艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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一部、残り三話です( ・ω・)


第百二十二話 私たちの可愛い、妹弟子

 

 

 

 

 お父さんのことを師と仰ぐ人は、実は結構な数いるわ。

 私が知ってる限りだと、左門兄と角ちゃん。あと、本人は絶対に否定するでしょうけど飛車丸もそうだから、奇兵隊関係者だけでもかなりの人数がいるわね。

 奇兵隊以外だと、パッと思い付くのは舞鶴提督や佐世保提督かな。

 でも、先に挙げた人たちは、こう言ったら身も蓋もないけど自称弟子。

 お父さんが弟子のように扱い、教育したのは私と、病室で暇をもて余してた私に、お見舞いと称してお父さんの愚痴を言ってる……。

 

 「愚痴じゃありません。クレームです」

 「クレームなら、本人に言ってくれない?深幸」

 

 コイツだけ。

 特にコイツは、必要最低限の教育しかされていない私と違って、正真正銘の弟子と言って良いわ。

 なんたって、お父さんの影武者になるべく教育されたんだから。

 

 「言いたくても言えません!だって、()()()()()()()んですよ!?」

 「だったら文句なんてないはずでしょ?なのに、どうして深幸はそんなに怒ってるの?」

 

 と、からかい気味に返したら「む~……!」とか言って頬を膨らませて拗ねちゃった。

 そうよね。

 お父さんは、何もせずに人を意のままに操る。

 特に私や深幸のように、お父さんの思考パターンを知ってる者ほど、気づいた時には操られたあとだったりするわ。

 

 「冗談よ。で?お父さんは深幸に、何をさせるつもりなの?」

 「……たぶん、満潮の補佐です」

 「満潮の?どうしてそこで、満潮が出てくるのよ」

 「神風さんは知らなかったんですか?満潮は任期が明けたら、士官になるつもりのようです」

 

 もう神風じゃないから本名で呼べ。は、置いといて。

 へぇ、満潮って士官になるんだ。

 と、言うことは、提督補佐として横須賀に再着任するってことね。

 ふむ、賢い選択だわ。

 あの子は艦娘としては並以上止まりだけど、指揮官としてずば抜けた才能を秘めている。と、私は思ってる。

 そんな満潮が提督補佐になれば、お父さんの負担もかなり軽減されるでしょう……ね?

 あれ?と言うことは、満潮はお父さんの部下になるのよね?

 いや、今でもそうなんだけど、艦娘としてと提督補佐としてじゃあ、扱いも違うし待遇も変わるわ。

 いやいや、そんなことはどうでも良い。

 満潮は私が目をつけてたのよ?

 なんだかんだで奇兵隊の総隊長になろうって決めた私が、真っ先に満潮に声をかけようって考えたくらい気に入ってるの。

 なのに提督補佐になるってことは、満潮がお父さんに……。

 

 「取られたぁぁぁぁぁぁ!」

 「いきなり大声を出さないでくださいよ!ビックリしたじゃないですか!」

 「出さずにいられるか!だって取られたのよ?私が誘うはずだった満潮が取られちゃったのよ!?」

 「え?神風さんも、満潮を狙ってたんですか?」

 「言い方!それじゃあ、私が満潮を女として狙ってたみたいに聞こえるでしょ!」

 

 おのれ糞親父め。

 私が唾つけといた満潮を横からかっさらうとはなんたる悪行。首をハネられて野晒しにされても文句は言えな……ん?お父さんは満潮の補佐に、たぶん深幸が憤慨するほど回りくどい、かつ悪辣な手段をもってつけようとしたのよね?

 と、言うことは、満潮が提督補佐になると決めたのも、お父さんに誘導された可能性が高い。

 つまり満潮こそが、以前お父さんが言っていた……。

 

 「船……か」

 「船?船とは、何かの比喩ですか?」

 「私が初めて朝潮をボコった日に、お父さんが言ってたのよ。あと必要なのは船だ。ってね」

 「あ~……なるほど」

 

 船に期待されるのは、お父さんの復讐を成就させるための場を作り、整えること。

 ならば、満潮は適任ね。

 あの子は先代の朝潮に、「何を考えているのか想像もつかない」と言わせたほど頭が良いし、思い切りもある。もし、お父さん並みとまでは言わないけど、それに準ずるほどの非情さを身に付けられたなら、お父さんを含む日本のどの提督よりも、優れた提督になるはずよ。

 でも、その代償として……。

 

 「満潮は、とんでもない傷を負う」

 「でしょうね。私も出来る限りのことをするつもりですが、提督がどんな状況を望んでいるのかわかりませんし、満潮に特に指示を与えるつもりもないっぽいので手を出しづらいのが現状です」

 

 なるほどね。

 それはつまり、放って置いても満潮が、勝手に望む通りの結果を出してくれると考えてるってこと。

 だったら、満潮の最終目標から、お父さんが求めてやまない状況の予想がつくかもしれないわ。

 

 「深幸。満潮が、提督補佐になって何がしたいのかわかる?」

 「通信を傍受して、得た情報を基にした予想でなら」

 「通信を傍受って……あの作戦中に?」

 「ええ、それが何か?」

 

 それが何かってアンタ……。

 深幸のワダツミでの役割は、無秩序に通信を通じて飛び込んでくる情報を統合、選別してお父さんに伝えること。

 その通信は旗艦だけでなく、随伴艦から旗艦への報告も含まれるし、()()()()()()も含まれる。

 つまりアンタは、作戦中に数十の通信を瞬時に聞き分け、記憶するなんていう聖徳太子もビックリの離れ業をやってのけたのよ?

 それをさも当然みたいに言われたら、さすがの私も呆気にとられるしかないわ。

 

 「それで、満潮の目的は?」

 「深海棲艦の根絶。要は、終戦です」

 「それ、正気で言ったの?」

 「少なからず共感し合った深海棲艦を沈めた後だったので正気とは断言しづらいですが、本気ではあったかと」

 

 ふむふむ、終戦か。

 あ~……。う~……ん。

 やっぱり正気で言ったとは思えない。

 だって終戦は、各提督や元帥さんですら半ば諦めている難業なのよ?

 それは現場しか知らない十代の小娘が、軽々しく口にして良い言葉じゃない。

 ただし、並の小娘なら。

 

 「深幸的にはどうなの?実現できると思う?」

 「深海棲艦の総数、及び目的も不明なのに、実現可能かどうかなんて判断しかねます。ただ……」

 「ただ?」

 「今回の作戦で中枢が討伐可能だと実証できましたので、残る二つを倒すことができるなら、不可能ではありません」

 「あと二つかぁ……。何年かかるのかしらね」

 「今回の中枢討伐まで十年近くかかっていますから、単純にあと二十年でしょうか」

 

 実際は、もう少し前後するでしょうけどね。

 でも、満潮はそれを成そうとしている。

 たった一つを落とすのに十年もかかったのに、あの子は残りの二つを落とそうとしている。

 そして、そんな満潮をお父さんが推してるってことは、あの子なら終戦に漕ぎ着けることができると……いや、自分の復讐成就のついでに、全てを終わらせられると判断したからだわ。

 ん?ちょっと待って?

 満潮の件はそれで良いとして、私が聞いたらそこまで予想しかねない話を知ってる深幸を、どうしてお父さんは自由にしてるの?

 ……って、そんなの考えるまでもないか。

 

 「()められた。まぁた見事に嵌められました」

 「いやそれ、私の台詞なんだけど?」

 「だって嵌められちゃいましたもん!あの腐れ外道、私がその件について神風さんに愚痴るってわかってて自由にしてたんですよ!?」

 「いつものことでしょ?だいたい、深幸は私以上にお父さんの思考をトレースできるのに、どうして毎度毎度、見事に嵌められるのよ」

 「それは……!なんと言いますか、どうしても女って、理性よりも感情を優先するところがあるじゃないですか。その差が、この結果なんだと思います」

 

 誰も彼もがそうじゃないとは思うけど、確かに女は感情を優先する傾向にあるわね。

 だから、お父さんみたいに人を平気で利用する人間からしたら良い鴨。扱いやすいにもほどがあるでしょう。

 今日の深幸が良い例ね。

 深幸はお父さんの思惑に気づいていながらも、感情を抑えるのに注力しちゃったせいで細部までは考えが至らなかった。

 その結果が、私への愚痴。

 満潮がお父さんの駒になろうとしてると知った私が、誰に言われることもなくあの子の味方になると、深幸は予想しきれなかった。

 いや、予想できなくされた。

 深幸はお父さんの計略にまんまと乗せられて、半ば無自覚に、満潮の地盤固めを手伝わされたのよ。

 

 「悔しそうね」

 「悔しくないわけがないじゃないですか!結局私は、あの人の手の平の上で踊らされてるだけなんですよ!?」

 「でも、同じくらい感謝もしてる。でしょ?」

 

 私がそう言うと、深幸は歯軋りしながら黙り込んだ。

 それはイコール、私が言ったことが的を射ているからだし、深幸自身が認めていることだから。

 

 「神風さんが言う通り、戦えなかった私に戦い方と、戦う場を与えてくれた提督には感謝しています。昔は神風さんみたいに、先生って呼んでましたし」

 「それプラス、惚れてたでしょ」

 「そ、それは神風さんも同じでしょ!?」

 

 いや、私は違う。

 確かにお父さんのことは好きだけど、それはあくまで父親として。けっして、一人の男性として好いてたことは……。

 

 「あ、あれ?」

 「どうかしたんですか?」

 「いや、何て言うかこう……」

 

 心臓を起点に頭の天辺まで熱くなったと思ったら、胸に風穴でも空いたみたいに、そこから一気に熱が逃げていった気がした。

 それに引きずられるように、テンションも下がった。

 でも逆に、目頭は熱くなってる。

 今すぐ、恥も外聞もなく泣き喚きたい気分だわ。

 

 「先代の朝潮さんが言ってましたが、本当に自覚がなかったんですね」

 「自覚?自覚って何よ。私がお父さんのことを……」

 

 好きだったってこと?

 と、口に出そうとしたら喉に詰まった。

 え?本当に私って、お父さんのことを男性として好きだったの?

 

 「これは私の場合ですが、艦娘を辞めて身体が大人になるにつれて……いえ、ストレートに言いましょう。女になるに従って、焦がれる気持ちが強くなりました。身体が疼いたことも、一度や二度じゃありません」

 「な、何よそれ。それってつまり、身体が大人になっちゃったから、お父さんに抱かれたがるようになったって言いたいの?」

 「私の場合と断ったはずです。ですが、提督のことを考えると下腹のあたりが疼きません?」

 

 言われてみるとたしかに、疼いてる気がする。

 うわぁ、マジかぁ……。

 私ってお父さんのことが好きで、しかも抱かれたがるようになっちゃったのか。

 

 「これ、マズいわね」

 「ええ、激しくマズいです。退院しても、提督と同衾するのはやめた方が良いかと」

 「だよねぇ……」

 「あ、ちなみにですが、今はどうしてるんですか?まさか、提督はここで寝泊まりを?」

 「いいえ?角ちゃんが来てくれてるけど?」

 

 いや、なんか「じゃあ、このベッドで毎晩……」とか意味不明なことを言いながらドン引きしてるけど、深幸が想像してるようなことはしてないから。

 私と角ちゃんは清いお付き合いだから。

 

 「それ、角千代さんからしたら生殺しでは?」

 「どうして?」

 「どうしてって……。はぁ、もういいです。この話は終わりにしましょう」

 「いや、それじゃあスッキリしないんだけど……」

 「スッキリしないのは角千代さんだけです。それよりも……」

 

 それよりもじゃない。

 そりゃあ、私みたいな超絶美人と一緒に寝てたらムラムラすると思うわよ?

 でも、角ちゃんは目の下の隈が日に日に濃くなってること以外は、特に問題なさそうに朝になったら「じゃあ、夜になったらまた来るっす」とか言いながら帰ってるわ。

 あれ?そう言えば角ちゃんの名前が出始めてから、テンションも上がったし目頭の熱も引いたわね。

 

 「鈍感……」

 「誰が?」

 「神風さんがですよ。それより満潮の件ですが、どうするつもりですか?」

 「どうするも何も、今と変わらないわ」

 「今と?」

 「そう、あの子が助けを求めるなら、私は全力で助ける」

 

 そのためには、先ずは身体を鍛え直さなきゃ。

 これだけ手足が伸びてるんだから、リーチも変わってるし筋力も前以上になるでしょうから、艤装無しの戦闘力は艦娘だった頃とは比べ物にならないほど上がるはず。

 それに慣れ、奇兵隊を掌握し終われば、前以上にあの子を助けてあげられる。

 いいえ、力になれる

 

 「随分と、あの子に入れ込んでるんですね。何か、理由でもあるんですか?」

 「理由?う~ん、理由かぁ……。しいて言うなら、私に似てるからかな」

 「は?頭大丈夫ですか?ナースコールしましょうか?」

 

 おいこら、どうして頭の心配をした?

 それともボケただけ?

 だったらやめてちょうだい。

 今がボケて良い場面じゃないことぐらい、深幸にだってわかるでしょ?え?それともわからないの?

 

 「あ、その様子を見るに、ボケたわけじゃないんですね。失礼しました」

 「ちょっと待て。私は一切ボケてない」

 「だから謝ったじゃないですか。ボケてないのはわかりましたから、続きを話してください。あの子のどこが、神風さんに似てるって言うんですか?」

 

 コイツ、悪びれる素振りも見せずに話を戻しやがった。散々お父さんの愚痴を言ってたけど、お父さん並みに悪どい性格になってるじゃない。

 は、置いとくか。

 

 「今の私じゃなくて、昔の私。お父さんと出会ってからの私と、あの子は良く似てるのよ」

 

 お父さんみたいになることを諦めた私は、だったらせめてと、力になろうとした。

 そのための努力は惜しまなかったし、自分に出来ることを必死にやり遂げて来たわ。

 満潮も、アイツが戦死してから必死に努力してた。

 その結果、戦闘の才能なんて並程度だったあの子が、横須賀のトップ駆逐隊の一翼を担うまでになったわ。

 そして今、満潮は殻を破ろうとしている。

 お父さんに弟子入りして、他人からしたら大言壮語でしかない目標に向かって、再び努力し始めた。

 苦しむことになるとわかっているはずなのに、あの子は上を目指してる。

 私が、再びお父さんみたいになることを目指し始めたのと、同じように。

 

 「深幸。お父さんの思惑に乗せられて気分は悪いだろうけど、全力であの子を支えてあげて」

 「神風さんに言われずともそのつもりです。だから、神風さんもさっさと復活して、手伝ってくださいよ?」

 「ええ、任せときなさい。そして、二人で支えてあげましょう」

 「それこそ、神風さんに言わるまでもありません。だってあの子は……」

 

 あの子がお父さんの弟子になると言うことは、私と深幸にとっては妹みたいなもの。

 あの子にそんな気はさらさらないでしょうけど、満潮はお父さんの弟子になると決めた時点で、妹になったのと同じなの。

 そう、あの子は……。

 

 「私たちの可愛い、妹弟子だもんね」

 「私たちの可愛い、妹弟子なんですから」

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