何はともあれ楽しんでもらえれば幸いです
「・・・知らない天井だ。」
ライプニッツの目が覚めて一番最初に見たのは見慣れたMSのコンソールでも、自室の天井でもなく薄汚れた天井だった。
「ようやく起きたか。少し待ってろ。」
掛けられた野太い声の方を向くと緑色の服を着たおっさんが無線機で誰かと話していた。
血を失ったのか朦朧とする頭を働かして現場の把握に努める。
気を失う直前の記憶がザクとの交戦だ。そして緑の・・ジオン軍の制服に独房。捕虜になったか・・・。こりゃ面倒だな、場所によっちゃ味方が助けに来てくれないぞ。
ペタペタと身体のあちこちを触ってると例のおっさんが怪訝な目で俺を見ていた。
「最低限の手当てはしてやったぞ。コレの検分も終わって返してやるから羽織っとけ。」
そう言って独房の隙間からねずみ色の陸軍制服の上着を返された。
エアコンが効いているのか、それとも地下なのか兎に角肌寒かったのでありがたく羽織らせてもらう。
向こうも此方も話さないので無言の空間が訪れた。
暫くすると足音を響かせて小銃を引っさげた二人の兵がやって来た。
「立て。」
二人は独房に押し入ってきて俺を無理やり立たせて手錠をかける。
「付いてこい。」
二人は余計な事を言わずに俺を連行する。
連行された先はいかにもな尋問室だった。恐らくアルミ製の長机、向かい合う様に置かれたパイプ椅子、極めつけは電池式の卓上ライト。
旧世紀の日本の刑事物ドラマを参考にしたような部屋に思わず苦笑いが浮かぶ。
俺の反応を見て満足したのか既に椅子に座ってた尋問官らしき人物が嬉しそうな笑みを浮かべた。
「気に入ってくれたかい?私はウィルソン特務中尉。どうぞ、掛けてくれ。カツ丼は出ないがね。」
かけられた冗談を無視して勧められるまま椅子に座る。
「君はライプニッツ・ベルンシュタイン少尉だね。何で名前を知ってるかって?失礼ながら勝手にドッグタグを見させてもらったよ。長いこと気を失ってたからね。」
軽薄そうな笑みを浮かべたままペラペラ喋り出す。
面倒くさそうなのが尋問官だな。
「ウィルソン特務中尉、現在の時刻は?」
「GMT9月8日17時を少し過ぎたところだ。それで、こちらからも質問させてもらって良いかい?君の所属は?」
「地球連邦軍陸軍省マドラス基地特設MS部隊ダウンフォール隊所属ライプニッツ少尉だ。」
「・・・・・何で君達の組織はそんなに長い名前が好きなんだい。君の処遇は南極条約に従うようにするよ。で、何か質問は?」
「ウィルソン特務中尉の所属は?」
「そう意味の質問じゃなかったんだけどなぁ。」
もちろんわかって言ってる。答えてくれれば僥倖程度で聞いたんだ。
「相手の所属を聞いといてこっちが答えないのはアンフェアか・・・てか、尋問官の所属を聞く捕虜は君が初めてだと思うよ。」
「でしょうね。」
「でしょうねって・・・はぁ、まあいいか。ジオン軍親衛隊所属だよ。そろそろ本題に入っていいかい?・・・君たちの最終目的地は?」
さて、どう答えるかな。ここにこれだけ大規模な兵力で攻めて来てるんだ、恐らく答えは出てるだろう。それを俺に聞くのは確認程度だな。
「どうせ予想はついてるんだろ?予想通りオデッサが目標だ。」
「・・・情報通りか。参加部隊の総数は?」
「・・・・・・・・・。」
さすがにこれには答えられない。部隊総数が割れたら防衛に必要な部隊数も簡単に割り出せるからな。それに相手も答えないのは分かってるだろうし。
「答えないか。まぁ、当たり前だね。うちの試算では稼働戦力の6割って数字がでてるんだよ。一部情報では9割って非現実的な報告が上がって来たんだよ。さすがにこれはブラフだろう。こんな大兵力を用いると各主要基地が静かになるし、ジャブローの防衛もままならないだろう。そして何より保身が大好きなモグラ共がこんな作戦承認しないだろうね。」
ジャブローは大丈夫だろう。何度かジオン軍の偵察部隊との交戦はあるが、未だに侵入口が特定されてないって聞くしな。恐らく上は短期決戦を目指してるんだろう。最長で一週間、それ以上かかるようなら撤退も考えてるはずだ。
てか、上層部の渾名がモグラか・・・。前線の兵がよく上層部をモグラと渾名してたが、うちの軍の防諜はどうなってるんだ?
「実際今日接敵するまではオデッサ攻撃自体がブラフで別の基地を狙われるかもと思ってたんだよね。オデッサ周辺で主要基地といったらキリマンジャロ基地かな?」
「さぁな、たらればで話をするのは軍人としてどうかと思うけどな。それで、話は終わりか?」
「今日のところはこれで終わりにするよ、僕も忙しくてね。今日もこれから偉い人が視察にくるから明日もまた同じ時間に会おうね。」
そう言って席を立ち手をヒラヒラと振りながら尋問室から出て行くウィルソン。その背が扉で遮られるのを見届けてからライプニッツも椅子から立ち上がる。
あの2人が俺に手錠をかけるのを待ってから独房に戻ってく。
戻る時にちらりと見えた空は今にも雨が降りそうな黒い雲が広がっていた。