艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

123 / 125
第百二十三話 何それ、意味わかんない

 

 

 

 東京は2月が一番寒いという言葉をどこかで聞いた覚えがあるけれど、近いからって横須賀まで寒くなくていいと私は思う。

 そんな不満を「立春はとっくに過ぎたんだから、早く暖かくなればいいのに」と口に出して、司令官に零したら「立春は正確には『春が立つ』という意味で、立春を迎えた頃から気温の底はピークを過ぎ、徐々に春めいた気温や天気に変わっていく」という事なんだと教えてくれたわ。

 だから、暖かくなり始めたばかりなのに「立春なのに寒い!」と、憤るのは間違った考え方になるんだって。

 

 「だったら春って漢字を入れなきゃいいじゃない。紛らわしいったらないわ」

 「それは昔の人に言ってくれ。私に言われても困る」

 

 そりゃそうだ。

 だけど、私も司令官の買い物に付き合わされて困ってるんだから、少しくらい困らせてもいいと思うわけ。

 要は、意趣返しってヤツね。

 

 「しかし……。えらくめかし込んだな。合コンでも行くのか?」

 「せめてデートって言ってくれない?それに、合コンに行って男を漁ってる暇なんて、今の私にはないわ」

 「まあ、私とお前の2人だけだから、デートと言えなくもないが……」

 

 いや、勘違いしないで。

 私にそんな気はないから。

 けど、司令官が土下座してどうしてもって言うなら考えなくもないわ。

 朝潮にバレないようにするのが大変そうだけど。

 それに、私的にはめかし込んでるって程お洒落はしてないつもりよ?

 髪は結ってないし、服はレースのフレアスカートと薄いブラウンのショートダッフルに靴はスニーカーだもん。

 私が本気でお洒落したら凄いんだから。

 今日だって、黒メインのゴスロリファッションで来ようとしたんだけど、大潮と荒潮に本気で止められたから断念したの。

 可愛いのになぁ、あの服……。

 ちなみに、司令官は士官服じゃなくてスーツ姿。

 スーツ姿なんだけど……。

 ハッキリ言って893にしか見えない。

 だって真っ白なスーツにピンクのYシャツよ?

 しかも、厳ついサングラスと高そうなハンドバッグ付き。

 どう贔屓目に見ても893だわ。

 確実にカタギじゃない。

 軍人をカタギと呼んでいいのかはどうかは、微妙なところだけどね。

 でもその副産物と言うか当然と言うか、司令官の風体のおかげで平日でも人がごった返してる商店街を歩いてるってのに、人が勝手に避けてくれるからすっごく歩きやすい。

 今度からここに来る時は、司令官を一緒に連れて来ようかと思うくらいスイスイ歩けるもの。

 モーゼが海を割ったように人の海が左右に割れて行ってるわ。

 ただし、問題もあった。

 実は、ここに来て職務質問をすでに3回受けてるのよ。

 二回目までは笑って対応してた司令官も、三回目には警察署に電話をかけて抗議してたわ。

 建物ごと潰すぞとか言ってたわね。

 職質されるのが嫌なら、893みたいな格好しなきゃいいのに。

 

 「ねえ、司令官の私服って、そんなのしかないの?」

 「ああ、私服は普段、着ないからな。これは確か……神風がプレゼントしてくれた奴だ」

 

 なるほど、あの人の趣味なわけか。

 確かに似合っている。

 これでもかと言うほど似合ってるわ。

 職業は893ですって言われたら、きっと疑う事無く信じちゃうくらいには。

 

 「変か?」

 「いいえ?違和感がないほど似合ってるわ」

 

 似合いすぎて、周りに迷惑がかかってるけどね。

 ごめんなさい、商店街の皆さん。

 この人、自分が強面だって自覚がないみたいです。

 でも許してあげて?

 この人ってこれでも、横須賀鎮守府の提督なんです。国土防衛の要なんです。

 命張ってるんです!格好はこんなでも!

 

 「どうしたんだ満潮。思い詰めた顔して」

 「何でも無い……」

 

 口調が仕事モードなのがせめてもの救いね。

 この格好で山口弁丸出しだったら、言い訳のしようがなかったわ。

 映画の影響って凄いわね。

 とある県を舞台にした893映画のせいで、あの近県の方言を喋る人がみんなその筋の人に見えちゃうんだから。

 ある意味、風評被害に思えなくもないけど……。

 

 「お、あった。あの店だ」

 

 着いちゃったか。

 私と司令官の目の前にあるのは、何の変哲もないジュエリーショップ。

 断っておくけど、別に強盗しに来た訳じゃないわよ?

 もちろん、悪質なクレームをつけに来たわけでも、みかじめ料を取りに来たわけでもない。

 着任してもうすぐ一年になる朝潮に、何か記念になる物を贈りたいと言う相談を司令官にされた私が冗談交じりに、「指輪でもあげたら?」って言ったら本当に買う気になっちゃったの。

 しかも付き合うことになっちゃった。

 最初は「結婚してたんだから指輪くらい1人で買いに行きなさいよって言ったら」って言って逃げようとしたんだけど、「最近の子の好みがわからん」なんて言うし、サイズもわからないって言うから仕方なく、本当に仕方なく付き合ってあげることにしたの。

 

 「よ、よし。入るぞ」

 

 いい歳したオッサンがなに緊張してるの?

 とっとと入れ。

 怖い顔して店の前で仁王立ちしてるもんだから、店員さんが怯えて固まってるじゃない。

 下手したら通報されかねないわ。

 

 「い、いらっしゃいませ……」

 

 店に入ると店員のお姉さんが、恐怖で竦む自分に鞭打って健気に対応してくれた。

 今にも泣き出しそうな笑顔が痛々しいわ。

 

 「指輪が欲しいんだが」

 「は、はい!こちらへどうぞ!」

 

 声にドスを利かせるな!

 店員さんがビクッてなっちゃったじゃない!見てて可哀想になるから、声のトーンを上げてあげて!

 

 「えっと、男性用で……宜しいんでしょうか」

 「いや、女性用でお願いします」

 「サイズはおわかりですか?」

 「サイズ……サイズか」

 

 そんなに心配しなくても、司令官が朝潮の指のサイズを知らないって聞いたからそれとなく調べてきてるわ。

 だから、困った顔して私を見ないで。

 店員さんが、なんでこの子に聞くんだろう的な目で私を見てるじゃない。

 

 「3号なんですけど、あります?」

 

 朝潮の薬指は肉体年齢の割に細かった。

 と言うか私と同じだったから、サイズは3号で大丈夫なはずよ。

 このお店にあればいいんだけど……って、どう見ても大人用の指輪しか置いてないように見えるわ。そもそも、十代の子に贈るような値段の指輪が見当たらないわね……。

 

 「3号ですか!?あの……失礼とは存じますが、もしかして指輪を贈られるのは、此方のお嬢様でしょうか?」

 

 まあ、そうなるわね。

 大人の女性の平均が9号位なのに、聞いたのが3号なんだもん。

 

 「いや、この子ではないが、歳はそう変わらない」

 「は、はあ……左様ですか。ですが、3号となると特注になってしまいますが、宜しいでしょうか」

 「今月中に受け取れるなら問題ない」

 「それは大丈夫です。デザインはいかが致しましょう。この辺りがお勧めではありますが……」

 

 この店員さん、サラッと高いのを勧めて来たわね。

 デザインは確かに良いけど、一番安いので10万超えてるじゃない。

 値段を見た司令官はと言うと……。

 

 「……」

 

 はいはい、私が選べばいいんでしょ?

 だから、縋るような目で私を見るのはやめてちょうだい。

 

 「そうね……。これなんかどう?」

 

 私が選んだのは インターロッキングサークルリングという、二つで一つになっている指輪に手彫りされてるデザイン。

 何の花かはわからないけど、リング全体に花の模様が彫ってあり、ダイヤと思われる宝石が一つあしらってあるわ。

 お値段は……おぉふ。

 十代の小娘に贈るには贅沢すぎる値段だわ。

 

 「なるほど、このデザインで宝石の種類は変えられるのかい?」

 「可能ですが……。宝石は何に致しましょう」

 「タンザナイトで」

 

 タンザナイト?なにそれ、宝石?

 なんか宝石って言うより、鉱石って感じの名前だけど。

 

 「素敵なチョイスですね。指輪を贈られる方は12月生まれですか?」

 「ええ、調べてみて、彼女にその宝石をあしらった指輪を贈りたいと思ってしまいまして」

 

 どうして店員さんは、朝潮が12月生まれだってわかったんだろう。タンザナイトって、もしかして誕生石?

 12月の誕生石ってターコイズじゃなかったっけ。

 

 「タンザナイトは12月の誕生石の一つで、キリマンジャロの夕暮れを思わせる深い青紫色が美しく、魅力的な宝石です。高次元の意識へとつなげ、冷静な判断のための客観性をもたらすとか。持ち主の魅力を引き出し、輝かせるなどとも言われていますね」

 

 ご説明痛み入ります店員さん。

 なるほど、そんな宝石があったのね。

 勉強になったわ。

 司令官もやるじゃない。宝石の意味にも拘るなんて、顔に似合わずロマンチストなのね。

 

 「お値段はこのようになりますが……宜しいですか?」

 「構いません。それでお願いします」

 

 即決!?

 そこらのサラリーマンの給料2ヶ月分くらいの値段だけど!?

 あ、ハンドバッグから札束が出て来た……。

 いったい、いくら位の値段を想定してたのよ。札束が二つも入ってるじゃない。

 

 「あ、君、このペンダントについてる石はブラッドストーンかい?」

 

 お会計中の暇潰しとばかりにショーケースを眺めていた司令官が、ちょうど領収書を持って戻って来た店員さんにたずねた。

 なんだか物騒な名前の石ね。

 赤いのかしら。

 いや、深い緑色だわ。

 それを赤い斑点模様が神秘的に彩っている。

 この斑点が血液みたいに見えるから、ブラッドストーンなのかしら。

 

 「はい、そうなります。お出ししましょうか?」

 「お願いします。満潮、これとかどうだ?」

 

 どうだって言われても……。

 三日月とユニバーサルデザインのネックレスか。

 三日月の中央に、斑点が星雲みたいに見えるブラッドストーンが吊られてるわね。

 私は嫌いじゃないけど、これも朝潮にあげるの?

 

 「良いんじゃない?喜ぶと思うわよ?」

 「じゃあこれも。これは今日受け取れるかね?」

 「大丈夫です。包装致しますので、少々お待ちください」

 

 じゃあこれも、じゃないわよ。

 さっきの指輪程の値段じゃないけど、学生のお小遣いじゃ買えない値段じゃない。

 もしかして、あの三日月と鎖って銀かプラチナ製なんじゃない?

 

 「お嬢様は、どちらの包装紙がお好みですか?」

 「私?じゃあ、そっちのピンク色ので」

 

 そんなの店員さんの好みでいいじゃない。

 なんかペンダントの話になってから、妙にチラチラと私を見てたけど……。

 

 「お待たせ致しました。こちらは、お父様がお持ちになりますか?」

 

 こら、私をこんな893の娘扱いしないでくれない?

 この人にはちゃんと、似たような性格の娘が他にいるんだから。

 

 「ええ、ありがとう。また寄らせてもらうよ」

 

 いやいや、居酒屋とか飯屋じゃないんだから、そのセリフはおかしいでしょ。

 そんな見た目のクセに、ジュエリーショップの常連にでもなるつもり?

 そんな私の、心の中で呟いたツッコミなど一切気にせずに、店員さんの丁寧なお辞儀に見送られて店を出た司令官は、小腹が空いたから喫茶店にでも行こうと言いだした。

 それでたまたま見つけた喫茶店に入ったんだけど……若い子を誘うなら普通カフェでしょ。

 

 「あ、でも良い匂い……」

 

 店内はやや暗い室内照明で、如何にも喫茶店と言った感じの内装。カウンターの内側で、マスターと思われる人がカップを磨いてるわ。

 

 「こういう雰囲気は苦手か?」

 「そんな事ないわ。カフェよりこっちの方が好みかも」

 

 店の奥側の2人掛けの席に向かい合って座った私たちは、メニューを見ながら何を注文するか吟味し始めた。

 そう言えば、カフェと喫茶店の違いって何なんだろう。注文し終わったら、司令官に聞いてみようかしら。

 

 「じゃあ私はブレンドと……サンドウィッチを。満潮はどうする?」

 「私も同じでいいわ」

 「じゃあ同じのを二つで」

 

 と、ウェイトレスさんに注文し終わった司令官は、何かを探してキョロキョロし始めた。

 たぶん、灰皿を探してるわね。

 

 「まさかここ……禁煙か?」

 「ここにあるじゃない。ちゃんと探しなさいよ」

 

 灰皿は私の右手側、メニューの横に二つほど重ねて置いてあった。

 向かい側に座った司令官からは、死角で見えなかったんでしょうね。

 

 「私の前じゃ、遠慮しなくなったわね」

 「遠慮はしてるぞ?だから、換気扇のすぐ近くの席を選んだんだ」

 

 お気遣いどうも。

 べつに司令官のタバコの匂いは嫌いじゃないから、気にしないんだけどね。

 

 「あ、そうだ。司令官って、カフェと喫茶店の違いって知ってる?」

 「詳しくは知らんが……。確か、酒が飲めるか飲めないかだろ?酒を出さないのが喫茶店だったはずだ」

 

 え?そうなの?

 喫茶店ってお酒飲めないんだ。

 まあ、飲まないし私の外見じゃ注文すらできないでしょうけど。

 でもじゃあ、カフェは飲めるって事?

 コーヒーを飲むイメージしかなかったわ。

 

 「たまに酒を出す喫茶店もあるが、そういう店と区別するために純喫茶と言ったりもするらしい」

 

 なるほど、純喫茶ってそういう意味だったのね。

 純って名前の人が経営してる喫茶店だと思ってたわ。

 

 「そうだ、今の内に渡しておこう」

 「何を?」

 

 そう言って司令官が差し出して来たのは、追加で買ったユニバーサルデザインのネックレスが入った箱だった。

 私が選んだピンク色の包装紙で、綺麗にラッピングされてるわ。

 

 「これって、朝潮にあげるんじゃないの?」

 「朝潮には指輪を買っただろうが。それは、今日付き合ってくれた礼と……その、弟子入りの祝いだ」

 

 弟子入りって……。

 まあ、司令官の下で仕事を学ぶんだから弟子と言えなくもないけど、正式な配属はもう少し先よ?

 それに、どうせなら誕生日にくれればいいのに。

 

 「ブラッドストーンが使われてたから衝動買いに近かったが……受け取ってくれるか?」

 「いいの?その、結構高かったじゃない」

 「気にするな。お前に私が贈りたかったんだ」

 

 やばい……。

 悔しいけどすっごい嬉しい。照れ隠しに明後日の方を向いてる司令官が可愛く思えちゃうわ。

 

 「ど、どうして私にブラッドストーンを?」

 「ブラッドストーンは3月の誕生石の一つだし、石言葉に『理想の実現』があるから、お前にピッタリだと思ったんだ」

 

 へぇ、知らなかったわ。タンザナイトを調べた時に、ついでに調べたのかしら。

 

 「あ、開けても良い?」

 「ああ、構わんよ」

 

 私は包装紙をできる限り綺麗に剥がして、箱の中からペンダントを取りだして眺めて見た。

 朝潮にあげるんだとばかり思ってたから、サプライズみたいになっちゃったわ。

 だからなのか、素直に嬉しい。

 嬉しすぎて、司令官の顔をまともに見れなくなっちゃった。

 

 「着けて見せてくれるか?」

 「う、うん……」

 

 そう言われて、髪を結ってくればよかったと軽く後悔した。留め金を留めるのに、後ろ髪が煩わしくて上手くできない。

 

 「やってやろうか?」

 「え?いや、でも……」

 「遠慮するな」

 「ちょぉ!」

 

 止める間もなく、椅子から立ち上がった司令官は私の後ろに回り込んだ。

 もうこうなったら素直に着けてもらうけど、私は髪を上げとけばいいのかしら。

 うなじを見られるのが、裸を見られるより恥ずかしく感じるわ。

 それどころか、チョコチョコと司令官の指がうなじに当たる度に、背中ムズムズする。

 

 「よし、できたぞ」

 

 やばい、やばいやばいやばい……。

 顔が燃えるように熱い。

 私、絶対に顔が真っ赤だ。しかも、やばいレベルで。

 

 「あ、ありがと……」

 

 声もまともに出ないしぃぃぃ!

 消え入りそうな声って奴?

 心臓もバクバク言ってるし、体も若干震えちゃってる、まさか……司令官の事が好きになっちゃった?

 いやいやいやいや、ない!

 オッサンは守備範囲外なんだから絶対にない!

 ないはずなのにぃぃぃ!

 

 「どうかしたか?」

 「ひゃう!」

 

 近い!顔が近い!

 横から覗き込まないでよ!何でもないから!

 私が横向いただけでキスできちゃいそうなくらい近いじゃない!

 

 「ひゃう?」

 「ち、違う!ひょうよ!そう!雹!雹が降りそうな天気だなぁと思っただけ!」

 「そうか?快晴だが……」

 

 やっぱり言い訳としては苦しいか。

 で、でも、もしかしたら本当に降るかも知れないでしょ?

 だから、艦娘の勘を信じなさい!

 それが駄目なら……。

 

 「そ、それより!弟子入りしたんだから、いつまでも司令官って呼ぶのはおかしいと思わない!?」

 

 話を逸らすのよ満潮。

 出来るだけ冷静に話せる話題に!

 だってこのままじゃあ、何故か勢いだけで「好き!」とか言っちゃいそうだもん!

 

 「お前が変えたいならかまわないが、今まで通りで良いんじゃないか?」

 

 よし!食いついた!

 だったらこの流れを利用して、不自然に昂った気分を落ち着かせないと。

 でも、呼ぶとしたら何が良いかしら。

 師匠かな?

 ん~なんか嫌。変な格闘技教えられそうだし。

 なら提督?

 今と大差ないから却下。

 う~ん……何か良い呼び方ないかしら。

 

 「神風みたいに先生とかどうだ?」

 

 先生……先生か。

 無難なところね。

 教えを乞うわけだから自然だし、落としどころとしては十分だわ。

 

 「じゃあそうする。せ、先生……」

 

 あ、あれ?恥ずかしい。

 思ってたより恥ずかしいわこれ!

 今まで司令官って呼んでたのを先生に変えただけなのに、どうしてこんなに恥ずかしいの!?

 神風さんって、コレを平気な顔して言ってたの!?

 い、いや、今の私は変な気分になってるわ。

 きっと、そのせいで恥ずかしく感じちゃうのよ。

 べ、べつに神風さんみたいな特別な呼び方ができて嬉しい、な~んて思ってないんだからね!

 

 「自分で勧めといてなんだが……。神風以外にそう呼ばれると少し照れるな」

 

 照れないで!

 しれ……、先生まで照れたら、私が余計に照れるじゃない!

 穴があったら入りたいとはこの事だわ!

 

 「はぁ、先が思いやられるわ……」

 「そうか?お前なら大丈夫だと思うが」

 

 先生が言ってるのは仕事面でしょ?

 私が言ってるのは、私の精神面なの。これから毎日、こんな気分になるのかと思うと気が重いわ。

 

 「指輪の事は、やっぱり当日まで秘密にしておいた方がいいのか?」

 「当たり前でしょ?サプライズのプレゼントってかなり効くのよ」

 

 品物を買うところを見てた私でさえ、これだけドキドキしちゃったんだもん。

 買った事を知らせずに贈ったらイチコロよ。

 

 「じゃあ、そうしよう。満潮のアドバイスは的確だからな」

 「そんなに当てにしてくれるんなら、今度からアドバイス料を貰おうかしら」

 「そのペンダントでどうにか」

 「なりません。これは、今回のアドバイス料として貰っとくわ」

 

 この様子だと、この人はこれからも朝潮絡みの相談を、私にしてくるんだろうなぁ。

 朝潮との惚気話とかもきっとしてくるわ。

 私はその時、ちゃんと先生の顔を見れるのかしら。

 それとも、嫉妬してそっぽ向いちゃうのかしら。

 

 「これからもよろしく頼むよ。満潮」

 

 私の複雑な気分なんて気にも留めずに、先生は右手を差し出してきた。

 ふん、いい気なものね。

 頼まれなくったって、よろしくしてやるわよ。

 朝潮とケンカした時は「別れたら?」とか言って嫌がらせしてやるんだから。

 でも安心して、私の気が済んだら、ちゃんと仲裁してあげるから。

 

 「こちらこそ、よろしくね。先生……」

 

 先生の右手を握った瞬間、体中に電気が流れたような気がした。

 剣ダコまみれのゴツい手の平だけど、握ってると不思議と安心する。

 この手をずっと握っていたいと思ってしまう。

 この手で触れられたいと……思ってしまう

 そうか、私は先生の事が好きなんだ。

 恋なんてした事なかったから、今まで気づけなかったんだわ。

 はは……自分の恋心を自覚した途端に失恋とか笑っちゃうわ。

 姉さんの時には何も思わなかったのに、今は凄く後悔してる。

 もっと早く、自分の気持ちに気づけてたらなって考えると、胸が締め付けられるように痛むわ。

 

 「満潮?どうかしたのか?」

 

 何でもないわ。

 だから、そんなに心配そうな顔をしないで。

 先生と朝潮の邪魔は、絶対にしないから。

 だって、二人を見てると幸せな気分になるのは本当だもの。

 先生と朝潮には幸せになってほしいって、心の底から思ってるもの。

 今は初めての感情をどう処理していいのかわからないだけ。きっと、時間が経てば落ち着くわ。

 そう、きっと時間が解決してくれる。

 だからそれまで……。

 せめてそれまでの間は、アンタの好きな人に恋焦がれるのを許してちょうだい。

 

 「そんなに私の顔を見て……。まさか、私に惚れたか?なんてな」

 

 ええそうよ。

 私はあなたの事が、好きになっちゃったみたい。

 あなたの事が……好きだったみたい。

 でも、告白はしてあげない。

 いつか必ず、私じゃなくて朝潮に惚れた事を後悔させてやるんだから。

 だから、私はこう言うの。

 精一杯強がって、私の本心をあなたに悟られないようにこう言うわ。

 

 「よくわかったわね、大正解よ(何それ、意味分かんない)」ってね。

投稿時間は何時くらいが良いですか?

  • 朝 6:00~7:00
  • 昼 11:00~12:00
  • 夜 19:00~20:00
  • 何時でも良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。