艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第百十六話 芝居は終わりだ。幕を降ろせ!

 

 

 

 

ーーーーPM 12:30

 

 「提督、第一、第二主力艦隊の補給が完了しました。出してよろしいですか?」

 「ああ、すぐに出せ。雪代中佐、呉艦隊から連絡は?」

 

 辰見さんに指示を出し終えた提督は、ついでとばかりに呉艦隊の現状を聞いてきましたが……あまり報告したくないですね。

 何故なら、砲撃開始30分前だと言うのに、未だ呉艦隊はレーダーでも捕捉できない距離にいるんです。

 まあそれでも、報告しないわけにはいきませんので……。

 

 「現在ハワイ島の北、約10海里を航行中です」

 「ギリギリだな……」

 

 機嫌を損ねる事はなかったようですが、提督がおっしゃった通りギリギリです。

 カタログスペック上は主砲の射程内ですが、少し距離が有り過ぎます。

 もっとも、提督が待っているのは呉艦隊……正確には、それが護衛している三つ目の囮。

 アレが結界をどうにか出来るとは誰も思ってないでしょうが、島へ砲撃している場面をカメラのフレームに収められなければ意味がありません。

 

 

 「『DJ』に、ヘリで出るように伝えてくれ。『放送』の仕方は任せるともな」

 「了解しました」 

 「『DJ』をヘリで?何をさせる気だ?」

 「言ったでしょう、艦長。放送と。文字通り、この戦場を放送するんですよ」

 「プロパガンダにする気か?だが、艦娘の戦闘はたまに放送してるんじゃねぇか。まあ、ここまで大規模な戦闘は放送した事ぁねぇだろうが」

 

 そう、この作戦の本命は、この戦場の様子を放送する事。

 この作戦は、発案当初は攻略戦として進められましたが、途中から宣伝戦(プロパガンダ)として計画し直されたそうです。

 もっとも、大筋は変わっていません。

 だから我々は、()()の作戦通り事を進めているんです。

 ()()の作戦通り、攻略戦を。

 

 「少し違います。プロパガンダには違いないですが、放送の主役は艦娘じゃありません」

 「じゃあ、何だってんだ?艦娘以外に、深海棲艦と戦える存在なんて他にねぇぞ?」

 「ええ、ありません。ですが、()()()()()()()()()()()物なら今も存在しています」

 「戦っているように見える?もしかして護衛艦か?だが、今の海軍に宣伝で使えそうな護衛艦なんざ……。おい、まさかとは思うが……」

 「そのまさかですよ、呉に記念艦として現存していた『戦艦 大和』。それが、呉艦隊の旗艦です」

 「あの骨董品を動かしたのか!?よく、呉市民が受け入れたな!」

 

 苦労したらしいですよ?

 私が得た情報によりますと、プラカードを持ってデモ行進や座り込みは当たり前。中には、「酒さえあれば深海棲艦とも分かり合える!」とか宣うアホの集団もいたとか。

 それを聴いた時は、それができれば10年近くも戦争なんてしてねぇよ。と、誰にともなくツッコンでいました。

 まあ、調べてみたら案の定、アクアリウムと繋がった人たちでしたけどね。

 

 「元帥殿が現地で演説したらしいです。曰く、大和はこの日のために存在し続けていたとかなんとか。それでも完全に納得させられた訳ではないですが、実際に大和を動かしたら自然と鎮静化したらしいです」

 「だが、大和が動いたなんて話はニュースでも見なかったぞ?」

 

 あ、それはおそらくお金で黙らせたんだと思います。

 今のご時世……いえ開戦前から、世の中に真のジャーナリズムは存在してませんでしたから。

 まあ、これは言わないでもいいか。

 

 「マスコミが本当に国家に逆らえるとでも?情報規制は徹底的に行われていますし、ネット上の噂はどうにも出来ますので、なんとか噂レベルで抑えることは出来ました」

 

 むしろ、噂はあえて残したんじゃないですか?

 目的まで私程度では想像もつきませんが、提督が何の目的もなくそんなことをするとは思えません。

 

 「呆れたな。税金の無駄使いだ。役に立たない物を担ぎ出して、どうしようってんだ?」

 「元帥殿は、疲弊した国民の心を奮い立たせるため。と、オブラートに包んで言ってましたが、本当は戦争中と言う事実を思い出させるためでしょう。そして、その戦争に勝てるのだと実感させるため」

 「なるほど、日本に帰って来て違和感は覚えてたが、原因はそれか。あの、戦時とは思えない程平和的な雰囲気は異常だ。浮かれて忘れようとしてるだけかと思ったが、本当に忘れてたって事かい」

 

 そう、今の日本は異常です。

 艦長の言う通り、浮かれて忘れたいと思っている者もいるでしょうが、全体から見ればマイノリティでしょう。

 つまり、大半の国民は本当に忘れてしまっているんです。

 国防が上手く行き過ぎているせいで、9年前の悲劇が風化しかけている。

 いつ9年前の状況に戻るかもわからないと言うのに、今も深海棲艦によって出ている被害が対岸の火事状態なんです。

 そのせいで、軍縮を叫ぶ馬鹿者まで現れる始末ですからね。

 

 「ええ、艦娘を実際に見た事がない者も多いですからね。そういう者達からしたら、艦娘はゲームかアニメの中の様な存在です。現実味がない。ですが、大和は違う。観光地になるほどの知名度があり、実際に見た者も多い。それが戦う様を全メディアで一斉に放送すれば、嫌でも今が戦争中なのだと実感できます」

 「噂レベルじゃ広がってるしなぁ。だが、負けたら逆効果じゃねぇか?負けると暴動が起きかねねぇぞ?」

 「だから、負ける訳にはいかないんですよ。勝てば国民の心に戦争中という自覚と、その戦争に勝てるという希望が芽生え、負ければ絶望だけが残る。元帥殿一世一代の大博打です」

 

 まあ、大和が戦っている姿を画面越しに見ただけで、国民すべてが自覚するとも思えないですが、やらないよりはマシでしょう。

 国民が自覚し、納得すれば、艦娘に使ってやれる予算も増えるかもしれませんしね。

 

 「厄介な事に巻き込みやがって。もし負けたら、国にゃあ帰れねぇじゃねぇか」

 「そうなったら、米国に亡命でもしますか?ワダツミは良い土産になります」

 「冗談じゃねぇ。三食BBQじゃあ早死にしちまうよ」

 「おや?死にたがってたのが嘘のような言いようですね」

 「けっ!お前ぇのせいだろうが!」

 

 悪態をつく割に、艦長さんはどこか嬉しそうに見えます。

 浮沈漢 沖田と言えば、知ってる人からすればこの戦争最大の功労者の一人なんですが、にわか知識の人たちからは『海軍を終わらせた男』とか『正化の牟田口(むたくち)』等々、散々な言われ方をされた人です。

 だから、タウイタウイなんて僻地にいたりした訳なんですが……。

 あの様子では、そんな陰口を気にしないどころか楽しめるまでになったようですね。

 ん?この反応、そして報告は……。

 

 「結界に異常発生!北側の強度が増しています!」

 

 思わず声を荒げてしまいましたが、北面の強度が増すなんて想定外です。

 でも、なんのために?

 北側から来るのは呉艦隊しかいません。

 呉艦隊の艦娘は水雷戦隊だけなのに、何をそこまで警戒した?

 まさか、大和を?

 大和の主砲を警戒した?

 通常兵器をほぼ無効化する結界に守られているのに?

 

 「北側以外の強度はどうだ?」

 「変わりありません。北側だけ、強度が増した状態です」

 

 他の強度を維持したまま、北側だけ強度を増した……

か。

 北側に回した艦力はどこから捻り出した?

 温存していたの?

 それとも、本来なら回さないはずの艦力を、無理して回して強化した?

 

 「どうすんだ?砲撃開始まで5分もねぇし、水上打撃部隊は射程ギリギリの位置まで移動しちまってるんだろう?」

 「砲撃は予定通り行います。そもそも、砲撃の目的は陽動ですから」

 

 そう、時間を合わせての一斉砲撃は、破壊が目的ではなく、結界を維持させ続けるためなので、北側の強度が増したところで関係ありません。

 中枢棲姫の気を逸らせば、後は神風さんが上手くやるはずですから。

 

 「提督、時間です」

 「よし!結界へ砲撃開始!大和には、私が止めろと言うまで撃ち続けるよう伝えろ!砲が壊れても構わん!」

 「了解しました」

 

 さて、各艦隊へ伝達したら、あとは待つだけ。

 モニター越しに見える、ハワイ島の上空に広がり続けている爆炎の花畑を見ながら、彼女からの報告を待つだけ。

 

 「あんまり、気持ちのいい光景じゃねぇなぁ」

 

 艦長さんの言い分もわからなくもないです。

 砲撃されているのが日本なら、絶望してもおかしくない光景です。

 目標が島だからか、嫌でも日本と重ねて見てしまうのでしょうか。

 ですが、提督は……。

 

 「私は、胸がすく思いです」

 「お前ぇさんは、日本が爆撃される光景を見てねぇから言えるんだよ。ワシは、見ちまったからなぁ……」

 

 なるほど、艦長は日本が爆撃されるところを海上から見たんですね。

 なら、提督のように思うことが出来ないのも無理はないです。

 敵地とは言っても、かつて見た光景と今の光景が、重なって見えてしまうのでしょう。

 

 「失言でした」

 「気にすんな。お前ぇさんの気持ちも、わかるからなぁ」

 

 なんだかしんみりしてしまいましたが、ここまでは作戦通り。放送も問題なく行われているようです。

 後は……ん?これは、鳳翔さんから?

 内容は……。

 

 「鳳翔より入電!マウナロア山中腹に爆発を確認!同時に、結界強度が減衰しました!」

 「さすが奇兵隊だな。ギミックの破壊は上手くいったようじゃねぇか」

 

 ええ、島内ギミックの破壊成功は、確かに朗報です。

 ならばもうすぐ、神風さんが中枢棲姫に突撃を開始する。

 島内の様子がわからないのが辛いところですが、予定通りギミックが破壊できたのだから、神風さんも予定通り事を進めるはずです。

 

 「結界北側はどうだ?大和の攻撃は、効果があったのか?」

 「認められません。もっとも、北側は強度が倍近くになっているので、そのせいかもしれませんが」

 

 問われて反射気味に答えてしまいましたが、事実です。

 ですが、疑問は残ります。

 何故、北側の結界を強化した?

 通常では貫かれる可能性があるから、北側の強度を増したのでしょうか。

 ですが、大和は艦娘じゃあありません。ただデカいだけの通常兵器です。

 その大和と同等の火力を誇る武蔵が居る方の結界は元のままなのに、なぜ艦娘ではなく軍艦の方を警戒した?

 いや、待ってください。

 横須賀に戻るなり、私は提督が元帥閣下から聴かされた与太話を聴かされました。

 それを事実と仮定するなら、元帥閣下が知っている歴史の方で、大和はどうなったんでしょう。

 もしかして、沈んでいるんじゃないですか?

 だとすれば、現在北側から砲撃している大和は本来なら存在しない事になります。

 深海棲艦と同じくらい、世界にとって異物です。

 だから警戒した?

 いや、恐れたの?

 もしかして、大和は深海棲艦に対抗出来る、唯一の通常兵器だったんじゃないですか?

 呉が攻撃を受けなかったのは、大和が在ったからと言う都市伝説もそれなら理解できます。

 そうか、そうですよ!

 大和を恐れて近寄らなかったんですよ!

 だとしたら勿体無い。

 無駄と言っても過言じゃあありません。

 大和が深海棲艦に有効打を与えられる可能性があったのなら、提督は囮ではなく最初から攻略に投入していたはずです。

 ん?また通信が……。

 しかも、この通信コードは……。

 

 「提督!フラワー1から入電です!」

 「来たか。なんと、言ってる?」

 

 神風さんが無線封鎖を解除した。時間的にも予定通りです。

 今は落ち着いて、大和の事は今は忘れてしっかりと内容を聴きましょう。

 だってこれは、ギミック破壊以上の朗報になるはずなんですから。

 

 「一言だけです。トラ、トラ、トラ」

 「こりゃあまた、古い暗号を……。お嬢らしいっちゃらしいが……」

 

 トラトラトラ。

 これはかつての日本海軍が真珠湾攻撃の際、敵の防御が効力を発揮する前に攻撃可能であると指揮官が判断した場合に用いられた暗号で、意味は『我、奇襲二成功セリ』です。

 勘違いされがちですが、これは攻撃が奇襲によって()()された事を示すものであり、攻撃が成功した事を意味するものではありません。

 それを神風さんが突撃時に使ったと言う事は、『中枢棲姫自身に装甲は無し、よって突撃を敢行する』と言う事です。

 そして同時に、神風さんが倒せると判断したと言う事。 

 成功するのは規定事項。

 突撃すれば、必ず成功させる。

 神風さんなら、必ず成功させると思わせてくれるに足りうる内容です。

 

 「吹いたなぁ」

 「ええ、風が吹きました」

 

 提督と艦長さんが感じたように、私も感じました。

 風など吹いていないのに、艦橋内に突風が吹いた気がしました。

 まだ結果は出ていないのに、勝てると確信してしまう勝利の風を、彼女を良く知る者たちは感じたんです、

 

 「全艦隊に通達。両島のギミックを全て破壊しろ。同時に、ワダツミをハワイ島へ向けて前進させろ」

 「ですが提督、結界は未だ健在ですよ?」

 「心配するな辰見。結界は、もうすぐ消える」

 

 辰見さんは確認のために言ったんでしょう。実際、その表情には疑問も不安もありません。

 彼女もまた、神風さんを良く知る人。

 神風さんを信じている者の一人。

 提督や艦長さん。そして左近司中佐や私と同じく、絶対に中枢棲姫の首を高らかに掲げて戻ってくると信じています。

 ならば、その時に外野は邪魔ですね。

 この作戦最大の戦果を挙げた人なんですから、帰りくらいは堂々と凱旋させてあげないと。

 と、私と同じことを考えているはずの提督は、席からゆっくりと立ち上がって……。

 

 「改めて言うぞ。全艦隊にギミックを破壊させろ。囮作戦終了、総攻撃開始!(芝居は終わりだ。幕を下ろせ!)

 

 と、高らかにおっしゃいました。

 そしてこれが、太平洋側の覇権を賭けた戦いの勝敗が決した瞬間でした。

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