艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第百十五話 そのために、ここまで来たんだから

 

 

 

 

 

ーーーーAM 7:45

 

 

 不気味ね。

 上陸してしばらく経つのに、敵が一隻も見当たらない。聴こえてくるのは砲声と爆音。ただし、結界の外からの音のみ。

 

 「静かっすね。ここって、敵の本拠地じゃないんすか?」

 

 本拠地って言うと少し語弊があるけど、たしかに敵太平洋艦隊の本拠地ではあるわ。

 

 「先行してる飛車丸……ビークル1と馬鹿三人は大丈夫かしら」

 「大丈夫っす、自分の相棒っすよ?三馬鹿だって、普段はレオタード姿で客を脅しまくってる変態っすけど、黒い三連星って呼ばれてる精鋭っすから」

 

 いや、それはわかってんのよ。

 飛車丸はもちろん、あの三馬鹿だって私より強いってのは理解してるの。

 私があんな変態以下なんて認めたくはないけどね。

 ちなみに現在、私たち奇兵隊は黒砂海岸から無事上陸を果たし、11号線を北東に進軍中。

 第二分隊に配属されている飛車丸こと、ビークル1は三馬鹿改めビークル3、4、5を連れて、使えそうな車両を探しつつ先行しているわ。

 そいつらと、もう少し行った先にあるボルケーノビレッジで合流、後に隊を分ける予定になってるんだけど……。

 気持ち悪いくらい順調すぎる。

 会敵しないに越したことはないけれど、作戦は会敵した場合を考えて計画されてるから、あんまり順調すぎると逆に予定が狂うわ。

 

 「ギミックの様子はわからない?」

 「無理っすね。雲の上だから、さすがに見えないっすわ」

 

 逆に言えば、こちらも目視では発見されない。

 僥倖と言えなくもないけど、ギミック周辺の敵の数がわからないのが辛いところだわ。

 

 「あ、居たっす。相棒っす」

 

 あ、ホントだ。

 草むらに隠れてチカチカとライトで合図してるわ。

 って言うか、草むらから少しはみ出してるバイクに、凄く親近感というか懐かしさを感じちゃうんだけど……。

 

 「遅ぇよ。バイク四台も抱えてヒヤヒヤもんだったぞこっちは」

 「怖かったんすか?意外と可愛いとこあるんすね」

 

 おい、私のセリフを盗るんじゃない。

 私が言うから可愛く聞こえるのよ?

 あなたみたいなモヒカンが言ってもムカつくだけ。撃たれても文句言えないくらいムカつくわ。

 

 「うっせ!それよりお嬢。待ってる間に、三馬鹿にここから半径500メートル程を探索させてみたんだが……」

 「敵がいない?」

 「ああ、完全に無警戒。たぶん、敵は結界がある内に上陸されるなんて考えてねぇぞ」

 

 あり得ない話じゃないわね。

 人間では、陸に上がった奴等にさえまともに対抗出来ないと思ってる。

 そんな奴らなら、生身で深海棲艦を倒すことができる人間が内火艇ユニットを背負ってダース単位で上陸してるなんて夢にも思わないでしょうね。

 いやそもそも、作戦開始時点からおかしかったわ。

 ほぼ完全な形での奇襲成功。

 艦隊のローテーションを円滑に回せる余裕。

 膠着してからも、数的不利を補って余りあるほど有利に戦えてる。

 まあいくら有利と言っても、姫級であるギミックを本格的に落とそうとしたら相応に消耗するでしょうけど、それでもこちらが優勢なのは変わらない。

 敵は米艦隊に気を取られて西側を疎かにして、おそらく島内に配備してた艦まで外の迎撃に駆り出したんだわ。

 人間や潜水艦が侵入したところで、ギミックや中枢棲姫に被害を与えられないと考えてる可能性は十分あり得る。

 

 「オヤジは、この状況も予想して作戦を考えたんすかね?」

 「いいえ。お父さんは、こんな状況はまったく予想してないわ」

 

 敵がここまで馬鹿だなんて普通は思わない。

 でもそのせいで、お父さんの弱点が露呈しちゃったわね。

 圧倒的不利な戦いに慣れすぎたせいで、圧倒的有利に持ち込めるほどの馬鹿に対処しきれない。

 きっと今でも、この状況が敵の作戦の内なんじゃないかと疑ってるはずだわ。

 

 「飛車丸、ソレを押して山を登れる?」

 「内火艇ユニットの馬力があっから問題ねぇよ。ってか、お嬢。俺の愛車のカブちゃんを、ソレなんて呼び方しねぇでくれよ。コイツはもう俺だ」

 

 ちゃん付け!?

 い、いやそれはいい。

 問題は、そのカブちゃんと出会ったのがほんの数十分前ってことよ。たった数十分で愛車扱いなの!?

 しかも最後の台詞って何?

 角ちゃんが「相棒のその台詞、久々に聴いたっすわ」とか言ってるってことは、それが飛車丸の決め台詞なの!?

 

 「スーパーカブっすか。あ、しかも90ccじゃないっすか。よく燃料が残ってたっすね」

 「車とかからも適当に集めた。コイツ、最悪サラダ油でも走るし」

 

 それって都市伝説じゃないの?マジなの?

 って言うか、大丈夫なの?

 

 「さすがカブっす。コイツがありゃあ、他のバイクはいらないっすね」

 「低燃費で維持費も安いしカスタムパーツも豊富。さらに!22メートルのビルの屋上から落としても動くという脅威の耐久性!」

 

 おいそこ、カブのダイレクトマーケティングを敵地でやってんじゃない。

 そんなに好きなら、帰ってからカブ専門店でも経営しろ。

 

 「俺、この戦争が終わったらカブ天国のベトナムで、カブの専門店を開くんだ……」

 

 あ、馬鹿が死亡フラグ立てやがった。

 まさかどっかの中尉みたいに、ギミックの股間目がけてカブで突っ込む気じゃないでしょうね。

 悲しいけど、これ戦争なのよ?

 だから真面目にやって。

 

 「バカな事言ってないでさっさと行くわよ!砲撃は予定通り行われるんだから急がないと!」

 「うっす!」

 「あ、そうだ。護衛がいたらどうする気?内火艇ユニットがあるとは言っても、気休め程度にしかならないのよ?それとも、護衛はその AW50Fでどうにかするの?」 

 「もちろんっす!これさえありゃあ、自分は無敵っすから」

 

 ちなみに、角ちゃんが自慢気に掲げて見せたのは、愛銃であるAW50F 。

 英国製の50口径仕様の対物狙撃銃でスチール製、重量13,640g 、全長1,350mm、銃身長686mm。

 狙撃銃なんか使わない私が、なぜ重量やらなんやらを知ってるかと言うと……昔っから暇さえあれば語られてたから。

 そう……散々聞かされた。やれバレルがどうとか、やれ装弾数がどうとか……。

 酷いと思わない?

 私、銃とか興味ないのよ?

 それなのに飽きるほど聴かされてたもんだから、下手な銃オタクより銃に詳しくなっちゃったわ

 

 「お、お嬢?どうして自分を睨むんすか?ほ、ほら時間も迫ってるしそろそろ……」

 「ふん、帰ったら覚えてなさいよ」

 

 帰ったら、とりあえず10発は殴ろう。最低でも5~6回殺してやる……は、置いといて。

 それじゃあ、帰って真っ先にやる事もきまったし、そろそろ進軍再開と行きますか。

 

 「みんな、よく聞いて。敵はこんな状況で本丸を空にする大馬鹿者よ。この中に、そんな馬鹿相手にビビる奴なんていないわよね?」

 「ご冗談を。こんな楽な戦場、そうそうありません」

 「又左の言う通りだな。そう言うお嬢こそ、ビビってねぇか?」

 「相棒、お嬢に限ってそりゃねぇっすよ。俺ら以上の戦闘狂っすよ?」

 

 相変わらず口の悪い世紀末生物共め。

 でもいいわ。

 今はその口の悪さが、100万の援軍よりも頼もしいから。

 

 「よろしい。じゃあ、手はず通りここから二手に別れる。第一分隊は中枢棲姫。第二分隊は山中腹のギミックへ。いいわね!」

 『応!』

 

 敵地だから声は潜めているけど、確かな決意を秘めた返事がきた。

 さっきまでのふざけた雰囲気は欠片もないわね。

 その目には静かな殺意。

 その手には、殺す事に特化させた自慢の獲物。

 かつて、お父さんの呼びかけに応え、碌な武器もなしにバケモノ相手に殺し合いを繰り広げていた命知らず共。

 奇兵隊のトップランカーのみを集めたこの小隊の強さは、大袈裟でもなんでもなく陸軍の一個中隊に匹敵する戦力よ。

 

 「さあ、仕事の時間よ。ハワイの大地を、敵の鮮血で染め上げろ!」

 『応!!』

 

 結界への砲撃開始まで約5時間。

 私たちが失敗したと判断したら、お父さんは躊躇なく本格侵攻を開始する。

 そうなれば、艦娘の被害も増えるでしょうね。

 正直言って、顔見知り以外の艦娘がどうなろうと知った事じゃないけど、私の失敗はそのままお父さんが立てた作戦の失敗を意味する。

 それはダメ。

 お父さんの作戦の本命はあくまで私。

 私が失敗して、その後に中枢棲姫の討伐が成ってもそれは失敗と同じだわ。

 お父さんの後ろを朝潮が守ってるならば、私は道を切り開く。

 お父さんと歩く、勝利の道を。

 

 

ーーーーPM 12:00

 

 

 第二分隊と別れてそろそろ4時間。

 遠くから微かに銃声が聴こえてるから、あっちは攻撃を開始してるわね。

 

 「愛しの角ちゃんが心配ですか?お嬢」

 「又左には、私が心配してるように見えるの?」

 「ええ、そんなに思い詰めた顔をして山を見つめてれば、誰でもそう思いますよ」

 

 そう言われて後ろを見てみると、他の隊員数名がニヤニヤしながら私を見てた。

 いや、確かに角ちゃんがいるマウナロア山を見上げる頻度は高かったとは自分でも思うけど、そんなに酷かった?

 

 「お嬢ほどの女性にそこまで想ってもらえるなんて、角が羨ましいですね」

 「女を斬り殺すのが趣味の変態が何言ってんのよ。又左からしたら、女なんて欲求を満たすためだけのモノでしょ?」

 「お嬢、それは僕を誤解しています。確かに僕は女性を斬るのが趣味ですが、あくまで強い女性に限ります」

 

 変なこだわりね。

 こう言ったら身も蓋もない気がするけど、強い女とそうじゃない女を斬った感触なんて、硬いか柔らかいかの違いだけじゃない?

 

 「今まで斬ってきた中でも、お嬢は一番良い。きっと僕は、お嬢を斬ったら満足して剣を捨てると思います」

 「いやいや、私なんて、あなたと比べたらそこらの素人娘と大差ないでしょうが」

 「そんなことはありません。確かにお嬢は未熟です。剣の腕なら僕どころか、剣の下位の者とどっこいでしょう」

 

 うわぁ、思ってたより、私の腕前は大したことなかった。

 まあでも、剣に属する奴らは、下位の者でも世が世なら免許皆伝レベルって話だから、それとどっこいって言われることを誇るべきかもね。

 

 「僕が言う強い女性とは、何も腕っぷしが強いと言う意味ではありません。僕が求めるのは心の強さ。鎮守府にいる全ての女性を値踏みしましたが、お嬢ほど心が強い女性はいませんでした。次点で、頭にドーナツをつけている駆逐艦ですね」

 「満潮には手を出すな。もし出したら、お父さんの部下だろうが関係なくぶった斬るわよ」

 

 私がそう言ったら、又左は肩を竦めながら「可能な限り我慢します」と言ってくれた。

 でも、又左の女を見る目は確かね。

 私も、私に準ずるほど心が強い女は満潮だと思う。

 いや、見誤ってるかしら。

 今の時点では、あの子は肉体的にも精神的にも未熟。

 でも、切っ掛けさえあれば私以上になると、私は睨んでる。それこそ、お父さんとタメが張れるレベルにね。

 

 「大人しく、お嬢が死合ってくれる気になるのを待ちますよ」

 「そうしてちょうだい。それより、配置は?」

 「中枢棲姫と、その取り巻きを囲うように完了しています。あとは、第二分隊の合図を待って突撃するだけですが……。アレ、倒せるんですか?」

 

 雑談……いや、現実逃避スレスレの気分転換は終わりとばかりに、又左が冷や汗を流しながら中枢棲姫を見るよう、私を横目で促した。

 ええ、配置につく前、アイツを視界に収めた時に、私も同じことを思ったわ。

 いや、もしかしたら、私がマウナロア山を見てたのは角ちゃんが心配なんじゃなくて、助けてほしかったのかもしれない。

 ううん、そうだったんでしょうね

 私はこの場から離れたい。見たくない。歯向かうなんて、考えただけで死ぬより怖い。

 アイツを一目見ただけで、私や他の者たちはそこまでビビらされた。

 正直言うと、又左が茶化してくれなきゃ、合図が来ても硬直したままだったと思うわ。

 でも、中枢がどんなに恐ろしい奴だろうと……。

 

 「倒すわ。そのために、ここまで来たんだから」

 

 と、震えそうになる声を無理やり抑え付けて、又左に宣言すると言うより、自分に言い聞かせた。

 

 

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