艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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明日は三週間ぶりの休みなのに……何もする気になれない。


第百六話 誕生日、おめでとう

 

 

 

 まずい事になった。

 よりにもよって、朝潮をマジギレさせてしまうなんて大失敗にも程があるわ。

 まあでも、気持ちはわかる。

 自分が仕事を終わらせようと一生懸命な時に、そばでグースカ寝られたら腹が立つもんね。

 私だったら蹴り起こしてるわ。

 ん?そうよ!

 起こせばよかったじゃない!なんで起こさなかったの!?

 と、前を歩く朝潮に聞きたいところだけど……。

 

 「あ、朝潮……?」

 「なんですか?」

 

 ひぃっ!

 そ、そんなギロって効果音が聞こえて来そうな目で睨まないでもいいじゃない!

 これはとてもじゃないけど、聞ける雰囲気じゃないわね。

 って言うか、そんな事を聞いてもただの逆ギレになっちゃうものね。

 寝ちゃった私たちが悪いのは確かなんだから、それは良くないわ。

 

 「ご、ごめん。なんでもない……です」

 「……そうですか」

 

 再び前を向いて歩き始めたのを見るに、怒りはまだ収まってないけど、とりあえず廊下で何かする気はないみたいね。

 少しだけホッとしたわ。

 

 「う…ん……」

 

 ちなみに、諸悪の根源である叢雲は、今も私の背中で気絶中。

 ん?そうよ。

 元はと言えば叢雲が悪いんじゃない。

 無駄に肩揉むのが上手くて気持ち良かったから、私が寝落ちしちゃったじゃない。

 あれ?でも待って?

 私が寝ちゃった理由はそれだとして、なんで叢雲まで寝てたのかしら。

 揉み疲れて寝ちゃった?

 いやいや、寝ちゃうほど熱心に肩を揉んでくれたとしたら感謝しかないけど、それって普通にアホじゃない?

 あ、そう言えばこの子、朝潮にちょっと怒られただけで、今の状態になってるのよね?

 いくら怒った朝潮が怖いって言っても、深海棲艦よりははるかにマシなはずよ?

 もしかして、艦娘になる前の境遇が……って、それは詮索しちゃダメね。

 艦娘には、本人が話さない限り、素性や志願理由を聞いたり詮索したりしないって言う、暗黙の了解があるんだから。

 

 「あ、朝潮ちゃん、遅かったね。もう、みんな集まってるよ?」

 「すみません大潮さん。お寝坊さん二人のせいで、時間を食ってしまったんです」

 「お寝坊さん?」

 

 見るな!

 今の私を、そんなつぶらな瞳で見つめないで大潮!

 ええ、私たちのせいです!

 私たちが仕事中に寝ちゃったせいで、こんな時間まで仕事が終わらなかったのよ!

 もう十分反省してるから、これ以上私を責めないで!

 

 「ふ~ん、まあいいや。ちょっとそこで待っててね」

  

 ん?なんだろう?

 大潮が食堂の扉に顔だけ突っ込んで、中と何か話してるわ。

 あ、そうだ。

 そう言えば朝潮が入った瞬間に、参加者全員で一斉にクラッカーを鳴らす手はずだったわね。

 きっと大潮は、その合図をしに行ったんだわ。

 

 「いいよ~!朝潮ちゃんこっち来て~!」

 「あ、はい」

 

 大潮に呼ばれて朝潮が食堂の扉をくぐった瞬間。

 パンパンパパン!とけたたましい音が連続で鳴り、次いで、「朝潮ちゃん、お誕生日おめでと~!」と、ありきたりだけど、やられると結構嬉しいお祝いの声が食堂に響いた。

 本当なら、私と叢雲もあの中に交ざってる予定だったのよねぇ……。

 

 「な、なになに!?敵襲!?」

 

 お、クラッカーの音で起きたか。

 じゃあ、もう降ろしていいわね。

 叢雲って私より体、特にむ……胸部装甲が大きいからムカつく……もとい、重いのよ。

 

 「痛っ!何するのよ満潮!お尻打っちゃったじゃない!」

 「目が覚めて丁度良かったでしょ?どこまで覚えてる?」

 「どこまでって……。あ……」

 

 再び青ざめたのを見るに、記憶までは無くしてないようね。説明の手間が省けるから助かるわ。

 

 「まだ、朝潮怒ってる?」

 「取り付く島もない感じね。パーティーで機嫌が直ってくれるのを祈るだけだわ」 

 「そ、そう……」

 

 青ざめるどころか、ヤバいレベルで血の気が引いてるけど大丈夫?

 もしかして養成所時代に、朝潮を怒らせた事があるのかしら。それとも、怒られる事に慣れてない?

 

 「あ、そういえばアンタ、朝潮へのプレゼントは?部屋に置いてるの?」

 「え?持ってるわよ?あの子の誕生日を聞いた頃には、もう私と辰見さんは忙しくなってたから大した物は用意できなかったけど……」

 「ちなみに、何?」

 「本人に渡す前にそれ聞く!?まあ、別にいいけど……。写真よ」

 

 写真?養成所時代の写真かしら。

 それとも……。

 

 「自分のブロマイドとか?」

 「私はそこまで自信過剰じゃない!ほら、あのモヒカン居るじゃない?奇兵隊……だっけ?の、チンピラの一人」

 「モヒカンの写真?それ、ケンカ売ってるのと同じなんじゃない?」

 

 司令官の写真ならまだしも、あんな世紀末に生息してそうな生き物の写真を送っても喜ぶとは思えないわ。

 私なら、その場で破り捨てるわね。

 

 「違う!あの人が司令官の昔の写真持ってるの知ってたから、焼き増しと言うかコピーと言うか……とにかくしたの!」

 「へぇ、それはあの子、絶対に喜ぶわ。でも、よく見つけられたわね。一人で倉庫街に行ったの?」

 「行こうとしたら辰見さんが、「じゃあダルシムまで持ってこさせましょ」って、電話で呼び出してくれたから受け取ったの。今月の初めくらいだったかな?」

 

 今月の初めにダルシムで?

 まさか、龍驤さんが着任した日じゃないわよね?

 確かあの日、モヒカンがダルシムの近くで気絶してたって話は聞いた憶えがあるから、その日に叢雲と待ち合わせしてたんなら、その帰りに龍驤さんと遭遇したってことになるわね。

 

 「満潮は何をあげるの?」

 「私も写真と言えば写真なんだけど……。司令官が私物を改造してロケットペンダントにしたから、私はその中にハメるフレームを用意したわ」

 「ロケット?飛ぶの?」

 「それはもういい!」

 

 そのボケはすでに司令官が使用済みよ。

 二度ネタ禁止!

 って、どうして不思議そうな顔してるのよ。ダメなものはダメだからね?

 

 「あ、じゃあロケットペンシルみたいに、後ろから写真を入れたら古い写真が飛び出すの?」

 「ロケットペンシルってなに?」

 

 この子、何言ってるの?

 ペンシルって事は鉛筆か何か?

 まさか、飛ぶんじゃないでしょうね。

 

 「知らない?ロケットペンシル」

 「知らない」

 

 あっれ~?とか言ってるけど、本当に聞いたことがないわ。それが、最近流行りの文房具だったりするの?

 

 「辰見さんから、そんなのがあるって聞いたのよ。古い芯をお尻から挿すと、新しい芯が出てくるらしいわ」

 

 アンタも見たことないんじゃない!

 って言うか、鉛筆の芯をお尻に挿すの?どんな特殊プレイよ!その鉛筆って、絶対に大人のおもちゃでしょ!

 

 「まあ、いっか。お腹空いたから、私達も入りましょうよ」

 「今日の朝潮は怒ってるから、ご飯を「あ~ん」とかしてくれないかもよ?」

 「そこまでさせてないから!精々お風呂で体洗ってもらったりとか髪を梳かさせたりとか……その程度よ!」

 

 どの程度だ!

 完全に召使扱いしてたんじゃない!

 え?まさか、マジでイジメてたの?

 だったらこれ、姉としてちょっと聞いとく必要があるわね。

 

 「ねえ、どうしてそんな事させてたの?朝潮は友達じゃないの?」

 「友達……だと、私は思ってるわ」

 「じゃあ、なんで?」

 

 そんなシュンとしないでよ。

 別に怒ってるわけじゃないのよ?

 ただ、万が一を考えて聞いてるだけ。

 そもそも、アンタにそんな自信なさげな顔は似合わないわ。

 

 「話した当時は、そこまで仲が良かったって訳じゃなかったから、朝潮には当たり障りのないことしか話してないけど、実は私の家ってかなり古い家柄なの。それこそ、辰見さんの家とタメ張るくらいね」

 「辰見さんの家とタメ張ったらどうして古いのかまでは詮索しないけど、それってアンタの素性に関する話でしょ?私が聞いていいの?」

 「アンタは友達だから……良いわ」

 

 あ、うん。

 友達……ね。

 そっかぁ、叢雲は私のことを、友達って想ってくれてたんだ。

 

 「なんで照れてんの?」

 「照れてない。それで?アンタの家柄と、朝潮の扱いに何の関係が?」

 「え~っと……」

 

 叢雲が言うには、叢雲は幼い頃、それこそ赤ん坊の頃から、外界と完全に隔絶された環境で育ったらしい。

 しかも食事から風呂や着替えまで、巫女みたいな人たちが行ってくれてたそうよ。

 だから、同室だった朝潮にそういうことをさせるのに抵抗がなかったんだってさ。

 そしてある日……。

 

 「皮肉にも、深海棲艦の空爆で家がメチャクチャになったおかげで、私はそんな異界から解放されたわ」

 「ふぅん。で、世間知らずのお嬢様だったアンタは、彷徨(さまよ)った末に養成所にたどり着いた。と?」

 「いいえ?家から焼け出されてからしばらくは、縁のある家の人に保護されてたわ。その人に、とある人物を探す手伝いをしてくれって頼まれたから、私は養成所に入ったの」

 「その人物って?」

 「……(わら)う黒鬼。とだけ、言っとく」

 

 嗤う黒鬼?

 それって人名……じゃあないわよね。

 異名みたいなモノかしら。

 でも、何故かはわからないけど、私はその人を知ってる気がする。

 ううん、ハッキリと、あの人が頭に浮かんでる。

 きっと今、朝潮の前でデレデレになるのを必死に我慢してるであろう、あの人が。

 

 「話を戻すわ。それで私が入所した時、あの子は一人だった」

 「友達が居なかったって事?」

 「うん。駆逐艦ってさ、他の艦種に比べて入れ替わりが激しいじゃない?」 

 

 そうね。

 紙装甲の割に血の気が多い子が大多数だから、無暗に突っ込んで戦死する事はよくあるわ。

 そうじゃなくても、下手したら駆逐艦の砲撃でも当たり所が悪ければ一発で戦死するほど脆い。

 

 「だから、新しく入所して来ても、早い子は半年くらいで居なくなってたんだって。そのせいで、長く養成所に居たあの子には友達って呼べる子が一人も居なかったの。それだけじゃないわ。あの子は自分を能無しだと思い込んでたから、他人と関わるのを怖がってる節もあった」

 

 無能が移るとでも思ってたのかしら。

 それとも、陰口でも言われてたのかな。

 今はだいぶマシだけど、着任したての頃は酷かったものね。

 自分に自信がなく、自己評価は常に最低。強くなってからも、それはなかなか変わらなかった。

 今でも、自己評価が高いとは言えないわ。

 

 「それで無理矢理関わろうとした結果、召使にしちゃったわけ?」

 「最初は、ウジウジしてるあの子が気に食わないだけだった。だから宿題を代わりにさせたり、パシリみたいな事もさせたけど……あの子、それすら嬉しかったのか、嬉々として言う事聞いてくれちゃってさ」

 

 イジメじみた事でも、自分と関わろうとしてくれた叢雲の行動が嬉しかったのね。

 きっと叢雲が居たから、あの子は姉さんの艤装と出会うまで養成所に居続けることが出来たんだわ。

 

 「でも段々と、私もあの子の事が好きになっちゃって……。あ、友達としての好きよ!?」

 「わかってるわよ。で?」

 「最後の適合試験の前の日に、あの子に言ったの。「もし試験に落ちたら、提督を目指しなさい」って。そして私を、初期艦に選んでって……。そうしたら、私が居なくなっても士官学校で頑張っていけるかなって思って……。まあ、杞憂で終わったけどね」

 

 あの子が提督にねぇ……。

 養成所に居た頃ならまだしも、今のあの子が提督を目指すとは思えないわ。

 もしかしたらすでに、あの子の頭の中じゃあ司令官と結婚してるんじゃないかしら。

 そもそも、妖精が見えてないから無理か。

 

 (ねぇ?シュウちゃん)

 (アイ!アノ子見エテナイデス!) 

 「ねえ……満潮?執務室でも気になってたんだけど……。右肩に何かいるの?」

 「だから、妖精さんって言ったじゃない」

 

 ん?なによその「うっそだ~」って言いたげな顔は。

 「私にも見えないモノがあるんだ……」とか言ってるのは意味わかんないけど、信じてないのは確実ね。

 

 (ヤッチマイマス?)

 (うん、やっちゃおっか)

 「え!?なに!?頭の上に何かいる!ちょ!髪の毛が引っ張られる!何よコレ!」

 「私の妖精さんが、アンタの頭の上で暴れてるの」

 「ホントに!?ちょっと痛い!やめさせてよ満潮!」

 「シュウちゃん、もういいわ。戻ってらっしゃい」

 (アイ!)

 

 シュウちゃんが叢雲の頭の上から、私が差し出した手の平の上に飛び移って来た。

 はぁ……。

 叢雲にしてもそうだけど、こんなに可愛い子が見えないなんて可哀そうだわ。

 

 「その勝ち誇った顔が凄くムカつくんだけど……。まあ、妖精さんが見えてるってのは、一応信じてあげる。頭が可哀そうな訳じゃなくてホッとしたし」

 

 ん?今なんて言った?

 私の頭が可哀そう?

 あ、そうか!

 きっと他の人に見えないシュウちゃんに向かって話しかけたり、ニヤケたりしてたから、叢雲に誤解されたんだわ。

 

 「妖精さんが見えるって事は、満潮は提督を目指すの?」

 「考え中よ。司令官には、来年の任期更新の時に士官にならないかとは言われてる」

 「ふぅん、艦娘辞めちゃうんだ……」

 

 だから、まだ考え中だっての。

 それとも、私が艦娘を辞めたら寂しいの?

 いや、その可能性が高いわね。

 叢雲って、私と朝潮くらいしか友達いなそうだし。

 あ、私?私は居るわよ?

 朝潮、大潮、荒潮に、アンタでしょ?九駆の四人と霞と霰は……微妙か。

 他は……アレ?大潮と荒潮分しか差がない?

 い、いやでも、アンタより二人も多いもんね!

 

 「まあ、アンタの人生だしね。好きにすると良いわ」

 

 とか言いつつ、スカートの裾持って涙ぐんでるじゃない。

 私も人のこと言えないけど、アンタも素直じゃないわね。

 

 「べつに、艦娘辞めたって友達に変わりはないでしょ?それに、辞めると決めた訳でもないんだから」

 「ふ、ふん!アンタがそう言うなら、友達でいてあげる」

 「あっそ、ありがと……。叢雲」

 

 さぁって、友情を確かめ合ったところで、そろそろパーティー会場に行くとしますか。

 司令官といちゃついて、朝潮の機嫌が直っててくれればいいんだけどなぁ……。

 

 「あらぁ、満潮ちゃんと叢雲ちゃん、やっと来たのねぇ。何してたのぉ?」

 

 会場に入って、最初に迎えてくれたのは荒潮だった。

 なんだか顔が赤いけど、まさかお酒飲んでるんじゃないでしょうね?

 

 「叢雲がなかなか泣き止まないから、慰めてたのよ。ね?叢雲」

 「は、はぁ!?泣いてないし!」

 

 はいはい、そうですね~っと。

 え~と、朝潮は……。

 あ、居た、カウンターに座る司令官の隣でケーキ食べてるわ。

 機嫌は……一応、怒りは収まってるみたい。

 

 「ほら、行くわよ叢雲。プレゼント渡さなきゃ」

 「え、もう!?」

 「朝潮が怒ってるかどうかを心配してるなら、司令官が横に居るから大丈夫よ。きっと喜んでくれるから行きましょ」

 「い、いや、そっちも心配だけど……」

 

 けど、何?

 叢雲は朝潮と司令官……どちらかと言うと司令官を気にしてるみたいだわ。

 まあ、朝潮が怒っただけで気絶するくらいだから、強面の司令官が苦手なのは当然と言えば当然か。

 

 「お、やっと来たか満潮。叢雲も一緒のようだが……大丈夫か?叢雲」

 「だ、大丈夫。今日は比較的大人しいみたいだから、我慢できると思う。あの、ちょっと朝潮に用があるんだけど……」

 

 あ、やっぱり司令官が苦手なんだ。

 でも変ね。

 司令官と言うより、その後ろの空間を気にしてるように見えるわ。

 

 「じゃあ、私は少し外そう」

 「良い!居て良いわ!本当に今日は大丈夫だから!」

 

 司令官が席を外すといった瞬間、朝潮が「え!?」って感じになったのは置いといて。

 叢雲と司令官の様子が変だわ。

 まるで、二人しか知らない秘密を共有しているようにさえ見える。

 

 「あ、朝潮。その、昼間はごめんね。私のせいで、その……」

 「それはもう怒っていません。私も……少し言い過ぎました」

 

 よし、怒りは収まってる。

 きっと司令官が朝潮の様子がおかしいのに気づいて、機嫌でも取ってくれたんでしょう。

 実際、司令官がお酒……今日はビールか、珍しいわね。が入ったジョッキを口に運びながら、歪んだウィンクを私にしてるし。

 

 「で、プレゼントなんだけど……これ!これくらいしか用意できなくて申し訳ないけど、受け取ってくれる?」

 「なになに?叢雲から朝潮への、愛の告白ぅ?」

 「え?叢雲と朝潮って、そういう仲だったんですか?」

 「茶化さないでよ辰見さん……って!雪代所長!?どうしているの!?」

 

 なるほど、朝潮が喜びそうな人ってのは雪代さんのことだったのか。

 でも、どうして雪代さんがいると喜ぶの?

 もしかして、朝潮と叢雲がいた養成所の所長が雪代さんだったとか?は、まあいいや。

 雪代さんが言った通り、顔を赤らめてうつむきながら可愛らしい封筒に入れた写真を差し出す叢雲の様は、「ずっと好きでした!」って言いながらラブレターを渡す女の子そのものだわ。

 

 「ありがとうございます。開けても……いいですか?」

 「え?あ、うん……」

 

 あれ?よく考えたら、司令官の写真を本人の許可なくあげてるのよね?

 司令官は気にしないのかしら。

 

 「これ……あの時、モヒカンさんが持ってた写真ですよね?どうしたんですか?これ」

 「そのモヒカンから借りて、パソコンに取り込んで印刷したの。気に入らなかった?」

 「そんな!すごく嬉しいです!ありがとうございます!」

 

 どんな写真なんだろ?私も見ていいかな?

 司令官も興味ありげに覗いてるし、私も便乗しちゃうか。

 

 「懐かしいな。奇兵隊結成当時の写真じゃないか。アイツめ、まだこんな写真持ってたのか」

 

 あ、若い司令官だ。

 陸軍の軍服着てるのが違和感あるけど……あ、これが金髪かな?じゃあ、こっちの角刈りが現モヒカン?

 え?ちょ、待って?

 モヒカンって、普通の髪型して眉毛生やしたらイケメンじゃない。なのにどうして、あんな珍妙な見た目にしてるのかしら。

 

 「え?そんな頃の写真が出て来たの?」

 「ああ、神風も見てみろ。これ、お前が撮った写真だろ」

 

 調理場の方から出て来た神風さんも、興味深そうに写真を覗き込んだ。

 だから、神風さんが写ってないのか。

 この頃にはもう艦娘だったのかな?

 

 「そうそう、私がカメラマンやって撮った奴だわ。モヒカンじゃない角ちゃんなんて久しぶりに見たわ」

 「そういやアイツ、なんでモヒカンにしたんだ?いつの間にか、あの髪型になってただろ」

 

 ホント、何を思ってあの髪型にしたのかしらね。

 普通の髪型してりゃあ、金髪並みにモテてたと思うわ。

 

 「え~と確か……。私との賭けに負けたからだったかな?」

 「賭け?ちなみに、どんな賭けだ?」

 「それは秘密。言ったらたぶん、お父さんたら激怒しちゃうもん」

 

 なるほど、司令官が激怒するような内容の賭けに負けた結果、モヒカンは側頭部の髪の毛を永遠に失ったのか……って、代償が大きすぎない?

 間近で見たことはないけど、あの人の側頭部って毛根なんて存在してないんじゃ?って思っちゃうくらいツルツルよ?

 

 「あ!この写真を、満潮さんからのプレゼントにハメてもらうのはどうでしょう?どう思います?満潮さん」

 「ええ、良いわよ。明日にでもやってあげるわ。あ、司令官からのプレゼントは貰った?」

 

 司令官が首を横に振ってるってことは、まだ渡してなかったのか。

 さっさと渡しなさいよ。

 じゃないと、この後の予定が立たないでしょうが。

 

 「朝潮、私からもプレゼントを渡しておこう」

 「こ、光栄です!ありがたくちょ、頂戴いたしまするる」

 

 何をいまさら緊張してるのよ。

 セリフがバグってるわよ?

 

 「あ、これって、ペンダント……ですか?」

 「ああ、お古のシガレットケースをペンダントに改造した。ちょっと開けてみてくれるか?」

 「中に羅針盤が……。ですが、反対側は何も入って……。あ!満潮さんのプレゼントはそういう事ですか!」

 

 へぇ、反対側は羅針盤にしたんだ。

 でも、どうして羅針盤?時計の方が便利良いんじゃない?

 

 「これをこうして……やっぱり!ピッタリです!」

 

 厳密にはまだだけど、とりあえず完成。気に入ってくれたようで何よりね。

 

 「でも提督、なんで羅針盤なんです?」

 

 そうそう、それが私も気になってたのよ。

 ナイスだわ辰見さん。

 

 「それはな、どこに居ても朝潮が迷わず、私の元に戻ってこれるようにと願いを込めて羅針盤にしたんだ。針が黒と赤の二本あるだろ?赤い方が、常に私のいる方を向くようになっている」

 

 クサっ!

 普通、こんな大勢人が居る場で言う!?

 ほら、みんな鼻摘まんでるじゃない!

 マジで臭って来そうなくらいクサいわ。感激してるのは朝潮だけよ!

 って言うか、自分の方に常に針を向けさせるってどんな技術よ。妖精さんってそんな事もできるの?

 

 (余裕デス!)

 (あ、余裕なんだ……やっぱ妖精さんってマジパナイ)

 

 「司令官……はい!この朝潮、司令官がどこに居ようと、この羅針盤を使って必ず司令官の元に戻ります!」

 「朝潮!」

 「司令官!」

 

 勝手にやってろ!

 はぁ……なんだかムカムカしてきたわね。お腹が空いてるからかしら。

 

 「このままキスでもしようものなら、即憲兵さんに通報ね」

 「あらぁ?満潮ちゃんたら妬いてるのぉ?」

 

 なんで私がヤキモチ妬かなきゃいけないのよ荒潮。

 ああは言ったけど、二人の仲は諸手を挙げて祝福してるのよ?。

 

 「へぇ、満潮って、お父さんの事が好きだったの?」

 「いや、ないから。絶対ないから」

 

 どうしてそうなるのか本当に意味分かんない。

 そりゃあ嫌いではないわ。

 好きか嫌いかで言えば好きよ。

 でもそれは、上官としてとか保護者としてとか、そんな感じの好きであって、恋愛感情なんてないわ。

 

 「神風こそどうなのよ。大好きなお父さんを取られちゃうわよ?」

 「天奈、誤解があるようだから言っとくけど、清々してるからね?これでようやく、娘離れしてくれるもの」

 

 そんな事言っちゃって、今でも司令官と同じ部屋に住んでるんでしょ?

 

 「作戦が終わったら部屋も出て行くしね。それが私から、朝潮へのプレゼント」

 「え?一人で寝れるようになったの?」

 「あ、当たり前でしょ!?私を何歳だと思ってるのよ!」

 

 いや、一人で寝れなかったのかこの人。

 意外と可愛い一面があるじゃない。

 でもそうすると、作戦が終わったら朝潮と司令官が同棲開始?

 それは色々とまずいような……。

 

 「ねえ満潮、先に写真を撮っといた方がいいんじゃない?そろそろ、朝潮ちゃんがオネムの時間だよ?」

 

 おっと、そうだった。

 朝潮と司令官の問題ありまくりの同棲生活の心配してる場合じゃないわね。

 大潮に言われなきゃ忘れてたわ。

 

 「司令官、先に写真撮っときましょうよ。あと一時間もしたら、朝潮が寝ちゃうわ」

 「写真?みんなで集合写真でも撮るのですか?」

 「アンタと司令官のツーショットよ。フレームの好きな場所に入れなさい」

 

 その写真をハメたら、本当の意味で完成。

 シガレットケースをリサイクルした、アンタだけのロケットペンダントよ。

 

 「朝潮、どこか撮りたい場所はあるか?」

 「執務室がいいです!」

 

 まあ、妥当か。

 朝潮が執務室を選ぶのは予想の範囲内だったから、明るい内に司令官に執務室まで来てもらっても良かったわね。

 そうすれば、寝転けて朝潮を怒らすこともなかったでしょうし。

 

 「じゃあ行こっか。私のスマホで撮ったのでいいでしょ?」

 「はい!お願いします!」

 

 そっちの方が、データをやり取りする手間も省けるから私の都合が良いし、最近のスマホは素人でも綺麗に撮れるしね。

 

 「満潮さん!早く早く!」

 「はいはい、わかったわよ」

 

 ここに来るまで、視線だけで深海棲艦を沈めそうなほどだった雰囲気が嘘みたいね。

 完全にキラ付け状態じゃない。

 今の朝潮なら、就寝時間を過ぎても起きていられるんじゃない?ってくらい、テンションが高いわ。

 でも……。

 

 「恋人同士には、どうしたって見えないわね」

 

 朝潮には申し訳ないけど、手を繋いで廊下を歩く二人の後ろ姿は、贔屓目に言って親子ね。

 恋人同士には絶対に見えないわ。

 せめて司令官が、叢雲が持ってきた写真の頃くらいの歳ならまぁ……それでも無理か。

 これは朝潮が幼いのが悪いのか、司令官がオッサンすぎるのが悪いのか……。

 姉さんの時も思ったけど、歳の差がありすぎるのよねぇ。

 まあ姉さんの場合は、艦娘辞めたら年相応の身長にはなってたろうから、そこまで違和感は無かったはず。

 三十過ぎのオッサンが16歳の少女と結婚とか、世の男どもが歯噛みして羨ましがりそうね。

 私だったらどうなんだろ。

 艦娘を辞めたら、ちゃんと身長は伸びてくれるのかしら。

 司令官の隣に居ても違和感が無いくらいに伸びてくれたら十分ね。

 さらに、来年の三月には16だし、法的にも結婚は可能。自画自賛じゃないけど、容姿も割と整ってる……って!何考えてるのよ私は!

 これじゃあまるで、司令官の事を男として意識してるみたいじゃない!

 

 「満潮、どうかしたのか?」

 「な、なんでもない!」

 

 これは何かの間違いよ。

 そう!きっと二人の熱々っぷりに当てられただけ!

 そうに違いないわ!

 じゃないと、こんな額が後退してるのを気にしてるオッサンが気になるなんてあり得ないもの!

 

 「満潮さん?着きましたよ?」

 「え?あ……。うん、ごめん。ちょっと考え事してた……」

 「顔が赤いな。熱でもあるんじゃないか?」

 

 私が司令官にお熱だって言いたいの?

 自意識過剰もいい加減にしなさいよ?

 司令官の事なんて、別になんとも思ってないんだからね……じゃない。

 冷静になりなさい私。

 

 「熱なんてないわよ。それより、どんな構図で撮るの?」

 「そうだな……。朝潮、どんなポーズを取ればいい?」

 「えっとですね……。では、とりあえずここに」

 

 朝潮が執務机の椅子を壁の前に移動させ、そこに司令官を座らせ、座った姿勢のまま日本刀を床に立て、柄に両の手の平を重ねて置いたポーズをとらせた。

 その横に陣取るつもりなのかしら。

 

 「で、私がここに……」

 

 いや、どうしてそこに行く。

 せっかく司令官がいい感じに威厳のあるポーズをとってるのに、なぜ肩に乗ろうとするのか。

 肩車が良いなら、最初から肩車してもらえば良かったじゃない。

 

 「朝潮……。本当にそれでいいの?」

 「え?ダメですか?」

 「ダメとは言わない。アンタがそれが良いって言うなら、それでいいわ。でも、それじゃあ恋人同士にはとても見えないわよ?」

 

 まともに撮っても見えやしないんだけどね。

 まあ、これは言わないでおこう。

 

 「そんな、一生懸命考えたのに……」

 

 そっかぁ、一生懸命考えた結果が肩車かぁ。

 別にションボリする必要はないわ朝潮。

 それはそれで微笑ましい光景だから。たぶん。

 司令官が士官服で決め顔してるせいで、見ようによってはシュールに見えるけどね。

 

 「み、満潮さんが決めてもらえませんか?」

 「私?私が決めていいの?」

 「是非!」

 

 そりゃあ、肩車よりマシな構図は思いつく自信はあるけど……。

 まあ、朝潮の期待に満ちた瞳を見ちゃったら、断るなんてできないわね。

 

 「わかった。とりあえず、朝潮は司令官から降りなさい。司令官はそのポーズのまま、体ごと少し横を向いて。そう、その位」

 「それで、私が司令官の腕の上に座るわけですね!」

 

 なんでそうなる。

 司令官なら余裕で支えられそうだけど、しんどいでしょうが。

 

 「アンタは司令官の横に立つ!そう、その辺でいいわ。あとは敬礼でもしてなさい」

 「シンプルすぎませんか?」

 

 アンタは笑いを求めて肩車なんか考えたの?

 一応、誕生日の記念なんだから慎ましい感じでいいのよ。

 

 「シンプルイズベストよ。撮った写真を見れば、アンタも気に入るわ」

 「わかりました。お願いします!」

 「じゃあ撮るわよー。ハイ、チーズ」

 

 パシャ!という音とともに撮られた写真には、若干緊張気味ながらも幸せそうな朝潮と、決め顔の司令官がおさまっていた。

 前言を撤回するわ朝潮。

 アンタたち二人は、お似合いのカップルよ。

 司令官に欠片も興味がない私が、妬けちゃうくらいにね。

 

 「わあ!満潮さんの言う通りでした!凄く良い感じです♪」

 「写真屋が撮ったような感じだな。やるじゃないか満潮」

 「後でアンタのスマホにも送っておいてあげるから、とりあえず返して。明日には、ペンダントにハメれるようにした写真を渡してあげる」

 「はい!よろしくお願いします♪」

 

 さて、それじゃあ私は、ご飯を食べに戻りますか。

 二人は……しばらくここで話でもしそうな感じね

 だったら一応、釘だけ刺しとくか。

 

 「じゃあ、私は先に食堂に戻るけど……。二人っきりだからって変な事しちゃダメよ?」

 「変な事?」

 「安心しろ満潮。あと三年くらい我慢できる」

 

 我慢強くて大変よろしい。

 あ、そうだ。戻る前に、朝潮に一言言っておかなきゃ。

 

 「朝潮」

 「なんですか?」

 

 相変わらず、キョトンとした仕草が可愛らしいわね。

 アンタは強くて可愛い、私の自慢の妹よ。

 だからアンタの13歳の誕生日を、心から祝福してあげる。

 

 「誕生日、おめでとう」

 「ありがとうございますお姉ちゃん♪」

 

 朝潮の輝くような笑顔に見送られながら、私は執務室を後にした。

 胸の奥底で、祝福とは全く逆の感情が渦巻いているのに、気づかない振りをして。

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