この素晴らしい世界でエリス様ルートを   作:エリス様はメインヒロイン

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うろ覚えで振り返るこのすばエリスルート
前回までのあらすじ

1.き、機動要塞デストロイヤー……。もうダメだ、おしまいだぁ。勝てるわけないんだぁ。

2. 諦めんなよ! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメ! 諦めたら! できる! 絶対にできるんだから!

3.エクスプロージョン。

4.わー、勝ったー。嬉しー。宴会だー。

5.あなたを犯人です。

テテーン



この理不尽な取り調べに断固抗議を

「……眠れねえ」

 

 時刻は深夜、俺は毛布に包まって寒さに身を縮ませながら一人ごちっていた。

 今の季節は冬真っ只中。外では雪が降り積もっており、毛布を二、三枚はおった程度ではこの寒さは防げない。まあ俺がいる部屋は、窓にガラスが嵌められてなかったり、壁の一面が鉄の棒を等間隔に並べただけだったりと、とても開放的な空間なので当然のことではあるが。

 おまけに睡眠時のマットレスは石材百パーセント。異世界に来て悪環境での睡眠には慣れてきたものの、さすがに石造りの床で寝るのは堪える。馬小屋のワラベッドですら恋しく感じる。

 近くで俺と同じ境遇のダストがいるのだが、あちらはこの状況に慣れているからかグースカと寝息を立てている。幸せそうな寝顔をして羨ましいものだ。

 

 あまりの眠れなさに体を起こし、ふと窓の外を見ると月が顔を覗かせていた。

 手を伸ばせば届きそうなそれは、けれど決して届かない所にいる。どれだけ思いを募らせようとそれが叶うことはない。距離的な問題ではない。単に手を伸ばそうにも鉄格子によって隔てられているからである。

 ……なんで俺はこんな阿呆なこと考えているのだろうか。この部屋に拘留された不安で頭がおかしくなったのかもしれない。

 

「はぁー……。なんでこんなことになっちまったのかな……」

 

 冷たい牢獄の中、溜息と共に昼間の出来事を思い返してみた。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

「冒険者、サトウカズマ! 貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている! 自分と共に来てもらおうか!」

 

 デストロイヤー討伐から数日後。

 他の冒険者達と同様にギルドに報酬を貰いに来た俺は、何故か犯罪者呼ばわりされていた。

 

「あの、急に何ですか? 確かに俺の名前はサトウカズマですけど、そんな国家転覆罪だーとか言われてもいまいちピンと来ないんですけど? 人違いとかじゃないですか?」

 

「いいや! 確かに貴様への要件だ!」

 

 出会って五秒で犯罪者認定してきた女性、黒髪でどこかきつめの印象を受ける彼女が詰め寄って来る。その様子を見るにどうやら勘違いとかではなさそうだ。

 というか唐突に出てきたが、国家転覆罪とはなんぞや。

 

「国家転覆罪ってのはその名の通り、国に対して大きな犯罪を犯した人にかけられる罪だよ。具体的には王族に危害を加えた人だったり、魔王軍との内通者だったりとかかな」

 

 俺が不思議そうな顔で突っ立っていたからか、後ろから顔を出してきたクリスが教えてくれた。そして彼女は俺をかばうように前に立ち、相手を威嚇するように睨みつけた。

 

「それで。どうしてカズマ君がそんな罪をかけられなきゃいけないのかな? あたしは仲間だから贔屓目が入ってるだろうけど、カズマ君はそんな非道なことをする人じゃないよ。罪を問うならまず何があったか説明してからじゃないかな」

 

「クリス……」

 

 どうやらクリスは俺のために怒ってくれているようだ。少し過大評価な気がするけども素直に嬉しく思う。

 だが相手の女性はそういった手合いには慣れているのか臆すことなく返答してきた。

 

「そうですね、では順序立てて説明しましょうか。私は王国検察官のセナと申します。さて今回の罪状ですが、機動要塞デストロイヤー討伐作戦の際にそこにいるサトウカズマの指示で転送されたコロナタイトが、この町の領主であられるアルダープ殿の屋敷に被害をもたらしました。幸い怪我人は出ませんでしたがこの地域の領主を危険にさらしたのは事実です。よってその男を国家転覆罪の重要参考人として連行します。これで十分ですか?」

 

 セナと名乗った検察官は淡々と俺の逮捕理由を語った。しゃべり方は何処か突き放すような冷たさがあるものの、内容としては至極まっとうに思える。

 ……というか今回の騒動ってあの時のコロナタイトが原因なのか?

 

「へ、へー。コロナタイトが領主の屋敷にねー。ふーん、そうなんだー」

 

 隣にいるクリスは先程までの毅然とした態度は何処へやら、冷や汗を流しながらぎこちない表情をしている。

 

「……なあクリス。確かコロナタイトをテレポートさせる時にお前言ってたよな。『これに関しては自信があります。絶対にうまくいきますよ』って」

 

「……そんなこと言ったかな?」

 

 フィッとあからさまに目を逸らすクリスさん。もう一度、俺の目を見て言ってくれませんかね。

 

「おい誤魔化すな! お前は幸運値が高くて大抵のことはうまくいくんじゃなかったのか?! なのになんで領主なんていうめんどくさそうな相手をピンポイント爆撃するんだよ?!」

 

「そんなこと言ったって仕方ないじゃない! 結局は運なんだから、幸運が高くたって失敗する時はあるんだよ!」

 

「開き直るなよ! そもそもお前はアレだろ! 幸運のアレなんだろ?! だったらランダムテレポートの一つくらい成功させてくれよ! それともお前は名ばかりのなんちゃってなアレなのか?!」

 

「アレアレうるさいよ! あたしは歴としたアレだよ! アレが何かは言えないけど由緒正しきアレなんだから! そもそもあの時はカズマ君だってノリノリで賛成してたじゃん!」

 

 

「……あの、私が言うのもなんですが、少し落ち着いてはどうですか?」

 

 俺とクリスが責任転嫁の口論をヒートアップさせていると、見かねたセナが仲裁をいれてきた。本来抗議するべき相手に諭され、俺とクリスは少し顔を赤くする。

 そうだ。今は仲間内で言い争いをするより、どうやって弁明するかを考えるのが先だ。

 

「なあ、セナさんだっけ? コロナタイトのテレポートを指示したのは確かに俺だけど、あれは状況的に仕方なかったんだ。爆発まで時間がなくて被害を出さないためにはああするしかなかったんだよ」

 

「ですが領主殿の屋敷に被害が出たのは事実です。そもそも危険物のテレポートは法により禁じられています。まあそこら辺の詳しい話は署で聞きましょう」

 

 そう言うとセナは後ろに連れていた騎士に命じて、俺の腕に手錠をガチャリと……。

 

「ちょっと待って! まだカズマさんの弁明タイム終わってない! こんな相手の話も聞かずに無理矢理連行だなんて国家権力の横暴だ!」

 

「暴れないでください! その弁明を署で聞くと言ってるじゃないですか!」

 

「ま、待っててカズマ君、今あたしの解錠スキルで手錠を外すから!」

 

「ちょっ?! そっちの盗賊の人も手錠を外そうとしないで! このっ、いい加減にしないとあなたもしょっぴきますよ!」

 

 俺とクリスが理不尽な国家権力に抵抗していると、それを遮る何者かが現れクリスを取り押さえた。こんな緊急時に一体誰が邪魔をしてくるのかと見ると、ダクネスがクリスを拘束していた。

 

「二人共、取り乱す気持ちは分かるが少し落ち着け。理不尽に思うかも知れないが、今は相手の指示に従って……」

 

「バッカお前! どうしてこのタイミングで邪魔してくるんだよ! お前が手伝えば逃げられたかもしれないのに! そんなことも判断できないのかこのポンコツ!」

 

「そうだよ、どうしてこんなことするのダクネス! もしかしてあの手錠?! あの手錠が欲しかったの?! それなら言ってくれれば後で渡すから!」

 

「違う! 手錠が欲しいだなんて思っては……思ってはいない! 後牢獄プレイが羨ましいから代わって欲しいだなんてことも思ってない!」

 

 思ってないならどうして口に出すのだろうか。

 ダクネスは軽く咳払いをして落ち着きを取り戻すと、納得がいってない俺達に理由を説明してきた。

 

「たとえここで逃げられたとしてもそれで助かるのは今だけだ。相手はこの国の司法だぞ。ギルドで指名手配されれたら、今後クエストを受けることも、何処かに定住することも難しくなる。なら今は大人しく指示に従って印象を悪くしないよう努めた方が後々のためになる」

 

「……言われてみれば、確かにそうだね」

 

「……ダクネスにしては説得力ある言葉だな」

 

「おい、殴られたいのか貴様は」

 

 俺とクリスはダクネスの説明に納得して抵抗の手を緩めた。

 短気なめぐみんは『何をぬるい事言ってるんですかダクネスは。そんな面倒なことをせずとも今爆裂魔法で吹き飛ばしてしまえば万事解決で……』と物騒なことを言っていたので周りの冒険者達から取り押さえられていたが。

 

「分かった、ダクネスの言う通りにするよ。じゃあセナさん、俺を連れて行ってください」

 

 冷静になった俺は抵抗するのを止め、素直についていくことを伝えた。

 今回のことは事故のようなものだ。甚だ不本意ではあるが大人しく連行されるとしよう。しっかりと説明すれば相手も分かってくれるだろうし、少しくらいなら不自由な生活も平気だろう。

 そんなどこか楽観的な考えをしていると、周りにいた冒険者達の話し声が聞こえてきた。

 

「すごいなカズマの奴。国家転覆罪なんて最悪死刑になるかもしれないってのに、あんなにも落ち着いてるぜ」

「おまけに相手はあのアルダープだろ。俺あいつのことは悪い噂しか聞かないんだよな」

「絶対ロクなことにならないのにね。なんなら権力使って問答無用で処刑もありえるのに。カズマってば案外肝が据わってるわね」

 

 

「…………」

 

 

「協力感謝します。では署の方まで案内を……」

 

「嫌だぁああああああ! おうち帰るぅうううううう!」

 

 俺は全身全霊、力の限り抵抗した!

 

 

  --------

 

 

「……うん、なんかすげえみっともないことした気がするけど、全部理不尽な国家権力が悪い」

 

 あの後、必死の抵抗をした俺は騎士達に取り押さえられ、無理矢理警察署まで連行された。牢屋に入れられ、セナは詳しい話は明日聞くと言い残して去っていった。去り際に見せたあの呆れ顔は俺が二度も逃亡しようとしたからだろうか。

 それから少しして、軽犯罪で捕まったダストが同じ牢屋に入れられた。獄中でやることがない俺達は、他愛もない話をしたり、飯の奪い合いをしたり、毛布の争奪戦をしたりして時間を潰した。

 ちなみに夕飯の争奪戦は俺がジャンケンで勝利を収めるも、ダストが難癖をつけてきて口論となり、結局看守に飯を半分没収される結末に。争いは何も生まないと身をもって知ることとなった。その一時間後にまた同じようなことをして毛布も何枚か没収されたが。

 

 その後、就寝しようとするも寒さや悪質な睡眠環境、明日の取調べに対する緊張のせいで寝付けず、今に至るというわけだ。  

 それにしてもデストロイヤー討伐で多額の報酬をもらえると期待してギルドに行けば、何故か捕まり牢屋に投獄。街を救ったヒーローから犯罪者への成り下り。正直、落差が大きすぎて未だに現実味がない。

 

「夢だったりは……しないよな」

 

 目の前に並ぶ鉄格子から感じる冷たさは本物だ。丈夫なつくりをしたそれは、俺みたいな貧弱冒険者にはとても壊せそうにない。そも壊せたとしても、それは俺が罪を認めたと言いまわるようなものだ。

 国の司法相手にいつまでも逃げられるとは思わない。結局、俺に残された道はダクネスが言っていたように、自分の立場を悪くしないよううまく立ち回るしかないのだろう。

 なんにせよ明日にならないと詳しい状況も何も分からない。今日は大人しくこの獄中でどうやって寝るかだけを考えよう。

 現状を振り返りやるせない気持ちの中、横になろうとすると。

 

 

「おーい、カズマ君。元気してる?」

 

 牢屋の外、鉄格子の先の廊下から聞きなれた声が囁かれる。

 声の元を辿ると、薄暗い闇の中、窓の外から差す月明かりを反射して淡く光る銀髪がたなびいていた。

 

「クリスッ?! お前何でこんな所に?!」

 

「しーっ、静かに。そんな大声出してると看守の人達に聞こえちゃうよ」

 

 そこには口元に指を立てて、してやったりと笑みを浮かべるクリスの姿があった。

 彼女の格好は黒シャツ、黒スパッツと闇に溶け込むために全身黒で統一されていた。首に巻かれた布は身バレを防ぐために口元を隠すためのものだろう。だが髪だけは隠す気がないのかそのままで、その銀髪のショートカットはいつも以上に目をひきつける。まるでこれこそが自分のトレードマークだと主張しているかのようだ。

 

「どうやってここまで来たのかは……。まあ見ての通りって感じか」

 

「ふふふ、君の想像通りだよ明智君。潜伏、解錠、敵感知スキル等々、邸内への潜入こそ盗賊職の花ってもんだよ」

 

「問答無用な犯罪行為をそんな自信満々に言われてもな。それと俺は明智君じゃなくてカズマ君だ」

 

「もう、ノリが悪いね君は。こういうのが通じるのは日本人の君くらいなんだから、少しは乗ってくれたっていいじゃない」

 

「無茶言うな。現代っ子の俺にそんな古臭いノリが分かるわけないだろ」

 

「……え? 古いの、怪人二十面相?」

 

「……古いぞ、怪人二十面相」

 

 俺の返答に衝撃を受けたのかクリスは固まってしまった。おそらくジェネレーションギャップを痛感しているのだろうが、俺としてはクリスが昭和の書籍を知っていることの方が驚きだ。

 

「まあ、そんなことは置いといて。脱獄の手引きでもしに来たってところか? 確かに二人で潜伏使ってれば、ばれずに逃げられそうではあるけども。俺としてはあんまり気乗りしないぞ」

 

「うーん、確かにそれも面白そうではあるけど、後で絶対ダクネスに怒られるよね。そもそも根本的な解決にはならないし。あたしの今日の目的はカズマ君の様子見と、後は……はいコレ、差し入れ」

 

 クリスはどこからか取り出した袋の中をゴソゴソとあさり、小さめのバスケットを手渡してきた。それを開けると中にはサンドイッチやおにぎりなど手軽に食べれるものが詰められていた。

 

「おおっ、食い物かっ! ちょうど腹減ってたから助かるよ!」

 

「そんなに喜んでくれるなら持ってきたかいがあるよ。でももう少し静かにしないとホントに看守の人が来ちゃうってば」

 

「悪い悪い」

 

 適当に返事をしつつ早速サンドイッチにかぶりつく。挟んであるカエル肉とレタスの相性はバツグンで、チリソースみたいな少し辛めの味付けは冬場の寒さにちょうどいい塩梅だ。

 次におにぎりを食べる。具材は焼いた魚ということしか分からないががこれもうまい。米を食うとどこか安心するのはやはり俺が生粋の日本人だからだろうか。

 俺が黙々と食事をする中、クリスは床に座りながらしげしげとそれを眺めていた。

 

「美味しそうに食べるねー。余ったら明日の朝ごはんにでもしようと思ってたけど全部なくなりそうだよ。刑務所のご飯ってやっぱり臭い飯って言うだけあって、食べる気にならないような物だったの?」

 

「いや、いたって普通の飯が出てきたぞ。なんなら借金生活当初の俺の飯より随分と立派だったな。腹減ってたのは後ろで寝てるダストと夕飯のおかずをかけて勝負して、それに怒った看守が没収してきたからだよ」

 

「……つまりは自業自得ってことだよね。君って人は捕まってるのに落ち着きってものがないの? なんか心配して損した気分だよ」

 

 心配そうにしていた目がジト目へと変わる。

 正直ハメを外しすぎたのは認める。だが牢屋に入ってナイーブだった所にダストという知り合いが現れたのだ。俺の行動にも仕方がない部分があると思う。だからそんな目で見ないでください。

 

「そ、そういえば、めぐみんやダクネスはどうしてるんだ? 俺がいないからって変なことはしてないよな?」

 

 俺は話題を変えるために、ここにいない二人のことを尋ねた。

 

「めぐみんは『爆裂魔法で牢ごと警察署をぶっ壊してカズマを救出しましょう。大丈夫です、悪運の強いカズマならどうにか生き延びますよ』って言ってたよ」

 

「いや、さすがに爆裂魔法を撃たれたら悪運関係なく消し飛ぶんだが。あいつこそテロリストとして牢屋に入れるべき人間なんじゃないのか?」

 

「あははは……。めぐみんも口で言うだけで実際に爆裂魔法を撃つわけじゃないから。……たぶん……」

 

 ここではっきりと断言できないのがめぐみんクオリティ。ノリで爆裂魔法を放つ彼女に今まで何度手を焼かされてきたことか。

 

「ダクネスは一端実家に帰ったよ。なんでもカズマ君の罪状について調べたいことがあるんだってさ」

 

「それは助かるな。……ん、でもなんで実家なんだ? 調べ物するのにわざわざ帰る必要あるのか?」

 

「んー、あたしは理由を知ってるんだけどね……。まあそこら辺の話はダクネス本人から聞いて。あの子にも色々とあるんだよ」

 

 クリスは何か意味深な言葉を残してそれ以上のことは喋らなかった。

 ダクネスは世間知らずのポンコツ無愛想ドM変態クルセイダーと属性過積載なのにまだ何か積み上げる余地があるのか。正直何が来てもこれまで以上のインパクトはないので近い内に教えてほしいものだ。

 

 

「それにしても、二人がちゃんと俺のことを心配してくれてるだなんて意外だな。てっきりトカゲの尻尾みたく切り捨てられるかと思ってたよ」

 

「もう、なんでそんな捻くれた考え方するのかな。ホントはちょっと嬉しいって思ってるくせに。カズマ君ってば素直じゃないんだから」

 

 クリスはニヤニヤとした顔でこちらを見つめてくる。

 何を勘違いしているのかは知らないが、別に俺はそんなテンプレートなツンデレキャラじゃない。投獄されてナイーブなところに仲間が心配してくれていると聞いて、ちょっと来るものがあったなんてことは断じてない。

 名誉毀損の報復としてその緩んだ頬を引っ張ってやろうと思ったが、今は鉄格子が邪魔で不可能だ。悪運の強い奴め。

 

「でもカズマ君が元気そうでよかったよ。それじゃ、あたしはそろそろ帰るね」

 

 クリスは空になったバスケットを俺から受け取ると、ポンポンと土を払いながら立ち上がった。

 クリスが帰ると知り、胸中に一抹の寂しさを覚える。もう少し話していたかったが、彼女もいつまでもここにいるわけにはいかないのだ。

 

「そんな寂しそうな顔しないの。また明日も差し入れ持って来るからさ」

 

「別に寂しいなんて思ってねーし。ほら、俺はもう寝るからお前もとっとと帰れ。看守の見回りが来ても知らんぞ」

 

「そうだね。それじゃあ最後に少しだけ」

 

 そう言うと、クリスはその場に屈みこみ俺と目線の高さを合わせてくる。そして優しげな声で。

 

「君は今回のことで悪いことなんて何一つしてないんだよ。君は街のために頑張っただけ。君は君自身の行いに誇りを持っていいんだ。だから不安に思うことも何一つない。もし君を悪者だって言う人がいても、あたしは絶対に君の味方だよ」

 

「……わかった、わかった。サンキューなクリス」

 

「うん、じゃあまた明日。おやすみカズマ君」

 

 クリスは俺の愛想のない返事に苦笑しつつ、別れの言葉を残して闇の中へと消えていった。

 

「……寝るか」

 

 腹も適度に膨れ、眠気を誘われた俺はもう一度毛布に包まった。床に寝っ転がりながら、先程クリスに言われた言葉を思い返す。

 別に今回の件で俺に非がないことなど言われずとも理解している。ただそれでも、味方でいてくれるというあの言葉は素直に嬉しかった。めぐみんやダクネスも俺を心配してくれている。いつのまにか牢獄にいる孤独感は無くなり、心の片隅にあった不安は霧散していた。

 今度はよく眠れそうだ。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

「おい起きろ! 取り調べの時間だ! いつまで寝ているんだ貴様は!」

 

 翌朝、惰眠を貪っていた俺はセナに叩き起こされ、警察署内のある一室に連れていかれた。

 そこは部屋の中央に机があり、向かい合うように椅子が置かれていた。部屋の隅にも机が置かれており、紙とペンが備え付けられている。

 どう見ても取り調べ室なその部屋に、俺とセナと騎士二人が入室する。俺とセナは中央の机で向かい合うように座った。そして騎士の一人は部屋の隅で調書を、もう一人は俺の背後に立ちすぐに取り押さえられるよう立っている。

 向かいに腰掛けているセナが小さなベルを机に置く。

 

「これが何か知っていますか? この様な場所や裁判所でよく使われる、噓を看破する魔道具です。この部屋の中に掛けられている魔法と連動し、発言した者の言葉に噓が含まれていれば音が鳴ります。隠し事は万が一にもできないと思ってください」

 

 セナの言葉にゴクリと唾を飲み込む。圧迫された空気に嘘発見器を用いた取り調べ。失言には気を付けなければいけない。

 そうした緊張の中、俺の取り調べは開始された。

 

 

「サトウカズマ。十六歳。職業は冒険者、と。ではまず出身地と、冒険者になる以前に何をしていたのかを教えてください」

 

「出身地は日本です。そこで、学生をしていました」

 

 ━━━チリーン。

 ……あれ? 何で早速ベルが鳴るんだ? 普通に答えただけなのだが。

 

「あの、先程も言いましたが発言に嘘が含まれているとベルが鳴りますので、返答は嘘偽りなくお願いします」

 

「いや、別に嘘をついたわけじゃ……」

 

 ━━━チリーン。

 

「「…………」」

 

 再び室内に鳴り響くベルの音。

 俺とセナの間に沈黙が流れる。

 どうして今の二つの発言で魔道具が嘘を感知したのか。俺は考えに考えた末、ある一つの考えに至り言葉を変えて発言してみた。

 

「……出身地は日本で、毎日家に引き籠り自堕落な生活を送っていました」

 

 ━━━━━━━。

 

「「…………」」

 

 今度こそベルは鳴らなかった。

 それと同時に俺とセナの間に先程とは別の意味の沈黙が流れる。先程は何度も鳴るベルに対しての気まずさによる沈黙で、今回のは軽い軽蔑の視線が混じった沈黙だ。

 

「ええっと、では次の質問ですが……」

 

 どうにか気を取り直したセナは次の質問へと移った。

 しかしその後も。

 

 

「普段から剣の鍛錬に励み、より強いモンスターを討伐して人々のためになるよう……」

 ━━━チリーン。

「……普段はクエスト以外じゃ剣なんて触りもせずにぶん投げてます。強いモンスターなんて関わりたくもないので、楽で儲けの良いクエストを毎日必死になって探してます」

 

「魔王軍幹部のベルディアと戦ったのはアクセルの街の住人の一人として当然のことでして……」

 ━━━チリーン。

「……別に街なんか放っておいてさっさと逃げたかったんですけど、周りの雰囲気がそれを許してくれなくて。後、ベルディアが街に来たのはうちのパーティーの仲間のせいで後ろめたかったのもあります」

 

「領主の人に恨みなんて抱いてません。借金が出来たのは全部俺の責任で……」

 ━━━チリーン。

「……正直なんで俺が借金背負うんだよ。ふざけんなよって思ってました。友人との酒の席でさっさとあのクソ領主死なないかなーとか言ってました」

 

 ━━━チリーン。

 ━━チリーン。

 ━チリーン。

 

 

 

「「……………」」

 

 質問の数が十になろうという時、俺とセナの間に言葉はなくなっていた。ここまででいったい何度ベルが鳴っただろうか。部屋にいる騎士達もこのいたたまれない空気に困惑しているようだ。

 正直、非常にまずい。俺としては無実を主張したいのに、こうも嘘を感知する魔道具が鳴っていては信用も何もあったもんじゃない。

 どうもこの魔道具、多少の見栄を張った発言も感知しているようで線引きが曖昧だ。そのことに途中から気付き注意して発言してはいるものの、それでも鳴る時は鳴る。完璧に回答するのは現状難しい。

 何にせよ、身の潔白を主張するならば、まずこの空気を払拭することが先決だ。俺が意図的に嘘をついているわけではないとアピールしなければ。

 

「あ、あの。さっきから俺の返答の時にこのベルが鳴ってますけど、俺は別にやましいことがあるわけじゃなくてですね……」

 

 ━━━チリーン。

 これで何度目だろうか、再び机上のベルが小気味の良い音を鳴らす。

 同時に俺の頭の片隅でもプチンと何かが切れる音がした。

 

 

「っだああああああっっっ!! さっきから何なんだよこの魔道具は! 俺がちょっと発言したくらいでリンリンリンリン鳴りやがって! これじゃあ普通の会話すらまともにできねえだろうが! こんなガラクタぶっ壊してやる!」

 

 あげ足取りのように何度も鳴るベルに対し、ついにプッチンした俺は目の前のそれを壊そうとするも、後ろにいた騎士に取り押さえられた。

 その一連の出来事を見ていたセナは小さくため息を吐いた。

 

「……はぁ、仕方ありませんね。これではまともな取調べになりませんし」

 

 そうしてセナは何を思ったか、部屋の隅で調書を書いている騎士に目線を配る。それに気付いた騎士は調書を書く手を止めペンを置いた。俺を抑えていた騎士にも同様に目線を配り、解放するよう促した。

 

「さて、サトウカズマさん。今から私が話すことは王国検察官という公的な言葉ではなく、私個人の言い分として聞いてください」

 

「急に改まってどうしたんですか? 個人的なことって、まさか金を積むから私の出世のために罪を認めろとか……」

 

「違います、馬鹿ですかあなたは。そうではなく、あなたとの質疑を円滑に進めるための世間話のようなものだと考えてください。公務からは外れるので調書も取りません」

 

 俺は場の雰囲気が変わったことに疑問を抱きつつも、彼女の話に耳を傾けることにした。

 そうしてセナが語ったこととは。

 

「まず、昨日あなたを連行する理由としてアルダープ殿の屋敷に被害を出したことを挙げましたが、あれは間違いです。実際にはほとんど被害は出ていません」

 

 

「…………は?」

 

 俺はセナが何を言っているのかよく分からず、素っ頓狂な声をあげてしまった。そんな俺に構わずに彼女は続ける。

 

「コロナタイトが転送されたのは爆心地から判断するに領主殿の屋敷から離れた場所でした。そこは何もない平原で爆発に巻き込まれたのは野生のモンスターが数体のみ。屋敷への被害は爆風で窓ガラスが二、三枚割れた程度と軽微なものです」

 

「窓ガラスが二、三枚って……。ち、ちょっと待ってくれよ、領主の屋敷に大した被害が無いって言うなら、なんで俺はここに連れて来られたんだよ」

 

「この地の領主であるアルダープ殿が、直々にあなたを国家転覆罪の疑いありと告発したからです」

 

「………………はぁっ?!」

 

 今度こそまったく理解ができずに声を荒げてしまった。

 領主の意向一つでそんな簡単に罪人にされるなんて馬鹿げている。しかも実際には被害がほとんど出ていないのだから納得などできるはずがない。

 そしてそれを鵜呑みにして逮捕してきたこいつらもこいつらだ。おかしいと思わなかったのか。 

 俺はその憤りを相手にぶつけようとして、すんでのところで言葉を飲み込んだ。

 

「……これはあれか? 適当なこと言って俺の神経逆撫でして、不利な言葉でも引き出そうとしてるのか? 悪いが俺にそんな手は通じないぞ」

 

「まず訂正が一つ。今は調書を取らせていませんが、この魔道具はまだ機能しています。つまり先程の私の言葉は適当なことではなく事実です。そして誘導尋問をしているつもりはありません。もしあなたが悪事を働いたという決定的な証拠を口にしたのなら見逃せませんが、多少の暴言程度なら目を瞑るつもりです」

 

 確かに先程から一度もベルは鳴っていない。彼女の言葉に嘘は無いという確かな証拠だ。まだ納得はしていないが、俺はどうにか怒りの矛先を収めた。

 

「なるほど、あんたが嘘を言ってないのは分かった。それで、俺にそんなことを教えてどうしたいって言うんだ?」

 

「私は検察官です。悪人を法廷に突き出すのが仕事であり、本来容疑者の味方をするつもりはありません。ですが今回の領主殿の告発には私も少しばかり思うところがあります。はっきり言って、あなたを起訴することに関しては消極的な立場です。……というか、そもそもですね……」

 

 セナは先程までの険のある表情を緩め、少し疲れたような顔になる。

 

「昨日あなたが素直についてきてくれたなら、こうも面倒なことにはならなかったのです。取り調べも今より簡素なもので昨日の夜には解散していたはずなんです。それなのに、あの時あなたが逃走を計ろうとしたから規則上牢屋に勾留せざるおえなくなって……」

 

「……マジすか?」

 

「……マジです」

 

 ━━━━━━。

 机の上に置かれたベルはピクリとも反応しない。

 

「…………昨日のことにつきましては、こちらの不手際によりご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。いやホント、マジすんませんした」

 

「ええ、そのことについては深く反省してください」

 

 どうやらセナは俺の肩を持ってくれていたようだ。

 話を聞くと、彼女も告発人が貴族ということもあり、立場的に俺を逮捕しないわけにはいかなかったそうだ。だからこの取り調べで疑いなしと判断して、コトを穏便に済ませようと思っていたらしい。

 

「あなたの活躍は私も存じています。森に出没した上位悪魔や、街に襲撃してきた魔王軍幹部の討伐。機動要塞デストロイヤー討伐作戦においては作戦の立案から前線での指揮等、多方面で活躍したと聞いています。聞き込みにおいてもあなたを悪く言う人にはほとんど会いませんでした。そのような人をこの程度のことで罪に問うなど間違っています」

 

「お、おう。ありがとうございます」

 

 そんな真っ正面から賛辞を受けると何かこそばゆいものがある。今振り返れば、俺も借金や首チョンパなんてこともあったけど、なんだかんだうまくやってこれてたんだな。

 

「それにあの魔剣の勇者とも交流があるだとか。あの方は強さだけでなく人格面でも素晴らしい方ですからね。お互い交流があるということは、何か惹かれ合うものがあったのでしょう。ちなみにカズマさんは受けと攻めどちらでしょうか? 私個人の考えとしては受けの方が捗るのですが」

 

「まあミツルギとは同郷だし仲良くやって…………今最後なんて言いました?」

 

「……コホン。いえ、何も言ってませんので気にしないでください」

 ━━━チリーン。

「いやベル鳴ってるし。俺には何かおぞましい言葉が聞こえてきたような……」

 

「何も、言っていませんので」

 ━━━チリ、ガッ。

 

 セナは笑顔で否定の言葉を並べている。その手は机の上にあるベルに置かれていた。その手が小刻みに震えているのは、中でベルが必死に彼女の虚偽を暴き立てようとしているからだろうか。

 

「…………あっはい、わかりました」

 

 俺は何も反論せずに、ただただ肯定することしかできなかった。こうして検察官の手により真実は物理的に揉み消され闇の中へと葬られた。

 

 

 

 その後、セナが味方だと知った俺は取り調べに素直に協力した。何度かベルが鳴ることはあったものの、先ほどよりもスムーズに進行している。

 

「それでは次の質問が最後になります。まあ再確認のようなものですが。あなたは本当に魔王軍の関係者ではないのですね。魔王軍の幹部と交流があるだとか、そんな事は……」

 

「ないですよそんな物。デュラハンのベルディアと戦った時に少し話したりはしましたけど、その程度です。ともかく俺に魔王軍の知り合いなんていませんよ」

 

 ━━━━━━━。

 当然ベルが鳴ることはなかった。

 魔道具を見つめていたセナは安堵からかほっと一息をついている。

 

「それではこれにて取り調べは終了です。協力感謝します。まだあなたを解放することはできませんが、明日にでも釈放できるよう手配しますので、もうしばらくの不便をご容赦ください」

 

「構いませんよ、元はといえば俺のせいですから。昨日と違って無罪だって分かってるから気楽ですし」

 

「なら昨日のような問題行動はつつしんでくださいね。では私はこの件に関して領主殿への報告があるのでお先に失礼します」

 

 そう言ってセナは苦笑をもらしつつ、一足先に部屋を出ていった。

 

「……領主か……」

 

 取り調べも終わりほっとする一方、まだ一つ気がかりが残っている。

 何故領主のやつが俺を国家転覆罪などと告発したのかだ。別に恨まれるようなことをした覚えはない。

 巷の噂ではこの地の領主は金銭への執着が強いと聞く。俺に罪をふっかけて賠償金でもせしめようとしたのだろうか?

 考えを巡らすも心当たりが微塵もないので、原因追求は早々に諦めた。どうせ今回の取り調べで確定的に無罪が明らかになったので心配することもないだろう。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

 そしてその日の夜、警察署内の牢屋にて。

 

「こんばんはー。クリスデリバリーでーす。差し入れを持って参りましたー。……ってあれ? なんで君もいるの?」

 

「知らん。なんか勝手に起きてきただけだ」

 

「おいおい、連れねえな二人とも。俺達は同じ冒険者のよしみだろ」

 

 昨日の約束通り今夜もクリスが牢屋を訪ねて来たのだが、そこには俺ともう一人、まるでいるのが当然かのようにダストが座っていた。

 俺は昨夜クリスと会ったことは誰にも喋っていない。それなのに何故ダストがここにいるかというと。

 

「いやな、カズマが取り調べに連れてかれて暇だった俺は、何をすることもなく牢屋でゴロゴロしてたんだよ。そしたら床に見慣れないパン屑が落ちてるのを見つけてな。始めは疑問に思うだけだったんだが、これは誰かがこっそり外から持ってきた物だと気づいたんだよ」

 

「それで寝たフリをして、カズマ君の挙動が不振だったから確信を得たと」

 

「その通り。この俺の頭脳を持ってすれば、この程度の推理なんて朝飯前だがな。さあクリス、ここで騒いで看守を呼ばれたくなかったら、大人しくその差し入れを俺にも寄越せください」

 

 ダストは言葉の内容とは裏腹に、頭を床に擦り付けながらクリスに懇願している。看守に聞こえないよう小声で喋っているため、側から見るとより一層惨めな土下座に見える。

 

「いやまあ、あたしとしては別に構わないんだけどね。その……、そんな簡単に頭を下げて冒険者としてのプライドってものはないのかな?」

 

「言ってやるなクリス。こいつにそれを求めるのはあまりに酷だ。なにせ投獄中はタダで飯と寝床が手に入るからって理由で、わざと警察に捕まるようなやつだぞ」

 

「うわぁ……」

 

「なんだよ。プライド捨てて飯が出てくるってんなら俺は何度でも捨ててやるぜ。そんなことより早くそれを食わせてくれよ。今日も看守のやつに飯を減らされて腹が減ってんだよ」

 

「はいはい、分かったよ」

 

 貰う側なのに急かしてくるダストに、クリスは呆れつつも昨日と同じように袋からバスケットを取り出し手渡してきた。中身は昨日と同じおにぎりとサンドイッチだが、量は増えているように見える。

 

「今日の分はえらく多いな。これ俺一人じゃ食べきれなかったぞ」

 

「せっかくならあたしも夜食を一緒にしようかと思って二人分作ったんだ。ダストが起きてるのは予想外だったけどちょうどよかったね」

 

「まあ俺様は幸運の女神に愛されてるからな。それじゃあ早速いただきますと」

 

 そう言うとダストは我先にとバスケットへと手を伸ばした。その遠慮のなさには夜食を用意した幸運の女神様も苦笑いだ。俺も見てるだけだと食いっぱぐれるので、用意してくれたクリスに感謝しつつ夜食に手をつけた。

 そうしてしばらく三人で他愛もないことを話しながら食事していると、クリスがどこか物欲しそうな顔で俺達の食事を眺めていることに気がついた。そういえば夜食も兼ねて作ったと言っていたな。

 

「クリスは食わないのか? 作ってもらった俺が言うのもなんだが遠慮するなよ」

 

「え? ああ、あたしはいいよ。夕飯もちゃんと食べたしお腹は空いてないし。二人の方が満足に食べれてないでしょ。だからあたしに遠慮せずに……」

 

 キュウ、と可愛らしい音が話している最中のクリスのお腹から聞こえてきた。これは紛れもなく空腹を知らせるサインだ。

 月明かりしかないのに、クリスの顔が徐々に赤くなっていくのがはっきりとわかる。

 

「……あたしに遠慮せずに食べるといいよ」

 

「いや、無理すんなよ」

 

 あそこから誤魔化すのは流石に無理がある。俺のツッコミにクリスは恥ずかしそうに顔を俯かせている。

 こうも綺麗に定番ネタを回収するとはさすがは女神と言ったところか。もはや芸術的である。むしろわざとやっているのだろうか?

 

「まあ待てカズマ。いらないって言うなら別にいいじゃねえか。女ってのは常日頃から痩せたいって言ってる連中だ、気にするこたぁねえよ」

 

「お前は自分の食い扶持が減るのが嫌なだけだろ。ほら俺達のことはいいからクリスも食え」

 

 俺はサンドイッチを一つ取り、格子越しに手を伸ばしてクリスの口元に差し出す。だがクリスはそれを食べることはなく、ギョッとした顔で固まってしまった。こいつはまだ遠慮しているのだろうか。

 

「どうした、食わないのか? ダストの言い分なんて気にする必要ないぞ」

 

「い、いや、食べるよ。あたしもお腹空いてたし。でもそんなことして貰わなくても一人で食べられるからさ……」

 

 そんなこと? クリスは何を言っているのだろうか? 別に俺はサンドイッチをクリスの口元に持っていく、いわゆる『あーん』というやつをやっているだけで……。

 

「あ、ああ、すまん。別に他意はなかったんだ」

 

「う、うん。分かってるから」

 

 クリスは俺からサンドイッチを受け取ると、こちらを気にしながら少しずつ食べ始めた。咀嚼音以外聞こえないこそばゆい沈黙の中、心なしかクリスの頬が朱に染まっているように見えた。

 

 …………やだ何この空気! 甘酸っぱい、甘酸っぱいよ奥さん!

 くそっ、なんで俺はあんな小っ恥ずかしいことをやってしまったんだ! なんでクリスはそんな照れているんだ! なんで俺はちょっとドキドキしているんだ!

 確かに無遠慮な行動をした俺に非はあるが、その反応はダメだろ! そんな反応されたら耐性のないカズマさんが勘違いしちまうだろうが!

 いや落ち着け俺。こんな相手のしぐさ一つで動揺するやつがあるか。普段のクリスの行動を思い出せ。屋敷にいる時の人目を気にしていないズボラな一面を思い返して中和を……。

 ダメだ、屋敷だとエリスでいる時が多いから割としっかりしてる! 回想シーンの選択をミスった! むしろエリスのテレ顔まで想像しちまって効果が二倍に!

 ちくしょう、俺は一体どうすればいいんだ?!

 

 俺がよく分からない葛藤に苦しんでいると、一人の男がこの空気をぶち壊した。

 

「バクバクバクバク、ゴクン。……ふぅー、ごっそさん」

 

「あ! ダスト、お前全部食いやがったな! まだ俺もあんま食ってないのに何してくれてんだ!」

 

「知るか、食うのが遅いのが悪いんだよ。じゃあ俺は腹も膨れたことだし寝るとするわ」

 

 そう言ってダストはゴロンと寝っ転がってしまった。飯を食った割には機嫌が悪そうだったが、急にどうしたのだろうか。……いや、十中八九俺とクリスのせいだ。目の前で他人があんな変な空気漂わせてたら誰だってキレる。俺だってキレる。

 だがダストのおかげ(?)で先程の変な空気は払拭された。飯を全部食べたことは頂けないが、それについては感謝しよう。

 

 

 

 ダストは不貞寝してしまったので、クリスと二人で今日の取り調べについて話した。話を聞く前は身構えていたクリスだが、明日にでも釈放になると聞いてどこか拍子抜けしたような表情をしている。

 

「そっか、明日には出られるんだね。でも故意じゃなかったとしても、領主の屋敷を壊した人がそんな簡単に釈放されるものなの?」

 

「聞いた話だと屋敷への被害は皆無みたいなもんらしいぞ。そもそもコロナタイトのテレポート先は無人の平原なんだと」

 

「へ、そうなの? じゃああの時のランダムテレポートはうまくいってたってこと?」

 

「そういうことだ。昨日は疑って悪かったな、クリスのおかげで助かったよ」

 

「ま、まあね。このあたしが居たんだから失敗するなんてあり得なかったんだよ」

 

「はいはい、感謝してますよクリス様」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

 クリスは緊張が解けたからか、自然体な笑みを浮かべた。彼女もテレポートの件に関して、何かしらに責任を感じていたのかもしれない。

 

「いやー、カズマ君があの検察官の人に連れてかれた時はどうなることかと思ったけど、お咎めなしになって本当に良かったね。あ、でもそれだとせっかく用意したカズマくん脱獄セットが早速無駄になっちゃったか」

 

「……おいなんだよ、その看守に聞かれたら一発アウトになりそうな代物は」

 

「もし明日にでも刑が執行されるってなった時のために用意したんだ。せっかくなら見てみる?」

 

 そう言ってクリスが手持ち袋からその脱獄セットとやらを取り出し、見本市のように並べていく。煙玉、フック付きロープ、ワイヤー等々、さまざまな物品が出てくる。

 

「随分と充実したラインナップだな。このスパナみたいなやつは何に使うんだ?」

 

「これは南京錠を壊すための道具だよ。ここの牢屋みたいなダイヤル式だと解錠スキルが使えないから用意したんだ」

 

「なるほど。じゃあこの巻物は?」

 

「目眩しの魔法が封じられたスクロールだね。追手に向かって巻物を広げたらフラッシュの魔法が発動するよ」

 

「……この黒光りしてるいかにも危険そうな球体は?」

 

「最終兵器☆」

 

 興味本位で一通り見てみたが、思った以上にガチガチの脱獄セットだった。これだけの物を一日で揃えられるとは思えない。どこか自慢するようなクリスの説明から鑑みるに、おそらく以前から持っていた私物なのだろう。

 

「ちなみに聞くんだが、これを使ってどこかの屋敷に潜入したことは?」

 

「……ないよ。女神様に誓ってもないよ」

 

 なんとも分かりやすい反応である。昼間の嘘を感知する魔道具があればチリンチリンと音を鳴らしていたに違いない。

 めぐみんの時も思ったのだが、うちのパーティは俺以上に牢屋に入れられるべき人間が多い気がする。

 

 

 

 それからしばらく話した後にクリスは帰っていった。特にやることもなくなった俺はそのまま寝ようとすると、既に寝ていると思っていたダストが声をかけてきた。

 

「なあカズマ。無罪になったってのはめでたいことだが、あの領主には気をつけろよ。あの野郎が何してくるかわかったもんじゃねえからな」

 

「どうしたんだ急に? 確かに俺は領主に何故か訴えられたけど、実際には被害なし、取り調べも問題なしなんだぞ。そもそも俺とあの領主の間にイザコザなんてないし、俺みたいな一冒険者にこれ以上構ってくることなんてないだろ」

 

「どうだかな。それなら最初から訴えるなんてことはしてきてねえよ。覚えとけカズマ。貴族なんて連中はな、基本ロクなやつなんかいねえんだよ」

 

 どこか重みを感じる言葉を残したダストは、そのまま寝てしまった。

 俺はその時は考えすぎだろうと楽観視していたが、そのすぐ翌日にその言葉の意味を身をもって知ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 




「俺の名前は佐藤カズマ。牢屋に捕まっちまったぜ。やれやれだぜ」

これが書きたかっただけの冒頭のうろジョジョネタ。最近久しぶりに見たけど相変わらず面白かった。

どうもお久しぶりです。作者です。
前回の話でひと段落して執筆サボってたらなんか九月半ばになってますね。でもマイペースで書くって言ったし別に気にすることないか。
……まあ真面目な話、作者の私用や展開がうまく思いつかずに投稿遅れました。サーセンした。

というわけで取り調べ回でした。
大筋としては原作と同じですが、中身は色々と違っています。

まず第一にアルダープ邸は壊れていません。エリス様も伊達に幸運の女神は名乗ってませんから。
次にカズマさんはウィズが魔王軍幹部だと知りません。ベルディアを倒した後でウィズに会った時は、屋敷の幽霊アンナのことで取り込んでいたので。
最後にデストロイヤー討伐戦において、ドレインタッチは使用していません。これで変に疑われることもないです。

なので普通ならカズマさんが罪に問われることはありません。
むしろ悪魔討伐やベルディア戦、デストロイヤー戦において原作以上に積極的に貢献、活躍してるので周りからの評価は高いです。英雄的な活躍をしていると言っても差し支えないでしょう。

人によっては目障りだと思えるほどに。



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