艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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接待に付き合ってて、投稿するのが遅くなってしまったorz


第百十三話 朝潮型駆逐艦 一番艦 朝潮、抜錨します!

 

 

 

 外から、砲撃や爆撃の音がワダツミの艦内まで響いてくる。

 すでに、作戦開始から4時間半ですか。

 そろそろ、艦隊のローテーションが一巡する頃ですね。

 

 「窮奇、来ないね。このまま来なければいいのに」

 

 いや、窮奇は来ますよ、大潮さん。

 だって私の中で、確信に近い予感がしていますもの。

 私がここにいるのに、彼女が来ないはずはないんです。

 

 「今度こそ、仕留めないとね。あんなバケモノと何度もやり合うなんてご免よ。主に、朝潮が」

 

 まったくその通りです満潮さん。

 窮奇に挑むのはこれで三度目。 

 しかも、国の命運をかけた大作戦の最中にです。

 私たちが負ければ、彼女はそのまま司令官のいるワダツミを襲うでしょう。

 それだけは、絶対に阻止しなければなりません。

 

 「朝潮」

 「はい。わかっています」

 

 鎮守府モードに変形すると、艦のほぼ中央に移動する待機ルームにある電話が鳴りました。

 これはきっと、司令官です。

 司令官が電話をかけてきたと言う事は、彼女が来たと言う事。

 そう、窮奇が来たんです。

 

 「はい、朝潮です」

 

 なんとか3コール目で出れました。

 少し緊張してしまいましたから、声が上擦った気がしないでもないですが、変に聞こえてないでしょうか。

 

 『窮奇がネ級・改1隻、駆逐棲姫2隻を伴って、背後から進攻中だ。窮奇自身も水鬼・改に強化されている』

 

 数は満潮さんが予想した通りですね。

 窮奇が、タウイタウイの時よりも強化されているのは予想外ですが……。

 

 「……想定の範囲内です。問題ありません」

 

 そう、問題ない。

 窮奇が強化されていようと関係ない。

 だって、倒す事に変わりはないのですから。

 

 『補給が終わり次第、援護の艦隊を出すことも出来るが……。必要か?』

 

 嘘ですね。

 そんな余裕は無いはずです。

 先ほど、三艦隊ほど戻ってきましたが皆さん疲労の色が出始めていました。

 今はまだいいでしょうが、ローテーションを崩せばどこかに無理が出てきます。

 そしてそれは、作戦の失敗にも繋がりかねない。

 私でもわかるようなことをわざわざ聞いたと言うことは、私の覚悟を確認したいのでしょう?

 援護の艦隊がなくても、私がやれるか確認したいのでしょう?

 あなたが求めている私の答えはきっと……。

 

 「必要ありません。むしろ邪魔です」

 

 これです。

 ですが、慢心して言ってるのではありません。

 私達なら……いえ、今の私なら出来ます。

 だって私には、今まで出会ってきた人たちの全てが詰まってるんですから。

 だから、誰にも渡しません。

 窮奇は、私の手で討つ事に意味があるんです。

 先代を亡き者にしてあなたを深く傷つけた窮奇を、同じ朝潮である私が討ち果たす。

 それで、少しはあなたの心の傷も癒えるはず。

 だから、私に命令してください。

 朝潮と言う名の、復讐の刃を解き放ってください。

 あなたのご命令なら、私は何でもできます。

 

 「司令官、ご命令を!」

 『第八駆逐隊に窮奇艦隊迎撃を命ずる。行って来い!』

 「了解しました!いってきます!」

 

 あなたに悲しい思いはさせません。

 私は先代とは違う。私は神風さんのように、絶対に生きることを諦めません。

 必ず、あなたの元へ戻ります。

 

 「さあ、行きましょう!」

 「アゲアゲで行っきまっすよ~♪」

 「三人とも、しくじるんじゃないわよ?」

 「うふふっ♪暴れまくるわよぉ~♪」

 

 私たちは待機ルームから出て、後部カタパルトへと向かいました。

 三人とも、緊張はしてないみたいですね。

 それどころか自信と余裕に満ちています。

 さすがは歴戦の駆逐艦、と言ったところでしょうか。

 三人を見ていると、私までこの状況を楽しんでしまいそうになります。

 

 『第八駆逐隊各艦、準備はよろしいですか?』

 

 普段とは違い、四連装から五連装になった魚雷発射管と、各々が選択した装備を施された艤装を装着して、3メートル程の滑り台状のカタパルトの頂点に並んで立った私たちに、ブリッジに居る雪代教官改め、雪代中佐がスピーカー越しに声をかけて来ました。

 いよいよ、出撃の時間ですね。

 

 「はい、問題ありません」

 『了解。ハッチ解放、カタパルト注水開始』

 

 雪代中佐の指示で、滑り台に海水が後部ハッチに向けて、物凄い勢いで流れ始めました。

 ザァァァどころかドドドドって感じです。

 幅約70センチ程のなだらかな滝が、同じくらいの間を空けて等間隔に六つ。その内、両端の二つを除いた四つに私たちは立っています。

 あとは、先頭になる予定の満潮さんから、順に射出されるだけです。

 

 『了解。それでは、抜錨シークエンスに移行します。各艦はカタパルトへ』

 

 言われた通りに、スキーのビンディングに似た形と構造をしているカタパルトと主機を接続。

 足が動かないのが少し不安ですけど、最初に射出される満潮さんは余裕そうです。

 前を見据えて、腰に手を当ててます。

 

 『針路クリア。これより、順次抜錨を開始します』

 

 雪代中佐がそう言うと、カタパルトが抜錨する順番で滑り台へ進み始めました。

 満潮さん、大潮さん、荒潮さん、そして私の順です。

 

 『射出タイミングを満潮に譲渡します。DD-087 満潮、抜錨どうぞ』

 「了解!満潮、出るわ!」

 

 満潮さんの宣言と操作で、カタパルトは海水を切り裂きながらハッチに向かって直進して行きました。

 何度見ても凄い速度ですね。

 あの時点で、私たちの最高速度を超えてるんじゃないでしょうか。

 

 「次は大潮です♪ドキドキしますねこれ♪」

 

 次は大潮さんですか。

 見るからにテンション上がってますね。

 と言うか、カタパルトで固定された足を軸にして左右にリズム取っている様子を見るに、ドキドキと言うよりワクワクしてません?

 訓練の時もやたらとハイテンションでしたが、もしかして気に入ってます?

 

 『射出タイミングを大潮に譲渡します』

 「はい!いただきました!」

 

 元気よく右手を挙げて、雪代中佐に返事をする大潮さん。アゲアゲは最高潮みたいです。

 

 『針路、変わらず異常なし。DD-086 大潮、抜錨どうぞ』

 「駆逐艦大潮!いっきまっすよぉ~!」

 

 両手を横に広げて「やっほぉ~♪」と言いながら打ち出されて行きましたが……。

 大潮さんは絶叫マシンではしゃげる人なですね。

 次は荒潮さんですが、大潮さんとは違って不敵な笑みを浮かべています。

 違う意味でテンションが上がってそうです。

 

 『続いて DD-088 荒潮、抜錨どうぞ』

 「荒潮、華麗に出撃よぉ~♪」

 

 なんか、「あはははははははは~♪」って笑い声がコダマして来たんですけど……深化してませんよね?深化にはまだ早いですよ?

 

 『続いて、朝潮の抜錨を開始します。準備はよろしいですか?』

 「はい、大丈夫です」

 『了解しました。今度は無事のご帰還を祈っています』

 

 今度は?

 ああ、そういえば雪代中佐は、先代の最期を知ってるんでしたっけ。

 

 『視界良好、針路オールグリーン。DD-085 朝潮、抜錨どうぞ。ご武運を』

 「はい!第八駆逐隊、旗艦朝潮!出撃します!!」

 

 カタパルトの操作と同時に体にかかった急激なGで、一瞬後ろに吹き飛ばされそうになりましたがなんとか堪えれました。

 次いで、射出によって出た最高速度を超えた勢いを殺さないよう、海面を滑るように航行を開始。

 先行していた三人の後について、単縦陣を組みました。

 

 「さあ行きましょう!ワダツミには指一本触れさせません!」

 「「「了解!」」」

 

 勇ましく言ったつもりでしたが、司令官が居るワダツミが後方へ遠ざかって行くのを肌で感じると、少しだけ寂しく感じました。

 ですが、振り返るわけにはいきません。

 司令官とはしばしのお別れ。

 次にお会いする時は、勝利と言う名の花束と共にです。

 

 

ーーーーAM 11:30

 

 

 抜錨から約一時間。

 窮奇もこちらに向かっているのだから、そろそろ見えてもいい頃のはずなんですが、未だ姿は見えません。

 

 「そろそろ目視で確認できてもいい頃ですが……。満潮さん、ワダツミから何か情報は?」

 「特にないわ。どうも、偵察機は墜とされちゃったみたい。自分を発見させれば用済みって事でしょうね」

 

 先に発見して先手を取りたかったですが、私たちが装備している小型電探が窮奇を捉えるより、窮奇が私たちを捕捉するのが先でしょうね。

 これは、先手は諦めるしかなさそうです。

 

 「電探に感あり!数は4、窮奇の艦隊だよ!2時方向!」

 

 出撃時とは一転して、凛々しい声で窮奇を捕捉した事を大潮さんが伝えてくれました。

 いよいよ、決戦ですね。

 ですが、私たちが大潮さんの言った方向へ舵を取ろうとした瞬間、水平線がチカッと光りました。

 その数秒後に……。

 

 「回避!面舵!」

 

 満潮さんの指示とほぼ同時に、砲撃音が一回響きました。この音は、散々聞いて覚えています。

 これは窮奇の主砲の音。

 つまり、戦闘開始です。

 

 「目視で確認!距離約5000!窮奇の前方2000に重巡ネ級・改!その後ろに駆逐棲姫2!」

 

 私たちは舵を右に切り砲弾を回避。

 左後方に上がった水柱を尻目に、窮奇艦隊を前方に捉えたと同時に、満潮さんが弾道から窮奇の位置を把握して大まかな距離を算出してくれました。

 

 「ネ級……鼬は私が相手をするわ。あっちも、そのつもりだろうし」

 「え~!アイツには以前の借りがあるから大潮がやりたかったのにぃ!満潮ずっこい!」

 「うっさい!アンタの方がアイツと相性が良いのはわかってるけど、アイツは私が相手しなきゃいけないのよ!」

 

 満潮さんと大潮さんの軽い口論をかき消すように、ネ級が砲撃を開始しました。

 でも、この砲撃は当てる気がなさそうですね。

 だって、全部デタラメな場所に着弾してます。

 窮奇は……砲撃してくる様子がありません。

 きっとネ級が満潮さん達を分断するのを待ってるんでしょう。

 

 「散開!一番最後に合流した奴は、帰ってから全員に甘味を奢りね!」

 「りょうか~い♪行くわよぉ~♪」

 「大潮はお金無いから最後はやだー!」

 

 満潮さんが右へ、大潮さんと荒潮さんが左方向へ別れました。

 遠目に、ネ級が駆逐棲姫達に指示を出してますね。

 あ、ネ級が満潮さんの方へ、駆逐棲姫達は大潮さんと荒潮さんの方へ行きました。

 やはり、あちらの目的は満潮さんの予想通り、私たちの分断だったようです。

 ですが、ネ級が慌てていたように見えました。

 あちらは、まさか私たちの方から別れるとは思っていなかったのでしょう。

 最初から分断される事を念頭に置いているのと、そうでないのとでは対応が変わりますものね。

 

 『うわっ!硬っ!やっぱ硬いよこの子!』

 

 通信から大潮さんの悲鳴じみた声が響きました。

 まあ、駆逐艦とは言え姫級ですからねぇ……。そりゃあ硬いでしょう。

 

 『あらぁ、硬い方がいいじゃなぁい?こういう硬い奴をぉ、ジワジワ削ってぇ、潰してぇ、追い詰めてぇ、絶望していく様を見るのが楽しいのよぉ?』

 

 怖っ!セリフが進むにつれて狂気も増してますよ!もの凄く悪い笑みを浮かべてるのが目に浮かびます!

 

 『アンタらうっさい!集中できないでしょうが!』

 『ねぇねぇ荒潮、この子ってどことなく春雨ちゃんに似てない?』

 『そう言われてみればそうねぇ。さしずめ、ワルサメちゃんって感じかしらぁ』

 

 春雨さんと言いますと、たしか白露型の人ですよね?

 大潮さんと荒潮さんでも、敵とは言え知り合いに似てる人とは戦いにくいのでしょうか……。

 

 『丁度良いわぁ♪私ぃ、あの子を泣かせてみたかったのぉ♪』

 

 うわぁ、完全に杞憂でした。

 本人には絶対聞かせられませんね。きっと、そのセリフを聞いただけで泣いちゃいます。

 私は聞かなかった事にします。

 

 『ふふふふふふふふ……。やっと、二人になれたわねぇ』

 

 荒潮さんのドSっぷりにドン引きしてる最中、通信を通して窮奇の色っぽい声が耳に届きました。

 出来る事なら、あなたと二人きりにはなりたくないのですが……。

 けど、司令官のためなら我慢します!

 

 「相変わらず、気持ち悪いですね。鎮守府にも居ますよ?あなたみたいな変態が」

 『あら、そんなつれない言い方をするってことは、まだ出てきてないのねぇ。でも、安心して?もうすぐ解放してあげる。あの人とやらからも、あなたを押さえ付けているその肉の殻からも』

 

 相変わらず訳のわからない事を。

 解放ってなんですか?私は別に、監禁とかされてません。

 むしろ私は、あなたから解放されたいです。

 

 『さあ、踊りましょう?もうすぐ終わるから……。もうすぐ、私たちは自由になるから。それまで踊って待ちましょう?』

 

 もうすぐ終わる?自由になる?

 終わるとは何が?もしかして作戦が?作戦が終わると、私とあなたが自由になる?まさか他にも艦隊が!?

 

 「それは一体どういう事ですか?他にも艦隊が潜んでるんですか?」

 『違うわぁ。そうじゃないの。もうすぐ、『母』が人間共に討たれる。そうすれば私は自由。それから、私とあなたで人間共を沈めるの。それで、あなたも自由になる。ふふふふふふ……楽しみだわぁ♪』

 

 母?母とは中枢棲姫のことでしょうか。

 ならば良い事を聞きました。

 その後、私とあなたとで人間を沈めると言うのは理解できませんが、少なくともあなたをここで倒せば作戦は成功する。

 初めて、私が喜ぶ事を言ってくれましたね。

 鵜呑みにする訳じゃないですが嬉しいです。

 だってあなたを倒せば、司令官の完全勝利なんですから!

 

 『さあ、響かせましょう。砲声と叫声の協奏曲(コンチェルト)を。愛でましょう、砲火と血潮の花束を。そして踊りましょう』

 「ええ、これを最後にします。あなたはここで倒す。だから、今回だけはお付き合いしてあげます」

 『「私と、あなたの……」』

 

 出し惜しみはしません。

 航行手段を水切りに変更。

 次いで、脚に回す艦力以外を両舷連装砲、及び両舷魚雷発射管へ集中。モード、蒼備え発動。

 

 『「ラストダンス!」』

 

 宣言と同時に、私は一万馬力に調整した脚力で全力疾走を開始。対する窮奇は、主砲による一斉砲撃。

 狙いは大雑把ですが、着弾点が絞りづらい分避けにくい。

 だけど、惑わされては駄目です。

 全部避ける必要はないのですから、直撃弾だけ見極めて回避で……。

 

 「ちょっ……!それはたちが悪いです!」

 

 砲弾の雨と水柱を掻い潜った私に飛んできたのは、先ほどまでとは打ってかわって副砲による正確な砲撃でした。

 今の私の速度は90ノットに近く、しかも機動力も高いのに、窮奇は完璧に合わせてきました。

 ですが、当たってあげません!

 私は後方へ向けて飛魚を使用。

 跳びすぎて50mも余計にさがってしまいましたが、さっきまで私がいた位置に着弾して上がった水柱の左方へ向け、即座に稲妻を使用して針路を修正しました。

 窮奇との距離、残り4000!

 

 『そうよね!あなたは躱すわよね!アレを躱したのはあなたが初めてよ!素晴らしいわ!!!』

 

 不思議です。

 以前は、あなたに褒められても嬉しくなんてなかったのに、今は少しだけ嬉しい気がします。

 あなたは私が知ってる中で最強の戦艦。

 敵でなけば、憧れていたかもしれない人だから、そう思ってしまったのでしょうか。

 

 『じゃあ、これはどう?』

 

 なんと、窮奇は艤装であるはずの双頭の怪物を分離して二手に分かれました。

 左に移動した窮奇の手には、イ級を模したような形状をした副砲の単装砲が握られていますね。

 つまり、左右から攻める気ですか。

 

 「そんな事もできたんですね。驚きました」

 

 窮奇が副砲で牽制し、艤装が主砲で狙ってくる。

 窮奇の射撃精度は相変わらず正確ですが、艤装の方の精度は低いから躱せない事はない。

 ないですが……やっぱり厄介です。

 現状は単純に二対一。

 窮奇からしたら、自分の艤装だから一対一に変わりないのでしょうが、やられている身としては卑怯だと罵りたい気分です。

 

 『ほらほらぁ♪私はここよぉ♪早く捕まえてごらんなさい♪』

 

 荒潮さんみたいな台詞を吐かないでください。

 ですが見た目が大人な分、荒潮さんが言うよりしっくり来てるのは認めます……は、置いといて。

 艤装からの砲撃で私の針路は水柱で塞がれたので、私は窮奇の射線から逃れるため艤装側へ水柱を迂回。

 それを読んでいたかのように、艤装がさらに砲撃してきました。

 でも今の私なら、軽く後ろにステップするだけで避けられます。

 前に砲撃が着弾したのを右目の端に捉えながら、今度は窮奇に向けて砲撃しながら、さらに前進。

 窮奇との距離は、残り2500。

 

 『あはははははははは!いいわ!とてもいいわ!もっと踊りましょう!!』

 

 あなたが曲を奏で、私が合わせて踊る。

 なるほど、たしかにダンスと言えないこともないです。

 もっとも、私は命懸けですが……次は右方の艤装による再度の砲撃。着弾点は……私の後方!

 私が艤装の着弾点を確認したと同時に、窮奇が私の前方に向けて砲撃。

 窮奇にしては精密さに欠けますね。

 これは、私の前方に着弾するでしょう。

 ならば、再び軽く……。

 ダメ!選択を間違えました!

 これは主砲と副砲による夾叉。前後の回避先を潰されました!

 

 「い、今からでも左右のどちらか……」

 

 いや、それも無理です。

 私の前後に立ちのぼった水柱で回避先を潰されるばかりか、着弾点同士が近すぎて私の居る海面が爆ぜ、体を浮かされた。

 故に、脚はギリギリ海と接していますが、体勢が最悪過ぎて移動自体が不可能なんです。

 さらに……

 

 『さあ、これはどうする?』

 

 軽く空中浮遊している私に向け、窮奇が発砲。

 私はなんとか窮奇に連装砲は向けられたものの、先に言った通り体勢が悪すぎて回避は不可能。

 しかも窮奇の砲撃は、私を中心とした半径50mの範囲全てをカバーできるように放たれています。

 全ての艦力を装甲に……は、駄目ですね。

 被弾したら中破以上は確定ですから、その後の追撃で確実にやられます。

 この砲撃は、絶対に躱さなければなりません。

 でも手段がない。方法がない。この状況で回避する術を、私は知りません。

 

 「どうして……こうなった?」

 

 今までで一番、何もできていない。

 結局私は、皆がいないと何もできないの?

 強くなったと思っていたのに、今の私なら司令官との約束を果たせると思ったのに!

 嫌だ!こんなところで終わりたくない!

 こんな事で、司令官との約束を破りたくない!

 誰か……。

 誰か教えてください!

 このままじゃ私、死……。

 

 (このままじゃあなた、死んじゃうわね)

 

 誰?頭の中に直接声が聞こえてくる。

 ふいに声をかけてきた第三者に意識を向けると、視界が徐々にホワイトアウトし始めました。

 

 (こ、これは一体……)

 

 完全に世界が真っ白に染められると、体が自由に動くようになりました。

 さっきまで最悪な体勢だったのに、今は真っ白な地面に足がついています。

 この状況は、あの時に似てるでしょうか。

 そう、初めて艤装と同調した時の感じです。

 じゃあ、声の主は……。

 

 (ここは艤装の中。そして、何年も私を閉じ込めてきた檻)

 

 声がした後ろの方を振り返ると、そこには適合試験の時に見た少女が立っていました。

 私と違う蒼い瞳と、私と同じ黒髪をなびかせた15~6歳くらいの少女。先代の朝潮です。

 

 (こうやって会うのは、ひさしぶりね)

 (はい……お久しぶりです)

 

 半年以上会っていないのに、懐かしさを感じない。

 逆に、ずっと一緒に居たような安心感を覚えてしまいます。

 

 (ずっと、ここに居たんですか?)

 (ええ、ずっとここから、あなたを見てた) 

 

 ずっと私を?

 ずっと私を見守っていてくれてたんですか?

 その、聖母のような微笑みで。

 

 (ねえ、あなたはどうしたい?)

 (窮奇を倒したい。そして、司令官の元に……)

 

 帰りたい。

 司令官に褒めて貰いたい。

 頭を撫でて貰いたい。

 抱きしめて貰いたい。

 なのに、私は……。

 

 (でも、あの砲弾はあなたに直撃するわよ?)

 

 そう、このままでは、私は死ぬ。

 このままでは帰れない。このままでは失望される。

 あの人を悲しませてしまう。

 そんな事はわかってるんです。今更、あなたに言われなくたってわかってるんです!

 ここで見てるだけのあなたに言われなくたって、ちゃんとわかってるんです!

 

 (だけど、倒さなきゃいけないんです!倒して帰るんです!私はあの人に嘘をつきたくない!あの人に失望されたくない!あの人を守りたい!あの人を悲しませたくないん……!)

 (落ち着きなさい。ここで泣き喚いたって、状況は変わらないわよ?)

 

 冷静な指摘と鋭い音とともに、頬に痛みが走りました。

 ああ、頬を叩かれたんですね。

 ですが、ここでも痛みを感じるのは意外でした。

 だって私の体は、今も窮奇の砲弾の前に晒されているはずなんですから。

 

 (ですが……。だったら、どうすればいいんですか?この状況の対処法なんて、私は知りません!)

 

 それとも、あなたはこの状況をどうにかできると言うんですか?

 私の知らない方法を、あなたは知っているんですか?

 

 (私と代わりなさい。そうすれば、後は私がなんとかするわ)

 

 は?今なんと?私と代われ?

 私の体を寄越せと言っているんですか?

 

 (ただし、代わったらもうあなたに体を返す気はない。今度は、あなたが私のように艤装に宿るの)

 

 何をふざけたことを……。

 それであなたは、三年前に添い遂げられなかった司令官と添い遂げようと言うんですか?私の体を使って!?

 

 (ふざけないでください!あなたじゃあ、あの人の心を守れない!窮奇を倒せたとしても、きっとまたあなたは司令官を傷つける!)

 

 あなたは勝手な人です。

 あの人の事を一番に考えてるようでそうじゃない。

 三年前だって、自己満足のために司令官を置き去りにしたじゃないですか。

 

 (だけどあなたじゃ、あの人の命を守れない)

 

 ええ、このままではあなたの言う通りになります。

 命を失ってしまえば心を守るもなにもない事はわかっています。だけど……。

 

 (あなたには、この状況をどうにかする手立てがあるのですか?)

 (ええ、これは神風さんにもできない。けど、死ぬ前の私も思いついただけで、実行する事はできなかった)

 

 いや、それでは意味がないじゃないですか。使えないなら、手段が無いのと同じでは?

 

 (でも、あなたの体でなら出来る。私の体じゃ出来なかった事でも、才能に満ち溢れてるあなたの体でなら)

 

 才能に満ち溢れてる?

 私が?

 冗談はやめてください。私が強くなれたのは、指導してくれた人たちが強かったからです。

 

 (私に、才能なんてありません……)

 (あら、また自信のない駄目なあなたに戻っちゃったわね。高がこの程度の事で、あなたの心は折れちゃうの?)

 (だって!)

 (だってじゃない。言い訳はやめなさい)

 

 静かな叱責。

 声を荒げた訳じゃないのに、たった一言で黙らされてしまいました。

 お母さんに叱られるのって、こんな感じなのかなと現実逃避してしなうくらい、何も言い返せません。

 

 (私ね、あなたが羨ましかった……)

 (え……?)

 (私と違って才能に溢れ、私と違って素直で、私よりあの人に愛されてるあなたが羨ましくて……妬ましかった)

 

 妬ましい?

 なら、どうして満足そうな顔をしてるんですか?

 あなたの表情に妬みや僻みは一切見受けられません。

 

 (だから、あなたに意地悪をしたわ。艤装に干渉してステータスを隠蔽したり、練度の上昇を意図的に操作もした。急激に上げれば戸惑うあなたが見れると思った。でも、あなたに対しては意味がなかった。だって、練度を急激に上げても気にしないんだもの。そうそう、たまに体も借りてたわ)

 

 そんな事を……。

 でも、私は練度が急激に上がっても違和感を覚えたことがありません。

 動きやすくなったな位にしか思ってなかった……ってぇ!最後に、さらっととんでもないことを言いませんでした!?

 

 (嫌になったわ。自分との力の差を思い知らされた。私が数年がかりで手に入れたモノを、あなたはたった数ヶ月で手に入れ、私から全てを奪った。あの人を、奪った……)

 

 恨み言……ですよね?

 それなのにまるで、泣いた子を慰めるような声色で、昔話に花を咲かせるかのように語っているじゃないですか。

 こんなにも、恨みなど微塵も感じさせない恨み言は初めてです。

 

 (そうしてる内に、あなたでよかったと思うようになってきたわ。『朝潮』を継いでくれたのが、あなたで本当によかったって……)

 

 そんな風に、思ってくれてたんですか。それなのに私は、あなたを……。

 

 (なのに、あなたは失望させるの?ここで諦めるの?あの人との約束を破るの?あなたはここで死ぬの?)

 (わ、わた…私は……)

 

 そう、失望させようとしている。私を『朝潮』として認めてくれたあなたを、裏切ろうとしている。

 

 (やる気がないなら、私に体を寄越しなさい!私が窮奇を倒す!私があの人を守る!あなたはここで、いつまでもイジケていなさい!)

 

 先代が初めて声を荒げました。

 体の芯を殴られたような衝撃を感じた気がして、訳もなく泣きたくなりました。

 理屈抜きに、悪い事をしたんだと思い知らされました。

 記憶には残っていないのに、お母さんに叱られたような気持ちになったんです。

 

 (わかり、ました……)

 

 この人なら、私より上手く私を使える。

 入れ替わったら、あの人は気づくでしょうか。

 見た目は同じでも中身は別人。

 でも、あの人を愛する気持ちは同じはず。

 だったら、中身が私じゃなくても……。

 

 (それは、私に体を明け渡すと言う事でいいのね?)

 

 先代は厳しい目つきですが、責めてるのとは違う気がします。

 侮蔑とも違う。諭してるのとも違う。

 この人は、私の答えを待っている。私が応えるのを待っているんです。

 

 体を明け渡して本当にいいの?

 私はあの人と約束した。必ず戻ると約束しました。

 私は『いってきます』と言ったんです。

 だったら体は渡せない。

 体だけ戻っても意味はない。

 中身が私のままあの人の元へ戻らなければ、それは約束を破ったのと同じです。

 私は私のまま帰って、ただいまって言うんです!

 だから、私が出すべき答えは……。

 

 (違います!)

 

 だけど、私だけではあの人との約束を守れない。

 

 (では、どういう?)

 

 この人だけでも、あの人との約束は守れない。

 だから……。

 

 (あなたの全てを、私にください!)

 

 だったら一つになればいい。

 どちらか一人しかあの人を守っちゃいけないなんて、いったい誰が決めたんですか。

 私とあなたで、あの人を守るんです!

 

 (・・・・・・・)

 

 あ、あれ?先代が面食らったような顔をしたまま固まっちゃいましたが、そこまでおかしな事を言いました?

 

 (ぷ……あははははははは♪)

 (な、なんで笑うんですか!)

 

 沈黙をぶち壊すように、先代は体をくの字に曲げるほど爆笑し始めました。

 こっちは真剣だと言うのに、ちょっと失礼では?

 

 (ご、ごめんなさい。ただ、そのセリフ……あの人から言われたかったなぁと思って)

 

 あ、よく考えれば、プロポーズしたのと大差ないようなセリフですね。

 うう……確かに、私も言われるならあの人から言ってもらいたいです……。

 

 (でも……、うん、いいわ。私の全てをあなたにあげる。だから、私を一緒に連れて行って。そして、あの人を守って。私の、分まで……)

 

 先代はうっすら涙を浮かべながら、右手を差し出してくれました。

 そうか、体を乗っ取るなんて嘘だったんですね。

 あなたは最初から、私のお尻を叩いてくれてた。

 どうしようもない状況でパニックになった私に、どうすればいいか教えようしていた。

 私を、奮い立たせるために。

 そして、この白一色の暗い世界から、連れ出してほしかったんですね。

 

 (はい!一緒にいきましょう!)

 

 そして、一緒に会いに行きましょう。

 私とあばたが愛したあの人に。

 そして、一緒に言いましょう。今度こそあの人に、三年越しのただいまを。

 

 先代と握手を交わすと、白い世界が元の世界に侵食され始めました。

 時間は経っていないようですね。

 経っていたなら、私はすでに木っ端微塵になっているはずです。

 

 さて、ではどうしましょう。

 目の前には、変わらず私に迫る砲弾。

 回避はできない。

 装甲に艦力全てを回しても防ぎきれない。

 だったら、どれも無理なら()()()()()()()()

 

 『それは……さすがに予想外だったわ』

 

 目の前に、直撃弾と至近弾を()()()()()()事で生じた爆煙が広がりました。

 そう、簡単な事だったんです。

 防御も回避も不可能ならば、撃ち落としてしまえばよかった。

 

 「ここからの私は、一味違いますよ」

 

 アレは神風さんほど才能に恵まれていなかった先代が、それでも神風さんに追いつこうとして考えついた苦肉の策。

 敵の砲身に撃ち込めるほどの射撃精度と、自分に向かってくる砲弾を正確に見極められるほどの観察眼があって初めて実現する未完だった奥の手。 

 その名も、桃弧棘矢(とうこきょくし)

 

 「艤装が、今までで一番馴染む……」

 

 先代と一つになったからでしょうか。

 それだけでなく力を、彼女の知識と想いまでもが、私と一つになっていくのがわかります。

 一つになっていくにつれて、艤装から零れ出るように発せられた艦力が、私の体を白いボレロのような形になって覆っていく。

 ふと海面を見ると、瞳も茶色から先代と同じ全てを慈しむような蒼色に変わっていました。

 

 「さて、そろそろ行きましょうか」

 

 煙が晴れてきた。

 そして見えたのは、相変わらず楽しそうな窮奇。

 お待たせしました。

 それではダンスを再開しましょう。

 ただし、ここに居るのはさっきまでの私じゃない。先代とも違う。 

 私は朝潮()です。

 今、私は本当の意味で朝潮()になったんです。

 だから、高らかに名乗りましょう。

 今までは遠慮して名乗れませんでした。

 私が名乗ってはいけないと思っていました。

 私にその資格はないと思っていました。

 コレだけは一度も言えませんでした。

 そんな、私の艦生で初めての台詞を、あなたへの宣戦布告とさせていただきます。

 そう、私の名は……。

 

 「朝潮型駆逐艦 ()()() 朝潮、抜錨します!」

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