艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

3 / 125
第三話 アサシオ

 

 

 

 宴が始まる。

 

 私の望みを叶えるための宴が始まる。

 

 長かった。

 

 とても、とてもとても長かった。

 

 ここまで漕ぎ着けるのに6年もかかった。

 

 色々と苦労はしたけれど、これで『彼女』が応えてくれる。

 

 私からの贈り物が、必ず『彼女』に火を点ける。

 

 『彼女』は泣いてくれる。『彼女』は怒ってくれる。

 

 だって私は、『彼女』が一番大切にしている人を殺すんだもの。

 

 それさえ成せば、その後の『彼女』の行動なんて簡単に予想できる。

 

 だって、『彼女』はもう一人の私。

 

 あったかもしれない、私の可能性の一つ。

 

 だから、あなたが風を吹かすのを私は確信してる。

 

 あなたはきっと、彼女のもとにたどり着く。

 

 私はその時を、楽しみに待っている。

 

 さあ、奏でましょう。恐怖と悲哀の交響曲を。

 

 愛でましょう。砲火と爆炎の花束を。

 

 そして至りましょう。私が望んだ、理想の世界へ。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 はじめ見た時は、取るに足らない存在に思えた。

 なにせ奴は、小さく豆鉄砲のような砲しか持たぬ駆逐艦。

 期待外れもいいところだ。あの施設にはろくな艦娘がいないらしい。そう思った。

 

 「素晴らしい……」

 

 わざわざ艦隊から孤立して見せ、索敵機も見逃した。

 こちらから迫ってみてやっと出てきたのが駆逐艦とは……本当にがっかりだ。

 もうあの施設は潰してしまおう。『渾沌』の言いなりになるのは癪に障るが、少しは気が晴れるだろう。

 と、思い。そうした。

 

 「これも避けるのか……」

 

 まずは、手始めにこちらに向かってきている駆逐艦から沈めるとしよう。

 私は、奴を一撃で沈めるつもりだった。

 駆逐艦の装甲など、私の砲の前では無いのと同じなのだから。

 

 そうして撃った完璧な一撃は、我ながら惚れ惚れした。

 距離、速度、風向き、奴がとり得る回避先、全ての要因を考慮して放った一撃。

 数秒後には、あの駆逐艦は木っ端みじんになっているはずだった。

 

 「アレは、本当に駆逐艦か?」

 

 大きな水柱が上がった。

 さて、あの駆逐艦はどうなった?欠片も残さず吹き飛んだか?

 否、水柱の横に艦影。

 奴は回避した。

 私の完璧な砲撃を回避した。

 最初は弾道計算が狂っていたんだと、自分に言い訳した。

 

 「私の予想の先を行っている……のか?」

 

 そうとしか考えられない。

 奴は回避運動すら取らず、猪のように突進しているのに、追加の砲撃が当たらない。

 針路もほとんど変えずに、私に肉薄しようとしている。

 そして奴の砲撃。

 ハッキリ言って、駆逐艦の砲などで私の装甲が貫けない。目眩ましが精々だろう。

 ならば、奴は絶対に近距離での雷撃を狙ってくる。

 魚雷を喰らえば、さすがの私でもただでは済まんな。

 だったら好みではないが、私は副砲による砲撃を交ぜ奴を撃った。副砲でも相手が駆逐艦なら十分すぎる火力だ。

 さあ、避けられるものなら避けてみろ。

 

 「これも当たらないのか」

 

 奴の周りに、何本も水柱が立ちのぼった。

 だが当たっていない。

 何だ?何なのだ?奴は本当に駆逐艦か?

 今まで、こんなことは一度もなかった。

 私の砲は相手が戦艦だろうが重巡だろうがすべて屠ってきた。その私の砲が、あの駆逐艦にはカスリもしない。

 

 「ハ……ハハハ……」

 

 なんだこの声は。誰かが笑っている?もしかして私か?私が笑っているのか?

 

 「ハハハ、楽しい……」

 

 やはり私だった。

 そう、私は楽しい。こんな気分は初めてだ。私の自慢の砲が通用しないのに、すべて躱されるのに楽しくて仕方がない。こんなに楽しいのは、建造されて初めてだ。

 

 「もっと!もっとだ!もっと撃ち合おう!!私はもっと、お前と戦いたい!!」

 

 ん?速度を上げた?どうした、何をそんなに急いている。私はもっとお前と踊りたいのに、お前はそうではないのか?

 

 「そうか、残念だ」

 

 私は主砲を、奴に向けた。

 さすがに距離が近すぎて私も被害を受けかねないが、この距離なら、例えお前でも躱せまい?

 いや、待て。

 奴も私に砲を向けている。

 この距離なら多少装甲を抜かれるだろうが、何処を狙っている?

 

 「バ、バカな!」

 

 私が撃つ直前に奴が発砲し、その砲弾は私の砲身に飛び込んで、砲塔内部で誘爆した。

 私並みに正確な砲撃だ。

 いやいや、感心している間などない。奴がさらに距離を詰めた。このままではマズい。

 この距離で魚雷を撃たれたら、さすがに躱せない。

 

 「一発必中!肉薄するわ!!」

 

 奴が魚雷を撃とうとしている。

 返り討ちにするつもだったのに、逆に私が追い詰められている。

 

 その時、私の視界に何か映った。なんだ?

 重巡?私が連れてきた艦隊の?

 なんでこんなところにいる。敵の艦隊と遊んでいろと言ったはずだ。

 私を追ってきたのか?

 おい、待て、貴様は何をしようとしている。何を砲撃しようとしている?

 

 「やめ……!」

 

 私が制止するより早く重巡が砲撃し、私に迫っていた駆逐艦の右腕に命中した。

 奴が吹き飛び海面を転がっていく。

 ああ、なんてことを……。奴の流す血で海面が赤く染まっていく。

 痛いか?痛いだろうな、腕が吹き飛んだのだからな……。

 

 「おのれ……」

 

 よくも邪魔を。

 私と奴との戦いに水を差すなど万死に値する。

 私は追ってきた重巡を睨むと、重巡は怯えたような顔をして身を縮めた。

 なんだ?その態度は。

 何か悪いことをしたのかと言いたそうな感じじゃないか。

 まあいい、貴様の処分は後だ。

 

 「腕が……私の右手……ああ……ああああぁぁぁぁぁっぁぁ!」

 

 奴が苦しんでいる。無念だろうな、こんな形での決着など。

 

 「あうっ!!」

 

 私は奴を目の前まで持ち上げた。これは……助からないな。

 ならばせめて、非礼くらいは詫びておかねば。

 

 「すまなかったな。こんな形での決着は望んでなかった」

 

 本当にすまない。私はもっとお前と、戦っていたかった……。

 

 「散々誘って出てきたのが駆逐艦だったときはガッカリしたが、貴様は駆逐艦にしておくのが惜しいほど強かったぞ」

 

 これは私の正直な気持ちだ。嘘偽りない称賛だ。本当にもっと、お前と戦っていたかった。

 

 「ふ……ざける……な!」

 

 どうした?

 なぜ怒っている?私は何か、お前の気に障ることを言ったのか?

 

 「ふざけてなどいない。私は貴様のような強者と戦うことが何より好きだ」

 

 お前は強い。私が戦ってきたどの戦艦や重巡などより強かった。なのに、何が気に食わない?

 

 「う……うう……」

 

 何をしている?魚雷?ああそうか、お前はまだ、私と戦ってくれる気なのだな。

 だが……。

 

 「諦めろ、勝負はついた。横槍でだがな」

 

 そう言って、私は重巡を今一度睨んだ。

 相変わらず、なぜ睨まれているかわかってないようだ。

 

 「もう貴様には自爆するくらいしか手段はないだろう?」

 

 それはやめてくれ。私をここまで追い詰めたお前が吹き飛ぶところなど、見たくない。

 

 「だけ……ど、お前はこの後鎮守府を襲うので……しょう……?」

 

 鎮守府?ああ、私が向かっていた施設の名か。

 

 「私たちにとって目障りなのは確かだからな。そもそも『渾沌』の奴からあの施設を潰せと言われている」

 

 私にとってはどうでもいいことだが。

 ん?どうした?何を不思議がっている?私の名を聞きたいのか?

 

 「ああ、名乗っていなかったな。私は『窮奇』。貴様らが私をどう呼んでいるかは知らんが」

 

 『渾沌』奴につけられた名だが、お前のような強者に覚えてもらえるなら光栄だ。

 

 「お前の名前なんかどうでも……いい!鎮守府は……あの人はやらせない!」

 

 違うのか?押し付けられた名だが「どうでもいい」と言われると少し傷つくな。

 

 「あの人?ではどうする?魚雷は無事みたいだが、撃たせると思うか?」

 

 あの人が誰の事かは知らないが、貴様が吹き飛ぶところは見たくない。そのまま安らかに、少しでも綺麗なまま眠ってくれ。

 

 「お前に向けて撃たなくたっていい!」

 

 何?何をする気だ!やめろ!

 

 「この海域から!出ていけぇぇぇぇ!!」

 

 

 奴は、魚雷を自分の体に向けて発射した。

 なんてことを……粉々になってしまった。

 私を追い詰めたお前に、そんな沈み方はしてほしくなかったのに……。

 

 「きゅ、窮奇様……」

 

 ん?ああそうだ、お前の処分がまだだったな。

 なんだ?私の体に何かついているのか?

 いや、違う。

 ついてないのか。

 今の爆発で、左腕を持っていかれたようだ。

 

 「早く手当を」

 

 痛い。痛いな……。お前は、こんな痛みに耐えていたのか。

 ふふ、なんだろうなこの感情は。

 うれしい?

 そう、うれしいだ。

 お前と同じ痛みを味わえたことが、私はうれしくてしかたない。

 

 「フフフフフ……」

 「窮奇様?」

 

 大破寸前の中破と言ったところか。

 この気分を台無しにしたくないから、ちょうど良い損傷具合と言えるな。

 

 「引き上げるぞ。艦隊にもそう伝えろ」

 「よ、よろしいのですか?」

 「かまわん。奴への手向けだ」

 

 お前は、あの施設を攻撃してほしくなかったのだろう?

 これは、勝負に横槍を入れてしまったせめてもの償いだ。

 だが、また退屈な日々が始まってしまうな。

 『渾沌』の奴にいいように使われる日々が。

 そういえば、奴の名前は聞けなかった。

 ん?あそこに浮いているのは、奴が背負っていた艤装か?

 横に書いてあるのは……艦名か?

 

 「アサシオ」

 

 アサシオ?それが奴の名か?

 

 アサシオ……。

 

 アサシオ……。

 

 ああ、覚えたよアサシオ。

 私はお前の名を、失ったこの左腕の痛みとともに、決して忘れない。

 

投稿時間は何時くらいが良いですか?

  • 朝 6:00~7:00
  • 昼 11:00~12:00
  • 夜 19:00~20:00
  • 何時でも良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。