艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第十八話 我が生涯に一片の悔いなし

 

 

 

 休みが明けて、第八駆逐隊全員で訓練を行うようになってからと言うもの、午後からは見学の方が多くなりました。

 ですが不満はありません。

 訓練に参加したいですが、満潮さんと荒潮さんが演習する様子を見学するだけで十分参考になると司令官が仰ったそうなので、私に不満はまったくありません。

 ええ、ありませんとも。

 司令官から頂いた、私の顔より大きい双眼鏡がありますから不満は一切ありません。

 

 『ちょっとぉ、逃げてばっかりでズルいわよぉ~』

 『アンタが下手くそなだけでしょ?悔しかったら当ててみなさい!』

 『ぶぅ~!満潮ちゃんの意地悪ぅ!あんまり私に意地悪するとぉ、朝潮ちゃんが寝たあと頭を撫で回してることをバラしちゃうんだからぁ』

 『現在進行形でバラしてんじゃない!い、いや違う!そんなことしてないから!』

 

 艤装の通信装置から、満潮さんと荒潮さんのやり取りが聞こえてきました。

 あれだけ激しい砲雷撃戦を繰り広げながら、あんな雑談に近いやり取りができるなんて凄いですね。

 はい、凄いです。

 満潮さんが否定したそうなので、私の頭を撫でていることには言及しません。

 

 「満潮の避け方をよく見ておくと良いよ。回避だけなら、八駆で一番ですから。ほら、今のなんて朝潮ちゃんは知らないでしょ?」

 

 隣にいる大潮さんは、事あるごとに見るべき点を教えてくれています。

 確かに知りませんでした。

 アレは艦首を立てて、水圧だけで減速しているんでしょうか。

 昨日、私がやったのとは似て非なる技術です。

 それだけに留まらず。

 満潮さんは右に避けるとあたりを付ければ後ろに回避し、時には加速して飛んでくる模擬弾に飛び込むように前方へ抜けています。

 それで終わりではありません。

 回避後は即反撃、もしくは砲撃で自分への狙いをずらしたりとパターンが多彩です。

 

 「荒潮が焦れて接近し始めたね。朝潮ちゃん、今から起こることをよく見ててね。荒潮は砲撃が下手じゃない、むしろ満潮より上手いんだけど、たぶん一発も当たらないから」

 

 大潮さんが言う通り、二人が砲撃と回避と織り交ぜながら接近していき、距離は……2メートルないくらいでしょうか。下手をすれば『脚』同士が接触しかねないような距離で、二人が砲火を交え始めました。

 

 『この!このぉ!ちょっとは当たりなさいよぉ!』

 『当たってたまるか!アンタ、しつこいくらい急所ばっかり狙ってくるじゃない!ペイント弾でも、当たったら痛いのよ!?』

 

 ほとんど0距離と言っていい距離で、罵倒までしながら二人は撃ち、躱すを繰り返しています。

 荒潮さんは所々被弾してオレンジ色に染まっているのに、大潮さんが言った通り満潮さんは掠ってすらいません。

 

 「どうやったら、あんなに躱せるんですか?」

 「相手をよく見ることが大事だよ。視線はもちろん、体の微妙な動きや表情など、色んな所に相手の行動を予測できる要素が隠れてる。満潮は、ソレを見ることに長けているんだよ」

 

 私の質問に、大潮さんが得意気に答えてくれました。

 なるほど、それが満潮さんの驚異的な回避技術の秘密ですか。

 確かに、言われてみれば回避行動に移る前が根本的に異なります。

 私の場合は相手が砲撃したあと、弾道を見極めてから回避行動に移りますが、満潮さんは相手が撃つ前に回避を始めています。

 対処療法的な動きしかできない私とは、戦闘に対する視点が違いすぎます。

 

 「もちろん、相手は動きを予測されまいとモーションは最低限に、顔にも出さないようにします。もっとも、荒潮はそういうことを考えてやってませんから、満潮からしたら楽過ぎる相手ですね」

 「では、荒潮さんは砲撃が苦手と言うことですか?」

 「そんな事はないよ?、むしろ、荒潮は八駆で一番上手いです。でも、撃つ前に射線を予測され、避けられたんじゃあいくら上手くても当てるのは至難。要は、相性の問題だよ」

 

 なるほど、満潮さんと荒潮さんは相性が最悪なんですね。あ、もちろん戦闘の相性です。

 性格的な相性は......あ~、どうなんでしょう。いつも言い合いをしてる気がします。

 

 「朝潮ちゃんは頭で考えてから、それを実践するタイプだよね?だったら、満潮の避け方は朝潮ちゃんに合ってると思うよ」

 

 なるほど、たしかに私に合ってそうです。

 満潮さんのように、相手の挙動で瞬時に判断できるようになれば。ですが。

 

 「ちなみに、大潮は二人を足して割った感じですね。予測回避と勘での回避、両方使います」

 

 ふむふむ。

 同型艦でも、人によってまったく戦い方が違うんですね。

 あ、でもアレはさすがに当たるのでは?荒潮さんの右手の連装砲が、満潮さんの眼前に構えられています。

 

 「満潮はアレも避けますよ」

 「あ、本当に……」

 

 避けました。

 構えると撃つのがほぼ同時だったのに、それすら避けて見せた満潮さんはがら空きになった荒潮さんの右脇腹に向けて連装砲を発射。荒潮さんを吹き飛ばし、右脇腹をオレンジ色に染め上げました。

 

 『もう……ひどい格好ね』

 『これで大破ね。今回も私の勝ちよ、荒潮』

 『ぶうぅ、私と満潮ちゃんって相性悪すぎぃ。少しくらい当たってくれないと、私が面白くないわぁ』

 『私のアレは大潮の下位互換。大潮が相手だったら、そもそも接近も許してくれないでしょうが』

 『そうだけどぉ……』

 

 勝ち誇る満潮さんと不貞腐れた荒潮さんが砂浜に戻って来てますが……。

 サラッと凄いこと言ってませんでした?

 隣でニコニコしてるだけの大潮さんは、満潮さんよりすごい避け方ができる?アレより凄い避け方って、いったいどんな避け方なのでしょう。

 おっと、悩む前に……。

 

 「お、お疲れ様です!」

 

 新米の私は先輩であるお二人にタオルと飲み物を差し出しつつ、ねぎらいの言葉をかけないと。

 

 「これくらい当然よ。アンタは間違っても、荒潮を参考にすんじゃないわよ」

 「それはぁ、ちょっと酷いんじゃない?朝潮ちゃん、満潮ちゃんのマネばかりしてるとぉ、逃げ癖がついちゃうからほどほどにしとくのよぉ?」

 「ちょっとそれ、どういう意味よ!」

 「あらぁ?そのままの意味だけどぉ?」

 

 演習の勝敗を引きずった二人が一触即発の雰囲気に……。

 どうすればいいのでしょうか。

 大潮さんは、「またか」とぼやきながら額を押さえてるだけですし、私が止めなきゃいけないのでしょうか。

 

 「なんなら、もう一戦してあげてもいいのよ?もっとも、結果は変わらないだろうけどね」

 「あらあら、私が奥の手を使ってないの、知ってるでしょぉ?私が本気を出せばぁ、満潮ちゃんなんて瞬殺なのよぉ?」

 「そのセリフ、そっくりそのまま返すわ。私だって、奥の手は使ってない」

 

 いやいや、え?

 お二人って、まだ何か隠してるんですか?奥の手って言うくらいですから、さっきの演習で見せてくださった技術の数々より凄いんですよね?

 

 「はいはい、二人ともその辺にして。朝潮ちゃんが困ってるじゃん」

 「だって荒潮が!」

 「だって満潮ちゃんがぁ!」

 「よしわかった。じゃあ大潮が、喧嘩ができなくなるまで徹底的に叩きのめしましょう。二人、まとめて」

 

 え?この二人をまとめて?

 いやいや、大潮さんがどれほど強いのかは知りませんが、ただでさえ卓越した技術(私基準)を身に付けているお二人をまとめて相手に?しかも、徹底的に叩きのめす?

 本当にそんなことができるのでしょうか。

 あ、でも、そう言えば二人も矛を収めて……。

 

 「上等じゃない!できるもんならやって見なさいよ!」

 「それはちょっとぉ、私たちを見くびり過ぎよねぇ」

 

 くれませんでした。

 それどころか、ヒートアップしました。

 荒潮さんなんか、休憩もそこそこにペイント弾を補給しています。

 

 「大潮に勝てるつもりですか?最近相手してなかったから、慢心しちゃってるみたいですね」

 

 なんだか大潮さんまで目が据わってきました。

 あ、これがミイラ取りがミイラにってやつですね……って、そうじゃない。現実逃避しちゃダメです。大潮さんまでああなった以上、私が止めないと……。

 

 「あ、あの、3人とも落ち着いて……」

 「朝潮ちゃんは黙ってて」

 「アンタは黙ってろ」

 「朝潮ちゃんは黙っててねぇ」

 「あ、はい」

 

 ダメでした。

 私では止められませんでした。

 こうなったら司令官を呼ぶしか喧嘩を止める手段はありませんが、どうやって呼べば……。

 ん?あそこの木の陰に居るのは……司令官?どうしてそんなところに?

 いえ、近くに居てくださったのなら好都合です。この状況をどうにかしてください。私じゃあ、どうしようもありません!

 え?なんですか?そのホワイトボードは。何か字が書いてありますね。

 あ!わかりました!

 これはカンペと言う奴ですね。テレビで見たことがあります。

 え~と何々……?

 

 「朝潮、これは君が乗り越えるべき最初の試練だ。三人を止めろ……ですか」

 

 いやいや、それができないから困っているわけでして……。せめて、止めろとおっしゃるなら何かアドバイスを頂けたらな……と、私は思うわけです。

 あ、次のカンペが……。

 

 「力で止めるのではない?ではどうやって……」

 

 まさか、言葉で説得しろと?

 不可能です。

 私は八駆で一番の新米。さらに、一番年下です。

 故に発言力が低く、部屋でのプライベート時も三人にされるがままになっています。

 あ、されるがままと言いましても、けっしてイジメられているわけではありません。一言で言うなら玩具、ぬいぐるみ扱いでしょうか。

 特に荒潮さんなんかは、頭頂部の髪の毛が減ることを心配しなければならないほど撫でてきます。

 おっと、そうこうしている内に次のカンペが……。

 

 「え……?いや、ちょっと待ってください。その台詞を私に言えと?」

 

 そのカンペに書かれている台詞で、本当に三人を止められるのなら言うのはやぶさかではありませんが……。

 さすがに少し恥ずかしいと言いますか、照れくさいと言いますか……。

 あ、司令官がまた何かを書き込んでいますね。今度は何を……。

 

 「その台詞を、最大限に活かすポーズ?」

 

 いやいやご冗談を。

 そこに書かれているポーズをしながら、先のセリフを言えと?軽く罰ゲームじゃないですか!と、文句を言っている場合ではありません。

 なぜなら、司令官が次のカンペを掲げていますから……。

 

 「三人の間に、埋めようのない溝が出来ても良いのか。ですか」

 

 良い訳がありません。

 あの三人が険悪なままでは部屋でも落ち着けませんし、何より喧嘩している三人を見たくありません。

 なので、本当は不本意ですが、司令官の指示に従うほか、選択肢はありません。

 ん?よく考えたら、これが初めて私に下される命令になるんじゃ……。

 いえ、そうです!

 これは、司令官から私への初めての命令です。

 ならば、全力でやらなければ!

 

 「え~と、胸元で両手の平を祈るように組んで……」

 

 次に三人を上目遣いで見つめ、うっすらと涙を浮かべる。

 そして、司令官が教えてくださった……。

 

 「やめて!お姉ちゃん!」

 

 と、いう台詞を力いっぱい叫ぶ。

 司令官が言った事が確かなら、これで三人の喧嘩は止まるはずです。

 

 「あ、本当に止まった」

 

 凄いです司令官!

 司令官が教えてくださった通りにしたら、本当に三人の喧嘩が止まりました。

 三人とも両目をこれでもかと見開いて私を凝視しているのが気にはなりますが、私は見事、司令官からの命令を完遂する事が出来まし……。

 

 「「「ごふっ!!!」」」

 

 え?ちょ……。

 どうして吐血?

 私を凝視していた三人が三人とも、幸せそうな顔をして吐血しちゃったんですが……。

 

 「ちょ、朝潮ちゃん。それは卑怯……」

 「ダメ、ダメよそれは……。自分が抑えられなくなっちゃう……」

 「ああ、可愛いわぁ。今すぐ部屋にお持ち帰りしたくなっちゃうぅ」

 

 う……。

 喧嘩は止まりましたが、三人の目が獲物を狙う獣みたいになっているような気がします。

 荒潮さんなんか、溢れ出る涎を必死に袖で拭ってますよ。

 

 「朝潮ちゃん。さっきのは大潮に言ったんですよね?」

 「は、はい?」

 

 いや、大潮さんにも言った。が、正しいのですが、目が血走ってて否定しづらいです。

 

 「何言ってんのよ大潮。普段面倒を見てる私に言ったに決まってんでしょ?」

 

 いやいや、だから個人に言ったわけではなくてですね?

 と、訂正したいのですが、今まで見た事がないくらい怖い顔をして二人が威嚇し合っているので、これまた言いづらいです。

 

 「満潮ちゃんこそ何を言ってるのかしらぁ。毎日お風呂に入れて着替えまでさせて、オマケに開発までしてる私に言ったに決まってるでしょぉ?」

 

 いやいやいや、だから違うんです。

 って、身の危険を感じる文言が交ざっていませんでした?

 お風呂と着替えはその通りですが開発?開発って何をですか?間違っても開発の後に(意味深)ってつきませんよね!?

 

 「よしわかった。じゃあ、戦って白黒つけようよ」

 「上等じゃない。最後まで立ってた一人が、朝潮にお姉ちゃんって呼んでもらえる。それで良いわね?」

 「うふふふふ~♪テンション上がって来たわぁ♪」

 

 あ、あれ?

 喧嘩が再発どころか、さっきより殺気立ってるような気がするのですが!?しかも演習ではなく、三人とも艤装を投げ捨てて素手で殴り合うつもりのようです。

 こうなってはますます、私の手には負えません。

 司令官にお願いするしか……。

 

 「し、司令官?」

 

 何をしてらっしゃるんですか?

 右拳を天高く掲げたそのポーズはなんですか?素敵に野太い声で「我が生涯に一片の悔いなし」とか聴こえて来そうなそのポーズはなんなんですか!?上下しっかりと士官服を着ているのに、上半身だけ裸になっているような幻覚まで見えますよ!

 いや、カッコイイんですよ?

 いかにも(おとこ)の最期って感じがしてカッコイイんですよ?

 できる事なら写真に撮りたいのですが、今は三人を止めてください!

 と、心の中で必死にお願いしたのですが、司令官が正気に戻ったのは三人が同時にノックダウンした後でした。

 

 

 

 

 

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