艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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編成編ラストでーす( ・ω・)


第百八話 幕間 鼬と渾沌

 

 

 

 

 

 「島が、随分と騒がしいな」

 

 改装が終わり、工廠から出て渾沌様の下に赴いてみると、我らの母が座するビッグアイランド聖地、人間どもがハワイと呼んでいた島が騒めいていた。

 出撃しているのか?

 生まれたばかりの個体まで、東の海に出て行ってるではないか。

 これは、いつもの小競り合いではないな。本格的に、敵が侵攻でもして来たのか?

 

 「渾沌様、これは何の騒ぎですか?」

 「鼬か。なに、大した事じゃないわ。東から、人間(ゴミ)共の艦隊が迫ってるだけよ」

 

 東……。

 となると、米国と呼ばれている国の艦隊だな。

 だが、それなら大した事はある。

 それは渾沌様が、島内に配した艦どころか生まれたばかりの子達まで駆り出していることからもわかる。

 

 「西側の艦隊は、どうするおつもりですか?饕餮様亡き今、もし日本側からも攻められたら、檮杌(とうこつ)様の艦隊だけでは支えきれない可能性が高いです」

 「それは心配するな。新しい饕餮に艦隊を与えて、すでに配置済みだ」

 「新しい……饕餮様?」

 「そうだ。北方から落ち延びた姉妹の生き残りを、新しい饕餮にあてがった」

 

 なるほど。

 確かに彼女なら、四凶の一角に相応しい実力を備えている。二つ名を付けるなら『暴食』だろうか。

 だが、彼女は精神面が未熟すぎる。

 彼女は普段、私が遠路運んでくる「ギュードン」を食べるか、「リュージョーはどこ?いつ来る?」と、訳のわからない質問しかしない。

 そんな彼女に、艦隊の指揮が執れるとはとてもじゃないが思えない。

 

 「貴様の心配はわかる。だが、『天幕』を抜けて島内に侵入できるのは、潜る事が出来る潜水艦か人間くらいだ。そんな奴らが侵入したところで、何もできはしない。目下の問題は、東から迫る艦隊が陽動かもしれない事だ。まるで見つけてくれと言わんばかりに、堂々と進軍して来ている」

 「発見が、遅れたのですか?」

 

 敵が堂々と進軍して来てると言う割に、艦隊編成が間に合っていない。

 今から編成して、敵艦隊の射程に入る前に常時展開している艦隊に合流できるのか疑問だ。

 

 「奴ら、姑息にも艦隊を小分けにして進軍して来おった。小規模の艦隊は早期に発見できていたが、気づけば十数の艦隊が合流して一つの大艦隊になっていたよ。明後日の夜明けには、近海に到達するだろう」

 

 艦隊を十数に分け、それぞれ別ルートから進軍して来たのか。

 渾沌様のことだから、発見できた小規模の艦隊に迎撃艦隊を出しただけで放置していたのだろう。

 これは渾沌様の悪い癖だな。

 基本的に渾沌様は、小事を下の者に丸投げして報告を聞くだけ。

 だから、敵の意図に気づけずこの大事を招いた。

 だが、東の艦隊が陽動だと疑っているのは、さすがは四凶の筆頭、『策謀の渾沌』と自称するだけのことはある。

 

 「西側からも、艦隊が来ると読んでいるのですか?」

 「かもしれん。と、言うだけだ。例え西から来られても、饕餮と檮杌の艦隊でどうとでもなる」

 

 いや、それは楽観視しすぎです。

 饕餮様は言わずもがなですが、檮杌様は窮奇様以上の自由人、かつ怠け者です。

 ちゃんと防衛態勢を整えておけと言わなければ、あの方は絶対に何もしません。

 今まで一度も西側からは攻められた事がないのだから、なおさら何もしないだろう。

 おそらく、捕捉してからようやく艦隊を展開し始めるんじゃないだろうか。

 

 「天幕の維持に問題は?」

 「貴様は心配性だな。天幕を破るなど、我々四凶が総掛かりでも無理なのだ。余計な心配をせず、貴様はいつも通り窮奇の手綱を取っていろ。アイツに好き勝手される方が、敵よりもよほど厄介だ」

 

 その天幕も、四凶のお三方と山頂の中継役が落とされれば終わりだから忠告したのだが……。

 ちなみに天幕とは、四凶三隻分の艦力を、太陽光と地熱をエネルギーに換えて蓄える母固有の兵装を中継して母の装甲に上乗せした物。

 展開中の母は装甲すら纏えないが、その分広範囲かつ絶大な防御力を誇る。

 その強度は先ほど渾沌様が言った通り、四凶が総掛かりで攻撃しても傷一つつけられない。

 だが、逆に言えば四凶のお三方が沈められるか、中継役が破壊されたら天幕を維持できない。

 母自身の装甲も強固だが、水上艦なのにもかかわらず陸上にいるので、本来の強度は発揮できない。

 つまり、天幕が維持できなくなった時点で、母は丸裸とも言える。

 

 「では、窮奇様を西側に配置してもよろしいですか?万が一西からも攻められた場合、私と窮奇様で敵の背後をつきます」

 

 窮奇様が愛するアサシオが居るとしたら、西側から攻めて来る艦隊が濃厚。さらにアサシオがいるのなら、間違いなく満潮もいる。

 奴なら私の考えを読み、私が背後から迫るくらい予想する。

 

 「好きにしろ。なんなら、もう何隻か連れて行っても良い」

 「ならばお言葉に甘えて、上位の駆逐艦を二隻お借りします」

 「良いだろう」

 

 よし。

 これで、窮奇様にお喜びいただける。

 東から迫る艦隊が明後日に到達なら、今晩中に島を出る必要があるな。

 聖地の南にある島にでも隠れて、様子を見るか。

 

 「窮奇の改装もそろそろ終わるはずだ。準備が出来次第、出撃して構わん」

 

 窮奇様も改装を?

 一度改装を受けて、艤装が重くなったと文句を言っていた窮奇様が、よく改装を受け入れたな。

 だが……。

 

 「楽しみでは……あるな」

 「何か言ったか?」

 「いえ、独り言です」

 

 きっと、窮奇様はより美しく、強くなっていることだろう。

 そのお姿を想像するだけでゴハン三杯はいけるな。

 まあ、ゴハンとやらが何なのかは知らないんだが。

 

 「ところで、出し渋る訳ではないが、駆逐艦が二隻も要るのか?改装された貴様と窮奇なら、よほどの大艦隊が相手でもない限り余裕だろう?」

 「数を、合わせるためです」

 「数?何の数だ?」

 

 敵との数……と言ったら、もっと連れて行けと言われかねないから言いにくいな。

 だが、数は是が非でも合わせなければならない。

 そうしないと、窮奇様とアサシオの逢瀬が実現できないかも知れないのだから。

 

 「敵はおそらく、私たちを捕捉したら駆逐隊を出します。しかも、最精鋭の駆逐隊です」

 「その駆逐隊との数か?ならばもっと……」

 「ギリギリまで見つかる訳にはいきませんので、それ以上は連れて行けません。しかし数的不利は、万が一が起きかねませんから避けたいのです」

 「なるほど。そう言うことなら、これ以上は言うまい」

 

 よし、誤魔化せた。

 先ほど渾沌様に言った理由の半分は嘘だ。

 本当の理由は、窮奇様とアサシオの二隻を、随伴艦と引き離すため。さらに、一対一の状況を四つ作るためだ。

 その状況を作ってしまえば、例えば一隻で我が方三隻が足止めされて残りの二隻が窮奇様の方に向かうと言う事態を防げる。

 

 「では、私は窮奇様のところに参ります。ご武運を」

 「貴様もな」

 

 さて、残る問題は、西側から本当に艦隊が来るのかどうかだけ。

 そして、その艦隊にアサシオが居るのかだ。

 いや、後者は杞憂か。

 過去に窮奇様が戦った駆逐艦と比べても、アサシオは頭一つは抜けていた。

 あれほどの駆逐艦を、太平洋最大の聖地を攻略するのに投入しないわけがない。

 それに前者も……。

 

 「あの白い駆逐艦が仕入れられる情報は、日本だけのはずだ。ならば情報を持っていた時点で、日本が参戦するのも確定する」

 

 故に、前者も杞憂に終わる。

 あとは敵艦隊を確認後、折りを見て背後を突くだけだ。そうすれば、また満潮と戦え……。

 

 「ん?違う違う」

 

 確かに、満潮は私が相手をするつもりだが、それはあくまでついでだ。

 ついで……だが。

 何故だろう。

 窮奇様のために場を整え、喜んでもらうためだと言うのに、私は楽しみにしている。

 満潮と腹の探り合いをし、読み勝って沈める。

 それを想像するだけで楽しいし、待ち遠しく感じている。さらに……。

 

 「私は、どうしてしまったんだろう」

 

 改装に不具合があったのか?

 それとも、壊れてしまったんだろうか。

 私は満潮を、沈めたくないとも思っている。

 ずっと戦い続けたい。ずっと一緒にいたい。ずっと、私と対等の相手でいてほし……。

 

 「いやいや、それでは四凶の方々が、私より劣っているようじゃないか」

 

 やはり私はおかしい。

 私などより上位の存在である四凶の方々を下に見るなど、不遜にもほどがある。

 やはり私は、どこか壊れてしまったようだ。

 

 「窮奇様を迎えに行ったついでに診てもらおう。きっと、新しい艤装が馴染んでないんだ」

 

 此度の戦は、かつてない規模の戦闘になる。

 それこそ、総力戦と言っても過言ではない規模だ。

 そんな一大決戦の最中に、不具合が酷くなっては元も子もない。

 

 「満潮は、私の考えを読んでくれるだろうか」

 

 工廠へと歩を進めるにつれて、満潮が私の考えをどう読み、どう対策を練るかを予想する頻度が高くなってきた。

 おそらく奴は、私が背後から奇襲するまでは確実に読んでいる。

 さらに、一対一の状況を四つ作ろうとしていることも読むだろう。

 

 「不思議だ。私は味方より、敵である満潮の方を信頼している」

 

 満潮なら間違いなくそうする。

 私と同じように考え、行動する満潮なら、私の望み通りの動きをしてくれる。

 そして、私と戦うのを楽しみにしてくれていると、何故か確信できる。

 

 「初手で左舷、もしくは右舷魚雷を全弾発射。私の針路を限定すると同時に、砲撃で私を魚雷の射線上へと誘導」

 

 ああ、楽しい。

 状況もわからぬ戦闘なのに、満潮との戦闘をシミュレーションするのが楽しすぎる。

 満潮ならこうする。

 満潮ならこう避ける。

 満潮ならここを狙ってくる。

 それを考えるだけで、私の胸が経験したことがないくらい高鳴る。

 

 「そうだ……。誘ってみよう、満潮に、こちらに来ないかと言ってみよう」

 

 もしかしたら来てくれるかもしれない。

 私と同じように、自陣を裏切ってでも一緒にいたいと思ってくれているかもしれない。

 いや、そう思ってる。

 私がそうなのだから、満潮も同じはずだ。

 だが、そうすると……。

 

 「人間のトップ、提督と交渉しなくてはならないな」

 

 もし、私が裏切ることになった場合は、こちらの情報を餌にすればすんなりと受け入れてもらえる気がする。

 だが、問題は窮奇様だ。

 窮奇様はアサシオを沈めたがっている。

 例え、アサシオとずっと一緒にいることが出来ると言っても、アサシオが何度沈めても甦ると思い込んでいる窮奇様は、沈めることに固執する。

 

 「やはり、満潮にこちらへ来てもらうしかないか」

 

 それが一番良い。

 それが一番、後腐れがない方法だ。

 第一、我らと艦娘の性能差や物量差を鑑みれば、我が方が勝つ可能性が高いのだから嫌でもそうなる。

 窮奇様とアサシオが添い遂げると同時に、満潮の運命も決定するだろう。

 私と共に、このくだらない戦争を終わらせると言う、運命が。

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