作中に説明が無かったのですが今回のMSはアクアジムです
休暇
この戦争が膠着状態に陥ってから聞く事の少なくなってきた言葉の一つである。
「(俺が軍に入隊したのが戦争の始まる一年前か。あの頃は初めて入った飛行隊の隊長に憧れて少しでも隊長と同じ空が飛べるように休暇も訓練に当てていたな。)」
懐かしい事を思い返したのは10月に入ってなおギラつく日光が降り注ぐ浜辺の事であった。
本来ならば浜辺に限らず自由に行動出来たはずだが、試作MSの試験運転を命じられた為この浜辺に招集がかかった。
恐らく浜辺なのはドミニクが手を回してくれたおかげだろう。普通ならこんなところで試験運転するはずが無いからな。
そう、本日の予定はMSの試験なのである。
「隊長、何で軍服なんですか?早く水着に着替えてきてください。」
マリアが浜辺からこちらに手を振ってくる。
早くも頭が痛くなってきた。
もう一度言うが、今日は新型機の試験なのである。
それなのにテストパイロットが水着を着て遊んでるとは何事だろう。規律が緩みすぎじゃないか!
てか、寒くないのか?
まぁ、夏日だから肌寒い程度か?
なんでもいいか。
そう思い余計な思考に走っていた頭に現実を直視させると頭がまた軽く痛くなってきた。
「隊長どうしましたか?頭痛なら薬を持ってきますが?」
声をかけられた方を向くとエレーナが心配そうにこっちを見上げていた…水着姿で。
この年で偏頭痛持ちになるかもしれない。
そんな事が一瞬頭をよぎったが、エレーナをほっとく訳にもいかないので返事をする。
「いや、頭痛薬はいらないんだが…何で水着姿なんだ?これからMSの試験運転をするんだぞ?パイロットスーツまでは言わないが軍服は着とくべきじゃないか?」
ここまで言うとエレーナが驚いた顔でこっちを見てきていた。
何でそんな顔をするんだ?
「え?この格好は隊長が指定したんでは無いのですか?少なくとも私たちはベリアル准尉からそう伺っておりますが?」
なるほど、今俺は全てを理解した。
あのアホが女性陣の水着姿を見たいが為だけに俺の名前を出したな。確かにうちの隊は美少女ぞろいだからな、見たくなるのも分かる。
分かるが実際にこんな事を実行したからには罰が必要だな。
あぁ、同僚からこの辺にある面白いBARの噂を聞いたな。
あいつにそこ行かすか。
「おーい、真面目隊長。女の子達の水着姿はどうだ?素晴らしいだろ。」
件の人物が爽やかな笑みを浮かべてサムズアップをしながら俺に話しかけてくる。
俺は呆れたような声を出してあいつをはめにかける。
「お前な、いくら水着姿が見たいからって俺の名前を出すんじゃねぇよ。同僚からお前の喜びそうなBARの名前を聞いてきてやったから今夜そこに行って来い。名前は『GORTE BROER』って名前だ。くれぐれも一人でいって来いよ。」
「ん?おう。やっぱり持つものは気心の知れた上司だな。」
ベリアルに道順も教えてやると上機嫌で後ろ手を振りながら街並みに消えて行った。
奴のお仕置き終了。あとはこっちの女性陣を何とかするだけか。
とりあえずは全員着替えてもらうとこからだな。
「隊長、私たちは着替えた方がよろしいでしょうか?あと准尉には私たちを騙した罰が必要ですね。」
ユリスが話しかけてくる。もちろん水着姿でだ。
ちょうど近くに残りの二人もいるし、ついでに着替えさせてくるか。
「皆着替えてきてくれ。5分後にはここに再集合だ。先方からテスト用MSがそろそろ到着すると通信が入った。」
全員が女子更衣室に入って行くのを見届けてから俺は一足先に指定された場所に向かった。
‡
『テスター1へ。深度500、27ノットに固定。テスト04を開始して下さい。』
「こちらテスター1、了解。テストプログラム04を開始します。テスター1からテスター各機へ、衝角陣形を組んで目標艦との模擬戦闘に入る。総員俺に続けっ!」
コックピットの中にはCGで補正された海が一面に広がっていた。
普通この深度にはなかなか太陽の光が届かないのでいくらCGで補正されてるといっても、紺色一色の世界が広がってるだけだ。
「マリア、潜行深度が深いぞ。ここが安全深度ギリギリなんだからあと10mは浮上しろ。」
『小隊長へ。仮想目標との接敵まで距離800。使用弾種は魚雷。』
このテストの専属オペレータから通信が入る。
すぐさまテストプログラムに従って部下にも声を掛ける。
「訓練用魚雷装填。終末誘導は音響探査、距離400で一斉射。」
間を置かずにエレーナが復唱する。こういうやり取りから俺達の練度が高くなった事が実感できるのが嬉しく思う。
『475』
こんな事を考えてる間にもオペレータが淡々と目標との距離を報告してくる。
『450』
「各機、魚雷発射管注水開始。距離400で発射、その後最大速度で15秒以内に深度300に着けろ。」
『了解!』
エレーナ達がそろって返事をする。
『425ーッ!演習中止!湾岸警備隊より緊急入電。演習使用区画に侵入するIFF反応のない不審艦を発見。テスト小隊は直ぐにセントヒューレット軍港に帰還。セントヒューレット軍港の指揮下に入り、弾薬を全て実弾に換装後、不審艦の拿捕又は撃沈を洋上展開中の第三駆逐艦隊と共同で行ってください。』
演習区域への不審艦侵入を許すなんて海上封鎖中の湾岸警備隊所属艦は何をやってたんだ?
ガキの使いじゃあるまいし与えられた任務はしっかりとこなして欲しいものだな。
「全員聞いたな?反転してセントヒューレット軍港に帰還する。各機第四戦速を維持。」
全機が乱れなく第四戦速ー則ち最大戦速ーになってライプニッツ機を頂点に菱形の陣形を組んで移動する。
『全機、不審艦の一次解析結果を伝える。スクリュー音は現在まで主力艦を務めたⅥ型潜水艦に音紋が類似していた。ただし、完全に一致はしなかったのでジオン軍接収したものを独自に改装した結果だと思われる。』
「我が軍の特殊任務に着いている潜水艦の可能性は?」
『0とは言い切れません。ので、許可なしの発砲は禁止します。作戦としては不審艦の予想進路上にテスター部隊が待ち伏せをし、潜行舵とスクリューを破壊、強制浮上を促します。浮上しない場合には洋上展開をした駆逐艦隊からの爆雷で威嚇攻撃。それでも浮上しない場合は撃沈許可がおります。』
「了解した。友軍の場合の対応と不審艦からの攻撃があった場合の対応は?」
『友軍の際は停船後、作戦指令書ナンバーをこちらに転送。攻撃があった際の反撃は許可。その際に撃沈しても問題はありません。』
…普通反撃の際に撃沈したら問題になると思うんだが?
特にこのような鹵獲できるチャンスがある場合には。
「随分過激な反撃許可だな。後で軍法会議への出頭を命じられないか?」
『問題ありません。貴重な新兵器と有用かもしれない情報なら重要なのは新兵器です。無論、貴方パイロットの生命も含まれます。パイロット育成には大変な金と時間がかかるので。』
ぶっちゃけられたな。
まぁ、確かに時間がかかるのは否定出来ないな。
たとえ効率の面からでも俺達の命の方が大切と言われると嬉しいな。
『隊長。セントヒューレット軍港の管制下に入ります。』
エレーナが声を掛けてくる。
オペレータと話し込んでる間にセントヒューレット軍港管制下に到着したようだ。
『当基地へ接近中の友軍へ。所属と当基地への接近目的を述べよ。』
「こちらは特設MS運用部隊マドラス基地所属ダウンフォール隊。現在のコールサインはテスター。貴基地へは補給の為だ。」
『作戦指令書ナンバーを…待て、参謀本部よりⅡ級指令書が回ってきた。………ふむ、歓迎するテスター各機。第三バースに接舷しろ。そこに大至急補給物資を届けさせる。』
「了解。全機接舷シークエンス開始。以後は航行管制塔からの指示に従え。」
‡
『予想通過時刻まで後3分。各機最終チェックをお願いします。』
「よし、全機最終チェック終了後魚雷発射管に注水開始。パッシブソナーに引っかからないように静かにな。」
魚雷発射管を開く際にゴゥと機械部品の駆動音がするが、今頃味方駆逐艦隊からの威嚇射撃を必死に回避しているであろう潜水艦には聞かれないだろうな。
注水も終わりそろそろ目標艦が通過する頃になってコーンという断続的な音が聞こえてきた。
「探査音か…恐らくバレたな。」
そしてこういう悪い予感は外れない。
一番最初にその音に気付いたのはユリスだった。
『距離2000〜3000で魚雷発射管解放音並びに注水音。』
そこにオペレータから慌てた声が届く。
『洋上展開中の駆逐艦隊が不審艦からの攻撃を受けて一隻大破。これより情報修正。現時刻をもって海中進行中の不審艦を敵艦と断定。撃沈を許可。』
「全機パッシブデコイ装填。敵艦の魚雷発射に合わせて機関始動。俺とマリアは左側から、エレーナとユリスは右側から回り込んで挟み撃ちにするぞ。」
いつでもフットペダルを踏み込めるようにしながら敵艦が魚雷を発射するのを今か今かと待ちわびる。
そしてついにその時がきた。
ドンと魚雷が初速を与えられ発射管内の水を掻き分ける音が4回続く。
「いくぞ!予定通り左右に別れろ。大きく迂回しながら敵艦を挟み撃ちにする。」
『了解!』
残る三人が声を揃えて返事をする。
だが、その直後エレーナが大声をあげた。
『あっ!敵潜バラストタンクへの注水音を確認。降下していきます!』
マズイ、後100mもしたらこっちの安全深度を突破して逃げられる。それまでに沈めれるか?
装甲板に穴が空けばあるいは…無理そうか?
「全機魚雷斉射。何としてもあの船に穴を開けろ。沈めるんだ!発射!」
ライプニッツの発射の掛け声と共に4機が計16本の魚雷を放つ。しかし、それらの魚雷は命中する事はなかった。
『報告、魚雷発射管解放音。それから魚雷走行音2。隊長指示を。』
「(たった2本だけ?高性能炸薬?それにしては直進しかして無いな。中身はなんだ?)」
時間差で放たれた魚雷の内1本が俺達の手前で爆発する。
直後、キーンと甲高い音が深海の中を駆けた。
その正体は音響魚雷。
鼓膜を破らんと発された大音量はしかしソナー用ヘッドホンの安全装置が働き大事には至らず一時的な聴覚不全に陥っただけですんだ。
「(あぁ、クソッ!耳をやられた。魚雷は…ダメか。全部ノイズメーカーを追ってやがる。作戦失敗だな。)」
敵艦が索敵範囲外に出るのを見届けてから帰還を指示する。
『作戦終了、お疲れ様です。参謀本部より作戦指令書が来たのでドミニク大佐から確認してください。』
敵の潜水艦はユーコン級潜水艦
連邦のU型潜水艦の元となった潜水艦Ⅷ型を接収・独自改良したものですね
だからオペレータ君が連邦の船に推進音が似てると言ってたんですね