艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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二部の~執筆が~~進まない( ̄ー ̄)


第百十九話 幕間 腐れ外道

 

 

 

 さて、突然ですが問題です。

 提督が満潮と大切な話があると言うので、作戦中の緊張感から解放されたと同時に襲ってきた眠気と戦いながらも提督の部屋の前で門番の如く立っていた折に、笑顔なのに怒ってるとしか思えない雰囲気を纏った鳳翔さんが現れたらどうします?

 などと、以前にも誰かがやったようなネタで(まあ、神風さんあたりでしょうけど)現実逃避している私は、提督補佐の雪代 深幸です……って、私は誰に自己紹介してるんでしょう。

 ですが、それは仕方がないんです。

 メチャクチャ怖いんです。

 私と鳳翔さん以外誰もいない廊下なのにもかかわらず、誰にともなく質問を投げ掛けたり自己紹介したりするほど、笑顔の鳳翔さんが怖いんです。

 

 「提督に話があるのですが……通してもらえませんか?」

 「申し訳ありませんが……」

 「雪代中佐。いえ、あえて深幸ちゃんと呼びましょうか。呉からの長い付き合いである私のお願いを、聞いては頂けませんか?」

 

 頂けません。

 と、声を大にして言いたいのに言えません。

 だって、言ったらきっと何かされますもん。

 いや、笑顔なんですよ?

 鳳翔さんはずっと笑顔なんです。

 ですが、今の若い子は知らないでしょうが、こういう感情を感じさせない笑顔をしている時の鳳翔さんは本当に怖いんです。

 この笑顔をしている鳳翔さんを初めて見たのは、呉にしか鎮守府がなかった頃でしたか。

 鳳翔さんは軽空母かつ、全空母最弱の性能ながら、当時の空母たちを根こそぎ泣かしていたんです。

 いえ、比喩でもなんでもなく、そのままの意味です。

 訓練と言う名のしごきで、当時の空母たちは毎日泣いていましたよ。

 あの光景を見て、「駆逐艦で良かった」なんて感想を口に出しちゃったほどですから。

 鳳翔さんはその時の笑顔なんです!

 叶うなら、今すぐこの場から逃げ出して辰見さんの部屋に逃げ込みたいです!

 

 「そうですか。ならば、致し方ありませんね」

 「脅しても無駄です。話が終わるまでは誰であろうと決して通すなと、提督から厳命されていますから」

 「話?提督は、誰と話を?朝潮ちゃん……じゃあないですよね。彼女はこの時間には寝ているはず。神風さんも、今は医務室です。ならば、提督と二人きりで密談しているのは誰ですか?」

 「お教えできません。申し訳ありませんが、提督と話があるなら日を改めてください」

 

 と、言っても諦めてくれそうにありませんね。

 これで笑顔が消えて真顔になったら、いよいよ私の身が危険になるのですが……あ、真顔になった。しかもどこに収納していたのか、弓矢まで取り出しました。

 どうやら鳳翔さんは、力ずくで私を突破するつもりのようですから、ここは本気で説得してお引き取り願いましょう。

 

 「私が言うのは差し出がましいと思って言わなかったのですが、鳳翔さんの話とは龍驤さんの件ですよね?」

 「ええ、そうです」

 

 やっぱりですか。

 提督が総攻撃を命じてほどなく、ジョンスン島にいた北方棲姫が陸上型にもかかわらず海に出ました。

 その北方棲姫を討ち取った……いえ、こう言うと語弊がありますね。

 北方棲姫の()()に立ち会ったのが、くだんの龍驤さんです。

 

 「龍驤さんの様子は?」

 「お酒を浴びるように飲んで、今は寝ています」

 「そうですか」

 

 第一機動部隊の旗艦だった赤城の報告によりますと、北方棲姫が海上に出現後、龍驤さんは機動部隊に全ての攻撃を中止させたそうです。

 それからしばらく、時間にして十数分ほど会話をしたのちに、龍驤さんと北方棲姫は戦闘を開始。

 そして数十分にも及ぶ戦闘の末に、龍驤さんは北方棲姫を抱き締めるように拘束し、自ら放った艦載機に諸とも爆撃させようとしたんです。

 まあ結果は、龍驤さんを振りほどいた北方棲姫が爆撃の雨に晒されて沈み、龍驤さんは事なきを得て終わりました。

 ()()()()()()()()()、北方棲姫が龍驤さんの拘束から逃れるのが遅れただけに見えたでしょうね。

 

 「深幸ちゃんは、二人の会話を聴いていたのでしょう?」

 「はい。しっかりと」

 

 最初の十数分の会話は、北方棲姫が龍驤さんとの再会を喜んでいるように聴こえました。

 饕餮と言う名前を貰ったと報告し、一緒に牛丼を食べようと誘っていましたっけ。

 なぜ牛丼?と、ツッコむのは無粋な気がしますのでしません。ええ、しませんとも。

 そんな空気を読まないようなツッコミが出来るのは、空気を読んだ上で無視する神風さんくらいのものです。

 そして爆弾が落とされたと同時に、「安心せぇ。うちも一緒に逝ったる」と言った龍驤さんを、北方棲姫は爆発の効果範囲外に突き飛ばし、「バイバイ、リュージョー」とだけ言い残して沈みました。

 あの会話を聴いた限りで推察すると、龍驤さんと北方棲姫は親しい仲だったのでしょう。

 そんな北方棲姫を、龍驤さんが命を賭してまで沈めようとしたとなると……。

 ああ、まず間違いなく、私の背にあるドアの内側にいる人でなしと取り引きなりしましたね。

 ならば、鳳翔さんを言いくるめるのは簡単です。

 

 「何故、龍驤さんは北方棲姫を懐柔しなかったんですか?」

 「それは……。深幸ちゃんだって、提督がどんな人かは知っているでしょう?」

 「ええ、嫌と言うほど知っています。その上で言いますが、龍驤さんは邪推し過ぎました」

 「邪推……し過ぎ?それ、それはどういう……」

 

 どういう?

 察しの良い鳳翔さんなら、私が言いたい事なんて想像がついてるでしょう?

 ついてしまったから、弓矢を落として両手で口元を覆ってしまうほど動揺しているのでしょう?

 

 「連れ帰ったら拷問や解剖をされる。そう考えたから、生き地獄を味わわなくても良いように、沈めることにしたんでしょう?」

 「え、ええ……」

 「やはり、そうでしたか。ですが、深海棲艦の解剖調査などは、今までに散々行われています。故に、北方棲姫を連れ帰っていたとしても、精々尋問する程度で終わったでしょう。ああ、そうそう、提督は鎮守府の経費で、艦娘用の慰安施設と称して離島に一軒家を建てていましたね。もしかしたら、そこに龍驤さんと北方棲姫を住まわせて、両者のコミュニケーションを観察するつもりだったのかもしれません。もし、深海棲艦を信頼と言う名の鎖で繋ぎ、利用できるのならばメリットははかりしれませんからね」

 「で、ですがそれを実用化するには……いえ、使えると判断するだけでも、かなりの年月を要するんじゃ……」

 「提督は目的のためなら手段を選ばない人です。そんなあの人にとっては、高が数年、十数年など、大した時間ではありません」

 「じゃあ、龍ちゃんは……」

 「こう言っては身も蓋もないですが、単なる苦しみ損です」

 

 ちなみに、今までに私が言ったことは全て嘘。

 いえ、嘘とは少し違いますか。

 提督ならそう考えてる可能性も有るという程度の事を、大真面目な顔をして騙っただけです。

 なので、バレると同時に即死もあり得ますので、バレないように真面目な顔を貫きつつ、追撃しましょう。

 

 「今の話を、龍驤さんに?」

 「しません。できるわけがありません」

 

 そうでしょうね。

 鳳翔さんは、私が提督のコピーとなるべく教育された事を知っています。

 その私が大真面目な顔をして騙った話は、鳳翔さんの中で提督の考えとして認識されているはず。

 そんな、鳳翔さんからすれば限りなく真実に近いホラ話を、北方棲姫と心中までしようとした龍驤さんにはできないでしょう。

 傷心している今の彼女なら、話を聞いたその場で自害しかねませんからね。

 

 「随分と、狸になったじゃないか」

 「あなたほどではありません」

 

 不承不承と言った感じでこの場を去った鳳翔さんと入れ替わるように古狸……もとい、提督が出てきました。

 お酒の匂いがしますが、もしかして満潮と飲んでました?

 

 「神風の様子を見に行くから、すまないが満潮を部屋まで送ってやってくれないか?」

 「それは構いませんが……。飲ませたんですか?」

 「祝杯がてらに一杯だけのつもりだったんだが、どうもスイッチが入ったみたいでな」

 

 と、言いながら提督が視線で促した先には、グラス片手にテーブルに突っ伏している満潮がいました。

 アレは完全に酔い潰れていますね。

 飲んだのは……一升瓶が転がってますから日本酒でしょう。

 

 「潰れたのではなく、潰したのでは?」

 「おいおい、君には私が、子供を酔い潰すような酷い大人に見えるのか?」

 「必要とあらばするでしょう?」

 

 おそらく、万が一にでも鳳翔さんと私の話が聴かれないようにしたんでしょう。

 この艦の部屋はそれなりに防音性能が高いですが、ドアから多少は外の音が聴こえますからね。

 

 「満潮とは、どのような話を?」

 「士官になった際の話だ」

 「士官?満潮は、任期が終わったら士官になる……」

 

 んですか?

 と、聞こうとした途端に、頭の中に嫌な想像が膨らみました。

 どうして満潮が士官に?

 いや、艦娘を辞める際、長く軍隊で生活してきた艦娘は、一般人に戻るより軍人として生きる道を選ぶ事が多々あります。なので、それは不思議と言うほどではありません。

 問題は、作戦終了間もないワダツミ艦内で、提督に直接その話をしたことです。

 

 「いつ、言いくるめたんですか?」

 「言いくるめたとは心外だな。私はただ、提案しただけだよ」

 

 嘘だ。

 確かに満潮は優秀です。

 ですが、ただ優秀だと言うだけで、人の心を利用する事に長けたこの人が士官になれと言うはずがありません。

 この人は満潮が使えると判断し、何かの条件が揃った際に、士官になる選択肢を選べるように種を撒いていたんです。

 

 「私や神風さんだけでは飽き足らず、満潮まであなた色に染めるつもりなんですか?」

 「……少し違う。仕事や戦術、戦略については手解きするが、それが終わればあの子の好きにさせる」

 「それはつまり……」

 

 自分の後釜。

 つまり、次代の横須賀提督に据えると言うことですね。

 ああ、なんて事でしょう。

 満潮は最悪な人に見初められてしまった。

 私が知る限り最も邪悪で、鬼や悪魔などの在り来りな言葉では言い表せないほどの極悪人に、満潮は選ばれてしまった。

 

 「あなたは、何がしたいんですか?あんな子供まで利用して、あなたは何を成したいんですか!」

 

 思わず激昂してしまった私に、提督は「何を今さら」と言いたそうな顔を向けました。

 そして……。

 

 「私がしたいのは、今も昔も復讐だけだ」

 

 そう言い残して、私に背を向けて歩きだしました。

 その背中を見た私の脳裏に、この状況すら彼の計画の内なんじゃないか?と言う考えが浮かびました。

 いえ、そうです。絶対にそうです!

 彼は龍驤さんの件で、鳳翔さんがここに来ると予想した。いや、鳳翔さんをここに来させるために、龍驤さんに取り引きを持ちかけたんです。

 そして私に相手をさせ、私自身も提督と同じくらい悪辣な人間だと再認識させたあとに、満潮を利用する気だと気づかせた。

 気づいた私が、何も言わなくても満潮に味方すると半ば確信して。

 そこまで察しが付いてしまった私は、遠ざかる彼の背に向けて……。

 

 「この、腐れ外道」

 

 と、彼にとっては褒め言葉でしかない侮蔑の言葉を、歯ぎしりしながら投げ掛けていました。

 

 

 

 

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