲れたという言葉がまるで嘘のように。
「まあ何だ、長いこと色々な人間は見ちゃいるが、あれはちょっと分かりにくいが仲間思いなのは確かだし、お前達だけでも迷宮攻略は出来る、あまり気にしないほうがいい」
メルド団長が慰めてくれるが、天之河はそうは思わない。
(彼女は間違ってる、この世界の人間を無視して自分の安全を取るなんてあっていいはずがない、いつかきっと、ベヒモスを倒すその日が来たらもう一度彼女に挑んで、そしてついて来てもらうんだ!!)
そうどこか見当外れな思いを抱いていた。
一方、一見圧勝したかに思えた荒屋敷(式神)だったが、実はそうではなかった。
(危ない、とても危なかった、あの一撃が当たっていたら私はきっと耐えきれずに消えていたでしょう)
式神は能力こそ高いものの、耐久力はそこまでない。
彼女が無傷で済ませていたのはそうでもしないと式神が解けて、荒屋敷本人がこの場にいないことが露見してしまうことを恐れたからだ。
だから最初からずっと先手必勝、一撃必殺を念頭に戦っていたし、
閃光は何も刀や大鎌を使って発動するものではなく、縮地と同類なため素手でも発動は可能である。
しかし、閃光のみでは対処しきれない人間が現れた。
勇者、天之河光輝である。
最初に一撃で決めるつもりで閃光と
しかし、天之河の成長速度が想定以上だったのと、防御に使われた聖剣の固さによってそれは防がれることとなる。
もしどちらかでも欠けていたら模擬戦は早々に荒屋敷の勝利で終わっていただろう。
だが実際は先ほどあった通りとなった。
あと一歩のところで攻撃を防がれ、遂には限界突破すら使われてしまった。
彼女は焦っていた、いくらベヒモスより弱いとは言えこちらは一撃でも貰って仕舞えばそれで終わりなのだ。
焦り、考えて、もうダメかと思ったその時だった。
《これでステは足りる、あとは浸砕と烈風で決めて》
急激に力が高まるのを感じた。
何が起こったのか、彼女はすぐに理解した。
(主よ、感謝します!)
彼女の本体が3倍界王拳を使用したのだ。
本体と式神は能力を半分ほど有している。本来それは不変のものであるが、これは本来の結界師の式神ではないが故に、ある程度のアレンジが加えられている。
術者がいつでも好きな時に式神の視界を見たりする機能や後付けパワーアップなどがそれに当たる。
彼女は3倍界王拳を使用しステータスを強制的に引き上げ、その膨大な魔力を使い式神を強化したのだ。
その結果、現在の彼女のステータスはこうなる。
===============================
荒屋敷武威の式神 17歳 女 レベル:35
天職:スレッド管理人
筋力:937 [本来1875]
体力:937 [本来1875]
耐性:508 [本来1017]
敏捷:1170 [本来2340]
魔力:2730 [本来5460]
魔耐:2400 [本来4800]
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敏捷が上昇したことにより、天之河の姿を見失わずにすんだ。
それどころか相手の値を大きく上回ったことにより、余裕を持って彼に反撃をすることも可能となった。
彼女は主の命令通り、二つの技を組み合わせ、天之河を撃退することとなる。
赤羽流古武術疾風之一《烈風》、これは閃光と対をなす技であり、あちらが先の先とするならこちらは後の先を意識した技である。
相手の挙動を見切り、攻撃後に隙ができた瞬間にカウンターを与える技であり、いつも閃光を多用する彼女からすれば使用頻度はそこまで多くない。
赤羽流古武術破砕之二《浸砕》、鉄砕の発展技であり、こちらは鎧を砕くのではなく
如何なる頑強な防具も無視し、衝撃だけを内部へ伝播させる技。
現在彼女本体が破砕系統で使用可能な最高位の技である。
恐らく、鉄砕でも彼を撃退可能だったのかもしれないが、より確実に倒すことを重視したためこの技を使うように指示した。
大きく横に聖剣を振りかぶって迫る天之河。
彼の動きを完全に見切り、しゃがんでそれを回避、次にガラ空きになった胴体に右腕を振り上げた。
拳から放たれた衝撃は鎧を貫通し、彼の肺や骨へとダメージを与え、背中から外へと突き抜ける。
烈風によるカウンターと浸砕による内部破壊、如何に勇者と言えどこの二つの技を同時にくらって仕舞えばもうどうすることもできない。
彼の体はそのまま跳ね上がり、背中から地面へ落下する。殴られた際に手放してしまった聖剣が彼の頭上に突き刺さった。
これが、先ほど起きた出来事の詳細である。
(しかし、最後の会話ですが…… あれは失敗だったかもしれません)
普段の口調が崩れ、素の彼女が出てしまっていた。あれでは主のイメージ崩壊に繋がりかねない。
(本当ならば団長と香織さんにまかせて立ち去るだけだったのですが、……それだけ主は彼に不満を抱いていたということなのですね)
式神と術者という特別な関係を持つ二人ならばこそ起きた現象だが、荒屋敷本人も先の戦いを当然見ていたし、だからこそ援護することもできたわけだ。
そして、同時に彼女はこう思った、ぬるい、と。
何故気を抜いた? どうして止めを刺す前に勝った気になった? いつ私の式神がお前に負けた? その程度の覚悟で私に勝つ気だったのか?
彼女からすれば勝負も決まってないのに勝ちを確信するなど愚の骨頂であり、相手に対する侮辱である。
彼女が抱いた強烈な怒りの感情が式神を通して彼へとぶちまけられたのが先の会話であり、天之河が感じた重圧の正体だ。
(まあ主も気にしていないようですし、問題はないでしょう、それよりも今後の準備をしなければ)
そう言って足早に自室へ帰る。
愛子先生についていくと決めた以上、持って行く物と置いていく物を仕分けねばならない。
何を持って行こうか頭を悩ませながら、彼女は歩みを進めた。
《本編へ続く》
《疾風系統》
疾風系統は見切り、カウンターを重視した系統。
別名、心眼系統。
相手の挙動をよく観察し、躱してカウンターを当てて倒すことを重視している。
実は初戦のベヒモス君相手には常に一の技が発動したような状態だった。
《破砕系統》
破砕系統は武器破壊、身体破壊を重視した系統であり、赤羽流の中でも最も破壊力がある。
また赤羽流の技は一系統につき最大でも四つまでだが、破砕系統のみ数多く存在する。
それは縮地を重視した迅雷系統やカウンターや見切りを重視した疾風系統と違い、
武器によって発動のできる技とできない技が分かれてしまうため、幾つもの技を用意する必要があったからである。
例:拳の破砕系統、刀の破砕系統
また、時代によって武器が増えたり減ったりするため、この系統の技は時代によって数がよく変わる。
実はベヒモス君の頭をかち割ったのも鉄砕だった。
《赤羽流について3》
いつ何時でも戦えるようにどういう戦い方にも応用可能になっている技が多い。
そのため技の概要がややふわっと曖昧な部分がある、特に疾風系統(烈風など躱して斬るの一言で終わるし)
例:素手で閃光、大鎌で閃光など
また赤羽流の技は別系統の技と組み合わせて使用が可能になっている。
例:閃光+破砕、烈風+破砕など
次に、〇〇之一とかあるが、この数字は番号ではなくその技の段階を表す。
レベル、威力、習得難易度と考えてもらっても相違ない。
なので破砕以外は順番と思っていても間違いではないが、破砕系統は一之技、二之技が複数存在するのでややこしい。
赤羽流の技は基礎、一之技、二之技、三之技と四段階に分かれる。
当然数字が多くなるにつれて威力も習得難易度も段違いになる。
赤羽流の門下生曰く「基礎を覚えてようやく見習い卒業、一之技を覚えて一人前、ニ之技を覚えてベテラン、一つでも極めると修羅、三之技を覚えて人外になる」とのこと。
例えるなら一と二はバキとかシグルイとかギリ人間レベルだが、三になるとるろうに剣心やシンフォギアのOTONAレベルの人外になる。
武威の場合は三之技の取っ掛かりは掴めてはいるが、全て二之技を極めた程度で止まっている。
《ベヒモス君に浸破使えば勝てたのでは?》
A:足場が不安定な空中で使いたくなかったし、そもそも人間用の技がどこまで通じるかわかんなかったからとりあえず鉄砕で様子見しようと思った、後悔はしてない。
《永山PTが割りと巻き進行だった件》
長々と書くのもアレかと思ったのと、書き終わった時点で一万文字近くあったのでこのままでいいやと思いました。
そして描写とか追加していったら一万超えました(なおあとがきは文字数に含んでいない)、長いorz
《結界師の式神について》
式神の危機とかは術者に伝わるが、強化したり視界を共有できたかどうかはよく覚えてないのである程度アレンジが入っているということにしている。
次回 7月15日の深夜あたりに投稿予定