艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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終章突入~( ・∋・)
二部は……進めてるんですよ?進めてるんですが……。
最悪、年が変わったころかな……。


終章 朝潮、ケッコン
第百二十話 ちゃんと本名で呼んでちょうだい


 

 

 

 ハワイから帰って何日経ったのかしら。

 行きは三日かけたけど、アレはあくまで時間調整のためだからその気になれば二日ほどで帰れるはず。

 まあ、どっちにしろ新年は洋上で迎えたんだろうけど、それなりに宴会とかしたのかしら?

 だとしたら、私も交ざりたかったなぁ……って、こう言うと戦争して帰ってきたのに、まるで旅行帰りに聞こえるから不思議ね。

 おっと、それはともかく……

 

 「知らない天井だ……」

 

 何故だか言わなきゃいけない気がしたから言ってみた。

 まあ、本当は知ってるんだけどね。

 漂ってくる消毒液みたいなニオイ的にも、工廠の治療施設の病室だと思うんだけど……どうしてこんな所で寝てるんだろ?

 

 「え~と、確か……」

 

 自分の声に若干の違和感を覚えながら、目が覚める前の光景を思い出してみた。

 憶えていたのは、角ちゃんにお姫様抱っこされて揚陸艇に乗ったところまで。

 そこから先は記憶にないわ。

 って言うか、なんで人前なのに抱っこしてなんて言っちゃったのかしら。

 アレじゃあ、すでに猫の目に詰めてる隊員全てに知れ渡ってるわ。

 でも不可抗力よね。

 あの時は同調を無理矢理切ったせいで意識が朦朧としてたし、体中痛くて仕方なかった。

 そう、私は弱ってたのよ。

 だから、人前なのにもかかわらず「抱っこして」って口走っても仕方がなかったのよ。

 

 「ん?誰か……」

 

 来たのかしら。

 私から見て、左手にある病室のドアを誰かがノックしてるわ。

 え~っと、こういう場合は「入ってま~す」って、言えば良いんだっけ?

 いや、それはトイレか。

 じゃあ「いらっしゃいませ」?

 いやいや、お店か!

 う~ん。どうやら、まだ意識が朦朧としてるみたいだわ。こういう時の返事が思い浮かばない。

 

 『神風姉ぇ、まだ起きてないのかな?』

 『お見舞いだけ置いて帰りましょう?あまり病室の前に居るとご迷惑になりますから』

 『眠り姫か……。僕の出番だね!』

 『松姉さん、何をしようとしてるのか存じませんがやめてください』

 

 この声……順に朝風、春風、松風、旗風ね。

 また輪形陣でお祝いしようとするのかしら。だったら逃げようかな……。

 でも、体がまともに動かない。

 と言うか、違和感が凄い。

 この感じをどう表現したらいいんだろ。

 本来なら無いはずの所に手や足が有ると言うか、手足が遠くなったと言うか……。

 

 「失礼しま~す……」

 

 悩んでたら、朝風がそろ~っとドアを開けて入ってきた。

 ギンバイでもしに来たの?もっと堂々と入ってきなさいよ。

 ん?そういえば返事したっけ?

 あ、結局返事してないや。

 だから、寝てると思って静かに入ってきたのか。

 

 「あ、あれ?」

 「何よ、鳩が豆鉄砲食ったような顔して」

 

 寝てる私と目が合った朝風が、信じられない物でも見たような顔で驚いてる。

 寝起きの私が、そんなに珍しい?

 

 「あなた……誰?」

 「は?」

 

 いや、何言ってんの?

 あなたたちが尊敬してやまない神風お姉様でしょうが。ちょっと会わなかっただけで忘れるなんて、さすがに薄情過ぎない?

 

 「朝風さん、神風お姉様が起きてらっしゃるんですか?」

 「え?いや……起きてはいるんだけど……」

 「朝姉さん、取り敢えず入って頂けませんか?松姉さんが気持ち悪い顔で朝姉さんのお尻を見てます」

 「ちょ!松風!こんな所でやめなさいよ!」

 「ここじゃなければ良いのかい?しょうがないな姉貴は。じゃあ、隣の部屋が空いてるみたいだからそっちで……」

 

 おいこら、あなたたち何しに来たのよ。

 私のお見舞いに来たんじゃないなの?

 って言うか、松風ってそっちの気があったのね。

 なら今度から、前以上に距離を置かせて貰うわ。

 

 「寒いから、入るならさっさと入りなさいよ。風邪引いちゃうじゃない」

 

 う~ん、やっぱり声に違和感が……。

 私の声なんだけど私の声じゃないみたい。ちょっと発声練習でもしてみようかしら。

 

 「エクス……!」

 「お姉様、それ以上はいけません。何故かわかりませんが、駄目な気がします」

 

 え?そ、そう?

 なんだか素敵に煌びやかな良い感じのビームとか出せそうな気がするんだけど……本当にダメ?

 

 「恐れ入りますが、神姉さん……で、よろしいんですよね?」

 「他の誰に見えるって言うの?」

 

 4人が顔を見合わせながら、「ほら、やっぱりお姉様ですよ」とか「でも身長が……」とか言ってるわね。

 まあそれはともかく、体が動かしにくいのがもどかしいわ。このベッドって、背中とか持ち上がらないのかしら。

 

 「食べ頃だね!」

 

 何が食べ頃なのか。

 絶対わかりたくないから、アンタは黙ってろ松風。

 えっと、どこかにスイッチ的な物は……。

 

 「あ、体を起こしたいんですか?少々お待ちください」

 

 春風がそう言ってベッドの脇にあったのスイッチ操作すると、ゆっくりと背中が持ち上がり始めた。

 あ、これ楽だわ。

 一家に一台欲しいかも。

 

 「ありがとう、春風」

 「い、いえ!お姉様お役に立てたなら幸いです!」

 

 お礼と一緒に頭を撫でてあげたら、真っ赤になって離れてしまった。 

 って言うか、間合いがおかしかったような……いや、絶対におかしかった。

 普通に撫でるつもりが、最初の方は手首で撫でちゃったわ。

 私の手、こんなに長かったっけ?

 それに……。

 

 「胸が重そうだね♪」

 

 代わりに松風が、今にも涎を垂らしそうな顔で私の胸を凝視して言ってくれたけど、その通り。

 胸が重い。

 比喩でもなんでもなくガチで。物理的に重いの。

 見下ろして見ると、自分の臍部が見えない程度の膨らみがあった。

 私の胸、こんなに大きくなかったわよ?

 精々Cカップ位だったのに、今はDは軽くありそう……。

 

 「ね、ねえ……。誰か鏡持ってない?」

 「あるよ、これでいいかな?」

 

 と言って、松風が差し出してきたのは、手の平位の鏡に伸縮式の棒が取り付けられた物だった。

 そうそう、これがあると、廊下の角に隠れて角の向こう側を見るのに便利なのよねぇ……って、どうしてこんな物を携帯してるのかツッコんだ方がいいのかしら……。

 いや、やめとこう、ツッコんだら後悔しそうな気がする。

 

 「これが……私?」

 

 鏡を覗くと、すんごい美人がそこにいた。

 いや、マジで。

 別にお化粧してる訳でも、ドレスアップしてる訳でもないけど一目で美人とわかる超絶美女。

 顔のパーツ一つ一つと、紅い髪は間違いなく私のものだわ。

 それが全体的に大人びてる。

 いや、大人ね。

 私をそのまま、年相応に成長させたような美女が鏡に映っていたわ。

 これなら化粧とか要らないわね、

 これだけの美女なら、下手に化粧なんてせずに肌毛処理とスキンケアだけで十分だわ。

 

 「大変お綺麗ですよ、神姉さん」

 「ホント綺麗ね……。神風姉ぇが艦娘辞めちゃったって噂、本当だったんだ……」

 

 あ、そっか!

 すっかり忘れてたわ。

 私って、自分で自分を解体したんだった。

 それで寝てる間に成長したのか。

 まさに寝る子は育つだわ。

 たった数日で育ちすぎな気もするけどね。

 

 「私が艦娘辞めたって噂が流れてるの?」

 「ええ、作戦が終了して、日本への帰路ついた頃には……」

 

 私の噂がいつ頃から流れていたのかを、旗風が申し訳なさそうに教えてくれた。

 噂の出所は誰だろう?

 奇兵隊の奴ら?

 ん~……たぶん違うわね。

 飛車丸と又左を除いて、アイツらに艦娘が好んで近づくとは思えないもの。

 だとしたら天奈辺りかしら。

 

 「朝風さん、悲しそうな顔をしてはダメですよ?お姉様は長い間必死に戦ってきたんです。辞めたからと言って、誰も文句は言えません。いえ、言ってはいけません」

 「けど……」

 

 今にも泣き出しそうな朝風を、春風が頭を撫でながら宥めてる。

 まあ、今年の任期はもう少し残ってるんだけど……。

 その辺はまあ、お父さんが上手くやってくれるだろうから気にしなくてもいいか。

 

 「そうだぜ姉貴。それに、神風の姉貴は最後に大手柄を立てたじゃないか。誰にも出来なかった中枢棲姫の討伐を成し遂げたんだぜ?」

 「松姉さんの仰るとおりです。神姉さんは私たち神風型の誇りじゃないですか。艦娘の礎を築き、そして最後は大手柄を立ててご勇退。神姉さんらしいと、旗風は思いますよ?」

 

 勇退とはちょっと違うような気がするんだけどなぁ……。

 だって、艦娘を辞めちゃったのは不可抗力だし。

 でもまぁ、いっか、褒められるのは嫌いじゃないし、むしろもっと褒めなさいって感じよ。

 讃えてくれてもいいくらいだわ。

 

 「そっか。そうよね……。じゃあ、輪形陣でお祝いを!」

 「それはやめろ。マジで」

 

 どうしてお祝いイコール輪形陣なのよ。

 もっと他にも祝い方はあるでしょう?

 もしかして、お祝いは輪形陣でやらないといけない決まりでもあるの?

 長いこと艦娘やってたけど、そんな決まりは聞いたことがないわよ?

 

 「そ、そう?神風姉ぇがそう言うならやらないけど……。後悔しない?」

 

 いや、しない。

 するわけない。

 だからその「ホントに~?」って顔やめてくれない?

 張り倒したくなるから。

 

 「でも、気持ちはありがたく貰っとくわ。ありがとね、朝風」

 「う、うん。どういたしまし……て?」

 

 何をモジモジしてるんだか……。

 朝風が何故かげっ歯類に見えてきたわ。ケージの中で回し車廻してたら絵になりそう。

 

 「あの!神姉さん!旗風に剣術を教えて頂けないでしょうか!」

 「へ?」

 

 いきなり何よ。

 あ、もしかして私みたいになりたいの?

 まあ、日本刀片手に戦場を駆ける私の格好良さに憧れる気持ちはわからなくもないけど……。

 

 「あ!私も私も!」

 

 朝風までか。

 旗風は日本刀が似合いそうな気はするけど、あなたはどっちかと言うと薙刀か槍って感じだけど?

 

 「それなら僕も教えてほしいな。やっぱ、憧れるよね!」

 

 いや、アンタには似合わない。

 松風はトランプなら間違いなく似合うから、大人しくトランプ投げてなさい。

 

 「それなら私も……」

 

 春風も?

 その手に持ってる傘に刀を仕込んだら良さそうね。

 ん?仕込み傘か……。考えたら欲しくなってきたわ。

 

 「教えるのはいいけど……。実戦で使っちゃダメよ?」

 「えー!なんでよー!」

 「せめて、私くらい動けないと邪魔になるだけだもの。それに、アレは艦娘としては邪道と言っていい技術よ。使わなくて済むなら、それに越したことはないわ」

 

 この子たちがどの程度出来るのか知らないけど、あの作戦に投入された位だから練度はそれなりにあるのよね?

 だったら、下手に新しい技術を学ばずに、今修得してる技術を伸ばした方が絶対に良いわ。

 

 「そんなにガッカリしないでよ。教えるくらいはしてあげるから」

 「やったな姉貴!これでカミレンジャーごっこが出来る!」

 

 だから、アンタは大人しくトランプ投げてろ!

 って言うか、カミレンジャーって何よ。何処の戦隊ヒーロー?

 もしかして、横須賀鎮守府のご当地ヒーロー的な?

 だけど、青、桃、緑、黄は居るけど肝心の赤が居ないじゃない。

 赤が居ない戦隊ヒーローなんて、お味噌が入ってないお味噌汁みたいな物よ!

 え?例えがわかりづらい?

 思い浮かばなかったんだからしょうがないじゃない!

 

 「赤はもちろん、お姉様で♪」

 

 おおっとぉ!?

 まともと思っていた春風がまさかの乗り気!?

 4人中3人がボケとかやめてよぉ……。ツッコミが追い付かないじゃない。

 旗風がまともなのが、せめてもの救いだわ。

 

 「怪人役は、長門さんあたりにお願いいたしましょう♪」

 

 裏切ったぁぁぁ!

 旗風が速攻で私の気持ちを裏切ったぁぁぁ!

 なんであなたまで乗り気なのよ!

 ボケ4人にツッコミ一人とか処理しきれるわけないでしょ!

 私、芸人じゃないのよ!?

 と、心の中で盛大にツッコンでたら……。

 

 「この長門を呼んだか!」

 「呼んでない!帰れ!」

 

 扉をバン!と開いて馬鹿が現れた。

 って言うか、ノックくらいしなさいよ!常識でしょ!?

 そりゃあ、私も昔はノックなんてしなかったわ。

 だけど、私は身をもってノックの大切さを学んだからね!

 今ではちゃんと、ノックできるようになったんだから!

 

 「出たわね、怪人ながもん!カミレンジャー抜錨!いい、みんな? ついてらっしゃい!」

 

 おい朝風。

 ここで戦闘始める気?

 ここ、病室なんだけど?

 

 「カミピンク、春風。出撃させていただきます。抜錨です!」

 

 ノリノリだ!

 たぶん、春風が一番ノリノリだ!

 だって戦隊モノのピンクが取りそうなポーズ決めて、傘から刀を抜いたもの!

 って言うか、仕込み傘だったのね、それ!

 

 「おおっと、お客さんか。カミレンジャー戦闘用意!いいかい?行くよ!」

 

 うっさいトランプウーマン!これ以上ややこしくしないでちょうだい!

 

 「あ、お茶を、お茶をお淹れしますね。えと、急須は……あっ、ここ?え、違う?あれっ?」

 

 いや、なんで旗風はお茶を淹れようとするの? 

 たぶん客である長門にお茶を出そうと思ったんだろうけど……普通に前の3人に倣いなさいよ!

 いきなりボケのベクトルを変えられるのって、本当に迷惑なんだけど!?

 

 「……」

 

 ポーズをとる馬鹿3人と、急須を探す馬鹿1人を前に呆気に取られたのか、長門が固まったわ。

 そうよね。

 いくらアンタでも、対応に困るわよね。

 よかったわ。

 アンタがこの4人のノリに乗っかるほど馬鹿じゃなくて……。

 

 「フフフ……。よく来たなカミレンジャー!改装されたビッグ7の力、侮るなよ!」

 

 ああ、本当の馬鹿は私だった……。

 アンタを一瞬でも信じた私が馬鹿だったわ。

 っつか、来たのはアンタだ!

 もしかして、固まってたのはセリフを考えてたから!?

 アンタがボケに回ったおかげで、ボケが5人になっちゃったじゃない!

 もうここは無法地帯よ!

 ボケが飽和しちゃってるわ!

 

 「長門、病室なんだから静かにしなきゃダメじゃない。って言うか、邪魔だから早く入って」

 

 天奈ぁ……。

 腕組みしてふんぞり返る長門を押しのけて病室に入って来るあなたが、私には救世主に思えるわ。

 今度機会があったら、中二病患者って言って馬鹿にしたのを謝らなきゃ……。

 

 「え~と……」

 

 うん、どう反応していいのかわからないんでしょ?

 私でも、この光景をいきなり見たらそうなっちゃうわ。

 だけど、遠慮せずに止めてくれていいのよ?

 フラフラしながらもポーズを取り続ける馬鹿3人と、呑気にお茶を淹れ始めた馬鹿とふんぞり返ってる馬鹿をしばき倒して!

 

 「……オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」

 

 お前もかぁぁぁぁ!

 だいたい、あなたってもう天龍じゃないじゃない!

 今の天龍に謝りなさい!

 セリフ取っちゃってごめんなさいって謝れ!

 今すぐ!

 

 「チッ……。お前たちにやられた左目が疼きやがるぜ……」

 

 うっさい!黙れ馬鹿!

 なんでノリノリなのよ!

 この光景を見ただけで状況がわかるほど察しがいいなら、私の気持ちも察してよ!

 もういっぱいいっぱいなのよ……。

 プロの芸人でもない私に、6人が真剣にボケまくる状況をどうにかするなんて無茶ぶりにも程があるわ!

 

 「何を騒いでるんですか?病室で騒ぐのはあまりお行儀がいいとは……」

 

 へーい!

 7人目の登場だー!

 もう期待なんてしないわよ。

 どうせ、鳳翔さんもボケるんでしょ?

 この光景を見てノリノリになっちゃうんでしょ?

 

 「実戦ですか……。致し方ありませんね!」

 

 ほーら、案の定ノリノリだー!

 どこからともなく弓矢を取り出して戦闘準備万端。

 毎回思うけど、その弓矢ってどこに仕舞ってるの?

 もしかして袴の中?

 

 「あなたたち……」

 

 もう、我慢の限界だわ。

 私は(だる)いから大きな声は出したくなかったの。せっかくお見舞いに来てくれたんだからと自分に言い聞かせて、怒鳴らずに心の中でツッコミしてあげてたの。

 でも、ここらで止めないと収拾がつかなくなる。

 私が声を荒げたくらいで収拾がつくとも思えないけど、このまま病室で暴れられるよりきっとマシよね。

 

 「すぅ~……」

 

 私は、空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 今から放つのはアンタ達を一喝する全力の一撃。

 束ねるは私の怒り。言葉に乗せた私の激情、受けるが良い!

 

 「いいかげ……!」

 「いい加減にしなさい!病室で騒ぐとは何事ですか!」

 

 私が叫ぼうとした途端に、私のセリフが誰かに持って行かれた。

 声の主は長門達の後方。病室の外ね。

 あの声はたぶん……朝潮?

 

 「鳳翔さん!その弓矢をしまってください!あなたともあろう人が何をしてるんですか!」

 「は、はい!」

 「辰見さん!指揮官であるあなたが率先して騒ぐとはどういう事ですか!」

 「すみません!」

 

 朝潮の叱責で、大の大人二人が縮こまった。

 残る長門は、冷や汗を流しながら目を泳がせてるわ。

 

 「それで、いつまでそこに立っているつもりですか?邪魔なので、退いてくれると助かるのですが」

 「ふ、ふふふ……。ここを通りたくば私を倒して……ふぉ!?」

 

 長門が振り向く前に、お腹に響きそうな音が響いて長門が白目を剥いた。

 腕組みしたまま、微妙に後ろを振り向こうとした姿でつま先立ちになってるわ。

 そして……。

 

 「……」

 

 長門が頭から床に倒れて、私が知ってる装いと変わっている朝潮が取っていた姿勢は、アッパーのように上方へフックを繰り出すガゼルパンチ。

 それを長門のケツにぶち込んだのね。

 どこでガゼルパンチを見たのか知らないけど、打ち終わりの姿勢を見ただけで見事なガゼルパンチだった事がわかるわ。

 長門のケツは、下手したら使い物にならなくなってるかもしれないわね……。

 ざまぁみろバーカ。

 

 「さて、そこの4人」

 「「「「は、はい!」」」」

 「旗風さん以外の3人はパイプ椅子を人数分並べなさい。旗風さんはお茶を人数分。いいですね?あ、ながもんの分は用意しなくていいです」

 「「「「イエス・マム!」」」」

 

 朝潮の命令に従って、4人がテキパキと動き始めた。

 ちょっと見ない間に一皮むけたかしら。

 本気の時のお父さんみたいに、有無を言わせぬ雰囲気を纏わせた命令だったわ。

 

 「目が覚めたんですね」

 「え、ええ……」

 

 あ、あれ?

 なんか、私まで睨んでない?なんで私まで睨むのよ。もしかして、私も一緒になって騒いでたと思われてる?

 

 「……」

 「あの……朝潮?」

 

 どうしたんだろう?

 私の胸の辺りを凝視しているような……。

 朝潮に、松風みたいなそっちの気はなかったはずよね?

 

 「駄肉です……。アレは駄肉。駄肉、駄肉……」

 

 なんか、真顔でブツブツ言いだしたんだけど!?

 って言うか駄肉って何よ。私の胸の事!?

 いやいや、自分の無乳にコンプレックスがあるからって、人の胸を駄肉呼ばわりするのやめてくれない!?

 と、声を大にして抗議したいところだけど、今の私は心身共に大人。

 だから……。

 

 「う、羨ましい?」

 「いえ!まったく!」

 

 大人の対応で、ワザとらしく両手で胸を持ち上げて言ってみたら殺気が篭った否定が飛んできた。

 いや、羨ましいんじゃん。

 目尻に涙まで浮かべて悔しがってるじゃない。

 

 「はぁ、それはともかく。目が覚めたようで本当に安心しました。一週間以上、寝ていたんですよ?」

 「1週間!?そんなに!?」

 

 朝風たちが用意したパイプ椅子に座った朝潮が言うにはこうよ。

 私がワダツミに戻った後、西側を攻略した日本艦隊は米艦隊と協力して東側を二日かけて鎮圧。

 その後、補給やハワイ島周辺の掃討に三日費やし、あとの処理を米国に任せて、二日かけて横須賀に帰って来たそうよ。

 そして今日は1月10日。

 横須賀に帰って、二日経っていた。

 ちなみにお父さんは今、明日大本営に持って行く報告書の最終チェックをしているらしい。

 

 「じゃあ、作戦は成功したのね?」

 「ええ、米国側にかなりの被害が出ましたけど、作戦は大成功です」

 

 そう、ならよかった。

 それを聞いて安心したわ。

 まあ、お父さんがあの状況から逆転されるとは思えなかったけど。

 

 「ただ、東側の旗艦だった南方棲戦姫は取り逃がしました。どうも一度島に上がり、陸上を移動してこちらの艦隊が通り過ぎた隙をついて南に抜けたようです」

 

 へえ、深海棲艦にも自分の命を惜しむ奴がいたんだ。

 これは私個人の感想だけど、恥も外聞もなく、おそらくプライドすらかなぐり捨て、地を這うように移動してまで逃げるなんて、敵ながら天晴れだわ。

 

 「あなたが相手をするはずだったキュウキ……だっけ?そいつはどうなったの?」

 「倒しました。核も回収しましたよ」

 

 確か、私が知ってる限りでは戦艦水鬼だったはず。

 戦艦、しかも水鬼級の核を、お父さんはどうするつもりなんだろう。

 妖精さんに渡せば、何かしらの艦娘の艤装を建造するだろうけど、そいつって先代の朝潮の仇よね?

 なら、叩き割っちゃったかしら。

 

 「核はどうしたの?割っちゃった?」

 「いえ、それが……」

 

 ん?どうして言い淀むの?

 なんか嬉しそうな、それでいて嫌そうな微妙な顔をしてるけど。

 

 「司令官が妖精さんに渡したら、ある艤装が建造されました」

 

 あ、壊さなかったんだ。

 お父さんにしては、理性的な判断をしたじゃない。

 まあ、水鬼級以上の核を使ったからって強力な艤装が建造されるわけじゃないけど、壊すには少々惜しいものね。

 で、何が建造されたんだろ?

 

 「建造されたのは戦艦。しかも、大和型一番艦の艤装が建造されました」

 「ちょっ……!それ本当!?」

 

 一番艦ってことは大和よね?

 今まで、まったく建造される事がなかった大和の艤装が建造された!?

 だったら大収穫じゃない!

 太平洋側の脅威が減ったって言っても、南方と欧州の中枢はまだ健在だもんね。

 大和の活躍の場は十分あるわ。

 なのに……。

 

 「どうして、そんな微妙そうな顔をしてるの?」

 「だって元が窮奇ですよ!?私を精神的にも肉体的にも散々苦しめた窮奇ですよ!?もし適合者が窮奇の影響を受けちゃったら、また追い回されちゃうかもしれません!ながもんだけで手一杯なのに、窮奇まで加わったらお手上げです!」

 

 あ~、そういう事か。

 そうよね。

 適合者は前任者の影響を、気づかない内に受ける事があるらしいしね。

 神風の艤装に使われてたのは確かイ級だって話だから私は影響を受けなかったんだろうけど、我が強い姫級以上がコアになってたら、あなたが言うような影響も受けちゃうかもね。

 知った事じゃないけど。

 

 「ぎ、艤装で思い出した……。お前の艤装も、ちゃんと回収しておい……たぞ。痛たた……。朝風、すまないが私にも椅子を……」

 「チッ……仕留め損ないましたか」

 

 舌打ちをやめなさい朝潮。

 気持ちはわからなくもないけど、あなたに舌打ちは似合わないわ。

 お父さんが見たらショック死しそう。

 それより、長門は座れるのかしら。

 お尻にアサシオの殺意が篭ったガゼルパンチを食らったんでしょ?

 は、置いといて。

 そっか、艤装はちゃんと回収されたのか……。

 

 「そう、ありがとう」

 

 じゃあ、次の神風が生まれるってことね。

 ならもう、神風を名乗れないなぁ。

 覚悟はしてたはずだけど、やっぱり少し、寂しいわね。

 

 「ひょぉう!」

 「うるさいですよ ながもん、静かにしてください」

 

 容赦ないわね。

 椅子に座るなり奇声を発した長門を、眼光と言葉だけで大人しくさせる駆逐艦なんてあなたくらいよ。

 まあ長門だけじゃなく、他の6人も冷や汗流して黙り込んじゃったけど……。

 

 「まったく、騒々しいお見舞いでしたね」

 「湿っぽいよりはマシでしょ?まあ、騒々しいのは確かだったけどね」

 

 馬鹿七人が帰るなり、朝潮はパイプ椅子を片付けて私と自分の分のお茶を淹れ、椅子ではなくベッドに腰をかけてため息交じりに愚痴を吐き出した……のは良いんだけど、どうしてベッドに腰かけたの?

 もしかして、自分が座る分を残さずに全部片付けちゃったパイプ椅子を、また出すのが面倒だから?

 それとも……。

 

 「何か、話でもあるの?」

 「ええ、まあ……」

 

 そう答えて私に顔を向けた朝潮の瞳は、アイツと同じ蒼い瞳だった。

 服装が変わってたからって、そっちに気を取られて気づくのが遅れるなんて私ともあろう者が不覚ね。

 でも、違和感がある。

 朝潮が纏う雰囲気は普段のあの子と変わりない。

 でも、アイツと同じようにも思える。

 今のコイツは……。

 

 「どっち?」

 「どっちでもありません。()()()()()()

 「それはつまり……」

 「陳腐な言い方をすれば、一つになった。です」

 

 なるほど。

 何がどうなってそうなったのかは、さっきまで寝てた私にはわからないけど、今のあなたは先代朝潮であり、あの子でもあるわけね。

 

 「そう、理解しきれないけど、納得はしてあげる。で?話って何?」

 「お礼と質問なんですが……どっちから、聞きたいですか?」

 「……じゃあ、お礼」

 

 いや、ぶっちゃけどっちからでも良い。

 良いんだけど……ほら、さっきまでのバカ騒ぎのせいで、さすがの私も少し辟易しちゃってるからさ。

 お礼でも言われて悦に浸りたかったから、お礼を選択したわけ。

 なんたって、お礼を言うのは照れ臭いけど言われるのはやぶさかじゃないのが、この神風さん……じゃあ、もうないんだった……。

 

 「神風さんのご指導のおかげで、私は司令官の元へ戻ることができました」

 「それは私のおかげじゃない。あなたの努力と、才能のなせる技よ」

 「いいえ。神風さんのおかげです。神風さんの神狩りがなければ、私は勝てなかったかもしれないんですから」

 

 ちょっと待て。

 あなた、神狩りを使ったの?

 いやそりゃあ、あなたの能力なら神狩りでもコピーできるでしょうよ?

 でもそれは結局、さっきも言った通りあなたの努力と才能のなせる技。

 私はただ、見せただけだわ。

 

 「アレを使った時は、感情が高ぶり過ぎてて気がつかなかったんですが、時間が経つにつれて怖くなりました」

 「怖い?何が?」

 「いや、何がって……。だってアレ、本当に全身全霊を賭けた一撃じゃないですか。失敗すれば必死。失敗しなくても、次の一撃で相手を倒せなければ同じくらい必死です。あんな必死技は、二度と使いたくありません」

 「ん?お礼って言わなかった?今のそれって、お礼じゃなくてクレームじゃない?」

 「いいえ?私はお礼のつもりです。あんな危険極まりない技を私に見せてくれて、どうもありがとうございました」

 

 いやいや、やっぱりお礼じゃないよね?

 お礼を装ったクレーム兼、嫌味じゃない。

 一応言っときますけど、使う判断をしたのはあなただからね?勝手にコピーして勝手に使ったのはあなた。

 だから、私は悪くない。

 

 「じゃあ、質問は?そっちも、質問を装ったクレームじゃあないでしょうね?」

 「だから、クレームではなくて……」

 「はいはい。わかったから、話を進めてちょうだい」

 「では、改めまして。これは私と言うより、司令官からそれとなく聞いておいてくれと言われたのですが……」

 

 待て待て、それって言っちゃ駄目じゃない?

 だって、それとなく聞いとけって言われたんでしょう?なのにあなた、モロにバラしちゃってるじゃない。

 

 「退院したら、どうするつもりですか?」

 「退院したら?そんなの……ん?」

 

 どうするんだろう?

 だって、私はもう艦娘じゃない。

 体も年相応に成長しちゃったから、艦娘に戻るなら重巡洋艦以上なら可能性はあるけど、艤装と同調するには肉体年齢が同調の可否に影響する(と、言われている)から、10台前半までがボーダーラインの駆逐艦にはもう戻れない。

 え?本当にどうしよう。

 退職金も恩給もあるだろうから、それを使ってのんびり暮らす?

 それとも、角ちゃんと結婚して専業主婦をする?

 却下ね。

 結婚はするけど、角ちゃんからどこそこでドンパチやったって話を聞いたら、たぶん我慢できない。

 どうして私も交ぜなかったのよ!って、絶対に言っちゃうわ。

 じゃあ、お父さんの世話をする?

 ん~……却下ね。

 自分のお金を使わなくても食うには困らないだろうけど、お父さんの世話係は朝潮がいるし、邪魔もしたくない。

 それか、朝風たちに剣術を教える約束もしたし、いっそ教官とかにでもなる?

 う~ん……これも却下。

 私って教えるの苦手だし、朝風たちも二、三日しごけば音を上げるでしょうから。

 

 「どうしよう。本当に……やりたい事がない」

 

 ずっと艦娘として過ごして来たからか、戦いから離れた自分がまったく想像できない。

 いや、違うか。

 私は想像したくないんだ。

 だって、私は戦う事しかできないもの。戦い方しか知らない。

 私は、これからどうやって生きていけばいいんだろう……。

 

 「好きに、したら良いんじゃないですか?」

 「いや、だから……」

 

 どう好きにしたら良いのかが、私にはわからない。

 私の性格じゃあ、一般人には戻れない。

 戻ったとしても、そう時を置かずに警察の厄介になるのは確実。何より、鎮守府(ここ)から出ていきたくない。

 でも艦娘を辞めた私が、この性格のまま培った戦闘技術を活かし、かつ鎮守府に留まれる仕事なんて……。

 

 「あ、あった」

 

 あったけど、それは変わらず、戦いの中で生きていくこととイコール。

 でも、それが一番良い気がする。

 いいえそれこそが、私の唯一の道に思えた。

 私は……。

 

 「奇兵隊としてここに残る。いや、目標はデカイ方が良いわね。私は、奇兵隊の総隊長になるわ」

 

 そう、悩む必要なんてなかった。

 私が歩むべき道は、とっくの昔に出来上がってた。

 退院したら一から鍛え直して、ダース単位どころかグロス単位でいる戦闘狂どもを叩きのめして、名実ともに奇兵隊のトップに立ってやる。

 

 「司令官がおっしゃった通りですね。神風さんならそう言うだろうと、司令官はおっしゃっていました」

 「ちょっとちょっと、私はもう神風じゃないのよ?だから、ちゃんと本名で呼んでちょうだい」

 「本名で呼べと言われましても……。私は、神風さんの本名を知りません」

 「あれ?あなたって、アイツと一つになったのよね?なのに知らないの?」

 「いやいや、神風さんの本名を聞いた覚えは、今も昔もありません。この際ですから、教えてください」

 

 あれ?アイツにも教えてなかったんだっけ?

 いやいや、教えた……と、断言できないのが辛いところね。

 だってそう言われて初めて思ったけど、私にも教えた記憶がまったくないもの。

 

 「仕方ないわね。じゃあ、耳の穴かっぽじって、良く聞きなさい」

 

 私の本名は古くさいけど、両親の愛情がたっぷり詰まってる……はずの、素敵で煌びやかな名前よ。

 その名も……。

 

 「ん?あれ?」

 「どうかしたんですか?」

 

 朝潮が不思議そうに聞いてきたけど、私も同じくらい不思議な気分よ。

 だって、自分の本名が思い出せない。

 たぶん、半生近くを神風と呼ばれてきたせいだと思うんだけど、先に言った通り古くさい、◯◯子的な名前だったことまでは思い出せたのに、肝心の◯◯の部分が思い出せない。

 そして私は……。

 

 「私、なんて名前だっけ?」

 

 と、自分でも驚くほどあっけらかんと、呆れ果てた朝潮に聞いていた。

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