「黒崎隊は無視するわ」
葉子がそう言うと六郎と雄太は顔を見合せた。
今回は4チームによるランク戦、柿崎隊に玉狛第二、そして黒崎隊だ。 確かにやり合うなら今シーズン当たるのが二度目の柿崎隊か実力的にワンマンな玉狛第二だろうが…
「そうね。黒崎さん一人を三人がかりで押え込めたとしても他の二部隊に隙を与えるだろうし、今回の黒崎隊は三人編成だもの」
「……確かにそうだな。 俺も雄太も二人だけじゃ黒崎さんや玉狛の白髪を相手するには厳しい」
「それじゃあオレ達はどうしよっか。葉子ちゃんが前見たく柿崎隊を何処かに縫い付ける?」
実際に葉子はゲリラ戦法というべき戦い方を行い、たった一人で柿崎と照屋を落としこそしなかったものの長時間一箇所に留まらせていた。
「……違うわね。今回は落とせる相手を確実に落とすわ。 玉狛のメガネとかね。そして合流がメイン。 絶対に黒崎を見かけたら逃げなさい」
「「了解」」
香取隊としての勝ち筋は敵主力が疲弊した時に三人がかりでの短期決戦。 対して柿崎隊は……
▽
「黒崎は徹底的無視しよう」
また香取隊と同じく黒崎隊を相手にしない戦術を取るつもりだ。
「俺たちは他の三部隊と違って抜きん出た戦力は無い。だがどの部隊よりも連携が取れると思っている」
「注意すべきは黒崎さんに玉狛の大砲…ですか」
「それに黒崎さんのところ人が増えてますね。一筋縄ではいかなさそう…」
玉狛の大砲、雨取 千佳の一撃はそれだけで遮蔽物が消し飛ばされ否応なしに戦術の変更を強いられる。 逆にそれを利用すれば以前の試合、香取 葉子に翻弄されてしまった時の様な状況は作られにくい。つまるところ、柿崎隊の勝ち筋は以前と変わらず集合してからの長期決戦……
▽
「黒崎隊は無視しようと思うんだ」
奇しくも、黒崎隊は3部隊に無視される方向性になっていた。
「ほう。おれはてっきり最初にイチゴ先輩を狙うのかと」
「僕も最初はそう思ったんだけど、ここにきて黒崎隊は2人加わって三人部隊になったし確実とは言えないけれど、千佳の砲撃でステージを崩しつつ柿崎隊や香取隊をこっちのフィールドに引きずり込んだ方がポイントとしては見込めると判断した」
三雲 修はスパイダーをセットし新たな戦術を使うつもりでいる。 初見ならば高確率で痛打を与えられるだろうが黒崎を相手にそれを使ったとしても短期決戦には出来ず、ズルズルと時間を使わされる気がしてならなかった。 で、あるならば……
「二部隊のどちらかを引きずり込んでしまえば黒崎隊が横合いから突っ込んでくると僕は思っている。多分、全員が集まると自然と他の部隊も黒崎さんを狙うと思った」
「…落とせるうちに他を削って、最後は総力戦で黒崎さん達と戦って…疲弊した他の部隊を狙う?」
「それが一番、ポイントが取れるかもしれないね」
どうしたって空閑ワンマンの玉狛第二は正面きってのぶつかり合いには弱くなる。 特に前回や今回のような4部隊の戦いとなると読みが難しくなる。だからこそ、どこの隊長たちも警戒している黒崎を共通の敵とみなして利用をする勝ち筋を見出す。
▽
「ってぇことで、多分今回俺たちに向かってくる奴ら少ねーと思うんだけど。 こっちとしては好きに暴れて沢山倒そうぜって感じで」
「まぁせいぜい好きにやらせてもらうわ。稽古みたいなもんやろ」
「うっそでしょ。丸投げ!? 信じらんないんだけど!!」
「う、うーん……でも確かに黒崎くんの言う通りだと思うよ…? 葉子ちゃんは黒崎くんの強さを凄くわかってるし、柿崎さんも三雲くんも無理を通すタイプじゃないから」
他の部隊の考えを読んでいた。というか自分が向こうの立場だったりすんなら出来るだけ避けると思うし。
「とりあえず俺たちの目的は勝つんじゃなくて、アイツらに色んな戦い方をさせる事だ。 落とされても気にすんな」
「そーそー。いの一番に落とされても文句は言わんわ」
「なんでこっち見んのよ!? そこそこは戦えるっての!」
「んじゃ、ま。行くか」
『始まりましたRound5。 実況担当はB級海老名隊の武富 桜子! 解説はボーダー広報、嵐山隊でお馴染み時枝さんと、太刀川隊の出水さんです! 出水さんは黒崎さんの動きを見る為に今回の解説を引き受けてくれました!どういうことでしょうか!?』
『あー、多分試合を見たら分かるかと』
『だそうです! 今回も玉狛第二にとっては厳しい四部隊戦となっていますが時枝さんはどう思われますか』
『前試合では痛いところを突かれてしまい全力を出せませんでしたからね。おそらく以前よりもほかの部隊がやりにくい事をするかと思われます』
『なるほど、戦術を変えてくると。 そして皆さんお気づきと思われています。黒崎隊がなんと文字通りのワンマンチームからオペレーター含め四人チームになりました! そして新たに加わった二人の情報はまっっっっったくありません!』
なんだそれー! なんて野次が飛ぶものの黒崎なら仕方ないかとモニターを笑いながら見守る隊員たちを他所にランク戦が始まった。
「千佳、空閑、手筈通りに行こう」
『『了解』』
転送場所は悪くない。 千佳も高所を取れる場所だし、空閑が他の隊と距離が近く、自分はそれなりに離れている。 他の部隊が来るまでに準備は出来る…!
【各部隊バックワームを起動したよ。やっぱり…いや、二人だけ使ってないから黒崎さんともう一人かな?】
黒崎隊が一人隠れている…? 狙撃手の可能性を考えていた方がいいか。
「宇佐美さん、一番近い所から陣を張っていきます。 戦況に動きがあったら逐次お願いします」
【了解】
『各部隊離れた転送となりましたが……これはちょっと面白いことになりそうですよ!』
『黒崎隊は三雲隊員を除いた面々を大外から攻められる転送位置ですね』
『うわぁ、これは黒崎さんがめちゃくちゃ刺さる場面になるかもしれないです』
『と、言いますと?』
『実は今回の黒崎さんのトリガー編成知ってるんだけど……ってあぁ!? 言ってる間に!』
出水の言い渋るような言葉が続く前にモニターは大きく場面の動きを映した。そしてそれを満足気に眺めている隊員が複数、そしてえげつないものを見るような目で眺めているのが大半な雰囲気に武田は興奮し、出水は苦笑してしまった。
「虎太郎と合流した! 文香、来れるか!?」
『若村さんが、くっ!!』
空閑と香取隊が戦闘を開始したと同時期に虎太郎とは合流出来たものの、文香はそれに巻き込まれてしまった様だ。 場所は近く、駆け付けて若村に一撃与え離脱する事も考えるか…!
【ザキさん、文香の近くに一人寄ってきてる! 】
「ッ!! 仕掛けるぞ虎太郎ッ」
「はいっ!」
一人落とされれば前回の香取隊とやり合った時の様な焼き回しになってしまう。 文香には無理をかけるが、バックワームも使用せずに接近している「誰か」は突然、空閑や香取隊の面々にも分かっている。 いや、誰かではなく十中八九、乱戦に飛び込むのは黒崎だ。
アイツを向こうに擦り付けられれば戦況は大きく乱れ………!!!?
「ザキさん!!」
虎太郎の叫びと共に飛び退けば、周囲の家屋が爆裂し崩壊していく。
雨霰と降り注ぐ誘導炸裂弾を掻い潜り、家屋の瓦礫を登り即時に移動していく。 同じように瓦解したエリアで空閑と香取隊も退避をしていた黒崎隊の新人か!?
「よォ、遊ぼうぜ」
不敵な笑みを見せながら現れたのは予想とは違い黒崎本人。 全くコイツは……
「いつからお前は射手に転向したんだ黒崎……!」
「つい最近だ……ッ!」
二宮さんや出水に匹敵する射手とは考えたくは無いが気を引き締めなければ落とされる…!
「文香、虎太郎。香取に
「「『了解ッ』」」
通常弾がバラ撒くように放たれるがこれはシールドで防げる。合成弾も隙を与え無ければ大丈夫だ。 気をつけるべきは……
「こっちに押し付けるとは言ってくれるわね!」
間一髪、首を捻ればブレードが空を切った。香取のマンティスだ。文香がシールドを張り若村の銃撃を防ぎ、虎太郎が反撃しつつ後退を始める。 既に空閑は戦場から離脱をしたようだ。相変わらず戦況の把握が早い……!
「人を悪い物のような押し付け合いしやがって」
黒崎は悪態を吐きながら飛んだ。 飛んだ?
上空からの攻撃。では、ない!
「二人とも回避!」
──瞬間、辺り一帯が吹き飛ばされた。
間違いない。映像で見た玉狛の砲撃!!
ベイルアウトの光は見えていない。誰一人この場から欠けていない…
咄嗟の判断で首元にシールドを張る。再び香取のマンティス! 上手く防げたが拓けたこの場でやり合うのは狙撃手がいる玉狛第二以外に利点は無い! 目配せと共に身を翻し戦場から退避を始め、遮蔽物が多いエリアをピックアップしていく。
『く、黒崎隊長がまさかの射手のトリガー編成!? 出水さん知っていたんですか!?』
『まぁ、はい。 ちょっと前に黒崎さんに頼まれて教えたんだわ。俺と那須ちゃん、あともう一人が』
『黒崎さんの射手も驚きましたが、初手の合成弾がまんまと動き始めていた戦線を崩しましたね。空閑隊員 vs 香取隊&柿崎隊にならずに済んだのは玉狛第二に取ってプラスになりました!』
『それに玉狛の大砲でエリアが崩されるのを全員に意識付け、三雲くんの策が順調に進んでいますね』
あれが玉狛の砲撃!? あんなのバカスカ撃たれたら終わるじゃないの!!
柿崎への不意打ちが失敗したと悟った瞬間、砲撃によって巻き起こった土煙と瓦礫の雨の中を香取と若村は一気に戦線を離脱した。運が良ければ黒崎が柿崎隊を追いかける筈だ。
「ヨーコちゃん、ごめん。合流が遅れた!」
「気にしないわ。雄太が大砲に圧かけたお陰で2発目は来なかったし」
「問題はこの状況でまだ姿を見せてない三雲と黒崎さんのところの二人か……」
【葉子、その辺のエリア気をつけて。転送時に一人潜伏したエリアよ】
何かしらの仕掛けを持ったヤツが隠れているか、それとも何も仕掛けずに離脱したか……いや待て、砲撃で炙り出されたのじゃなく誘導された?
「メガネよ。このエリアには多分メガネが居るわ」
「根拠は?」
「勘」
「勘ってお前な……」
視界の端で一瞬、チカッ!と光る。 不意打ちにしては中途半端だが仕掛けてきた。
麓郎も雄太も気が付いた様で身を低くし、前へ駆け出すように避ける。が、麓郎がもつれたように不自然に前のめりに倒れ込んだ。
「あんた、何や「来るなヨーコ!」ッ!」
意図に気が付けたのはたまたまだろう。
自分自身も腕が何かに引っ掛かったのだ。慌てて前面にシールドを張ると物陰にあったソレが殺到した。
置き弾のアステロイド。
少し離れていた雄太と直前にシールドを張った香取自身は間に合ったものの、同じくシールドを張ったも体勢を崩していた麓郎の脚は撃ち抜かれ完璧に機動力を落された。
「ワイヤーとはやってくれるわね…!」
倒れている麓郎を引き摺り、路地裏に転がり込むように射線を切る。
恐らくワイヤーがない地帯を目指そうと離れても砲撃でこの陣地に戻される。残された道は
「麓郎、あんた落とされるんじゃないわよ! 雄太、麓郎の援護しなさい!」
先程光った地点から射線が通る場所へと躍り出るとそう離れていない場所が光った。 アレは置き玉だから違う。 なら右の路地? それと違う。
宙に飛び上がり目に見えているワイヤーに指を引っ掛けて一瞬の滞空でアステロイドを回避する。
「そ、こォ!!」
民家の窓に引き金を引き何度もアステロイドを叩き込むとほぼ同時に窓からメガネが飛び出した。
「ワイヤーにブービートラップだなんてムカつくことしてくれるじゃない…!」
「くっ…!」
レイガストをシールドモードに切り替えながら一定の距離を維持する修に対し、葉子も拳銃を構えながらの睨み合い。 迂闊に突っ込めば本命の見えないワイヤーに絡め取られることが分かっている為に攻めあぐねている。
物陰から麓郎が牽制射撃を行い修の動きを抑制するも決定打には数手足りない事を悔しくも理解した。ワイヤーを切って攻めようにもその間に逃げられてしまえば、別のところにワイヤーの陣が出来上がってしまう。 麓郎もトリオン漏れでそう長くは持たないし、
『三雲隊員と香取隊は膠着状態ですね』
『ワイヤーを使った陣。 これは初見には厳しいわぁ…寧ろ、よく香取隊は1人も落とされず耐えたわ』
『しかしこのまま動きがなければ空閑隊員が合流し香取隊にとってかなり厳しくなってしまいます!! 上手く切り抜けられるでしょうか!?』
『いや、空閑が合流するよりも早くことが動きそうだ』
勝てる戦いではないが、負ける戦いでもない。修は確信した。 自分が強くなったわけでない、相手が弱い訳でもないが足止めには成功している。 作戦がハマっているのだ。
しかし、往々にして作戦というものは乱されるものでもある。
【修くん、上に気をつけて!】
「ッ!?」
宇佐美の警告で咄嗟に身をよじる。 視界の端でも香取葉子が飛びずさるって居るのが見えた。
考えるよりも先に左肩をアステロイドが貫かれる。これは!!
「こういう時って数が多い方と少ない方、どっちを先に叩けばいいのよ。っていうか、あたしなんて戦闘向けじゃないってのに!」
濃い髪色をしたツインテールの女性が拳銃型のトリガーを構え言葉を吐く。
「あら、あんたが一護の弟子だっけ? ふぅん。アイツに教えるなんてことできたんだ」
「あんた黒崎の新人……!」
そうだ黒崎隊の新しい隊員!
「毒ヶ峰リルカよ。 ヨロシク」