艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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昨日二十話を投稿してから、私の中でなぜかカウントダウンが始まりました。
あと数話で彼女が((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル


第二十一話 姉さんのプレゼント、絶対渡してあげてね

 

 

 おはようございます。朝潮です。

 本日は目も眩むような晴天で、さらに気持ちのいい春のそよ風が吹いていて、まさに行楽日和です。

 お花見とかすれば最高でしょうね。

 実際、今日がお休みの人達は、まだ五分咲きくらいなのにもかかわらず、寮からほど近い場所にある桜並木でお花見をしているそうです。

 

 「だから!朝潮にはこっちの方が似合うって言ってるでしょ!」

 「いやいや。やっぱりぃ、こっちの方がいいわよぉ」

 

 そんな良い日だと言うのに、満潮さんと荒潮さんは絶賛喧嘩中です。

 まあ、原因は私なんですが。

 

 「わかってないわね!朝潮にパンツルックはまだ早いわ!基本から入るべきよ!」

 

 パンツルックとは何でしょう?

 今の私は下着姿で正座させられているのですが、これがパンツルックですか?

 

 「満潮ちゃんのコーデは基本からかけ離れてるでしょぉ?こっちの方が普通よぉ」

 

 普通とは何なのでしょう。

 何でもいいですから、そろそろ服を着させてもらえませんか?春とは言え、朝は少し冷えるんです。

 

 「あ、あの、私はべつに、制服でも構わないのですが……」

 「「それは絶対にダメ!」」

 

 ダメですか。そうですか。

 はぁ、本当に迂闊でした。

 あれは今から一時間ほど前。朝食を食べ終わって部屋に戻る途中に、大潮さんから休みを伝えられた時です。

 

 「休み……ですか?」

 「うん。08:00(まるはちまるまる)から48時間の休暇だよ。申請すれば外出もOK」

 

 昨日の失敗を挽回するべく、今日はいつもより気合を入れて訓練に励もうと思っていたのですが、なんだか出鼻を挫かれた感じになってしまいましたね。

 しまいましたが、気を取り直した私は……。

 

 「自主訓練くらいはしていいんです……よね?」

 

 休暇なんだから、訓練するのも自由ですよね。と、思って聞いてみたのですが……。

 

 「朝潮ちゃんは、着任してから一日しか休みを取ってないからダ~メ。絶対に休ませろと厳命されてるんです」

 「でも、それだとやる事がなくて……」

 

 この一言が切っ掛けでした。

 私の一言に反応した満潮さんが……。

 

 「なに?アンタ、やることがないの?」

 

 と、気にかけてくれました。

 そして耳まで真っ赤にして照れながら……。

 

 「じゃ、じゃあ私と出かける?丁度、買いたいものがあるし」

 

 買い物に誘ってくれたんです。

 まあ、ここまでは良かったんです。満潮さんとお出掛けできるのは個人的に嬉しかったですし、デレた満潮さんを見れて得した気分になりましたから。

 問題は……。

 

 「ああ!ずるぅい!朝潮ちゃんを独り占めする気ねぇ。それなら、荒潮もついて行くぅ!」

 「そういう事なら大潮も行くよ。八駆全員で買い物に行こう」

 

 こうなってからです。

 いえ、この時点では、みんなで出かけられる事が嬉しくてテンションが上がったのですが、私が私服を持っていない事を知るなり……。

 

 「だったらぁ、私の服を貸してあげるわぁ。きっとぉ、可愛いわよぉ♪」

 「アンタのじゃ合わないでしょうが。私のを貸してあげるから、ソレ着なさい」

 

 こうなりました。

 ええ、見えない火花が二人の間で散っているようにも見えましたね。

 そんな私たちを置いて大潮さんが司令官に外出許可を取りに行くなり、私は部屋まで連行されて下着姿で正座させられて、満潮さんと荒潮は今も口論を続けているわけです。

 

 「あ、ところでぇ、移動はどうするのぉ?歩くぅ?」

 「どうせあのオッサン、外出の申請したら意地でも護衛をつけるでしょうから車で送ってもらいましょ。ほら朝潮、コレ着てみて」

 

 車ですか。

 あの時のハイエースで行くのでしょうか……と、それは置いといて、満潮さんが渡して来たのは白とピンクの……メイド服?でしょうか。私と満潮さんは身長以外は近い体形をしているので、サイズ的には問題なさそうですが……。

 

 「荷物持ちもお願いするぅ?」

 「それは絶対に嫌」

 

 なにがそんなに嫌なのでしょうか。

 私を迎えに来てくれた二人は良い人たちでしたが……も、置いといて、荒潮さんがメイド服を取り上げて、代わりにあちこち破れたジーンズを渡してくれたのですが……。これを私に穿けと?

 

 「却下。あんな連中を連れ歩くなんて死んでもごめんよ」

 「ええ~。便利なのになぁ、あの人達。私の言うことならぁ、何でも聞いてくれるのよぉ?」

 「アンタが連れてたら、マフィアのお嬢とその取り巻きって感じね」

 

 あ~わかるかも……じゃなくてですね。

 普通に会話しながら、お互いが出した服を引っ張り合うのをやめませんか?両方とも伸びて、やぶける寸前ですよ?

 

 「ところでぇ、朝潮ちゃんはどんな服が好みなのぉ?」

 「服の好みですか?」

 

 正直に言いますと、興味ありません。

 着られれば何でもいいです。

 あ、しいて言うならジャージでしょうか。

 動きやすくてコストパフォーマンスに優れ、汚れても損した気分にならないジャージこそ至高の服。ジャージさえあれば、他の服なんて必要ないと断言したいくらいです。

 

 「ダメだわこの子。考え方がオッサンよ」

 「朝潮ちゃんの歳でそれは……。私でもぉ、さすがに引いちゃうわねぇ」

 

 え?ジャージはダメですか?

 あんなに便利な服は他にないと個人的に思うのですが、お二人の呆れかえった顔を見るに、私の考え方はズレているようです。

 

 「で?アンタはどっちにコーデしてほしいの?」

 「え?」

 「もちろん、私よねぇ?」

 

 ここで話を戻すんですか?

 私に振られても、ファッションに関しては素人なので正直どちらでも良いです。体も冷えて来てますから、好きにしてください。

 

 「あ、あの二人一緒に……とかは、ダメですか?」

 「つまり勝負ね」

 「いいわよぉ?うふふふ、着せ替えは大好きぃ♪」

 

 どうしてそうなったんですか?

 勝負なんてしなくても、二人で協力して私を飾り付ければいいじゃないですか。

 

 「このジーンズなんてどう?私が改二改装受ける前のだからぁ、朝潮ちゃんでもピッタリよぉ?」

 

 なんなんですかそのジーンズ。

 さっき渡してくれたの以上にあちこち破れてますよ?

 もう一度言いますよ?

 なんなんですか!?何があったんですか!?砲撃されたんですか?それとも雷撃?どちらにしても、入渠を激しくお勧めします!

 

 「バカね。そんなのを穿いた朝潮に待つのは地獄よ」

 

 まさしくその通り。

 破れ方が尋常じゃありません。

 お尻とか下半分が丸出しですよ?何かが直撃したんですか?と、問いたくなるくらい布がありません。

 

 「あらそう?似合うと思うんだけどなぁ」

 「それよりこっちはどう?私のお気に入りなんだけど」

 

 あ、可愛い。

 さっきのピンクと白がメインのメイド服とは打って変わって、今度は黒地に赤のラインが入ったワンピースです。ちょっとフリルとレースが過剰な気がしますけど、私は嫌いじゃないです。

 

 「それぇ、俗に言うゴスロリファッションじゃないのぉ?メイド服と大差ない気がするんだけどぉ」

 

 ゴスロリってなんですか?

 ロリコンの親戚ですか?あまり専門用語を言われると、頭が混乱するのでやめてください。

 

 「い、いいじゃない!ほら、朝潮もまんざらでもなさそうだし!」

 

 もうそれで良いですから着せてください。 

 お二人には、寒さで小刻みに震えている私が見えないのですか?

 

 「あれ?まだ着替え終わってないの?」

 

 よかった。大潮さんがようやく戻って来てくれました。

 これで二人の争いも収まり、私も服を着る事ができそうです。

 

 「大潮ちゃん聞いてよぉ。満潮ちゃんったら、朝潮ちゃんにこんなの着せようとしてるのよぉ?」

 「あ~、これはないよ満潮。朝潮ちゃんが恥かいちゃうよ?」

 

 え?ゴスロリファッションで歩くと恥をかくのですか?

 ちょ、そんな事言って大丈夫ですか?誰かから怒られたりしません?

 

 「謝れ!全国のゴスロリ愛好者に謝りなさい大潮!」

 「いや、別にゴスロリを否定するわけじゃないけど、こんなの着て歩いたら朝潮ちゃんが衆目の的だよ?」

 

 なるほど。

 ゴスロリファッションは一般的ではないのですね。そういうことなら、人に注目されるのが苦手な私はパスですね。

 

 「ところで、なんで朝潮ちゃんは下着姿で正座してるの?春とは言え朝だよ?寒くない?」

 

 寒いですよ。

 よくぞそこにツッコんでくださいました。

 

 「そういやそうね。なんでアンタ、そんな恰好してるの?」

 「すごく魅力的だとは思うけどぉ、服くらい着た方がいいわよぉ?」

 

 いや、え?どうしてそうなるんですか?

 私の服を脱がして、正座までさせたのはお二人ですよね?

 なのにどうして、そんな「なにしてんの?」って言いたげな顔ができるんですか?

 

 「これとこれと、あとはそれでいいかな」

 「ちょっと大潮!朝潮のコーデは私がやるから!」

 「満潮ちゃんに任せたらフランス人形みたいになっちゃうじゃなぁい。私がやるから任せてぇ!」

 

 いや、もう大潮さんでいいです。

 帰ってからいくらでも着せ替え人形になりますから。

 と、何かを諦めた私は、大潮さんにされるがままに服を着せてもらったのですが……。

 

 「あ、動きやすいし適度に暖かくて、風通しもいいですね」

 

 正直、大潮さんまで二人みたいな事をし始めたらどうしようかと思いましたが、年の功とでも言えば良いのでしょうか。二人を一切寄せ付けずに私を着替えさせました。で、私がどんな格好になったかと言いますと……。

 

 「や、やるわね大潮。白いニットワンピースに薄い水色系の明るい色のロングカーディガンみたいなチェスターコートを羽織っただけのシンプルなものだけど、朝潮の黒髪がアクセントになってかなり……いや、すごく可愛い」

 「それだけじゃないわぁ。ざっくり着たニットと足元はパンプスで合わせて美脚効果がでてるしぃ、身体が華奢に見えても大人なセクシーさを感じるようになってるわぁ」

 

 だ、そうですが、お二人は何を言ってるのでしょうか?

 それは何かの暗号ですか?日本語のはずなのに日本語に聞こえませんので日本語でお願いします。

 

 「ほらほら、二人もさっさと着替える!もう少ししたら送迎の車が正面玄関に来るから急いで!」

 

 解放されてホッとしました。

 それから、三人の着替えが終わって正面玄関に出てみると、やはりモヒカンさんと金髪さんがタキシード姿でハイエースの後部ドアの前に立って待っていました。

 え?三人の服装ですか?すみません、私は知識が乏しいのでどんな格好なのか説明できません。ただ、三人ともすごく可愛いです。

 

 「やっぱ、こいつ等か」

 「絶対にこの人たちだけじゃないわよぉ。きっとぉ、向かう先で奇兵隊の人がそこかしこに隠れてるはずよぉ」

 

 満潮さんと荒潮さんの会話に応えるように、二人は「ニカッ!」っと聞こえてきそうな笑顔で陸軍式敬礼をしました。相変わらず、お元気そうです。

 

 「お久しぶりです!」

 

 私も海軍式敬礼で応えました。

 八駆の三人くらいしか親しく話せる人がいない私にとって、二人は貴重な存在です。

 

 「お久しぶりっす!」

 「元気にしてたか?」

 

 挨拶を交わし終えた私たちはハイエースに乗り込み、しばらくして金髪さんが鎮守府からほど近い商店街へ向けて、相変わらず慣性を感じさせないほどスムーズな運転で車を発進させました。

 

 「着いたっすけど、何時ごろ帰る予定っすか?」

 「あ~……どうするの?大潮」

 「あんまり遅くなると司令官がうるさいから……18:00(ひとはちまるまる)くらいかな」

 

 今が9時すぎですから、ざっと9時間ですね。

 こういう外出が初めてなのでわかりませんが、買い物ってそんなに長くかかるものなのでしょうか。

 

 「了解っす。荷物持ちはいいっすか?」

 「「それは絶対にやめて。って言うか、姿を見せないで」」

 「う、うっす……」

 

 大潮さんと満潮さんは容赦がないですね。

 お二人は私達が戻って来るまで待たなければならないのに、その言い方は可哀そうです。

 

 「あ、あの。お土産を買ってきますから、そんなに落ち込まないでください」

 

 車から降りた三人は「そんなことする必要ないよ」とか「給料出てるんだから」とか「この人たちの業界ではぁ、放置はご褒美なのよぉ?」なんて言ってますが、お二人には送迎までさせてるんですからそれくらいしないと申し訳ないです。

 

 「ああ、朝潮さんは天使っす……」

 「心が洗われるな……」

 

 それは大げさすぎです。と言うか、祈らないでください。

 ほら、通行人の人達が訝しんでます。恥ずかしいですから本当にやめてください。

 

 「朝潮ちゃんが天使なのはわかるけど、そうなると大潮たちは何なんだろうね」

 「私たちはさしずめ、悪魔かしらぁ?」

 「へぇ、いい度胸じゃない」

 

 お二人は何も言ってませんから、その辺で本当にやめてあげてください。

 そんなやり取りを終えて、怯える二人と別れて商店街に入った私は、初めて見る景色に圧倒されました。

 右を見ても左を見ても店がズラーっと並んでいて、人がお祭りでもないのに沢山行き来しています。

 しかもそれが、終わりが見えないほど長く続いてるんですから、養成所と鎮守府くらいしか知らない私にとっては違う世界に迷い込んでしまったかのように思えてしまいます。

 先を行く大潮さんが「このまま行くとドブ板通りだよ」とか、「反対にいくと横須賀中央駅があるよ」などと説明してくれていますが、圧倒されている私の頭には入って来ません。

 

 「す、すごい人の数ですね」

 「迷子にならないようにしなさい。ほら、て、手つないであげるから」

 「はい、ありがとうございます」

 

 私はトマトみたいに顔を赤くした満潮さんの差し出された左手を取って、早くも商店街を物色し始めた大潮さんと荒潮さんに続きました。

 そんな時ふと思ったのですが、傍から見たら私たちってどういう風に見えるのでしょうか。姉妹?それとも友達?

 

 「あ、ねえ荒潮。あそこのお店で、朝潮ちゃんの私服を選ぼうよ」

 「いいわねぇ。満潮ちゃんに選ばせるとフリフリになっちゃいそうだからぁ、朝潮ちゃんと待っててぇ」

 

 そう言い残して、洋服屋に入るなり私に着せる服を選びだした大潮さんと荒潮さんを満潮さんが不機嫌そうに睨んでいますが、文句を言うつもりはなさそうですね。こんなところで喧嘩にならなくてホッとしました。

 

 「絶対に似合うのに……」

 「え?」

 「何でもない」

 

 満潮さんの独り言に反応したらそっぽを向かれてしまいました。

 私は満潮さんが勧めてくれた服も好きですよ?今度、着させてって言ったら喜んでくれるでしょうか。

 

 「あれ?あのお店」

 

 満潮さんが向いた方につられて視線を移した先にある一軒のお店が、妙に気になりました。

 何のお店なのでしょうか。

 行ったことはないはずなのに、あそこには行った事があるような気がします。

 

 「何?気になる店でもあるの?」

 「は、はい、あそこのお店なんですけど」

 

 たばこと書かれた暖簾が出てますね。

 と言う事はタバコ屋さん?どうして、こんなにタバコ屋さんが気になるのでしょう。

 

 「アンタ、タバコなんて吸うの?だったら止めなさい。あんなの、百害あって一利なしよ」

 

 いえ、私は喫煙経験なんてありません。

 でもなぜか、どうしてもあそこに行かなきゃいけない気がするんです。

 

 「すみません。ちょっと気になる事があるので行ってきます。すぐ戻りますから!」

 「ちょっと朝潮!?」

 

 私は、何かに背中を押されるようにタバコ屋さんの前まで走りました。

 先ほど言ったように、私はタバコを吸いません。吸おうと思ったこともありません。そんな私が、どうしてタバコ屋さんに惹かれるのでしょう。

 

 「おや?君は……朝潮ちゃんかい?」

 

 お店の前に来た私に、店主らしきお爺さんが気づいて声を掛けてくれました。

 でも、どうして私の名前を知っているのですか?

 

 「やっぱり朝潮ちゃんじゃないか!いやぁ、久しぶりだなぁ。3年ぶりくらいかい?」

 

 3年ぶり?3年前に私がここに来てるはずがありません。だって、その頃私は養成所に居たんですから。

 それなのに私を知っていると言う事は……そうか、私と先代を間違えてるんですね。

 

 「い、いえ、私は……」

 

 でも先代は、どうしてタバコ屋のお爺さんと知り合いなんでしょう。先代はタバコを吸ってたのでしょうか。

 

 「違うわよお爺さん。お爺さんが言ってるのは先代の朝潮。この子は二代目よ」

 

 悩んでいたら、いつの間にか隣に来ていた満潮さんが説明してくれました。

 やっぱり先代と間違われてたんですね。私と先代って、そんなに似ているのでしょうか。

 

 「あ、ああそうか……。艦娘だって言ってたもんな。じゃあ、ワシが知ってる朝潮ちゃんは……」

 「3年前に……ね」

 「そうか。良い子だったんだがなぁ」

 

 二人してしんみりとしちゃいましたが、それよりも私はこのお店が気になります。

 いえ、少し違いますね。 

 何かを忘れているような……。

 そう、私はここに、何かを忘れた。このお店で、何かを受け取るはずだった。

 

 「朝潮ちゃんは、たまに提督さんについてくる程度だったんだけどね。歳の割に凛々しくて真面目そうで、提督さんに付き従う忠犬みたいな感じが微笑ましくてねぇ」

 「姉さんったら、外でもそんなだったのね。知らなかったわ」

 

 ええ、()()()()()

 司令官がお吸いになる煙草は特殊で、扱っているお店が少ないからここまで買いに来ていたんです。

 そのお供をするのが、私の楽しみの一つでした。

 

 「あ、そうだ。アンタさっき、ここが気になったって言ってたわよね?」

 「え?あ~……はい。なんと言ったらいいのか、何かを忘れてるような……。そう!忘れ物をしてるような感じがして」

 「忘れ物?もしかしたら、アレかもしれないな。ちょっと待ってておくれ」

 

 そう言ってお爺さんは、店の奥に引っ込んでしまいました。

 やっぱり忘れ物があった。

 でも、どうして私はそのことを知っていたのでしょうか。もしかして、先代が忘れ物を受け取ってほしくて、私をここに導いた?

 

 「あったあった。はいコレ」

 

 再び店の前に戻って来たお爺さんが私に手渡したのは、プレゼント用の包装をされた手のひらに収まるサイズの四角い箱でした。これは何なんでしょう?タバコ屋さんですから、やっぱりタバコ?

 

 「ちょっとお爺さん。未成年にタバコを渡すのはどうかと思うわよ?」

 「違う違う。タバコ用品なのは確かだけど、タバコそのものじゃないよ」

 「では、コレは何なんですか?」

 

 タバコ用品ってなんでしょう?ライターでしょうか?

 お店にはパイプ?や、その他にも色々とタバコ以外の物が棚に並べられていますが……。

 

 「それは3年前、朝潮ちゃんに注文されていたものなんだ。提督さんへプレゼントするつもりだったらしいんだが、受け取りには来なかったんだよ」

 

 司令官へのプレゼント……。これを、自分の代わりに司令官に渡せって事ですか?

 

 「君から渡してくれないか?君から渡すなら、朝潮ちゃんも喜んでくれるんじゃないかな」

 

 どうでしょう。

 本当に、私でいいのでしょうか。

 先代は、私から渡すことを本当に望んでいるのでしょうか。

 

 「渡してやんなさい。ここが気になったから来たんでしょ?だったらきっと、姉さんがそうして欲しかったのよ」

 「わかり……ました」

 「お代は頂いてるから心配しなくていいよ。だからちゃんと、渡してあげておくれ」

 

 私と満潮さんは、手を振るお爺さんに別れを告げて、両手に紙袋を下げた二人の元に戻りました。

 二人から隠すようにチェスターコートのポケットに入れたプレゼントはとても軽いです。

 でもきっと、先代の気持ちが詰まったプレゼントです。今でも本当に私でいいのかと思いますが、受け取った以上は渡さないと。

 あ、でも……。

 

 「どうやって渡そう……。司令官はお忙しいだろうし」

 

 そもそも、私は司令官とまともに話せません。

 目を合わせるのも困難です。 

 そんな私が、先代から司令官への大切なプレゼントを渡すなんて大役を果たせるのでしょうか。

 

 「鎮守府に戻ったら中庭に行ってみなさい。もしそこに司令官が居なくても、待ってれば来るから」

 

 中庭?執務室の下にある中庭の事ですか?

 そこに居れば司令官に会える……あ、満潮さんがあからさまにスマホを隠しました。

 もしかして、そこに来るように司令官にメールか何かを送ってくれたんじゃ……。

 

 「姉さんのプレゼント、絶対渡してあげてね。きっと、司令官も姉さんも喜ぶから」

 

 どうしてそんな寂しそうな顔をするのですか?先代の事を思い出してしまったからですか?

 私はそんな顔した満潮さんを見たくありません。気持ちはわかりますが、悲しそうな満潮さんを見ていたら私まで悲しくなってしまいます。

 

 「はい、絶対渡します。だから……その、そんな顔しないで、お姉ちゃん」

 「ば、バカ!人前でお姉ちゃんなんて呼ばないでよ」

 「でも、少しだけ嬉しそうですよ?」

 「うっさい!ほら、さっさと歩かないと二人に置いて行かれるわよ!」

 「はい!」

 

 よかった。満潮さんに、少しだけ笑顔が戻りました。

 それから私たちは、時間が許す限りこの日を楽しみました。

 皆でご飯を食べて、お店を物色して回って、戦争をしている事も忘れて、私たちは本当の姉妹のようにこの日を満喫しました。

 

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