藤原千花は愛されたい〜天然彼女の恋愛無脳戦〜 作:なでしこ
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秀知院学園の生徒会。曲者揃いの生徒を束ねる学園の心臓部。その活動は一年単位で進められ、活動終了と同時に「新生徒会長」の立候補を募る。投票日には全校生徒の前で演説も行われ、その一年、学校の顔となる人間を選出するのだ。
他校の生徒会とはまるで違う。生徒会の行動が学校の行動。学校の行動が、親の行動になるのだ。背負うものが違う。子息のふざけた行為で親の勤務地が変わることだってあるのだ。したがって、好い加減に投票する生徒は誰一人居ない。
夏休みが終わり、二学期。
白銀御行を生徒会長とする「第67期生徒会」は、活動最終日を迎えていた。彼らもまた、学校の顔として堂々たる立ち振る舞いをしてきた。特に、白銀は一般入学での会長就任。風当たりは強かったが、それを見事に跳ね除けた。
繰り返す。生徒会の行動は学校の顔、とは言うが。
「会長〜後片付け面倒になってきました」
「最後までしっかりしろ。生徒会室にこんなゲーム類置いて行けるか」
「いやもういいんじゃないですか。社会への反逆の意味を込めて窓でも割っていきますか」
「ここは学校だ」
あくまでもそれは、校外向けの顔――――。
生徒会室の中での彼らは、基本ふざけている。無論仕事のために集まるのだが、書記の藤原千花が持ってきたゲームで遊んだり、生徒の恋バナ相談に乗ったり、恋愛頭脳戦が繰り広げられたり。この一室でとてつもなく濃い日々を過ごしてきたのだ。
「会長はもう立候補しないんですか?」
「まあな。もうこんな激務は懲り懲りだ」
この学校の生徒会長になるということ。将来の日本を背負う人間になるための第一歩なのだ。それだけの仕事量が降りてくるし、適切なペースで捌いていく必要がある。となれば、仕事を進められる効率性、知識、人望。全てを兼ね備えた人物でないと務まらない。やる気だけでどうにか出来るレベルじゃないのだ。
白銀も生徒会の仕事をこなしながらバイトに勉強に。一日24時間しかない中で、全てを取り組むにはどうしても時間が足りない。そこで導き出した結論は、自らの睡眠時間を削ること。そうやって一年間過ごしてきたのだ。
だがこのまま生徒会長の座を降りれば、四宮かぐやとの関係を断つことにもなる。会長と副会長。その肩書きがあったからこそ、話しかけることも出来たのだ。それが無くなった瞬間、これまで積み上げてきた関係性は水の泡である。クラスの違う二人が何かしらの口実をつけて話しかけに行く……なんて光景は想像するに値しない。何せその可能性はゼロなのだから。
「(そうなると四宮に会えない)」
「(会長と話す機会も無くなる)」
無論、両人がそれを理解していないわけがない。
この二人、今は生徒会のことよりも互いのことで頭がいっぱいであった。互いの接点が無くなることは、二人にとって死活問題。ただでさえ素直になれない両者の物理的な距離が離れれば、その先に待っているのは自然消滅だけ。それだけは何としても避けなければならないのだ。
「私が会長に立候補しようかなぁ〜」
「無理だと思います。止めた方がいいですよ」
「石上くんっていつもそうですよね。つまんないです」
「僕は学校の平和を守ったつもりだったんですけど」
――――非現実的である。
藤原千花が生徒会長。考えただけで思わず笑ってしまいそうになる白銀。そんな彼を横目に、会計・石上優はいつものように淡々と正論をぶつける。毎度のことだが、千花からの小言にもだいぶ慣れた。口に出さないだけで、白銀もかぐやもこれには同意であった。万が一にも千花が会長になれば、校内は色んな意味で荒れてしまうだろう。色んな意味で。
「石上くんが会長……は無理ですよねー」
「先輩に言われたくありません。仮に僕が会長になれば、まずカップル全員を別れさせますね」
「最低。最悪。高校生の敵です」
「これぐらいしないとあいつらは分かりませんよ」
――――非現実的である。
石上の青春ヘイトはかなり闇が深い。これは決して冗談なんかではない。彼は本気でやる。全力で青春を奪いに来る。万が一にも彼が生徒会長になれば、校内は色んな意味で荒れてしまうだろう。色んな意味で。
さりげない一言から始まった話。藤原千花と石上優が生徒会長。二人が就任しても、至る結論は同じ。
「ならかぐやさんが会長になったらどうですか?」
「私ですか?」
――――現実的である。
この一年、副会長として白銀を支え続けた彼女。会長の仕事に一番理解のあるポジションにあった。加えて、彼に劣らない知力、カリスマ性。秀知院学園の看板を背負うだけの精神力を持ち合わせている。白銀を除いて、現・生徒会メンバーの中で一番会長職に向いているのは誰の目にも明らか。
「(四宮が会長になれば……俺が副会長。悪くはないが)」
「(そうなったとしても、私は会長を指名することはないでしょう。自分からは)」
毎度のことながら、二人は相手からの言葉を待ち続けている。
「副会長になってほしい」を待つ白銀、「副会長にしてくれ」を待つかぐや。いたちごっこを続けて半年以上。その間、目に見える進展という意味では皆無である。
「告白させる」という概念によって動いてきた二人。少しずつではあるが関係が変わらないことに焦りの色を感じつつあった。
「この後打ち上げに行きましょうよー!」
「いいですね。最終日ですから今日ぐらい」
打ち上げ。白銀の耳に届く。こうして生徒会メンバーで何処かに出かけるのは最後になる。夏休みの花火以来、二回目。一年間でそれは余りにも少ない。
かぐやもまた、仮定の思考を打ち消す。仮に白銀が副会長になったとしても、彼の性格上、必要以上に働くことが目に見えていた。生徒会長という激務をこなしてきた彼を一番近くで見てきた彼女だからこそ、そんな感情が頭をよぎるのだ。
「美味しいラーメン屋を知ってる。そこはどうだ?」
「え、でも打ち上げですよ? 普通にファミレスでいいんじゃ」
「石上会計は居なかったからな。最後に全員で行きたいんだ」
半分、嘘。半分、本当。
四宮かぐや攻略に不可欠な藤原千花対策。藤井太郎とどんな会話を繰り広げるのか彼は興味があった。そして口実を付けて客観的に見ることが出来るのは今日限り。完全な私情である。
だが、石上優という人間も少しずつ変わりつつある。生徒会に顔を出しても長居することは無かった彼が、最後まで残ることも多くなって。それは石上本人的にも、生徒会的にもいい傾向だった。
だから、彼を交えて四人で行きたかった。それは白銀の紛れもない本心。淀みのない言葉となったそれは、石上にも、千花にもしっかりと伝わっていた。
「藤井くんに連絡してみますか?」
「誰ですかそれ」
「ラーメン屋の息子だ。俺たちと同級生らしい」
「そう言えば会長も知り合いになったんですよねぇ〜」
「まぁな。夏休み一人で食べに行ったんだよ」
話の方向性が決まりかける。ただ一人を除いて。
四宮かぐや。白銀と藤井に接点が出来たことに驚きを隠せなかった。自身が利用するつもりだった男。何を企んでいるのか分からなかったが、先に接触されてはこちらとしても動きづらいのは確か。
(あの時に動いていれば……)
彼女にとってもまた、藤原千花はキーパーソンである。
その上で「対・白銀御行」において切り札的な存在になり得る男だったかもしれないのだ。大きな魚を逃した気分になる。
しかし、可能性が潰えたわけではない。上手くこちら側に誘導することができれば一気に立場は逆転する。
「あっ! 藤井くん〜。今から生徒会の打ち上げに行きたいんだけど〜」
慣れた様子で電話をする千花。彼に電話を掛けたのはこれが初めてだった。しかし、メッセージのやり取りは定期的にしている。藤井としても驚きはしたが、至って普通に会話を繰り広げる。
「会長。その藤井って人、相当な変わり者ですよ」
「何故だ?」
「だってほら、藤原先輩が普通に会話してます」
「お前は藤原書記をなんだと思ってるんだ……」
少し離れた位置で会話する彼女。普段ふざけている姿しか知らない石上は素直に驚いていた。日常会話も出来るのかと。白銀とて一人の人間。話している内容は聞かないように距離をとっていたが、確かにそう言われると気になるのが性。
そんな彼とは対照的に、四宮かぐや。会話が聞こえるか聞こえないか絶妙な距離を見つけ出し、二人の会話に聞き耳を立てる。無論、周囲にはそんな素振りを見せない。片付けているフリをして。
「四人でもダメですか?」
「だっ――ウチの―――狭い――」
全てを聞き取るには音量が足りない。所々聞こえる男の声。
だが要点は分かった。彼女はあの日のことを思い出す。席はカウンターしかなく、四人が横並びになる必要があった。そもそも打ち上げのように使われることを想定していないのだ。藤井の反応は至極当然である。
「いいじゃないですかぁ〜藤井くんのケチ!」
「ケチってそんなこと――今度―――」
「今日がいいんですよ〜!」
藤井の声が大きくなったせいで、先ほどよりよく聞こえる。
こういう場合、連絡せずに行った方がいいのではないか。かぐやは考えた。しかし、白銀に気を取られてしまったせいで千花の行動を止めることが出来なかったのである。店なのだから来た客を帰すわけにはいかない。無論、礼儀はしっかりと弁えるが。
「じゃあ今から行きますね〜!」
「ちょっ――――」
思考を巡らせていたかぐやを尻目に、千花は電話を切る。
会話が終わるのを待っていた白銀たちは、歩み寄り結果を聞く。至って自然な流れである。そして藤原千花は答えた。
「バッチリですよ〜! 来て欲しくてウズウズしてました」
嘘である!! ここまで華麗な嘘もまあ珍しい!
埒があかないと判断した彼女は、強引にでも押し切ることを選択。藤井への迷惑がかかると分かっていたが、自らの感情を優先させた。彼女からすればいつものことであった。
目的地が決まったことで、作業にも力が入る。てきぱきと後片付けを進める千花に、かぐやはこっそりと話しかけた。
「本当にいいのですか? ご迷惑なんじゃ」
「大丈夫ですよ。かぐやさんが来るって言ったら喜んでましたから」
「もう」
分かりきった嘘。二度目。
聞き耳を立てていた彼女に、そんなことは通じない。しかし、嘘でもそう言われれば悪い気はしない。四宮かぐやという人間は良くも悪くも純粋。だが、それで言いくるめられるのは癪。
「本当に大丈夫ですよ」
「なぜ言い切れるのですか」
「だって、藤井くんは優しいですから」
真っ直ぐな言葉だった。嘘偽りない、藤原千花の本心。
そんなことを言われてしまえば、かぐやとて反応に困る。そして、言い返すことが出来なくなる。裏を返せば、それは千花の本心だと分かってしまったから。彼女は心の底から、藤井太郎を「優しい人間」だと認識している。それがかぐや的に少し意外だった。
優しいと言ったところで、素直にその優しさに甘えられないのが普通である。だが千花は性格的にもそんな遠慮が出来ない。彼のソレに心置きなく甘えられる彼女が、かぐやは少し羨ましくもあった。
だからこそ、利用価値がある――――。
それだというのに、今はそう考える自分が嫌になった。千花が優しい人間という男を、そういう風に扱っていいのだろうか。いかにも人間らしい考え方で、それはそれで嫌気が差していた。
「藤原さんは彼のことを信頼しているのですね」
「信頼……そう、ですね」
随分と歯切れが悪い。興味本位で聞いただけとは言え、想定していた答えではなく少し引っかかる。
何か言いたそうにしていた千花は考えた。そう言われれば、自分にとって彼は何なのだろうか。マンガのことをあまり言いたくない彼女は、そのことを伏せたまま。それだというのに、自身と藤井の会話を聞いた周りから見たらそう見えるのは明らか。
「そんなに考え込むことですか。彼が見たら悲しみますよ」
「あはは…大丈夫ですよ」
「優しいからですよね、彼が」
当面、その答えは出てこない。
かぐやの目から見ても、そう思えた。適当に話を切り上げても、千花は少し考えたまま。珍しいこともあるな、と簡単に頭の片隅に追いやった。
「もういいだろう。よし、出るか」
今日は違う。今日だけは違うのだ。
白銀の言葉。その意味は、この場にいる全員が理解している。生徒会室を出た瞬間、その瞬間から生徒会でなくなる。この一年背負ってきた看板を下ろすことになる。
白銀御行、石上優、四宮かぐや、藤原千花。中々出ようとしない彼らを引っ張るように、先導して。最後まで、白銀は
重厚感のある扉が閉まり、思い出に蓋がされる。涙が止まらない千花。抱きしめ、自身もつられて涙するかぐや。照れ臭そうに窓の外を眺める白銀と石上。それぞれの想いを抱いて、第67期生徒会は幕を下ろした。
「会長」
「どうした」
「私が泣いちゃったこと、言わないでくださいね」
「あぁ。そんな野暮なことはしないさ」
そして、それぞれの想いを抱いたまま、彼らは歩き出すのである。
藤原千花は天使。