失意から始まる日常   作:空念

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第2話 少年探偵復活

「で、その浮気調査の対象は誰?」

 コナンは平次に問いかける。

「調査する相手は、杯戸町の会社役員や。単身赴任で東京に来てるんやけど、嫁はんがえらい恐妻でなあ。悋気が強うて、一人暮らしをいいことに、旦那が他所の女とよろしくしとんちゃうかって疑っとんねん」

 平次は気が乗らない様子で言う。

「まあ、前科があるだけに、何とも言えんのやけどな。この旦那、以前お水の女にうつつ抜かして、かなりの金つぎ込んだらしいから」

「それじゃあ、奥さんが疑うのも無理ねえな」

 平次の言葉に、コナンが感想を漏らす。

「せやけどな、人の素行を嗅ぎ回るんは、あんまり好きちゃうねん俺」

「じゃあ何で引き受けたんだよ」

 平次がぼやき、コナンがそれにツッコミを入れる。

「まあ、仕事やさかいな。それにこの依頼、報酬が高いんや。何事も、先立つものが無かったら話にならへんしな。このご時勢に選り好みなんかしてられへん」

 血湧き肉踊るドキドキハラハラ危機一髪な事件の謎解きをしたいのであり、正直こんな馬鹿げた依頼は受けたくない。しかし、経営を考えたら受けざるを得ない。そこに服部の苦悩が見え隠れしていた。

「で、そいつの家とか会社はどのへんにあるんだ?」

「家は杯戸町の九丁目で、社員寮に住んでるらしい。会社は光照町三丁目にあるんやと」

「ふうん。でもよ、なんで社員寮に向かってるんだ? 平日だから、普通は出勤してんじゃねえの?」

「それがな、今日は会社休みらしいで。試しに出勤してるか確認の電話入れたら、今日は休みやって言われたんや」

「なるほどね」

 コナンと平次は話しながら歩いていく。その時、今まで黙っていた和葉が、素っ頓狂な声をあげた。

「なあ、あっこで何か事件でもあったんかな? えらいパトカー停まってるで」

 和葉の指差した方向に、数台のパトカーが見えた。そして、そのパトカーから目暮警部と高木刑事が出てきて、とあるマンションに入っていった。

「何やろ。ちょっくら行ってみるか」

「おい服部、依頼をすっぽかしていいのかよ」

 平次の発言に、コナンは唖然として問いかける。

「浮気調査よりも、こっちの方がおもろそうや。早う行くで」

「おい服部、引っ張んなって!」

「ちょっと平次、待ってえな!」

 平次は仕事を勝手に中断すると、強引にコナンを引きずって事件現場の方に歩いていく。その二人の後を、和葉は慌てて追いかけていった。

 

 

*****

 

 

 とあるマンションで殺人事件が起きた。警察は捜査を進めるが、証拠となる凶器が見つからない。目暮警部達が捜査を続けている最中、マンションの入り口の監視カメラに怪しい女が出入りするのが映っているのを見つけた。帽子を深く被り、人相は分からなかったが、事件に関係がある可能性も考え、目暮警部はその女の足取りを追うことにした。そこで目暮警部は第一発見者の女性に事情聴取をする一方で、部下に命じて外に行かせようとしたのだが……。

 二時間もしないうちに、平次とコナンには事件の全貌が分かってしまったのだ。

 

「なあ、どう思う工藤」

「だからコナンだって……まあ、単純すぎてこんなの頭使うまでもねえよ」

「ああ済まん済まん。やっぱ、お前も解けたんやな」

 コナンと平次は半ば強引に警察の捜査に介入し、事件の謎を解く。まあ謎と言っても、二人には頭の体操にすらならなかったが。

「服部くん、もう分かったのかね!」

「コナン君も、すぐに分かるなんてすごいね。やっぱり毛利さんの所で修行してただけの事はあるね」

「いやあ、凶器も見つからなくて困ってたんだよ」

 コナンたちの会話を聞いていた目暮警部と高木刑事が、これで事件から解放されるといった様子で安堵する。

「何言うてんねん、凶器はもうとっくに処分されとるで」

「まあ、隠したというより、自然に消えたといった方が適切だけどね」

 平次とコナンが口々に言う。

「自然に消えたとは、一体どういうことだね?」

 目暮警部は意味が分からず、唖然とする。

「それを説明する前に、まずその第一発見者の女抑えとき。その女が犯人や」

 

「……で、凶器はどこへ消えたんだね?」

 目暮警部が平次たちに問う。その言葉を受け、平次がまず口を開いた。

「まず、コレくらいの大きさの細長い氷を用意して、彫刻刀で先を尖らせたんや。それで、その氷で被害者をブスッといったんや」

「――それで、凶器はそのままにして、あとは暖房をつけて自然に氷を溶かしたんだ。まだ夜は肌寒いから、暖房つけてても不思議じゃないから」

 そして、平次の言葉をコナンが続ける。その様子を、周りの者は黙って見ていた。

「まあ、暖房には遺体の腐敗を早めて死亡推定時刻を狂わそうっちゅう意図もあったんやけどな。要はアリバイ工作やな。もっと早い時間にして、アリバイを立証させるつもりやった筈や」

「タイマー式にして、時間が経ったら消えるようにしてたんだよ。さっき確認したら、まだ設定したタイマーが残ってたよ」

 おなじみ恒例の推理ショータイム。平次とコナンが、生き生きとして交代で推理を披露する。その言葉を、警察は呆然として聞いていた。

「しかし、その設定は被害者がやったかも知れないよ?」

「んな訳あらへん。その時間は、被害者が普段出社してる時間やで」

「帰宅する直前ならともかく、出発してから暖房つける意味ないよね。電気代の無駄だし」

 高木刑事の発言を、平次とコナンがぶった切る。

「じゃあ、タイマーは犯人が設定したとして、凶器は彫刻刀で削った氷だと何故分かったんだい?」

 今度は目暮警部が問う。その問いにも、平次とコナンがすらすらと答えた。

「さっき鑑識が言うてたやろ。被害者の傷口から、細かい木屑が見つかったって。それが彫刻刀を使った証拠や」

「きっとロクに手入れしてなかったんだね。さっき見つけた彫刻刀のケース、木屑だらけだったよ。でも、その内の何本かは妙に綺麗だった」

「せやから、彫刻刀を使ったってのは分かったんや。せやけど、そこからは血痕も指紋も何一つ見つからんかった」

「だから、犯人が使ったと分かる。持ち主なら指紋を拭く必要もないよね」

「せやけど、彫刻刀じゃ深々と刺せへん。傷口も違うしな」

「だから、犯人が何かを削ったと分かるよね。そこで何を削ったか問題になるけど、さっき冷蔵庫で製氷機が作動する音がしたよね?」

 そう言って、コナンが台所の冷蔵庫の方を指差す。警察は皆、その方向を見た。

「それがどうかしたのかね?」

 目暮警部はまだ不自然な点に気付かず、コナンたちに問う。それに対し、まず平次が答えた。

「その冷蔵庫は、氷が無くなって“重さが軽うなったら”自動で製氷するタイプや。まず通常の四角い氷をどけて、代わりに犯行に使う氷を凍らせる。それで、固まった奴を取り出して先を削った。せやから、さっきまで氷が少なかったっちゅうこっちゃ」

「この寒い時期に、氷を入れてまで冷たい飲み物は飲まないよね? 飲むとしても、冷蔵庫の温度で充分だよ。だから、冷凍庫はこの時期ほとんど使わない。その冷蔵庫、野菜室とかお肉保存する場所は分けられてるみたいだし。それを犯人が利用したという事になる」

「その犯人が冷凍庫の引き出しを開けたっちゅう証拠があるで」

「その引き出しの内側に、ある金属片が付いてたんだ。それ、犯人のだよね?」

「多分、犯人が付けとる腕輪のアクセサリーやろ。さっき擦れた跡があるのも見えたしな。よう調べたら分かると思うで?」

「この部屋を初めて尋ねるって言ってたのに、冷凍庫にそんな跡があるのはおかしいよね?」

「入ってすぐ死体を見つけた後で、わざわざ冷凍庫を開ける意味が分からへんしな。それこそ、その犯人が前にこの部屋に来た証拠やで。この部屋の間取りを妙に知ってたみたいやしな」

 推理を並べ立てる平次とコナン。その推理に、目暮警部は口を挟んだ。

「じゃあ、このマンションに出入りしていた怪しい女って……」

「そうや、この犯人と同一人物や。その時わざわざ顔を隠して姿を変えてたのは、自分がここに出入りしてる事を知られとうないからや。多分、愛人関係を隠す為やろな。そして犯行に及んだ後、一度出て行ってからまた変装を解いて戻って来たっちゅう訳や。カメラの女と自分が別人やというのを印象付けて、捜査の対象から外させる為にな」

「そしておそらく、犯行の動機は愛人関係のもつれ。その証拠が、これだよ」

 そういってコナンがさっきこの部屋で見つけた一枚のDVDを見せた。

「それは、何だね?」

 目暮がコナンに問う。しかし、コナンは顔を赤くするのみで、その問いに答えなかった。

「それは、僕の口からはちょっと……。まあ、中身を見たら分かると思うよ?」

 コナンが言えないもの無理は無い。その中身は、この部屋での被害者と犯人のキスシーン等を隠し撮ったものだったから。こんなものを撮るなんて、被害者も趣味が悪い。

「ここまで証拠が出揃ったら、もう言い逃れは出来へんで」

 交代でそこまで発言すると、平次とコナンは犯人を鋭くにらむ。その平次とコナンの推理ショーで、どんどん犯人が追い詰められていく。その犯人はガクッと肩を落とし、犯行を認めた。

「あの人が悪いのよ。私を捨てるって言うから……」

 

 

「コナン君、すごいやんか! 平次と変わらへんで! さすが蘭ちゃんのおっちゃんの所で修行してただけの事あるやんか!」

「工藤――じゃのうて、コナン復活やな。さっきの推理の時、めっちゃ生き生きしとったで?」

 さっきの推理ショーを間近で見ていた和葉は手放しでコナンを褒める。そして、平次はコナンに元気が出てきたことを喜び、コナンの肩をバシバシと叩く。

 しかし、コナンは複雑だった。もう推理はしないって決めていたのに、つい調子に乗ってやってしまった。

 この推理で、今までどれだけの物を失ったのか。工藤新一としての生活、身の安全、そして――。

 探偵に戻れば、また様々なことに遭遇するだろう。そして、その過程でまた何かを失うかもしれない。そこまで考えて、コナンは気付く。自分には、もう失うものなんて無いじゃないか、と。

 工藤新一を捨て、コナンとして生きる以上、新しく作ってもらう戸籍の上では家族は居ない。そして、蘭も居らず、少年探偵団も抜けた。今のコナンは身軽なのだ。今更失うものを気にする必要なんか、何処にも無い。

「ははっ、はははははっ……」

 突然笑い出したコナンを、平次と和葉はビックリして見つめた。

「おい坊主、どないしたんや!」

「コナン君、一体どうしたん?」

 二人の問いかけも無視し、ひたすら笑い続けるコナン。涙が出るほど笑いまくったコナンは、やがて目から流れ落ちる涙を拭き、平次たちに力強く宣言した。

 

「おい服部、俺は探偵に戻るぜ」

 




 事件内容は作者が考えましたが、至らない点が多々あると思います。雑ですいません。
 ミステリー作家の方って、やはり凄いですね。自分には書けそうに無い……。
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