艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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やっと、夜が来た。

なので夜戦しに行ってきます(*´ー`*)


第三十一話 変態に片足突っ込んでるなぁ

 

 

 

 

 入渠を終えて、軽くと宣う満潮さんによる過度の筋力トレーニングに勤しんでいたある日。

 私は執務室に、大潮さん達三人とともに呼び出されました。

 私が最初に聞かされたのは、一ヶ月後に実行予定になっている大規模作戦と並行して行われる、隻腕の戦艦棲姫と呼ばれている特殊個体の討伐任務の概要でした。

 私たち第八駆逐隊は、大規模作戦開始から間を置いて大湊警備府より哨戒挺で出撃。作戦海域を少し離れた地点で待機し、神風さんに食いつこうと姿を現した戦艦棲姫を確認次第、哨戒艇から出てこれを撃破する算段らしいです。

 

 「大潮、率直な意見を聞きたい。今の第八駆逐隊で、奴を倒せるか?」

 

 その確認は大切ですね。

 なんせ私が入隊したせいで、第八駆逐隊の戦力は大幅にダウンしているのです。

 いっそ、私が居ない方が強くなりますよ。

 それは嫌と言うほど理解しているのですが、私は外されたくありません。

 隻腕の戦艦棲姫がどんな奴かは知りませんが、私だってお役に立てるはず……いえ、お役に立たなければならないんです。

 

 「大潮は三年前に撮影された映像でしか見たことはありませんが、勝算は十分にあると思います」

 

 三年前の映像?

 と言うことは、対象の戦艦棲姫は先代と戦った戦艦棲姫と同一の個体と考えて良いのでしょうか。

 

 「ふむ、満潮と荒潮はどうだ?」

 「いけるんじゃないかしらぁ。私の奥の手も使っていいんでしょぉ?」

 「かまわん、派手にやれ。万が一誰かに見られても、私が黙らせてやる」

 

 荒潮さんはやる気満々みたいですね。

 だっていつもの、黙っていても「あらあら」と聞こえて来そうな笑顔ではなく、目尻を満潮さん並みにつり上げて、口元は不気味さを感じるほど歪んでいます。

 もし対象が目の前にいたら、問答無用で飛びかかるのではないでしょうか。  

 

 「どうした満潮。お前は反対か?」

 「反対じゃない。ただし、今の朝潮抜きでなら……ね」

 

 やっぱり、私は足手まといですか。

 足を引っ張っている自覚はありましたが、実際に言われるとショックですね。

 大潮さんと荒潮さんも「まあ、仕方ない」と言いたげな表情ですので、二人も同意見なのでしょう。

 

 「早合点しないで。私は、()()アンタって言ったの」

 「それはつまり……」

 

 これから一ヶ月の私の頑張り次第。

 と、言うことですか?

 私としては望むところですが、大潮さんと荒潮さんは驚いているようですよ?

 もしかしてそれは、満潮さんの独断なんじゃ……。

 

 「大潮は反対です!私たち三人だけで隻腕は倒せます!」

 「私も大潮ちゃんと同意見よぉ。朝潮ちゃんまで出す必要はないわぁ」

 

 二人は反対ですか。

 そりゃあそうですよね。

 だって、相手は恐らく先代の仇なんですもの。

 私のような他人に、万が一にでもトドメを譲る事態は避けたいでしょうし、失敗されて討伐が叶わない事態も避けたいはずですから当然です。

 

 「まあ待て二人とも。朝潮の嚮導艦は満潮だ。お前たち二人の意見は参考にするが、満潮の考えを聞いてからでも遅くはないだろう?」

 「わかり……ました」

 「仕方ないわねぇ……」

 

 おかしい。

 執務室の空気がおかしいです。

 一触即発と言いますか、まるで弾薬庫で花火をしているような気分なんです。

 激しく危険な香りが漂っています。

 

 「あと二回。最低でも鬼級と戦うのと同程度の任務を用意して。その結果如何で、朝潮が参加できるかどうかを判断するわ」

 

 鬼級を相手にするのと同程度の任務?

 たしか鬼級とは、昨今では例外もありますが俗に『イロハ級』と総称されている深海棲艦の上位に位置付けられている艦級だったはずです。

 その鬼級のさらに上に姫級、水鬼級、深海級、中枢と続き、危険度と強さが増していくと座学で習いました。

 つまりその鬼級と戦う。もしくは相当する戦力を有する艦隊と戦う任務を二回達成すれば、私の隻腕討伐に参加させてくれるかもしれないってことですよね?

 

 「満潮!このあいだ言ったこと、もう忘れたの!?」

 「朝潮に怪我させるな。とかほざいてたこと?知るか馬鹿。諦め癖がついてるアンタが、私に偉そうなこと言うな」

 

 大潮さんに諦め癖が?

 いやいや、それは今関係ありません。

 私に怪我をさせるなってどういう事ですか?

 大潮さんは……いえ、大潮さんだけではありませんね。荒潮さんも大潮さんと同意見のようです。

 だって、満潮さんを仇でも見るような目で見ていますから。

 二人は、私をどうしたいんですか?

 

 「どう?司令官。用意できる?」

 「場合によっては用意できる。ちなみに聞くが、姫級相当の敵なら、鬼級二隻分でカウントできるか?」

 「用意できるんなら、大目に見てあげる」

 

 私が姫級と?

 そうですか。

 満潮さんはそれができて初めて、私に隻腕討伐への参加を認めてくれるんですね。

 逆に言えば、それくらいできなければ参加する資格もないと、暗に言っているのでしょう。

 

 「朝潮。やる?」

 「やります。やらせてください!」

 

 その場のノリとは言え、私は司令官の剣になると誓ったんです。司令官の前に立ちふさがる邪魔物を、全て薙ぎ払う剣になると誓った私が、先代の仇も討てないようでは話にもなりません。

 だから、自信はありませんが手始めに、姫級を屠って見せます。

 そして認めてもらいます。

 満潮さんはもちろん、大潮さんと荒潮さんにも。

 

 「そうか、わかった。では決まるまでの間……」

 「ちょっと先生!」

 

 司令官が予定を話そうとした途端、執務室の扉を文字通り蹴破って、神風さんが大股でノシノシと乱入して来ました。

 執務室の扉を蹴破るなんて失礼にも程があります。しかも、今は大切な話の途中なんですよ?

 

 「何よあの糞ども!ぜんっぜん使えないじゃない!」

 

 女性が「糞ども」なんて下品な言葉を口にするのは感心しませんよ。神風さん。

 って言うかこの人、司令官の事を先生って呼びませんでした?司令官のことを先生って呼んでるんですか!?

 なんて羨まけしからん呼び方を!ずるいです!私も先生とお呼びしたい!

 

 「神風……。扉を壊すのは何度目だ?それに、今は大切な話をしている最中なのだが?」

 

 司令官が青筋を浮かべて、口の端をヒクヒクさせています。お怒りの司令官を見れたのは僥倖……じゃない。

 司令官を怒らせるとはなんたる狼藉!

 どうぞ叱ってやってください!私は止めません!司令官の事を先生などと羨ましい呼び方をするこの人を叱ってください!

 

 「そんな事どうでもいいわよ!あんの糞空母と糞重巡ども!射程が長いからって懐ががら空きじゃない!しかも、やたら私に反抗的だから試しに何度か演習してみたんだけど、よくそれで今まで生き残れたわねって何度も言いそうになったわ!って言うか言った!長門はまあ、マシになってたけど、逆に長門がマシになりすぎてて他の悪いところがコレでもかって言うほど目についたわ!」

 

 とりあえず、長いので三行でお願いします。

 それとも縦読みですか?

 は、置いといて。

 長門って、第一艦隊旗艦の長門さんのことですよね?

 第一艦隊の旗艦ということは、横須賀鎮守府で一番偉くて強い艦娘ってことですよ?

 その長門さんを呼び捨てにして、さらにマシになったとまで言うなんて上官侮辱罪になるのでは?

 

 「あんまりにもムカついたから、全員ボコって工廠にぶち込んどいた」

 「お前と言う奴は……」

 呆れ果てたのか、それとも呆れるのさえ諦めたのか、司令官が頭を抱えてしまいました。

 それにしても、神風さんが強いのは身をもって知っていましたが、まさか空母や重巡をボコれるほどだったとは……。

 

 「お前の蛮行は、少し目に余るな」

 

 そうです。この人がやることは滅茶苦茶なのでやっちゃってください。お尻ペンペンでも生ぬるいです。

 ん?司令官の左手側にある黒電話が鳴り始めましたね。

 

 「私だ……。違う。名前ではない。くだらないことを言うなら切るぞ」

 

 渡士田さんですか?とでも言われたのでしょうか。

 いずれにしても、軍の専用回線を使っているのにそんなくだらないことを言う人にろくな人はいませんよね。

 

 「何?今、横須賀中央駅に着いただと?予定では明日到着じゃ……。ん?ああ、それは構わないが……。迎えを寄越せ?横須賀は初めてじゃないだろうが。タクシーでも使って……。何?どぶ板通りを物色したい?まったく、お前と言い神風と言い、どうしてお前たちは……」

 

 司令官が空いてる方の手で額を押さえて、電話の相手に呆れ果てました。

 聞いた限りですと、神風さんと同レベルの破天荒さんみたいですね。

 

 「ああ~わかったわかった。好きにしろ。何?朝潮はいるかだと?なぜお前が、朝潮が着任したことを知っている」

 

 私を知ってる人?

 外の人で、私が知ってる人なんてそんなに居ないのですが……。いったい誰でしょう?

 少なくとも、神風さんレベルの我が儘さんはいません。

 

 「ああ、そういう事か。わかった、どぶ板通りを抜けて汐入駅で待っていろ。迎えに行かす」

 

 はぁ……。

 と、ため息をついて、受話器を戻してから司令官が項垂れてしまいました。なんだか、電話だけですごくお疲れです。

 

 「相手は誰だったんですか?知り合いのようでしたけど」

 

 よくぞ聞いてくれました大潮さん。

 私も気になります。

 

 「大潮たちも知っている奴だ。半年前に解体されて、大本営で士官見習いをしていた」

 

 ふむふむ。

 解体されたとおっしゃいましたから、その人は元艦娘ですよね。しかも大本営所属の士官見習い。

 う~ん、やっぱりいくら考えても、私にそのような知り合いはいません。

 

 「朝潮。すまないが、神風と一緒に汐入駅まで迎えに行ってくれないか?車は出させるから」

 

 そりゃあ、ご命令とあらば従いますが、神風さんと一緒かぁ……。

 トラブルの予感しかしません。

 

 「どうして私もなのよ。朝潮の知り合いでしょ?」

 「いや、電話の主自体は朝潮の知り合いではない。連れの方が知り合いだ」

 

 連れ?誰でしょう?

 もしかして叢雲さん?外の知り合いと言ったら叢雲さんと雪代所長くらいしか思いつかないです。でも、叢雲さんが来るなら手紙くらい寄越……しませんね。

 あの人って筆無精ですから。

 

 「じゃあ、電話してきたのは誰なの?私の知り合い?」

 「ああ、辰見(たつみ)だ。覚えているだろう?」

 「知らない。誰それ?」

 

 司令官が「嘘だろお前」みたいな顔してますが……辰見?艦娘で。そんな艦名ありましたっけ?

 

 「どんだけ薄情なんだお前は。元とは言え戦友だろうが」

 「知らないものは知らない!そんな艦娘、聞いたことないわよ!」

 

 やっぱり、そんな艦名はないんですね。

 と、言うことは、元艦娘だと言う話ですから本名と考えるべきでしょう。

 

 「元天龍だ。昔はお前たち()()で散々暴れまわっただろうが」

 「あ~、天龍か。アイツの本名ってそんなだったのね」

 

 なんだか「いや~ねぇ先生、それならそう言ってよ~」と続けて、右手をヒラヒラさせてますが馴れ馴れしいですよ。親子(仮)の関係だからそうなんでしょうけど、仕事とプライベートは別けるべきです。

 

 「まあそういう訳だから、朝潮と二人で迎えに行ってやれ」

 「嫌よ面倒くさい。朝潮だけでいいじゃない」

 

 私も嫌です。

 この人と一緒だと、何をされるかわからないですから。

 

 「話の邪魔をした罰だ!それと、扉の修理代はお前の給料から差っ引いとくから覚悟しておけ!」

 「そんな殺生な!」

 

 おお!とうとう司令官が怒鳴りました!

 部屋自体が揺れたと錯覚しそうになるほどの声量には驚きましたが、司令官の怒鳴り声を聞けたのはラッキーです。

 それに普段の落ち着いた司令官も良いですが、こうやって青筋立てて怒鳴る司令官もかっこいい!私も怒鳴られてみたい!

 

 「ねぇ、大潮ちゃん。朝潮ちゃんが、怒鳴ってる司令官を見て目をキラキラさせてるんだけどぉ」

 「放っておいてあげなよ荒潮。そういう年頃なんだよ

 「恋は盲目ねぇ」

 

 横で二人が好き勝手言ってるみたいですけど関係ありません。いつか私も、怒られるような事をすれば怒鳴ってもらえるでしょうか。

 

 「朝潮、悪いがこいつのお目付け役を頼んだぞ。我儘を言うようなら殴っても構わん」

 

 司令官が私にそんな大事なお役目を……。

 わかりました。もし神風さんが我儘を言うようなら、殴るどころか車道に突き飛ばしてでも止めて見せます!

 

 「はい!お任せください!」

 「ねえ、満潮。この子って、もしかして普段はポンコツなの?」

 「今頃気づいたの?神風さん。この子って、基本は馬鹿よ?」

 

 馬鹿とは失敬な。

 確かに私は能無しですが、座学の成績簿だけは良かったんです。なので、決して頭が悪いわけではありません。

 

 「でも司令官。天龍……じゃなかった。辰見さんは何をしに鎮守府へ?提督補佐にでもなるんですか?」

 「その通りだ大潮。一応、()()()()()()で着任する」

 「アイツも物好きねぇ。民間人に戻れば良かったのに」

 

 神風さんが何か言っていますが、一応説明しておきます。

 艦娘の引退。

 通称『解体』をされると、数年の監視付きで一般の生活へ戻るか、そのまま士官として海軍に残るかの二通りの選択肢を選ばさせられます。

 

 前者の場合は書類事が非常に面倒です。

 書類の詳しい内容までは知りませんが、艦娘になった時点で戸籍は抹消されてますので、新たな戸籍の取得等のお役所関係の手続きと守秘義務等の誓約書を山ほど書かされるらしいです。

 

 後者の場合は、艦種と艦娘歴、あげた戦果によって変わるらしいのですが、最低でも少尉待遇。

 戸籍の再取得等の手続きは変わりませんが、一般人に戻る場合と違って誓約書の数は少なくて済みます。

 元天龍ということは軽巡洋艦ですから、何も戦果を上げていなくても中尉待遇だったはずです。それなりの戦果を上げているなら、場合によっては大尉か少佐くらいは期待できるでしょう。

 

 「まあ、元軽巡だもんね。駆逐艦なら、兵役を終えたら一般人に戻る子が割といるみたいだけど」

 

 満潮さんが今言ったように、艦娘になると最低これだけは軍務に就きなさいという兵役が課せられます。

 兵役とは言っても、志願制の自由兵役ですけどね。

 志願者は一度艦娘養成所に入れられ、艦娘になるための基礎訓練をし、適合試験を経て艦娘となります。

 兵役は艦娘になった時点からカウントされ、最低で4年。それ以降は1年ごとに艦娘を続けるか、上記の二通りどちらの進路を取るかを選ぶ事になります。

 

 「天龍さんってぇ、妖精が見えるのぉ?」

 「そりゃあそうでしょ。妖精が見えなきゃ、基本的に提督補佐にはなれないんだから。妖精も見えない士官なんて、増やしてもあまり意味がないよ」

 

 大潮さんが荒潮さんに答えた通り、現在の戦況では主戦力である艦娘以外の軍人を鎮守府内に増やすのはあまり意味がありません。

 最低限の海兵、海兵隊、憲兵は駐屯していますが、それは鎮守府の警備やドローンを使っての昼夜間哨戒を行うためです。

 それに加えて奇兵隊までいますので、横須賀鎮守府の艦娘以外の戦力は過剰と言っていいほどなのが現状。だそうです。

 

 「と、言うわけで頼んだぞ朝潮。それと神風。もしボイコットするようなら、私自ら処罰してやる」

 「わ、わかったわよ……。わかったからその目をやめて」

 

 その目?司令官の目ですか?

 確かに感情を一切感じさせない氷のような目で、背筋が凍りつくような気がしますがとっても素敵じゃないですか。

 私も、あの目を向けられてみたい……。

 

 「ねえ満潮。この子、先生のあの目を見て興奮してるわよ?きっとMっ気があるわ」

 「薄々、そんな気はしてた」

 

 二人が何か言ってますが気にしません。

 私は今、司令官の冷たい瞳を愛でるので忙しいのです。

 はぁ、神風さんが羨ましいなぁ。

 私も神風さんみたいに暴れてみれば、司令官にあの目で見つめてもらえるのでしょうか。

 褒められる方が良いのはわかってますが、一度で良いですからあの目で私を見つめてほしいです。

 そんな私を見ながら……。

 

 「変態に片足突っ込んでるなぁ」

 

 と、満潮さんが心底呆れたように呟いていました。

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