艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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神風さん登場記念の追加投稿(*´ー`*)


第二十五話 ようこそ、私の戦舞台(いくさぶたい)

 

 

 

 あと二週間余りで4月。

 世間は、もうすぐ花見だと浮かれているようですが、私たち第八駆逐隊は今日も戦闘の真っ最中です。

 正化23年に立案、実行された初の大規模作戦。

 通称、シーレーン奪還作戦で勝利するまでは、花見だと浮かれる暇も余裕もなく、太平洋戦争の末期よりも酷い有り様だったそうですが、それから約6年経った今では輸出入もある程度再開され、お花見で浮かれられる程度には経済が回復しました。

 そんな束の間の平和を謳歌する世間とは切り離された洋上で、私は今日も戦っています。

 平和を守ってる。なんて、大層な事は言いません。だって、私が戦う理由は酷く個人的な理由ですから。

 

 「対空砲火が薄い!前に出てる大潮と荒潮に艦載機を近づけさせるな!」

 「はい!」

 

 休暇が明けて今日で三日目。

 休暇明け早々に大規模改装を受けてからの三日間は、哨戒任務は当たり前ですし深海棲艦の出現情報があれば輸送機まで使って即座に出撃。

 気付くと私は、一日のほとんどを戦場で過ごす様になっていました。

 

 『うふふふふぅ、つ~かま~えたぁ~♪』

 『荒潮!そのまま重巡を抑えて!』

 「朝潮、荒潮が重巡を抑えてる間に軽空母を叩くわ。ついて来なさい!」

 「了解しました!」

 

 大潮さんと荒潮さんが前に出て敵前衛を抑えてる間に、二人を援護しつつ回り込んで私と満潮さんで後衛を叩く。これが、今の第八駆逐隊の基本戦術です。

 

 もちろん敵の数や陣形によって多少は変わりますが、荒潮さんのトリッキーな動きは陣形にかかわらず敵をかき乱し、大潮さんが一体づつ仕留めていきます。

 

 「大潮!駆逐艦は気にしなくていいから軽巡を仕留めて!」

 『わかった!』

 

 私と満潮さんの役割は二人の援護。

 今回のように敵が輪形陣の場合は、大きく迂回して後方の撹乱をします。

 遮蔽物がほぼない洋上だからできるのですが、大潮さんたちが攻撃しやすいように邪魔になる他の敵を砲撃で確実に足止めし、可能なら撃沈も狙います。

 

 「軽空母の後ろにいる駆逐艦は私が仕留める。アンタは軽空母を仕留めなさい!」

 「はい!」

 

 輪形陣の最後尾の敵駆逐艦が、私たちに気づいて砲撃を開始しました。

 狙いは満潮さんのようですね。

 ですが、さすがは満潮さん。

 敵駆逐艦の砲撃を、撃たれる前からそこに着弾するとわかっているかのような『脚』さばきで、着弾前に回避しています。そして、敵駆逐艦が横っ腹を晒すなり……。

 

 「あーもう!ウザイのよ!」

 

 両腕の連装砲の連射で爆炎の花を咲かせ、ダメ押しの魚雷で敵駆逐艦を仕留めました。

 これで、敵軽空母は丸裸です。

 

 「よし!突撃する!」

 

 私の接近に慌てた軽空母が回避運動を開始しました。でも、もう遅い。この距離なら、新米の私でも絶対に外しません!

  

 「この海域から出て行け!」

 

 100mほどの距離まで接近して放った私の魚雷は、獲物を見つけた猟犬のように軽空母に突き刺さり、爆炎で包み込みました。

 大潮さんの真似をするつもりはないですが、ここまで接近して魚雷を当てたら、不謹慎ながらアゲアゲな気分になっちゃいました。

 

 「や、やりました!敵を撃破しました!」

 「こんな雑魚を倒したくらいでいちいち喜ぶなって何回言わせるの!敵を倒したら周囲の警戒!」

 「は、はい!申し訳ありません!」

 

 アゲアゲになったせいで、また満潮さんに怒られてしまいました。

 あまりアゲアゲになってばかりじゃダメですね。平常心を保たないと。

 

 「相変わらず、満潮ちゃんは厳しいわねぇ。敵を倒して喜ぶくらいいいじゃない」

 

 前衛を屠った荒潮さんが、合流するなり私の装甲をものともせずに突破して抱き着き、満潮さんに抗議しました。

 私の頭を撫でるどころか頬擦りする荒潮さんからは、さっきまでの敵を追い詰めていた荒々しさがまったく感じられません。

 で、この後はたぶん、喧嘩するんでしょうね……。

 

 「うっさい!アンタが甘やかす分、私が厳しくしてんの!」

 「満潮ちゃんは厳しすぎるのぉ!ほらぁ、見てごらんなさいよぉ。朝潮ちゃんが思い詰めた顔してるわぁ」

 

 いえ、荒潮さんが力一杯抱き締めるから、苦しくて顔が歪んでるんです。

 と言うか、前々から不思議でしょうがなかったんですが、荒潮さんはどうやって私の装甲をすり抜けているんですか?

 

 「はいはい。ケンカはその辺にして帰投しよ。晩御飯に間に合わなくなっちゃう」

 「任務はこれだけ?」

 「そうだよ。戻ったら今日は終わりだから……」

 「そうじゃない。今日の任務はもうないのかって聞いてるの」

 

 これだけ戦ってるのにまだ戦いたいなんて、満潮さんはヤル気に満ちてるんですね。いや?戦いたがっていると言うよりは焦ってるような……。

 

 「鎮守府を出てもう8時間よぉ?朝も早かったしぃ、お休みしないと死んじゃうじゃない~」

 「アンタ、まだ余裕でしょ?もう2~3戦くらい行けるんじゃない?」

 

 たしかに荒潮さんの動きは、疲れで鈍るどころか戦うたびに鋭くなっている気がします。私たちの中で、一番動き回っているはずなのに、です。

 

 「ダメだよ満潮。いくら艦娘が、普通の人より疲労が抜けやすいとは言っても疲れは溜まるんだから。疲れてても平気だなんて、それこそ満潮の嫌いな慢心そのものだよ」

 

 満潮さんが慢心?

 たしかに疲れは溜まっていますが、まだ無視できるレベルです。私程度がそうなんですから、大潮さんも余裕はありますよね?

 

 「朝潮ちゃんもぉ、疲れてるわよねぇ?」

 「い、いえ、私はまだ大丈夫です!」

 

 満潮さんがヤル気なのに、私がへこたれる訳にはいきません。

 それに、満潮さんがやれるって言うんですから、慢心なんかじゃないはずです。

 

 「満潮。何をあせ……」

 「わかった。帰りましょう」

 

 満潮さんは大潮さんの言葉を遮って背を向け、寂しそうな笑顔で私を見てから隊列の最後尾につきました。

 たぶんですが、満潮さんは何かに向けて私を一層鍛えようとしてくれている。何を目的にしているのかまではわかりませんが、きっと私にとっても満潮さんにとっても大切な事なんだと思います。

 

 「朝潮ちゃんもぉ、だいぶ戦闘に慣れたわよねぇ。怖くて怯える朝潮ちゃんも可愛かったけどぉ、今の朝潮ちゃんも好きよぉ」

 

 雑談を交えつつ、かと言って周囲の警戒は怠らないように帰投を続けて、遠目に鎮守府が見えて来た頃。

 思い出したように荒潮さんがそんな事を言いました。

 たしかに初出撃の時ほどではないですが、深海棲艦は今も怖いです。

 でも、大丈夫です!

 戦闘を重ねるたびに、恐怖心が薄まっている気がしますから。

 

 「本当は、怖いって思う方が正常なんだけどね」

 「まあ、ねぇ……」

 

 どういう事ですか?

 怯えてばかりじゃ戦えないですし、それどころかみんなに迷惑がかかるのに。

 

 「私たちがやってるのは殺し合い。怖いって思わなくなっちゃったら、それはもう正気とは呼べないわぁ」

 「で、でも、恐怖を克服しなければ戦えません!」

 

 戦闘中に正気を保つためには怖いと思ってはダメです。

 でも、怖いと思わなくなったら正気ではないと荒潮さんは言いました。私のような若輩者には理解できません。

 

 「朝潮ちゃんが言うことも間違ってないよ。でも、できる事なら朝潮ちゃんには、大潮たちみたいになってほしくないな。とも、思うんだ」

 

 みなさんは私の目標なのに、どうしてそんな事を言うんですか?

 強くて、優しくて、頼りがいがある三人は私の自慢のお姉ちゃんたちです。

 私は、三人のように強くなりたいのに……。

 

 「なんで……」

 「小難しいことは気にしなくていいの。アンタはまだ全然弱いんだから、私たちに追い付くことだけ考えてれば良いのよ」

 

 それまで黙って話を聞いていた満潮さんが、いつの間にか私と並走していました。

 確かに、私はあまり頭が良くないですから、難しいことを考えるのは苦手です。ただ暗記すれば良いだけの座学なら問題ないのですが……あれ?

 鎮守府の方から、全身が赤い人が近づいて来ていますが……。

 

 『ふぅん。じゃあ、あなたたちの実力。久々にお姉さんが見てあげましょう♪』

 

 傾いて沈みかけている夕日より赤いその人が、通信装置を通して楽しそうに言いました。

 体格的に駆逐艦でしょうか。

 でも、あんなに派手な駆逐艦は見たことがありません。ありませんが……。

 何故か私は、懐かしく感じています。

 

 「げ!!ちょっとこの声!大潮!」

 「勘弁してよぉ。声の感じからしてヤル気満々じゃなぁい……」

 「わかってる。全艦!砲雷撃戦用意!『敵』が来るよ!」

 

 敵?こんな鎮守府の近くで?

 しかも、その敵は深海棲艦じゃないんですよね?こちらに向かって来ている赤い艦娘ですよね!?

 その人がどうして敵なんですか?

 三人はあの人が誰なのか知っているようなのに、大潮さんは『敵』だと言いました。艦娘なのに敵?それに砲雷撃戦用意って、私たちが装填しているのは実弾ですよ?

 同じ艦娘を撃つつもりなんですか?

 

 「パニクってるようだから説明してあげる。今来てる人は正真正銘、横須賀所属の駆逐艦よ。だけど、仲間と思わないで。深海棲艦だと思って本気で攻撃しなさい。でないと、アンタが死ぬわよ」

 

 いやいや、説明不足です。

 どうして艦娘なのに、深海棲艦と思って攻撃しないといけないのですか?

 そもそも、どうして仲間であるはずの彼女が、私たちを襲ってくるのですか?もしかして裏切者?でも、彼女は鎮守府の方から来ています。

 

 「いつもと同じで行く!間違っても駆逐艦と思っちゃダメだよ!姫級の戦艦が相手だと思って!」

 「「了解!」」

 「りょ、了解しました!」

 

 三人の緊張が伝わってくる。

 こんなに緊張している三人は、今まで見たことがありません。

 

 「ボケッとするな朝潮!来るわよ!」

 「は、はい!」

 

 集中しなきゃ。

 大潮さんは姫級の戦艦だと思えと言いました。

 つまり、あの人はそれほど強いってことです。

 私はまだ姫級を見たことがありませんが、戦艦と言うだけでどれほど恐ろしいかはなんとなく想像出来ます。

 ですが、あり得るのでしょうか。

 駆逐艦の身で、そんなバケモノに匹敵するほどの強さを得られるものなのですか?

 

 「荒潮、『奥の手』は使わないで!ここじゃあ他の艦娘の目につきかねない!」

 「あの人相手にぃ!?無茶言わないでよぉ……。本当に死んじゃうじゃなぁい!」

 「できるだけ努力して!行くよ!」

 「もー!死んだら化けてでてやるぅ!!」

 

 意を決した二人が赤い駆逐艦に向かって突撃を開始しました。相手は速度も変えずこちらに直進。右手に持っている単装砲を構えもしません。

 

 「朝潮、いつも通りよ。二人の援護をしつつ回り込む!前後からタコ殴りにするわ!」

 「はい!」

 

 大潮さんと荒潮さんが赤い駆逐艦に砲撃を開始しました。でも、相手は撃ち返そうとしません。

 反撃する余裕がない?

 いや、違います。

 私と満潮さんも援護をしていますから、文字通り雨のように砲弾が降り注いでいますが違います。

 雨のように降り注ぐ砲弾を回避できている事態がすでに異常です。

 一発も当たっていないどころか、笑みすら浮かべて不自然な動きで回避を続けています。

 あの動きはいったい……。

 いえ、陸でなら不自然と言うほどではないんです。でも、海上で()()()()()は艦娘には無理なんじゃ……。

 

 『荒潮!突っ込みすぎ!』

 

 大潮さんの忠告の直後に、荒潮さんが突如として倒れました。艤装の緊急避難装置が作動したようですから一発で意識を持っていかれたようです。

 しかし妙ですね。

 荒潮さんはどうして気絶した?

 赤い駆逐艦は手持ちの単装砲を明後日の方向に向けていますし、砲撃音はしましたが砲弾が見えませんでした。

 

 『やっぱりぜんぜんじゃない。あなたたち、ちゃんと訓練してた?』

 

 赤い駆逐艦から再び砲撃音。それが五回。

 すると、大潮さんが何かに連続で殴られたように体を震わせて倒れました。

 いつ撃ったのかは見えませんでしたが、今度は発射された物が見えました。

 あれは恐らく、訓練用のゴム弾です。

 

 『さて、次は満潮かな?』

 

 赤い駆逐艦は、倒した二人には目もくれずにこちらへと針路を変えました。言葉通り満潮さんを狙っているようです。

 

 「させるものか!」

 

 私と満潮さんは向かってくる駆逐艦に砲撃を集中。

 でも、先程と同じ動きで回避され、掠りもしません。

 故に速度も落とせない。

 あのステップのような動きをしている間は速度が落ちるようですが、即座に飛魚を使って落ちた速度を取り戻して突っ込んできます。

 あの人も飛魚を使えるのですか?

 私はてっきり、八駆の三人しか使えないのだと思っていました。

 

 『砲撃が正確すぎるわね。そんなの、避けてくれって言ってるようなものよ』

 

 狙いが正確だから当たるのでは?

 は、置いといて。

 あの人が使う飛魚に違和感を覚えます。

 モーションに入ってから跳ぶまでの一連の動きは満潮さんより滑らか。もっと簡単に言うなら上手いように見えます。

 それに、使いどころが私が考えていた使い方と違います。私は飛魚を、通常航法ではどうしても回避できない場合に使うんだと思っていたのに、彼女は落ちた速度を補い、さらに回避と接近を兼ねて……。いや、少し違いますね。

 接近するために使った副産物として、回避が成立しているように見えます。

 もしかして、アレが飛魚()()()使()()()なんじゃ……。

 

 「反転しなさい!したらアンタはそのまま、鎮守府まで逃げなさい!あの人も、鎮守府の中でまでは襲ってこないはずだから!」

 「みんなを置いてですか!?」

 「二人は緊急脱出装置が作動してる!そのうち救助が来るわ!あの人は私が抑えるから、アンタは早く逃げろ!」

 

 そう捲し立てて、満潮さんは右に急速旋回してそのまま私の後方に移動しました。

 みんなを置いて逃げろ?私だけ?

 大潮さんと荒潮さんを、会敵からたった数分で倒したあの人相手に、私がいてもできることなんて恐らくありません。ありませんが……。

 

 「早く行け!」

 『あっ、その子の盾になるんだ。偉い!』

 

 戸惑っている私を置いて、赤い駆逐艦に満潮さんが砲撃しながら突撃して行きました。

 また庇われてしまった。

 私を庇わなければ、満潮さんだけでも逃げられたかもしれないのに、また私を庇って満潮さんが傷ついてしまう。そんなの、私には……。

 

 『相変わらずね神風さん!もしかしてあの子を潰す気!?』

 

 神風?それが赤い駆逐艦の艦名?

 初めて聞く艦名なのに、何故か知っているような気がする。それだけじゃありません。

 艦名を聞いて、神風さんの行為を()()()()()()()と、安心してしまっています。

 

 『ん~……憂さ晴らしかな?』

 『そんな理由で襲ってくんな!相っ変わらず無茶苦茶するわね!』

 

 満潮さんと神風さんが撃ち合いながら離れて行く。

 憂さ晴らし?そんな理由で私たちを襲ったの?そんな理由で、あの人は大潮さんと荒潮さんを傷つけたって言うの?

 

 「試して……みたい」

 

 何を?

 今のは私が言った?

 その言葉とともに、それまで感じた事のない感情が湧き上がってくるのを感じました。

 これは、怒り?

 違う。高揚感?

 私はワクワクしてる?どうして?

 あの人は仲間を傷つけた憎むべき相手なのに、私はあの人と戦いたがっている?

 

 『あら、避けるのが上手くなったわね満潮。回避だけなら、私より上手いんじゃない?』

 『こんだけボコスカ当てといて言われても嬉しくないわよ!このバケモノが!』

 

 ()()の被弾箇所が増えている。

 ()()()()との演習でさえ、滅多に被弾()()()()()()()()満潮が回避しきれていない。

 流石は神風さんね。

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 『でも、避けるのが上手いだけじゃ私には勝てない。ほら……』

 

 これでどう?

 とでも言うかのように、神風さんが放ったゴム弾に連続で被弾して満潮が倒れた。

 回避だけ上手くなってたのが、逆に仇になったわね。

 致命傷を避けることができていたせいで、ダメージは三人の中で一番重いわ。

 

 『さて、残るはあなた一人だけど、どうする?そのまま逃げる?』

 

 こちらを見据え、通信越しにあざ笑うかのような口調で神風さんが挑発してきた。

 逃げる?そんなわけありません。

 相応に収穫がなければ、傷つけられた()()()に申し訳がない。

 なので……。

 

 「お相手しましょう。かかってきなさい神風!さあ、お仕置きの時間です!」

 『へぇ、ヤル気なんだ。いいわね。それでこそ駆逐艦よ』

 

 挑発し返したら案の定、神風さんがこちらに向けて前進を始めた。真正面から私を叩く気ね。

 ならば、今の私にとってはチャンス。

 私を見誤っている内に、あなたが培った技術を奪わせてもらうわ。

 

 『その気概に免じて名乗ってあげる。神風型駆逐艦、一番艦の神風よ!かかってきなさい!』

  

 あら、意外ね。

 そういうノリは好きでも、人前でやるような人じゃあなかったのに……。私がいない間に、何か心境の変化でもあったのかしら。

 は、今はいい。

 先ずは、バカ正直に突っ込んで来てくれている神風さんに向かって私も全速力で突撃。

 同時に、砲撃で進路を絞りながら……。

 

 『私の進路を絞って、十分近づいたところで雷撃かな?』

 

 ええ、その通り。

 これくらいなら、猪突猛進と言う言葉が服を着て歩いているような神風さんでも読むでしょう。

 

 『ん~……。あなた威勢はいいけど、全然ね』

 

 私と神風さんの距離が100メートルを切ったところで、三人を倒した砲撃が私の肩に当たった。

 ()()は知らないわね。

 でも、想像はつく。と言うより見えた。

 彼女が持つ砲は、大多数の駆逐艦が持つ砲塔型とは違い、拳銃型で先端の砲塔を上プラス左右にも動かすことができる神風型特有の単装砲の機構を利用して射角を誤認させている。

 

 「うん、良いわ」

 

 この体は凄く性能が良い。

 筋力は平均以上。反応速度や柔軟性も()とは比べ物にならない。

 しかも、距離を詰めるために飛魚を使ってわかったけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 羨むのが馬鹿らしくなるほどの才能だわ。

 

 「へぇ、飛魚が使えるんだ。しかも私並みに上手い。少し評価を上方修正してあげる……って、あなた朝潮?え?似すぎじゃない!?」

 

 あなた並みなのではなく、あなたの飛魚そのものです。

 は、ともかく。

 私とこの子がそっくりなことに驚いている神風さんの再装填が終わるまでの数秒の間に、さらに3回の飛魚で距離を詰め……。

 

 「魚雷1番2番、発射!」

 

 30mの至近距離で魚雷を発射。

 通常に比べて、過剰なほど接近してから放つ雷撃なので私も被害を受けかねない。

 でも、並の艦娘や深海棲艦が相手なら必中の距離。

 ですが、相手は並じゃない。

 たぶん、神風さんは……。

 

 『まあいっか。ところであなた、飛魚は前方へ直進しかできないと思ってない?』

 

 当然避ける。

 目の前で立ち昇っている水柱は魚雷の爆発によるものではなく、神風さんが飛魚で横方向へ移動した余波によるもの。私が撃った魚雷は、まだ直進しているはずです。

 

 「よし。覚えた」

 

 私の左後方15メートルほどの位置に、神風さんが居た。

 右方向に一度跳び、着水と同時にもう一度飛魚で、前方に跳んだのね。

 

 『確かに、飛魚は直進しかできない。でも、前にしか出来ないわけじゃないのよ?』

 

 うん、知ってた。

 それにやり方も見せてもらったし、覚えた。

 今の私は、右方への飛魚も使えます。教えてあげませんけどね。

 今の神風さんは、私を格下だと思って得意気になってる。この調子で他の脚技も見せてくれたら御の字なんだけど……。

 

 「神風お姉さんの脚技講座~♪レッスン1♪」

 

 反航戦の形での撃ち合い中に、飛魚で左真横に跳んで私の真後ろに着水した神風さんは、旋回半径を無視して独楽のように反転。

 よし。これで左方への飛魚と、謎の反転方法も覚えた。

 

 『飛魚は体全体の伸縮のタイミングが一番大事なの。タイミングさえ合わせれば、全方位に飛ぶことができるわ。ちなみに、反転した時に使ったのは脚技の四。(ひね)独楽(ごま)よ』

 

 四?私が知っているのは二までだから、三年の間に二つ増えたのですね。

 二は、戦闘開始直後からたっぷり見せてもらったからもう覚えてる。できれば三を見せてほしいんだけど……。

 

 「そしてレッスン2~♪脚技の二『水切り』。か~ら~の~」

 

 そうは問屋が卸さない……か。

 でも、()()を仕掛けようとしているのはわかったし、精神の磨耗も激しいから、あとは実際にこの子に体験してもらうことにしましょう。

 うん、そうしよう。

 欲張っちゃダメ。

 なにせ、この数十分ほどの間に飛魚の応用と水切り。そして私でさえ初見の捻り独楽と、三人を翻弄した砲撃法。さらに、三人の装甲を神風さんの貧弱な艦力出力で貫いた艦力操作法を見せてもらえた。

 それらだけでも大収穫なのに、アレまで見せてくれるって言うんだから。

 

 「あれ?私は何を……」

 

 していたんでしたっけ?

 満潮さんがやられそうになったところまでは覚えているのに、そこから先が曖昧です。

 まるで、夢でも見ていたような……。

 

 「ほらほら、『脚』が止まってるわよ」

 「しまっ……!」

 

 いつの間にか速度が落ちていました。

 止まってるわけじゃありませんが、これでは棒立ちと大差ありません。

 ですが、それにしても接近され過ぎています。

 神風さんとの距離は20メートルを切っていますし、それまで普通に航行していた神風さんの動きが明らかに変わっています。

 あれは海面を……()()()()

 艦娘は『脚』で海面を船と同じように航行することによって、人間でありながら船と同じ速度を出すことができるんですよ?

 海面を人の脚力で走っても、人間並みの速度しか出せません。

 どうやってるのかはわかりませんが、そんな効率の悪い航行手段にいったいどんな意味が……。

 

 「まあ、もう遅いけどね」

 

 海面を走っていた神風さんが私の目の前、5mを切ったくらいで消えました。

 そう、消えたんです。

 消える寸前に、海面を何度かステップしたのは見えたのですが、神風さんはいったいどこへ……。

 

 「歓迎するわお嬢ちゃん。ようこそ、私の戦舞台(いくさぶたい)へ」

 

 答えは真後ろでした。

 それから、私にとってただ(なぶ)られるだけの……いえ、彼女の戦舞台の上で踊らされるだけの時間が始まったんです。

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