艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第百十四話 この戦争を終わらせてやる

 

 

 

 

 

 『朝潮型駆逐艦 一番艦 朝潮!抜錨します!』

 

 一番艦……か。

 アンタがそう名乗るのは初めてね。

 今まで一度も名乗らなかったのが不思議でしょうがなかったけど、もしかして姉さんに遠慮してたのかしら。

 

 『満潮、今の聞いた?』

 「ええ、聞いたわ。あ、ちょっと待っててくれない?」

 

 声がウキウキしてるけど、大潮も嬉しいの?

 まあ、大潮の場合は、単に戦闘でテンション上がってるだけかもしれないけど。

 

 『ようやくねぇ……。ようやく、朝潮型姉妹が揃ったわぁ♪』

 「あら意外。荒潮は、あの子の事を妹と思ってなかったの?」

 『思ってるわよぉ?そういう意味の姉妹じゃないの。()()()()()()が戻って来たってこと♪』

 

 なるほどね。

 確かに、歳だけならあの子は一番年下。私たちの可愛い妹よ。

 だけど今、窮奇と戦っているのはあの子であってあの子じゃない。今のあの子は、朝潮型駆逐艦の長女。

 私達を正し、導く、始まりの名を与えられた者。

 朝潮型一番艦 朝潮だ。

 

 『大潮達も負けてられないね。早く合流しないと怒られちゃうよ』

 「そうね、大潮。そっちは終わりそうなの?」

 『まだよぉ。この子達。練度は大した事ないんだけど、単純に硬いし速いのよぉ』

 

 なんで大潮に聞いたのに荒潮が答えるの?

 もしかして一緒に居る?

 

 「ねえ、アンタ達、もしかして一緒に居るの?」

 『そだよ~。このワルサメちゃん達、どうやら一緒に居たいみたい。大潮達を逃がそうともしてくれないけど、離れようともしないんだよ』

 

 仲のよろしい事で。

 深海棲艦にも、友情とか姉妹愛的な感情があるのかしら。

 って言うか、引き離そうと思えば出来るんじゃない?

 逃がしてはくれないんでしょ?

 

 「アンタ達、まさか二対二で楽しようとしてるんじゃないでしょうね」

 『何の事だろ~。一対一が二つだよぉ?』

 『そうよねぇ?訳がわからないわぁ』

 

 白々しい!

 連携してるのとしてないのとじゃ、どっちが勝つかなんて分かりきってるじゃない!

 駆逐棲姫が連携してないのなんて、アンタ達の今の言いようでわかったわよ!

 例え駆逐棲姫の性能がアンタ達より高くたって、連携したアンタ達に勝てる道理はないでしょ!

 

 『あ、一隻こっちに来てるよ~。ちゃんと抑えてくれないと~』

 『もう!大潮ちゃん楽しすぎぃ!私ばっかり矢面に立たせてぇ!』

 

 あ~、だいたい何やってるかわかった。

 荒潮が敵2隻の注意を引いて、少し離れた位置から大潮が砲撃を叩きこんでるのね。

 このままじゃあ、言い出しっぺの私が奢らされそうだわ。

 って事で……。

 

 「待たせたわね。そろそろ、こっちも再開しない?」

 『勝手な奴だ。お前が待てと言うから待ってやったのに』

 

 いや、別に話しながらでもアンタの相手は出来たし、待つ必要なんてなかったのよ?

 朝潮の名乗りを聞いた途端に大潮が話しかけて来たから、試しに「待って」って言ったら本当に待ってくれるんだもの。

 言った私の方がビックリしたわ。

 

 「相変わらず、アンタって良い奴ね。どう?そっちを裏切ってこっちにこない?」

 『本気で言ってるのか?』

 「本気よ。アンタなら、わかるでしょ?」

 

 アンタと私は似てる。姿形はもちろん、血縁関係なんかまったくないけどよく似てる。

 具体的に言うと、思考パターンが。

 精神的な双子ってやつ?

 

 『ああ、わかる。なぜなら、私も同じ提案をするつもりだったからな』

 

 やっぱりか。

 だったら、私が断るのも想定内のはず。でも鼬は、駄目元で私を誘うんじゃないかな。

 なら、先手を取るとしますか。

 

 「こちら側へ来なさい。アンタにその気があるなら、私から司令官に掛け合ってあげる。窮奇も一緒が良いって言うなら、それも含めて交渉するわ」

 

 実際問題として、私並みに頭が回り、深海棲艦側の情報を戦略的に理解している鼬と、神風さん並みか、もしかしたら朝潮以上の戦闘センスがある窮奇の二人を引き込むメリットは大きい。

 絶大と言っても良いレベルよ。

 もし私が提督なら、要求を全て呑んででも欲しい人財だわ。

 まあでも、鼬の答えはたぶん……。

 

 「無理だ。窮奇様はアサシオを沈めることに執着しておられる。しかも、あの方は自由奔放だ。我が方以上に規律にうるさい人間側では、あの方の力を十全に発揮できない」

 

 でしょうね。

 だったら、朝潮が窮奇を倒すのを待って再度交渉……も、無理か。

 窮奇に心酔している鼬が、仕える主人を沈められて黙ってるわけがない。

 なら、鼬が次に言う台詞は……

 

 「だから、お前が来い」

 

 ですよね。

 アンタも私と似たような理由で、私を欲してくれてる。自惚れていいなら、私と一緒にいたいと思ってくれてる。

 でも、私の答えは……。

 

 「無理よ。私は、そちら側には行けない」

 「何故だ?お前なら、人間に勝ち目がないのはわかっているだろう?」

 「いいえ、逆よ。私は勝ち目がない戦はしない。それに、姉妹や友達を裏切るなんて、私には死んでもできない」

 「なるほど。少し幻滅したよ。お前は、人間が勝てると言う幻想に囚われているのだな」

 

 それは心外ね。

 私は何も、盲目的に人間側が勝つって思ってる訳じゃない。

 彼我の戦力差は絶望的。

 しかもこっちは、人間同士で足の引っ張り合いをしてるってオマケまでついてる。

 それでも、私は……。

 

 「勝てると信じてる」

 

 お偉いさんたちが何を考えてるかは知らないけど、少なくとも私には勝ち筋が見えてる。

 私に権限さえあれば、10年もあれば終戦に漕ぎ着けてやるわ。

 

 『そうか。ならば我が方が確実に勝てるよう、人類側最大の脅威であるお前をここで沈める』

 「それは、こっちの台詞よ」

 

 コイツを沈めるだけで、楽観的に考えても終戦までの期間が三年は縮む。

 それだけじゃないわ。

 逆に鼬が何百年、何千年と人間が培って来た戦術を学び、指揮権を手に入れたら手の打ちようがなくなる。

 そうなれば勝ち目はゼロ。

 人類側の敗北が決定する。

 だから、鼬がそうなる前に沈められる今は、ハワイ島攻略戦どころかこの戦争の天王山と言っても過言じゃない。

 故に、例え刺し違えても、四凶や中枢なんか目じゃないほど強大な脅威であるコイツは、絶対にここで沈めてやる。

 

 「朝潮型三番艦 満潮!全力でいくわ!」

 『四凶守護役筆頭、重巡洋艦 鼬。推して参る!』

 

 名乗りと同時に、私も鼬も発砲。

 次いで私は飛魚で後方に跳び、鼬は最大戦速で前進を始めた。

 おそらく鼬は、改になったことで上昇した性能を頼りにゴリ押す気ね。

 

 「行くよ!シュウちゃん!」

 (アイ!待ッテマシタ!)

 

 ならば私は、砲撃で牽制しつつ、鼬を上回る速度と小回りで攻撃を回避しながら機を待つことにしましょうか。

 

 「目標、重巡洋艦 鼬!砲撃は砲術長に一任!私に近づけるな!」

 

 互いに砲撃し合いながらの同航戦に持ち込めたけど、鼬は至近弾は無視して、最低限の回避運動で直撃弾のみ回避してるわね。

 まあ、今のアイツの性能を考えれば当然か。

 今のアイツなら、回避運動さえ怠らなければ、下手な小細工をしなくても私に勝てる。

 そう、思ってるはず。

 だったら、その慢心に付け込ませてもらうわ。

 

 「魚雷六番、七番発射!」

 

 指示に従い、後方から迫る鼬の未来針路上に魚雷が発射された。

 でも、何の捻りもなく発射したこれは、二発とも回避される。

 いえ、回避してくれなきゃ困る。

 

 「かかった!」

 『な、なんだと!?』

 

 私が何をしたかと言うと、大潮が朝潮との決闘で見せた海豚(いるか)

 鼬が魚雷を躱すと同時に、あらかじめ艦力の糸で繋いでおいた魚雷を一気に手繰り寄せたのよ。

 結果は二発とも命中。

 贔屓目に見て小破に届いてないけど、先にダメージを与えることに成功したわ。

 

 「両舷主砲!撃って撃って撃ちまくれ!」

 (アイマム!)

 

 この機を逃すまいと追撃を命じた私に、すべての妖精さんを代表して右肩に座るシュウちゃんが返事をしてくれた。

 いい返事ね。

 帰ったら、お豆腐をお腹いっぱい食べさせてあげるわ。

 

 『小癪な真似を……!その程度の攻撃で、私を沈められると思うなよ!』

 

 思ってなんかない。

 でも、成果は十分にあったわ。

 だって先に、アンタを小破させられたんだもの。

 

 「航行手段を水切りに変更!斬り込むわよ!」

 

 私は10馬力の脚力の水切りで急反転して、今度は逆に距離を詰め始めた。

 次の一手を打つには、ちょっとばかり距離が離れすぎてるからね。

 

 「操舵手、回避任せる!左舷主砲は砲撃を続行!右舷魚雷、二番から五番発射!」

 『二度も同じ手を食うか!』

 

 ええ、わかってるわ。

 アンタが魚雷を回避じゃなく、迎撃することもね。

 だから、その魚雷は囮。

 本命は、()()()()()()一番魚雷よ。

 

 「行っ……けぇぇぇぇ!」

 

 鼬が魚雷を撃ち抜き、水柱が上がったのを確認してから、私は10馬力の腕力で一番魚雷を投げつけた。

 さて、鼬の腹部にジャストミートするコースだけど、アイツはどうするかしら。

 

 『魚雷を投げつけるなど、出鱈目が過ぎるぞ満潮!』

 「チッ!避けられた!」

 

 と、慌てた振りをしつつ、私は右手を大きく後ろに引いた。

 すると艦力の糸で繋がれてた一番魚雷は、U字どころかV字の軌道を描いて鼬の背中に直撃したわ。

 

 「必殺、燕返し。なんてね」

 

 今のは手応えがあった。

 所謂、クリティカルってヤツよ。

 これでアイツは、最低でも中破になっているはず。

 対する私は、至近弾でジワジワ削られてるけど小破に届いてない。この調子で砲撃を加えつつ、要所要所で海豚と燕返しを使って追い詰め……。

 

 (正面二雷跡!数、8!)

 

 させてもらえなかった。

 おそらく、囮の魚雷を迎撃したと同時に放ったと思われる鼬の魚雷が、腕を引き終わったばかりの私に向かって来てるわ。

 

 「左舷主砲!迎撃……!」

 

 は、間に合わなかった。

 八発中七発は私を通りすぎて行ったけど、見事に一発貰っちゃったわ。

 しかも、同じくクリティカル。

 損傷的には有利だったのに、一発貰ったことでイーブンに……いや、逆転された。

 アイツは背中に直撃して尻尾が片方吹っ飛んだだけだけど、私の場合は足。

 脚は維持できてるけど、膝から下が酷い有り様だわ。

 

 『私の、読み勝ちだ』

 「ええ、そうね。完敗よ」

 

 迂闊だった。

 鼬はたぶん、初めてやり合った時に見せた劣化微塵隠れを警戒して、私が取れるであろう針路に魚雷を撒いた。私はその一発を、見事に貰っちゃったわけね。

 

 「口惜しいわ。せめてもう一手打ててたら……」

 

 勝てないまでも他のみんなの負担を減らせてたかもしれないのに、今の私にできるのは、残った砲の照準を合わせてトドメを刺そうとしている鼬を睨むことだけ。

 

 『さらばだ友よ。貴様の事は、けして忘れない』

 

 その一言をトリガーにしたかのように、鼬の主砲は火を噴いた。

 動体視力は良い方じゃないのに、私に向かって来てる三発の砲弾がハッキリ見えるわ。

 このままだと、あの砲弾は装甲を貫いて、私の体をバラバラに引き裂……。

 

 「シュウ……ちゃん?」

 

 あと、ほんの刹那の時間で私に当たる砲弾の前に、妙な光を纏ったシュウちゃんが躍り出た。

 何をする気?その光はなに?

 そんな疑問が解消されることはなく砲撃が直撃して、私は海面下に押し込まれた。

 

 「何で……生きてるの?」

 

 

 あの距離で重巡の主砲が直撃して、駆逐艦の私が無事に済むはずなんてないのに、淡い光の膜に包まれた私は、何故か無事……いや、無事なわけじゃないわね。

 海面下に沈み、体は傷だらけで制服もボロボロ。

 バラバラになってないだけで、大破は確実だわ。

 

 「シュウちゃんが、守ってくれたの?」

 (ヤット、オ役ニタテマシタ)

 「そうか。そう言うことか。シュウちゃんは……」

 

 応急修理要員。

 頭に浮かんだのは、噂でしか聞いた事がない妖精さんの種類。

 死に瀕した艦娘を、大破の状態まで応急修理して命を助ける妖精さん。

 そっか、シュウちゃんは、工廠妖精さんじゃなくて応急修理要員だったんだね。

 

 (オ姉チャン。ゴ武運ヲ!)

 

 見事な敬礼をしたシュウちゃんが、足元から光の粒になって消えていく……。

 その顔に浮かぶのは使命を全うした者が浮かべる、誇りと達成感に満ちた笑顔。

 だから、泣いちゃダメよ満潮。シュウちゃんは自分の役目を全うしたんだから、絶対に泣いちゃダメ。

 泣くことはあの子への侮辱。

 そもそも、シュウちゃんに役目を果たさせてしまった私に、泣く権利なんてないんだから。

 

 「でも、せめてお礼くらいは……」

 

 言いたかった。

 だから私は、浮力を調整するようにゆっくりと脚を発生させて、両手をシュウちゃんに伸ばした。 

 そして、もう半分以上消えちゃってるシュウちゃんに、そっと手を添え胸に抱き寄せた。

 もっと一緒に居たかったな。

 ずっと一緒に居たかったな。

 だって、シュウちゃんと一緒に居られた時間は私の宝物なんだもの。

 

 「ありがとう。シュウちゃん」

 (オ役ニタテレバ、幸イデス♪)

 

 その一言を最後に、シュウちゃんは完全に消えてしまった。

 さようならシュウちゃん。

 シュウちゃんに繋いでもらった命は、絶対に無駄にはしないわ。

 

 「機関、全力運転開始。本艦はこれより、追撃戦に移行する!」

 

 脚を一気に展開して急浮上。

 鼬の航跡が延び続けてるのを見るに、きっと窮奇の方へ向かっているんでしょうね。

 

 「そうはさせない!()()()の未来針路を予測開始!魚雷全弾、発射用意!」

 

 これもシュウちゃんのおかげなのか、魚雷の装填も完了してた。

 あとは、予測した針路へ向けて魚雷を放ち、鼬を誘導するだけよ。

 

 「いぃぃぃたぁぁちぃぃぃぃぃ!」

 

 魚雷を放った私は、初めて浮いた日に花火の如く上空に吹っ飛んだ朝潮をはるかに越える高度。およそ50mほどまで海面を突き破って上昇し、私の声に驚愕しながら振り向いた鼬に連装砲を向けた。

 あとは、撃つだけよ。

 

 「主砲!狙いはわかってるわね!倍返しよ!」

 『馬鹿な!直撃だったはずだぞ!?』

 

 ええ、直撃だったわ。

 アンタの砲撃で、私は一度沈んだ。

 その私が上空から砲撃してるのを目の当たりにしたアンタは、軽く混乱してるでしょ?

 実際、回避運動が単調になって、魚雷が向かってる先へと誘導できてるしね。

 

 「友と言ってくれて嬉しかったわ。でも!」

 

 アンタの回避先にあるのは確実な死。

 事前に放っておいた魚雷の射線上。

 そのボロボロの体で、魚雷十発の直撃に耐えられる?

 耐えられないでしょ?

 だから、こう言ってあげる。

 決めゼリフなんて言う柄じゃないけど、アンタは特別だから、冥土の土産に私の決め台詞をくれてやるわ!

 

 「バカね!その先にあるのは地獄よ!」

 

 私の台詞とともに、眼下に炎を纏った水柱が上がった。

 アレは確実に仕留めた。

 だって、アンタがバラバラに弾けるのが上から見えたもの……って、それより、どうやって着水しよう……。

 

 「くぅ……。思ってたより痛いわねぇ」

 

 なんとか着水できたものの、海面に打ちつけられた痛みと鼬にやられた傷の痛みで、一瞬意識が飛びそうになっちゃった。

 でも……

 

 「こんな所で寝れ…る……かぁ!」

 

 航行は……立てないけど可能。

 主砲、魚雷、共に問題なし。

 よし、このまま鼬の撃破を確認して、そのまま朝潮のところへ……。

 

 『ボディがぁ……!ガラ空きぃぃい!』

 

 うわっ!ビックリした!

 今のって荒潮?

 鼬も私みたいに復活したのかと思って、反射的にお腹をガードしちゃったじゃない!

 口調が変わってるってことは、荒潮ったら深化を使ってるわね。

 ボロボロの私が言えた義理じゃないけど、後の事をまったく考えてないじゃない。

 

 『こっちは仕留めたよ!荒潮!』

 『か~ら~のぉ~?シュゥゥゥゥー!超ぉ!エキサイティン!!』

 「……」

 

 何やってんだか……。

 相手の駆逐棲姫に同情するわ。

 たぶん荒潮は、駆逐棲姫のお腹を砲身で突き上げて、ゼロ距離射撃して吹っ飛ばしたんでしょう。

 

 「さて……」

 

 私は主砲を構え直して、ゆっくりと魚雷の爆心地へ近づき始めた。

 煙が風で流された後の海面に残されてるのは、鼬の艤装と思われる残骸。

 そして……。

 

 「わた…しの、負けだな。あんな手を隠し持っているなど、完全に予想外だった」

 

 胸から上だけになった鼬だった。

 自分でやっといてなんだけど、随分と痛々しい姿ね。

 深海棲艦の血が青いからか、海面は綺麗なもんだけど、腸と思われるモノが漂ってるわ。

 

 「なあ、満潮。どうして私たちは、戦ってるんだろう」

 「アンタたちが、人類に喧嘩を売ったからよ」

 

 そうじゃなかったら、私とアンタは違う出会い方をしてたかもしれない。

 いや、そもそも会えないのかしら。

 まあ、どっちにしても、こんなにも不幸で悲しい別れ方は、しなくて済んだはずよ。

 

 「そうか。そう……か。私たちは、戦争をしてるんだったな……」

 

 しかも、政治的な落としどころがない戦争をね。

 今でこそこれが日常になっちゃってるけど、私みたいに、平和だった頃の記憶がほとんどない者からしたら迷惑この上ないわ。

 でも、変な話だけど、そんないつ死ぬかわからない世界にしてくれた深海棲艦に、少しだけ感謝してる。

 アンタたちが作ってくれた日常は、朝潮型の姉妹たちと出会わせてくれた。

 少ないながらも、本音で話せる友達と出会わせてくれた。

 そして、アンタと出会えた。

 

 「アンタと過ごした時間は、私の人生で最も価値ある時間だったわ」

 「ああ、私も同じ気持ちだ。ありがとう……満潮」

 

 鼬が最後に口にしたのは、お礼の言葉だった。

 涙を流しながらも満足そうに言って、鼬は海に沈んでいったわ。

 

 「こちらこそ、ありがとう……」

 

 お礼を言い終わって海面を見ながら放心していたら、ポタポタと雨が落ちてるのに気づいた。

 いや、これは私の涙か。

 いつの間にか、私の涙腺が壊れて涙が溢れてた。

 たぶんシュウちゃんを失った悲しみと、友をその手にかけた後悔が、波が満ちるようにジワジワと押し寄せてたんでしょうね。

 

 「痛い……。痛いよぉ……」

 

 私には、泣く資格なんてない。

 そう思った私は、怪我のせいにしてしまおうと考えた。

 怪我の痛みで泣いてるんだと、自分に言い訳をして泣いた。

 

 「痛い!痛い!痛い!」

 

 私は傷の痛みに感情を任せ、悲しみと後悔を涙で洗い流して少しだけ冷静になった私は、覚悟を決めた。

 こんな、体を半分失うような喪失感は、もう味わいたくない。

 他の人にもしてほしくない。

 だから、私はここで誓うわ。

 大義名分なんてない、子供の我儘のような理想を叶えるために、私が……。

 

 「この戦争を終わらせてやる」

 

 どんな犠牲を払ってでも。

 どんなに傷ついてもやり遂げてやると、私は水底の鼬に誓った。

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