艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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またもや急遽仕事が暇になったのでゲリラ投稿&新作(*´ー`*)


第二十八話 この子を守ってあげなさい

 

 

 

 さて、突然ですが問題です。

 ちょっとばかし怪我させちゃった子のお見舞いをするために、ダメ親父にご飯を食わせてから病院まで来たら、顔はニコニコしているものの「ぶっ殺してやる」と言わんばかりの殺気を纏った朝潮型駆逐艦の四番艦と鉢合わせしちゃったんだけど、あなたならどうする?

 な~んて、誰ともなく質問を投げ掛けちゃった。

 私ったらお茶目さん♪テヘ♪

 とかやってる場合じゃないわね。

 さて、どうしよう。

 一、回れ右して帰る。

 無しね。

 逃げたと思われたら癪だもん。

 二、月が綺麗ですね。とか言って雑談に持ち込む。

 無し無し。

 夏目(なにがし)さんのせいで、日本に於いて『月が綺麗ですね』は『I love you』の隠語になっている。私って可愛いから、ガチのあっち系であるこの子にそんなことを言おうもんなら、話の取っ掛かりとは気付いてもらえない可能性が高いわ。

 だいたい、今日は新月だしね。闇討ちには持って来いだもん。

 三、殺られる前に殺る。

 これこそ無しね。

 朝潮型は先生ご贔屓の艦型。

 以前、呉に所属してる九番艦と十番艦を、横須賀に引き抜こうとして揉めたことがあるくらい気に入ってるわ。

 その中でも現第八駆逐隊のメンバーは、先生が退役後に養子にする(三人は全力で拒否した)なんて寝言をほざくくらい入れ込んでる。

 その一人である荒潮を殺るなんて、先生の逆鱗に触れるどころか蹴飛ばすのと同義だわ。

 う~ん。本当にどうしよう。

 いや、どうとでもなるのよ?

 荒潮は八駆の中で最も狂暴だけど、陸じゃあ素人に毛が生えたレベルだから素手でも制圧できる。それに加えて、今の私は帯刀してるから相手になんてならないわ。

 でもほら、私ってばほんの少しだけやりすぎちゃったじゃない?

 だから、荒潮はきっと朝潮の件で怒ってるんだろうから、喧嘩を売られたからってボコボコにするのは抵抗があるのよ。

 なんたって、半分は優しさで出来てるのがこの神風さんだからね。

 

 「あらぁ、神風さんじゃなぁい。こんな時間にどうしたのぉ?」

 「荒潮こそどうしたのぉ?怪我はもう良いのかしらぁ」

 

 おっと、私が悩んでるってのに荒潮が口火を切ったから、ついつい口調を真似して挑発しちゃって荒潮の笑顔を消しちゃった。

 先生並みの無表情ね。

 怒りのゲージが振り切ってるんじゃなくて、怒りを制御してる感じだわ。

 私でさえ、アレが出来るようになったのはここ一、二年くらい。

 これは少しだけ、荒潮の評価を上方修正しとく必要があるか。

 

 「まだ、あの子に何かするつもりですか?」

 「あら、心外ね。私が怪我人に追い討ちかけるような女に見えるっての?」

 

 口調も変わった。

 いつもの間延びした口調より、今の方がしっくり来る気がする。

 もしかしてこの子、こっちが素なのかしら。

 

 「ええ、とっても」

 「あらまあ、随分と嫌われちゃったわね」

 

 いや、元々か。

 荒潮は先代の朝潮を姉としてじゃなく、女として愛してた。そんなこの子が、朝潮と喧嘩ばかりしてた私に好意を抱いてるはずもないわ。

 昔は何度も偶然を装って、私に危害を加えようとしたしね。まあ、返り討ちにしてたけど。

 それに加えて今日、愛してた姉そっくりなあの子を私がボコっちゃった。

 荒潮からしたら、私は文字通り仇でしょう。

 

 「前から嫌いだわ。でも前は、目障りくらいにしか思ってなかった」

 「じゃあ、今は?」

 「殺したいくらい嫌い。お願いだから、一回殺させてくれない?」

 

 一回殺されたら終わりでしょうが。

 は、置いといて。

 私的には、荒潮が喧嘩を望むなら叶えてあげてもいい。いいけど、今の荒潮が相手じゃあ喧嘩で済まない。間違いなく、殺し合いになるわ。

 そうなったら私も手加減なんてできないから、ここは私から折れてこの場を収めるしかない……。

 

 「いえ、一回じゃ足りない。姉さんの分も含めて二回よ」

 「ちょっと待て。どうしてそうなる?」

 「わからない?姉さんはあなたが居なかったから死んだ。あなたが我が儘な行動さえしなければ、姉さんは死なずに済んだの」

 

 ああ、なるほど。

 確かに、()()()がブルネイ近海に出たって話を聞いて、横須賀から呉に艦隊を貸している間は行くなと先生からも言われたのに、居ても立ってもいられなくなった私は反対を押し切って相棒と共に南方に行った。

 鎮守府が襲われたのは、私が発った三日後だったわ。

 だから、三年前の南方遠征は私の我が儘と言われても否定できない。

 でも……。

 

 「アホか。死んだのは朝潮が弱かったからでしょうが。それにあなた、本気で朝潮の仇を討つ気なんてないでしょ」

 「なん……ですって?」

 

 おお怖い。

 今にも飛び付いて来そうなくらい、荒潮の殺気が膨れ上がったわ。

 でも無駄。

 あなたは私に何もできない。いえ、何もする気がない。それが今、確信できた。

 

 「私のことが殺したいほど憎いのなら、どうしてあの時、奥の手を出さなかったの?」

 「それは、大潮ちゃんに止められたから……」

 

 関係あるかドアホ。

 たしかに、荒潮の奥の手は大っぴらには使えない。と言うより、()()()()()()()()()()()で使うと色々と問題がある。

 でもやっぱり関係ねぇ……じゃない。関係ない。

 私のことが本当に憎いのなら、問題があろうと関係なく使えば良かったのよ。

 それなのに、大潮がとか言い訳しやがって……。

 

 「止められたから?舐め腐ったことをほざくな小娘。止められた程度で踏み止まれる程度の浅い恨みなら、今まで通り黙っていじけてろ」

 

 この子は中途半端だ。

 私を朝潮の死の原因の一つとしながら、全てを捨ててでも仇を討とうという気概がない。理性がブレーキをかけてる。

 いや、少し違うか。なまじっか感情を制御できるせいで恨みの矛先が定まらず、逆に制御できなくなってたんだわ。

 そんな状態だったこの子に、私が理由を与えてしまった。

 愛していた女の代わり足り得る子を私がボコったせいで、どこにいるかもわからない本当の仇に定まらずに、ふわふわしてた矛先が定まってしまったのよ。

 私と言う、手近な仇へとね。

 

 「で、でも、神風さんがいてくれたら姉さんは……!」

 「甘えるな。終わったことの()()を考えてる暇があるなら前を見ろ。今、あなたの前には仇がいるんでしょ?朝潮が死ぬ原因を作った私がいるんでしょ?」

 「そ、そうだけど……」

 「だったら殴るなり蹴るなりしなさいよ!それすらできない癖に何が殺させてくれない?よ!私が憎いんなら問答無用でかかってこい!私は逃げも隠れもしない。正面からあなたの恨みを受け止めてぶちのめしてやる!それでも恨み言を言うだけだってんならもう一度言ってあげるわ。甘えるなボケナス!」

 

 おっと、ボケナスは余計だったか。

 まあ、オマケは付くと嬉しいものだから良しとしましょう。

 血が滴るほど唇を噛んでるけど、荒潮の気勢も削げたようだし、お次は新たなお客さんの相手をするとしますか。

 

 「そのへんで、妹を虐めるのはやめてあげてくれませんか?」

 「人聞きが悪いこと言うわね。大潮」

 

 まったく、次から次へと朝潮型が湧いてくるわね。

 まさか、大潮の相手が終わったら次は満潮が出てくるんじゃないでしょうね。

 

 「朝潮ちゃんのお見舞いですか?」

 「ええ、負け犬が悔しがってる様を見るのが趣味だから」

 「悪趣味ですね。また性格が悪くなったんじゃないですか?」

 

 こらこら大潮ちゃん?

 私のどこが性格悪いのよ。

 可愛くておしとやかで慈愛に満ち溢れ、老若男女から慕われ、強気を挫き弱気を助けるを地で行く正統派ヒロインよ?

 そう言うあなたこそ、そんなに毒吐く子だったっけ?

 朝潮が死んでから性格が歪んじゃったんじゃない?

 前のあなたは、戦う前から諦めるような子じゃなかったのに……。

 

 「ねえ、大潮。どうして早々に諦めたの?」

 「……神風さんが相手じゃあ、()()()()()()()勝てるかどうか微妙だったからです」

 「だから、早々に気絶して被害を最小限に抑える……つもりだったんでしょ?」

 「ええ、その通りです」

 

 大潮の表情に変化はない。

 私がこう出ることは、予測済みだったって訳ね。

 まったく、らしくない。私が知ってる大潮らしくない。昔のあなたは、打算で動く子じゃなかった。荒潮以上に、本能だけで動く感覚型の艦娘だった。

 そのあなたが、朝潮が死んでからの三年でつまんない子になった。朝潮の真似をしてるんでしょうけど、今のあなたは荒潮より酷いわ。

 

 「他の三人には何て言ったの?とっても強くて可愛い子だから、手加減なしで迎え撃て。とでも言った?」

 「相変わらず自己評価が高いですね。でもまあ、似たようなことは言いました」

 

 ほう?なんて言ったのか詳しく……聞いてたら話が進まないか。

 でもわかった。

 大潮はそう言うことで、他の三人に緊張感を植え付けて動きを鈍らそうとしたんだわ。

 満潮と荒潮は、私のことを知ってるから効果抜群だったでしょうね。

 実際、荒潮は奥の手と脚技の隙を狙われるのを恐れて動きが単調になってた。

 誤算だったのは満潮と、今の朝潮ね。

 満潮は脚技の使用は控えたものの、朝潮を逃がそうと躍起になって被弾が増えた。

 朝潮なんかは、その才能と私のことを知らないのも手伝って私を追い詰めるなんて愚行を犯し、大破寸前までボコられた。

 

 「読みが甘かったわね。あなたに朝潮の真似なんて、十年早いわ」

 「返す言葉もありません。こんな事になるなら、三人を逃がして()が本気で戦うべきでした」

 

 お?一人称が変わった。

 それが今の、本当のあなたってわけね。

 はぁ……どうして八駆ってのは、こんなに裏表が激しいのかしらね。

 声色や口調まで同じになっちゃうから、もしこれが小説とかだったら誰が誰だかわかんないじゃない。 

 おっと、また脱線しそうになっちゃった。

 

 「で?あなたも私に言いたいことがあるわけ?」 

 「ないことはないですが……。言ったら薮蛇になりそうですからやめときます」

 「あっそ」

  

 どうせ、もう朝潮に絡まないで。ってところでしょ?

 心配しなくても、しばらくは第一艦隊の相手で忙しいからそんな暇はないわ。

 暇ができたら保証はしないけどね。

 

 「ねえ、大潮。それに荒潮にも、一言言っていい?」

 「なんですか?まさか、謝るなんて殊勝なことはしませんよね?」

 

 しないわよ。

 あなたたちを見てたら一言言いたくなっただけ。

 荒潮はわかりやすかったけど、大潮は少しわかりにくかった。でも、朝潮の真似をしてることで気付けた。

 大潮も荒潮も、今の朝潮なんか見ちゃいない。

 先代の朝潮を今も見てる。

 いえ、今の朝潮を、先代の朝潮の代わりにしようとしている。

 だから一言、言いたくなった。

 

 「あの子をちゃんと見てあげなさい。あの子は、あなたたちの姉じゃなくて妹よ」

 

 ってね。

 この言葉が、凝り固まっちゃったあの子たちに響いたかどうかはわからない。

 でも、大潮も荒潮も黙って私の前から去ったから、自覚自体はあったんでしょう。

 

 「朝潮。アンタって、本当に慕われてたのね」

 

 病院の入り口を通って待合室を抜け、階段を上がり、今の朝潮の病室が見えてきたあたりで、思わずそう呟いてしまった。

 私はアイツが羨ましかった。

 先生に愛されて、姉妹艦から慕われてるアイツが眩しかった。

 誤解のないようにいっておくけど、神風型と言う艦型的な姉妹は今も存在するわ。現に、横須賀所属の第五駆逐隊は神風型で編成されてるしね。

 でも私は、同世代の神風型駆逐艦と会ったことがない。みんな、顔を会わせる前に死んでしまった。

 

 「今の若い子に言ったって、信じてもらえないんだろうな」

 

 あらやだ。

 今の若い子なんて老害ワードを言っちゃった。

 だけど、本当に今の子は信じてくれないと思う。

 私以外の神風型駆逐艦の初代たちが、()()()()()()()()()()()()()()、なんて話はね。

 

 「あー!やめやめ!辛気くさくなっちゃう!」

 

 とっとと朝潮の様子だけ見て帰ろう。

 病室内には二人分(一つは希薄だから恐らく朝潮)の気配があるから、たぶん満潮がいるだろうけど、あの子は他の二人と違ってまともだから問題ない……はず。

 

 「ちょっと邪魔するわよ」

 「邪魔するんなら帰って」

 

 こらこら満潮。

 邪魔するってのは挨拶表現で、本当に邪魔するわけじゃないのよ?

 それなのに、心底嫌そうに顔を歪めて帰れなんて言うことないんじゃない?

 私って見た目通り繊細だから、帰れなんて言われたら文句言いたくなっちゃうわ。

 

 「なにもしないから、そう邪険にしなさんな。お姉さん泣いちゃうぞ?」

 「泣きたいのはこっちよ。さっきまで……いや、なんでもない」

 

 あ~……。

 こりゃあ大潮と荒潮に、どうして逃がさなかったんだ!とか、どうして守れなかったの!?ってな感じで責められたわね。

 速攻でリタイヤした二人に、朝潮並みに怪我してまで庇った満潮を責める権利なんてないと思うけど、この子は優しいから甘んじて責め苦を受けたんでしょうね。

 

 「ごめんね。私が悪かったわ」

 「謝るくらいなら……!」

 

 最初からやるな。

 って、続けようとしたのかな。

 溢れそうになった涙を隠すかのようにうつむいちゃったからわからないけど、たぶん合ってると思う。

 

 「この子の回避の仕方ってあなたにそっくりだったけど、メインで嚮導してるのはあなた?」

 「うん……」

 「そう。後悔、してる?」

 

 私の質問に、満潮はスカートの裾を握りこむことで答えてくれた。

 そうよね。

 あなたの回避技術を身に付けてなければ、ここまで傷を負うことはなかった。

 もっと早く。それこそ、この子が魚雷を放つ前に終わってた。

 

 「この子の才能のこと、満潮は知ってるんでしょ?」

 「知ってる」

 「じゃあ、自分を責めなくていい。あなたたち三人を見てたんだから、この子がこうなったのは自業自得と言えなくもないわ」

 「そんな言い方しないで!この子は何も悪くない!悪いのは神風さんでしょ!?」

 「ええそうよ。悪いのは私。この子の才能に気付くのが遅れて、危うく殺されかけた私のせいよ」

 「いや、はぁ?この子が、神風さんをそこまで追い詰めた?」

 

 おろ?そこまでは想像してなかった?

 じゃあなに?

 私がこの子を一方的にいたぶって、そこまで怪我させたって思ってたの?

 それはさすがに心外だから、弁解しとくとしますか。

 

 「そうよ?さっきも言ったけど、下手したら私は殺されてた」

 「信じられない……。たしかにこの子の才能は規格外だけど、自覚がないから自分の強さを十全に発揮できないと思ってたのに」

 「それは見込みが甘かったわね。この子、私があの時見せた技のほとんどを使って見せたわ」

 

 しかも、自覚無しだからたちが悪い。

 昔の大潮や荒潮みたいなタイプならともかく、私や満潮みたいな思考型の艦娘は、戦闘の真っ最中でも考えることをやめない。相手が格下なら、戦う前に戦闘終了までイメージできていることすらあるわ。

 この子も思考型だと思うんだけど、この子の場合は手持ちの選択肢が多いことを知らないから、イメージしている状況と乖離した場合に手持ちの手段以外に解決策を求めた。

 それが、咄嗟に出た捻り独楽と水切り。

 例えば、この子は「ここで捻り独楽が使えたら」なんて考え、破れかぶれで使ったんでしょうね。

 でも、使えたは良いけど、この子には「思ったより上手くできた」程度の認識しかないと思う。

 

 「運動音痴だった朝潮とは性能が段違いね。外見はそっくりなのに、中身がまるっきり別物じゃない」

 「そりゃあ実際、別人だし……」

 

 やっぱり、満潮はまともだったか。

 満潮は他の二人と違って、ちゃんとこの子を見てる。

 先生ですら感情を揺さぶられるレベルでそっくりなこの子を見ても、満潮はこの子に朝潮の影を見てないわ。

 

 「それに、姉さんの瞳は透き通るような蒼だったでしょ?何から何までそっくりってわけじゃないんだから、二人が並んでも見分けくらいつくわよ」

 「いやいや、瞳の色も同じでしょ?」

 

 実際、水切りで接近した際に観察したけど、私には違いが見つけられなかった。

 いや待って。

 そう言えばこの子、私が水切りを使い始めたくらいから様子が変わったわね。

 

 「え?何言ってるの?この子の瞳は、姉さんと違って薄い茶色よ?」

 「それ、本当?」

 「え、ええ。なんなら、見てみる?」

 

 本当だわ。

 満潮が寝てる朝潮の目蓋を開いて見せてくれたけど、間違いなく蒼じゃない。満潮が言うとおり薄い茶色だわ。

 

 「どういうこと?私の見間違いだった?」

 

 艦娘は代替わりした際、先代の……正確には初代の性格とその艦特有の特徴の影響を受ける。

 これは10年近い運用実績と経験から、ほぼ確定している事実よ。

 ほぼと断ったのは、私みたいに代替わりしていない艦娘が一定数いるせいで、すべての艦娘で確認できてないから。

 だからこの子の場合も、外見的な影響を受けなかった稀有な例第一号として片付けられる……()()()()()

 

 「満潮。この子の瞳の色が変わったところを、見たことある?」

 「ないけど……。そんなにコロコロ変わるもんじゃないでしょ?」

 

 そりゃそうだ。

 でも、私はこの子の瞳が蒼く染まっているのを確かに見た。でも、今は茶色になってる。いや、戻ってると考えるのが正しいのかも。

 例えば、この子はまだ、完全に朝潮の艤装と適合していないと考えたらどう?

 そう考えるなら、きっと何かが邪魔してる。

 その邪魔が治まる。もしくは、()()()()()()()()()()()()()()()に、完全に艤装と適合して瞳が蒼く染まるんじゃない?

 

 「神風さん?」

 「ちょっと黙ってて」

 

 朝潮の目蓋を開きっぱなしにしてる満潮は放置……できないか。そのまま開いてたら目が乾いちゃうから、ジェスチャーで朝潮の目蓋から指を離すよう促してっと。

 じゃあ、邪魔してるモノってなんだろう。

 艤装の構造的な何か?

 それとも、この子の精神的な何か?

 う~ん、わっかんないわね。

 何かヒントはない?

 私との戦闘中、この子におかしなところはなかった?

 

 「あ、そう言えば……」

 

 私が名乗る前、この子は何て言った?

 う~ん、聞いた覚えはあるのに思い出せない。たしかアレは、先生の決め台詞をアレンジしたアイツの決め台詞だったはずなんだけど……。

 

 「ねえ満潮。朝潮の決め台詞ってなんだったっけ」

 「この子の?それとも、姉さんの?」

 「前の朝潮に決まってんでしょ?ボケてんの?」

 

 いや、ボケてるのは私かな?

 いやいや、ちょぉ~っとド忘れしただけだからボケた訳じゃない。だって私、まだ若いもん。ピチピチだもん。まだ今年で22だもん!

 

 「さあ、お仕置きの時間です」

 「はぁ!?私をお仕置きなんて十年早……ん?あっ!それだ!」

 

 その台詞を、この子も言ってた。

 艦娘は初適合時に、先代の記憶を垣間見るって話を聞いた覚えがあるから、それを覚えていたこの子が咄嗟に真似しただけ?それとも、思い付いたから言ってみた?

 ううん、たぶん違う。

 私が今している想像は突拍子もないけど、アイツならやりそうだと思える。

 いえむしろ、想像してしまったことで確信してしまった。

 

 「ったく、未練がましい奴」

 

 この子の内には、たぶんアイツがいる。

 どんな手を使って、この世に残ったのかはわかんないけど間違いない。

 アイツならそれくらいやる

 先生のためだったら、自分の命すら平気で投げ出すアイツなら、可能であるなら他人の体を乗っ取るくらい平然とやるでしょうね。

 

 「満潮。今の話は先生にしないで」

 「今の?朝潮の瞳が云々って話?」

 「そうよ。それと、もう一つ覚えといて」

 

 腹が立つ。

 どいつもこいつもアイツの影ばかり追い求めて、この子のことなんてまるっきり見ていない。

 朝潮なんて、この子の才能しか見ていない。

 この子をこの子としてちゃんと見てるのは、きっと満潮だけだわ。

 

 「この子を守ってあげなさい。姉として、全ての敵からね」

 「わ、わかり……ました」

 

 思い詰めたような表情を見る限り、満潮は私が言った言葉を額面通りに受け取ってはいない。

 大潮と荒潮が、この子を姉の代わりにしようとしていることにも気付いてる。

 もしかしたら、瞳の件を先生に言うなと言ったことで、先生にも同じ危うさがあると察してくれたかもしれない。

 うん。やっぱりこの子は良い。

 察しが良く、物事を冷静に判断できて、目的に向かって邁進できる行動力と気概も持ち合わせてる。

 私が人を抱えて良い身分なら、真っ先に声をかけて副官に据えるわ。

 正直、艦娘で終わるのが惜しいとも思うわね。

 だったら保険を兼ねて……。

 

 「助けが欲しくなったら、真っ先に私に言いなさい。あなたが助けを求めるなら、私が全力で助けてあげる」

 「神風さんが……全力で?」

 「そうよ。正真正銘私の全戦力、全戦術、全戦技を以て、あなたを助ける」

 

 私の底は浅くない。

 今日、この子に見せた私は全力には程遠い。

 誇って良いわよ。

 あなたは全駆逐艦中最低の性能で戦艦はおろか、姫級すら屠った私の全力を、先生以外で唯一使う権利を手に入れたんだから。

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