艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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決戦編……スタートぅ( ・ω・)


第九章 朝潮、決戦
第百九話 初めての決戦前夜


 

 

 

 

 横須賀を出て三日目の夜。

 いよいよ明日、米国による攻撃が開始されてからほどなく、こっちの作戦も開始される。

 速度の増減を繰り返して、到着時刻を調整しながら航海を続けるワダツミを護衛してる子たちが、後部甲板(ここ)からだとよく見えるわ。

 

 「暁の水平線に勝利を刻め。ねぇ……」

 

 この台詞が、先代の朝潮は好きだったっけ。

 そう言えば、教本の最後のページにも書いてたわね。

 まあ私も嫌いじゃないけど、実はこれって、お父さん好みの台詞じゃあない。

 どちらかと言うと「ぶち殺せ」とか、「ぶっ潰せ」などの直接的な言い方の方がお父さんは好きだったりする。

 

 「あなたも、お父さんらしくないって思わない?」

 「ええ、猫被るにもほどがあるっす」

 

 ちなみに今、私は角ちゃんと夜のデート中。

 あ、デートとは言っても、意味深な行為は一切無しよ。

 でもまあ決戦前夜だから、未練を残さないようにヤることヤっとこうかなぁ……とも考えなかったわけじゃない。

 わけじゃないけど……ほら、私たちって前に失敗(だいたい私のせい)してるじゃない?だから、作戦に支障が出たら大変だから、帰るまで我慢することにしたの。

 

 「結構、冷えるっすね」

 「そうね。でも、部屋より外の方が落ち着くわ」

 「部屋の方が、快適なのにっすか?」

 「うん」

 

 そりゃあ、部屋は快適よ?

 無駄にね。

 たぶん艦娘のモチベーションを保ったりリラックスさせるためだと思うんだけ、ワダツミは軍艦の癖に居住施設や娯楽施設にやたらとこだわってる。

 はっきり言って、鎮守府より住みやすいわ。

 ()()()落ち着かないのよ。

 角ちゃんだってそうだから、中に戻りたがらない私に付き合ってくれてるんでしょ?

 

 「まあ、気持ちはわかるっす。この艦の部屋は、自分らにゃあ上等すぎるっすから」

 

 星空の下で黄昏るのが、こんなに似合わない男が他にいるだろうか。

 いや、いない。

 せめて髪型がまともならそれなりに絵になってたでしょうけど、髪型が全てを台無しにしてるわ。

 

 「黄昏るのやめてよ。せっかくの星空が台無し」

 「酷ぇ……。親子そろって言う事がキツすぎっすよ」

 「お父さんよりはマシでしょ?って言うか、そんな髪型をしてる角ちゃんが悪いんじゃない」

 「いやいや!自分がこの髪型になったのってお嬢のせいっしょ!?」

 

 失礼な。

 私のせいにしないでちょうだい。

 元はと言えば、自分が持ち掛けた賭けに負けた角ちゃんが悪いの。要は、自業自得よ。

 

 「私に手を出そうとした報いね。髪型だけで済ませてあげたんだから、感謝して欲しいくらいだわ」

 「う……その話、オヤジにはしてないっすよね?」

 

 出来る訳ないでしょ?

 してたら、角ちゃんはとっくの昔に死んでるわ。

 だって、まだ13に……なってたっけ?って考えちゃうくらいの頃の私に、俺の女になれなんて言ったんだから。

 

 「私を見くびり過ぎた、自分の愚かさを恨みなさい」

 「そりゃあ仕方ないっしょ。艦娘なんて兵科はそれまでなかったんすから!そもそも、「不思議パワーで敵をやっつける!」なぁんて、アホみたいな事言ったお嬢も悪いんすよ?」

 「そうとしか言えなかったの!未だに、艦力の精製過程とか発生原理とか、とにかく色々わかってないのよ?」

 

 そんな兵器に頼ってる海軍や自分を思うとゾッとするけど、使える物は使わないとね。

 じゃないと、生き残れないし。

 

 「でも、ちゃんと倒して見せたでしょ?」

 「ええ、おかげで自分は、モヒカン頭になっちゃったすけどね」

 

 いつまでも根に持つんじゃない。

 「本当に敵を倒せたらモヒカン頭にして緑に染めてやるよ!一生な!その代わり出来なかったら俺の女になれ!」なんて、変な賭け持ちかけたのは角ちゃんじゃない。

 まあ、私みたいな美少女を自分の女にしたい気持ちはわかるのよ?

 でも、当時の私は先に言った通り子供。

 その時のことを思い出す度に、角ちゃんもロリコンだったのかぁ。とか、私の周りってロリコン多くない?とか考えちゃうんだから。

 

 「な、なんすかその、ロリコンを見るような目は!言っときますけどね。当時の自分はギリギリ10代っすから!それにロリコンって言われるほど、お嬢と歳は離れてないっしょ!?」

 「まあ、お父さんと比べたらマシだとは思うけどさ。ロリコンには変わりなくない?」

 

 私と角ちゃん位の歳の差は、今なら普通だけど当時はダメでしょ。

 大学生が小学生に、俺の女になれ!って言ったようなものよ?

 

 「なんで自分はこんなのに……。当時の自分を撃ち殺したいっす」

 「今ではベタ惚れなのに、こんなのとは随分な言いようね」

 「いやまあ、そうっすけど……。あ、そう言やぁ……」

 「なに?」

 

 どうして、珍獣でも見るような目で私を見てるの?

 私、なにかした?

 

 「今の今まで気にしなかったっすけど、いつから普通に、お父さんって呼ぶようになったんすか?前は、頑なに呼ぼうとしなかったじゃないっすか」

 

 あ~、その事か。

 それは単に、意地を張るのをやめただけ。

 お父さんも私を娘と思ってくれてるなら、お父さんって呼ぶのを我慢する必要なんてないもの。

 それを朝潮に気づかされたのは、今でも少し癪に思う

けど……。

 

 「日本に戻ったら、ちゃんとお父さんに挨拶してよ?」

 「するつもりっすけど……。まぁた殴られんだろうなぁ……」

 「俺より弱い奴に娘はやらん!って?」

 「そうっすよ!あのクソオヤジ、あのあとマジでその台詞言いながらぶん殴って来たっすからね!?」

 「まあまあ、それだけ私を愛してくれてるってことよ。それに逆に言えば、お父さんを倒しちゃえば認めてもらえるんでしょ?角ちゃんなら余裕じゃない」

 「いやいや、自分の得意分野って狙撃っすからね?」

 「それじゃあダメなの?」

 「無理っすね。オヤジを撃ち殺せるのなんて、シモ・ヘイヘくらいじゃないっすか?」

 

 え~と、それってたしか、フィンランドの白い死神だっけ?

 それはいくらなんでも言いすぎでしょ。

 リアルチートじゃないと勝てない程、術を使ってないお父さんは人間離れしてないわよ?

 

 「まあお嬢との件は、何とかするっすよ」

 「ええ、私がお婆ちゃんになる前に、何とかしてちょうだいね。それと……」

 「死ぬな。でしょ?」

 「うん……」

 「まあ、今回は内火艇ユニットもあるし、なんとかなるっすよ」

 「陸に上がった、私以下の性能なのに?」

 「余裕っす。相手が撃つ瞬間に、砲身に竹槍投げ込んでた頃に比べりゃヌルゲーっすよ」

 

 あ~……。昔はそんな事もしてたっけ。

 それで誘爆して倒せてたからよかったものの、今考えたら正気の沙汰じゃないわ。

 角ちゃんの言う通り、その頃と比べたらヌルゲーでしょうけど……。

 

 「慢心して失敗しないでよ?ギミックの破壊は、角ちゃんの分隊の役割なんだから」

 「お嬢こそ失敗しないでくださいよ?自分らがギミックを破壊して親玉の目を逸らしたら、後はお嬢の仕事っすから」

 

 ちなみに、私たちの作戦計画はこうよ。

 殴り込み艦隊が戦闘を開始したら、折を見て奇兵隊一個小隊はジョンスン島を大きく南に迂回してハワイ島の黒砂海岸から上陸し、11号線沿いを北東に進んで、ボルケーノビレッジ手前で二手に別れる。

 私が率いる第一分隊は、ボルケーノビレッジを越えて島中心部へ。

 角ちゃんが率いる第二分隊は、マウナロアトレイルに沿って島内ギミックへとそれぞれ向かうわ。 

 私たちが中枢棲姫を捕捉し、突撃の態勢を整えた頃合いを見計らって、第二分隊がマウナロア山中腹のギミックを破壊して中枢棲姫の注意を引き、それを合図に私たちは中枢棲姫に突撃。

 私が首を獲る。

 大雑把に説明するとこんな感じかしら。

 心配なのは、島内のギミックを破壊する事で中枢棲姫が自身の装甲を展開する事と、首を獲る前に島外のギミックが破壊され尽くす事。

 結界を維持させ続けるために、島内ギミック破壊予定時刻の直前に、結界への一斉砲撃が日米両軍から行われる予定にはなっているけど……。

 

 「オヤジが立てた作戦なんっすから、心配ねぇっすよ」

 

 心配してないんだけど、不安が払拭しきれない。

 その最大の理由は深幸。

 お父さんの代わりを寸分違わず出来るように、お父さんが好む戦術や用兵、果ては食の好みから趣味まで教え込まれたお父さんのコピーである深幸が、戻って来るなりお父さんの副官に就いたこと。

 そんな人間をわざわざ呼び戻した理由がわからないのが、私の不安の原因よ。

 まあ、この話をしたら角ちゃんに余計な心配をさせちゃうから、別の話で誤魔化そっと。

 

 「登山、頑張ってね。富士山と同じくらいの高さだっけ?あの山」

 「富士山以上っすよ。4170mもあるんすよ?」

 

 うわぁ……。

 誤魔化すつもりで言ったけど、聞いたらご愁傷様って言いたくなっちゃった。

 しかもその山を、内火艇ユニットの馬力が使えるとは言っても、中腹までダッシュで登るんでしょ?私みたいなか弱い乙女には無理だわ。

 

 「しかも、ギミックは見晴らしが良い場所に陣取ってるらしいっすから(たち)悪いっす。自分、何日も潜伏するのは屁でもないんっすけど、匍匐前進は嫌いなんっすよねぇ」

 「いっそ、車を拝借して突っ込めば?人が居なくなってかなり経つけど、使えるのも残ってるんじゃない?」

 「一応、相棒が探す手筈になってるっすけど、期待はできないっすねぇ」

 

 その前に、徘徊してる敵に見つからなきゃいいけどね。

 いや、その心配は無用か。

 奇兵隊の連中は、陸なら私より遥かに腕は立つもの。

 

 「私が首を獲れるかどうか、また賭けでもする?角ちゃんが負けるのは確定してるけど」

 「ち、ちなみに、自分が負けた場合は?」

 「そうねぇ、頭部の永久脱毛なんてどう?」

 「自分にこの歳でハゲろと!?」

 

 いや、今もハゲみたいなもんじゃない。

 星明りが側頭部に反射するくらい、見事なハゲっぷりよ?

 今さら言うのもなんだけど、灯火管制中なんだから帽子くらい被りなさいよ。

 

 「角ちゃんが勝った場合は何がいい?あり得ないけど、一応聞いてあげるわ」

 「うわっ、ムカつく。昔は遠慮がちなお嬢さんって感じだったのに、なんでこう捻くれたっすかねぇ」

 「戦争が悪いのよ、戦争が」

 「あーそっすね。お嬢に都合が悪い事は全部戦争のせいっすよね」

 

 そうそう、ぜ~んぶ戦争が悪いの。

 それより、早く決めなさいよ。どうせ私が勝っちゃうんだから、何でもいいわよ?

 

 「……」

 

 何かしら、やけに真剣な表情じゃない。

 あ、もしかして改めて告白?

 よくよく考えれば私って、角ちゃんからちゃんと好きだって言われた覚えがない。

 その時の流れでキスしたり、体を重ねようとしたことはあるけど、お互いの気持ちを確かめあったのは、私が角ちゃんにボコられた日が始めて。

 しかも、私から一方的にプロポーズしただけだわ。

 

 「お嬢、自分が賭けに勝ったら……」

 

 やめて。

 それ以上言っちゃダメ。

 だって台詞次第じゃあ、死亡フラグになりかねない。

 験担ぎをするたちじゃあないけど、決戦と言っても過言じゃない作戦の前に不吉なことは言ってほしくないわ。

 

 「何が何でも、生きて帰ってください」

 

 は?それはどういう事?

 角ちゃんに言われなくたって、私はちゃんと生きて帰るわよ。

 だいたいそれって……。

 

 「それ、しくじったら私が死ぬって言ってるの?縁起でもない事、言わないでくれない?」

 「仕損じて、敵陣のど真ん中から生きて帰るなんてお嬢でも不可能に近いっしょ?」

 

 いやまあ、それはそうだけど……。

 だからって、それを自分が賭けに勝った時の報酬にするってのが意味不明よ。

 もしそうなって、私に本当に生きて帰ってほしいのなら……。

 

 「角ちゃんが助けに来てくれればいいじゃない。それとも、ギミックを破壊したらトンズラする気?」

 「もちろん、助けに行くつもりっす。けど、距離的にそれは難しいっす。でも、逃げてきてくれれば話は別っす。ダメだと思ったら、即時撤退してください」

 「それは絶対に嫌。奴の首を獲るまで、私は絶対に逃げない」

 

 さて、角ちゃんはどう答えるかしら。

 どうして?って言う?

 いや、言わないか。

 長い付き合いなんだから、角ちゃんなら私の思ってる事くらい想像がつくはずよ。

 

 「私が神風を吹かせるの。生きて帰れ?当然よ。ただし、失敗なんて論外。私は神風なんだから。私自身が勝利を運ぶ風(神風)なんだから!」

 「……戦闘が終わるたびに泣いてたお嬢ちゃんが、随分と強くなったもんっすね」

 「惚れ直したでしょ?だったら、角ちゃんは自分がすべき事を成し遂げなさい。盛大なラブコールを、待っててあげるわ」

 「そっすね。そんじゃあ、この世で最もドデカイ花束を、お嬢にプレゼントするっす」

 「うん、待ってる」

 

 それが、角ちゃんから私への告白。

 色気のない愛の囁き。

 普通の女だったらお断りなんだろうけど、私からしたらこれ以上ないと言えるほど嬉しい告白だわ。

 

 「それが終わったら、中枢棲姫の首を引っ提げた私を、撤収ポイントで片膝立ちしてお出迎えしてね?」

 「それ、自分のキャラじゃないっすけど……まあ、了解っす。自分も、白馬の王子さまになってみたいっすからね」

 

 あ、いや、さすがにそれは不可能でしょ。

 奇兵隊の制服って、コートまで着たら礼服っぽく見えなくもないから、片膝立ちまでなら様になる。

 でも、白馬の王子様は無理。

 角ちゃんはどうあがいてもバカ殿止まりだわ。

 それでも嬉しく感じるんだから、私も相当、この人に首ったけみたいね。

 

 「素直でよろしい。頼りにしてるわよ、『ガンナー(ワン)』。遅刻は30分まで許してあげる」

 「委細承知っす『フラワー(ワン)』。後が怖いんで、遅刻は絶対しないっす」

 

 私達は、お互いのコールサインを呼び合い、拳を打ちつけて武運を祈った。

 こうして私と角ちゃんの、初めての決戦前夜はふけていった。

 

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