「朝潮、遅いわね。何かあったのかしら」
時刻はすでに
昼過ぎに到着する予定の龍驤さんを迎えに行ったにしては、時間がかかりすぎてるわ。
もしかしてサボり?
いや、ついさっきまで「暇だー」とか、重箱を空にした直後なのに「お腹空いたー」などと、司令官に管巻いてた神風さんならともかく、あの子に限ってそれは100%ない。なら、鎮守府を案内してるのかしら。
「ねえ司令官。いくらなんでも遅すぎない?来る時間はとっくに過ぎてるわよ?」
「そうだな。鎮守府を案内するにしても、執務室に先に寄って着任の報告を済ませてからの方が時間に余裕ができるだろうし……」
そうなのよねぇ。
あの子が報告をすっ飛ばして、案内を優先するとも思えない。
ただ、龍驤って人が神風さんみたいに破天荒なら、その限りじゃないわ。
「見てこようか?事務課に渡す書類もあるし」
「頼む。朝潮も手練れだから少々のトラブルなら自分で解決できるだろうが、さすがに心配になってきた」
「司令官、あの子が強いのは海上での話よ?陸の上じゃあ、ただの頭が残念な子だわ」
それに、真面目なのは確かだけど、真面目さが暴走して変な事をしかねない。
しかも司令官最優先。
もし龍驤さんが、司令官をロリコンの変態呼ばわりでもしようものなら平気で噛みつきかねないわ。
「さ、最優先で朝潮を探してくれ。私の予想が外れていればいいが、嫌な予感がする」
「オッケー。じゃあ、行ってくるわ」
珍しく司令官が冷や汗かいてたわね。
でも朝潮が龍驤さんに何かするのを心配してるって言うより、むしろその逆を心配してたような気がする。
もしくは両方?
朝潮が手を出して返り討ちに遭うとか?
「とりあえず玄関ね。誰かが朝潮を見てればいいんだけど……」
そうと決めた私は執務室を出て、事務課に書類を渡して、朝潮の姿を探してみたけど影も形もない。
龍驤さんはたしか、正門から来るはずだったわよね?
だったら、余程のひねくれ者じゃない限り玄関から入ってくるはずだけど……。
「おや?今度は満潮か?」
「この声は……左門提督?今度はってな……ブフォ!?」
しまった。
後ろから声をかけられて振り向いたら、左門提督の全身をモロに見てしまった。
いや、それだけなら良いんだけど、見た瞬間に吹き出しちゃった。
「………二時間程前だったか?朝潮もここで、今日着任する艦娘を待っていたんだが……。その様子だと、戻ってないようだな」
「そうなの……よクポォ!あ、ごめんなさい!」
「慣れているから気にしなくて良い。それより、朝潮を探しているんだろう?」
「う、うん。左門提と……くぅ!は、あの子が何処行ったか知ってるの?」
「倉庫街だと思う。自分がそっちで、見知らぬ朝潮型を見たと教えたからな」
は?見知らぬ朝潮型?
何言ってるのこの人。
笑われ過ぎて頭がイカれた?それとも、霞か霰でも見たのかしら。
でも、あの子達が来るなんて私は聞いてないわよ?
今日来るのは……。
「軽空母じゃなくて?今日着任するのは、軽空母の人よ?」
「自分もそう聞いていたんだが、あれは間違いなく駆逐艦だった。それに、朝潮型特有の制服を着ていた」
ふむ、古くから鎮守府にいる左門提督がそこまで言うなら、くだんの彼女は駆逐艦なんでしょうね。
まあ確かに、無駄に育った駆逐艦はたまに居るけど、軽空母と駆逐艦を見間違える事は私でもまず無いわ。
でも、そうだとしても疑問が残る。
朝潮型特有の制服、しかもそれは、私と同じと言わなかったことから改二制服ではなく初期型制服だと推測できる。
今代の朝潮型で、その制服を着ているのは第九駆逐隊の四人だけ。でも、第九駆逐隊は哨戒中。
その朝潮型はいったい誰?
朝潮型に十一人目が居るなんて聞いたことないわ。
「確かめるためにも、行った方がいいわね」
倉庫街とは、鎮守府西側の区画。
倉庫みたいな建物が建ち並んでるから、いつの間にかそう呼ばれるようになったって姉さんに聞いたことがある。
そこには奇兵隊の人達の詰め所である猫の目もあるから、海兵さんや整備員さんに知り合いがいない朝潮なら、情報を求めてモヒカンか金髪に聞きに行った可能性が高いわ。
「よし、私もそっちに行ってみるわ。あ、左門提督。司令官に伝言を頼んでいい?」
「倉庫街に朝潮を探しに行く。だな。わかった、伝えておこう。ああそれと、朝潮にも言ったんだが、自分のツケにして良いから好きな物を注文しなさい」
「わかった。ありがとう!」
思いもよらぬご褒美ゲット。
でもあんまり良くされると、条件反射に近いとは言え笑っちゃったことに罪悪感が込み上げてくるわ。
でもまあ、それは猫の目に着いてから飲み物と一緒に飲み干すとして……。
「さて、すんなり見つかってくれるかしら」
そういえば、倉庫街に行く途中にあるカレー屋さんにしばらく行ってないわね。
あそこって基本激辛だけど、子供用に激甘もあるのよ。
昔、姉さんと一緒に食べたっけ。
大潮と荒潮は、辛さの限界にチャレンジして死んでたけど……。
「あれ?あの人って……鳳翔さん?」
倉庫街に向かう私の前に、同じ方向へ向かって歩く鳳翔さんを見つけた。
工廠に用があるのかしら。それとも、鳳翔さんも倉庫街へ?
まあ何にせよ、とりあえず声をかけてみましょうか。
「鳳翔さ~ん!」
「あら、満潮ちゃんじゃない。工廠に用事?」
「いえ、倉庫街に朝潮を探しに……。鳳翔さんこそ、どうしたんです?」
「私も倉庫街に龍ちゃ……龍驤を探しに行くところです」
龍驤さんが倉庫街に?
そっちに行ったのは、正体不明の朝潮型駆逐艦って聞いたんだけど……。
「どうも正門と間違えて西門から入ってしまったみたいで……。迷ったから迎えに来てくれと、先ほど電話があったんです。」
んん?じゃあ、左門提督が見たのは龍驤さん?と、言うことは、龍驤さんは朝潮型駆逐艦だった!?
って、んなわけないか。
「ご一緒しますか?もしかしたら、朝潮ちゃんと一緒に居るかもしれませんし」
「そうね。そうさせてもらうわ」
鳳翔さんは龍驤さんを知ってるみたいだから、もし朝潮を探してる最中に見つけてもすぐにわかる。
正体不明の朝潮型が龍驤さんとは考えづらいけど、鳳翔さんが一緒ならそれが確かめられるわ。
「あら?こんな所に、看板なんてあったかしら?」
「あ、本当だ。インド人を右に?どういう事?」
鳳翔さんと私は、工廠を少し過ぎたあたりで目立たない様に設置された古ぼけた看板を見つけた。
見つけた鳳翔さんがそうであるように、長いこと鎮守府に居る私も初めて見たわ。
まあ、私が倉庫街に行くことはほとんどないから、単に見落としてただけなんでしょうけど。
でもたまに、倉庫街へ駆逐艦が探検しに行くのは聞いたことあるわ。
その子達は、これを知ってるのかしら。
「インド人って、この先にあるカレー屋さんの事かしら」
たしかあの店は、火を吐くインド人の絵が入り口周辺にデカデカと描かれてたわ。
でも、直進すれば倉庫街なのに、どうしてあの看板は違う道を示してたんだろ?
だって、北に行っても壁があるだけなのよ?
「この字……。擦れて多少読み辛いですが、神風さんの字に似てます」
「なんでわかるの?」
「この『人』の字が、『人』か『入』かわかり辛いでしょう?それが、神風さんの書き方にそっくりなんです」
「言われてみれば、どちらかわかり辛いかも……」
気にならないレベルだけどね。
でも鳳翔さんの言う通り、神風さんがこの看板を書いたと言う事は100%イタズラ。
確かにこのまま真っすぐ行くと左手にカレー屋さんが見えるから、西側をあまり知らない子は騙されて北に行っちゃうかもしれないわ。
「朝潮ちゃんも、この看板を見たのでしょうか。だとしたら、迷ってるかもしれません」
可能性は……残念ながらある。
直進すれば良いのに、右に行け的な看板を見ちゃったら、あの子は悩んだ末に北に行くわ。
「行ってみましょう鳳翔さん。あの子、このイタズラに引っかかってるかもしれない」
「そうですね。この辺りは似たような景色が多いですから、一度迷うと延々同じ所をグルグルと回りかねないですから」
あの子がそこまで馬鹿とは思いたくないけど……。
いや、このイタズラに引っ掛かったとわかるまではわかんないか。
逆に言えば、引っ掛かってたら馬鹿確定。
「このカレー屋さんを右ですよね?ああでも、相変わらず凄い絵ですね」
「ホント、インド人への偏見……いえ、思い込みに満ちてるわ」
ダルシムって名前がもう……ね。
たぶん、某格闘ゲームが流行った世代の人がこの店を始めたんじゃないかしら。
描かれてる絵なんてまんまダルシムだし。
「さすがに、歩くと広く感じますね。こんなに歩いたのはいつ以来かしら」
今時点で2~3kmってとこかな。
普段、こっちに来る時は車か自転車だから、確かに広く感じるわ。
私は任務や訓練でそれなりに体力はあるけど、一線から退いて久しい鳳翔さんにはきついかも。
「あらやだ、私ったらおばさん臭い事を……。みんなには内緒にしてね?」
べつにいいんじゃない?
誰だって2kmも3kmも歩けば疲れるわよ。
それに、鳳翔さんまだ若いじゃない。
見た目は多めに見積もっても20代前半くらいだから、長い事艦娘をやってるって言っても20代後半くらいでしょ?
おばさんと呼ぶにはまだ早いわ。
だから……。
「大丈夫でしょ。前に奇兵隊の人たちが、肉と女は腐りかけが一番うまいって言ってたのを聞いたことがあるし」
「満潮ちゃん。それはまったくフォローになっていませんよ?」
う……凄く良い笑顔だけど、そこはかとない恐怖を感じる笑顔だわ。
これは、話を逸らした方がいいわね。
たぶんこの人は、絶対に怒らせちゃいけないタイプの人だから。
「あ……あーっ!あそこに看板がありますよ?行ってみましょう!」
鎮守府の壁に突き当たろうとしたところで、その壁際の道に沿って伸びる花壇に植えられた車輪梅の垣根に隠されるように設置してある看板を見つけた。
たぶん、冬で草が枯れたから出て来たのね。
夏場だと見つけられないかも。
「倉庫街←→ブラジル?なにこれ」
倉庫街はわかる。
看板が指す方向に行けば倉庫街に着けるわ。
でもブラジルが意味不明。
神風さんは何を思って、ブラジルなんて書いたのかしら。そっちに行ったら庁舎に戻っちゃうわよ?
「倉庫街……ブラジル……倉庫街……。ブラジル」
「ちょーっ!?ちょっと待って!なんでそっちに行くの!?」
そっちに行っても、ブラジルになんて行けやしないのよ?
なんで若干迷って、確信したようにブラジルを選択したの!?
鳳翔さんって実はバカなの!?
「え?でもブラジルって……」
だから何?もしかしてブラジルに行きたいの?
ブラジルに行ってカーニバルでも見たいの?
でもね、鳳翔さん。
そっちに行ってもブラジルに通じるトンネルがあるわけじゃないのよ?
そりゃあ、私も一度くらいは生で見てみたいわ。でも、今はその時じゃないの。それくらいわかるでしょ?
「一度、あの衣装を着てみたいと思ってたんですよ」
まさかの見るんじゃなくて踊る方!?
しかも期待に胸膨らませてる感じだし、そんなにカーニバルに参加したいの?
だったら参加なんてする必要ないわ鳳翔さん。
だって、すでにあなたの頭がカーニバルだよ!
目的を完全に忘れてるじゃない!
「待って待って!朝潮と龍驤さんを探すんでしょ!?ブラジルに行ってる暇なんてないじゃない!」
「で、でも……。朝潮ちゃんがこっちに行ったかもしれないし……」
「絶対に行ってない!だって、私たちは庁舎の方から来たのに会わなかったでしょ!?」
あの子もそこまで馬鹿じゃなかったのよ。
鳳翔さんと違って、ちゃんと倉庫街の方に行くくらいの頭はあったのよ!
「そ、それもそうですね。でも……」
そんなにブラジルが気になるの!?
もしかして看板のイタズラって、鳳翔さんを引っかけるためなんじゃないでしょうね。
だとしたら大成功よ。
見事に引っかかったわこの人!
「あ、後で行ってみればいいじゃない!ね?今は二人を探す方が大事よ。二人を見つけたら、好きなだけブラジルに行っていいから!」
「それもそうですね……。ごめんなさいね満潮ちゃん。私、どうかしてたみたい……。」
ごめんと言いつつ、めっちゃ後ろ髪ひかれてそう。
私が居なきゃ、この人絶対にブラジルに行ってたわ。
「初めてではないですが、この辺りまで来ると新鮮味がありますね。あ、あんな所に自動販売機が」
「そうね。私はここらは初めてだけど」
整備員らしき人や、ゴツイ海兵や海兵隊員達がウジャウジャいる。
あっちも、この辺まで来る艦娘が珍しいのかチラチラ見て来てるわ。
でも、私じゃなくて鳳翔さんを見てるわね。
駆逐艦はそこまで珍しくないのかしら。
「ん?満潮さんと鳳翔さんじゃねぇか。こんな所でなにしてんだ?」
あ、金髪だ。
丁度良いから、この人に聞いてみましょう。
「朝潮ともう一人、軽空母の人を探してるんだけど見なかった?」
「軽空母?軽空母は知らねえけど、朝潮さんともう一人見覚えのない駆逐艦なら今、猫の目にいっけど?」
よかった。
合流してたのね。
でもやっぱり駆逐艦か。と、なると、龍驤さんはどこに居るんだろう?
「そ、その駆逐艦の人は、
「スイカン?いや、朝潮型の……九駆だっけか?と、似たような制服着てたぜ?あ~でも、赤い服は小脇に抱えてたな」
「まさかその人に『駆逐艦みたい』とか、『まな板』とか言ってませんよね!?」
ん?鳳翔さんの言い方だと、正体不明の駆逐艦が龍驤さんって言ってるように聞こえるんだけど……。
まさかね……。
「言うとどうなんだ?」
「最悪、殺されます!」
ちょっとちょっと、穏やかじゃない単語が飛び出したわね。
本当に鳳翔さんが言った通りの人なら、神風さん並みの危険人物じゃない。
「あ~それであの二人、気絶してたのか?」
ちょ!気絶!?
もう一人が誰かはわかんないけど、あの子気絶させられちゃったの!?
「ダルシム過ぎた辺で、気絶してる二人とそのくち……軽空母を見っけたから猫の目まで運んだんだが、そういうことだったのか」
「じゃあ今、朝潮と龍驤さんは猫の目に居るのね?鳳翔さん!」
「ええ、急ぎましょう。龍ちゃんは見た目は駆逐艦ですが武術の達人です!もし、さっきのワードを言われたら、場所がどこだろうと大暴れします!」
うん、やっぱり神風さん並みの危険人物だ。
見た目に言及しただけで暴れるなんて、下手したら神風さんより気が短い。
朝潮が気絶させられたって事は、誤って禁句を口にしちゃったのね。
「おーい、誰かいねぇかー!って、あれ?おっかしいな……。なんでシャッター閉めてんだよ」
金髪に先導されて猫の目の前に着いたはいいけど、ドアはもちろん窓まで鉄製のシャッターで閉まってて中に入れなくなってた。
でも、店の裏側から声援みたな声が聞こえるわね。
「あまり想像はしたくありませんが……。裏に行くにはどうしたら?」
「こっちだ。ついて来てくれ」
金髪と鳳翔さんの呆れ果てたような顔を見たら、店の裏で何が起こってるかだいたい想像できちゃった。
たぶん、店の裏では……。
「やっぱりか」
「龍ちゃん、あなたって人は……」
建物の横にあった細い道を通ってから裏に抜けると山があった。
しかも、現在進行形で高くなっている
それを作っているのは、どこからどう見ても駆逐艦。
列まで作って律儀に一人一人挑んでいる筋肉を千切っては投げ千切っては投げして、筋肉の山を積み上げてるのは知らない朝潮型駆逐艦だったわ。
「あん?おお!鳳翔やないか!待っとったでー♪」
鳳翔さんを見つけた龍驤さん(仮)が、次の相手と思われる筋肉に「ちょいタンマ」と、断ってからこちらに駆け寄ってきた。
え~っと、奇兵隊って生身で深海棲艦とドンパチやってた化け物の集まりよね?
いくらこの人が武術の達人とは言っても、簡単にノされるものなのかしら。
「龍ちゃん、これはどういう事?」
「いやぁ、コイツらが何回、ウチは軽空母や!言うても信じてくれへんでなぁ。終いにはま、まな……、とにかく!ムカついたからドついたった」
確かに、私や朝潮と同じくらい薄い胸だわ。まな板と言われても反論できない……やめよう。これは私の胸にも突き刺さるわ。
で、彼女はまな板と言われたから、この人数を相手に大立ち回りしたのね。
いや、正確には違うか。
龍驤さん(確定)は気づいてないみたいだけど、たぶん遊ばれてた。
実際、筋肉山を構成してる人たちは何故か満ち足りた顔をしてるし、列を作ってる人たちは「もう終わりかよ」ってブーイングしてるわ。
きっとあの人たち、龍驤さんをからかって怒らせ、手加減して戦って殴られるって遊びをしてたんだと思う。
あ、殴られると言えば……。
「朝潮……。朝潮は!?」
「朝潮?あの失礼な子なら、そこで寝てるで」
龍驤さんが顎で示した方向を見ると、青いベンチの上で寝てる朝潮を見つけた。
よかった。
あの筋肉山の中に埋もれてたらどうしようかと思ったわよ。
「龍ちゃんの気持ちもわからないでもないですが、これはさすがにやり過ぎでは?」
「かまへんかまへん。あん人ら、たぶん殴られる前提でウチをおちょくってたんやろ。実際、本気で殴ったのにまるで手応えなかったわ」
あ、気づいてたんだ。
まあ、あの人たちってあの司令官の私兵だもんね。
ノされるの前提で人をおちょくるってのは理解できないけど、鳳翔さんが武術の達人って言うレベルの龍驤さんを相手に遊ぶのも余裕でしょうね。
「最初にやり合ったモヒカンの変態もそうやけど、全員レベル高いなぁ。こん人らが本気やったら、ウチ敵わへんかったわ」
なるほど、朝潮と一緒に気絶してたのはモヒカンか。
疑問が解消されて、少しスッキリしたわ。
「朝潮ちゃん、大丈夫かしら……。朝潮ちゃんを龍ちゃんが気絶させたって聞いて、提督が怒らなきゃいいんですが……」
間違いなく怒るでしょうね。
気絶させた理由が理不尽なら尚更よ。
だったらしょうがない。このままじゃ連れて帰るのもしんどいし、起こすとしますか。
え~とたしか、背中のこの辺を……。
「お、君よう知ってんなぁソレ。若いのに感心感心♪」
見た目が駆逐艦の人に若いって言われると、微妙な気分になるわね。
は、置いといて、覚えた経緯は絶対説明したくないけど、これで両肩を持ってグッ!としたら……。
「うぅ、あ……」
あ、これ気持ちいい。
膝を通して、朝潮の背骨がボキボキボキッ!って鳴る感触が伝わってきたわ。
「朝潮、大丈夫?どこか痛いところない?」
「ここは……誰?私はどこ?」
逆。
どうやら頭がバグってるようね。一発殴った方がいいかしら。
「そうだ駆逐艦!自分を軽空母と詐称する駆逐艦が!」
「あん?」
まずい!
この子、どうして自分が気絶してたのか理解してない!
「朝潮、アンタは夢を見てたのよ。自分を軽空母と詐称する駆逐艦なんていないわ」
「え?なんで満潮さんがここに?って言うか、ここ何処ですか?」
「ここは猫の目の裏よ。気絶したアンタを、金髪が運んでくれたらしいわ」
お願いだから、これ以上龍驤さんの事は言及しないで!私の後ろで、凄い殺気を放ちながら身構えてるから!
「あ!あの人です!自分を軽空母と思い込んでる可哀想な駆逐艦は!」
黙れ!それ以上は言っちゃダメ!
今の時点で完全にアウトだけど、これ以上は確実に命が無いわ!
「このクソジャリ……。ぶち殺したる!」
やめて!
ごめんなさい龍驤さん!
この子、頭良さそうな優等生に見えて実は馬鹿なんです!
だから、許してあげて!?
だってこの子には、間違ってる事を言ってる自覚がないのよ!
「りゅ、龍ちゃん落ち着いて!朝潮ちゃんに悪気はないのよ!」
そう!そうよ!
鳳翔さんが言う通り、この子に悪気は微塵もないの!
純粋に、龍驤さんの頭を心配してるのよ!
「つまり、悪気無しにウチをこき下ろしとるちゅうわけやな?余計に
ですよね!
完全に対応を間違えた。この子は起こすべきじゃなかったわ。この子がこのまま起きてたら、龍驤さんの怒りの炎に油を注ぎまくる!
こうなったら……。
「え?なんであの子、怒ってるんですか?私がなにか……」
「朝潮、ゴメンね。今のうちに謝っとくわ」
朝潮がキョトンと首を傾げて私を見つめてる姿が可愛いけど、ここは非情になりなさい私。
これ以上アンタが起きてたら、それ以上に酷いことになるから、私はこの子をもう一度気絶させる。
でも、大丈夫よ。アンタだけに痛い思いはさせない。
お姉ちゃんも一緒だから。
「鳳翔さん。後は、お願いします」
「わかりました。満潮ちゃんの犠牲は、無駄にはしません」
よかった。
鳳翔さんは、私が何をしようとしてるか気づいてくれたのね。
ならばもう、迷う必要はないわ。
「あ、あの、満潮さん。何を……」
私は頭を後方へ大きく振りかぶり、いまだ状況が理解できない馬鹿……もとい、朝潮の額目がけて一気に振り下ろした。
すると頭蓋骨に衝撃が走り、目の中に星が飛び始めたわ。
頭突きを食らった朝潮は……よかった。
よくないし無事でもないけど、ちゃんと気絶してくれたみたい。
ゴメンね。
痛かったでしょう?
でも、お姉ちゃんも同じくらい痛いから許してね。
「満潮ちゃん!」
私は、慌てて駆け寄る鳳翔さんを横目に見ながら、これで朝潮の頭が少しは良くなりますようにと願いを込めて意識を手放した。
余計に悪くなるかもしれない可能性など、微塵も考えずに。
投稿時間は何時くらいが良いですか?
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朝 6:00~7:00
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昼 11:00~12:00
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夜 19:00~20:00
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何時でも良い