艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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今回は朝潮ちゃんどころか、艦娘が一人もでません( ・ω・)


第百二話 深幸スペシャルを、食らわせてやります

 

 

 

 

 私が所長を務める艦娘養成所は、かなり辺鄙なところにあります。

 具体的に言うと、呉と松山の中間くらいに位置する元無人島です。

 元無人島だけあって、交通の便は不便を通り越して無いに等しく、基本的に養成所内で生活が完結するよう商業施設なども完備されています。

 本土や四国へ渡るには定期船を用いるしかないので、長期休暇を除いて養成所から出ることは稀ですね。

 そんな、下手な田舎より田舎なこの場所へ私を訪ねて来たのは、見た目も性格もすっかり変わってしまった元上官でした。

 

 「お久しぶりです。天龍さん」

 「今は辰見よ。辰見 天奈。元気にしてた?深幸」

 「ええ、それなりに」

 

 嘘です。

 毎日、空元気を振り撒くのが精一杯です。

 横須賀鎮守府が襲撃され、先代の朝潮の名を慰霊碑に刻んだ私は、提督に退役させてくれとお願いしました。

 あの一件で、私は限界を迎えたんです。

 堪えられなくなったんです。

 艦娘の死を、見たり聞いたりしたくなくなったんです。

 ですが、私の退役は認めてもらえませんでした。

 提督に、「後々、君の力が必要になる時が来る」と説き伏せられ、養成所所長のポストを与えられ、教え子を死地に送り込むと言う悪行を続けています。

 結局、私は辞めたい、逃げたいと言う本能に近い感情よりも、戦えなかった罪悪感を解消する手段を優先してしまったんでしょう。

 

 「今やあなたの方が上官だけど、今はタメ口でいかせてもらうわね」

 「構いません。私も、そちらの方が落ち着きますから」

 「じゃあ、単刀直入に言うわ。大本営からの異動命令を預かって来てる。読むわね?本時刻をもって、雪代深幸中佐は横須賀鎮守府司令長官補佐に復帰せよ。だそうよ。どうする?」

 

 どうする?

 どうするも何もない。

 命令、しかも大本営からの異動命令は、軍人である限り無視はできませんし、断ると言う選択肢もありません。

 ですが、私は……。

 

 「断りたい?」

 「はい。私にはもう、艦娘に死ねと命じる自信がありません」

 

 提督が大本営を通してまで私を戻そうとしていると言うことは、それだけ人が足りていないと言うこと。

 おそらく提督と左近司中佐、そして辰見さんだけでは、細かいところまで指示を行き渡らせられない規模の作戦が控えているんでしょう。

 それこそ過去のシーレーン奪還作戦規模。

 もしくはそれ以上……。

 まさか、ハワイにでも攻め込む気なんじゃないでしょうね。

 

 「そう、わかった。提督には、私から言っておくわ」

 「ず、随分とあっさり引き下がるんですね」

 「提督から、「雪代君が断ったら無理強いするな」って、言われてるからね。だから、あなたはこれまで通り、所長業に精を出してちょうだい」

 「そんなこと……!」

 

 できる訳がない。

 だって、大本営からの命令ですよ?

 命令書に元帥閣下の印も押してありますから、間違いなく正式な命令書です。断るなんて選択肢はありませんし、許されません。

 もし、私が断ってのうのうと所長を続けていたら、それを容認した提督には責が及びます。

 

 「心配しなくても、今のポストは提督が責任を持って維持してくれるわ。だから、気兼ねなく断っていい」

 「よくありません!それは半ば、脅迫じゃないですか!」

 

 あの人は相変わらずだ。

 やり方が汚い。

 そうすれば私が断れないと思って、平気で自分を人質にする。

 私の想いを、当たり前のように利用する。

 

 「あなたが提督補佐になったのって、提督の後押しがあったからだそうね」

 「……そうです。訓練中の事故が切っ掛けで海に出られなくなった私を、提督が誘ってくれました」

 

 当時の事は、今でも鮮明に思い出せます。

 あれは、今からおよそ8年前の正化21年。

 とある特Ⅲ型駆逐艦と衝突事故を起こして胴体切断なんて目に遭った私は、横須賀に異動になっていました。

 

 「噂レベルだけど、話は聴いてるわ。あなた、訓練に参加せずに、資料室に引きこもってたんだって?」

 「ええ、当時は七不思議の一つに数えられていました」

 

 資料室で咽び泣く駆逐艦だったかな。

 そんな噂が立つくらい、私は資料室にこもって泣きながら資料を読み漁っていました。

 

 「それは、どうして?」

 「海に出られなくなった私の、細やかな抵抗だったんだと思います」

 

 本来なら、作戦の詳細や実行された戦術などの資料が収められている資料室に、許可のない者が入ることはできません。

 提督は、私がどうしてそんな事をしているか察して、私の行為を黙認してくれていたんです。

 

 「私は戦術を学ぼうとしました。戦略を理解しようとしました。でも、実戦経験もない私には、独学では限界がありました」

 「そして、提督はあなたに声をかけたのね?」

 「はい。飽きもせず資料室で泣いていた私に、提督補佐にならないか?と、言ってくれました」

 

 最初は悩みました。

 怖くて海に出られない元駆逐艦の私の命令に、艦娘たちが従ってくれるか不安でした。

 でも、結局私は提督の提案を受け入れ、妖精の姿も見えないのに提督補佐になって、提督に戦術のいろはを叩き込んでもらいました。

 そして、艦娘たちに死ねと命じました。

 何度も何度も命じました。

 仲間が死ななくて済むように戦術の勉強をしたのに、私にできたのは真逆のことでした。

 

 「なるほどね。あなたは神風とはベクトルの違う、もう一人の娘だったわけだ」

 「娘は、言い過ぎです。良いとこ弟子ですね。それに……」

 

 私と神風さんでは、器が違いすぎます。

 彼女は私と違って強い。

 逃げない。

 媚びない。

 死ぬのを怖がってるクセに、死と言う概念を真正面から力尽くで叩き潰す。

 彼女とはもう何年も会っていませんが、彼女なら多くの味方を率い、細かい指示を飛ばしながら自身も戦うと言う離れ業をやってのけると思います。

 

 「随分と、神風を買ってるわね」

 「そりゃあ、私の目標でしたから」

 「いやいや、アレを目標にしちゃ駄目でしょ。私が知る限り、アイツほど出鱈目な女は他にいないわよ?」

 「出鱈目とは私も思いますが……」

 

 どうしても憧れてしまう。

 彼女は駆逐艦でありながら戦艦のように周りを奮い立たせ、旗下の者に限界以上の力を引き出させるほどのカリスマ性を持ち、空母の如く理不尽に敵を薙ぎ倒す。

 世が世なら、一国の王になっていたとしても不思議ではありません。

 

 「崩御した途端に、国は割れるでしょうね」

 「ええ、それは間違いありません」

 

 子供でもいれば、話は違ってきますけどね。

 あ、子供と言えば、私が鎮守府にいた頃は奇兵隊の馬鹿二人と仲が良かったですが……。

 

 「どちらかと、くっついたりしました?」

 「聞きたい?」

 「それは、どちらかとくっついたって事ですよね?」

 「くっついたどころか、婚約しちゃったわ」

 「あの提督LOVEだった神風さんが!?え?それ、本当ですか!?」

 「ホントホント!しかも、モヒカンの方とくっついたから二重にビックリよ!」

 

 あ、そこはそれほど驚きません。

 昔、横須賀提督被害者の会と銘打った集まりで飲んでいた時に、モヒカンからあんな髪型にしている理由を聴いて、もしかしてと思っていましたから。

 

 「え?あのモヒカンって、好きであんな髪型してるんじゃないの?」

 「あの髪型にした切っ掛けは賭けの代償だったそうですが、それ以降は強制されていたそうです」

 

 モヒカンはあんな見た目だから、女性からは敬遠されていますが、良く見ると目鼻立ちが整っています。

 普通の髪型かつ、眉毛を生やせば金髪に負けないくらいのイケメンになると思います。

 そんな彼を、世紀末生物と肩を組んでヒャッハー言ってそうな外見にしているのは、きっと他の女を近寄らせないためだったんでしょう。

 

 「アイツも(さか)しいわねぇ。ってことは、提督が駄目だった時のために、モヒカンをキープしてた訳だ」

 「それは邪推しすぎかと。第一、神風さんは提督を男性としてではなく、父親として好いていたでしょう?」

 

 あの頃から変わっていなければ、今でも先生って呼んでるんでしょうね。

 昔は先代の朝潮さんと変な意地を張らなければ良いのにと言ったものですが、彼女らからすれば、私みたいな他人には理解できないほど重要な問題だったのでしょう。

 

 「ちなみに、神風さんも作戦に参加するんですか?」

 「作戦の事は一言も言ってないはずだけど……って、提督が欲しがるほどの人材であるあなたなら、それくらい読んで当然か」

 「いえ、単にそうでもなければ、こんな悪どい手を使ってまで、私を戻そうとしないと考えただけです」

 「ふぅん……。まあ、良いか。で、神風だけど、アイツも陸戦要員として参加するわ」

 「陸戦?どうしてそんな……」

 

 いや、これはハワイに攻め込むんじゃないかという予想が、当たっていたと言うことです。

 ならば、提督が立てた作戦は彼が最も得意とし、好んで使う……。

 

 「鉄床戦術(かなどこせんじゅつ)の変形。主攻を囮にして、少数精鋭で本丸を叩く気なんでしょう。いや、それだと神風さんが中枢を叩くまで艦娘たちがもちません。もしかして、米国の協力を得られたのですか?」

 「そ、そうだけど……。あなた、その話を誰から?今回の作戦は、大本営のお偉いさんたちも全て把握してないほど、徹底した機密保持をされてるのよ?」

 「誰からも聞いていません。全て予想です」

 

 私は提督の戦術ドクトリンをこれでもかと叩き込まれています。

 それこそ、提督にもしもの事があった場合、即座に寸分たがわぬ代わりが務められるレベルに、です。

 そんな私なら、辰見さんが話してくれた情報だけで、神風さん以上の精度で提督の考えを読めます。

 

 「日米で東西から挟撃……だけじゃないですね。もう一手打ってるはず。まさか、()()も囮に使う気?いや、そうだ。絶対にそうだ。元帥閣下も絡んでるんだから充分あり得るし、()()()()()()()()()()()()()

 「あのぉ……深幸?私にもわかるように言ってくれない?」

 「その言いようだと、三つ目の囮に関しては聴かされていないようですね」

 「ええ、聴いてない。そもそも、そんなモノがある事自体聴いてないわ」

 「なら、申し訳ないですが話せません」

 

 アレ自体に意味はない。

 いえ、こう言うと語弊がありますね。

 正確には、深海棲艦に対して意味を成さないが正しいです。

 ですが国民。

 特に、アレがシンボルと化している呉の人たちからしたら大問題。

 アレを動かすどころか囮に使うと知れたらデモに留まらず、クーデターすら起こりかねないほどの暴挙です。

 だから、その時が来るまでは腹心レベルの味方にすら、秘密にしてるんでしょう。

 と言うかやっぱり、提督はやり方が汚いです。

 

 「はぁ……。これは、拘束されますかね?」

 「ええ、申し訳ないけど、そこまでわかってるあなたを、このまま放って置くことはできないわ」

 「ですよね」

 

 だから提督は、辰見さんを寄越した。

 辰見さんの言動から私が作戦の内容を予想すると踏んで、腹心の中では比較的口を滑らせやすい辰見さんを選んだんでしょう。

 

 「辰見さん。利用されたのに、気づいてます?」

 「今ので気づいた。私はあなたの逃げ道を塞ぐのに、利用されたわけね」

 

 さて、これは困りました。

 異動命令を断って拘束されても良いんですが、それだと別の問題が出てきます。

 今度は、教え子である朝潮と叢雲を人質にされました。

 もし、私が拘束されたと朝潮と叢雲が知ったら、多からず動揺するでしょう。

 そのわずかな動揺は、あの子たちの死に直結しかねません。

 故に、私は断れない。

 私は提督の計略にまんまとハマり、断るという選択肢を自分で潰してしまったんです。

 

 「わかりました。異動命令を受諾します」

 「良いの?いっそ断って、提督を目に遭わせた方がスッキリするんじゃない?」

 「諸々の事情があってできません。それに……」

 

 (はらわた)が煮え繰り返っているせいか、提督に一発ぶちかましたい気分なんです。

 

 「駆逐艦みたいな顔しちゃって。提督に会ったら、魚雷の一発二発は撃ち込みそうね」

 「そうしてやりたいですが、今の私にそれは叶いません。ですから……」

 

 私は提督の劣化コピー。

 ですが、伊達や酔狂でそれを続けていたわけではありません。

 今の私には、提督に繋がらない別の人脈があります。

 それを使って、いつか必ず……。

 

 「深幸スペシャルを、食らわせてやります」

 

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