艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第二十七話 駆逐艦の実力は、スペックじゃないのよ

 

 

 

 鎮守府に着いた私は、桟橋で哨戒艇の帰りを待っていた奇兵隊員に艤装を押し付けるなり、執務室に向けて全力疾走を開始した。

 執務室が近づくにつれて、イライラが加速していく気がする。庁舎に入り、廊下でたむろする艦娘どもをかき分けて階段を駆け上がり、執務室のある二階へ着いた頃には、先生と殴り合いする覚悟も出来てたわ。

 

 「ちょっと先生!言いたいことがあるんだけど!」

 「ああ、私もお前に、言いたいことがある」

 

 ノックとばかりに執務室の扉を蹴り破って入ると、私の行動を予測していたかのように先生が執務机に体重を預けて腕を組んで待っていた。

 その姿、と言うより、目を見たらイライラが吹っ飛んだわ。

 だって目がマジだもん。

 まったくと言って良いほど感情を感じさせない瞳の中にあるのは、不気味なほど無機質な鈍光だけ。この目をした時の先生に冗談は通じない。

 迂闊な事を言えば、私でも許してもらえないわ。

 

 「神風、私は小破以上は許さん。と、言ったはずだな?」

 「え、ええ……。耳が早いわね」

 「私とお前の仲だ。弁解があるなら聞いてやる」

 

 まずいわね。

 下手な事は絶対に言えない。

 とっちめてやるつもりで乗り込んだら、逆にとっちめられる形になっちゃったわ。

 さて、どう切りだそう。

 この人に誤魔化しは利かない。誤魔化そうとすれば、腕の一本くらいは折られるかもしれない。

 だったら、朝潮がどうなったかから話すとしますか。

 

 「今の朝潮は、大潮とタイマンしても良い勝負するわ」

 

 大潮は、駆逐艦と言う括りの中でなら私に次いで強い。横須賀No.2の駆逐艦と言って良いわ。

 先刻の戦闘でだって、荒潮たちって言う足枷がなければ、私とも互角以上に戦えてたと思う。

 その大潮に迫る強さを、朝潮はあの短時間で身に付けた。いえ、身に付けさせられた。

 私の弁解を聞くなり、うっすらと笑ったこの人によってね。

 

 「そうか。わかった」

 

 それだけ言って、先生は執務机に戻った。

 やっぱり、私の想像は合ってたみたいね。そして、私が気づいたことにも気づいてる。

 この腹黒狸親父め。

 

 「私にくらい、教えてくれても良かったんじゃない?」

 「お前に教えたら、実力の半分も見せなかっただろう?」

 

 そういう事なら半分どころか、そもそも遊ぼうとさえ考えなかったわ。

 だって私が苦労して培った技術を、ただでくれてやるようなものじゃない。

 まあ、まんまと踊らされて、半分近く奪われちゃったんだけどさ。

 

 「どこまで見せた?」

 「全方位の飛魚と水切りに捻り独楽。それと戦舞台かな。あ、あと天邪鬼と、『刀』を見られたわ」

 

 朝潮型の砲の構造的に天邪鬼はメリットが薄いけど、『刀』は応用の幅が広いからメリットは大きい。

 ちなみに『刀』とは、脚技とは別に私が創作した艦力操作術よ。

 これを説明するには、先ずは力場について説明しなきゃいけないわね。

 艦娘と通常兵器の最大の違いは、この力場と呼称されている不可視のエネルギーを扱えるかどうか。

 力場は、燃料を原料として機関で精製される『艦力(かんりき)』を元にして作られ、攻撃から身を守る『装甲』と、海上を航行するための浮力と推力を生み出す『脚』。さらに、相手の装甲に干渉して中和する『弾』の三つに別けられるわ。

 で、『刀』とは、例えば装甲に回す分の力場を減らし、余剰分を『弾』に上乗せして性能以上の火力にしたりする裏技よ。

 これを使えば、駆逐艦の砲火力でも戦艦の装甲を貫けるほどの火力を得られる場合があるわ。

 ただし、私が創作した技の数々にはおしなべてデメリットがある。

 当然、『刀』にもあるわ。

 脚技の場合と違って、反動による肉体へのダメージや燃料消費の増加はないんだけど、刀はその性質上、減らした箇所の性能が落ちる。

 簡単に言うと、装甲を減らした場合は装甲が薄くなるのよ。

 名前が『刀』なのは、本来は私が日本刀を実戦で使うために編み出したものだからよ。

 

 「良い調子だ。これで使えると自覚さえすれば、今の時点で横須賀の駆逐艦で十指には入るだろう」

 「まあ、そうでしょう……ん?」

 

 今、なんて言った?

 自覚さえすれば、とか言わなかった?

 あの子は私との戦闘で、水切りと捻り独楽を使ってたわ。それなのに、使えるって自覚がない?

 じゃあ、あの時は無我夢中で使っただけってこと?

 

 「なんだ、そこには気づかなかったのか?あの子は、自分の才能を自覚していない」

 「はぁ!?それ、本当!?」

 「ああ、お前が見せた技の数々を覚えている自覚もないだろう」

 「んなアホな……」

 

 だとしたらある意味間抜け。馬鹿と言っても良いわ。

 数度見ただけで技術を習得、即再現できるなんてチート能力なら私生活でも活用可能なんだから、気づく機会はいくらでもあるでしょうに。

 

 「どうして教えないの?自覚させた方が効率良いんじゃない?」

 「そうしようと思ったこともある。だが、あの子の能力は底が知れない。自覚させた途端に支障をきたす可能性も捨てきれんし、私にはそんな出鱈目な天才を指導した経験がない。だから様子見を兼ねて、覚えさせるべき技術を出来るだけ厳選している」

 

 ふ~ん。

 って事は、あの子は大潮たち三人と私以外の艦娘の戦闘を見たことがないわね。

 じゃないと、余計な事を覚えてしまいかねない。

 本来不必要な事も、あの子は必要と思ってしまうかもしれないからね。

 

 「まったく。帰ってきて早々、肥しにされて気分最悪よ」

 「そうむくれるな。お前の実力を評価しているが故だ」

 「そう言えば、私が喜ぶとでも思ってんの?」

 「嬉しくないのか?」

 「ぜんぜん。まったく」

 

 嘘だけどね。

 なんとか表情には出さずに済んだと思うけど、本当は飛び上がりたいほど嬉しいわ。

 でも……。

 

 「あの子も、私()()と同じにする気?」

 「そうだな。お前たちと同じように、あの子が望めば……だが」

 「そう……」

 

 私は先生の道具。

 そして、深海棲艦に復讐しようとしている先生の共犯者。

 喧嘩したり我が儘言ったりすることが()()あるけど、それは今も変わってない。

 だから、私はそれで良い。

 でも、あの子は違う。

 あの子が先生のことをどう想ってるかなんて知らないし、興味もないわ。

 でも、先生はあの子を憎からず想ってる。

 でなければ、私に「小破までなら許す」なんて優しいことは言わず、「沈めない程度で好きにしろ」って言ってたはずだもの。

 きっと、あの子の外見がアイツそっくりなことに、少なからず感情を揺さぶられてるんだと思う。

 そんなあの子を道具扱いして一番傷つくのは先生なのに、どうして無理するの? 

 

 「私と()()()だけじゃ、足りないの?」

 「足りん」

 

 ああそうですか。

 この私がほんの少しだけシリアス、かつちょっと拗ねた感じで言ってあげたのに、なぁんて淡白な反応なのかしら。

 クソ真面目な顔して「足りん」だってさ。

 額が後退してて足が臭い腐れ中年のくせに、アレでカッコいいとでも思ってんのかしらねぇ。

 まあ、いつも通りっちゃあいつも通りなんだけど。

 は、置いといて。

 先生の最終目標がなんなのかは未だに知らないけど、それに向けて左門兄とコソコソやってるのは知ってる。

 それが、とんでもない数の犠牲を要するってことも、なんとなく察しはついてる。

 

 「あとは、何が足りないの?」

 

 私を例えるなら、都合よく勝手に動いてくれる鉄砲玉。()()()は先生の考えを察して、同じように動いてくれる影武者。朝潮の才能と、その恩恵で得られるであろう戦闘力を鑑みると、邪魔物を薙ぎ払う剣ってところかしら。

 

 「あとは……船だな」

 

 船、ねぇ。

 復讐の場へと運んでくれる船ってとこかしら。

 もちろん、ここで言う船とは文字通りの船じゃない。喩えよ。

 その人物に求められているのは戦闘力じゃない。

 恐らくは戦略や戦術面。

 それプラス、駒を最適に動かし、先生の都合が良いように盤面を整え、局面を進めてくれる棋士のような人物のはず。 

 そしてたぶん、先生は船に成り得る人材を見つけてる。

 

 「目星は?」

 「つけた途端にフラれた。どうやら、急ぎすぎたようだ」

 「ふぅん……」

 

 誰だろう。

 先生と近しい人物なのは想像がつくけど、誰かまでは断定できないわね。

 恐らく候補は、先生に恩があり、奇兵隊以外で唯一先生が信頼している舞鶴提督。あ、あと、能力だけ考えればラバウルの基地司令とその秘書艦って線も捨てがたいか。

 

 「おっと、忘れるところだった」

 「何を?」

 「明日からのお前の予定だよ」

 「まだ、私に何かさせる気?」

 

 正直、やる気が出ないのよねぇ。

 今日はたまたま退屈凌ぎを見つけたから動いたけど、本当なら何もしたくないの。

 所謂、燃え尽き症候群ってやつ?

 今回の南方遠征で目的を果たしたから、しばらくはのんびりしたいのよね。

 

 「作戦終了まで、お前は第一艦隊と行動を共にしろ」

 「え?やだ」

 

 変わってなければ、第一艦隊の旗艦は長門だったはず。挨拶くらいならしてもいいけど、一緒に行動するのはちょっとなぁ。

 ほら、長門は文句なんて言わないでしょうけど、他の面子が何を言うやら……。

 

 「やだじゃない。やれ」

 「どうしても?」

 「どうしてもだ。他のメンバーがお前に文句を言うようなら、力尽くで黙らせろ」

 

 ふむ、そう言うことならやってもいいかも。

 やる気はなくても訓練はするつもりだったし、他のメンバーがいちゃもんつけて来たらぶちのめせば良いだけ。訓練の内容が実戦に近くなるだけ。

 だったら、やらない手はないわね。

 上位艦種を堂々と、しかも場合によっては複数同時に実験台にできる機会なんて、そうそう巡って来るもんじゃないもの。

 

 「一応言っておくが、ほどほどにな」

 「嫌だわ先生。私は貧弱な駆逐艦。しかも、その中で最も古くて弱い老朽艦よ?上位艦種様たちを相手に、何か出来るわけないじゃない」

 「ほう?随分と謙虚になったじゃないか。拾い食いでもして腹を壊したのか?」

 

 そんなわけないでしょ。

 だいたい、なんで拾い食いしたと思った?

 言っときますけどね。今は食うに困ってないから拾い食いなんて何年もしてないし、そんなことで主義主張を変えるほどやわでもない。

 

 「冗談よ。私の座右の銘、忘れちゃった?」

 「はて?なんだったかな」

 

 とぼけやがって。

 だったら、改めて教えてあげる。

 私は性能が低くたって負けやしない。

 そう言えるだけの努力と実戦を重ねてきた。

 相手がどんなに強くても、怖くても、私は勝ってきた。技術も性能も私より上だった()()()にだって勝って戻って来たの。

 その私が、性能の上に胡座をかいてるだけの奴らに負けるわけがない。

 そう、私の……。

 

 「駆逐艦の実力は、スペックじゃないのよ」

 

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