艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第十六話 あの子は、控え目に言って天才だ

 

 

 

 『出歯亀』と言う言葉を聞いたことがあるかしら。

 元は、明治時代に発生した殺人事件の犯人のあだ名なんだけど、事件以降はのぞきの常習者や強姦とかに及ぶ変質者。つまり、好色な男性を指す蔑称として扱われてるわ。

 で、なぜこんな話をしたかと言うと、朝潮が着任してからの一週間。司令官の行動が常軌を逸してそれに近くなっているからよ。

 

 逸してると言っても、やっていることは所謂のぞき。

 だけど、その方法が大問題。

 某野球アニメの主人公のお姉さんみたいに、木陰でそっと「朝潮……」とか呟きながら見守る程度ならかわいいもの……いや、キモいけどまだ我慢できた。

 でも、あのオッサンの場合はゴツイ双眼鏡で堂々とガン見するのに始まり、それを咎めると、今度は砂浜に穴を掘って迷彩を施した簡易の観測所(最新の観測機器がてんこ盛り)を設置したわ。

 どうも、奇兵隊の人たちを使って造らせたらしい。

 それを警戒して沖に出れば、ドローン一個編隊で空撮する始末。職権乱用もここまでくれば、逆に清々しく感じたわ。

 

 「もうさぁ、呆れてものも言えないんだけど?」

 

 考えてもみてほしい。

 歳が40に届きそうなオッサンが、見た目は小学生くらいの朝潮を、出歯亀野郎も裸足で逃げ出すような手段を用いて覗くのよ?

 眼中になくても、巻き添えで盗撮の被害に遭ってる私からしたら迷惑以外の何物でもない。

 だから、毎週恒例の晩酌の付き合いで……。

 

 「せめてバレないようにできないの?」

 

 と、出歯亀本人に言ってやったわ。

 ちなみに、朝潮は全くと言っていいほど気づいてない。

 ドローンの編隊が飛んでいても、「アレが、空母の方々が使う艦載機ですか?」なんて言うくらいよ。酷い時には手まで振ってるわ。

 

 「お前が気づかにゃあ、ドローンまで使わんでえかったんじゃがのぉ」

 

 言ってやっても、このオッサンはまったく反省してない模様。

 それどころか、やめる気もなさそうだわ。

 

 「気づいてるのが私だけだからいいけど、朝潮が気づいたら幻滅するわよ?」

 「や、やっぱそうじゃろか……」

 

 いや、待てよ?

 あの子の場合、逆に「そこまで私の事を気にかけていただけるなんて、朝潮、感激いたしました!」とか言いそうな気がしてきた。

 話題変えよ。

 

 「ねえ、あの子って何者?」

 

 あの子は普通じゃない。

 が、この一週間、あの子を嚮導して抱いた私の感想よ。

 その考えが確信に変わったのは、今日の訓練中に朝潮が使った飛魚。遠目からだったから細部まで確認できなかったけど、見た限りでは完璧だった。

 更に驚いたのは、直後こそ反動で痛がっていたものの、寮に着く頃にはケロッとしてたこと。

 私たち八駆の三人でさえ、初めて飛魚でまともに跳べた日から三日は動けなくなったってのに、あの子はそれっきり痛がる素振りすら見せなかったわ。

 

 「私見でいいか?」

 「いいわ」

 

 やっぱり、司令官も私と同じ疑問を抱いてたか。

 まあ、そうでもなきゃ、日に日に観察レベルを上げたりしないわよね。

 初日は覗きだったんでしょうけど、司令官は私でも気づかなかったことに初日で気づき、精度を徐々に上げつつ観察し続けてたんだわ。

 

 「まずは前提から話そう。あの子は、控え目に言って天才だ」

 「その根拠は?」

 「一つは視力。この一週間の訓練の様子を観察した結果、あの子の視力は10.0を超えているとわかった」

 

 どうやってその結果を導き出した?

 は、置いといて、それは、初日に2kmも離れた浮きに書かれた文字を読んだことでなんとなく察しはついてた。でも視力が良いだけで、司令官が天才と断じるとは思えない。

 

 「更にだ。あの子は動体視力、及び反応速度も常人の比ではない」

 「具体的には?」

 「お前が撃つペイント弾。それを、見てから行動に移していた。動きを見る限り、()()()()()確実に回避していただろう」

 「でもあの子は……いや」

 

 被弾しまくっていた。

 と、言いかけてやめた。

 司令官は何て言った?「陸上でなら」って言ったわよね?

 つまりあの子は、亜音速で迫る砲弾を見極め、尚且つ見てからでも十分間に合う反射神経と反応速度、さらに、それについてこれる身体能力も持っていながら、海上では回避できない理由があるってこと。要は……。

 

 「『脚』が邪魔をしてる。それプラス、圧倒的な経験不足ね」

 「そうだ。艦娘は人型であるのにもかかわらず、下半身の動きに融通が利かない。さらにあの子の場合は、洋上訓練の経験がないせいで持っている選択肢が少なすぎる」

 

 艦娘は、先に司令官が言ったように下半身の動きに融通が利かない。

 その原因は『脚』。

 艦娘は人の身でありながら、海上を立ったまま数十ノットの速度で動き回れるけど、その速力と浮力を生み出す『脚』が文字通り足枷となって陸上のように動けないの。

 具体的な例を挙げるなら旋回半径。

 これは旋回した時、重心点によってできる円の半径のことよ。船はもちろん、車でも大きさやその時の速度に応じて曲がる時の円の半径は大きくなるわよね?

 これは艦娘にも当てはまるの。

 極端な言い方をすれば、艦娘は足の裏に船をくっつけてるだけだから、旋回半径はどうしても発生するのよ。

 これを少なく、もしくはゼロにするために、あの人が編み出したのが脚技なんだけど……これは関係ないから今はいいや。

 

 「あの子が、初使用の脚技の反動から早く回復したのも、あの子が天才だから?」

 「いや、確かに身体能力は常人より優れているみたいだが、あくまで優れている程度だ」

 「じゃあ、どうしてあの子は……」

 「その件が気になったので、アレを見たあと雪代君に連絡を取った」

 

 雪代って言うと、姉さんが戦死したあとくらいに鎮守府を離れた人よね?

 たしか、第一世代の元艦娘って噂を聞いたことがあるけど……。

 

 「それで?何かわかったの?」

 「あの子が脚技の反動から早く立ち直った理由。それは単に、脚技の使用に耐えられるだけの肉体が出来ていたからだ」

 「でもあの子、洋上訓練はしたことないんでしょ?」

 「洋上訓練はな。それが出来ない分、基本的な体力トレーニングを欠かさずやっていたらしい」

 

 なるほど。

 それで、初使用の反動での痛みに驚きはしても、時間経過とともにケロッとできるまで回復してたのか。

 

 「それともう一つ。私があの子を天才と言った最大の理由だが……」

 

 司令官が口ごもった。

 たぶんその理由は、司令官も確信を持てていないから。だから、言うべきが悩んでるんだわ。

 

 「言って。大抵のことじゃ驚かないから」

 「そうか?ならば話そう。恐らくあの子は、一度か二度見ただけで対象の技術を覚え、さらには再現することができる」

 「はぁ!?」

 

 私が考えてたことよりとんでもなかった。

 私は精々、聴覚とか嗅覚が優れてて、それを視覚情報にコンバートできる共感覚持ち程度だと予想したのに、一度か二度見ただけで覚えて再現ですって?

 んなアホな。

 それが本当なら、あの子はガチの天才じゃない。

 

 「信じられないだろうが事実だ。あの子の航行時の姿勢、体さばき。さらには、お前が何か行動に移す際の、左足に一瞬重心を傾ける癖まで真似ていた。お前が二人いるように見えたほどだ」

 「そ、そんなに……」

 

 私にそんな癖があったのも初めて知ったけど、それ以上にあの子の才能の出鱈目っぷりに驚いたわ。

 癖まで真似するなんてやりすぎでしょ。

 

 「極めつけは今日の飛魚だ。アレは正しく、初日にお前が見せた飛魚だった」

 「それなら、訓練メニューを組み直さなきゃいけないわね」

 

 あの子は、私の一挙手一投足を真似してる。しかも、完璧に。

 と、言うことは、私の砲撃の仕方も覚えてるはず。

 それはマズいわ。

 だって私は、八駆で一番砲撃が下手なんだから。

 

 「だが厄介なことに、あの子は自分の才能を自覚していない。お前にも、覚えがあるんじゃないか?」

 「え、ええ……」

 

 あの子は自分を出来損ない、能無しと思ってるふしがある。

 その事は、四六時中オロオロしてる態度や、人の目を見て話そうとしないことでわかったわ。

 

 「勿体無いわね。世が世なら、たいていの分野で大成しそうなのに……」

 「まったくだ。あの子は自分の才能を知らないまま養成所に入ったせいで、自分を無能と思い込んでしまったんだろう」

 

 艦娘養成所は、その名の通り艦娘を養成する所。

 そこでは座学の成績や体力の有無よりも、洋上訓練での成績が何より重要視される。

 そんな片寄った評価をされる環境にいたら、洋上訓練に参加できなかったあの子が自分を無能と思い込むのも当然かもね。

 

 「司令官。休み明けから、大潮と荒潮も訓練に加えて」

 「お前が必要と判断したなら、そうしよう」

 

 自覚があるなしに関わらず、そういうことなら普通に訓練するより早く、確実にあの子を伸ばすことができるわ。

 何故なら、私たち第八駆駆隊は横須賀最強の駆逐隊。

 三人がかりなら、長門さんにだって負けないわ。

 その私たちの、私の回避技術と荒潮の砲撃、そして大潮の総合的な戦闘技術を見せれば、あの子は()()()()で身に付けることができる。

 あ、でも……。

 

 「あの子に、その才能を自覚させなくていいの?」

 「それが悩ましいところだ。下手に自覚させると、あの子がそれに頼りきるようになる事にもなりかねない」

 「それはないんじゃない?あの子って根は真面目で努力家だもの。むしろ、司令官のお役に立てる!とか言って、艦種関係なしに技術をコピーしまくるかもよ?」

 「それが、頼りきると言うことだ。今はまだ、追い込まれた時に無意識に会得している技術を使う程度で済んでいる。だがもし、あの子が自分の才能を自覚すれば、お前が言う通り無作為に技術を吸収するだろう。それこそ、整合性が取れなくなってもな」

 

 ふむ、言われてみればそうかも。

 例えば、駆逐艦と戦艦では砲撃時の姿勢や照準の仕方がまるで違うし、速度が違うから航行時の姿勢だって違う。

 司令官は、朝潮が才能を自覚した結果、そんな矛盾に近い状態になるのを危惧しているのね。

 

 「なんか、面倒臭い子ね」

 「そう言うな。ようやく出来た妹だろう?」

 

 いや、大潮は一つ上だし、荒潮は同い年だから確かにそうなんだけど、それって私たちでさえ、あの子に見せる技術を厳選しなきゃいけないってことじゃない。

 私と大潮はともかく、荒潮がそこまで気にしてくれるとは思えないなぁ……。

 

 「それともう一つ。実は、こっちが本題だ」

 

 今のが本題じゃないですって?

 じゃあ何?もしかしてあの子、まだとんでもない才能を隠し持ってるって言うの?

 

 「これも朝潮には言うな。だが大潮と荒潮には、お前の判断で伝えていい」

 

 朝潮には言うな?朝潮に関することじゃないのかしら、もしかして、朝潮を除いて出撃とか?

 

 「朝潮の練度が確認できない」

 「は?」

 

 何言ってるの?

 朝潮の練度が確認できない?基本的な訓練しかしてないと言っても、一週間訓練漬けだったんだから少しは上がってるはずよ?

 

 「確かだ。妖精にも確認したから間違いはない」

 

 ちなみに、私たち艦娘は自分の練度を数字として見ることができない。

 司令官か提督補佐が、妖精さんに確認して初めてわかるの。

 この練度は、レベルと呼ぶ子もいるけど、言い換えれば艤装との同調率。練度10なら、同調率10%と同義よ。

 

 なぜ練度と呼ぶようになったのかは定かじゃないんだけど、艦娘黎明期にとある艦娘が「そっちの方がソレっぽいじゃない?」と、言ったのが始まりなんだとか。

 何がソレっぽいのかは、まったくわかんないけどね。

 

 「信じられないわね……。訓練はしてるんだから、10に届くか届かないかくらいまでは上がってると思ってたんだけど」

 「いや、上がってないわけではない。確認できないだけだ」

 「どういうこと?」

 「通常、提督やそれに準ずる者は、妖精産のタブレットを通して艦娘の練度やステータスを確認する。だが朝潮の場合、ステータスを含む全ての数字にモザイクがかかっているんだ」

 

 なるほど、それで「確認できない」なんて言い方をしたのね。でも司令官は「上がっていないわけではない」とも言ったわ。

 それはつまり、数字で確認できなくても練度が上がっている確証を得ているからに他ならない。

 恐らくそれは......。

 

 「脚技の使用ね。信じきれないけど、朝潮の練度はたった一週間で、50を超えている」 

 「察しが良くて助かる。その通りだ」

 

 脚技は身体操作も必要だけど、それ以上に必要なのは『脚』。もっと言うなら、その源である艦力の操作が肝心要。

 脚技では初歩中の初歩である飛魚でさえ、練度が50以下じゃあ『脚』を再形成する前に腰まで浸かっちゃうわ。

 

 「常識外れにもほどがあるわね」

 「まったくだ。だが私は、彼女があの子に力を貸しているように思うようになった」

 「ふぅん......」

 

 姉さんが力を貸してる......か。

 そう考えるとロマンチックだけど、同じくらい不安にもなる。だって姉さんは誰よりも、何よりも司令官を優先する人だった。

 そんな姉さんが、あの子のためにってだけで力を貸すとは思えない。

 もし、本当に姉さんが力を貸しているのなら、あの子は司令官のためにその力を使うことで徴収されるでしょうね。

 

 「で?お前は明日なんすんや?誰かと逢引きか?」

 

 人が物思いに耽ってる時に急にプライベートモードになるな!本当にコロッと変わるわね。性格まで変わってるんじゃない!?

 

 「デートする相手なんかいないわよ。だから、部屋でのんびりするわ。休みだからって、外出しなきゃ駄目ってわけじゃないでしょ?」

 「たまの休みなのに勿体無いのぉ。遠慮せんでも荷物持ちを兼ねて、護衛に奇兵隊の一個中隊くらいつけちゃるぞ?」

 

 護衛で一個中隊とかどんなVIPだ。

 しかも、海兵とかじゃなくて奇兵隊の一個中隊でしょ?ってことは、陸軍の一個大隊並みの戦力じゃない。

 このオッサン、私がどんな奴に襲われるのを想定してんのよ。

 

 「提督は、満潮ちゃんが心配なのよ。はい、ジュースでも飲んで一息ついて?提督にはいつものと、今日のお勧めのピーマンの肉詰めです」

 

 心配って……、心配してくれるのは嬉しいけど過保護が過ぎるでしょ。

 護衛と称して戦争でもおっ始める気?

 

 「親の心子知らずっちゅうやつか」

 

 だれが親だ。

 アンタの娘になった覚えはない……って言うか嫌だ。

 だってこのオッサンの見た目って、控えめに言って893なのよ?しかも大昔の任侠映画に出てきそうな。

 そんな人の娘呼ばわりされて喜ぶような特殊な性癖は私にはない。断じてない……って、どうして箸で摘まんだピーマンの肉詰めを、私の方へ向けてるの?

 

 「満潮も食うか?うまいぞ」

 「い、いらない……」

 「なんや、まだ食えんのか。お前、もう15歳じゃなかったか?」

 

 15歳だからって食べれると思わないで。嫌いなものは嫌いなんだからしょうがないじゃない。

 だってピーマンよ?緑色した悪魔よ?

 私って歳は15だけど、肉体年齢は13そこそこで止まってるから味覚は子供のままなの。故に、そんな苦いものは食べたくない。でも、食べられないって思われるのはしゃくだから……。

 

 「べ、別に食べれないわけじゃないし……」

 

 と、言っておこう。

 あ、あと辛いものも駄目だけど、今言うと面白がって注文しそうだから黙ってよっと。

 

 「そういえば食堂の人が、駆逐艦の子がピーマンを残すと嘆いていました。何かいい方法はないでしょうか提督」

 「丸ごと口に突っ込めばええんじゃないか?」

 「やめろ!マジやめろ!下手したらトラウマになる!」

 

 司令官と鳳翔さんが、駆逐艦にピーマンを食べさせる方法を議論し始めたことに一抹の不安を感じながら、できるだけ聞かないようにしながら私は祈った。

 明日の献立に、ピーマンが入っていませんようにって。

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