最近の急激な気温の変化のせいか大分難儀しました。
たぶん後で手直しすると思いますがとりあえず投稿します
「―――そもそもの話をしよう」
浩太郎は絶句するヴァレンシュタインに向けて種明かしを開始する。そう、そもそもの話―――
「自分がこの島に来たのが四年前、そこからほんの三ヶ月ほど後から今日まで―――
―――その全てをこの時のために費やしてきた」
だから分かる、そう浩太郎は言う。
それが何を示しているのか理解できないヴァレンシュタインにとって、何か分からないがただただ恐ろしい。それはここしばらく感じたことがない感情だ。
それが一層思考を掻き乱し、正常な判断を彼から奪う。
その間にも浩太郎の説明は進む。
島民を虐殺するために送り込んだ兵士たちに、折木有里がどのように対処しているのかを。
「そうだな、あくまで予想でしかないが―――」
「―――ふぅ……こんなものかしら」
砂浜に崩れ落ちる兵士たちを見下ろし一息つく女性―――折木有里。破軍学園に教師として在籍しているはずの万年病弱な彼女は
そんな彼女の伐刀絶技『
その効果の程は見ての通り―――精強を誇る兵士たちは最早誰も声を挙げられなくなり、身体を動かすことも出来ずまさに死屍累々といった様相を呈している。
「―――……あの、大丈夫ですか?」
するとそこへ、制圧が終わったことを木陰に隠れるようにして伺っていた女の子が折木へと声を掛けてきた。
村の男衆の筆頭、東理雄の娘であるアイリスだ。この四年の間に成長し、更に女性さしさを増した姿となっている。
特にその胸部の成長は著しいと言わざる得ないだろう、明言はあえて避けるが年に不相応なほど。スラリとしたシルエットの中でそこだけ主張が激しくなっているとだけ言っておこう。
二人の出会いは数時間前、作戦の最終確認をしていた時のこと。
島民たちの前で行った説明の中で、もしもの時に備えての人員として紹介された。
アイリスはこのとき折木の体調が良くなかったことをずっと心配していて、我慢できずにこっそり見に来てしまっていたのだ。
「あら、アイリスちゃん。一人で勝手に出てきて……いけない子ね」
「ごめんなさい……でも、心配だったから」
それは折木からすれば無用な心配ではあるものの、少女の純粋な優しさは素直に嬉しい。
普通の人間であればこの状況でこんなことできないだろう。
危険と言われている場所に、ただ心配だったから出向くなどと。
それでも―――自分達の進退が決まる一夜において他者を労り慮る、その精神を折木は尊いと思う。
―――だからこそ、その思いを汚そうとする者を許すことはできない。
「ふふふ、ありがと。おねぇさんは大丈夫だから安心して待っていて。もうすぐあの子が決着をつけるはずよ、それまで―――」
―――カカカァアアンッ!!
「―――もう、邪魔しないでよね」
それは硬質な物体が衝突する音であった。
折木のアイリスへの言葉が言い終わる前にその背後から襲いかかった武器、それをカットラスが弾くことによって起こった音。
弾かれた武器が周辺へと刺さる。
形状は近いところでいうなら
しかし、本当に驚くべきところはそこではない。
「―――うぐぅ……!」
「影の中からか、本当に暗殺向きな能力ね」
兵士の影の中から飛来した短剣を弾いたのは折木―――ではなく。
一瞬にして現れた、どこかしら折木に似た雰囲気を持つ
身の丈に相応しい大きさのカットラスを振るい、襲撃者と鍔迫り合いを行っている。
それが更に四体。
二人を背後に庇うようにしてようにして襲撃者に相対する。
「
影法師の圧に耐える襲撃者は知るよしもないだろう、この技が本来あり得ないものであることに。
しかしそれをわざわざ告げることもない。
敵に対し、そのような慈悲など持ち合わせていないからだ。
「ゆりちゃん!?」
「大丈夫よアイリスちゃん、安心して。
―――引き際を間違えたわね。
仲間が倒れたときに逃げていればまだ生還はできたでしょうに」
いきなりの強襲に驚きの声をあげるアイリス、それを押し止め攻撃の主へと言葉を掛ける。
しかし、襲撃者はその反応することはできない。
何故なら今まさに、
『血染めの海原』が範囲攻撃なのに対し、影法師は接触型の一点特化。出現させた数によって痛みの量は上下するが、最低でも『血染めの海原』の数倍はあるだろう。全力で使えばたとえ強力な伐刀者であろうとも強引に意識を刈り取ってしまうほど。
「クソッ……!!」
襲撃者もその危険性に身をもって気づいた。
身体の制御すらできなくなりそうなほどの激痛、もはやこれ以上は指示を続行できないと判断した瞬間、足元の影に身を隠して逃走を選ぶしか選択がなかった。
「……」
残されたのは意識を失い、地面に倒れ伏す兵士たち。
救助の時間すら惜しいとばかりに遠ざかっていく気配を確かめ、折木はようやく能力を解除したのだった。
(あとは頼んだわよ―――浩太郎くん)
「―――と、いうようなことに向こうはなっていることだろう。折木女史は責任感の強い御仁だ、必ずや島民の守護を成し遂げられるだろう」
「……こっちの認識不足が最大の敗因ということか」
つらつらと紡がれる鮮明な情景。
浩太郎の語る言葉はどれも説得力に溢れ、敵であるはずのヴァレンシュタインですら納得してしまうほどであった。
ようやくヴァレンシュタインは理解した。
見ていないにも関わらず、向こうの戦況をこうも言い当てる。
この推察力、およそ子供のものではない。
考えそのものが常人に収まっていないのだ。
そのことを知らずに勝手に過小評価し、御しやすい相手だと油断していた自分たちが後手後手に回るしかないのは当然のことであったのだ。
「どうやって連れてきた、そんな奴?」
「父の協力のお陰だ。護国、言ってしまえば国防について尽力してきたからな、そういったところに顔が利く。折木女史もその関係で紹介された、こればかりは自分だけではできなかったからな。
お前たちの作戦決行に合わせ秘密裏に上陸してもらった、病気の問題もあったが自分が症状を抑えている。流石に何日も献血できるような設備は用意できなかったのでな。
ああ、連絡手段についてはお前たちが島に運び込んだものを利用させてもらった。
月一の商人では心もとなかったからな」
「……なんだ、それは」
こういうときに開いた口が塞がらないというのだろうと、ヴァレンシュタインは思った。
デタラメが過ぎる、こんな方法で問題を解決するなど誰が想像できるというのだ。
こんな突飛な発想ができるような奴を今まで格下と誤認させられてきた、これは単に島民の反抗を考えてこなかったことに問題がある。
結局は―――自分でも思わぬ内に思考停止をしていたということだ。
相手を舐め、余裕で勝てると思い何の対策もしてこなかった自分たちがここまで追い込まれてしまうのは当然の帰結というものなのだ。
「―――だが、まだだ」
しかし、ヴァレンシュタインはそれで諦めるような男ではない。
「まだここでお前を下すことができさえすれば、まだ逆転の目は残ってる―――そうすれば小僧!! お前の全ての企みが塵と化す!!
この俺が伊達で幹部の座についているわけではないことを教えてやる!!」
そういってヴァレンシュタインの全身に―――魔力の満ちる。
命すら犠牲にした後先考えない全力の魔力運用によって瞬間的に身体能力を激増させたのだ。それによってヴァレンシュタインは浩太郎の拘束を引きちぎり、右腕をズタズタにしながらも『禍境』の圏内から脱出した。
浩太郎もただそれを見ていたわけではなかった。
その行動を遮るようにもう一度極転を構築しようとし―――しかし思うように鉄球が動かないことに気が逸れてしまう。
それが地面の摩擦をなくすヴァレンシュタインの妨害であると気付くが時すでに遅く、大きく距離を取ったヴァレンシュタインは大剣を構えていた。
「見せてやろう!!これが俺の最強の一撃!!
お前ごとこんな島―――跡形もなく消し去ってやるわ―――!!!」
―――扱う術理は極限摩擦
―――放つは大振り躊躇なく
―――放つは究極の斬撃
「『
それを前にして浩太郎は―――
「―――是非もなし、【
―――その一撃を受け入れた。