艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第二十六話 あなた、面白いわ

 

 

 

 

 「歓迎するわお嬢ちゃん。ようこそ、私の『戦舞台(いくさぶたい)』へ」

 

 よし!決まった!

 どう?私カッコ良くない!?

 こう、なんて言うの?強キャラ感が出てるって言うか、いかにも今からあなたを倒します的な?

 本当は四人まとめた状態でやりたかったんだけど、あの子達ったら私を本気で狩りにくるんだもん。

 つい私もムキになっちゃって序盤から脚技は使っちゃったし、射角誤認を起こさせる天邪鬼(あまのじゃく)まで使わされ……じゃない。使ってあげたわ。

 特に驚いたのが満潮ね。

 ほんの2ヶ月見ない間に、避け方が尋常じゃなく上手くなってた。

 横須賀であの子を撃ち取れるのは、私か大潮くらいのものでしょうね。

 まあその分、あの子ったら攻撃面を蔑ろにしたっぽいわね。

 たしかに砲撃は正確だったけど、捻りが全くなかった。馬鹿正直すぎて、避けるのに苦労しなかったもの。

 あれなら、新米の砲撃の方がどこに飛んでくるかわからない分避けづらいわ。

 

 「さて、この二代目はどんなかな」

 

 飛魚を使えるのには少し驚いたけど、使いこなせてるとは言い難かった。今も私の戦舞台(いくさぶたい)で絶賛翻弄され中。

 

 「い、戦舞台?それはいったい……」

 「なに?知りたいの?では説明しよう!」

 

 戦舞台とは、浮力がギリギリ発生する程度に、それこそ足の裏程度の面積しか脚を発生させず、それを足場にして海面を陸上と同じように動き回る『水切り』をメインに使って、敵の死角に潜り続けてハメ殺す脚技の複合技よ。

 

 「なんて、それっぽく説明してみたり」

 「水切り?あの、川で平たい石を投げるやつで……痛っ!」

 

 いやいや、私が水切りを使って移動した航跡……航跡で良いよね?が水切りした時みたいだからって理由で先生が名付けたから、あなたがそれを思い浮かべたのは間違いじゃない。

 間違いじゃないけど、安直って言われた気がしてムカついたから10発ほど連続で撃ち込んでやったわ。

 ちなみにこの水切りは、海上で陸上と同じ動きが出来るし、飛魚と違って反動による肉体へのダメージもないのがメリットよ。でもその反面、飛魚と違って速力は出ないし瞬発力もないの。

 ハッキリ言って、並の艦娘が使えたところでデメリットしかないわ。

 ただし、私みたいに0~10mの超至近距離で動き回ることを前提で使えば話は別だけどね。

 考えてもみて?

 実際の艦と違って、深海棲艦ですら大きくて人間の3倍程度。しかも、艦娘と同じで下半身の動きに融通か利かない。極端な例を挙げると、ピョンと跳んで真後ろを向く。なんて動作が出来ないの。

 そんな奴らが相手なら、戦舞台はビックリするぐらい有効なのよ。

 『脚』と言う名の重りがあるせいで、死角は陸にいる時の比じゃないくらい多いんだから。

 

 「いい加減、気絶しちゃいなさいよ。痛いでしょ?」

 

 つまり、戦舞台にさえ持ち込んでしまえば、後は私のやりたい放題。

 敵の動きに合わせて、常に死角から攻撃できるんだから怖いものなしよ。例え相手が戦艦だって、何もさせずにタコ殴りにできるわ。

 なのに、どうしてこの子は倒れない?

 被弾した箇所は、すでに満潮を超えている。制服だって破れて、痣で留まらずに血が滲んでるわ。

 もう一度言うけど、どうして倒れない?

 ほぼ0距離から撃ってるから、ゴム弾とは言え成人男性に力一杯殴られたのと同じくらいのダメージのはずなのよ?

 

 「この!」

 

 おおっと危ない。

 調子に乗って目の前をうろちょろしすぎたせいで反撃されちゃったわ。

 でも、本当にそろそろ、気絶するなり諦めるなりしてくれないかしら。

 いやほら、先生は小破までは大目に見るって言ってたけど、それ以上にした時のことは聞いてないから怖……ん?先生?

 あ、よく考えたら変だ。

 

 「許さない!よくも三人を!よくもお姉ちゃんたちを!」

 

 お姉ちゃんたち?

 あの子達ったら、この子にお姉ちゃんって呼ばせてるの?意外と可愛いとこあるじゃない……じゃない!

 この子は私が南方に行く前はいなかった。

 と、言うことは、私が戻ってくるまでの2ヶ月ちょっとの間に着任したことになる。

 それはおかしい。

 飛魚は、最低でも50前後の練度がないと『脚』の操作が追い付かない。

 よって、この子の練度は50前後と仮定できるわ。

 着任から最長2ヶ月足らずで練度が50前後?

 それはあり得ない。

 私が知らないだけかも知れないけど、知っている限りで言えばあり得ない。

 いや、それ以上に……。

 

 「あなた、何者?」

 

 私じゃあ、()()()()()()()()()()()()なくらい先代の朝潮とそっくりなのに、先生が私のお遊びを許可したのがそもそもあり得ない。

 先生は朝潮にゾッコンだった。

 亡くなった奥さんや娘さんと同じ黒髪ストレートで、オマケにロングだったからなのもあるんでしょうけど、間違いなく愛してた。

 その朝潮にそっくりなこの子が、私の玩具になるのを先生が許可する?

 いいえ。

 絶対に有り得ない。

 きっと目的がある。この子が多少傷ついても、それ以上のメリットがあるから、先生は私のお遊びを許可したんだわ。

 

 「見つけた!そこです!」

 「なっ……!?」

 

 この子今、捻り独楽を使って反転したわ。

 ちなみに脚技の四、捻り独楽とは、他の脚技と違って身体操作より艦力操作の方が重要な技で、簡単に言うと『脚』を独楽状に変化させて旋回半径を0にするの。

 ただし、難易度は一番高いと言って良いわ。

 なんせ艦娘は、一度脚の形が決まってしまうと他の形にし辛くなる。

 例えるなら自転車の乗り方。

 一度乗れるようになると、乗れなかった時の感覚は思い出し辛いでしょ?あんな感じだと思ってくれれば良いわ。

 で、もう一度言うけど、この子は着任から最長で2ヶ月足らずと予想できる。

 そんな、ド新人と言ってもいい子に捻り独楽なんて基本的に不可能。

 でも、この子はやって見せた。

 この技は大潮たちにも見せたことがないから教わった可能性もない。

 じゃあ、どうしてこの子はできた?

 まさかとは思うけど、私が使ったのを見て、見様見真似でやってみた?

 

 「予想外のことが起きた場合は、さらに予想外のことが起こると思って対処しろ」

 

 これは、先生が私に教えてくれた心得の一つ。

 故に、予想の斜め上の事を考えてみる。

 まず一つ目。

 着任から2ヶ月足らずのこの子に、大潮たちが飛魚なんて教える?

 ないわね。

 こういうこともできるよ。って感じで見せただけの可能性が高いわ。

 と、なると、この子は飛魚も見様見真似で覚えたってことになる。それなのに、この子が使った飛魚は私の飛魚と大差なかった。いえ、同じと言っても過言じゃないレベルだったわ。

 そして二つ目。

 この子は初見であるはずの捻り独楽を使った。

 先に言ったように、ド新人のこの子にアレを使うのはほぼ無理。やり方すら見当がつかないはずよ。

 三つ目。

 この子が私の攻撃に堪えられている理由。

 これは、満潮レベルの先読みと回避技術で説明できるわ。さらに、自覚があってやってるのかはわからないけど、たまに水切りを交ぜてる。

 一つ目で言ったけど、ド新人のこの子に脚技を教えるとは思えないから、この水切りも私が使ったのを見様見真似で覚えたと仮定できるし、()()()()()()()()回避技術も、2ヶ月ばかしで会得できるとは思えない。 

 以上三つから導き出せる推論。

 この子は数度見ただけで見た技術を習得、さらに再現できる。

 

 「やられた。私、この子の肥やしにされたんだわ」

 

 私が気づいたくらいなんだから、先生は当然この子の才能に気づいてる。

 そこで都合よく、私が遊び心を働かせたのを見計らって体よくけしかけたんだ。

 

 「やっと……捉えました!」

 

 捉えた?

 そんなレベルじゃない。

 この子は気づいてないんでしょうけど、その動きは戦舞台に近い。

 だって、私と真正面から撃ち合ってるじゃない。

 

 「クソっ!こんなド新人に……!」

 

 この子が装填しているのは実弾。

 こんな、10mもない超近距離なら、砲撃の余波だけで私にダメージを与えられる。

 このままじゃ負ける。 

 調子に乗って見せた技の数々を奪われただけじゃなく、敗北という屈辱まで与えられてしまう。

 

 「私の勝ちです!魚雷3番、4番発射!」

 

 飛魚で私の背後へと跳んだ朝潮が、捻り独楽で反転して魚雷発射管を構えた。

 これは、まずい。

 今の体勢じゃあ、飛魚で左右のどちらかに跳ぶのも、水切りで回避するのも間に合わない。

 あの魚雷は、私に当たる。

 

 「やった!やりました!!三人の仇を討てました!」

 

 ちょっとちょっと、あの三人は死んでないわよ?気絶してるだけ。

 それに、私もやられてない。水柱が魚雷の爆発にしては小さいことに、この子は経験が少ないから気づいてないのね。

 

 「これも見られたかな?いや、あの様子を見るに、見られてはないか」

 

 私は朝潮の()()から後頭部をロックオンしたまま、なるべく音がしないように着水した。

 どうして頭上を飛んだかですって?

 簡単よ。

 それは、飛魚で上に跳んだから。

 前に言ったでしょ?飛魚は()()()()()()()()()()()()()()って。

 故に、上空だって例外じゃないわ。

 もっとも、跳び上がれるのは精々5~6メートル。

 しかも、着水時は足が痛い。

 だから一番跳びたくない方向なんだけど、まあ仕方ないわね。やらないと、私がたぶん死んでたし。

 ちなみに、私はこれを飛魚とは別に『花火』って呼んでるの。

 見た目が打ち上げ花火みたいだからってのが理由なんだけどね。

 それを使って、私は朝潮の頭上をバク宙気味に飛び越えて着水し、朝潮の後頭部を狙ってるってわけ。

 

 「あなた、面白いわ。ムカつくけど、たぶん私が今まで会ったどの艦娘よりも面白い」

 「な……!?」

 

 朝潮が振り向くより早く、私はトリガーを引いて朝潮の意識を刈り取った。

 

 「ふう、疲れた……」

 

 先生の思惑に乗せられたのもあるけど、格下と思って侮り過ぎたのが一番の問題ね。反省しなきゃ。

 

 「朝潮……朝潮!」

 

 ん?満潮?もう気が付いたの?

 緊急避難装置を切り離してこっちに向かって来てるわ。もっとも、足首まで海水に浸かってるけど。

 

 「大人しくしてればいいのに、沈んじゃうわよ?」

 「うるさい!よくも、朝潮をこんなになるまで痛めつけてくれたわね!」

 

 そんなボロボロな状態で睨まれてもなぁ。それにベソまでかいちゃって。

 でも、勘違いしないで。

 あなたは気絶してて見てなかったのかもしれないけど、こうしなければ私が沈められていた。

 それくらいヤバイ奴だったの。

 

 「心配しなくても気絶してるだけよ。死んじゃいないから、安心しなさい」

 「そんなの関係ない!この子には時間がないの!大規模作戦までに、隻腕と戦えるくらいにならなきゃいけないのに!」

 

 アイツとこの子が?

 あ~そういえば先生が、アイツと八駆をぶつけるとか言ってたわね。

 つまり先生は、隻腕すらこの子の肥やしにしようと考えてるわけだ。

 

 「朝潮!しっかりしなさい!ねえ起きて!朝潮!」

 「後頭部に衝撃受けてるからやめなさい。後遺症が残っても知らないわよ?」

 

 泣いている満潮を見てたら、さすがに罪悪感が湧いてきたわね。

 満潮もこの子とは付き合いが短いはずだけど、人前で泣く程度にはこの子のことを大切に想ってるのか。

 

 「ごめんね……。私がもっと強かったら、アンタがこんなになるまで戦わなくて済んだのに……。ごめん。本当にごめん」

 

 ついにはガチ泣きし始めちゃった。

 私が満潮を気に入ってるだけに、ガチ泣きされると謝りたくなっちゃうわね。

 

 「救護は?救護の哨戒艇は?」

 「荒潮の緊急避難装置が作動した時点で、哨戒挺が鎮守府を出てるはずよ。時間的にそろそろ……あ、アレじゃない?」

 

 鎮守府からの哨戒艇が近づいて来てる。

 まさかとは思うけど、先生は乗ってないわよね?乗ってるなら逃げないと。

 朝潮を中破以上にしたのを見られたら、何か言われるだけじゃ済まないもん。

 

 「お~い!お嬢~!満潮さ~ん!」

 

 なんだ。

 乗ってるのは角千代と飛車丸か。

 あ、ちなみに。

 艦娘たちからモヒカンって呼ばれてるのが神藤 角千代(しんどうかくちよ)で、金髪って呼ばれてる若い頃のジョン・ステイモスに似てる方が矧上 飛車丸(しんじょうひしゃまる)。二人とも奇兵隊結成以前から先生の部下やってる古参で、私のパシりでもあるわ。

 

 「うわ!また派手にやったっすねお嬢!オヤジが怒るっすよ、これ」

 「私だって、ここまでやるつもりはなかったわよ」

 「ホントっすかぁ?お嬢は加減ってもんを知らないじゃないっすか」

 

 本当ですぅ!

 それと、間違ってるわよ角千代。

 私は加減を知らないんじゃなくてしないの。

 だって、加減なんてしたら思いっきり遊べないでしょ?

 手加減無しで遊んでやり過ぎたら素直に謝る。それが、この神風さんなんだから。

 

 「そんなこといいから、早く朝潮の手当してよ!お願いだからぁ……」

 

 おっと、満潮の顔が涙と鼻水でドロドロだわ。

 さすがに可哀想だから、早く回収してあげましょう。

 

 「角、さっさとこの二人を回収してあげて。そんでもうちょっと沖に、大潮と荒潮も浮いてるはずだからそっちもね」

 「ういっす。お嬢は乗らないんすか?」

 「私は先生に文句言いに行くから、一足先に鎮守府に戻るわ」

 

 私は満潮と朝潮を二人に任せて踵を返し、鎮守府へと航行し始めた。

 いやぁ、本当にムカつく。

 でも、それと同じくらい同情してる。だってあの子は……。

 

 「とんでもない人に、目を付けられた」

 

 先生は目的のためなら手段を選ばない。

 自分はもちろん、他の人がどれだけ傷つこうが目的のためなら歩みを止めない。

 そんな先生の道具として、あの子は選ばれてしまった。先生の復讐を成就させるための、道具として。

 

 

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