転生した羊の姫は,あの日の勇者に憧れる   作:ふふ歩

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異世界もの恒例修行パート。
まずはお父さんと村長さん編になります。


特訓の日々①〜父と村長〜

 陽が落ち、ルゥシィを始めとした友人達と別れた後、母が夕飯の支度をしている間に、野良仕事から帰って来た父との特訓が始まる。

 

 

 

「ーーじゃあ始めるぞメル。準備はいいな?」

「うん、お父様」

 

 

 

 父の呼びかけに応じて、庭先の草むらに座りこんだ僕は、深呼吸してから目を閉じる。

 

 

 

ーーそして体の中に意識を集中させると、僕の体の中の魔力が全身に…髪の毛の先にまで流れているのが感じ取れた。

 

 

 

「ーー掴んだな。では次だ」

「うんーー!!」

 

 

 

 父の合図に応じて、その掴んだ魔力の流れに力を加えて、循環を段々と速くしていく。

 ただ速くするだけではなく、魔臓の鼓動を早く、強くして、体の中の魔力の量を増やしていく。

 イメージは、曲芸師のようにフラフープを一個ずつ多くしながら、それらを落とさず回転を維持するように。

 

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 

 

 勿論、それには凄まじい集中力が必要で、僕の額から汗が滲み出る。

 しかも少しでも力を抜けば、増やした魔力は止まり元に戻ってしまい、かと言って力を込め過ぎても、僕の体の中に維持出来ずに外へと飛び出してしまう。

 一度回してしまったバケツの水が、止めれば溢れてしまい、力をかけすぎたら取手が壊れて吹き飛んでしまうのと同じ理屈だ。 

 コントロールが出来なくなるギリギリの一線を見極めながら僕は更に回転を上げていく。

 

 

 

 それがとうとう限界を迎え、弾けてしまおうとしたその瞬間ーー。

 

 

 

「ーーそこまで!!」

 

 

 

 父の合図が飛んだ。

 

 

 

「……っぷはぁ!!」

 

 

 

 僕は大きく息を吐き、魔臓の拍動と回転の速度を緩めた。

 

 

 

「気を抜くなーーゆっくりと魔力の速さを緩めて、もう一度自分の体の中に馴染ませていくんだ」

「……っ……うん…!!」

 

 

 

 激しい心臓の鼓動と乱れる息を整えながら、激しく流れていた魔力を、今度は少しずつ逆方向の魔力を流して相殺しながら元の循環へと戻していく。

 

 

 

「…はぁーー」

 

 

 

 湯が水に変わる程の時間をかけて、僕は息と魔臓の拍動の乱れを抑え込んでいた。

 

 

 

「ーーうん、及第点と言っていいな。ただ、少し一気に魔力を高めすぎている。

まずは魔臓の鼓動を小さく遅く、そして次第に大きく速くしていくことを心がけなさい」

 

 

 

 父は満足げに頷きながらも、しっかりと先ほどの特訓の問題点も指摘してくれる。

 それらはいつも的確で、しっかりと噛み砕く事が出来れば、毎日のように成長を実感出来る物だった。

 

 

 

ーーこれは自分の魔力を、体の中に留め、高める事の出来る限界を見極めつつ、高めていくための練習方法だ。

 

 

 

 これを毎日行うことで、魔臓と魔血管の力を高め、尚且つ魔力孔から自然と魔力が漏れ出たり、予想以上に噴出してしまったりする事を防ぐことが出来るのだという。

 最初は上手く魔力の調節が出来ず、時間も僅かしか出来なかったが、この特訓を始めてから数ヶ月ーー着実な成長を感じて、僕は少し嬉しくなった。

 返す返事も、何処か弾んだ調子になってしまう。

 

 

 

「はいっ!!」

「うん、良い返事だ。じゃあ、次に行くぞーー」

 

 

 

 そして特訓は続く。

 まず父は僕の背中に手を当てるーーそれを合図に、僕はその部分に魔力を集中させる。

 すると、当てられた手の形に放出された魔力が、父の手を弾くように押し返した。

 

 

 

「少し遅い。次だーー」

「はいっ!!」

 

 

 

 今度は肩に手が置かれるーー僕は可能な限り早く、そこに魔力を集中させる。

 父の手が、革を打つような音を立てて弾かれる。

 

 

 

「強すぎる。次っーー」

 

 

 

 その都度父は魔力の感触に対して講評しつつ、緩急を付けながら、手や指の置く位置を次々と変えていく。

 それに応じて僕は、触る部位や強さに応じて魔力の形を変え、放出する事を繰り替えす。

 

 

 

ーーこれもまた、魔力のコントロールの方法の一つ。

 

 

 

 体の外からの刺激に対して、その場所に応じて魔力を集中させ、その強弱に応じて適切な量の魔力を放出する。

 こうすることで、外界からの刺激に対して魔力が過剰反応したりする事を防ぐ事が出来、過剰な魔力の放出を抑える事が出来る。

 

 

 

 何度も繰り返していくうちに、思わず強くなりそうになる魔臓の拍動が、力のコントロールを更に困難にするが、少しでも気を緩めると、集中しろと父からの檄が飛ぶ。

 

 

 

「ーー最後だ!!」

「……っ!!」

 

 

 

 そして夕日が完全に沈み、星の帳が空にかかり始めてからようやく、特訓は終わりを告げた。

 

 

 

「良し、最後までやり切れたな。偉いぞメル」

「はぁ…はっ…はぅ…」

 

 

 

 これを始めてから、ようやく貰えた父の賞賛だったが、僕は最早疲労困憊でまともに返事を返す事も出来なかった。

 それから暫く時間をかけて息を整えて、汗を拭いてから家の扉を潜る。

 

 

 

「ただいまぁ…」

「お疲れ様、貴方、メル。お風呂が沸いているから、ご飯の前に入ってらっしゃいな」

 

 

 

 すると、エプロンを身につけた母が、優しい笑顔で出迎えてくれた。

 台所からは、空腹を刺激するかのような美味しそうな匂いが漂ってくるーー僕はそれだけで疲れが吹っ飛んでしまう。

 

 

 

「うんっ、お父様、早く、早く入ろう!!」

「ははは、現金なものだなメルは。ご飯は逃げないから、慌てなくても大丈夫さ」

 

 

 

 苦笑する父の腕を力一杯に引っ張りながら、僕は風呂場へと駆け出していった。

 

 

 

 

__________________________________________________

 

 

 

 

 

ーーそして特訓は日毎に指導役と方法を変えて行われる。

 

 

 

 

 その日、僕は村長さんの家の裏手で大量の丸太を前にしていた。

 

 

 

 

「ーーそれでは、始めましょうかメルリアさん」

「はい、村長さん」

 

 

 

 村長さんの言葉と同時に、僕は魔力を手の形に変えながら伸ばし、ひと抱えほどある大きさの丸太を掴み取り、目の前の切り株へと置く。

 そしてそれに目掛けて今度は魔力を叩きつける。

 

 

 

ーー形と硬さを斧のように変えた魔力の塊は、丸太を一瞬にして叩き割り、手頃な大きさの薪へと変える。

 

 

 

 そしてバラバラになった薪の数に応じて、魔力を枝分かれにさせて小さな手を作り、一つ一つ確実に掴んで薪置き場へと丁寧に置いていく。

 その作業をこなしながら、もう一方にも魔力の手を再び伸ばし、丸太を引き寄せ、薪に変え、置き場へ置く。

 

 

 

ーーこれを、ただひたすら丸太が無くなるまで繰り返すのだ。

 

 

 

 村長さんとの特訓は、このように日常生活に密接に関わることを、魔力を使って行う。

 

 

 

ーー時には井戸の水を瓶にひたひたにし、それを零さないように家まで運んだり。

 

 

 

ーー時には、飼っている鶏の世話をし、産んだ卵を割らないように集めたり。

 

 

 

 いつもは何の気無しに行っている事を、これを魔力を使って、様々な作業を同時に行おうとすると、それらは全く違うものに変わる。

 

 

 

「ーー一つ一つを連続して行うのではありません。全てを同時に、並行して行うのです」

「はいっ!!」

 

 

 

「魔力は本来形を持たないものです。だからこそ、手にも斧にもなり、力も数も自由自在です。

ーー想像です。魔力の形と力強さを常に想像するのです」

「はいっ…!!」

 

 

 

「力任せにするのではなく、目的や用途に応じて力を使い分けなさい。木の実を割るために、大岩を用いる必要はありません」

「は…いっ!!」

 

 

 

 村長さんの指摘は、ただひたすら同じ事が繰り返される。

 何故ならそれがこの特訓の基本基礎であり、奥義でもあるからだ。

 だが、言うは易し、行うは難しとはよく言ったもので、これが凄まじく難しい。

 

 

 

ーー少しでも集中を切らせば、魔力の手は丸太を掴めず弾き飛ばしてしまうし、力加減を間違えればーー

 

 

 

「あっ…!?」

 

 

 

…こうして、丸太を薪ではなく粉々の木片へと変えてしまう。

 更にその動揺は他の手にも伝わってしまい、続けて薪が握り潰されて無惨な姿へと変貌した。

 

 

 

 

「ーー薪作りは冬備えの基本です、無駄にしてはなりませんよ? 精進精進」

「は、はいっ…!!」

 

 

 

 村長さんは決して叱ったりはしないけれど、自分の前世よりも遥かに長い時を生きてきた彼の言葉は、不思議な重みがある。

 背筋に薄ら寒いものを感じ、自然と集中力が高まる。

 

 

 

ーー程なくして、丸太は薪に姿を変え、少し寂しくなっていた村長さんの薪置き場を満杯に変えた。

 

 

 

「はい、お疲れ様でした。今日も頑張りましたね」

「はっ…ヒィ…」

 

 

 

 パチパチと拍手する村長さんに応える僕の声は、最早吐息と区別のつかないものになっていた。

 

 

 

「さて、それじゃあ冬備えを手伝ってくれたお礼をしなくてはいけませんね。

薪の余裕も出来た事ですし、早速これでお湯を沸かして、紅茶を淹れてあげましょう」

「えっ…!?」

 

 

 

 それを聞いて、その場に大の字になっていた僕はガバリ、と身を起こす。

 きっとその時の僕の目はキラキラと輝いていたに違いない。

 村長さんの淹れる紅茶は絶品で、村の子供達の大好物なのだーー勿論、その中には僕も入っている。

 そして、そのお茶請けにはーー。

 

 

 

「ーー勿論、クッキーもありますよ。一緒に頂きましょう」

「はいっ!!」

 

 

 

 村長さんが手ずから作った、絶品の手作りクッキーだ。

 

 

 

 

ーーその日は嬉しさのあまり紅茶を何杯も飲み過ぎてしまい……翌朝、僕の布団には立派な地図が出来てしまったのはここだけの秘密だ。

 

 

 

 

…勿論、母にはそれはそれは猛烈に怒られ、僕のお尻には綺麗な紅葉が咲いた。

 

 

 

 

 特訓の日々は、前世の幼少期もかくやとばかりに厳しいものだったけれど、僕は凄く満ち足りていた。

 

 

 

 

 それは、教えてくれる人達の厳しさの中に、確かな優しさと愛情を感じ取れるようになったからなのだと思う。

 これも、年の功というものなのかもしれない。

 

 

 

 




一気にお母さんによる修行パートも書きたかったのですが、少し冗長になるかなと思い分割。
後編はもう少しお待ち下さい。
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