艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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髪……髪の毛………ヘヤーぁぁぁぁぁぁぁ!Σ( ̄□ ̄;)


第百四話 俺の髪がぁぁぁぁぁ!

 

 

 

 

 「で、どうすりゃええと思う?」

 

 一か月ぶりの『居酒屋 鳳翔』。

 そこに来るなり、司令官が前置きもせずにぶっ込んできた。

 ちなみに今日は、私からではなく司令官からのお誘いよ。 

 普段は私から誘う方が多いんだけど、たま~に司令官から誘ってくることもあるの。

 そんな今日は愚痴ではなく、相談。

 明後日に迫った朝潮の誕生日プレゼントを何にしたらいいかという相談ね。

 まあ、司令官くらいの歳の人が、十代前半の子に何を送ったらいいかわからないってのはわかるんだけど……。

 なんで、ヘルメットを被って橙色の制服を着た妖精さんを肩に乗せてるんだろ?

 妖精さんに聴いた話だと、司令官って妖精さんに苦手意識を持たれてるはずなんだけど……。

 

 「俺の私物で、御守りに出来そうな物っちゅうリクエストは聞いちょるんじゃが……」

 

 まあ、妖精さんの件は置いといて、問題はコレ。

 普通、プレゼントはサプライズでしょ。

 誕生日プレゼントを用意してると匂わす程度ならまあいいわ。

 だけど、何が欲しいとか普通聞く?

 自分の子供にあげるんじゃないのよ?

 自分の子供にあげる時でも、何が欲しいかさり気なく聞いて当日まで黙っとくくらいの事はするんじゃないの?

 なのに本人に、プレゼントあげるから何がいい?って聞いちゃったのよ?

 ムードもへったくれもないじゃない!

 女の子はそういうの気にするのよ?

 くれるってわかってても、当日まで隠しててほしいもんなのよ!

 おっと、個人的な感情は圧し殺して……。

 

 「パンツでもあげたら?あの子なら喜ぶと思うわよ?」

 「いやいや、それはさすがにないじゃろ」

 

 半分冗談だけど、あの子の場合は喜びそうだから困るのよ。

 サイズが合わなくても、ベルトで締めれば何とかなるとか考えそうだわ。

 

 「ねえ司令官、女性にプレゼントとかした事ある?」

 「そりゃああるいや。それがどうした?」

 

 その女性はさぞかしガッカリしたでしょうね。

 プレゼントする前に、このオッサンは「何がいい?」とか聞いたんでしょうでしょうから。

 

 「その時さ。その女の人、少しだけガッカリしたような顔しなかった?」

 「そんな事は……。いや待てよ?そういえば一度、次はサプライズがいいな。とか言われたことがあったような……。じゃけど、嫌な顔は一度もされんかったぞ?」

 

 やっぱり、聞いてからプレゼントを用意してたのか。

 その女の人とどういう関係だったかは知らないけど、毎回顔に出さないようにするのに苦労してたでしょうね。

 いや、嬉しいのよ?

 何かをプレゼントしてくれること自体は嬉しいの。

 でも、女はそれにプラスアルファを求めるのよ。

 何かプレゼントしようとしてるのは雰囲気でなんとなく察しはつくからね。

 ありきたりだけど、例えば指輪なら夜景の見える高級レストランとか、綺麗な風景をバックに指輪を差し出されるとか、そういうのを求めちゃうのよ!

 

 「その人とは、どんな関係だったの?結婚を考えてた人?」

 

 結婚してた話は聞いた事ないから、破局したってのが落ちでしょう。きっと、司令官の無神経な所に呆れて……。

 

 「考えちょったも何も、女房だ」

 「んん!?ニョウボウ!?ニョウボウって女房!?ちょっと待って!司令官って結婚してたの!?初めて聞いたんだけど!」

 「そりゃあ、言うちょらんけぇな。艦娘で知っちょるのは神風と先代の朝潮。そんで、今の朝潮くらいか」

 

 あ、姉さんも朝潮も知ってたんだ。

 それでも姉さんと婚約したりしてたって事は、やっぱり別れたのね。

 離婚か死別かはわからないけど……。

 

 「深海棲艦の爆撃でな」

 

 そっか。死別したんだ。

 しまったなぁ、完全に地雷踏んじゃったじゃない。

 私的には、捨てられた的なエピソードを期待して聞いたのになぁ……。

 

 「まあ、気にすんな。別に秘密にしちょったわけじゃないんぞ?こんな話を聞かせても困らせるだけじゃ思うて、言わんかっただけじゃ」

 「いやでも……。ご、ごめんなさい。もうちょっと気をつかうべきだったわ」

 

 そうよね。

 深海棲艦の爆撃で家族を失った人は大勢いるんだから、司令官も家族を失ってる可能性を考えるべきだったわ。

 私だって、そのせいで孤児になったんだし……。

 

 「で、話は戻るが。何がええと思う?」

 「え?ええ、そうね……」

 

 どうしよう。

 雰囲気云々について説教してやろうと思ってたのに、自分の迂闊な発言のせいでできる空気じゃなくなっちゃった。

 

 「な、何か候補はないの?御守りに出来そうな物なんでしょ?」

 「一応いくつかあるんじゃけど……。護身用の短刀とか、初めてひ……撃った銃の薬莢とか」

 

 なんで言い淀んだ?

 まあ()()()()()のか言いたくないんでしょうけど。

 

 「薬莢はちょっと血生臭すぎるわね。短刀はサイズ次第かな。長さはどれくらい?」

 「一尺くらいかのぉ……。邪魔になるか?」

 「一尺って30センチくらいだっけ?その長さじゃあ、邪魔になるかもね。折り畳みナイフとかないの?それくらいなら、ポケットに入りそうだわ」

 

 そんな物をポケットに忍ばせさせたくないけど……まあ、こんな商売だし?いつか役に立つ日が来るかもしれないから有寄りの有だわ。

 

 「シーズナイフならあるが、俺のは結構ゴツいタイプじゃしのぉ……」

 「陸軍時代の認識票は?あれなら首から下げるんだし、邪魔にならないわよ?」

 「こっちに移る時に叩き返した」

 

 取っときなさいよ。

 辞めるときに返却しなきゃいけない規則とかあったっけ?

 それとも、叩き返すほど陸軍上層部が嫌いだったの?

 

 「はぁ、思いつかん……。すまんが、一本吸ってええか?」

 「どーぞ。今さら気にする事でもないじゃない」

 

 気を使ってくれるのは、素直に嬉しいと思うけどね。

 それに、司令官の吸うタバコって臭いとか感じないのよ。いい匂いって訳でもないんだけど、不思議と嫌と思わないの。

 これと比べたら、今流行りに電子タバコってヤツの方がよっぽど臭いわ。

 

 「ふぅ~……。悩ましいのぉ。作戦より、こっちの方がよっぽど悩ましいわい」

 

 おいおい。

 国の命運を賭けた戦いより、十代の小娘へのプレゼントを考える方が難しいって言うの?

 こう言っちゃなんだけど適当でいいじゃない。司令官からの贈り物なら、あの子はなんでも喜ぶわよ。

 

 「あ、いっそさ。体中にリボン巻いて、私がプレゼントだ!でいいんじゃない?」

 「俺に変態になれと?」

 「いや、ロリコンの時点で変態よ?今さら何言ってんの?」

 「満潮がそんな特殊プレイを求めちょるとは思わんかった……。これも戦争の弊害かのぉ」

 

 おいこら、私を特殊性癖者にするんじゃない。

 私なら速攻で憲兵さんに通報するけど、あの子なら飛び跳ねるくらい喜ぶから大丈夫よ。

 

 「あ、そのシガレットケースって、姉さんからのプレゼントだったやつ?」

 「ん?ああ。おかげで、煙草を止める機会を逃してしもうた」

 

 どうせ止めないでしょうが。

 別に、ルールを守って吸ってるからうるさくは言わないけど、体に悪いのは確かなんだから止めるに越したことはないわよ?

 は、置いといて……。

 

 「古い方はどうしたの?捨てちゃった?」

 「いや?部屋にあるぞ。長いこと使っちょったけぇ捨てにくうてな」

 「サイズは、それと同じくらい?」

 「そうじゃけど……。それがどうした?」

 

 それよ!それでいいじゃない!

 大きさは30×60くらいかしら。

 ちょっとした小物入れになるし、ポケットに入れて持ち運べる大きさだわ!

 

 「お古のシガレットケースをあげなさいよ。司令官が長い間使ってた物だし、御守りにもなりそうだし丁度いいじゃない」

 「結構歪んじょるし、汚れちょるぞ?それに、煙草を吸わん子にシガレットケースっちゅうのも……」

 「いいのよ。小物入れくらいにはなるでしょ?」

 「ならん事もないとは思うが……」

 「そうだ!鎖とかつけてペンダントにしちゃいましょうよ!ちょっと大き目だけど、ロケットペンダントになるじゃない!」

 「飛ばすんか?」

 

 そうそう、3・2・1発射!ってやかましいわ!

 なんでそうなるの?私、ペンダントって言ったよね?

 ロケットペンダントってちゃんと言ったわよね!?

 

 「マジで言ってんなら殴るわよ?」

 「怖い笑顔じゃのぉ。冗談に決まっちょろうが」

 「なんだ、冗談だったのね。よかった……」

 

 そうよね!冗談よね!

 なら許してあげる。笑顔のままでいてあげるわ。

 

 「なんだかんだと言われたら……」

 

 答えてあげるが世の情け。

 じゃない!

 司令官はいつからラブリーチャーミーな敵役になったのよ!

 ロケット?ロケット繋がりでそれ言っちゃったの!?

 しかもセリフの順番的に、私がコ〇ロー?

 せめてム〇シにしてよ!

 

 「そんなに憤慨してどうした。大丈夫か?ニ〇ース」

 

 え?私の肩をポンと叩きながらそう言うって事は、私がニ〇ース?

 私、人じゃなかった!

 じゃあコ〇ローは誰よ!

 まさか、鳳翔さんじゃないわよね!?

 

 「提督、私はム〇シの方が……」

 

 乗り気か!

 そうよね!鳳翔さんってブラジルに行こうとするくらい頭の痛い子だもんね!

 私たちの体格的に、私がニ〇ース役ってのも納得はしてあげる。

 でも私は、見た目は子供だけど頭は大人なの。

 本当なら高校に通ってる歳なんだからね?私、早生まれだから!

 

 「にゃーんてな」

 

 盗らないでよ!

 どうして私のセリフを盗っちゃったの!?私がニ〇ースって司令官が言ったんじゃない!

 

 「はい満潮ちゃん、今日のお通しです」

 

 はぁ……。

 お通しでもつまんで少し落ち着こう、

 ツッコミ過ぎて疲れ……。

 ん?今日のお通し、変わってるわね。茶碗によそわれたご飯に味噌汁がかかって……。

 

 「あ、これってもしかしなくても……」

 

 ねこまんまじゃない!しかも西日本風!

 ここ東日本でしょ?東日本のねこまんまと言ったら、ご飯に鰹節でしょうが!

 まあ、こっちの方が食べやすくて具も多いし、私は好みなんだけどね!

 うん、鰹出汁が利いて凄く美味しいわ。

 いいとこ取りか!

 

 「でも提督、ロケットペンダントはいいと思いますよ」

 

 あ、ようやく話が戻った。

 もうボケないでよ?

 私はねこまんまに舌鼓を打つので忙しいから。

 

 「そうだな。妖精に頼んで改造してもらうか」

 「ねえ司令官。妖精さんって、そんな事もしてくれるの?」

 「材料さえ渡せばな。部屋だって増築してくれるんだぞ?」

 

 部屋まで!?

 妖精さんマジパネェ!

 あ、肩に乗せてる妖精さんが、「任せろ」と言わんばかりにサムズアップしてるってことは、本当にそういうこともしてくれるんだ。

 

 「ねえ、司令官が来た時から気になってたんだけど、その妖精さんはどうしたの?」

 「ああ、コイツか?」

 「うん……。あ、降りてきた」

 

 司令官の肩から降りてきた妖精さんが、私と司令官の中間までカウンターをトテトテと歩いて来て「エッヘン」って感じでドヤ顔した。

 初めて見る妖精さんだけど、格好的に工廠妖精さんよね?

 

 「そこに妖精さんが居るんですか?え?満潮ちゃんは、本当に見えるの?」

 「うん、見える。艦娘になってしばらくは見えなかったんだけど、ソロモン海戦で神風さんにどつかれて……もとい、入渠してから見えるようになったわ」

 「へぇ、頭を打つと、見えるようになるんですね」

 「歳をとって自然に見えるようになる事もあれば、頭に強い衝撃を受けて見えるようになる事もある。たしか、辰見は後者だったな」

 「じゃ、じゃあ、あのおバカな一件で、朝潮ちゃんも見えるようになってる可能性が……」

 

 それはない。

 私もその可能性を考慮して、ここ何日か朝潮の行動を観察してみたけど、妖精さんには全く気づいてなかったわ。

 って言うか、おバカな一件って言わないで。

 

 「鳳翔さんは見えないんですか?」

 

 上位艦種。

 特に空母の人は、艦載機に指示を出したりするって聞いたことがあるから、もしかしたら見えてる可能性も……。

 

 「私たち空母の場合は、妖精さんに指示を出していると言うより、艦載機に指示を出している感覚です。ですが本気で集中している時は、稀に飛行帽を被ったパイロットのような小人を見ることがありますね」

 

 あ、見えないんだ。

 でも、それで艦載機を自在に操れるんなら、空母の人が艦隊指揮を使えるようになったら、それだけで反則的に強くなりそう……って、あら?

 なんか、妖精さんがねこまんまに興味持ってるわね。

 食べたそうだけど……食べれるのかしら。

 

 「あ、食べた」

 

 箸でお豆腐を摘まんで差し出してみたら、美味しそうに食べ始めたわ。

 小さな手でお豆腐を抱えて齧りついてる姿が、とっても可愛い。

 

 「不思議な光景ですね。カウンターからちょっとだけ浮いたお豆腐が、チビチビ減っていってます」

 

 見えない鳳翔さんからはそう見えるのか。

 これが見えないなんて不幸ね。お豆腐が気に入ったのか、幸せそうな顔してるわよ?

 

 「満潮、前にも話したが……」

 「それは、断ったでしょ?」

 「だがお前になら、私以上の提督になれる。もう一度、考えてみてくれないか?」

 

 いやいや、私まだ十代の小娘よ?

 そんな私に提督をやれとか、無茶ぶりが過ぎるでしょ。

 

 「いきなり提督になれとは言わん。まずは辰見のように、私の下で下積みをしてもらう。どうだ?」

 「どうだって言われても……」

 

 普通に考えればチャンスよ。

 鎮守府のトップになれるチャンスなんて、そうそう巡って来る物じゃないもの。

 私みたいに、軍での生き方しか知らない人間が普通の仕事に馴染めるとは思えないし、大きな失敗をしなければ将来は安泰だものね。

 でもそれは、私の双肩に鎮守府みんなの命のみならず、民間人の命までのし掛かってくるのと同義。

 そんな重圧に耐える自信なんてないわよ。

 

 「作戦前に言ってしまってすまないと思うが、少し考えてみてくれ。お前の戦術眼……いや、戦略眼は、艦娘で終わらせるには惜しい」

 「うん、わかった……」

 

 誕生日プレゼントの相談に乗るはずが、とんでもない事になっちゃったなぁ。

 そりゃあ、練った戦術が旨くハマった時は、普通に戦うのじゃ味わえないほどの優越感に浸れるわ。

 でも、それは自分も駒として動くから。

 仲間だけを駒として扱うなんて、私にはどうしても……。

 

 「うわぁ……」

 

 心配そうに私を見上げてくる妖精さんがやばいレベルで可愛い……けどダメよ、満潮!

 妖精さんの愛らしさに負けて、話を受けたら絶対にダメ!

 ダメなんだけど……。

 

 (ドウシタデス?大丈夫デス?)

 

 声がぁぁぁぁ!私を心配した妖精さんの可愛い舌足らずな声が脳内に直接ぅぅぅ!

 

 「ど、どうしたの満潮ちゃん!耳を押さえて頭をブンブン振っちゃって……」

 「妖精が満潮の心配をしているようだ」

 「え?それでどうして、こうなるんですか?」

 

 どうしたってこうなるのよ!

 鳳翔さんだって妖精さんの姿が見えて、声まで聴こえたら絶対にこうなるわ……って、どうして何かを期待するような眼差しを、私に向けてるの?

 

 (新シイ提督サンデス?)

 

 やぁめぇてぇぇぇぇ!

 お願いだから誘惑しないで!

 私は提督になる気なんてないんだから、そんな期待に満ちた瞳で私を見つめないで!

 

 「声が聞こえる者は、だいたい妖精の愛らしい声と仕草でやられてしまう。佐世保の勇次大将は調子に乗って、お兄ちゃんと呼ばせてると言っていたな」

 

 え?呼び方変えてくれるの!?

 それは知らなかった……ってぇ!無理無理無理!こんな愛らしい生き物に、お姉ちゃんって呼ばれた日にゃあ即轟沈よ!

 耐えられる自信なんか……。

 

 (オ姉チャン♪) 

 「ぎゃあああぁぁぁぁ!」

 「満潮ちゃんしっかりして!頭をカウンターに打ちつけちゃダメ!提督!もしかして妖精さんの声って苦痛を伴うんですか!?」

 「いや?むしろ快感すぎて悶えてるんじゃないか?ほら、やばいくらいニヤけている」

 

 そりゃあニヤけもするわよ!

 破壊力が強すぎるもの!

 佐世保の提督がお兄ちゃんって呼ばせたがる気持ちが凄くわかったわ!

 わかりたくなかったけどわかっちゃったわよ!

 

 「まあ、士官になるならないは置いといて。しばらく、その妖精と一緒に行動してみるか?」

 「い、いいの!?」

 「ああ、だがわかっていると思うが、気をつけろよ?他の者には見えないから、愛でる時は顔に出さないようにしなさい。変な目で見られるぞ」

 「うん♪」

 

 いつもは複数の妖精さんたちと、工廠の隅っこで遊ぶだけだから気にしたことなかったけど、妖精さんにも名前とかあるのかしら。

 ないんだったら、私専属の妖精さんと言ってもいいこの子には名前の一つくらいつけてあげたいわね。

 

 「私、満潮ちゃんのこんなキラキラした笑顔を初めて見ました」

 「こう見ると、年相応の子供だな」

 

 子供でけっこうよ。

 そ、それより、名前がないなら決めてあげなきゃ……の前に、あるかどうか訊かなきゃ駄目よね。

 ちなみに、妖精さんの声が聴こえる者は、口に出さなくても考えるだけで会話が可能なの。

 例えば……。

 

 (ねえ、あなた名前はないの?)

 (シュウチャンデス♪)

 (シュウちゃん?それがあなたの名前なのね!よろしくね、シュウちゃん♪)

 

 とまあ、こんな感じでね。

 たまに口に出しちゃうこともあるけど、これができるから助かってるわ。

 だって、普通の人には見えない妖精さんに話しかけてたら、傍から見たら危ない人か可哀相な人たちにしか映らないでしょ?

 

 「提督、これはかなり貴重な映像ですよ。満面の笑みを浮かべる満潮ちゃんなんて、拝もうと思って拝める物じゃありません。あ、何もない空間に頬ずりを……」

 「妖精を手の平に乗せてるな。妖精も満更じゃなさそうだし、気に入られたみたいだ」

 

 (オ姉チャン大好キデス♪)

 「もう!シュウちゃんのバカ!私も大好きよぉぉぉぉぉぉ!」

 「こりゃもう、相談にゃあならんな。鳳翔さん、一本浸けて」

 「あ、あれを放っておくんですか?慣れていらっしゃいますね……」

 「まあ、辰見もああなったしな……」

 「なるほど……。天龍だった頃の辰見さんも、可愛い物に目がなかったですものね。ちなみに、提督は?」

 「俺か?俺は反応が普通すぎて、最初の頃は妖精に嫌われちょった」

 

 はぁ!?こんな可愛い生き物を見て普通の反応しちゃったの!?

 頭おかしいんじゃない!?

 

 (アリエマセン)

 (そうよね!あり得ないわよね!やっちゃえシュウちゃん!)

 (イエッサ♪)

 「うお!?妖精をけしかけるな満潮!ちょ!髪はやめろ!特に前髪は!前髪はやめて!」

 「あ、そういえば、お誕生会の会場はどうするの?食堂を使うなら、私から話しておいてあげますけど」

 

 う~ん、作戦前だし、あまり大っぴらにやるのもなぁ。八駆か司令官の部屋でささやかにやろうと思ってたんだけど……。

 

 「体裁なら気にする事ないですよ?このカウンター周りだけでやれば、盛大にとは言えませんがそれなりのパーティーは出来るでしょう?」

 「じゃあ、そうしようかな。ありがとう、鳳翔さん」

 「お料理も任せてくださいね。腕を振るっちゃいますから」

 「いいの?鳳翔さんも忙しいんじゃ……」

 

 作戦の打ち合わせとか艦隊の訓練に付き合ったりで、最近忙しそうにしてるじゃない。

 それなのに、パーティー用の料理までお願いするのはちょっと……。

 

 「それくらいの時間は作れます、安心してください」

 「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えるわ」

 

 よかったわね朝潮。

 ささやかではあるけど、それなりのパーティーになりそうよ。

 あ、そうだ。私も、何かプレゼント考えなきゃね何がいいかなぁ。

 

 「それよりこの妖精を止めてくれ満潮!髪が!俺の髪がぁぁぁぁぁ!」

 

 などと喚く司令官を無視して、私は食事を楽しみつつ朝潮のプレゼントを考え始めた。

 

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