ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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第五十一陣 (いかづち)、澄水と共に

地上へと帰還するや否や、とても活発な女の子の声が響く。

 

「パパぁー!! おかえりなのー!!」

 

ミュウは可愛らしい足音を立てながら一直線へ父親と慕う青年の方に駆け寄って来た。そして、そのままの勢いで来に飛びつく。来は慣れた身のこなしでミュウをしっかりと受け止めた。

 

「迎えに来てくれたのか。ありがとう。ティオはどうした?」

「うん。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは……」

「はっ、此処に」

 

ティオは一瞬でミュウの隣に姿を現した。シアよりもくノ一らしい。

 

「何か遭ったのか?」

「目の届く場所にはいました。ですが、不埒な輩がいたもので始末しておきました」

「そうか。ご苦労」

「ありがとうございます。マスター」

 

ミュウに手を出そうとした愚か者共はティオによって無力化され、縄で縛り上げて保安所前に放り出された。

 

そんな二人の会話を聞いていた光輝達は唖然とした。「まさか父親になっているだなんて!」だの、「一体どんな経験を積んできたんだ!」だの様々な呟きが飛び交った。

 

「いや四ヶ月で四歳の娘ができるかっての。じゃなきゃあの子の成長速度早すぎんだろ」

 

ハジメの言う通りである。実際彼も最初は親友に娘ができていたことに驚いていたが、よくよく考えてみたら養子の類だろう、と判断できた。

 

そのミュウはというと、膵花をチラッと見て信じられないことを言った。

 

「……ママ? でも、よく見たら違うの……」

 

髪色が同系統(縹色)だったこともあり、一瞬母親に見えてしまったらしい。ならシアは何故そうならなかったのかというと、色が薄すぎるからだそう(瓶覗色)。

 

膵花はミュウのママ、という言葉に反応してミュウの前に出て来て抱き上げる。そして笑顔でミュウに話しかける。

 

「ミュウちゃんって言うのね? 私は膵花。よろしくね」

 

ミュウも膵花に笑顔で「よろしくなの~」と返した。この後、猛烈に子作りしたくなった膵花は来の耳元で何かを囁いた。来も膵花の耳元で小さく呟いた。

 

この間、来は数十人の女を孕ませた鬼畜野郎として認識されそうになったが、来と膵花が必死に説明した結果、社会的評価の暴落はなんとか免れた。

 

 

 

そして、現在来達は町の出入り口付近に位置する広場にいた。支部長に依頼達成の報告と少しばかりの話をした後、町を発つことにしたのだった。

 

本来なら、光輝達が付いて行くことはないはずなのだが、何故か付いて来ている。理由は明白だった。膵花と香織が付いて行ったからだ。

 

膵花の心は既に決まっていた。またここでお別れなんて有り得ない。死してもなお、永久に彼と連れ添うと固く誓っている。彼との絆は、『死』()()()で千切れるような軟弱なものではないのだ。

 

ハジメも来に付いて行く気だった。彼にとっては数少ない親友なのだ。またあの日々に戻りたかった。前まではずっと守られてばかりだったハジメ。しかし今となっては、守りたい仲間が新たにできた。いつまでも守られっぱなしなのはもう嫌だった。

 

香織はハジメが来に付いて行くならば、自分もと決意していた。彼への想いは誰にも負けない自信がある。

 

雫の方は、五里に亘る霧の脳内世界を彷徨い歩いていた。香織が行くのであれば自分も行きたいし、先程の一件で自身の力不足を感じていた。だが、同じ門下生の光輝を置いて旅に出ることに少し抵抗を覚えていた。性格に難があるが、同じ道場の仲間なのだ。どうしても見捨てることなどできない。それ故、明確に踏み切りが付かなかった。

 

そうして雫が普段の彼女らしからぬ表情で悩んでいると、十人程の集団が姿を見せた。

 

「おいおい、どこ行こうってんだ? 俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか? ア゛ァ゛!?」

 

薄汚れた格好の男が頬を歪めながらティオに向かって言う。先程始末した者達の片割れだった。その下劣な視線は、報復とは別に何かを求めていた。

 

来達が沈黙を貫いているのを見て何を勘違いしたのか、更に図に乗る賊紛いの傭兵共。

 

その視線が膵花に向く。心地の悪い視線に晒されて、来の左手を掴む膵花に、恐怖に怯えていると勘違いをして来に恫喝する。

 

「なぁなぁ兄ちゃん。わかってんだろ? 死にたくなかったら、隣の女とそこの黒服の女置いてさっさと消えた方がいいぜ?」

 

その言葉で、全身の血が沸騰する来。

 

「……今、何と言った?」

 

今までで一番冷たい声だった。シアもミレディも、あんなに怒った来を見たのは初めてだった。

 

「おっおっ、何だ何だ? 聴こえなかったのか? その女おいて消えろって言ったんだよ。なぁ~に、きっちりわび入れてもらったら返してやるよ!」

「まぁ、そん時には、既に壊れてるだろうけどな……」

 

自分の妻と大事な仲間を欲を発散させるための道具として見做したことが、彼らの運命を決めた。

 

射殺すような眼差しのまま、口元を吊り上げる来。

 

「不味いぞ、この状況で笑うということは……今すぐここから逃げろ! 来が本気で怒ったら膵花さん以外誰も止められないぞ!!」

 

来の表情を見たハジメがこの場にいる全員に警告する。

 

「ハッ、何言ってんだガキ。この状況で笑う奴なんて……がっ!?」

 

傭兵の一人が頸を掴まれて持ち上げられた。それと同時に、昼間だったはずの空が暗闇に塗りつぶされた。そして、傭兵は心臓を小刀で一突きにされて絶命した。動かなくなった死体に、碧い炎が流れ込んでその体を焼き尽くし、塵と変えた。

 

他の者も、その身を悉く(ほろ)ぼされていった。ある者は生きたまま内側から炎で焼かれ、またある者は心臓を抉り取られてから傷口を焼かれた。更にある者は頭を踏み潰された。飛び散った血痕ですら燃えてなくなった。

 

やがて、全ての傭兵共はその命を刈り取られてしまった。〝先程まで生きていたという事実を示す証〟でさえも塵や灰に姿を変え、風に飛ばされて散り散りになった。全ての傭兵の処刑が終わると同時に、空も元の蒼さを取り戻した。

 

膵花、シア、ミレディ、ティオ以外の全員はその容赦の無さに戦慄していた。ミュウとユエはティオとハジメに目と耳を塞がれている。普段より穏やかにしていた彼からはとても想像が付かなかった。

 

「……行こうか」

 

惨い殺し方で人を殺めたのにもかかわらず、彼の表情は普段通りの穏やかさだった。それが更に恐怖を駆り立てる。おまけに返り血が顔に付いていた。

 

「……えぇ」

 

ホルアドに背を向けて、歩み始める来に真っ先に付いて行く膵花。彼女はあの光景を見慣れていた。逆に来の前で人を何人も殺めたことだってある。何なら来よりも先に人殺しになっている。忌避感などとっくの昔に捨てている。人を殺めようが殺めまいが、自分の事を本気で愛してくれているから。

 

そして来の手を掴もうと手を伸ばしたところで、大声で制止が掛かった。光輝だ。

 

「待ってくれ膵花! 辻風に付いて行ったら駄目だ! 君もさっき見ただろう? 辻風は何の躊躇もなく人を殺したんだ。そんなやつと一緒にいたら自分の身に危険が及ぶかもしれない! だから……」

「解ってるよ。これから先、命の危険が訪れるかもしれないってこと」

「だったら……!」

 

膵花は光輝の言葉を遮って言う。

 

「でも、来君ならきっと、私のことを護ってくれる。そして私も、来君を護る」

 

その表情は、とても嬉しそうにしていた。しかし、これでもまだ、光輝は膵花を引き留めようとする。

 

「どうして膵花は、辻風に付いて行くだなんて言い出すんだ?」

「あれ? 気づいていなかったのかな? 丁度いいから教えてあげるよ」

 

そう言うと膵花は来の許に駆け寄った。

 

「ら~い君」

 

愛しの妻に名前を呼ばれ、膵花の方に振り向く来。膵花は来の頬に両手を添え、そっと唇を重ねた。クラスメイトの大半が顔を真っ赤に染めた。ハジメ以外は誰も二人の口付けを見たことが無かった。

 

多くのクラスメイトが赤面しているのを確認すると、膵花は唇を離した。そして光輝の方を向いて言う。

 

「これが、来君に付いて行く理由だよ。好きでもない人に、こんなことしないから。そして、この場をお借りして皆様にご報告したいことがあります」

 

全員が膵花に注目する中、膵花は来の左手を取って頬を染めながら話す。

 

「私、滝沢膵花はこちらの辻風来君と婚約しています。訳あってずっと秘密にしていましたが、この場でご報告させていただくこととしました」

 

膵花の婚約報告の後、来は懐から指輪を二つ取り出した。地球にいた時から肌身離さず持っていた婚約指輪だった。そして、そのうちの片方を膵花の左手薬指に嵌めた。膵花の方も、来の左手薬指に指輪を嵌める。(二人共外見年齢二十一歳)

 

クラスメイト達は騒然の渦に巻き込まれた。香織は来と膵花の二人を見た後、ハジメの方を向いて目を輝かせている。ユエも香織と同じくハジメの方を向いて同じ表情をしている。

 

(らーちゃん、凄く幸せそう。よっぽど逢いたかったんだね。でも……もし、らーちゃんが独り身だったなら、彼の隣に立てたのかな……)

(うぅ、来さん……良かったですね。叶うならば私もあんな風に愛されてみたかったな……)

 

シアとミレディは、少し羨ましそうに膵花を見ていた。来の一途さを知っているはずなのに、それでもまだ、諦め切れていない自分がどこかにいた。

 

そんな膵花の固い意志に、光輝は数秒間硬直した後、異を唱えた。

 

「嘘だろ、膵花が……辻風と婚約? ……有り得ない。辻風はまだ結婚できる年齢じゃなかったはずだ。どうして婚約なんて……一体膵花に何をしたんだ、辻風!!」

 

正式に結婚できる年齢でなくとも、婚約自体は可能である。

 

光輝は膵花と来が相思相愛であるという事実を認めたくなかった。自分のことを好いていると勝手に思い込んでいるが故、膵花の行動が奇行に見えた。

 

光輝は来と膵花に歩み寄りながら、聖剣に手を掛けようとする。そこへ、雫が止めに入った。

 

「光輝、辻風君に限ってそのようなことするはずがないでしょう? 貴方気づいてなかったの? あの二人は、もうずっと前から一緒にいるのよ。それこそ、私達が出会う前からね。香織も言ってたわよ、『あの二人、まるで最初から結ばれるのが運命づけられてるみたい』って」

「雫……何を言ってるんだ……だって、可笑しいじゃないか。どこでもほぼずっと一緒だなんて。同じ家に暮らしているわけじゃあるまいし」

 

光輝の発言に、ハジメは一瞬『……は?』と思った。他のクラスメイトは、光輝と同じく来と膵花は別々の家に住んでいると思っている。

 

「お前ら……まさか知らなかったのかよ」

「何がだ?」

「あの二人、同じ屋根の下で暮らしてたんだぞ」

 

クラスメイトの大半が驚愕の表情を露わにする。

 

「嘘だろ……」

「嘘じゃねぇ。っていうか俺以外誰も知らなかったのな」

 

光輝はおろか、香織と雫ですら知らなかった。

 

「仮にそれが事実だとして、どうして南雲が知ってるんだ!?」

「俺の家なんだよ。二人が住んでたとこ」

 

信じられなかった。まさかあの二人が既に同じ屋根の下で暮らしていたことが。ましてやその屋根がハジメの家だなんて有り得ないとさえ思っていた。

 

「有り得ない……だって、道場じゃ俺に優しくしてくれてたじゃないか。俺と話す時、ずっと笑顔だった。だから……俺の事を特別扱いしてるんだと……そうだろ? 膵花」

 

光輝は納得ができなかった。

 

「確かに、雫ちゃんの道場で私は貴方に優しくしてた。でもそれは、他の子達も同じだよ。同じ門下生同士、仲良くするべきだと思うんだけれど……」

「膵花の言う通りよ。彼女は別に貴方だけのものじゃないんだから。何をどうしようと、決めるのは膵花自身よ。いい加減にしなさい」

 

視線を来に向けると、来は呆れた表情でこちらを見て来る。周りには既に女を何人も侍らせている。その中に『自分の特別』が入ると想像しただけで、腹の奥底で怒りがふつふつと湧きあがった。今まで感じた事の無い、暗闇の如くどす黒い感情だった。

 

「膵花、行ったら駄目だ。俺は君の為に言っている。辻風は人を簡単に殺せるし、女性をコレクションか何かだと勘違いしているんだ。見てくれ、あの兎人族の女の子を。奴隷用の首輪まで付けられて……可哀想に。黒髪の女性もさっき辻風のことを『マスター』と呼んでいた。きっとそう呼ぶように強制されたんだ。金髪の女性も南雲と言い争いをしていたように見えた。弱みか何かを握って、俺達を始末するよう命令していたんだ。そんな奴に付いて行ったら何をされるかわからない。だから、俺は君を止めるぞ。君に何と言われようと、絶対に行かせはしない!」

 

光輝の暴走は留まることを知らず、今度はシア達に視線が向いた。

 

「君達もだ。これ以上、その男の許にいるべきじゃない。俺と一緒に行くんだ。君達の実力なら大歓迎だ。共に人々を救おう! シア、だったかな? 安心してくれ、俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうマスターなんて呼ばなくていいんだ。ミレディだって、もうあんな奴の言いなりになんかならなくていい。俺と一緒に来てくれ!」

 

爽やかな笑顔でシア達に手を伸ばす光輝。いつだって女の子は自分に味方してきた。だから、あの男からの呪縛から解放できると妄信する。

 

だが、光輝の予想に反し、彼女達三人の表情は無だった。最早言葉で表すことすらできない。

 

光輝が心配そうに近寄ると、喉笛に切先を向けられた。ティオが金色の瞳で光輝を睨みつける。その色は、自分がマスターと仰ぐ者の目と同じ、黄金色である。シアとミレディも、刀を構えそうになったがここはぐっと堪えた。

 

「先程から聞いておれば、我が主を愚弄するとは……」

「ど、どうしたんだティオ……急に刀なんか突きつけたりして……」

 

光輝は今の状況を理解していなかった。どこまで思い込みが激しいのだろうか。疑問点を挙げればきりがない。

 

「先程の発言、一言一句残さず全て取り消せ」

「取り消せって、君達はあいつに無理矢理……」

「妾達は無理矢理従わせられているのではない。皆自らこの御方の下についた。貴様らを窮地から抜け出させたのは他でもないマスターだというのに、貴様と来れば感謝の一言も言わず、剰え貶すだと?」

 

ティオは絶対零度の眼差しで、威圧を放つ。そして、シアとミレディの心情を代弁するかのように告げる。

 

「分を弁えよ、痴れ者が」

 

ティオが一歩踏み出すと共に、光輝は一歩下がる。そして、太刀を構えようとしたところで思わぬ制止がかかった。

 

「太刀を納めろ」

 

止めに入ったのは、ティオが(マスター)と仰ぐ者だ。

 

「しかしマスター、この者は貴方様に恩を仇で返すような事を……」

「もういいんだよ」

 

ティオの頭に、来の手が乗せられる。そして優しく撫でる。本来は抱くところなのだろうが、膵花以外の女にはしないと決めている。だが、頭を撫でるくらいなら問題は無いだろうと判断した。

 

「君達がそれほど僕を慕ってくれていることはよく解った。後は僕がけりをつける。シアとミレディも下がれ」

「……承知」

 

シア、ミレディ、ティオの三人は大人しく下がった。自分の言う事には従わないのに、来の言う事には従うことに光輝は怒りを覚える。

 

そして、聖剣を抜いて地面に突き刺し、来を指差して宣戦布告をする。周りは唖然としていた。

 

「辻風来! ここで俺と決闘しろ! お互い武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と膵花に近寄るな! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

 

光輝は完全に自分の正義を妄信し切っていた。それ故、周囲の空気に気づかない。

 

「良いだろう。その勝負、受けて立つ。ただし、そっちが負けたら何も文句を付けて来るな」

 

意味不明な宣戦布告に来はすぐに応じた。余程勝つ自信があるようだ。だが、全力を出す気など一切無い。全力で戦ったらまず間違いなく光輝は死ぬからだ。

 

「軽い気持ちで勝負を受けたこと、後悔するなよ」

 

そう言うと光輝は右腕に力を込め、足を力強く踏み込んだ。光輝は走り出す勢いのままに拳を来に向けて振るった。

 

が、来は光輝の一撃を軽く受け流し、勢いを逆手に取って光輝の袖と襟を掴み、背中に乗せたのち地面に投げ倒した。柔道の投げ技が一つ、背負い投げである。

 

「修行し直して来い」

 

光輝はまさか投げられるとは思わず、碌に受け身が取れなかったので体を強く打った。

 

「ぐっ……!」

 

光輝は背中に走る痛みに耐えながら、おぼつかない足取りで立ち上がる。

 

「まだだ……まだ俺は戦える!」

「もう止めておけ。次叩きつけられたら骨折するぞ」

「何時までも自惚れるなぁ――!!」

 

光輝が再び拳に力を入れて駆け出す。拳が迫って来るのに全く動く気配のない来を見て、光輝は来が反応し切れていないのだと思い、勝利を確信する。

 

だが、その拳は、たった一本の指に易々と止められた。

 

「なっ!?」

 

光輝がいくら右腕に力を入れても、来の左手示指は一切動かない。そして、紫電を纏った右手をぎゅっと握り締めると、光輝の体に電流が走った。その時間、僅か0.03秒。

 

光輝はその場に倒れ込んだ。再び起き上がろうと手足を動かすが、麻痺状態でうまく動かせない。心臓が止まらなかっただけ御の字だ。

 

「……勝負あったな」

 

ハジメがそう呟き、決闘は来の勝利で幕を閉じた。

 

決闘を制した来は踵を返し、膵花の許へと歩む。

 

「お待たせ。それじゃ、行こうか」

「ええ」

 

膵花の手を取る来。二人の頬は朱色に染まっている。二人は指を絡ませて手を繋ぎ、仲間のシア、ミレディ、ティオ、ミュウと共に次なる目的地へと旅立つ準備を始めた。

 

「……で、三人はどうするのかしら?」

 

旅支度をしている傍ら、雫はハジメと香織、ユエに尋ねる。

 

「来さんについて行くかどうかよ。まぁ、お二人は言うまでもないみたいだけど」

「お見通しってわけか」

「雫ちゃんはどうなの?」

 

雫自身はどうなのかと香織に聞かれ、少しの間考える。

 

(私は、香織がハジメ君に付いて行くなら一緒に行こうと思ってる。でも、やっぱり光輝が心配なのよね。勇者パーティーから二人も抜けるとなると負担も大きくなるだろうし……私だけでも残るべきなのかしら。だけど……)

 

自分達はあの時よりも強くなったと思っていたが、先程の戦いで上には上があることを思い知った。

 

未だ答えを出せていない雫に対し、ユエは言葉を投げかけた。

 

「……大切なもの同士で葛藤してるなら、私はより大切な方を選ぶ。雫は雫のしたいようにするといい」

 

あくまでユエはユエ自身の考えを言っただけで、選択肢は雫自身に委ねた。

 

「私の……大切なもの……」

 

どちらかしか選べないのなら、より大切なものを選ぶというユエの言葉に、雫の迷いは断ち切られた。

 

「ハジメ君、香織、ユエ」

 

三人の名を呼ぶ雫に、三人は振り向く。

 

「私も……付いて行くわ。何よりも香織が大切だもの」

「雫ちゃん……」

 

自分も付いて行くと意思表示したのち、龍太郎の方を向いて話す。

 

「龍太郎、私はこれから修練の旅に香織達と一緒に行くから、戻って来るまで光輝のこと頼むわね」

 

雫は完全にパーティーから抜けようとは思っていない。ただ、修練を積んで強くなってから戻って来ようとは思っている。

 

「……ああ。任せてくれ」

 

基本脳筋である龍太郎だが、意外に理性的な一面も持っている。それは友の性格の残滓という形ではあるが、それでも光輝のストッパー役には十分だろうと雫は判断したのだ。

 

それぞれの思いを胸に、四人は来達の許へと歩き出す。

 

 

 

「四人共どうしたんだ?」

「何か言いたいことでもあるの?」

 

こちらを見る二人に、四人は意思表示をする。

 

「俺達も、一緒に旅に行かせてくれ」

「さっきの戦いで、私達は己の弱さを痛感したわ。だから、修練の為にも私達も連れて行って欲しいの」

「私はハジメくんが行きたいなら付いて行くって決めてるから」

「……ん。右に同じ」

 

ハジメの方は大体予想はついていたが、まさか香織と雫、ユエもとは思ってもみなかった。

 

「本当にいいの? 勇者組から二人メンバーが抜けることになるけど……」

「私はある程度修練を積んだら、光輝達のところに戻ろうと思ってるわ。具体的にはそうね……迷宮をもう二つ攻略したら、でどうかしら?」

 

迷宮を二つ攻略した後に雫は元のパーティーに戻ると聞いて、香織は寂しそうな顔をする。

 

「香織、貴女にはハジメ君がいるでしょう? 私と同じかそれ以上に大事な人がいるんだから、私のことは心配しなくていいわよ。ということでハジメ君、その時は香織のこと宜しく」

「雫は香織の母親かよ……まぁ、俺ももう守られるだけの存在じゃないしな。互いに守り合いながらやっていくよ。そこの二人みたいにな」

「人前でいちゃつくのも程々にしてね」

「お前ら二人が言うか」

 

四人の意思を聞いて、来と膵花は互いに顔を見合わせる。そして軽く頷き、再び四人に顔を向ける。

 

「いいよ。纏めて面倒見てやるからさ」

「これから宜しくね。四人共」

 

こうして四人の加入が決まった。一行はそれぞれ乗り物を出す。

 

ハジメ、香織、雫、ユエは四輪に、来、膵花、シア、ミレディ、ティオ、ミュウは〝弩空〟に搭乗して、町を発った。

 

空は快晴。次なる目的地はグリューエン大火山である。




雫が来に付けようと思っていた二つ名

「燼滅刃」、「天眼」、「青電主」、「金雷公」、「白疾風」、「矛砕」、「鎧裂」


第五十二陣 清めの黒刀

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  • 無限列車編まで
  • 無限城戦手前
  • 完結後

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