ちなみに新規書き下ろしその三です!
突然だけど奇兵隊とは。
正化20年の末に結成され、紆余曲折を経て横須賀鎮守府警護隊と言う名目を手に入れて鎮守府に居を構えた、先生の私兵と言っても良い部隊よ。
部隊って言うと少なく聴こえるけど、その規模は師団相当。分かりやすく人数で言うと、だいたい一万~二万人ね。
だいたいと言ったのは、私も末端構成員までは把握していないから。
だって、実働部隊だけでも五千人は軽くいるんだもん。
総隊長である先生ならともかく、末端に近い私じゃあさすがに把握しきれないわ。
ついでに説明しとくと、奇兵隊は大きく二つに別けられる。
一つは、戦闘を主任務とする実働部隊。
コレも別けられてて、『銃』、『車』、『剣』、『影』の四つがあるわ。
まあ、名付けたのが先生だから由来は安直なんだけど、例えば『銃』なら、手持ちの銃火器を主武装にしているから『銃』。『車』は、戦車などの搭乗兵器を運用する部隊だから『車』なの。
『影』は少し毛色が違って、諜報活動が主な仕事よ。
そして二つ目は、補給を担当する輜重部隊。
開戦当初こそ名目通りの部隊だったんだけど、今では資金調達部隊になってるわ。
ちなみに、これも『店長』、『組長』、『政治屋』の三つに別けられる。
何をやってるかは名称通りよ。
『店長』は表の世界で合法的に資金を調達し、『組長』は、裏の世界で非合法的な資金や物資調達を生業とする。
『政治屋』は、その両者を政治的にサポートするの。
この三隊が暗躍しているおかげで、奇兵隊は海軍の一部隊という大義名分を持ちながら、私設武装組織と同等の自由度と資金力を併せ持ってるってわけ。
「それでは!お嬢の何度目かわかんねぇ帰還を祝してぇぇぇ……。乾杯!」
かんぱ~い!
と、私は言わないけど、奇兵隊詰所兼、角千代と飛車丸が趣味でやってる喫茶店、通称『猫の目』に集まってくれた他のメンツは、飛車丸の音頭に乗って声高に叫んでくれた。
毎度思うけど、これってやる意味ある?
だって、私が南方から帰ったら絶対にやってるのよ?
しかも今回は、帰ってから一週間以上経ってからの開催だし。
「いやぁ、やっぱ何ヵ月かに一度は、こうやって騒がねぇとなぁ」
「ホント、お嬢様々だよなぁ」
なるほど。つまりコイツらは、私の帰還を馬鹿騒ぎする口実にしてる訳ね。
ぶっ飛ばしてやろうかしら。
「ねぇお嬢~。お土産は~?あたし、南方土産が欲しいかもぉ~」
チッ……。開始早々、面倒臭い奴が絡んで来やがった。しかもコイツにつられて、他の女性隊員どもも寄って来たわ。
「お嬢~、お土産~!秋津洲はお土産を所望するかも!」
「かもなんて、曖昧な言い方する奴にはあげない」
「かもぉ!?」
ちなみに、奇兵隊では『車』に所属してて、ビークル2のコールサインで呼ばれている水上機母艦 秋津洲は、全滅した国防空軍の……なんだったっけ。幽霊隊とかそんな感じの名前だった航空隊の生き残りで、二式大艇が使えるって理由だけで適合試験に志願してちゃっかり艤装をゲットした、曲者揃いの奇兵隊の中でも群を抜く変わり種よ。
あ、あと、化粧が下手なのか苦手なのかは知らないけど基本厚化粧。
もう一人、『影』に所属してる艦娘がいるんだけど……。ここにはいないからいっか。
「相変わらずモテモテじゃねぇかお嬢」
「女にモテても嬉しくない」
かと言って、基本的にゴリラで世紀末にヒャッハー!とか言ってそうな奴しかいない男性隊員にモテたくもないけどね。
「お嬢って、黙ってれば可愛いのにね」
「そうそう。黙ってじっとしてれば何時間でも見てられるわ」
などと、女性隊員どもが好き勝手に言ってくれちゃってるけど、それって人形になれってこと?
まあ、私みたいな美少女を愛でたいって気持ちはわからなくもないけど、さすがに黙ってじっとしてるのは無理ね。
なんせ、10秒以上大人しくできないのがこの神風さんなのだから。
おっと、そうこうしてる内にグラスが空になっちゃった。
「飛車丸。お代わり」
「あいよ。なんにすんだ?」
「日本酒ならなんでも」
「おいおいお嬢。俺の後ろに並んでる酒がなんだかわかるか?」
「洋酒」
「それとリキュール各種な。つまり何が言いたいかってぇと」
ここはbarだから日本酒なんて置いてない。って、言いたいんでしょ?
ちなみに、喫茶 猫の目は19時を境にbarへと変わるの。その時は看板まで変わって『bar CATS 愛』になるわ。断って置くけど、別に猫好きがやってる訳じゃないからね?ついでに言うと、地下には射撃場がある。
「じゃあ、カミカゼ」
「またかよ。お嬢はそればっかだな」
「だって他に知らないもん」
ここを始める時に、角千代が試しに作ったのを飲んでそのまま気に入っちゃったからって理由もあるんだけどね。
ついでに説明しとくと、カミカゼはウォッカベースのカクテルで、材料はウォッカ、コアントロー(もしくはホワイトキュラソー)、ライムジュースよ。
作り方までは知らないから、今は割愛ね。
「あ、そういえば角千代は?」
宴もたけなわになってきた頃、角千代の姿がないのにようやく気がついた。
どうしていないの?
相棒の飛車丸がここにいるから、任務で出てるとは考えづらいわね。
初っぱなから秋津洲を始めとした女性隊員どもに絡まれたせいで、今まで気づく余裕がなかったわ。
「言われてもみりゃあ、姿が見えねぇな。ここにいねぇんなら、下の射撃場じゃねぇか?」
「ふぅん。じゃあ、ちょっと行ってくる」
飛車丸からお酒を受け取った私は、なぜかヒューヒューと指笛を鳴らしながら「お熱いねぇ」とか「やっぱ角ちゃんが良いのねぇ」なんて、意味不明なことを言ってる隊員どもを尻目に、カウンターの横にある地下への階段を下りた。
なんかノリが小学生じゃない?
私は角千代がこの場にいないことに文句を言いに行くだけで、べつに会いたいわけじゃないのよ?
「あ、いた」
外に音が漏れないようにするための防音扉を抜けると、拳銃に弾を装填してる角千代が目についた。
相変わらず、リボルバーなんて古くさいの使ってるのね。
その気になれば、どんな銃だって達人のように扱えるのに。
「
スミス&ウェッソン。
通称S&Wは角千代が好きなメーカーで、1852年にホーレス・スミスとダニエル・ベアード・ウェッソンが設立した米国最大規模の銃器メーカーよ。本社は、マサチューセッツ州のスプリングフィールドだったかな?
角千代が今持ってるヤツは初めて見るから、もしかしたら試し撃ちしてたのかもね。
「あれ?お嬢じゃないっすか。上にいなくていいんすか?」
「良いのよ。アイツらはどんちゃん騒ぎする理由がほしいだけなんだから」
「んなことないっすよ。みんな、お嬢が帰ってきて嬉しいはずっす」
本当にそうかしら。
だって誰も、私に「おかえり」って言ってくれてない。先生ですら、私の顔を見るなり「目標は討てたのか?」なんて言いやがったのよ?
そのおかげで、「ただいま」って言えず終いになっちゃったんだから。
「なぁ~んか機嫌悪いっすね。また、オヤジと喧嘩でもしたんっすか?」
「してない。それに、機嫌も悪く……」
ない。いえ、なかった。
なかったんだけど、現在進行形で悪くなってるわ。
それはアンタのせい。
いつもはいの一番に言ってくれるアンタでさえ、まだ一度も「おかえり」って言ってくれてないのを思い出しちゃったから。
「おかわり!」
「それなら、そこのインターホンで上に言えば……」
「私が機械音痴なの知ってるでしょ!良いから頼んでよ!」
ちょぉ~っと理不尽が過ぎたかしら。
いくら、電卓すらまともに使えないレベルの機械音痴である私でも、受話器を取るだけで上に繋がるインターホンなら使えるわ。
でも嫌なの。
我が儘を言いたくなったの。
私に大切なことも言わずに、こんなところで呑気に鉄砲撃ってたコイツを困らせたくなったの。
「げっ……。相棒のヤツ、材料一式下ろしやがった」
休憩スペースのソファーに腰掛けながら、声につられたから見てみると、インターホンの横に設置してあるリフトの中には酒瓶数本と氷が山盛りになったアイスペールとトング。そして、ロックグラス二つとステアスプーンに、メジャーカップ、シェイカー。本当に一式入ってるっぽいわ。
「この材料ってことは、相変わらずカミカゼしか飲まないんっすね」
「だって、他に知らないし」
「いや、日本酒はやたらと詳しいじゃないっすか」
「それは先生のせい!カクテルは……本当にカミカゼしか知らないもん」
アンタが、それ以外教えてくれなかったから。
そりゃあ、カシスオレンジとかカルアミルクとかのメジャーどころは名前くらい知ってるわ。
でも、名前を知ってるだけで飲んだことはない。
飲もうと考えたこともない。
それは、私が先生の真似をして設定した自分ルールのせいよ。
私は、初めて飲むカクテルは角千代に作ってもらうって決めてるの。
「カミカゼの由来、知ってるっすか?」
「え~っと、大昔の台風……だっけ?」
「それは神風。お嬢の艦名の由来の方っすね」
わかってるわよ。ちょっとボケてみただけ。
でも、どうして急にそんな話を?
カクテルの名前の由来なんて、今の今まで話そうともしなかったのに。
「昔……太平洋戦争時に、神風特攻隊っていう人道なんか糞食らえって感じの部隊が計画されたのは知ってるっすか?」
「知らない。それが、名前の由来なの?」
「ええ。本当かどうかは知らねっすけど、終戦時に横須賀に駐留してた米国人の誰かがその計画を耳にして、当時の日本パイロットの出鱈目な操縦テクを鑑みて「もし実行されていたら、とてつもなく鋭い切れ味だったろう」なんて、想像を膨らませたそうっす」
「それを、再現したカクテルってこと?」
「って、言う話っす」
ふぅん。
そんな由来があったのね……って、いつの間にやら、私の目の前のテーブルに酒瓶と道具類が並べられていた。
準備中に私が退屈しないよう、今の話をしてくれたのかしら。
「今回はホワイトキュラソーじゃなくてコアントローで作るっすね」
「うん、任せる」
コアントローはたしか、仏国産の果実系リキュールだったかしら。アルコール度数は約40度で、なんとかオレンジってのが原料だったはずよ。
「カミカゼの分量配分は色々あるっすけど、今回は一番わかりやすいのでやるっす。つっても、ウォッカ、コアントロー、ライムジュースを各20mlづつシェイクして、氷を入れたグラスに注いで軽くステアしたら完成なんっすけどね」
なんて、簡単に説明して簡単そうに作ったけど、角千代は振る前にシェイカーの空気を抜いたり、グラスを冷やす際に出る水を切ったりと、ジッと見てないと気づかないような細かい仕事を気づかせないように手早く、でも丁寧にやってた。
たぶん私がレシピを真似しただけじゃあ、水っぽくなっちゃうんじゃないかしら。
「アンタって昔から、見た目に反して本当に細かいところに気を回してるわよね」
「そっすか?」
私とコイツの付き合いは長い。
年数だけで言ったら、先生と同じよ。
でも、先生と違ってコイツは私を心配する。
信頼してないとかじゃなくて、純粋に私の身を按じてくれる唯一の人。私に何かあった時、真っ先に庇ってくれる人。
そして先生以上に、私が本音を言える人。
「お待たせしました。カミカゼです。あ、ちなみに、ライムジュースをレモンジュースに替えるとバラライカになるっす」
「そう。じゃあ、次の機会に作ってもらうわ」
「それ飲んだら作るっすよ?レモンジュース下ろしてもらえばできるっすから」
「いい。今日は、これしか飲みたくないの」
そう言いながら喉に流し込んだカミカゼは、飛車丸が作ったのと全然違った。
レシピは同じはずなのに、角千代が作った方がしっくり来る。体に留まらず、心にまで染み込んで来る……ような気がする。
「ねえ、角ちゃん」
「お嬢にそう呼ばれるのは久しぶりっすね。どうしたんすか?急に」
「どうして、今回はおかえりって言ってくれなかったの?」
うわ、ヤバイ。
角千代の瞳に映った私が私じゃない。
いや、私なのは間違いないんだけど、私ってこんな顔できたんだって感じなのよ。
具体的に言うと、グラスを両手で持って角千代を見上げ、頬を赤く染めて瞳をうるませて泣く寸前。口元なんて、何かに怯えているみたいに震えてるわ。
「……だってお嬢、来なかったじゃないっすか」
「どこに?ここに?」
「そっすよ。いつもならオヤジに挨拶したあとすぐに来てただいまって言うのに、今回は今日まで来なかったじゃないっすか」
「そ、それは……」
たしかにそうだけど、それは八駆と遊んだり第一艦隊の奴らをとっちめたりと、色々あって来れなかったのよ。
けっして、ここに来るのを忘れてたわけじゃないわ。
ないけど……。
「ごめん……」
「あ、いや……。自分こそすんません。ちょっと大人げなかったっす」
なんだ。角千代も同じだったんじゃない。
私と同じで、ただいまって言ってもらえないから拗ねてたんだ。
だから、ここで一人で鉄砲なんて撃って憂さ晴らししてたんだわ。
だったら……。
「えっと、あの……。ただいま。角ちゃん」
「……おかえり。神風」
心底照れながらそう言い合った私たちは、どちらからともなく笑っていつもの調子に戻ったわ。
ただ誤算だったのは、上にいた奴らに一部始終を撮影されてて、それからしばらく、からかわれる日々が続いたことね。
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