藤原千花は愛されたい〜天然彼女の恋愛無脳戦〜   作:なでしこ

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かぐや様は守りたい

 

 

 

 

 

 

 その場の空気を一言で言えば、最悪である。

 陰口を言っていた相手が、突如として目の前に現れる。しかも二人きり。それを最悪と言わずして何と言うか。藤井、背中は冷や汗でびっちょりと濡れていた。彼は彼女の顔を真っ直ぐ見ることが出来なかった。

 夕方のファミレス。辺りは藤井たちと同じように、学校帰りの高校生であふれていた。その中でも、明らかに二人を包む雰囲気は異様だった。

 

「――――それで。二人で何を話されていたのですか?」

 

 改めて口を開いたのは、四宮かぐや。初めて来たファミレスの雰囲気。俗物だと感じながらも、辺りには高校生ばかり。学校の延長線上に感じられた。

 貴女に殺されるかもしれないのでその相談に乗ってもらってました――――。なんて馬鹿正直に答えれば、それこそ命の危険に晒されるだろう。藤井は俯いたまま考える。

 目の前の悪魔は何と答えれば許してくれるだろう。前回、店に来た時とは全く違う印象を抱かざるを得ない。あの上品な雰囲気を纏っている()()()()ではないのだ。考えろ、考えろ、と言い聞かせる。

 

「そ、そ、そんないいじゃん。男同士のゲスな話だよ」

 

 ある意味、嘘ではない。天才・四宮かぐやを誤魔化そうと試みる。

 とは言っても、藤井はかぐやに「メールの件」を連絡している。その場に石上優が居る時点でその誤魔化しには無理があった。

 

「いいえ。珍しい組み合わせだと思いましたので」

 

 追撃。組み合わせのことを突っ込まれれば、藤井としても何かしら理由を考えなければならない。かぐやの絶妙な問いである。頭脳戦で藤井がかぐやに勝てるはずもない。下手に仕掛けてしまったことを後悔する。

 だが、正直に答えたところで待っているのは死。嘘をついても死。どちらに転んでも彼の人生は決まっている。

 

「ぐ、偶然会ったんだよ」

「偶然……ですか」

「それを言ったら四宮さんだって。何でこんなところに?」

 

 反撃。藤井の疑問は当然である。誘ってもいないのに彼女自らファミレスに足を運ぶことは考えにくい。監視しているからこそ、この場に偶然を装って現れたと考えるのが自然。

 藤井の予想は的中していた。四宮かぐや。駒として使うのだ。内面から侵食していくのが効率的だと考えた。毎朝のメールで潜在意識の中に自身の存在を植え付ける。それが恐怖でも何でもいい。とにかく四宮かぐやを認識させることが重要なのだ。

 

「私の方こそ偶然ですよ。下校中に偶然お二人を見かけて、そしたらタイミング良く藤井さんから着信があったんです。それは会いに行くでしょう?」

 

 嘘である。大嘘である。

 そもそも下校は送迎の車。このファミレスは通学路に無い場所。どう考えても、彼女がここに足を運ぶことは無い。早坂愛から連絡を受けここに来たとは口が裂けても言えなかった。

 

 しかし。かぐやの家の事情を知らない藤井ですら、その発言に淀みがあることに気付いた。このままでは先に進まないのも確か。正直に告げてもいいのではないか、なんて考えが頭をよぎる。

 彼はここで初めて顔を上げる。かぐやは笑っている。怖い。幼稚園児なら今ここで泣き喚いていても不思議ではない。

 

「……何が狙い?」

 

 ストレートに、思い切って。相手の思惑を引き摺り出す。

 それを聞いて正直に答えるとは限らない。だが、純粋な疑問。下手に変化球ではなく、真っ直ぐで勝負した方が確実だと藤井は判断した。

 

「そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。私は何もしませんから」

「もうしてるんですけどね」

「何か?」

「いえ何も」

 

 ほんの少しだけ、かぐやの言葉からトゲが取れる。

 思えば、二人が面と向かって()()()()()話すのはこれが初めて。藤井的には最悪な流れではあったが、若干雰囲気に慣れつつある。石上とは違い、まだ直接的に手を下されていないからか。

 その先に待っているのは、決していい結論ではない。藤井は直感的にそう感じざるを得なかった。ただでさえ、彼女の行動が読めないのだ。今この瞬間だって、笑っているその表情が網膜に張り付いている。

 

「そうですね。何が狙いかと言われれば、それは至って単純ですよ」

 

 側から見ても、藤井の体は強張っていた。

 存在を彼の中に植えつけるため。恐怖でもいいなんて考えていたが、彼女も()()血の通った人間である。自身の行動が行き過ぎていたとようやく気付く。若干の申し訳なさ。

 

「藤原さんと仲良くしていただければ、それでいいんです」

「……は?」

 

 吐息に近い言の葉。藤井の反応は必然である。

 何故ここで藤原千花の名前が出てくるのだろうか。だが、彼は石上の言葉を思い出す。

 

 ――――藤原先輩も時々ヤバい目で見られてますよ

 

 打ち上げの時は何とも思わなかったが、千花の白銀に対する奔放な態度に苛つくこともしばしば。その都度、彼女を視線で殺しにかかる。石上の言うのはそのことである。

 だが、四宮かぐやが白銀に想いを寄せているなど、藤井が知るはずもない。石上優の言葉が、ありのままの事実として脳内に溶け込んでいく。

 藤原千花と仲良くする。それが出来なければ、彼女もしくは自身に何かしらの危害が及ぶ。そう考えれば色々と合点がいく。

 

「……なんで?」

「何がですか」

「いや、何で俺が藤原さんと仲良くする必要あるのかなって」

 

 疑問。思ったことを、そのまま言霊に乗せる。

 藤井からして、かぐやの発言は決して心地の良いものではない。完全に下に見られている気分。この女は、自身を踏み台にして何かをするつもり。決して勘の鋭い方ではない藤井でも、簡単に察することができた。

 

「苦手なんですか? 彼女のこと」

「いやそうじゃなくて。それは四宮さんに言われることじゃないと思っただけだよ」

「……それはどういう意味ですか」

「そんなの、藤原さんが悲しむから」

 

 唯一と言っていい女友達、藤原千花。そんな彼女のことを馬鹿にされた気がして、彼は真っ直ぐとかぐやを見た。自然と怯えは無くなる。

 一方、かぐやはと言うと。白銀攻略に必要な駒である藤井太郎。千花との関係性を探るため、多少踏み込んだ質問をぶつけた。彼のリアクションは、彼女が考えていたものと正反対だった。

 この男は、藤原千花の言うように優しい男。むしろそれだけしか取り柄がない地味な男。それは間違いようのない事実。目を細めて、彼の目を見つめ返す。

 

「だってそうだろ。俺は……純粋に友達だと思ってるのに」

「友人、ですか」

「大切な友達だよ。そもそも、四宮さんに何の関係があるの?」

「……ええ。大アリですよ」

「何故?」

「貴方と同じく、大切な友人だからです」

 

 綺麗な言葉だった。少なくとも、今日一日話した中では一番。

 

「彼女は中等部からの知り合いなんです」

「……それで?」

「あの子だけなんです。私の側を離れようとしなかったのは」

 

 かぐやは続ける。嘘偽りのない言の葉は、しっかりと藤井の耳にも届く。二人の関係性を完全に理解したわけではないが、四宮かぐやの言葉には十分な説得力があった。理屈ではない、彼女の本心。

 氷のかぐや姫と呼ばれていた、かつての彼女。人を信じず、常に警戒心を抱いて生活していた。その人物が「裏切り」をする人間かどうか試すことだってしてきた。名門校に通っているとは言え、相手は中学生や高校生。目の前に居る藤井と変わらない。自然と、かぐやの周りからは人が居なくなった。

 

 藤原千花を除いて、である。

 彼女だけは、常にかぐやの隣に居た。居てくれた。一人の友人として、千花はかぐやのことが大好きなのだ。周りに流されず、自らの思いに素直に生きる。かぐやにとって、藤原千花という人間は疎ましく、羨ましくもあった。それは今でもそう。それでも、彼女にとって大切な存在に変わっていた。

 

 目の前の男は、そんな彼女に似ている。

 姿形はまるで違うのに、かつての藤原千花を見ているようで。

 真っ直ぐ、自分が信じた道を進む。自らの力で人間関係を築こうとする姿勢が、四宮かぐやには眩しすぎるほどに。

 

「ですので、悪い虫が近づいたのではないか、と思ってしまいまして」

「悪い虫って……」

「ごめんなさい。貴方を監視するようなことはもうしません」

 

 結論から言えば、藤井太郎を駒として使うことは出来ない。彼は、目の前の損得で動くタイプではない。例え脅したところで、この男は千花との関係を切るだろう。彼女のことを思って。その時点で、この勝負は最初からかぐやの負けが決まっていたのである。この場で彼を堕とすつもりだった彼女にとって、それは大きな誤算である。

 だが「悪い虫が近づいたと思った」と言うのも嘘ではなかった。白銀攻略のためになんて思っていても、心の何処かでは千花のことを心配する自分がいたことも事実。藤井太郎という人間を少し知ることができた今、彼はかぐやが思っているほど悪い人間ではないのだから。

 

「俺はそんな……むしろ楽しいっていうか」

「藤原さんとのお話がですか?」

「うん。こっちまで笑ってしまいそうになるから」

「……まぁ否定はしませんが」

 

 藤井は水を一口。渇き切った口の中が心地よく。ようやく、体の強張りも落ち着いた。周りくどく話してきたが、とりあえずは一件落着ということになる。

 話は終わったのだから、もう長居する必要はない。しかし、藤井もかぐやも、席を立とうとしなかった。互いに変な疲労感が体を襲っていたからである。特に藤井。慣れない口喧嘩はするものではないと痛感していた。

 

「……でも正直。俺なんかが相手してもいいのかなって思う」

「はぁ。さっきまでの自信はどこへ?」

「藤原さんとか、四宮さんだって。そもそも秀知院に通う生徒はみんな、雲の上の存在だと思ってたから」

「大袈裟ですよ。そんなことありません」

 

 藤井がそう思うのも無理はない。一般入学で秀知院学園に入学する生徒は圧倒的に少ない。藤井の同級生には一人も居なかったぐらいだ。それぐらい、彼らにとっては手の届かない存在。

 そこに通っている彼らが店に顔を出してくれること。連絡先を交換してくれること。いずれも彼からすれば、非現実なのだ。

 

 そんな彼に、かぐやは(くさび)を打つ。

 

「藤原さんなら、きっとこう言いますよ」

「……?」

「そんなの関係ないです、って」

「確かに。それもそうだ」

 

 藤井の顔に、ようやく笑みが溢れた。ずっと引きつっていただけに、彼の笑顔はとても輝いて見える。

 

「それに、一般入学の人でも凄い人は居ますから」

「へぇ。そうなんだ」

「誰よりも勉強熱心で、生徒からの人望も厚くて、実は恥ずかしがり屋で、目つきが悪くても凄く優しくて、でも時々抜けてるところもあって、可愛くて――――」

 

 四宮かぐやという人間は、普段白銀に対する感情を押し殺している分、一度スイッチが入ると堤防が壊れたように想いが止まらない。相手が誰であろうとそれは関係が無いのだから、最初から素直になれよと早坂愛は常々思っているのだが。

 藤井としても、凄い人という一括りで話を聞いていたが、彼女の言葉を聞けば誰か一人のことを言っているのだろうと察する。そしてそれは、異性であること。彼女が想いを寄せる人なのだろうと。

 

「その()、いい人そうだね」

「良い人どころじゃないのっ!」

「キャラ変わりすぎ」

 

 まるで別人になった彼女を眺めながら、再び水を喉に流し込む。先ほどよりも甘い味がした気がした。目の前の彼女は、誰かに恋をしているのだろう。人を殺すような人間ではない。

 やがて、かぐやは我に返る。「あくまでも例ですから!」と謎の念押しをされるが、彼は適当に受け流した。四宮かぐやに対する恐怖心は、すっかり消え失せていた。

 ごほん、とかぐやは咳払い。やってしまったと後悔したところでもう遅い。だが彼の様子を見ても、白銀の名前が出てくることはない。ボロを出さずに済んだと前向きに捉えることとした。

 

「貴方だって、藤原さんを好きになる可能性だってあるのでは?」

「いやぁ……恋愛となると色々と大変そう。家のこととか……」

「まだ言いますか」

「友達と恋愛は違うって。やっぱり身分差あるし……」

 

 藤原千花の家柄もかなり裕福である。父親は政治家で、母親は元外交官。エリート中のエリートなのだ。そんな彼女と恋愛関係に落ちれば、まず間違いなく家柄の問題が出てくる。同じ秀知院生なら話は変わってくるが、一般庶民の彼と千花は、どう考えても釣り合う訳がなかった。だからか、彼は開き直ったように答えている。

 四宮かぐやと白銀御行も、それに該当する。まるで自分たちの行く末を言われている気がして、かぐやはあまり良い気はしない。無論、彼女にとって家の都合なんて知ったことではないが。

 

「では、もし彼女のことを好きになったら」

「と言われても」

「一人の友人として聞いているのです」

「……まぁ」

 

 友人、と言われれば答えないわけにはいかない。短く刈り上げられた髪を掻きながら、彼は口を開いた。

 

「全力で奪いに行きますかね」

「……ふふ。思いの外、貴方とは気が合いそうですね」

「(それはそれで嫌だ)」

 

 かぐやの戦略。想定していた流れとは違えど、藤井太郎はしっかり組み込まれることになる。駒としてではなく、一人の人間として。

 そして彼女と藤井が仲良くなってしまったのだ。石上優は再び一人で戦線に立つこととなったのは、また別の話。

 

 

 

 

 





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 本当にありがとうございました。
 今後も定期的にご紹介させていただきます。

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