艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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このお話を書いてる時の脳内ミュージックは、なぜかガ◯バスターマーチでした


第三章 朝潮、出撃
第二十四話 ネームシップなんだから、しっかり覚えてよね!


 

 

 その人の第一印象を、一言で表すなら桜でしょうか。

 日が中天を過ぎた頃に、中佐さんに頼まれた書類を提督さんに届けて、さあ戻ろうと踵を返したらノックも無しにドアを開いて赤い少女が入ってきました。

 その少女は紅い和服に桜色の行燈袴。足には編み上げブーツを履き、頭には緋色の長髪を映えさせるように黄色のリボンを結んでいて、腰には日本刀を帯びています。

 例えるなら、大正時代の女学生かしら。

 某なんちゃら大戦ってゲームのヒロインもやれそうですね。本名は桜だったりしません?

 そんな、桜並木を歩いていたら絵になりそうな少女は駆逐艦みたいな体形なのに、戦艦のような威圧感を纏って提督さんと相対しています。

 

 「目標は討てたのか?」

 「じゃなきゃ、戻ってこないわよ」

 

 提督さんの問いに、紅い少女がわざとらしく肩をすくめて見せながら答えました。

 口ぶりからして、提督さんとは旧知の仲みたいだけどどういう関係なのかしら。

 

 「しばらくはのんびりしろ。近い内に、お前にはやってもらうことがある」

 「りょ~かい。部屋の掃除でもして時間を潰すわ。一応聞くけど、ゴミの分別くらいはしてるのよね?」

 「……」

 「はぁ……」

 

 はて?提督さんが無言で明後日の方を向くなり、赤い少女が盛大に溜息を吐きましたが、どうしてこの子が提督さんの部屋のゴミを気にする?まるで、同じ部屋に住んでるみたいじゃないですか。

 

 「あのね?先生。私、ゴミの分別くらいしろって何回も言ったよね?なんでしないの?」

 「い、忙しゅうて……」

 「そうね。先生は忙しいわ。なんたって鎮守府の司令長官で中将様だもんね。って、なるわけないでしょ!いい歳したオッサンがゴミの分別もできないの!?」

 

 この人何者!?

 いえ、言ってる内容は真っ当で、口調が母親が子供を叱る時みたいな感じなのは良いんです。

 問題は怒鳴りつけている人物。

 自分で言ってましたが、提督さんはここで一番偉い人ですよ!?

 その提督さんをお母さんみたいに怒鳴りつけて、しかもオッサン呼ばわりして冷や汗までかかせるなんて、もう一度言いますがこの人って何者ですか!?

 

 「せ、せめて人前では……」

 「人前?何言ってんのよ。ここには私と先生しか……」

 

 そう言われて初めて私に気づいたかのように、赤い少女はこちらに視線を向けました。

 私って、そんなに存在感ないのかしら。

 それとも、私の存在を無視していた?

 

 「誰?この子。見た事ないけど」

 「由良だ。3代目だがな。四年前からいるぞ?」

 「由良?由良って、もうちょっと地味な制服じゃなかった?」

 

 たしかに、改二改装前の制服は派手ではありませんでしたが、地味と言われるほどではなかったはずです。

 それより、彼女はかなり昔からこの鎮守府に所属していたようですが、私もこんなに派手な人は見た覚えがありませんね。

 あ、でも、赤い駆逐艦の噂ならいくつか聞いた覚えがあります。

 たしか、誰彼構わず噛みつく狂犬みたいな子で、軽巡相手に食堂で大立ち回りをしたことがあるとかないとか。

 あと、見た目とは裏腹に一航戦の無駄に食べる方並みに大食いで、倉庫街のあちこちに設置してある横須賀鎮守府名物、通称『看板トラップ』の制作者だなどなど、色々と聞きました。

 

 「制服が違うのは改二改装を受けたからだ」

 「ふぅ~ん。ってことは、この子が今の秘書艦?」

 「二週間前まではな。今は、佐近司の秘書艦をしている」

 「左門兄(さもんにい)の?え?それ、大丈夫?」

 

 何が大丈夫?なのでしょう。

 私が中佐さんの秘書艦になってそれなりに経ちますが、上手くやれてると思いますよ?

 ええ、誰が何と言おうと上手くやれています。

 相変わらず携帯電話を持ち歩いてくれないのに目を瞑れば、妙にドギマギした態度なのや、やたらと私のご機嫌をうかがってくるくらいで問題ありません。

 

 「実はな。門戸じゃなくて由良の方が……なんだ」

 「ちょ……!それ本当!?」

 

 何を耳打ちしたんですか?

 肝心なところが聴き取れなくてモヤモヤするのですが……。

 

 「左門兄にもようやく春が来たか……。で、誤魔化せると思ったか!」

 「チッ、誤魔化されろや」

 

 この二人はどういう関係?

 今までのやり取りを見た限りでは、主導権は彼女の方に有るみたいだけど……。

 

 「はぁ、情けない。先生がそんなんじゃ、奥さんと娘さんが悲しむわよ?」

 「おい」

 「あれ?この子は知らなかったの?じゃあごめん。先生の秘書艦やってたくらいだから、知ってるんだと思ったわ」

 

 い、今とんでもない話を聞いたような……。

 え?提督さんって妻帯者だったんですか?でも、先代の朝潮と婚約してましたよね?と、言う事は、少なくとも三年前には離婚なりしてたってことになるわけで……。

 

 「でも、やっぱり見覚えがないわね。本当にいた?」

 「お前はしょっちゅう南方に行っていたし、鎮守府にいる間は奇兵隊の詰め所に入り浸っていたからすれ違いになっていたんじゃないか?」

 「そうだけど……。でも、昼はそこのソファーで昼寝したりもしてたわよ?」

 

 私も見た記憶がないんですよね。

 これだけ自己主張が激しい子を見たら一発で覚えちゃうと思いますし、ソファーで寝てたんなら見た覚えがあってもいいはずなんです。それなのに、私はこの子を見た覚えがまったくありません。

 

 「お前、そこで寝る時は気配を消していただろう」

 「うん。だって癖だもん」

 

 だから気付かなかった?

 気配を消すとか、そんな漫画やアニメでしかないようなことをしていたから、私はこの子に気付かなかったってことでしょうか。

 そんな馬鹿な……。

 

 「まあ良いや。軽巡なんかに興味ないし。それより、私にやらせたいことって何?」

 「今、言わないとダメか?」

 「ダメ。私って絹糸みたいに神経がか細いから、教えてくれないと気になってご飯が二合しか喉を通らなくなっちゃうもん」

 

 いや、図太いの間違いでは?

 提督さんの前でふんぞり返ってるこの子には、繊細って言葉がこれでもかと言うほど似合いません。

 

 「お前には、来月行われる大規模作戦の総旗艦を任せるつもりだ。いや、お前でないといかんと言った方がいいか」

 

 大規模作戦の総旗艦?

 失礼かもしれませんが、この子って駆逐艦……ですよね?普通は戦艦とか、最低でも軽巡が務めるものじゃないですか?

 

 「嫌。戦艦や空母なんかと一緒に行動するなんて、ストレスしか溜まらないじゃない」

 

 拒否した!?総旗艦なんて、艦娘にとっては最大級の名誉じゃない!それを断るだなんて、私には理解できません。

 

 「ダメだ。やってもらう。いや、やれ。命令だ」

 「どうして私じゃなきゃダメなのよ。やりたがる艦娘なんて掃いて捨てるほどいるでしょ?あ、長門とかどう?適任じゃない」

 

 それはそうでしょう。

 特に長門さんは、久々の大規模作戦に息巻いていますから、総旗艦を命じられれば士気も爆上げになるはずです。

 と言うか、この子今、長門さんを呼び捨てにしませんでした!?長門さんって、鳳翔さんと並んで横須賀の最古参の一人で戦艦ですよ!?

 

 「いや、今回は是が非でも、お前に目立ってもらう必要がある。足手纏いになるなら、作戦が失敗しない範囲で他の艦娘の行動を制限しても構わん」

 

 そこまでの権限をこの子に与えてまで、総旗艦に据えるんですか?いくら旧知とは言え、駆逐艦に権限を与えすぎなのでは……。

 

 「ねえ、先生?もしかして、私を餌か何かにする気?」

 

 餌?作戦中に釣りでもするのかしら。

 って、そんなわけありませんよね。

 でも、この人を餌にしないと釣れないモノってなんでしょう?

 

 「隻腕の戦艦棲姫。お前も知ってるな?」

 「朝潮を殺った奴でしょ?噂くらいは聞いてる。ああ、それで私か」

 

 例の、高練度の駆逐艦ばかりを狙うって言うアレですね。

 最近では、佐世保鎮守府に所属している駆逐艦 時雨が被害に遭ったと聞いた覚えがあります。

 と、言うことは、この人はやはり駆逐艦ってことね。しかも、高練度の。

 

 「私が始末していいの?」

 「いや、釣り上げた後は第八駆逐隊をぶつける」

 「大潮たちを?あの子達で大丈夫?」

 

 大丈夫どころか余裕でしょう。

 第八駆逐隊、特に朝潮ちゃんを除いた三人の練度は横須賀に所属する駆逐艦たちの中でも頭一つ以上抜けていいますし、各々が並の艦娘では扱えない特殊技能持ちだと聞いた覚えもあります。

 

 「お前はあの子達を過小評価し過ぎだ」

 「でも、三人が束になっても私には勝てないでしょ?」

 「ちょ、ちょっと待ってください!いくらなんでも、それはあの子たちをバカにし過ぎなんじゃないですか?」

 

 先代の朝潮が戦死してからの、あの子たちの頑張りは知っています。この人がどれだけ強くて、あの三人とどんな関係なのかは知りませんが、駆逐艦一人があの三人を同時に相手にして勝つなんて慢心しすぎです。

 

 「今は私と先生が話してるんだから、外野は引っ込んでなさい」

 「ひうっ……!」

 

 え、何これ体が動かない。

 目の前の彼女はただそこに立っているだけ。

 それどころか笑みさえ浮かべているのに、まるで見えない大きな手で鷲掴みにされたような圧迫感に包み込まれて身動きができなくなりました。

 それどころか、呼吸も満足にできません。

 

 「やめろ。()()を軽々しく使うんじゃない」

 「ふん、横からしゃしゃり出てくるのが悪いのよ」

 

 今のは何だったの?

 彼女が提督さんに視線を戻した途端に圧迫感は消えましたが、もしかして殺気というヤツなのでしょうか。

 そんな、あるかないかもわからないモノで、私は動きを封じられたってこと?

 

 「あの子達なら問題ない。それに補給が終わり次第、お前にも援護に出てもらうつもりだ」

 「そういう事なら妥協してあげる。朝潮の仇を討ちたいのは私も一緒だし」

 「ほう?喧嘩ばかりしていた割に、仲は良かったみたいだな」

 「べつに良かぁなかったわよ。ただ、その……」

 

 この人と先代の朝潮の仲が良かった?

提督さんの言うことにいちいち反発するこの人と先代の朝潮が?

 いやいや、あり得ないでしょ。

 提督さん至上主義だった先代朝潮からしたら、提督さんに噛みつくこの人は真っ先に排除すべき対象だったはずです。

 

 「ここが出来た頃からの付き合いだったからね。私の……親友って言っても良かったかもしれないわ」

 

 ちょっと待って。ここが出来たのって……え~っと、およそ8年前ですよ?

 朝潮さんが提督さんの初期艦だったって話は聞いたことがあるけど、じゃあこの人はそんなに前から艦娘を続けているの!?全艦種中、最も戦死率が高い駆逐艦でですか!?

 

 「お前が艦娘を続けてくれていた事を、これほどありがたく思ったことはないな。歳を考えれば、いつ退役すると言いだされても文句を言いにくいからな」

 「女の子に歳の話のするなんて、デリカシーに欠けるんじゃない?それに、まだ退役するような歳でもないわ」

 

 腰に両手を当てて、いかにも「プンプン!」と聞こえてきそうな怒り方は年端もいかない少女そのものだけど、仮に艦娘が運用され始めた8年前から艦娘を続けているとして、見た目が12~3歳くらいだから……。え!?二十歳超えてる?私より年上じゃないですか!

 

 「子じゃないだろ」

 「子なの!いいじゃない。見た目は子供なんだから!」

 

 あ~これが合法ロリってやつね。

 実際に見るのは初めてですが、駆逐艦の場合はこれが当てはまる人が希にいるらしいんですよね。

 

 「ねえ、この子今、すっごい失礼な事考えたわよきっと。ちぎっていい?」

 

 どこを!?私のどこをどうちぎるって言うんですか?

 ちょ、こっちに来ないでください。青筋を浮かべた笑顔がすごく怖いです。

 

 「やめろ。由良に居なくなられたら、また左近司に冬が来る」

 「チッ、左門兄を出されたら我慢するしかないわね。仕方ないから、大潮たちで憂さ晴らしでもするわ」

 

 ありがとう中佐さん。

 どうして中佐さんの名前が出るなり、彼女が矛を収めてくれたのかはわかりませんが助かりました。

 もっとも、矛先が大潮ちゃんたちに向いてしまいましたが。 

 

 「大潮たちは出撃中だ。もうすぐ帰投するとは思うが」

 「帰投ルートは?」

 

 そんな事を聞いてどうするのかしら。待っていれば、もうすぐ帰ってくるのに。この人でも、旧知の人と早く会いたいって思うのかしら。

 

 「やり過ぎるなよ?大事な時期だ。それと、刀は置いて行け」

 「はいはい。で?どこまでなら笑って許してくれる?」

 

 二人は何を話しているの?この人はあの子たちに何をする気?これではまるで……。

 

 「小破までは大目に見る。だが、それ以上は許さん」

 

 小破までは?

 やっぱりこの人、帰投中のあの子たちを襲うつもりなんじゃないですか?

 

 「ちょ、ちょっと提督さん!?この人まさか!」

 「ああ、由良の予想通りだと思うぞ」

 

 じゃあ、やっぱりあの子たちを襲うつもりなんですね。

 だったら、なんで止めないんですか?小破云々って言ってたってことは、実弾を使うつもりなんじゃないですか?

 

 「ちょっとアンタ。いくらなんでもこの人って失礼じゃない?これでも私、アンタの大先輩よ?」

 

 だ、だって私はあなたの名前を知らないですし……、聞く間もなかったし……。

 

 「お前は、由良に自己紹介してないだろうが」

 「そうだっけ?」

 

 そうですよ。

 あなたは執務室に入るなり、私の存在を無視して提督さんと話し始めたじゃないですか。

 

 「う~ん。してなかったかなぁ」

 

 と、顎に手を当ててとブツブツと思案した後、「まあいいか」と言わんばかりに気を取り直して、紅い駆逐艦は私に向き直りました。

 そして、幼さを残しつつも凛々しい声で……。

 

 「神風型駆逐艦一番艦、神風よ!ネームシップなんだから、しっかり覚えてよね!」

 

 と、高らかに名乗りました。

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