艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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急遽暇になっちゃったんでゲリラ投稿(ノ-_-)ノ~┻━┻


第十九話 大潮型だなんて、呼ばれたくないんです

 

 

 

 私が秘書艦になって何日経ちましたっけ。

 合間で朝潮ちゃんの訓練に参加しているとは言え、書類仕事は肩が凝ってしかたありません。

 でもまあ、由良さんの手伝いをした経験があったので手間取る事はありませんでしたね。

 それに、他の提督補佐の秘書艦はどうか知りませんが、司令官の秘書艦がやることは書類の不備をチェックして司令官に渡すのと、事務課や工廠にお使いに行く程度です。

 なので体力的には楽ですし、書類をチェックしながら筋トレする余裕もあります。

 そんな秘書艦業務を熟しながら、朝潮ちゃんの訓練にも参加する日々を始めて五日ほど経った今日、朝潮ちゃんの訓練報告を司令官にしているのですが……。

 

 「予想以上だな」

 「はい、成長速度が異常です。技術面だけで言えば、大規模作戦にも投入できるレベルですよ」

 

 私と同じ感想でした。

 まあ、当然ですよね。

 朝潮ちゃんに自覚はないようですが、現時点で並の駆逐艦なら相手にならないほど高い技術を習得しています。特に、回避技術に関しては満潮と遜色がないレベル。アレなら、よほどのミスをしない限り被弾などしないでしょう。

 

 「練度の方はどうなんですか?」

 「満潮から、話は聞いているか?」

 「はい」

 

 それはつまり、相変わらず確認できないという事ですよね。

 でも、脚技を使えることから50以上にはなっているだろうと予想されているとも聞きました。

 その予想が確かなら、学習能力だけでなく練度の上がり方も異常。

 あの子が本当に人間なのか、疑いたくなってしまいます。

 あ、でも、予想とは言え練度が50を超えているのなら……。

 

 「大規模改装は受けさせないんですか?」

 

 艤装には、艦種によって数は違いますが何段階かのリミッターが掛けられています。

 いくら練度が上がろうと、このリミッターを解除しない限り性能は頭打ちです。

 このリミッターの解除を、通称『大規模改装』と呼ぶんです。

 

 「ああ、せめて初出撃を終えてからと考えている」

 「そうですか。たしか、駆逐艦『朝潮』も改二改装までできますよね?」

 

 通常は、どの艦種でも第一段階の改装は受けられます。

 ですが改二以降の改装ができるかどうかは、俗に『妖精の気まぐれ』と呼ばれている事象で決まるんです。

 私たち朝潮型を例に挙げますと、最初に改二改装が可能になったのは呉鎮守府所属の十番艦 霞。次が私こと大潮でした。それから順次改二改装が実装されて、五から八番艦を飛ばして九番艦の霰という順番でした。  

 ちなみに『妖精の気まぐれ』とは、先に説明した改二改装や性能の上方修正などが、気まぐれとしか思えない程突然、脈絡もなく決まるからです。

 聞いた話でしかありませんが、そういう事が決まると大本営の広報機関。通称『C2機関』に所属している広報官の、通称『しーちゃん』(本名非公開のため)から各鎮守府、各泊地の提督に伝えられます。

 

 「可能なはずだが、残念ながら実例がない」

 「朝姉は、改二が実装される前に戦死しちゃいましたからね……」

 

 失言でした。

 朝姉が改二改装を受けていたら……と、考えちゃったせいで、司令官共々しんみりとした雰囲気になっちゃいました。話を逸らしましょう。

 

 「あ、そうだ。朝潮ちゃんの才能に関してですが、面白い事がわかりました」

 「聞こう」

 「どうやら、あの子は無作為に覚えているわけじゃなく、自分に必要、不必要と思った技術を取捨選択してるようなんです」

 「ほう?自覚なしにか?」

 「はい。砲撃を例にすると、満潮と荒潮の砲撃方法を最も目にしているはずなのに、大潮のやり方に近くなっています」

 

 満潮の場合は基本に忠実。無駄はありませんが、無駄が無さ過ぎて射線や弾道を読みやすいです。

 荒潮の場合は満潮の逆ですね。基本は度外視ですが、どこを撃ってくるかわからないので射線と弾道が読みづらい。

 そして私の場合は、簡単に言いますと二人の中間。

 基本は守りますが、ケースバイケースで無駄弾を織り交ぜたりします。

 

 「二人の砲撃を多く見た結果。お前の撃ち方そっくりになったんだな」

 「そのようです」

 

 朝潮ちゃんの成長を見て、顔は瓜二つだけどやっぱり別人なんだなって、思い知りました。

 なんせ、先代の朝潮。朝姉は才能があるとはとても言えませんでしたから。

 運動神経は無いに等しく、身体能力も平均以下。

 でも朝姉は、努力することを惜しまない人でした。できないことはできるまで繰り返し、朝姉はたゆまぬ努力で強さを手に入れました。

 朝姉を『努力しかできない凡才』とするなら、朝潮ちゃんはさしずめ『努力ができる天才』ですね。

 

 「一昨日から朝潮ちゃんも演習に参加させてるんですが、すでに手を抜く余裕がなくなっています」

 「お前がそこまで言うとは大したものだ。だが、三人とも本気は出していないのだろう?」

 「もちろんです。確かに朝潮ちゃんは強くなりましたが、それでも奥の手を使った大潮たちの足元にも及びません。それに、あの子は自分に自信がないのか、思い切りに欠けるところがあります」

 

 私たち三人の奥の手は今関係ないので置いとくとして、自信がないのがあの子の最大の弱点ですね。

 内火艇ユニットを使った訓練をしたことがないせいでそうなってしまったのでしょうが、今のままだといくら高い技術を習得していても十全に発揮できません。

 

 「どうにかなりそうか?」

 「あの子は大潮たち以外の艦娘の力量を知りませんからねぇ。ほかの駆逐艦の子と演習でもさせてみれば、自分がどれくらい強いかわかると思いますけど……」

 

 それだけだと、自分の強さを勘違いしかねません。

 だって仲間内でやる演習と実戦は全く違います。本気で自分を殺しにかかってくる相手には強いだけではダメです。精神的に食われかねません。

 早めに、実戦の空気を覚えさせる必要がありますね。

 

 「大潮、明日の訓練は中止にしろ」

 「中止ですか?まあ訓練続きですから、そろそろ休みをとは思っていましたけど」

 「いや、丁度、第五駆逐隊の艤装を総点検しようと思っていたんだ。お前たちには、五駆の代わりに哨戒任務に出てもらう。休みはその後だ」

 

 なるほど。

 それは丁度いいですね。

 哨戒任務だからと言っても会敵する可能性はありますし、会敵しなくても洋上を長時間航海するのはいい経験になります。でも……。

 

 「意外ですね」

 「ん?何がだ?」

 「司令官は、朝潮ちゃんを実戦に出す気はないと思ってました」

 「あの子は艦娘だぞ?駆逐艦とはいえ、鎮守府内で遊ばせておく余裕などない」

 

 それはそうなんですが……。

 司令官は今でも、朝姉の事を引きずっているはず。

 そんな司令官が、朝姉そっくりな朝潮ちゃんを戦場に出そうとしているのが意外すぎて驚きました。

 

 「明日、11:00(ひとひとまるまる)に帰投予定の六駆と交代で近海の哨戒に出てくれ」

 「了解しました。ご安心ください。絶対にあの子を、無事に連れ帰ります」

 「お前たちもだ。全員無事に帰ってこい。と言っても、近海の哨戒で大袈裟だがな」

 

 近海だからと言って慢心していいわけではないですが、確かに大袈裟ですね。

 深海棲艦の生態には今でも謎が多いですが、深海棲艦からすれば敵地の近くだというのに、なぜか弱い個体しか現れないんです。

 これには諸説あって、弱い個体を偵察として送り込んでる説や、間抜けな個体が迷いこんでいる説等々、色々ありますが明確な答えは出ていません。

 

 「わかっています。だけど大潮は……。私は、朝潮ちゃんだけは何があっても生きて帰します。例え、私が代わりに沈む事になったとしても」

 「気負い過ぎだ。慢心していいわけではないが、近海の哨戒任務程度で……」

 

 察してくれましたか。

 ええそうです。私は明日の任務の事を言っているんじゃありません。

 これは、私の決意表明なんです。これから幾度も立ち向かっていく、まだ見ぬ任務への。

 それに加えて……。

 

 「私の我儘も兼ねてます。それに、朝潮ちゃんを利用してるだけですよ」

 「我儘か。どんな我儘なのか、聞いてもかまわないか?」

 

 構わないですが……。

 他人からしたら気にしすぎと思われるような事なので、あまり大っぴらに言いたくはないんですが……。

 まあ司令官になら、言ってもいいかな。

 相変わらずの仏頂面ですが、私を心配してくれてるのは肌で感じますので、少しでも安心させといた方がいいでしょうし。

 

 「私は朝潮型駆逐艦の二番艦、大潮です」

 

 朝姉が戦死してからの三年間は、私にとって地獄でした。

 朝姉がいた頃は、大した悩みもなくのほほんと本能のままに生きていました。

 今思うと、本当に子どもでした。

 でも大切な、大好きだった姉が亡くなってから、それが許されなくなりました。

 だって私は二番艦です。

 年齢的にも艦娘歴的にも、艦型的にも次女でした。

 その私が、姉妹艦が一人戦死したくらいで悲しみに浸るなんて許されない。満潮のようにトラウマに怯える事も、荒潮のように逃げる事も許されない。姉に代わって、残された姉妹たちを引っ張って行かないといけない。

 そう思って……いえ、思い込んで今までやってきました。

 朝姉に代わって駆逐艦のまとめ役もやりましたし、秘書艦だった由良さんの手伝いだってしました。

 新しい朝潮が着任する日を指折り数えながら、自分を誤魔化して精一杯やってきたつもりです。

 でも朝潮ちゃんが着任して、一緒に暮らすようになって、朝姉が亡くなってから囁かれ始めた呼び名が大嫌いだった頃の気持ちがぶり返しました。

 私は朝潮型です。

 その二番艦です。

 朝潮型であることに誇りを持っています。

 それなのに、他の人達は私を朝潮型と呼んでくれなくなりました。今でも、朝潮型と呼んでくれない人が居ます。

 もう無理なんです。堪えられないんです。

 私はもう二度と……。

 

 「大潮型だなんて、呼ばれたくないんです」

 

 だから死なせない。

 私がもう大潮型と呼ばれないために、あの子には生き続けてもらいます。

 私や他の姉妹を生贄に捧げても、作戦を無視しても、鎮守府を壊滅させる事態になってもあの子は死なせない。

 私の我儘のために、何があっても、あの子には生き続けてもらいます。

 

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