艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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最近知ったのですが、今の若い子には蒙古斑を知らない子がいるんですね。
これがジェネレーションギャップか……と、一人でうちひしがれました( ω-、)


第二章 朝潮、抜錨
第十四話 駆逐艦朝潮、抜錨します!


 

 

 

 こんにちは、朝潮です。

 突然ですが私は今、鎮守府南側にある演習場で腰まで海に浸かっています。

 3月上旬の海水はとても冷たいです。このままだと、生まれて初めて風邪をひいてしまうかもしれません。

 なぜそんな事になっているかというと……。

 はい、浮き方がわかりません。

 目の前にいる満潮さんは呆れを通り越したのか、真顔で海面に立っています。とても怖いです。

 でもこの角度だと、満潮さんの水色の下着がよく見えます。

 いえ、覗くつもりはないんです。

 ですが、この角度だとどうしても見えてしまいまして……。だからけっして、同性の下着を覗く趣味があるわけではありません。

 は、置いといて。

 着任した日に催された大潮さん主催の歓迎会と、昨日の鎮守府旅行を終えた私は、今日から満潮さんに嚮導されて訓練することになると司令官に聞かされました。

 で、今日はその初日。

 ええ、初日からやらかしました。

 満潮さんも、まさか浮き方から教えることになるとは思ってなかったらしく、私の惨状を見て怒り心頭のようです。額に青筋が浮いてますし。

 

 「聞いてない」

 「な、何をでしょうか……」

 

 と、突然口を開いた満潮さんに問い返しましたが、だいたい察しはつきます。

 すみません。本当にすみません。

 

 「まさか浮き方も知らないなんて……。アンタ、養成所で何してたの?寝てたの?3年いたって聞いたけど?これじゃあ訓練生以下じゃない」

 「返す言葉もございません」

 

 いえ、知識では知っているんですよ?

 でも実地となると、どうしていいか全くわからないんです。本当にごめんなさい。

 

 「こりゃあ、羊羹5棹じゃ安すぎたわね」

 

 羊羹?何のことでしょう?

 そういえば、羊羹と言う名のお菓子があるのは知っていますが、食べたことはありませ……じゃない!

 現実逃避してる場合じゃありません!

 いつまでも海に浸かっているわけにはいかないのですから、やり方を聞きましょう。わからないことは聞く!聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ですから!

 

 「あ、あのぉ……」

 「なによ」

 「ひぃっ……!」

 

 恐る恐る聞いてみましたが……。

 聞けるような感じじゃないですね。

 ギロって擬音が聞こえてきそうな目で睨まれて、私は生まれたての小動物のように震えることしかできなくなってしまいました。

 

 「はぁ……。口で言うより、見せた方が早いか」

 

 呆れ疲れたのか、そう言って満潮さんはスカートのポケットからオレンジ色のボール?を、二つ取り出しました。満潮さんは、それをいったい……。

 

 「どうするん……ですか?」

 「いいから、私の足元を見てなさい」

 

 言うが早いか、満潮さんはオレンジ色のボールを足元に投げつけました。

 すると、ボールが投げつけられた場所から、中に詰まっていたと思われる塗料が何かに沿って動き始めました。

 これは……船、でしょうか?

 水中に広がる塗料に染め上げられて、満潮さんを中心に縦1メートル、横50センチ、深さ50センチほどの、船の形をした空間が現れました。

 

 「これが、私たちが足に履いてる『主機』から発生させてる、俗に『脚』と呼ばれる力場よ。前側のとがってる方が『船首喫水』。後ろが『船尾喫水』ね。船首と船尾は別に覚えなくていいわ。まとめて『脚』と呼ぶのが一般的だから」

 「これが……。実際に見るのは初めてです」

 

 艦娘は海面に立っているように見えますが、実は違います。

 実際は、この『脚』と呼ばれる力場の上に立っているんです。

 この『脚』は艦種によって大きさが異なり、大型になればなるほど面積も大きくなり、喫水も深くなります。

 この喫水が、魚雷の当たり判定になるんです。

 と、ここまでは座学で習った内容。

 私はこの『脚』を発生させる方法がわからないから、未だに水に浸かっているわけです。

 いい加減、お腹が冷えてきました……。

 

 「アンタ、座学は優秀だって聞いたから知識では知ってるんでしょ?どう?実際に見てみて」

 「なんて言うか……不思議です。それに、すごく綺麗な形」

 

 満潮さんの『脚』は、刃物のように鋭く尖っていて水の抵抗なんかほとんどなさそうです。

 私も、こんな綺麗な『脚』が作れるのでしょうか。

 

 「お、お世辞はいいわ。で、実際に『脚』を作る方法だけど」

 

 あ、満潮さんの顔が赤くなった。

 もしかして、褒められるのに慣れてないんですか?

 

 「アンタも背負ってる『機関』に、意識を向けてみなさい」

 「『機関』に?でも『脚』は、『主機』から発生させるのでは?」

 「さっさとやれ」

 「は、はい!」

 

 私は言われるがまま、目を閉じて『機関』に意識を向けました。

 すると……何でしょう。丸い、蒼く光る丸い玉のイメージが見えました。

 

 「光る玉みたいなモノが見えない?」

 「はい、見えます」

 

 とても力強くて、静かだけどあたたかな光。これが、『機関』の中身なのでしょうか。

 

 「それが艤装の力の源。『核』と呼ばれるものよ」

 

 これが『核』。

 艤装の、艦娘の力の源。通称、『艦力』の発生源ですか。これがあるから、私たちは戦うことができるんですね。

 

 「『核』から、体を通して両足の『主機』に向けて血が流れるようイメージしてみて」

 

 私は、満潮さんに言われた通りイメージをしてみました。

 『核』から血管を『主機』まで伸ばし、その血管に血を……。

 

 「あ、やば。忘れてた。ちょっとストッ……!!」

 「え?」

 

 止めるのが遅いです満潮さん。

 いえ、私も何が起こったのかは、()()で満潮さんが「あちゃ~……」って感じで目元を右手で覆う姿を見るまで気づかなかったんですが……。

 私がどうなったかと言いますと、飛んだんです。

 比喩とかではなく、足の裏から発生した力に押し上げられるように、私の体は5メートルほどの高さに放り投げられたんです……って、呑気に観察して場合じゃありません!!落ちるうううぅぅぅ!!

 

 「お~い、生きてる~?」

 「生きてます。なんとか……」

 

 程よい深さの浅瀬で助かりました。

 もし、ここが足もつかない程深かったら、海面に叩きつけられた私は起き上がることもできずに海底へ沈んでいましたよ。

 あ、あと、朝潮型の制服が吊りスカートであることに感謝しないといけませんね。でなければ、飛んだ時にスカートが脱げて下着だけになっていたかもしれませんから。

 

 「い、今のはいったい、何なんですか?」

 

 私は『脚』を作ろうとしただけなのに、気づいたら空を飛んでいました。

 何を言ってるかわからないと思いますが、私も何を言っているのかわかりません。

 

 「いやぁ、今のは本当にごめん。完っ全に私のミスだわ」

 

 何がミスだったのでしょう。特にミスらしいミスはないように思えますが。

 

 「アンタ、ボールを水に沈めたことある?」

 「ないことは……ないです」

 「水中でボールから手を離したら、どうなった?」

 「え?そりゃあ水面に向かって……あ」

 

 さっきの現象を一言で表すならアルキメデスの原理。

 アルキメデスの原理とは、名前からもわかるとおりアルキメデスさんが発見した物理学の法則です。

 簡単に説明しますと、 流体(液体や気体)中の物体は、その物体が押しのけている流体の重さ(重量)と同じ大きさで上向きの浮力を受けるんです。

 これを満潮さんの例えに当てはめると……。

 

 「そう、水中でボールから手を離せば、ボールは水面に向かって浮かぼうとする。浮かぶだけならいいわ。でも、大抵の場合は勢い余って飛び上がるでしょ?要は、アンタは水に沈んだ状態で『脚』を発生させたからボールになっちゃったってわけ」

 

 こうなります。

 つまり、『脚』とは不可視の力場でありながら、私を空に打ち上げるほどの物理的影響力を持ってることになります。

 

 「じゃあ、やり方はわかったでしょ?そこの砂浜からでいいから、もう一回やってみて」

 

 この状態からやれと言われなくてよかった。さすがに、そこまでの無茶は言わない人でしたか。

 

 「別に、そこでもう一回やってもいいわよ?」 

 「いえ!砂浜からチャレンジさせてください!」

 

 顔に出てたのでしょうか。

 は、置いといて、私は砂浜まで海中を歩き、波打ち際でもう一度『脚』を発生させました。

 また打ち上げられたらどうしようかと思ったいましたが、私の足は地面に着いたまま。陸では、力場が作用しないのでしょうか。

 

 「『脚』の分、体が持ち上がると思った?」

 「は、はい」

 

 う~ん……。

 やはり顔に出てますか?

 それとも、私が疑問に思いそうなことを、満潮さんが察して答えてくれているだけ?

 

 「『脚』もそうだけど、艦娘の力場は陸上では効果が半減。いえ、それ以下になるわ。ただでさえ薄い駆逐艦の『装甲』なんて、文字通り紙になるわね」

 

 そういえば、モヒカンさんが深海棲艦は陸上では弱体化するって言ってましたね。まさか、艦娘も同じとは思っていませんでした。

 

 「そのままゆっくりでいいから、私の近くまで来てみなさい。船尾からオナラでもする感じかな?」

 

 もうちょっと言い方はなかったんですか?

 ほら、例えば風とか。

 いやいや、満潮さんがまた睨み始めましたからそんなことを考えている場合じゃありません。

 え~と、船尾からオナラ……もとい!風を出す感じですね。

 よし、ここで汚名返上です!

 

 「駆逐艦朝潮、抜錨します!」

 「こんなとこで気合入れてどうすんのよ。アンタ、実はバカなんじゃない?」

 

 いや、それはそうなんですが。

 気合は大事じゃないですか?

 おかげで、出鼻を思いっきり殴られた感じになっちゃっいましたよ。

 

 「お、思ったよりバランスが……」

 

 取りづらいです。

 気を取り直して海に出た私の体は、バランスこそ取りにくいですが前に進み始めました。

 足を動かしてないのに進むというのは、なんだか変な気分ですね。

 でも、自分で進んでいると言う実感はあります。これが『航行』するということですか。

 

 「その辺でオナラを止めなさい。でないと、私とぶつかるわ」

 

 だから言い方。

 と、ツッコむ余裕もない私は、言われた通りイメージをやめました。

 一瞬前につんのめりましたが、しばらく慣性で進んだあと、満潮さんの手前1メートルほどの所で止まれました。

 

 「ギリギリね……。まあ、いいけど」

 

 と、言いながら、満潮さんは最初に取り出したボールの残り一つを、私の足元に投げつけました。

 すると、満潮さんの時と同じように塗料が広がり始めましたが……。

 私の『脚』もやっぱり、満潮さんと同じくらいの大きさなのでしょうか。

 だとしたら、私が停まった位置は言う通りギリギリですね。

 

 「ああ、わかっちゃいたけど、こりゃあ酷いわ」

 

 どう酷いかと言いますと、塗料に彩られた私の『脚』はボールを半分に切ったような形。

 しかも所々歪で、満潮さんのようなシャープさは微塵もありません。

 

 「まあ、浮き方すら知らなかったんだから、当然っちゃあ当然か。普通は、養成所の洋上訓練である程度形は出来上がるのに……」

 「そ、そんなに、形は関係あるものなんですか?」

 「あるに決まってるでしょ。力場とは言っても、水の抵抗は受けるのよ?船がなんであんな形してると思ってるのよ」

 

 あ、そういうことですか。

 考えてみればそうですよね。

 私の『脚』みたいな船底をした船が速いとはとても思えません。

 

 「満潮さんのような『脚』にするには、どうしたらいいのでしょうか」

 「慣れるしかないわね。『脚』は、航行時間が増えれば増えるほど、自然と適した形になっていくから。たぶん」

 

 たぶん、ですか。

 まあ、私は今日初めて浮いたんですから、これくらいが普通……なんですよね?

 

 「ちなみに、そこまで歪な『脚』は養成所に入ったばかりの子でも滅多にいない。っていうか、私は初めて見た。アンタ、才能無いんじゃない?」

 

 私が自分の『脚』を見ていたので考えを見抜いたのか、満潮さんが追い打ちをかけてきました。

 自分が能無しという自覚はありますが、そこまでハッキリ言われると泣いてしまいそうに……。

 

 「なんだ、思ったよりまともに教えてるじゃないか」

 

 涙がこぼれ落ちる寸前、司令官の声が聞こえました。

 何の前触れもなく、本当に忽然と、いつの間にか砂浜に司令官が立っていたんです。いったい、いつから見られていたのでしょう。

 

 「そりゃあ仕事だからね。それより、司令官はこんなところで何してるのよ。仕事は?」

 

 お暇なのでしょうか。

 いや、きっとそうです。優秀な司令官ですから、きっと今日の分の仕事は終わらせてしまったんですよ。そうに違いない……!

 

 「大潮に押し付けて抜け出してきた。ああ、心配するな。あとは大潮でも処理できる仕事しか残っていない」

 

 と、思っていたら予想外の答えが返ってきました。

 いやいや、仕事を押し付け……いえ丸投げ……ううん!任せると言うことは、司令官がそれだけ大潮さんを信頼している証拠です!

 

 「それに、朝潮型打ち上げ花火が見えたからな。た~まや~。と、言いたくなった」

 

 あれを見られていた!?

 よりにもよって、司令官にアレを見られるとは……。穴があったら入りたいとは、正にこのことですね。

 

 「アレは私のミスみたいなものだから言わないであげて。真っ赤になって発火寸前だし」

 

 はい、顔から火が出そうなくらい熱いです。顔が上げられない。恥ずかしい……。

 

 「そうなのか?私はてっきり、『脚技(あしわざ)』を教えているんだと思ったぞ?」

 

 はて?アシワザとはなんでしょう?

 と、疑問をこぼすだけなら簡単。

 考えなさい。朝潮。

 ここで言うアシとは、司令官が「教えている」と言ったことから考えると、今正に私が海面下に作っている『脚』のこと。ワザは、無難に『技』でしょう。

 つまり『脚技』。

 『脚』を駆使した、何かしらの技術だと思います。

 満潮さんの、「へぇ、馬鹿ってわけじゃないんだ」という台詞が気にはなりますが、正解だと思います。

 

 「練度1のド新人にあんなの教えないわよ。それにこの子、さっきまで浮くことすらできなかったのよ?『脚技』なんて100年早いわ」

 

 100年は言い過ぎなんじゃ……。

 と、口から出かけた言葉は、私の羞恥心と一緒に投げ捨てるとして。

 『脚技』が『脚』を使った技術ということは想像できましたが、それがどんなモノなのかがわかりません。

 わからないから聞きたいのですが……。

 教えないと言ったくらいですから、聞いても教えてくれません……よね?

 

 「ほら見なさい!司令官が余計な事言うから、興味持っちゃったじゃない!」

 

 だって気になりますし……。

 って、あれ?私、声に出してませんよね?声に出してないのに、満潮さんはどうやって私の考えを知ったんですか?そっちの方が気になり始めました。

 もしかして、自覚がないだけで声に出してます?

 

 「教えないまでも、見せてやるくらいはいいんじゃないか?」

 「アレ、疲れるからあまりやりたくないんだけどなぁ」

 

 なるほど、消耗が激しいんですね。

 それなら、今日初めて浮いた私では100年早いと言われても仕方ありません。

 

 「はあ、まあいいわ。一回だけよ?」

 

 司令官に言われて諦めたのか、満潮さんは私から20メートルほど沖に移動しました。

 どんなものか想像できませんが、見せてもらえるとなるとちょっとだけワクワクします。駆逐艦の奥義的なものなのでしょうか。

  

 「行くわよー」

 

 満潮さんは、始める合図を送ると倒れるんじゃないかと思ってしまうほど前傾姿勢をとりました。

 すると、同時に大砲が着弾したみたいな轟音が鳴り響き、10メートルほどの距離を一瞬で移動、着水して、私の横を慣性で通り過ぎました。

 

 「こんな感じよ。わかった?」

 「は、はい……」

 

 やり方は全くわかりなせんが、『脚』を使った特殊な移動法ということはわかりました。

 

 「まあ、一応説明すると。全身の関節の伸縮タイミングと、最初にアンタが吹っ飛んだ時みたいに『脚』を水中で発生させた時に生じる浮力を合わせて一瞬だけ超加速を得るの。これが、さっき見せた『脚技』の一つ。『飛魚(とびうお)』よ」

 

 今、一つって言いませんでした?

 つまりなんですか?

 『脚技』とは固有名詞ではなく、『飛魚』を始めとした複数ある技の総称と言うことですか?

 

 「初めてそれをやった奴が両手を広げててな。その姿がまるで飛魚みたいに見えたから、そのまま『飛魚』と名付けたんだ」

 

 なるほど、正に名は体を表すですね。わかりやすくて良いと思います。さすがは司令官!!

 

 「安直すぎでしょ」

 

 すかさず、満潮さんが横槍を入れてきました。

 でも私は、わかりやすいのは良いことだと思いますよ?

 

 「だけどコレ、直進しかできないし体に負担はかかるし連携は乱れるしで、艦隊行動してる時はあんまりメリットないのよね」

 

 だったら、なんでそんな技を満潮さんは習得してるんですか?艦娘、特に駆逐艦は基本的に駆逐隊単位で出撃しますから、一人で行動するなんてよほどの事情がない限りありませんよね?

 

 「ああでも、単艦の時や駆逐隊全員が使えるなら有用よ?」

 

 と、言うことは逆説的に考えて、大潮さんと荒潮さんも使えるということになりますね。

 あれ?でも私が使えないのだから、第八駆逐隊で『飛魚』は使えなくなったんじゃ……。

 

 「お察しの通り。アンタが入ったことで、八駆で『脚技』は使いづらくなったわ」

 

 やっぱりですか。

 いるだけで迷惑をかけるなんて、私の無能っぷりも極まってきてしまいました。

 

 「ちなみに、コレは駆逐艦専用と言っていいわ。軽巡でも使える人は使えるけど、使う人は限られるわね。それ以上の艦種になるとまず使えないわ」

 「どうしてですか?」

 「『脚技』ってのは、一度消した『脚』を再形成する行為そのものを推進力として利用するの。艦種が大きくなるにつれて艤装は重くなるし、『脚』を発生させるまでの時間も長くなるから、再形成に5秒も6秒もかかる重巡以上の艦種じゃあ不可能なのよ」

 

 なるほど。だから艤装が軽く、『脚』を発生させる時間も短い駆逐艦専用なんですね。あれ?でも待ってください。海面を跳ぶことができるのなら……。

 

 「あ、あの、魚雷をジャンプして避けるとかはできないのですか?」

 「…………」

 

 あれ?私、おかしなこと言いました?

 満潮さんが「何言ってるんだこの馬鹿は」とでも言いそうな顔をしているのですが……。

 

 「アンタ、その場でジャンプしてみなさい。思いっきり」

 「え?」

 「いいから跳ぶ!」

 「は、はい!」

 

 と、反射的に返事をして、私はジャンプしようとしました。

 しようとしたんですが、私の体はほんの少し浮いただけで飛び上がることはできず、足を引っ張られたような感覚と共に、顔から海面に叩きつけられました。

 ええ、自分で言うのもなんですが、見事な五体投地だと思います。

 

 「『脚』が水の抵抗を受ける話はしたわよね?縦1メートル以上の力場が水中に沈んでる状態なのに、まともにジャンプなんてできるわけないじゃない。『脚技』が使えるくらい、『脚』を自在に扱えるなら話は別だけどね」

 

 よく考えればそうでした。

 うぅ……顔が痛い。

 それに、司令官にまたみっともないところをお見せしてしまいまし……あれ?なんだかお尻がスース―する気がします。

 も、もしかしてスカートが捲れてる?ちょっと待ってください!それは非常にマズいです!

 だって、私はさっきまで水に浸かっていたから下着も水浸し。つまり、透けてる可能性大です!

 再度言いますが、それは非っ常ぉぉぉぉぉに!マズいです!何故なら、私のお尻には見られたくないモノが……。

 

 「お、鳥が飛んでいる。ご覧のとおり。なんてな」

 

 それは駄洒落ですか?

 明後日の方向を向いて、いかにも『何も見てませんよ~』と言いたそうな態度はありがたいのですが、今はそのお心遣いが痛いです。

 

 「アンタ、まだ蒙古斑があるのね。何歳だったっけ?」

 

 やっぱり透けてましたか。

 しかも、満潮さんがハッキリ言っちゃったせいで司令官のお心遣いが無駄になっちゃいましたし、着任三日目で、とんでもない大恥もかいてしまいました。

 

 「大丈夫だ朝潮。そういう子もたまにいると聞くから、気にするな」

 

 無理ですよ!

 司令官のお役に立てるようになるための最初の一日なのに、お役に立つどころか一生分の恥をかいた気分です!

 

 「心配なんてしなくてもいいぞ。十分過ぎるほど役に……」

 「それ以上言ったら魚雷で吹っ飛ばす」

 

 司令官は何と続けようとしたのでしょう。

 でも、聞けそうにないですね。

 だって、両腿に装備された魚雷発射管の照準をバッチリ司令官につけてますもの。

 

 「はいはい、お遊びはそこまで。アンタは余計な事考えないで、しばらくはただただ航行だけする訓練よ」

 

 司令官に右手でシッシとやりながら、満潮さんは遥か沖の方を指差しました。

 アレは……浮きでしょうか。

 満潮さんが指差す先、2kmくらいの場所に「ここでUターン」と書かれた三角形の浮きがあります。 

 

 「あそこでUターンして戻れば良いのですね?」

 「そうそう……って、アンタ、アレが見えるの?」

 「はい。書いてある文字までハッキリと」

 

 はて?満潮さんは見えないのでしょうか。

 なんか、「アフリカのハッザ族か」と、呆れながら誰かにツッコんでいますが……。

 

 「訓練初日に、そこまでやることはないんじゃないか?」

 「いいのよ。それくらいやらないと、この子の場合いつまでたっても新米以下よ」

 

 その通りです。

 私は出来が悪いですから、それくらいやらないと駄目なんです。

 いえ、むしろやらせてください。

 何もかも忘れて、布団に入るなり即寝れるくらいまで徹底的に疲れさせてください。

 じゃないと……。

 

 「司令官と顔を合わせられませんからぁぁぁぁぁ!」

 

 と、叫びながら、私は司令官から逃げるように沖へと漕ぎ出しました。

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