滑らかに海を走る
しばらく海を航行していると、
「ムサシ!ムサシ!隣におっきいドラゴンが!」
「テンダーネスドラゴンでち。武蔵!海に出てもいいでちか?」
「構わんぞ。私も会いたいから降りようか」
「おおーやっぱり来るんだな、アイツ。ほんとに人懐っこいなあ」
「当然だ。この子は街ぐるみでずっと大事に大事にされてきた。守り神としてな。初見の船なら兎も角
きゅるるー!と鳴き声が聞こえる。ははは、ゴーヤが乗っているのがわかったのか?仲がいいからな、ゴーヤとテンちゃんは。
「いまいくでちー!」
「さ、私たちもいこうか。アクアたちはどうする?」
「暇だしいくわ!」
「私は看守の手伝いを頼まれたから残ろう。めぐみんはどうするのだ?」
「反射的に爆裂しそうになったらいけないので残ります」
「何だその理由は・・・まあいい、ダクネスよろしく頼む」
「ああ、任せておけ」
めぐみんとダクネスを置いて操舵室を後にする。ゴーヤはでちでちと歌いながら上機嫌で甲板まで走っていき、遅れて私たちも甲板に出た。
「テンちゃーん!!ひさしぶりでちー!」
素早く艤装を展開したゴーヤが
「カズマ、そう心配しなくていい。私と同じで彼女も艦娘だということはわかってるのだろう?」
「あ、そっか。海の上に立てるんだったっけ「いや、立てないが」だめじゃん!?縄梯子と浮き輪どこだ!?」
「まあ落ち着け。私が戦艦武蔵の艦娘だとするなら彼女は伊号型潜水艦、伊58の艦娘だ。つまり彼女は海に潜れるのだ。無呼吸で3日は潜ってられるぞ?」
「へー私も水の中にずっと潜ってられるけどあんたたちのカガクギジュツ?ってやつも大したものじゃないの。こんなおっきい船とか海の中をずっと移動できるものとか」
「そういえばお前水の女神だったな、忘れてたけど」
「なんですってー!」
カズマとアクアが遊んでいると海面が持ち上がりテンちゃんが長い頸をもたげてこちらに寄せてきた。その頭の上には満面の笑みで艤装・・・といってもスクール水着にセーラー服の上、桜を模したカチューシャをつけたゴーヤがいた。水にぬれたおかげでぴったりと肌に吸い付いたそれらはゴーヤの着やせするボディラインを扇情的に演出してる。
「・・・・」
「カズマ、鼻の下が伸びてるぞ。私ならまだ許せるがゴーヤに何かあれば・・・覚悟しておけ」
「・・・スイマセン」
「よろしい」
「・・・ロリマさん」
「・・・ちくしょう」
自業自得だカズマ。キャッキャと喜んでるゴーヤと嬉しそうなテンちゃんを見てるといまだ仕事中だということを忘れてしまう。こちらに寄せた鼻面を撫でてやり、くるるるると嬉しそうに鳴いてるテンちゃんをカズマは楽しそうに、アクアはおっかなびっくり撫でてやってる。あ、アクアが顔を咥えられた。
「アクアーっ!?」
「いたずらだよ。私もやられたことはあるが・・・相当気に入られたのだと思う。それにしてもカエルに引き続いてなんだかアクアはぬるぬるになることが多いな?」
「水の女神だからじゃないか?」
「面倒になったからって適当言ってるだろう?」
「あ、バレた?あいつがカエルに食われるのはもはや様式美だしなあ。テンちゃんでもそうなったかって感じなんだよ」
顔を引き抜いたアクアがテンちゃんに対してガミガミ文句を垂れているが・・・テンちゃんは楽しそうに口でアクアの服を引っ張り海に引きずり込んだ。ああ、ゴーヤと同じだと思ってるのか。それで一緒に泳いでほしいと甘えてるわけだな?本能というのは馬鹿にできないな、実際アクアが言うには水の中でも行動できるそうなのだから。
「よしカズマ!私たちもいくぞ!」
アクアが泣きわめきながら海に引きずり込まれるのを死んだ目で見ていたカズマに声をかけてひっつかみ、私も海に落ちる。と言ってもゴーヤみたいに泳げるわけでも呼吸なしでいられるわけでもないから海の上に着水して艤装を背負ってカズマを乗っける。
「いきなり何するんだよ・・・」
「はっはっは。まあたまには面白いだろう?ほら、下を見てみろ」
私が下を見るのに習い、カズマも下を見ると、そこにはまさしくファンタジーの世界が広がっていた。
海面下では透明度の高いエメラルドグリーンの海の下でアクアが膜のようなものに包まれながらテンちゃんに文句を言いつつも泳いでいた。ゴーヤは私たちの周りを泳ぎ回りながら海中でアクアとテンちゃんに構ってもらえて楽しそうだ。中に参加できないのは残念だが・・・まあ見てるだけでも楽しいだろう。
まるで一つの絵画のような光景にしばし目を奪われていたカズマだったが、ハッと意識を取り戻しかぶりをふる。見とれていたのが恥ずかしいらしい。赤くなってまあ・・・ふふっ。
「駄女神に目を奪われるなんて・・・不覚だ」
「そんなこと言ってやるな。見てくれは間違いなく女神なのだから、それっぽくやってれば美しく見えるのは当然さ」
「中身が伴っていればこの悔しさも消えるんだろうけどな」
「皮肉屋め。たまには素直にアクアに構ってやれ、どんな経緯であれ連れてきたのはお前だ。お前には他のものもあるかもしれないが、彼女にとって第一にしなきゃいけないのはお前なんだぞ?魔王の討伐に興味がないなら、帰れなくなる彼女へ責任をとるのはお前だ」
「そうか・・・そうだよなあ。あいつ、家に帰れなくなったんだよな・・・俺のせいで」
「わかってるならいい。お前が生活するうえでアクアとお前は一蓮托生、お互い勝手にやれではすまされん。無意識かどうかは知らないが、彼女はお前に捨てられまいとしているだろう?お前の言葉にもめげることなくお前にしがみつこうとしている。その意味を、よく考えてやれ」
ゴーヤに抱き着かれて嫌がりながらもころころと笑っているアクアを見ながら、私はカズマにそう忠告するのだった。縄張りから外れつつあることを悟ったテンちゃんが離れていくのを見つめながら難しい顔をしたカズマがぽつりとこう漏らした。
「俺、あいつが本当に俺のためになんかやってるの見たことない」
「台無しだ馬鹿者」
冬将軍に殺された時天界のルールを破って生き返らせてもらったのではなかったのか、カズマよ。
と、そんなことがあったのが昨日の話だ。結局あの後何事もなく航海は順調に進み当たり前のようにアルカンシア周辺の海域まで航行することが出来た。ここからはモンスターの襲来に警戒しながら慎重に船を進めなければならない。
「ゴーヤ、ここから3時間おきにソナーで周囲を探索してくれ、休憩は随時とってもらっていい。通信はつなげっぱなしで頼む」
「わかったでち。じゃあ早速行ってくるでち」
ゴーヤが甲板から海に飛び込みほどなくして繋いだ通信からポーン・・・ポーン・・とソナーの音が響きだした。私は通信がつながったことを確認し続けてアクアに指示を出す。
「アクア、甲板に書いた結界を作動させてきてくれ。ここからが正念場だぞ」
「ええ、任せなさい!アンデッドなんて通してやらないんだから!行くわよカズマ!」
「なんで俺も・・・」
そう言って甲板にアクアとカズマが連れたって出ていった。めぐみんとダクネスは昨日遅くまで働いたから昼まで休みだ。囚人たちはおとなしくしてるし人手は足りてるからな、全く問題ない。
ほどなくして甲板が光り輝き、一瞬だけ波動のようなものが肌を叩き、薄い光の膜が
アクアの結界の発動から3時間ほどたった。モンスターの襲撃もなく、海が荒れる様子もない。西向きの風が吹いているが転覆だとかそう言った心配をするレベルでもなし、平和すぎるほど平和だ・・・いっそ不気味なくらいに。
心配性か?と考えてると再度潜っていたゴーヤから入電があると同時にソナーが異常音を発し始めた。
「武蔵!敵襲でち!・・・すごくおっきいものが7つ、こちらに向かってくるでち!幸いそんなに早くないでち。迎撃するでち?」
「こちらでも確認した・・・おおよそ
「了解でち!先制雷撃、はじめます!甲標的、始動!続けて魚雷4本を斉射でち!」
ゴーヤがいるであろう場所から5つの軌跡がそれぞれ別方向に走り、うち一つは途中で2又に分かれた。おおよそ2kmほどを進み分散して海面が爆発を起こす。爆発は6つ、すべて当てたな?
「報告でち、敵存在6体すべてに命中、撃沈を確認したでち。続けて最後の一つに対して・・・!?加速したでち!おおよそ13秒後北北東に浮上するでち!」
「よくやった。あとは私がやろう。主砲壱番と参番を北北東へ、取舵一杯!装填急げ!・・・会敵するぞ・・・3・・2・・1・・・今!」
ゴーヤの報告通り北北東の海面が上がり、中から巨大なイカが現れた。クラーケンだったのか・・・!クラーケンはいくつもある触手を必死そうに伸ばして
「触腕を近づけるな!装填まで15秒、副砲の使用を許可する!」
装備した機関銃と副砲が火を噴き、クラーケンの触手をちぎり飛ばしながら後ろに後ずさりさせる。主砲の装填が完了した!考えるのは後だ!
「装填よし!甲板上の妖精さんは避難急げ!主砲掃射まで5、4,3,2,1・・・・撃て!」
この前のキャベツ収穫祭で撃った時とは比べ物にならない轟音が響き、クラーケンは体のいたるところに大きな風穴を開け沈んでいった。こっちでも電探を確認するが・・・感なし。とりあえずはしのげたようだ。しかし、クラーケン・・・深海にいるモンスターのはずだ。それがなぜこんな船が浮く浅瀬まで出てきたんだ?
「武蔵さん!いまのは!?」
「カズマか。敵襲だったんだが・・・少し気にかかることがあってな・・・ゴーヤ、戻ってこい」
「あいまむ!でち」
電探を気にしながら艦橋に駆け込んできたカズマたちに飲み物を妖精さんにお願いして準備する。作戦会議用のテーブルに戻ってきたゴーヤを含めて着席したのを確認して口火を切る。
「まずさっきの敵襲、カズマたちも見たと思うがクラーケンだった。ゴーヤ、ソナーで確認した影は同じものだったな?」
「目視ではきつかったでちがソナーの影は似たようなものだったでち」
「てことはすべてクラーケン・・・群れるモンスターではないはずなんだが・・・?」
「えっと・・・あの・・・それが何か問題が・・・?」
「そうだな、めぐみん。まず、あのクラーケンというモンスターは普段は深海にすみ、一匹で生活している。それがこんな浅瀬に上がってきたうえに群れを成していたとすれば・・・何かおかしいと思うだろ?」
「単純に私たちという大きい船を見つけて寄ってきただけではないのか?」
「そうだといいのだが・・・」
あの必死すぎる逃げ方・・・どうしても気にかかる・・・そう思ってるとアクアが目を泳がせ、冷や汗を流しながら挙動不審になり吹けていない口笛をひゅーひゅー吹いていた。・・ほう?何か知ってるなコイツ。
「おい駄女神。お前なんか知ってるだろ。怒らないから言ってみろ」
「・・・ほんとに?」
「なにか知ってるなら教えてくれ。全員の安全にかかわることだ」
アクアはおろおろしながら説明しだした。
「えっと・・・ね?結界のせいだと思うのよ。別に結界に不備があるわけじゃないわ!でも、不備がなかったからいけなかったのよ」
「そりゃどういう意味だよ」
魔法に詳しいめぐみんは納得したようだが私含めそれ以外はわからなかったのでカズマが疑問符を浮かべながら続きを促した。
「話したと思うけど張っている結界はすごく強力なものよ。私の全力だわ。でも同時に、すごく強力なプラスの力の塊でもあるの。アンデッドのあん畜生は逃げかえるけど・・・もしかしたら私の結界より力を持っているモンスターにとっては・・・魅力的な餌に見えるのかも」
「待てアクア、それではクラーケンの異常に説明がつかない。クラーケンは魔力もないデカブツのはずだ。魔力を感知しているわけではないのではないか?」
「違いますダクネス。おそらく本命はクラーケンではありません」
「ええ、そうよ。だから私が考えてるのは・・・・」
アクアが確信に切り込もうとしたとき、海が異常に波立てだした。と同時に私はあることに気付く、クラーケンはアクアの結界にあらがえるほど強いモンスターではない、そしてあのどこかから逃げてきた様子・・・つまり、「自分よりよほど強力な相手」からクラーケンは逃げてきたのか!
海が割れる、
「こいつが本命か!」
「でかいでち!?」
「ねえカズマ、私が冬将軍の時に言ったこと覚えてるかしら?」
「ああ!?んだよこんな時に!?えーと、確か
アクアが半泣きになりながらやけくそに言い捨てる。
「ええ!その通りよ!コイツはあんたたちが海と言えば、とかそういう思い込みとか見間違いが集まってできたモンスター・・・!」
海の中から上半身を出して直立する半透明のシカを擬人化したような巨人がゆったりとした動きでこちらを見据えた。
「ダイダラボッチよ!」
ダイダラボッチはジブリのアレを想像してくれれば大体あってます。
海のでかいやつと言えば→海坊主→巨人→ダイダラボッチ→ジブリみたいな感じだと思ってください。全部転生者のせい。
次回また一人転生者を出してみようと思います。
興味がある話に投票してくれたら嬉しいなー
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