艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第百十八話 ただいま……司令官

 

 

 

 

 

 砲声と爆音が響かせるメロディーと、砲火による爆煙に彩られたヴェールの奥から姿を見せた時、あなたの装いは変わっていた。

 

 あの時と同じ蒼い瞳に、あの時とは違う白い装束。

 だけど、私は見間違えなかった。

 あなたはアサシオ。

 私が愛したアサシオ。

 私の……アサシオ。

 

 「朝潮型駆逐艦 一番艦 朝潮!抜錨します!」

 

 高らかにそう名乗ったあなたは、前と違っていた。

 さらに以前のあなたとも違っていた。

 ステップは前以上に美しく、砲撃は繊細かつ大胆。雷撃は奇抜なのに、何故か不可思議な軌道が自然なことのように思えた。

 

 「美しい……」

 

 あなたに魅せられた私には、それ以外の感想が思い浮かばなかった。

 あなたは女神。

 艶やかな黒髪を靡かせて戦場を駆けるあなたは、正に戦の女神。

 ()()()()()には、そうとしか思えなかった。

 

 ああ、()()()()あなたを抱きしめたい。

 ()()()()あなたと添い遂げたい。

 早くあなたと、愛し合いたい……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 『提督より全艦隊に通達。芝居は終わりだ。幕を下ろせ。です』

 

 通信を通して、雪代中佐が司令官のお言葉を伝えてくれました。

 司令官がそんな思い切った命令を出したと言うことは、大勢が決したということ。

 つまり、神風さんが突撃したんです。

 神風さんの成功を信じて、司令官は総攻撃を命じたんでしょう。

 

 「ならば、私も終わらせなければ」

 

 窮奇は相変わらず、艤装と連携して左右から砲撃しています。

 さっきまでは厄介だと思っていたのに、着弾点が撃たれる前に予想できる今では、さしたる脅威ではありませんね。

 

 「戦闘勝法より、対窮奇戦の全結果を検索。同時にダウンロード開始。ダウンロード終了後、マップを作成」

 

 戦闘勝法の最大の強み。

 それは予測される敵の航路と着弾点を脳内に思い浮かべた海図に記し、私が取るべき最適な航路と攻撃場所を事前に選定できることです。

 ですがこれは、()()()()()に窮奇と戦った際に窮奇の出鱈目な行動で予定を狂わされたように、普通の艦娘や深海棲艦がしないようなことをする相手や、経験が全くない状況では効果が激減します。

 ですが、()()()なら……。

 

 「見てからアドリブで対応しても、十分に間に合います」

 

 私は蒼備え状態の稲妻、波乗り、水切りを駆使して砲弾を躱しながら、2000mほどの距離を取っている窮奇とその艤装との間に移動しました。

 傍から見ると、自分から挟み撃ちされに行った感じでしょうか。

 窮奇も艤装もこれ幸いと撃ってきますが……。

 

 「私には当たりません!」

 

 前後から殺到してくる砲弾を、捻り駒で回転しながら直撃弾と至近弾のみ()()し、残りは無視しました。

 そう、撃墜です。

 撃ち墜とせる技量と、弾速と弾道を見極められる目を持つ私にとって、降ってくる砲弾なんて速度が速いだけの艦載機と同じなのですから。

 

 「魚雷!全弾発射!」

 

 私と窮奇の間に昇った何本もの水柱が、私たちの間に壁を作ったのを見計らって、後方から迫る艤装目掛けて発射管だけ後ろに向けて魚雷を発射しました。

 魚雷が海中に消えた頃には水柱も消えかけていましたが、窮奇からは魚雷を発射したところは見えていないはず。

 艤装からは見えたでしょうが……回避する様子は今のところないですね。

 もっとも回避されたところで、海豚で魚雷の針路を変えれば良いだけなので問題はありませんが。

 

 「次発装填!」

 

 私がそう言うと、魚雷発射管の中で、弾薬を材料に魚雷が精製され始めました。

 窮奇までの距離は約800。

 あっちは余裕があるのか、それとも私が来るのを待っているのか移動しようとしません。

 艤装の方は……。

 よし、相変わらず、足元に魚雷が迫っているのに、馬鹿正直に砲撃しながら真っ直ぐ私を追って来てます。

 いくら雷跡が見えにくい酸素魚雷と言っても、撃つ瞬間を見れば針路を変えるくらいはするはずなのにそうしないと言うことは、常に操作されてる訳じゃなくて簡単な命令に従ってるだけなのでしょう。

 

 「ぎょ、魚雷10発の直撃に堪えますか……」

 

 後方で爆発音がしたので確認してみると、下半身を吹き飛ばされた艤装は、大きな腕で海面を蹴りながら私へと猛進していました。

 まるでテケテケですね。

 ただでさえグロテスクな外見なのに、動きの気持ち悪さも加わって見ているだけで寒気がしてきます。

 

 「でもまあ、アレなら……」

 

 窮奇の艤装は腕で歩行しているせいで、肩の砲では狙いがまともにつけられないのに構わず撃ってますが、砲弾は明後日の方へと飛んでいるので脅威ではありません。

 ですが、窮奇と合流されたらどうなるかわかりません。

 なので、窮奇の戦力を削る意味でも、あの艤装は沈めないと。

 

 「そこです!」

 

 右手の連装砲で窮奇を牽制しつつ、顔と左手の主砲だけ艤装に向けて、二門ある砲身ごとに別々の狙いをつけ発砲。

 ですが、いくら艤装が半壊してると言っても、たった二発で倒せるはずはありません。

 しかも、一基の連装砲を分け撃ちしているのですから尚更です。

 ですが、これで十分。

 最初から、私の火力で沈めようとなどとは考えていないのですから。

 

 「さて、これで窮奇は丸腰に近いはず」

 

 私が撃った砲弾は、艤装の両肩の砲身に吸い込まれて誘爆を起こし、腕ごと両肩を吹き飛ばしました。

 思ったより上手くいきましたね。

 砲撃を止められただけでも十分と考えていたのですが、肩から腕が欠落した艤装は海の底へと消えて行きました。

 

 『凄いわ!あの時と同じね!』

 

 あの時?

 ああ、以前の私と戦った時ですか。

 たしかその後、魚雷を発射しようとしたところでネ級の砲撃を受けて、私は片腕を失ったんでしたね。

 でも、今回はそうなりません。

 随伴艦はみんなが足止めしてくれてます。もしかしたらもう、倒してるかもしれません。

 あなたのお望み通り、正真正銘二人きりです。

 

 『うふふふ♪それじゃあ、終幕(フィナーレ)と行きましょうかアサシオ。もう、これ以上我慢できないわ』

 「ええ、終わりにしましょう。かかってきなさい窮奇!さあ、お仕置きの時間です!」

 

 あなたが何を我慢できないのか知りませんが、私も我慢の限界なんです。

 早く司令官に会いたくて仕方ないんです。

 

 「全魚雷!発射と同時に艦力で牽引!」

 

 再装填終了と同時に全魚雷を発射した私は、艦力の糸。通称『艦糸(かんし)』で10発全てを繋ぎ、追い越して、窮奇との距離をさらに詰めました。

 恍惚に歪んだ窮奇の顔が段々と近づいてくるのに、若干の悪寒を感じていますがまだ我慢できる。

 窮奇の歪んだ愛情を、ヒシヒシと肌で感じていますが、まだ戦えます。

 

 「一発必中!肉薄するわ!」

 

 ここからは、ずっと私のターンです。

 あなたにはもう、何もさせません。

 今度はあなたが踊る番。リードするのは、終わるまでずっと私です。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 アサシオは、私に抱かれるために来てくれた。

 私と愛し合うために来てくれた。

 私も早く、あなたと抱き合いたいと思った。

 あなたの華奢な体を、早くこの胸に抱きたいと思った。

 でも、それは叶わなかった。

 

 アサシオが撃った砲弾が、私の装甲に当たって()ぜた。

 何度も何度も、幾重にも重なって爆ぜ続けた。

 艤装を失ったせいで装甲の強度が落ちてた私を、容赦なく痛め付けた。

 

 でも、私はそれが嬉しかった。

 アサシオの殺意を肌で感じ、アサシオから与えられる痛みが心にまで染み渡った。

 手も足も出ない状況だったのに、それまでに経験したどの戦闘よりも、私は高揚していた。

 

 そして、右手に纏った蒼い光で私の装甲を貫いて放った最後の一撃が、ラストダンスの終わりを告げた。

 

 ああ、早く。

 一刻も早く、新たな序曲(プレリュード)を響かせたい。

 もう一度、あなたと踊りたい。

 

 あなたが最後に言ってくれたあの言葉に従って、()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

 

ーーーー

 

 

 蒼備え状態の水切りを使った戦舞台。

 その速度と機動力に、窮奇の照準も回避運動も、全くと言って良いほど間に合っていません。

 ですが、これだけ痛め付けているのに……。

 

 「ああ!良いわアサシオ!もっと!もっと撃って!もっとあなたを感じさせて!」 

 

 などと、相変わらずの精神攻撃を仕掛けてきています。

 あちらは体力的に、私は精神的に追い詰められている感じでしょうか。

 

 「気持ち悪いって、何度も言ったでしょう!」

 

 私は窮奇の腹部に、ゼロ距離からの砲撃をお見舞いしてから、100mほど距離を空けました。

 このままではらちが明きません。

 ならば、私が行使できる最大威力をもって、決着を付けましょう。

 

 「誠を尽くせば……」

 

 牽引した魚雷全てを、真横に突き出した右手の周囲へと集め、円形にして回転開始。

 

 「願いは、天に通づ」

 

 次いで砲弾として形成……完了。

 本来なら、砲弾形成後に即発射なのですが、戦舞台中に撃ちまくって確認したところ、艤装が無いにもかかわらず、窮奇の装甲は厚かった。

 それこそ、魚雷10発に堪えた艤装並みにです。

 なので、このまま発射しても倒しきれない可能性があります。

 

 「神風さん。技を、お借りします」

 

 砲弾先端部に艦力を多めに集中し、回転数を上昇。

 すると、まるでドリルのような音を響かせ始めました。

 これから私が敢行するのは、神風さんの奥の手中の奥の手。全てを、命すら擲って死線を引きちぎり、生を掴み取る必殺の一撃。

 その名も……。

 

 「神っ……!狩り!」

 

 音速に至る飛魚での接近は刹那。

 神狩りは一瞬よりも短い時間の最中に、自装甲の敵装甲への食い込み具合を見極めて解放しなければなりません。

 自信がなかった以前の私では絶対にできなかったでしょうが、今の私ならばできます!

 

 「からの!」

 

 装甲の破壊を完了。

 装甲を破壊された窮奇は、さっきまで私がいた場所を見つめています。

 そのまま、すでに私がいない場所を見つめていてください。

 次にあなたが見るのは、暗い水底の光景です!

 

 「ゼロ距離!至誠通天!」

 

 発射と同時に、私は後方へと待避しました。

 飛魚で飛んでから待避するまで、時間にして二秒経ったか経ってないかと言ったところでしょうか。

 その短い時間で繰り出した攻撃に晒された窮奇は、魚雷10発分の爆発に装甲が無い状態で巻き込まれて、跡形もなく消えて……。

 ん?炎を纏った水柱の中に、人影が浮かんでいるのですが、アレはもしかしなくても……。

 

 

 「アサ…シオ……ア…サ……シオ……」

 

 やはり窮奇でしたか。

 至誠通天を装甲の内側で、しかもゼロ距離で食らってなお形を保っているのは驚きですが、残っていた右腕を失い、全身を裂傷と火傷に覆われている様を見るに、かろうじて航行するのが精一杯でしょう。

 

 「何故そこまで、私を求めてくれるのですか?」

 

 私を求めてユラユラと近づいて、ついには目の前にまで来た窮奇に私は問いました。

 いえ、聞くだけ野暮でしたね。

 あなたが私を求めるのは、私を愛しているから。

 私があの人を求めるように、あなたも私を求めてる。

 ですが、私を初めて愛してくれたあなたを、そんなに傷つけた事にわずかながら罪悪感を覚えていますが、後悔はしていません。

 でも、あなたの気持ちは痛いほどわかります。

 それでも、私はあなたの気持ちには応えられません。

 応えてあげる事が出来ません。

 だって、あなたは私の気持ちを無視しています。あなたの愛は、一方通行なんです。

 私が好きなのは司令官です。

 私を救ってくれた司令官です。

 私が愛しているのは、あの人だけです。

 だから、あなたが入り込む隙間はありません。

 

 「あ…いし…て……。愛し……」

 「あなたの気持ちは受け取りました。だから、お答えします」

 

 私の目の前まで来た窮奇の顔に生気はない。

 顔は血まみれで目は虚ろ。ブツブツと愛してると繰り返すだけ。

 今のあなたに私の声が届くのか疑問ですが、そんなになってまで気持ちを伝えに来てくれたあなたに答えないなんて不義理はしませんし、したくありません。

 

 「私はあなたが嫌いです。あなたのモノには、絶対なりません」

 「あ…あぁ……」

 

 私の答えを聞いた窮奇の目からは涙が流れ、頭を垂れて膝から崩れ落ちました。

 窮奇は以前の私の仇であり、司令官を危険に晒した憎むべき相手ですが、あまり良い気分ではありませんね。

 なら、最後くらいは……。

 

 「私の胸で、逝かせてあげます……」

 

 私は窮奇の頭を抱きしめ、そして撫でてあげました。

 だってこの人は、あの人を傷つけた憎い人であり、私を何度も殺そうとした怖い人。

 そして、気が狂うほど私を愛し、求めてくれた人なんですから。

 

 「嫌わ……ないで……」

 「それは、無理です」

 「あなたと、一緒に居たい……」

 「あなたが艦娘なら、それも出来たかもしれません」

 

 だけど、私とあなたは敵として出会った。敵として、出会ってしまいました。

 それが、私とあなたの不幸の始まり。

 私とあなたの、因縁の始まり。

 そして窮奇は、私の言葉を噛み締めるように大きく息を吐いて、砂のように崩れました。

 私の胸元に残ったのはサッカーボールくらいの大きさの紅い核。

 どんな紅より美しい、透き通るような紅い核でした。

 

 「綺麗……」

 

 あなたの想いそのもののような紅い色。

 まるで、あなたの愛を具現化したような色です。

 

 『朝潮ちゃん生きてる~?今、どこに居るの~?』

 

 窮奇の核を撫でていると、通信で大潮さんに呼び掛けられました。

 この声から察するに、随伴艦は倒したようですね。

 

 「こちら朝潮。窮奇の討伐に成功しました」

 『さすが朝潮ちゃんだわぁ♪こっちも随伴艦の撃破に成功ぉ~♪全員無事よぉ♪』

 『いや、私は大破してるんだけど……』

 

 西の方を見ると、遠目に大潮さんが手を振っているのが見えました。

 三人とも流石ですね。

 駆逐隊で姫級以上を複数含む艦隊を撃破なんて、滅多にない大戦果です。

 司令官も、きっと喜んでくれるでしょう。

 ならば、一刻も早くワダツミに帰って、褒めてもらわなければ。

 

 「第八駆逐隊旗艦、朝潮よりワダツミへ。応答願います」

 

 だから、帰路につく前にワダツミへ通信を送りました。

 一刻も早く司令官に会いたいけど、まずは安心させてあげたいですからね。

 今から帰ると。みんな無事だと。私が生きて戻ることを伝えたいんです。

 

 『こちらワダツミ、どうぞ』

 「窮奇艦隊の撃滅に成功、欠員無し。これより、帰投します」

 

 私は、雪代中佐に手短に伝えて大潮さん、満潮さん、荒潮さんに笑顔で迎えられて、一緒にワダツミへと帰投を開始しました。

 満潮さんが無事とは言い難く、荒潮さんも深化を使ったのかテンションが若干低いですが、二人とも命の危険はなさそうです。

 

 「ただいま……ただいま……ただいま」

 

 私は窮奇の核を胸に抱き、(はや)る気持ちを抑えつけて、司令官に伝える言葉を練習しました。

 私があの人に会って言いたいのは、その一言だけ。

 それだけで、きっとあの人はわかってくれる。

 それだけ言えば、絶対にわかってくれる。

 私の気持ちも、先代の想いも、全部その一言でわかってくれます。

 だから早く伝えたい。

 あの人に、ただいまと伝えたい。

 

 「見えた……」

 

 ワダツミの後部出撃ドックが見えて来ました。

 ハッチは解放されています。

 ワダツミの前方ではまだ戦闘は続いているみたいですから、流石に出迎えは期待できませんね。

 少し残念ですが、司令官は真面目な方だから指揮を放り出してまで出迎えはしないはずです。

 

 「朝潮ちゃん、その核を渡して。持っててあげるから」

 「え?」

 

 大潮さんが私の左横に来るなり、核を半ば強引に奪い取りました。

 ワダツミまであと少しだから、このまま持っていても構わなかったんですけど……。

 

 「殿方をあんまり待たせちゃダメよぉ?」

 

 今度は右横に満潮さんを曳航した荒潮さんが来て、顎でワダツミの方を指しながらそう言いました。

 殿方?待たせる?荒潮さんは何を……。

 

 「え…嘘……」

 

 出撃ドックに士官服を着た男性が、後ろで手を組んで立っています。

 あれは司令官?

 どうしてそこに居るんですか?

 外ではまだ戦闘をしてるんですよ?

 指揮を執らないとダメじゃないですか。

 

 「とっとと行きなさい。ちょっとだけなら、二人きりにしてあげるわ」

 「で…でも……」

 

 良いのでしょうか。

 だって、今はまだ作戦中なんですよ?

 それなの……。

 

 「小難しい事なんて考えなくていいの。司令官の胸に、思いっきり飛び込んで来なさい」

 

 自身の足の上にへたりこんだ状態の満潮さんが背中……じゃなくお尻を思い切り叩いてくれました。

 ダメですよ。押されたらもう止まれないじゃないですか。

 司令官の胸に飛び込みたい衝動が抑えられません。

 もう、気持ちが抑えられません!

 

 「司令官!」

 

 司令官に吸い寄せられるように体が動く。

 窮奇との戦闘で消耗しているはずなのに、疲れを全く感じません。

 司令官の姿を見たら、疲れなんてどこかに吹き飛んでしまいました。

 

 「司令官!司令官!司令官!」

 

 気づけば、私は主砲を放り出して両手を突き出していました。

 司令官も、両手を前に出して迎えようとしてくれています。

 

 「司令官!」

 

 受け身を取る事も考えずに、勢い任せで司令官の胸にむかってダイブした私を、司令官は包み込むように受け止めてくれました。

 司令官の体温を感じる。

 司令官の匂いを感じる。

 ああ、司令官、朝潮は帰ってきました。

 あなたに与えられた任務を完遂し、今度こそちゃんと生きて帰ってきました。

 朝潮()は、あなたのために帰ってきました。

 

 「おかえり……朝潮」

 

 司令官は、優しい声で私にそう囁いてくれました。

 万感の思いが篭った優しい囁き。

 司令官がずっと言いたかった、出迎えの言葉。

 言いたくても言えなかった、朝潮()への想いの塊。

 だったら私も伝えます。

 以前の私が言えなかった想いに、今の私の想いをプラスして。

 私は、司令官の顔を見上げて、一言だけ言いました。

 ずっと言えなかった言葉を、ずっと言いたかった想いを声に乗せて。

 

 「ただいま……司令官」

 

 と、朝潮()の想いを、たった一言に込めて。

 

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