艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第十話 三年越しのただいま

 

 

 

 もうどれくらいの時間、車に揺られているのでしょうか。

 ハイエースの最後尾、バックドアの前に設えられたソファーに座って、時折流れていく高速道路の景色を眺めているのですが、遮音壁が途切れた時に見える風景を見てもどこを走行しているのかわかりません。

 

 「酔ったりトイレに行きたくなったら、すぐ言ってくれよ」

 

 とは、私を養成所に迎えに来てくれた二人の内、運転している金髪さんです。

 養成所から出ている定期船を降りてから、休憩の時以外はずっと運転していますが、モヒカンさんと交替したりしないのでしょうか。

 

 「他の映画が見たかったら言ってくれっす。あ、そこの冷蔵庫の中身は勝手に飲み食いして良いっすからね」

 

 対してモヒカンさんは、私が退屈しないようにしてくれているのか、定期的に声をかけてくれます。

 さらに、車の天井の中ほどに設置された17インチくらいのモニターにジ〇リの映画を流してくれています。

 映画の場面に合わせて、あっちこっちから音が響いてくるのが気にはなりますが……。

 

 「すごいっしょ!ドルビーデジタル7.1ch仕様っす!」

 

 と、ついでとばかりに説明してくれましたが、はっきり言ってよくわかりません。 

 たしかに音は綺麗だしすごいんですが、横や、酷い時にはお尻の下からも音がするのがなんとも……。

 

 「ソファーの下にウーファー仕込んでるんっすよ!低音がいい感じっしょ!」

 

 ウーファーって何ですか?毛皮の一種?

 は、置いといて。

 上記の事もあって、短い付き合いですがお二人が見た目に反して良い人なのはよくわかりました。

 

 「この車はお二人が改造したんですか?」

 「そっすね。オヤジに適当ぶっこいて金出させていじったんす」

 

 え~っと、お二人は横須賀提督の私兵的な人たちで、オヤジさん?の命令で私を迎えに来たとおっしゃっていましたから、オヤジさんイコール提督でいいんですよね?

 あれ?じゃあお二人とも……。

 

 「提督が、お二人のお父さんなんですか?」

 「いやいや、あんなのが父親とかマジ勘弁っす」

 「俺ぁそっちより、お前みてぇな世紀末生物が弟って方が嫌だな」

 「ちょっ!なんで自分が弟になるんっすか!同い年っしょ!?」

 

 なるほど。

 血の繋がりがあるからそう呼んでいるわけでなく、呼び名がオヤジなんですね。

 あ、ちなみに「側頭部に光が反射して眩しいんだよ薄らハゲ!大人しく火炎放射器持ってヒャッハー言ってろ!」とか「うっせぇっすよクソDQN!運転しか能がないんっすから前見て運転しろっす!危ないっしょ!」などと罵倒し合い始めた二人は無視します。

 

 「あ、そう言えば、横須賀の提督は元陸軍の人なんですよね?」

 「え?ああ、そっすよ。元々、陸軍で大隊を率いてた大隊長だったんすけど、海軍元帥に誘われて海軍に鞍替えしたんす」

 

 へえ、提督になる前は大隊長さんだったんですね。

 でも、元帥さんに誘われたからって、別組織と言われている陸軍から海軍に簡単に鞍替えできるものなのでしょうか。

 

 「あ、自分らも一応、所属は海軍になってるっす」

 「それはどうでもいいです」

 

 いや、「酷くないっすか!?」とか言ってますけど本当にどうでもいいです。名前すら知りませんし。

 私が知りたいのは横須賀提督のこと。

 定期船の中で、二人がタキシードから着替えた軍服は私が知るどの軍服とも違います。

 二人が着ているのは、私が知るカーキ色ではなく黒く染められた陸軍服。その上から、肩に鈍色の肩パッドがついた同じ色のコートを羽織っています。

 モヒカンさんに見せていただいた写真に写っていた人が、私の知るあの人に似ていたからもしかしてと思っているから確かめたいのですが……。

 

 「その軍服も陸軍の物なんですか?」

 「そうと言えばそうなんっすが、これはうちの隊独自の物っす。オヤジ……じゃなかった。提督が、黒が好きだって理由だけで陸軍時代に特注したんっすよ」

 「そんな理由で、軍服を特注できるものなのですか?」

 「普通は無理っす。これはオヤジから聞いた話っすけど「じゃあ退役する」って、言ったら許可してくれたそうっす」

 

 本当に!?大隊長とはいえ、たった一人が退役するって言っただけで許可が下りたんですか!?

 だとしたら、陸軍が失うのを恐れるほど優秀な人だって事ですよね?

 

 「本当かどうかは知らないっすよ?ただ、オヤジは上の弱みやらなんやらを結構握ってたみたいっすから、それで軽く脅したんじゃないっすかね」

 

 それって暗殺とか左遷とかされたりしなかったのでしょうか。偉い人が自分の弱みを握ってる部下を、野放しにするなんてことがあるとは思えないのですが……。

 

 「そういやぁ、軍服が変わるちょっと前くらいに変な部隊に襲われたことがあったよな?」

 

 それまで運転に集中していた金髪さんが会話に入ってきましたが……襲われた!?やっぱり襲われたりしてたんですか!?

 

 「あったっすねぇ。でも、アイツら結局どこの所属だったんすかね?日本人じゃなかったのは覚えてるんすけど」

 「大方、陸軍が不法入国者を金で釣って適当に訓練したんだろ。つか、あんな練度で俺らに喧嘩売るとか舐めてんのかって話だ。こっちはバケモノ相手にドンパチ繰り返してきた叩き上げだぞ?多少不意を突いたところでどうにかなるかっつの」

 

 バケモノ?深海棲艦のことでしょうか。

 あれ?でも、陸軍の人が深海棲艦と戦闘することがあったんですか?海上で?それとも陸で?

 

 「あ、あの、陸軍の人も深海棲艦と戦っていたんですか?」

 

 そう聞くと、二人は不思議そうに顔を見合わせましたが……金髪さん、前を見て運転してください。

 

 「そりゃそうっすよ。艦娘さんらが現れる前は酷いもんでしたからねぇ。海軍は船を根こそぎ沈められて壊滅状態。だから、上陸しようとする深海棲艦を陸軍がなんとか水際で食い止めてたんっす」

 

 そういえば、私が住んでた町を助けに来てくれたのも陸軍でした。これは予感が的中しているかもしれません。でもその前に……。

 

 「深海棲艦に通常兵器は効かないと座学で習いましたが、陸軍はどうやって対抗したんですか?」

 「え?そりゃあ戦車とか迫撃砲とか、あとは対戦車ライフルとかも使ったっすね。さすがに手持ちの短機関銃とかは、牽制くらいにしか役に立たなかったっすけど」

 

 効くんですか!?じゃあどうして、海軍の軍艦は沈められたんでしょう。船の方がよほど大きい火砲を積めますよね?

 

 「これ、何故かほとんどの艦娘さんは知らないんすけど、アイツらって陸上に上がると弱体化するんっす。それでわざと上陸させて、弱体化させてから各個撃破してたっす。まあそれでも、戦車並みに硬いし火力もすごいんすけどね」

 「戦車並みの装甲と火力を持った人間サイズのバケモノとか、初めて見たときは夢かと思ったよな」

 「艦娘様様っすよホント。できることなら二度と相手したくないっす」

 

 私はそのバケモノ。

 しかも、弱体化しない海の上で戦うために横須賀に向かっているんですが……。まあ、それは置いておきましょう。

 

 「でも、それならどうして、海軍は負けてしまったんですか?」

 

 それに、通常兵器が有効なのなら、艦娘なんてそもそも必要ないのでは?

 

 「通常兵器が効かないってのはその通りなんっす。で、海軍の場合っすけど、それプラス目標が小さすぎてまともに狙いがつけられなかったのがぼろ負けした主な要因っすね」

 

 あ、照準の問題ですか。

 ん?海軍が勝てなかった理由は今ので一応は納得しましたが、なぜ陸軍は対抗できたのでしょう。弱体化しても通常兵器は効かないんですよね?

 

 「ちなみに自分らの場合っすけど、ご存知と思うっすけど艦娘さんや深海棲艦が纏う『装甲』は不可視の力場みたいなもんっす。でもこれ、通常兵器が効かないチート仕様っすけど完全じゃないんっす」

 「どういうことですか?」

 「アイツらの装甲……艦娘さんもっすけど、例えば砲撃の瞬間は射線上の装甲が消えるんっす。その瞬間を狙って、砲身に銃弾を撃ち込んだり竹槍ぶっ刺してたりしてたっすね」

 

 なるほどなるほど……って、ちょっと待ってください。今、竹槍とか言ってませんでした?

 しかも砲撃の瞬間を狙って砲身に!?

 陸軍軍人の射撃精度の方がバケモノなのでは!?

 

 「一応言っとくが、そんな真似ができたのはコイツだけだからな?」

 「あ、そうなんですか」

 

 変な話ですがホッとしました。

 が、そうなると、登場して即退場させられるザコキャラみたいなモヒカンさんが、陸軍きっての射撃の名手と言うことになるんじゃ……。

 

 「意外と酷いっすねこの子」

 「酷いたぁ思うが、大多数の人間は同じこと思うぞ」

 

 はて?私、声に出してました?

 出してませんよね?

 う~ん……前々から不思議だったんですが、叢雲さんにしても雪代所長にしても、私が何か言う前に答えてくれることがよくありました。

 もしかして私って、考えていることが顔に出やすいのでしょうか。

 

 「自分()以外の大半の奴らは、戦車一台くらい蒸発させられそうな火力を一隻に集中してやっとこさ倒してましたね」

 「へえ、それで倒せるんですね」

 「さっきも言ったっすけど、装甲は完全じゃないっす。これは艦娘さんを運用し始めてわかったことっすけど、装甲の耐久力には限度があるんすよ。そこまで火力を集められるなら倒すことはできるんす」

 

 そう言えば座学でも習いましたね。

 でもそれなら、高威力の爆弾を使えば弱体化していない深海棲艦も倒せるんじゃ……。

 

 「補足するっすけど、それはあくまでも陸上で弱体化してる場合っす。海上だと、通常兵器を無効化するチート仕様も強化されるみたいっす。例えば、敵の装甲の耐久力が10と仮定して、陸上だと通常兵器でも0.1くらい削れるんす。でも、これが海上になると0.001くらいになるらしいっす」

 「だから、通常兵器で対抗するのは現実的じゃないんですね?」

 「そういう事っす」

 

 ふむふむ。

 これは座学では習いませんでした。

 どこの頭の良い人が弾き出した結果かはわかりませんが、そういう事なら通常兵器が効かないで片付けられているのにも納得です。

 

 「そのバケモノを、刀でぶった斬った化け物もいっけどな」

 「その人、本当に人間ですか?」

 

 と、思わず言っちゃいました。

 だって戦車一台を蒸発させられるほどの火力でようやく倒せるかどうかの深海棲艦を陸上で、しかも一発で人間を消し去れるほどの火力をもつ相手に接近して刀で斬った?

 いやいや、そんな人間がいるわ……け。

 

 「も、もしかしてその人、戦う時に笑ってませんでした?」

 「お?朝潮さんはオヤジを見たことあんのか?」

 「はい、まだ幼い頃に……」

 

 間違いない。

 昔、私を救ってくれたあの人は横須賀の提督。

 これは偶然?

 たまたま死蔵されていた朝潮の艤装が見つかり、たまたま私がいた養成所に運ばれてきて、何の間違いか私が適合した。

 そして、私が会いたかったあの人が提督を務める鎮守府に配属。偶然にしては出来すぎな気が……。

 

 「自分んらの軍服を知らなかったって事は……まだ瀬戸内あたりをドサ回りしてた頃っすね。あ、今の朝潮さんと同じくらいの歳で、全身真っ赤な格好した子は見た覚えあるっすか?」

 「さあ?見た覚えはありません」

 

 それプラス、お二人のことも記憶にありません。

 あの時の私の視線は、楽しそうに刀を振り回すあの人の背中に釘付けになっていましたから。

 

 「アレが目に入らないって、よっぽどオヤジのインパクトが強かったんすね。まあ、いいっす。で、俺らがドサ回りしてる間に海軍は艦娘さんの運用を開始して、オヤジは妖精が見えるって理由で海軍に異動になったんす。敵との交戦経験もあったっすからね」

 

 妖精。

 たしか、艤装の開発をしてくれる謎の存在でしたね。

 深海棲艦の出現と同時に現れたと習いましたが、どんな姿をしてるんでしょう。妖精と呼ばれているくらいだから可愛いのでしょうか。

 

 「おっと、次のインターで降りるぞ」

 

 一晩、パーキングで車中泊しての移動ももうすぐ終わりですか。座っているソファーがベッドになると知った時はありがたかったですね。

 

 「あ、そだ。オヤジには、くれぐれも何もなかったと伝えてくださいね?特に深幸ちゃんの件は。じゃないと自分ら、文字通りミンチにされるっすから」

 「それは構いませんが……」

 

 雪代所長が報告してたら私は知りません。

 移動では確かにお世話になりましたが、そうなっていた場合は私にはどうしようもないので大人しくミンチにされてください。

 

 「ここが、横須賀……」

 

 横須賀インターの看板が見えたので思わず口に出してしまいました。モヒカンさんの話では、高速道路を降りて横須賀街道に乗れば鎮守府はすぐらしいです。

 

 「緊張……しますね」

 

 鎮守府が近づくにつれて、私の心臓の鼓動が速くなっています。もしかしたら、試験の時以上に緊張しています。そのせいか、頭もボーッとしてきた気がします。

 でも、もうすぐ会える。

 ()()()()始められる。

 そして、やっと言えるんです。

 あの日言えなかった、『三年越しのただいま』が。

 

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