艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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ほっぽちゃんって飼いたくなりますよね。


第百十一話 北方棲姫は必ず沈める

 

 

 私が龍ちゃんこと龍驤とはじめて会ったのは、まだ鎮守府が呉にしかなかった頃です。

 その頃の私は、艦娘が想像していた兵科と異なっていたことに戸惑いながら、元帥さんの秘書艦と航行訓練だけ続けていました。

 そんなある日……。

 

 「軽空母、龍驤や。独特なシルエットでしょ?」

 

 という挨拶と共に、龍ちゃんが着任しました。

 彼女の第一印象を一言で言うなら、似非関西人ですね。

 舞鶴暮らしが長いせいか、今でこそ関西弁が板についている龍ちゃんですが、当時は似非としか言いようがないほど中途半端だったんです。

 

 「まあ、うちは東京生まれの東京育ちやさかい、似非言われても否定せんわ」

 

 とは、宛てがわれたワダツミの一室で、私の目の前で胡座を組んで、お酒をグビグビと飲みながら話を聞いていた龍ちゃんの感想です。

 相変わらず、なんとも犯罪臭が凄い光景ですね。

 どう贔屓目に見ても小学生くらいの龍ちゃんが、中年もビックリするほど見事に、グラスに注がれたお酒を飲み干しているんです。

 しかも水干のような上着を脱いでいますから、パッと見は朝潮型の子が飲酒しているようにも見えます。

 

 「あん頃の鳳翔は、いつも不満そうやったな」

 「そう、見えましたか?」

 「見えた見えた。何て言うかこう……自分がやりたいことはこれじゃないのにって、態度に出てたで」

 

 態度に出るほど酷かったんですか?

 まあ、当時の私は確かに、望んでいたことができないのに不満を抱えていました。

 と、言うのも……。

 

 「カンムスって聴いて、看娘って思い込んで志願したんやったか?」

 「ええ。最初は、衛生兵の一種なんだと思っていました」

 

 何故、そんな勘違いをしたかと言いますと、海軍が艦娘に志願する女性を募集していると、同僚との雑談の最中に聴いたからです。

 ですから、カンムスと聴いて看娘と脳内変換し、さらに女性限定の募集でしたから、衛生兵的な兵科だと思い込んでしまったんです。

 今思うと、女性だから戦うことはないと思い込んでいた自分の浅はかさが恥ずかしいです。

 

 「鳳翔になった感想はどうやったん?」

 「随分と古風な格好をさせられるんだな。とだけ」

 

 今は慣れてしまったせいか、これ以外の服装で出歩く方が恥ずかしいのですが、あの頃はコスプレとしか思えなかったせいで、この格好で人前に出るのが恥ずかしかったですね。

 

 「龍ちゃんこそどうなんです?龍ちゃんの方が、私よりよほどコスプレみたいな格好じゃないですか」

 「コスプレ言うな。でも、そやなぁ。うちは、整備員に怒鳴り散らした憶えがあるわ」

 「どうしてですか?」

 「いや、うちの格好見たらわかるやろ?二十歳過ぎたばっかのうちにこんな服着せるとか、馬鹿にしとるとしか思えんやろ?」

 

 あ~……なるほど。

 確かに法的に大人である女性が、どう贔屓目に見ても小学生用にしか見えない服を着ろと言われたら苦情の一つも言いたくなるかもしれません。

 しかもそれが、合法ロリであることにコンプレックスを抱えている龍ちゃんならなおさらでしょう。

 

 「おかわり」

 「明日は作戦当日ですよ?飲み過ぎだから駄目です」

 「そないないけず言うなや。ええから注いで?ね?お願いしますよ鳳翔さぁん」

 「甘えても、駄目なものは駄目です」

 

 ここ最近、作戦が発令されてからの龍ちゃんの飲みようは酷い。それこそ、お酒に逃げてると言っても過言ではないほどです。

 

 「何から、逃げてるんですか?」

 

 だから、思い切って聞いてみました。

 普通なら、遠回しの会話で探るのが定石なのでしょうが、尺の都合でそうもいきませ……ん?尺とは何のことでしょう。

 龍ちゃんにお酌をしていたせいで、音が似てるから頭に浮かんだだけかしら?

 

 「なあ、鳳翔。虫の知らせって、信じるか?」

 「虫の知らせ……ですか?」

 「せや。ここのところ……横須賀に()()()()()、それが酷ぉてな」

 

 虫の知らせとはたしか、よくないことが起こりそうであると感じること。でしたか。

 それが、龍ちゃんの飲酒量が増えた原因?

 

 「実はな、鳳翔。うちは裏切り者やねん」

 「裏切り者?龍ちゃんは、誰を裏切ったんですか?」

 「みんなや」

 「みんな?鎮守府のみんなですか?」

 「そないなレベルやない。うちは、人類を裏切った。たった一人で数万人を虐殺できる悪魔を、うちは逃したんや」

 

 悪魔……ですか。

 龍ちゃんが言う悪魔とは、もしかしなくても深海棲艦でしょう。

 しかも、数万人を虐殺できるということは鬼級以上の空母が濃厚。

 

 「それは、いつの話ですか?」

 「ほんの数ヶ月前や。うちな、アリューシャン列島攻略に参加しとってん」

 

 アリューシャン列島攻略?

 それはたしか、神風さんが総旗艦を務めた作戦でしたね。

 その時に、龍ちゃんは敵を見逃したと?

 

 「あれは、掃討戦が終わって海兵が上陸した頃やったか。ほっぽ……大破した北方棲姫が、浜に打ち上げられとったのを見つけたんや」

 「ちょ、ちょっと待ってください!北方棲姫と言ったら……」

 「せや。アリューシャン列島を牛耳っとった姫級の片割れ。開戦当時にたった一隻、たった一晩で、数万人を爆殺したあの北方棲姫や」

 「それが、事実なら……」

 

 とんでもない問題行為。

 もし発覚したら、最低でも軍法会議にかけられた末に死刑です。

 

 「とっくにバレとるよ」

 「でも、龍ちゃんはここにいるじゃないですか。バレているのに、のうのうと作戦に参加するなんて事ができるとは思えません」

 「普通ならそうや。実際、ほっぽを匿った一週間後に取っ捕まったうちは、横須賀提督に呼ばれるまで牢屋にぶち込まれとったしな」

 「じゃあ、今こうしていられるのは……」

 「ああ、横須賀提督のおかげや。大方五年前か?に、大迷惑をかけたうちを、横須賀提督は()()助けてくれた」

 

 五年前と言いますと……。

 ああ、詳細は省きますが、龍ちゃんが倉庫街の一角を廃墟にした件ですね。

 あの時も、しでかした事の割に処分が他所への異動だけで済んだことが不思議でしたが、あの人が裏で動いていたんですか。

 ならば当然……。

 

 「何か、取引をしたんですね?」

 「そや。作戦中にほっぽを懐柔、もしくは撃沈。そのどちらかを達成すれば、うちを無罪放免にしてくれるらしい」

 

 懐柔か撃沈……ですか。

 なんとも極端な条件ですが、龍ちゃんがしでかした事を考えれば妥当でしょうか。

 ですが、撃沈はともかく……。

 

 「懐柔なんて、できるんですか?」

 「どうやろなぁ。助けて二日目には餌付けが成功したっぽくて、うちにもよう懐いてくれとったが、戦闘状態のほっぽは深海棲艦そのものや。言葉が通じるかも怪しいなぁ」

 「ちょっと待ってください。深海棲艦を餌付け?深海棲艦って、人の食べ物が食べられるんですか?」

 「そりゃあ、口がついとんやから食えるやろ。実際、牛丼を旨そうに食っとったし、クリスマスとか正月なんて物があるって教えたったら、無邪気にはしゃいどったわ」

 

 なぜ、餌付けするのに牛丼をチョイスした?は、置いておきましょう。

 どこの牛丼を買い与えたのか。とか、なぜ餌付けしようとしたのか。など、気になることは色々とありますが、取り敢えずは放置です。

 それより気になるのは……。

 

 「どうして、助けようと思ったんですか?」

 「あ~……。何でやろなぁ。アイツは何万人も殺した悪魔。アイツを恨んどる人はぎょうさんおるやろ。それこそ、艦娘にもなぁ。うちも、アイツを見つけた時はトドメ刺したろ思うたわ」

 「なのに、どうして?」

 「お姉ちゃん……って、泣いとってん」

 「お姉ちゃん……ですか」

 

 それはおそらく、あの作戦で討伐された港湾棲姫。

 龍ちゃんが聴いた言葉が事実なら、深海棲艦にも姉妹愛……いえ、家族愛とも言える概念があると言うこと。

 そしてその一言が、龍ちゃんの心の琴線に触れたのでしょう。

 

 「難儀な話ですね。提督は、北方棲姫がハワイ島まで落ち延びていると踏んで、私の要請を受け入れる振りをして龍ちゃんと取引をしたんでしょうね」

 「やろなぁ。あの人は、()()()()()でも有名人の極悪人やさかい、それくらいの事は平気でやるやろ。ほんでそれが、虫の知らせの原因やろなぁ」

 

 龍ちゃんの業界と言いますと、たしか陰陽連に端を発する、京都を本拠地にしている組織でしたか。

 え?提督って、そんな漫画やアニメの設定でありそうな組織にも名前が通ってるんですか?

 

 「なんや、知らんかったんか?暮石家自体は高々百数十年の若い家系やけど、大元は千年オーバーの大家やで?」

 

 いや、ちょっと何言ってるかわかりません。

 百年以上続いてる家系が若い?

 大元は千年オーバー?

 龍ちゃんが陰陽師の家系で、それこそ千年以上前から存続しているという話は昔聴いた覚えがありますが、スケールが大きすぎて頭がついてきません。

 そりゃあ私の家系だって、遡れば千年くらいまえのご先祖様はいると思いますよ?

 ですが、私が知っているのは精々祖父の代まで。

 それ以上前から続いている家系を若いと言える龍ちゃんの感覚が、私のような庶民にはわかりません。

 わかりませんが……。

 

 「そんな彼と、取引をする事自体が危険だということはわかります」

 「そりゃあそうや。うちも、できる事ならしとぉなかったわ」

 「では、何故?」

 

 私が問うと、龍ちゃんは「んっ」とだけ言って、空になったグラスを差し出しました。

 これは、もう少しお酒が入らないと言えない。と、暗に言ってるのでしょう。

 なら、あまりよろしくはないですが……。

 

 「これで、最後ですよ?」

 「ああ、わかっとる」

 

 そう言って、龍ちゃんはグラスの中身を一気に飲み干して、大きく息を吐き出しました。

 そして、軽く息継ぎをしたあと……。

 

 「ほっぽを説得して、こっち側に来させるいうのも考えた」

 

 ゆっくりと、語り始めました。

 こんな龍ちゃんは初めて見ますね。

 今の龍ちゃんは、見た目は駆逐艦……もとい、子供と見間違うくらい若いですが、纏っている雰囲気は年相応の大人です。

 

 「でもそうしたら、きっと提督が拷問なりしてほっぽが知ってる限りの情報を引き出そうとするやろう。いや、それで済めば幸せな方や。最悪、生きたまま解剖なりされるかもしれん」

 

 それはない。

 とは言い切れないのが、辛いところですね。

 横須賀を発つ前の演説を聴いた限りですと、彼は復讐のためなら何でもします。

 深海棲艦、しかも、姫級を徹底的に調べられる機会が訪れたなら、龍ちゃんが言った通り解剖くらいはすると思います。

 

 「せやから、沈めることにした」

 「どうして、ですか?」

 「そんなん決まってるやろ?あんなイカれポンチに玩具にされるくらいなら、一思いに沈めたる方がええ」

 

 イカれポンチなんて、今日日聴きませんね。

 は、置いといて。

 龍ちゃんの表情を見る限り、その決心に偽りはなさそうです。

 ですが……。

 

 「龍ちゃんは、後悔しないんですか?」

 「後悔?そんなもん、現在進行形でしとるわ。うちはきっと泣く。ほっぽを沈めたら、泣くどころか取り乱すかもしれへん。それでも……」

 

 感極まってしまったのか、龍ちゃんはそこで口をつぐみました。

 おそらく、次に発する言葉は決意表明。

 短い時間ですが、打ち解けてしまった敵を想って紡ぐ、龍ちゃんなりの優しさが詰まった言葉のはずです。

 そして、空になったグラスを割れんばかりの勢いでテーブルに叩きつけて……。

 

 「ほっぽは、北方棲姫は必ず沈める。うちの……龍驤の名に懸けてな」

 

 と、まるで自分に言い聞かせるように宣言しました。

 ですが、同時に疑問も湧きました。

 それは人の情を利用する提督が、龍ちゃんが北方棲姫を庇って敵対する可能性を考慮していないことです。

 何故なら私は、龍ちゃんが敵対した場合の命令を一切受けていないのですから。

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