今週もどうにか投稿できました。
今回もよろしくお願いいたします。
『転球法・六花ノ陣』―――それは六つの鉄球がそれぞれ『禍境』を展開し、周囲の物体を操る伐刀絶技。
その真髄は領域円が重なり合うことでその中心点に発生する『極大の捻れ』―――膨大な回転エネルギーを一点に生み出すことにある。
その威力は人体など容易くねじ切りほど。
たとえ格上相手であろうとも通じるはずの奥の手の一つ―――
「ぐぅああ……ッ!!」
―――しかし、それでもまだヴァレンシュタインは健在であった。
「ふ、ぅっ……くおぉお……っ!」
囚われた右腕に渾身の力を込め、情け容赦なくねじ切ろうとする力に抗う。相手が技を行使するよりほんの一瞬早く身体強化を施したことで何とか拮抗できてはいるが、ヴァレンシュタインはそれが長くは続かないことがこれまでの経験で分かっていた。
それほどの力。
こんなものに対面したのはいつ以来だったか。
そんなことを考えている間にも尋常ではない痛みが絶え間なく生じ、脂汗が全身をどくどくと流れていく。
「このっ、クソガキめ……ッ!」
所詮は子供と下に見ていたことがまさかここまでの結果を生むとは思わなかった。今考えると行動の全てがここに繋げるためにあったようにしか思えない程淀みないもの、完全にしてやられた形である。
実際のところこの読みはほとんど正解といってもいい。
―――浩太郎が最初に放った鉄球が地面に突き刺さるよう軌道を変えたとき、この時既に他の鉄球は動き出していた。もう片方の手から落とされた鉄球によって他の鉄球が弾き出され、二つはヴァレンシュタインの左右に、残りの二つは後方へと送り込まれた。
それによって繰り出された攻撃はヴァレンシュタインに痛打を与ええらなかったが、それはそこまで問題ではない。
肝心なのは
六角形を描くように配置された鉄球は主人の思惑通りの効果を発揮し、見事格上の相手を罠に嵌めることに成功していた。
「最初からこれが狙いだったか……っ!」
「というよりは、これしかなかったというべきでしょう」
……とはいえ浩太郎にも甘い思惑がなかったわけでもない。
彼にとっても風刃と水弾の連撃を完全に凌がれるのは予想外であったのだ。たとえ致命傷とはいわずとも手傷の一つでもと期待していたが―――しかし囲いを切り裂いて現れたヴァレンシュタインの傷一つない姿を目にした瞬間、驚愕すると共にこの攻撃では全くダメージを与えられないことを冷静に悟った。
相手の能力が自身の物理攻撃に勝るっているのだと判断し、相手が次の行動を起こす前に攻撃の種類を変える必要があると考えた浩太郎はほぼ反射的に奥の手である『六花ノ陣』の極転を使用したのだった。
(さて、拘束はできたものの……どうする?)
咄嗟の判断で硬直状態は作れたはしたが、依然として決めてに欠ける。このまま右腕をねじ切ってしまえるのならいいのだが、それをする前にこの状況を切り抜けられる可能性の方が大きいはず。現に相手の抵抗を突破しようと魔力を送り続けているが、一向に有利になる様子がない。
今相手を押さえ付けることができているのは情報不足の隙を突き、先手を打てていたからだ。相手が手札を切る前に勝負を着けなければ手に入れた薄い勝機を逃すことになるだろう。
しかしこの技は一点集中に特化しているため、他の技を使うことはできない。出力もまた、これ以上を出そうとすれば制御に乱れが生じる可能性がある。
危うい均衡の上に成り立っている現状、無茶な行動はできない。
お互いに余裕がない中、能力の維持に集中する浩太郎は頭の隅で相手の能力について思考を巡らしていた。
思い返すのは先程の攻防。
奴はどうやって自分の攻撃を凌いだのだろう?
相手がこちらの攻撃に干渉したわけではないのは感覚としてわかっている。そんな能力があればこの状況からすぐにでも逃れているはずだ。
であれば能力は自身に掛けたと考えるべきだろう。
記憶している映像を脳内で繰り返す。
何かヒントになるものはないかと隅々まで注意して。
繰り返し、
繰り返し、
繰り返し繰り返し繰り返し……―――
「……もしや、摩擦か?」
「ほう……! あの程度の攻防で見抜くか……!!」
その果てに到った半ば確信に近い呟き、小さな声量であったがどうやら相手にも聞こえていたようだった。
その通りだと―――それが俺の能力だと実にあっさりとそれを認めたヴァレンシュタイン、しかし自身の能力がバレたというのに焦る様子は微塵もない。
それくらいのことがバレた程度でどうにかなるような実力ではないという、長く戦場で勝ち残ってきた自信からの発言であった。
「だが分かったところでどうにもなるまい! お前もどうやらこれ以上の追撃は出来んようだな!
だが俺は違う、使える手段をまだ残してある!
―――何も俺が島民を直接殺す必要はないんだからな!!」
ヴァレンシュタインのこの発言にさしもの浩太郎も困惑する。
敵の手勢は確実に潰し、動ける者などいるはずはないというのに何を言っているのか?
しかしそれも一瞬のこと、この言葉の意図に気付いた浩太郎ははっとヴァレンシュタインから視線を外し彼の後方を見た。
「馬鹿な、いないだと……」
そこに寝転がっているはずの敵の兵士たち。
その姿がこれっぽっちも見当たらないのだ。
これは夜の暗闇に紛れているなどという下らない理由ではなく、全くもって影も形も存在していない。
やや呆然とし、急速に回転した思考がその理由が自身の見落としにあったことを示し浩太郎は愕然とした。
「そうか、
よくよく考えてみればおかしいことがあった。
最初に敵が上陸してきたとき、奴らはこの時すでに『禍境』の範囲内に踏み込んでいたのだ。
当然数を間違えるわけはなく、やってきた敵を全て無力化したと確認してから浩太郎は姿を表した。
しかしこのとき、浩太郎は自分を見ている視線を感じた。
それがヴァレンシュタインのものだと思っていたが、実際はそれだけではなかったのだ。
―――何故ならヴァレンシュタインは、
「摩擦ではあのようなことはできない……もう一人、そいつが兵士たちを連れていったのか」
おそらくそいつは『影使い』とでもいうべき存在なのだろう。
予想に過ぎないが、影の中に身を隠すことができるのならば影伝いに移動をすることも可能なのかもしれない。
そして時間は夜、月明かりに照らされようとも世界は日の当たらぬ影に支配されている。
これほど絶好の条件が整っているのだ、十数人程度運び出すことなど容易のはず。
「出し抜かれたのは自分もだったということか」
「何だ、あんまり驚いてくれてるわけじゃないっぽいな。
でもこれで少なくともこちらに天秤は傾いたと見ていい、気付け薬を投与するようにも言っておいた。何をしたのかは分からんがもうじき全員目を覚ます。
そうしたら島の連中は終わりだ」
精神的な余裕が出来たためか、口調にも幾ぶんか饒舌さが戻ってきているヴァレンシュタイン。
このまま拘束を続ければ島民が死に。
助けに向かうためには拘束を解かねばならない。
どちらを選んでも浩太郎にとって最悪の結果となることだろう。
この悪夢の二者択一を突きつけられた浩太郎。
並みの人間なら精神に揺らぎが生じそうな状況において―――
「―――そうだな、自分もまだまだ未熟ということか」
全くもって、これっぽっちも焦っていなかった。
「は?」
これには逆に、優位に立ったはずのヴァレンシュタインの方が度肝を抜かれてしまった。
罵倒の一つでも飛んでくるだろうと思っていた彼にとって、浩太郎のこの冷静な態度は意味の分からないものであったからだ。あまつさえ自身の力不足を認めるような発言、この危機的状況ですることではない。
「な、なにを……」
「こうならないよう、最大限警戒したつもりではあったのだがな。結果がこれではお粗末極まりない
情けない限りだ、大口を叩いた自分が恥ずかしい」
「何を、何を言っているんだお前は!!」
ヴァレンシュタインは叫ぶ。
逆転したはずだ、今度優位に立ったのは自分だ。
そのはずなのに何故お前は揺るがないのだと、そんな疑念の感情を込めて叫んだ。その姿は傲岸不遜であった先程までの威勢をなくし、理解できないものへの恐怖に彩られている。
そんな醜態を晒すヴァレンシュタインへ向けて、今なお凪の湖面の如き静けさで佇む浩太郎は告げる。
「何、簡単なことだ。
元から貴殿らの相手は自分一人でするつもりではあったが、もしもの場合を考えなかったわけではない。
今のような状況となってしまえば自分に対処できなくなるのは自明の理、そのことを想定して一人―――助っ人を呼んでおいただけのこと。
―――そしてその助っ人は、こういう多人数を相手に真価を発揮するお方だ」
「―――ぎゃああああああ!!!」
「―――いたい、痛いぃいい!!!」
「―――あああああああああああ!!!」
叫び。
叫び。
叫びの連鎖。
身体を貫く痛みに呻き、地を転げ手足を振り回す。
それすらできぬ者は声も挙げられず、ただ踞るのみ。
島民の殺害を命じられた彼ら『解放軍』の兵士たちはしかし、その任を果たす前に既に失敗していた。
それも―――たった一人の妨害によって。
「―――うーん、まだ叫べる元気があるなんて意外だわ。貴方たちが特別耐性があるのか……それとも私の方に問題があるのかしら? まあでも、焦っていたようで助かったわ。
散らばらず、一ヶ所に纏まってきてくれて」
―――だって私、あんまり広いと無差別にやってしまうんですもの。
夜の闇の中、浩太郎たちから離れた別の場所にて騒ぎ立てる不埒者たちを見下ろすは―――どこか物憂げな雰囲気を醸す女性の伐刀者。目の前の光景を作り出している本人でもある彼女はあまりにも戦闘には向かない服装を身に纏っていた。
まるで南の島へバカンスにでも来たかのような白い衣服、それに合わせたようなデザインのサンダル。
鍔の広い帽子を被り、一見すればどこかの令嬢かと見紛うこの女性。
しかしその手には―――幅広の刀身を持つ一振りの
彼女こそ、浩太郎が呼び寄せたもう一つの奥の手。
「
国家を揺るがす悪しき企みを挫くため、月下の島に参上である。
と、いうことで教師枠には折木有里さんを起用しました
二次創作でもあまりスポットが当たらない人ですが自分は好きです(鋼鉄の意思)
後は未来の破軍生徒を出すだけだ……
有里さん登場の諸々の謎については次回で明らかにします
島での話も後二話くらいで終わる予定なので本格的に原作に絡むのも時間だぞ?
それではまた次回お会いしましょう