艦隊これくしょん ~愛を込めて、花束を~   作:哀餓え男

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第三十三話 私は彼女の、大切なモノを奪った

 

 

 

 「って感じで、鎮守府に着くまで楽しかったわ。ね?天奈」

 「ええ♪気づいたらパトカーが十数台も後ろにいてね。横須賀に着いて早々、良い思いをさせてもらったわ」

 「楽しむな馬鹿者ども。こっちは警察に手を回したり大変だったんだぞ」

 

 馬鹿者とは失礼な。

 天奈はともかく、私は決して馬鹿ではないわ。

 でも、今思い出しても笑っちゃうくらい、本当に楽しかったなぁ。

 信号無視とスピード違反は当たり前だったし、歩道は乗り越えるわパトカーはクラッシュさせるわのやりたい放題だったもん。

 戦場以外で、あのレベルのスリルはなかなか味わえないわね。

 

 「それにしても、すごい部屋ですね。壁とか何センチあるんですか?」

 「10mくらいだっけ?」

 「そんなに有るわけがないだろう。精々3mだ」

 

 ちなみに今現在、私と先生と天奈がいるここは、鎮守府の外にある、『店長』の一人が営んでいる居酒屋兼、密談場所よ。

 この部屋は防弾、耐爆、防諜対策をキチガイレベルで施した先生専用の個室だけど、他は和風で落ち着きがある俗に言う隠れ家的な内装になってるわ。

 ちなみに本日は、先生と私が大好きな日本酒と、それに合う料理のフルコース。

 ちょっとばかし量が物足りないけど、追加で注文すればいくらでも出て来るから問題なし。

 お勘定も先生持ちだから、私は私腹を肥やせば良いだけだから天国と言っても良い状況だわ。

 

 「ねえ神風。提督って、食い頃の女をしょっちゅうここに連れ込んでるの?」

 「う~ん……。私は割と連れて来てもらってるけど……」

 

 と、疑うような視線を向けるとともに言ってみたけど、先生に限ってそれはないわね。

 だって先生って、男とは思えないほど身持ちが堅いから。

 

 「何もせんよ。だいたい、食い頃とはなんだ食い頃とは。世のフェミニストどもが聞いたら発狂するぞ」

 「女である私が言ってるんだから問題ないですよ。ああでも、提督に抱かれるのはやぶさかじゃあありません」

 「気持ちは嬉しいが、お前は好みじゃない」

 「あら、それは残念」

 

 嘘つけ。本気で残念がってないでしょうが。

 それにしても、天奈って艦娘だった頃が嘘みたいに変わったわね。

 私でさえドキッとしてしまいそうになるくらい妖艶な顔なんて、昔のあなたじゃ絶対にできなかったでしょ。

 

 「それはそうと、お前はどうして横須賀に配属された?大本営の奴らに、私を暗殺しろとでも言われたか?」

 「お察しの通りです。女の武器を使って寝首をかけ。とも言われました」

 

 大本営の老害どもはまだ諦めてなかったのか。

 まあ、私も先生も予想してたけどね。

 だって、先生を毛嫌いしてて、過去に暗殺者を送り込んだこともある大本営のお偉いさんたちが、頼んでもないのに提督補佐を送ってくるなんて思えないもの。

 あ、ちなみに、過去に送り込まれた暗殺者たちは一人残らず返り討ちにあって、送り込んだと思われる大本営のお偉いさんたちに土産と称して先生本人が()()()()()()()

 

 「選りにも選って、寄越したのがお前とはな。他の人選なら可能性もあっただろうに」

 「あの人たちなりに、策謀を巡らせたつもりじゃないんですか?私は提督と知り合いですし、取り入りやすいと思ったんじゃないでしょうか」

 「浅はかな。本当にクーデターを起こしてやろうか」

 「今はまだ早いのでは?元帥殿を困らせるのは、提督の望むところではないでしょう?」

 「元帥殿は、お前の配属理由を知っているのか?」

 「知らされてはいないでしょうが、察しはついてると思います。秘書艦を通してですが、伝言を預けられましたから」

 

 あ、元帥さんって今も秘書艦を使ってるんだ。呉にいた頃は鳳翔さんがやってたなぁ。

 今は……え~っと、誰だったっけ。

 大本営付の艦娘の誰かだったのは覚えてるんだけど……。

あれ?思い出せない。会ったこともあるんだけどなぁ。

 

 「聞こう」

 「動かす算段がついた。それと、無事に住んでくれた。です」

 

 意味わかんない。

 べつに満潮の真似をした訳じゃなくて、本当に意味不明。動かすって何を?住む?孫に家でも買ってあげて、無事に引っ越してくれたとか…··って、んなわけないか。

 

 「あ、あともう一つありました。都合の良い時でいいから顔を出せ。だそうです」

 「最後の一つは面倒臭いな。あのジジイは話が長いんだ」

 

 かと言って断るわけにもいかず。

 って、感じね。

 あのお爺ちゃんって、会うたびに(高級な)お菓子とかくれるから、行くんなら私も連れて行ってくれないかしら。

 

 「相変わらず、悪巧みしてるんですね」

 「悪巧みとは心外だな。私は常に、国防の事しか考えていない」

 

 って、ことにしてる。でしょ?

 先生にとっては国防なんてついで以下。

 提督を続けてるのだって、それが目的を達成するための手段であると同時に、唯一の道だからよ。

 

 「ところで提督。私は何をやらされるんですか?」

 「しばらくは書類仕事だ。まさか、嫌とは言うまいな?」

 「言いませんよ。大本営で珍獣扱いされていた日々に比べたら天国です」

 

 珍獣とな?

 昔の、中二病全開だった頃の天奈は珍獣と呼べなくはなかったけど、今のコイツは眼帯さえ気にしなければ、男だったらヨダレ垂らしてルパンダイブするような美人になってる。

 その天奈が珍獣?

 大本営の男って、例えば先生みたいなロリコンばっかりなのかしら。

 

 「ほう?大本営では、元艦娘は珍しいのか?」

 「そうだったみたいですね。それでも、遠くから観察される程度だったら良かったんですが……」

 「普通の女に飽きた年寄りどもから、夜の相手に誘われたか?」

 「ええ、何度かありました」

 

 その話、もっと詳しく。

 出来るだけ詳細に、その時の感情も含めて赤裸々に語ってくれるとなお良い……じゃないわね。

 興味はあるけど、今ここで聞くべきことじゃないわ。

 明日あたり、鳳翔さんと長門も交えて一緒に聞き出……

 

 「まあ、家の名前を出して脅しましたがね」

 「辰見家はたしか、古くからある軍閥の一つだったか」

 「実質的な権力は無いに等しいですが、そこの跡取り娘を手篭めにしようとするようなスケベオヤジをビビらせる程度には、名前の影響力はまだありますから」

 

 せそうにないわね。

 って言うか、天奈って良いとこのお嬢様だったんだ。

 ちなみに軍閥とは、統一国家の軍隊に存在する派閥で、時に軍事クーデターの母胎となることもある集団。または、軍事力を背景にして地方に割拠する集団のことよ。

 もっとも今では、武装勢力の一種とみなされることが多いわね。

 そう考えると、特定の地域を支配はしてないけど、様々な分野に根を張って陸軍一個軍団並みの戦力を有してる奇兵隊も、軍閥と呼べなくはないか。

 

 「腹芸ができるようになっていたとは驚いた。何か、悪い物でも食ったのか?」

 「親から教わった処世術ですよ。木の根も牛蒡(ごぼう)と言い張って齧る、おたくの娘さんと一緒にしてもらっては困ります」

 

 おいこら。

 それじゃあ私が、何でも口に放り込む悪食みたいじゃない。木の根を牛蒡だと思い込んで齧るなんて、もう何年もやってないんだからね?

 って、なんか騒がしいわね。

 電子音ってヤツ?が、先生の方から鳴ってるんだけど……。

 

 「すまん。少し失礼する」

 

 その()、まだ持ってたんだ。

 なんて言ったっけ……。あ、そうそう!すまーとふぉんだ!写真を撮ったり動画?を見たりできるのは知ってたけど、ふぉんって言うだけあってやっぱり電話にもなるのね。

 

 「神風?ああ、隣にいる。代わるか?」

 「私が知ってる人?」

 

 誰だろう。

 先生に直接連絡が取れて、さらに私のことも知ってるってなると奇兵隊の関係者?それとも、八駆の誰かかしら。

 

 「神風。お前に話があるそうだ」

 「だから誰よ」

 「大淀だ。何度か会ったことがあるだろう?」

 

 あ、思い出した。元帥さんの今の秘書艦は大淀だったわね。

 たしか、キチガイレベルに開いたスリットが入ったスカートを履いてたっけ。

 その大淀が、私に何の用だろう?

 確かに知り合いではあるけど、べつに親しいってわけでもないのよねぇ。

 まあでも、先生が「早く出ろ」と言わんばかりにすまーとふぉんを差し出してきてるから出るとしますか。

 

 「はいは~い。神風さんですよ~」

 『お久しぶりです。大淀です』

 「知ってる。で?私に何の用?」

 

 先生並みの腹黒であるコイツが私に用なんて、絶対にろくなことじゃない。

 もしかしたら、奇兵隊が関わってる表には出せないことをそれとなく聞き出して、それをネタに先生を脅そうとか考えてるのかもしれないわ。

 

 『残念ながらハズレです。ただ、暮石中将には聞かれたくありませんので、離れた場所に移動してもらってかまいませんか?』

 「ええ、わかった」

 

 コイツ、電話越しに私の思考を読みやがった。

 たぶん、私の微妙な口調の変化で察したんでしょうけど、警戒の色を出しただけで奇兵隊云々まで想像したコイツの洞察力は侮れないわね。

 

 「移動したわ。食事中なんだから、さっさと用件を話して」

 『そんなに警戒しなくても大丈夫でよ。少しだけ、暮石提督のことを聞きたいだけです』

 

 それでどう安心しろと?

 もしかして、あなたが先生のことを恨んでるって私が知らないとでも思ってるの?

 

 『あなたに警戒され続けるのは本意ではないので、単刀直入にお聞きします。暮石中将が好きなお酒を教えてください』

 「は?」

 

 思わず「は?」とか言っちゃったけど、どうしてそんな事を知りたがる?だってあなた、先生の事を恨んでるわよね?

 なんで恨んでるかまでは知らないけど、元帥さんのところに行った際に、先生に向けてあなたが殺気だってたことで、それは確信してるのよ?

 

 『深い理由は言えませんが、どうしても彼好みのお酒を用意しなければいけなくなったんです。なので、お薦めしていただこうと思いまして』

 「それはかまわないけど……」

 

 コイツ、もしかして先生に気がある?

 でも、先生を良く思ってないのは確かだし、そんな相手に好みのお酒を贈ろうとするとは思えない。

 もしかして、毒殺でもしようっての?

 それは無理よ。

 先生は家庭の事情で、毒への耐性をある程度持っている。その先生を殺せるほどの毒なんか混ぜたら、口をつける前にニオイで気づくでしょう。

 そもそもそれ以前に、先生には不意打ちが通用しない。毒殺も例外じゃないわ。

 その理由は先生が、『厄除け(やくよけ)』と呼んでいる特殊技能にある。

 技能と言って良いかもわからないほどオカルトじみてるモノだけど、先生は自分に向けられた死線を見ることができるのよ。

 極端な事を言えば流れ弾だって、自らを死に至らしめるような物なら感知可能なんだってさ。

 

 『物騒なことは考えていませんので、ご安心ください』

 「あっそ」

 

 まぁた読まれた。

 私って朝潮ほどわかりやすくはないはずよ?だいたい、電話越しだから顔も見えないしね。

 私の口調の変化だけで、ここまで的確に読めるものなのかしら。

 

 「最近飲んでる銘柄を見た限りだけど、ここしばらくは地元のお酒を飲んでないみたい」

 『つまり、彼の地元のお酒なら喜ぶと?』

 「そう言うこと。東洋美人か日下無双(ひのしたむそう)。それか、五橋か金雀(きんすずめ)あたりで良いんじゃない?(たか)も良いかもね。アレって、先生が日本酒を覚える切っ掛けになったお酒だから。あ、それと、獺祭(だっさい)はやめときなさいね。先生、あれはあんまり好きじゃないから」

 『了解しました。そのあたりから選んでみます』

 

 実は、私も久々に飲みたいお酒だったりする。

 だから一本だけなんてケチ臭いことはせずに、全部まとめて持たせてくれないかしら。

 は、置いといて……。

 

 「ねぇ、あなたって先生の事が嫌いなんじゃないの?」

 『ええ、大嫌いです。誤解のないように言っておきますが、私個人が贈りたいわけではありません』

 

 ふぅん。

 ってことは、お酒を贈ろうとしてるのは元帥さんかな。天奈が言付かった伝言に、都合の良い時に来いってあったから、きっとその時に贈るつもりなんだわ。

 

 『正解です』

 「あのさぁ、人の思考を読まないでくれない?気分悪いんだけど」

 『それは失礼しました。ですが、一つ勘違いしていますよ?』

 「勘違い?」

 『ええ、私は一度も、あなたの考えを言い当てていません』

 「いや、だって……」

 

 ん?よくよく考えればそうか。

 大淀は「ハズレです」とか「物騒なこと云々」とか「正解です」とか、その前後の私の口調の変化に対して当たり障りのないことを言っただけ。

 それを聞いた私が、自分の考えていたことと紐付けして読まれたと思い込んだんだわ。

 

 「腹黒め。腹芸だけなら、先生に匹敵するんじゃない?」

 『それ、誉めてるんですか?』

 「誉めてるわよ。下手に腕っぷしが強い奴より、あなたみたいな奴の方がよっぽど怖いわ」

 

 腕っぷしも強いならなお良し。だけどね。

 ああでも、大淀も艦娘だから、単純な戦力って意味でなら強い部類に入るのか。

 

 『では、そろそろ失礼します。ご教授、ありがとうございました』

 「先生には代わらなくて良いの?」

 『はい。彼に用はありませんので』

 

 と、言い残して、大淀は電話を切った。

 なんとも複雑な気分ね。

 先生は人に恨まれることをしまくってるけど、大淀ほど表に出している人を私は見たことがない。

 大淀はどうして先生を恨んでるんだろう。

 もしかして身内の誰かを殺された?

 それとも恋人かしら。

 

 「話は、終わったのか?」

 「うん」

 

 部屋に戻って座るなりすまーとふぉんを返した私に、先生は視線も向けずにそう言った。

 心なしか、気分が沈んでるように見える。

 大淀と話したかったのかしら。

 それとも、大淀の存在を思い出しちゃったから?

 

 「何か、言っていたか?」

 「大嫌い。だってさ。随分と嫌われてるじゃない。大淀に、何かしたの?」

 「ああ。私は彼女の、大切なモノを奪った」

 

 それは者?それとも物?

 どちらにしてもそれは、頭の良い大淀が先生に敵対しようと思わせるほどのモノ。

 そしておそらく、先生にとっても大切だったもの。

 それはきっと……。

 

 

 

 

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