剣士だとでも思ったか?   作:アゲイン

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どうも、作者です。
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
島の戦いはこれでおしまい。

今回もよろしくお願いいたします。



戦闘回が一話で終わるとでも思ったか? その5

 

 

 ヴァレンシュタインが放った必殺技、極限摩擦を利用した『山斬り』―――本来であれば浩太郎のみならずそのまま島の地盤まで斬り裂くほどの威力を持っていた。しかし右腕の負傷、魔力の消耗に加え精神的動揺よってその威力は著しく減衰、本来の半分程度しか発揮できていなかった。

 だがそれで十分。

 元より人など紙っぺらの如く容易く両断する絶技、自身のもっとも得意とする一撃にヴァレンシュタインは確信をもって敵の撃破を夢想した。

 

 

 

 

 

 だが―――それは所詮、彼にとって都合のいい幻想に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――この技は、本来技とも呼べぬものを無理矢理にそう言っているだけのもの。幼少の頃に発現しはしたがあまりに危険故に、それ以降()()()()()()()()()()()()()()

 何せ“抜けばいずれ飲まれてしまう”ものでな―――」

 

 

 

 伐刀者の中でも上位に位置する強者の渾身の一撃。

 それは何にも阻まれることなく浩太郎へと打ち込まれたはずだった。

 しかし、実際にその一撃を身に受けたにも関わらず浩太郎には全くダメージは存在してはいない。

 それは彼がヴァレンシュタインの奥義に接触する前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「―――伐刀絶技(ノウブルアーツ)絶禍卍廻(ぜっかばんかい)孔魔深刃(こうましんじん)】」

 

 

 ヴァレンシュタインは最早何に驚けばいいのか分からなくなっていた。

 これまで散々掌の上で踊らされてきたが、それはあくまでこちらの行動を読んでのこと。事前準備が上手いこと嵌まったに過ぎないという、組織の作戦が阻まれただけであり、言ってしまえばヴァレンシュタイン個人での失敗ではない。

 いくら頭が回ろうとも、武芸者としての勝負であればこんな若造に負けるわけがない。

 この一撃で、終わらせるはずだった。

 しかしこれは何だ?

 これは一体、何だというのだ……!!

 

「馬鹿な、それは……()()()()()()……!!」

 

 

 

 目の前で起こったことを、嘘偽りなくいうならば。

 自身が放ったその、勝敗を決定着けるための一撃は。

 

 

 

 

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!!!

 

 

 

 

 

「我が霊装『絶禍』は“渦”への概念干渉能力を持つ。

 これまで見せた回転の技術はあくまでその性質の一つに過ぎず、その本質は“螺旋”にこそ存在している。

 とはいえこれもあくまで序の口、本番はここからだ」

 

 静かに語り始める浩太郎にヴァレンシュタインは反応ができない。

 目の前で行われた、あまりにも非現実的な現象に対して理解が追い付かないのだ。

 空間を直接ねじ曲げて開いた穴のようなもの、その中心に吸い込まれるようにして斬撃が消えていった。明らかに範囲外であったはずのところまでそれは及び、ヴァレンシュタインが放った奥義は何一つ傷つけることこなく無効化されたのだ。

 

 だがそれは両者の力量から考えればあり得ない現象、格上であるはずの自分の攻撃を完全に凌駕するなど一体どんな手段を……?

 現実に起こったことを認めきれず、ヴァレンシュタインは思考の底へと意識が沈む。戦闘中であるにも関わらず、あまりにも無防備な姿

を晒す彼を他所に、浩太郎の語りは進む。

 それは相対する者へ、せめてもの礼儀を示すかのように。

 

「螺旋は深きへ至る―――それは魔導においても例外ではない」

 

 見よ―――そういって浩太郎は抜き放った刀身の腹を見せる。

 一方は白刃、穢れなき白。

 一方は黒刃、侵されぬ黒。

 そして二刀両方に、同じように空く穴が三つ―――それらがまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

 

 

「見よ、此れなるは我が刃に宿りし()()()()()()()()()なり。我が魂より生じ、然れど我が身に納まりきらぬ異能の証。

 そして【絶禍卍廻・孔魔深刃】は、その(まがつ)を以て害意を退く」

 

 ―――こうしてな。

 

 そうして浩太郎は刃を手の中で回転させ、逆手に刀を持ち―――自分の腹部へと突き立てた。

 音一つなく深々と突き刺さる直刀、次の瞬間浩太郎の中心に爆発したかのような衝撃が周囲を揺らす。それは砂を巻き上げ海面を波立たせ、ヴァレンシュタインに襲いかかる。

 

「ぐおっ……!!」

 

 突然の強風に意識を叩き起こされたヴァレンシュタイン、咄嗟に腕で顔を庇う。強烈に身体を叩く風圧に全身に力を込めて抵抗する。

 数秒ほど暴風に晒された後、ようやく風が止む。

 解放された視界の先に存在していたもの、それは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――これを見せる敵はあなたが初めてだ。誇るがいい、ヴァレンシュタイン殿。

 こうまでせねば倒せぬ相手がよもやこうも早く現れるなど思ってもみなかったのでな」

 

 開けたヴァレンシュタインの視界の先、そこにいたのは()()()()()()()()()()()()()()()

 圧倒的な存在感で世界に君臨するかのように佇む男は只人というには難しい姿をしていた。

 

 

 上半身を外気に晒し、その裸体にはいくつかの黒点が生じている。それを繋ぐように同じく黒い線が体中を走っておりまるで星座のような紋様となっている。

 袴のようなものを履き、裸足で背後には自身の武器の特色を表すかの如く白黒の輪が一つ浮かんでいる。

 

 

 

「これこそ我が伐刀絶技が真髄―――【禍異人(カイジン)】たる姿である。

 荒れ狂う渦を御するためにはその流れの飲まれてはならず、渦そのものにならねばならない。そのために自分は我が身の内に刃を鎮めるに至った。

 この姿を見せた以上、最早勝敗は決した。

 

 

 ―――幕引きである」

 

 

 

 

 拍手。

 透き通る一拍が世界に響く。

 

「我は渦、害なる者尽くを討ち滅ぼす災禍の渦なり」

 

 

 

 拍手。

 白黒の輪が呼応する。

 

「善によって裁かず――悪によって罰せず――」

 

 

 

 拍手。

 黒点が生じ肥大する。

 

「護国がため、民草の安寧のため―――」

 

 

 

 手を開き、構える。

 三角の窓を作り、その先にいるヴァレンシュタインに視線を結ぶ。

 

 

 

 

 

「『天逆鉾(あまのさかほこ)』よ―――ここに出でよ」

 

 

 

 

 

 

 ―――そして黒光の槍は狙い誤ることなく放たれた。

 

 ヴァレンシュタインの反応できる速度を優に越すそれは、防ぐ手立ても何もかも置き去りにし彼を飲み込み―――砂浜から跡形もなく消し飛ばした。

 残るは焼けた砂と蒸発する海水。

 『隻腕の剣聖』と謳われた稀代の武芸者ヴァレンシュタイン。

 しかし規格外の力を発揮した浩太郎を前に、その武勇を示すことなく破れ去っていくのだった。

 

 

 

 

 ―――だが、これで話は終わらない。

 

 

 

 

 ヴァレンシュタインを消し飛ばした黒槍は勢いそのまま、軌道を急激に変え海面へと飛び込んだ。

 その向かう先は不倶戴天、島での戦いに痺れを切らしそうになっていた『解放軍』の兵士たちが乗り込む潜水艦である。

 いつまで経っても連絡がこないことに不信感を覚え初めていた艦長に、レーダーを見ていた観測主から声があがる。

 その報告を聞こうとした、その次の瞬間のことであった。

 

 

 ドッ…………!!!っと鈍い音がしかたと思うと警報が鳴り響き、艦内を振動が襲い始めた。

 その揺れは激しくなっていき、艦内にいた人員は誰一人立っていることができずに床へと転がる。

 黒槍によって潜水艦に穴が開き、浸水によって運行に障害が出ていたためのことであった。これだけならばまだ対処は可能な範囲であったが、続く現象によって完全にその希望は絶たれた。

 

 潜水艦の横っ腹を貫いた黒槍は海底へと突き刺さり、その形を元の黒点の玉へと戻す。するとまるで玉そのものが穴になったかのように周りのものを吸引し始めたのだ。

 海水、砂、土石、そして沈み始めた潜水艦。

 あまりにも強力なその力によって船は徐々にその形を崩していき、外装が剥がれたのを機に一気にその巨体が飲み込まれていったしまったのだった。

 そして全ての残骸を吸収した黒点はそのまま水中の闇に霞むように消えていく。

 

 

 

 ―――こうして浩太郎は使徒の一人ヴァレンシュタイン、原子力潜水艦という二つの脅威を取り除くことに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……上手くいったか」

 

  

 

 さて、場面を元に、浩太郎のいる場所へとも戻そう。

 浩太郎は自身の黒槍が無事外敵を取り除いたことを確認にそう呟いた。

 島に関わる存在、その一方はこれで片付いたといえる。

 まだ警戒しなければならないが、ここまで大規模の作戦をした後で直ぐに動けるとは思えない。

 だからこそ、今の内に次の手を打っておかなければ。

 

「―――浩太郎君、無事かしら?」

 

 考えに浸る浩太郎であったが、その背後から声が掛かる。

 聞き覚えのある声に浩太郎は思考を止め、声がした方へと体の向きを変えた。

 

「折木女史か、世話を掛けるが心配は無用だ」

 

「ふふ、そうだとは思ったけど一応ね」

 

 戦いの気配がなくなったことに気づいた折木が拘束した兵士たちを島民たちに任せ様子を見に来ていたのだ。当然危険がないように兵士たちは厳重に手足を縛り、ついでとばかりに砂に埋まってもらっている。

 そんなことよりも、といった感じで折木は話を始める。

 その対象は目の前の人物についてだ。

 

「しかし本当に、あなたって規格外なのね。

 まさかこんな隠し玉があるなんて、私を治したときのものでこんなこともできるのなんて思いもよらなかったわ」

 

 浩太郎の変身した姿を懐かしいもののように見る折木。

 実際、折木が恩師の願いを受け浩太郎と出会った時と合わせてこの姿を見るのは二回目になる。

 その時に発揮した力がまさかこのようなことにまで使えるものとは思ってもみなかったため、涼しげな表情の反面内心でかなり驚いている。

 しかし、本当に驚くのはここからだというのを彼女は知らない。

 

「敵は全て無力化した、だが最後の仕上げが残っている」

 

 

 拍手。

 白黒の輪に、今度は白点が灯る。

 折木にはそれが何か分からない、分からないが、

 

(―――何だろう、なんだか強い力を感じる)

 

 

 

 拍手。

 輪が独りでに前へと動き、地面と平行に横たわる。

 

「我は渦、災禍の化身。されどそれだけの存在に非ず、慈悲をもってここに変革を望むなり」

 

 

 

 拍手。

 手を開き、地へと構える。

 見据えるは地下深く、島の根とも言える所。

 

「最古の神話をここに、国を生む神の御技をここに―――『天沼鉾(あまのぬまほこ)』よ、大地を起こせ―――!!!」

 

 

 

 烈拍の気合いと共に放たれた白槍。

 それは深く、深く、大地の底へと進んでいく。

 やがてある程度の深度に到達した白槍は、その地点を中心に渦を巻き始めた。

 次第に大きく、大きくなっていく螺旋模様。

 それが島の大きさを越え、更に広がっていき遂には三倍はあろうかという大きさの円にまで広がった。

 そして始まったのは緩やかな岩盤の隆起である。

 白の螺旋が円錐を形作るようにして、上にある島ごと大地をゆるゆると押し上げていくのだ。

 

 

 

 その影響は地上にも出始めた。

 揺れる地面、高波を発生させる海。

 急激な地形の変化にあわや天変地異かと思う折木や島民たち。しかし実際には人災によるものだが規模が違う。

 荒れに荒れる海原が、嵐もないのに猛り狂う。しかし不思議なことにどれほどの波が発生したとしてもそれは数メートルほど進んだところで元に戻ってしまうのだ。

 何とも不思議な大災害、これもまた浩太郎の仕業であった。何と彼は波の力を大地を通じて吸収し、押し上げる力へと変換していたのだ。

 言うなれば『循環』―――これもまた絶禍が持つ“渦”の概念を応用したものである。

 浩太郎は大隆起を推し進め、細心の注意を向け力を行使する。

 それは時間にして一時間ほど続き―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――翌朝、日本国民は驚愕に目を見開くことになる。

 

 何と日本の領海内でそれまで確認されていなかった全く新しい島が出来ているという報道が様々な報道局からニュースとして知らされたからである。

 このことに関係各所は右往左往駆け回り、真実の究明がされようとしたが高度に政治的な判断がされたために情報の開示は時間をおいてのこととなるのだった。

 その間に政治家のスキャンダルなどが立て続けに起き、島の話題が登るころになるとそこまで注目されることはなかった。

 これもまた浩太郎たちの工作によるものだったが、それを知る者は少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――こうして伊座ノ神島を巡る戦いは一先ずの終着を迎えるのだった。

 これを機にまた厄介なことになる浩太郎であったが負けることはない。護国の志がある限り、守るべき存在がいる限り。

 




読了ありがとうございました。
閑話を挟み学園編を開始する予定です。
それではまた。
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